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そっちじゃ無くてコッチをやるべきだったな

 さて、結果だけを先ずは言ってしまおう。遅かった。どうにも低級ダンジョンの入り口に到着した時にはギルドからの派遣だろう研究員が五人、おろおろとして「どうする?」と意見を交わし合っている所だった。


「こりゃぁエンドウの言っていた事が当たっちまったな。全く、何でこんな来た途端になぁ?」


 カジウルがそうぼやく。続いてはマーミが。


「私たちって、いつからこんな事に気軽に首を突っ込むようになったのかしらね?」


 と言って俺へと視線を向けて来た。どうやらお前が悪い、などと責任を押し付けたいらしい。

 今回の事は別に誰のせいでも無いのだが、しかし誰かのせいにでもしていないとやってられないと言いたいんだろう。

 まあ、マーミもこれを本気では言っていないのは俺でも分かる。戯言と言うやつだ。


「どうしましょうか?マクリールさんを待ちますか?でも、直ぐにでも救助に向かった方が良さそうですけど。」


 ミッツが人命救助を直ぐにするか?と言った事を問いかけてくる。だが、やはりギルドの方での本件の許可が無いとなると後が面倒になるだろう。


「事後承諾でも良いじゃねぇか、こんな場合はな。ギルドの方もみすみすと見殺しにするなんて選択肢は取らねえだろ。行こう。早い所片付けちまおうぜ。こうなったらつべこべ言わないでダンジョンを潰しちまおう。」


 ラディはそう言って未だにどうしようと慌てている研究者の元に近づいた。確かにここは立ち止まっていないで事の流れだけでも話を聞いておいた方が良いだろう。

 その方がこの助かった研究員たちも少しは状況を冷静に見られるようになるはずだ。第三者に説明をする事で自分の思考も整理が付くだろう。


「あ!あんたたちは!」


 どうやら研究員の五人の中で「つむじ風」に気付いた者がいたようだ。俺たちを見て驚きの後に安堵の声を漏らしている。


「あんたたちは今回のダンジョン調査に協力してくれたパーティだったよな?た、助けてくれ!ダンジョンの構造がいきなり変わってしまって!中には十二名の研究員たちが!」


 たまたま助かった、本当にこの五人はそんな理由で今この場に居るのだと言う。

 交代でダンジョンの中に入り、様々な事を調べるというのが主な仕事であるというのだが、どうやら目ぼしい調査結果が得られないままにどんどんと中へと入っていったそうで。


「高難易度の方は私たちだけでは危険だと判断しこちらの調査を先にしようと来ていたんだ。、低級の方ならと言う事で奥へと進む速度が上がっていた。それでどうやらもう少しで最奥、といった所まで進んで私たちだけが交代の時間だったのでこちらに戻ってきた。その入れ替わりで当番の研究者たちが入っていったんだが、それから暫くして地響きが・・・過去のダンジョン調査書を読むに、この地響きはダンジョンの構造が変化を、または拡張をする時に起こるらしいんだ。」


 遭難である。俺はコレに「馬鹿だなあ」と思ってしまうのだが、口には出さない。

 確かに「知らないものを知るために」こうして調査はするんだろうが、「知らない危険」がこれまた知らないからこそ潜んでいるのを分かっていたはずだ最初から。

 研究者だというのなら、それを理解できていないとならないはずだ。ならば最初から安全マージンを取っておかねばならなかったのではないのだろうか?

 でも、結果はこれだ。油断?気の緩み?分かりやすい調査結果が出なかった事に因る焦り?

 要するに、低級だと思って甘く見ていた、と言う事だ単純に。それと追加で、高難易度のダンジョンが低級ダンジョンを飲み込もうとしていたという状況を見ていないのだ最初から。

 その現象を調べるために入ったはずなのに、それを忘れていたとしか思えない。


「本命は高難易度のダンジョンなんだろ。「アッチ」はこっちを静かにずっと乗っ取りを続けてた、って事だ、今まで。師匠が暴れた事が影響して向こうさんは一時的に動きが鈍っただけだったんだろうな、高難易度の方は。しっかりと完全に止まっていた、って訳じゃ無いんだろう。この遭難がその証拠みたいなものだな。」


