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「諦めたか?」
右のくのいちが問うた。
青葉は答えない。
にやにやと笑っている。
「ぬ?」
さすがに雷組の二人も青葉の様子に不穏な空気を感じ取った。
二人同時に両手で刀を構えるが。
「ぐっ」
左のくのいちが微かに震え始めた。
「や?」
少し遅れて右のくのいちも震えだす。
「しまった…」
くのいちたちの顔が歪み、両ひざを地に着く。
ついには二人とも刀を落とした。
「毒か…?」
そう言った左のくのいちの言葉が今やたどたどしい。
「あはは」
青葉が楽しげに笑った。
「確かにあたいは体術や剣術は得意じゃないさ。でもその分、毒にかけては霞組で一番だよ」
青葉が左の掌中から小さな巾着を出し、ひらひらと振って見せる。
「あたいが風上へ風上へ逃げてるとも気づかず。おめでたい奴ら。青葉特製の毒は、ほとんど見えず匂いも微々たるもの。露出している肌から浸透して身体の自由を奪う。あたいがわざと付かず離れず逃げてたのにも」
青葉がいっそう、けたたましく笑った。
「そりゃあ、気づいてないだろうね! このざまなんだから!」
ひとしきり笑ったところで青葉は雷組たちに近寄った。
「疾風さんや陽菜姉さんの手を煩わせるまでもない。この青葉が雷組を皆殺しにしてやるよ」
青葉の刀がきらめく。
二人のくのいちは喉笛を斬られ、声も出さずに死んだ。
青葉が刀の血を振り落とし、鞘に納めようとした、そのとき。
青葉の顔が強ばった。
殺気がする。
くのいちたちの死体の方向、すなわち風下から何者かがこちらに来る。
青葉はその尋常ならざる敵意に咄嗟に跳び退がり、両手で刀を構えた。
草を掻き分け、月明かりの下に相手が姿を現した。
雷組二人の死体の辺りで足を止める。
黒の忍び装束の女。
顔は隠していない。
胸元までの黒髪を無造作に遊ばせている。
小柄であった。
月明かりを反射し、その双眸が爛々と輝く。
殺意に満ち満ちた突き刺すような視線が青葉をにらんでいる。




