1
我々の知る戦国とは違う世界の戦国。
雑木林。
月明かりの下で斬り結ぶ四つの影。
戦いは二対二の様相であった。
そのうちのひとつの影。
くのいち、陽菜。
十八歳になったばかり。
小柄。
しなやかで素早い動き。
胸元までの黒髪を後ろで、ひと括りに束ねている。
整ってはいるが、美しいというよりはかわいらしい印象の顔。
大きめの双眸が敵を見つめ、きらりと光る。
黒い忍び装束に身を包んでいた。
相対する同じ色の忍び装束の男が陽菜に斬りつけた。
こちらは黒い忍び頭巾を被っている。
男の刃を陽菜の右手の小刀が、がしっと受け止めた。
男の両手が刀をぐいぐいと押す。
その勢いで、陽菜が右ひざを地面に着いた。
「雷組の恨み、思い知れ!!」
黒頭巾の忍びが叫ぶ。
憤怒の眼が陽菜をにらみつける。
「陽菜!!」
もう一人の黒頭巾、黒装束の男と刃を交わす、ぼさぼさ頭の男が思わず声を上げた。
この男の名は鱗三。
陽菜と同じ霞組の忍びである。
三十代後半。
やはり黒装束姿。
刃物で切ったような細い眼に仲間を心配する焦りが浮かんでいる。
鱗三が鍔迫り合いする敵を押し返し、陽菜の窮地を救おうと動いた、そのとき。
陽菜の小刀が角度を変え、巧みに相手の刀をいなした。
敵がたたらを踏む隙に、陽菜は後方へ跳び、態勢を立て直す。
敵は刀を再び構え、陽菜と向き合った。
すっと陽菜が左手を上へと伸ばす。
人差し指と中指は立て、他の三本指は曲げた。
「忍法」
陽菜のかわいらしい唇が開いた。
「花嵐!!」
言い終わると同時に、無数の花びらが陽菜の身体から舞い上がった。
花びらは陽菜を中心に渦を巻き、前方の忍びへと吹きつける。