 ここで俺は思わず「調べるなら最初から高難易度の方をやるべきだった」と口走ってしまった。

 これにはカジウルが「やめてやれよ」と小声で口にする。どうやら研究員を慮っての発言らしい。

 しかしどうにも俺からして見ればリスクを甘く見過ぎていたんじゃないのか?と言い放ちたくなる。まあ、このカジウルの言葉でぐっと堪えたが。


「救助要請を受けてくれないか!?私たちからギルドへと後に正式な依頼は出す!緊急として今、協力をしてくれ!」


 この五人の中で一応は立場が一番上である研究者だろう者がそう発言する。どうやら人命優先と言った部分を思い出したようだ。

 危険が降りかかってくる前に気付いて欲しかった所ではあるが、まあ、人とはこういうモノだ。仕方が無いんだろう。

 痛い目を見る、経験をするからこそ、その時にやっと自分の愚かさを知るのだ。そう言う俺もその愚か者の類な訳だが。

 そしてこの緊急要請にミッツが応える。


「はい、分かりました。私たちが中へと入って救助をしてきますので、皆さんはここで待っていてください。ここには後からもう一人駆け付けるので、その方と一緒に入り口で他に異変が起きないかどうかを警戒していてください。良いですよね、エンドウ様?」


 先にこう言われてしまってはここで俺が他にとやかくは言えないだろう。ラディも「行こうか」と言ってダンジョンへと向かって行く。

 この低級ダンジョンはどうやら随分と「整った」もののようで、入り口はどうにも階段、壁も床も綺麗にタイルが敷き詰められていて通行がしやすい内部だった。

 俺がコレに不思議なものを見る目をしていた事で解説がラディから入る。


「長年ここはずっとダンジョンとして管理されて存続してきたからな。気の遠くなる時間を掛けてダンジョンはゆっくりと「整理」されて来たんだ。ヌシは倒されず、しかしダンジョンに住み着く魔物は狩られ続けた。おかげで氾濫は起きず、安全に資源を稼ぎ出せるものとなっていった訳だ。ああ、勘違いするなよ?コレは人工的に施工された訳じゃ無い。ダンジョンが人を誘き寄せる、中へと入り易くさせる為に少しづつ変化させていったんだ。管理されているとは言え、ここはダンジョンだ。この中で命を落とせばソレはダンジョンの糧になっていく。だから、誘い込む、だ。この程度の変化はもうこの都市周辺のダンジョンでは普通だぞ?」


 どうやらそう言う事らしい。まあ、そんな事は今は関係無い。早い所遭難している研究者を助け出してしまうのが先決だ。

 その後はヌシを討伐してこの低級ダンジョンだけでも片付けておくのが無難だ。


「・・・なんか変じゃねーか?何つーか、空気がちげぇな?」


 この言葉を出してカジウルが警戒を最大限に急に上げた。そう、俺も入ってすぐに魔力ソナーを一気に広げたのでこのカジウルの言葉には納得している。だから次に俺はこう告げた。


「どうやら魔物?の反応が多い。話を聞いただけの俺の推測だけど、もう完全に高難易度の方と繋がったっぽいな?これは急いだ方が良い。」


 もう既にこのダンジョンのマップは俺の脳内に完璧に入っている。しかし、その研究員の居る場所が遠い。

 ソレはそうだ。最奥まで行って、そこでこの変化に巻き込まれたというのだから。最短で行こうと思ってもかなりの距離を行かねばならない。ダンジョン内部は複雑に迷路となっていた。

 その間に居るだろう魔物の反応は真っ赤っ赤だ。その数もかなりの数である。高難易度の方から流入してきてしまっているんだろう。


「ねえ?最短でどれくらいで着きそう?罠もあると考えていいわよね?この救助にはどれくらいの時間掛かるかしら?」


 マーミはそんな心配を声にする。もしかしたら間に合わない、そう言った懸念を。

 でもここで俺はまどろっこしい事は全部置き去りで良いだろうと判断した。人命が掛かっているのならば四の五の、つべこべ言わずに真っすぐに突っ切っても構わないはずだ。


「皆、正面突破するから。俺の後ろに来てくれ。じゃあ、先ずはこの壁からだ。」


 俺は目的の方向、研究員が居る方面を塞ぐ壁へと手を突いて魔力を全開で流した。

 するとその壁に穴が開く。もちろん俺が魔力を思いっきり流して開けた穴である。ダンジョンを俺の魔力で強引に改変したのだ。


「相変わらずやる事がエゲツネェ・・・」

「こんなのどうしろって言うんだかね?呆れて何も言えないわ・・・」

「ダンジョンに流れている魔力を止めて、逆にこちらの魔力を流して変化させてしまうのですね無理矢理に・・・」

「ドンダケだよ。まあ、今はそんな事はどうでも・・・いや、どうでもよくない訳じゃ無いな?」


 ちょっとだけラディが混乱をしかけるが、俺はその作った穴を通ってこう言う。


「このまま遭難者の所まで一直線で行こう。あんまり遅いと彼らが何をしでかそうとするか分からないし、魔物の方が近づいたりすると殺される可能性がある。急ごう。」


 この言葉に皆は直ぐに動き始めてくれる。空けた穴から先は一本道となっていてかなり先まで延びていた。

 なので一気にここでも俺は魔力をこの通路へと流し込む。罠を解除、或いは発動させない様に、もしくは罠を先に発動させてしまって安全を確保するために。


 通路の先でガシャンやら、ガコンとか、何だか物騒な音がしたが、構わずに駆け抜ける。

 そしてまた壁にぶち当たると俺が魔力を通してそこへと同じ様に穴を開けて通過する。


「いや、まあ、分かっていた事ではあるんだがなあ?」

「あー、ホントよねぇ。エンドウが居ると何だかこう、ねぇ?」

「ダンジョンが何故だか憐れに感じて来てしまいますね・・・錯覚でしかありませんが。」

「どうする?救助とヌシの片づけと、二手に分かれるか?」


 カジウルもマーミも俺へと何かしら言いたいことがあるらしい。まあ、非常識、と言いたいんだろう。そしてそれに慣れてしまいかけている自分に対して何かしら思う所でもあるのか。

 ミッツはどうやらダンジョンが可哀想などと言った気分に少しなっているようだが、それでもそれも本気で思っている訳じゃ無いんだろう。

 ラディは遭難者の所に到着した後の事を考えている。まあ、手早く片付けるならそう言った手段を取った方が速く終わるのは確かだ。


「皆、この壁を通ったらその先に遭難者が居る。行こう。」


「壁に穴開けてダンジョンを突っ切るって、思い付く奴はいないだろうな。しかも実際にやってのけるってなぁ?」


 カジウルが流石にやり過ぎじゃないか?とここまで来て思わずそう口から漏らすが、今はそれどころじゃない緊急事態なので呑み込んで貰うしかない。


「皆さん、無事ですか?救助しに来ました。怪我人、その他、気分の悪くなっている方はいらっしゃいますか?」


 音も無く静かに壁に穴ができ、そこから俺たちが現れてそう声を掛けるものだから、遭難者の彼らはギョッとした顔になって口をパクパクしている。

 あり得ない事が目の前で発生していて驚きで声が出せないんだろう。本気で驚愕をすると空いた口が塞がらないと言うが、実際に俺は遭難者全員がその口を閉じれないでいる事に笑いがこみ上げてきそうだった。

 全員の表情が間抜けに過ぎて面白い。笑いを我慢するのが結構大変だった。

 そう、誰一人としてはぐれたり無謀を犯したような人物はいなかったのだ。ここに全員が集まっていたので楽だった。

 コレで誰かが「こんな所にいつまでもいられるか!」と言ってこの場から移動していたりすれば、それは死亡フラグと言ったモノである。


「皆さん、落ち着いてください。私たちは冒険者「つむじ風」です。この度のこの調査に協力しています。事情は既に外に居た研究員の方たちから教えて貰っています。速やかに脱出の準備をしてください。」


 ここでミッツが彼らにそう言って脱出を促す。ここはダンジョンのヌシの間の前である。直ぐ側にはその扉が見える。


「このダンジョンは今、大きく変化が起きています。そのためにこの場の方たちは「遭難者」として扱わせて頂きます。安全のために皆さんは外へ。」


 ミッツはそう言って再び彼らに気持ちを切り替えろ、と伝えるのだが。


「ダンジョンが変化をするんだぞ?今この時はもの凄く貴重なんだ。このまま内部に残って情報確保をしたいんだが?」


 多分彼らの代表者なんだろう。一人の男がミッツの言葉に我に返ったのか、そう口にした。


「それは認められねえ。アンタらはもう既にこのダンジョンを自力で出られねえからだ。高難易度の方が既に大幅にコッチと繋がってるらしくてな。お前さんたち研究者が、そんなところに居た魔物とやり合えるかい?」


 カジウルが諦めろと告げる。要するに、自力で出られない奴が文句を言うな、と言う事だ。

 この言葉でどうやら直ぐに現状が最悪である事をこの場に居た全員が悟ってくれたようだ。だが、まだ食い下がろうとしてくる。


「ならば、帰り道の間だけでもこのダンジョンの観察をしつつ戻りたいんだが?」


「駄目だな。真っすぐにこのダンジョンを出て貰う、即座にだ。そしてこの低級ダンジョンはヌシを潰して塞がせて貰うぜ。諦めな。安全は最優先だ。」


 バッサリとカジウルがこの主張を切り捨てる。しかしコレに大きく反対された。


「そんな事!?駄目だ!今回の件は貴重な資料となる!この件を解明できればより一層のダンジョンの研究が進むんだぞ?それを台無しにする気か!?」


 代表者だけでなく、他の研究者も同じ意見だったらしく、ウンウンと首を縦に振る。

 だが、コレにマーミが辛辣な発言を返した。


「ねえ?私たちは冒険者なのよ。遊びでもなければ、研究も関係無い。危険は見逃せないわ。この先に何が起こるかも予測のつかない危なっかしい物を放って置けっていう方がおかしい。それとも、貴方たちが責任を持てるの?死人が大漁に出たら?それで貴方たちは後悔はしないと言える?この現象で後々にこの都市を危険に晒すかもしれないのに?」


 追い打ちでラディが続く。


「それこそ、この都市には「ダンジョンを潰すな」と言った法は無い。それと、世界規模で見てもダンジョンは安全のために残しておいてはならない、と言った常識もある。それで考えるとここは、この都市は特別な場所だ。そして異常なんだよ、その在り方がな。ダンジョンの存在そのものが危険だと、アンタら研究者はそもそも端っから分かっているはずだ。分かってなきゃいけない。この様な緊急事態で、生温い事を言っているアンタらの方がオカシイと分かるだろ?」


 コレで全員が黙った。そう、研究者がダンジョンを調べるのは良い。だが危険性を忘れてしまう事は根っこの部分を忘れていると言う事だ。

 危険だから調べるのだ。どんな危ない事も、知っていさえすれば対処は可能だ。だからなるべく詳しい事を調べようと必死になる。

 けれども、自分たちの手に負えなくなった危険は排除するべきなのだ、それこそ。

 そしてこのダンジョンは今、研究者たちの手に負えない状況になっている。ならばもう彼らにはこの場をとやかく言う資格がもう既に無くなっているという事だ。


 こうしてこのダンジョンから脱出するべく、俺が先頭で遭難者12名を引き連れる。殿はマーミが務めた。


「じゃあ三人とも、後は任せた。と言いたい所なんだけど、ちょっと待っててくれるか?せっかくここまで来たから俺もヌシ戦には参加したい。」


 俺はこの場を離れる前にそうカジウルへと声を掛けた。そしてこの返事は。


「ああ、別に良いんじゃねーか?ここのダンジョンヌシがどんな風になっちまってるかは未知数だ。エンドウが居てくれた方が心強いからな。まあ、ヌシにまで影響がまだ出ていなくて変化して無い可能性もあるがな。まあ、待つさ。さっさと行って戻ってこいよ。」


 こうしてダンジョン出口へと向けて出発となった。まあ、ここまで来る間に俺が開けておいた穴を真っすぐに進むだけの簡単なお仕事だった訳だが。

 そして救助した12名が外へ出ると、待っていた五名の研究者が大きく胸を撫で下ろした。


「じゃあ、皆さんはここで待っていてください。マーミはどうする?」


 俺はさっさとダンジョンへと戻ろうと思ったが。


「私はいいわ。行かない。ここで一応は彼らの護衛みたいな事をしておくわ。それに、後でマクリールが来るでしょ?その時に説明できるのがいないとね。」


 この返事に「じゃあ、行ってくる」とだけ言って、俺は最奥へとトンボ返りした。

 それこそ、カジウルからさっさと戻って来いと言われているので身体強化をしてダッシュだ。

 そして道は一本道なので直ぐに到着する。ここでカジウルが俺を見て一言。


「おう、早かったなマジで。じゃあ行くか。」


「そうですね。エンドウ様が居ればどんな相手にも負ける事はあり得ないでしょう。」


「いやいや、ミッツ。俺じゃどうしようも無い存在なんて、それこそこの世界にはいくらでも居るだろ?そんな相手がいざ目の前に、なんて現れたらその考え方が命取りになるだろうから、思い込むのは駄目だろ?」


 俺はそう言ってミッツを諫めるのだが、横からラディが。


「うーん?お前に匹敵?もしくはそれ以上の力を持つ存在なぁ?想像できないんだが?」


「いや、いやいやいや?待って待って。ドラゴンとか?もしくは、魔王?剣聖って居ない?もしくは邪神とか?」


 この俺の発言に三人が「何言ってんだ?」みたいな視線を向けてくる。


「何を言いたいんだエンドウ?そのドラ、ナンチャラってのは、何だ?強力な魔物の事か?それでもエンドウには敵わない気がするが?」

「そうですねぇ。魔王などと言った存在もおとぎ話や伝承、それと邪神ですか?神話の中には存在しますが、神が出てきたとなったらそれこそ、この世の終わりでは?」

「剣聖?まあ確かにそう国が認める存在はいるにはいるが、お前には勝てないだろ。」


 三人はそんな風に答えながらヌシの扉を開いた。俺たちはそのまま中へと入ったのだが、がらんどう。

 ヌシの間だったはずのその場所は何も無い只の広い空間になっていた。


「ヤバいなコレは・・・もしかして既に吸収はされ終わっていた可能性があるな。」


 カジウルはそう判断をした。コレにミッツも同意した。


「本当に、今先程迄はここに「いた」んでしょう。ギリギリ間に合わなかった?」


 ラディがここでこの部屋の奥を指さす。


「見ろ、扉がある。この先があるらしいな。開けるのは気が進まんが、確認はしておかないといけないな。」


 ヌシの間の扉と同じくらいの大きさの物が部屋の奥に存在した。コレは普通ならあり得ないだろう現象だと思われる。


「もしかして吸収はし終わったけど、その構造はまだ安定期には入っていない、って事なのかね?・・・コレは高難易度の方を攻略する必要がある?」


 俺はそう言葉にしてハッキリと述べた。俺たちの考えていた低級のダンジョンヌシを倒して高難易度の方へと吸収されるのを防ぐという目論見は失敗になっている。

 吸収合併が終わったら何が起こるか分からない、だから、とにもかくにも低級の方を潰してそれを阻止する、と言った作戦はコレで失敗となる。

 ならばと問題の根源の方を片付ければ良いのか?と単純に考えたのだが。ここでラディは冷静に否定を口に出す。


「コレはギルドに状況を説明しておいた方がいい。低級と言う事なら、ギリギリで言い訳もできたかもしれんが。高難易度の方は駄目だ。ここから産出される「資源」はこの都市でもかなりの稼ぎを出す。まあ、それも実力のある冒険者にしかできない事だが。」


 どうやらその実力者の稼ぎ場を潰してしまう事で、後から文句を付けられる可能性が非常に高いと言う事らしい。

 文句だけならいいが、それ以上に嫌がらせ、或いは妨害、最悪俺たちを恨みから殺そうとしてくる輩が発生するかもしれないとラディは付け加えた。


「まあ、それだけ高難易度の方から稼げる額は人の命なんて易々と殺す事を考えてしまえるくらいに富を生むんだ。やりにくいったらありゃしないぜ。」


 この言葉でカジウルは撤退を宣言する。


「よし、戻ろう。状況が当初の考えてたのから大幅に変わっちまった。前提がこうも崩れちまったら、また最初からやり直すしかねえだろ。戻ってもう一度どうするかをギルドと決める。それでいいな?」


 俺たちへとカジウルは同意を求める様にそう言った。コレに反対意見は出ない。


「よし、じゃあ戻るか。全くよー、こうも早い時間で展開がコロコロと変わるなんざなぁ?」


 カジウルは戻り道でそうボヤくが、しょうがない事だろう。寧ろ、研究者の誰一人として死ぬような事に発展しなかった事を喜ぶべきだ。

 こうして俺たちが戻ってきた事にマーミが不思議そうに訊ねて来る。どうしたのかと。


「随分と早かったわね?どうしたの?・・・はぁ?何?遅かった?あちゃー、何だか余計に面倒になりそうな予感がするわねぇ。」


 こうして俺たちはギルドへと戻る事になったのだが、後からここに師匠が来る予定なので行き違いにならない様にとこの場に残る事にした。

 そしてその間に中で何が起こったのかというのを研究者たちに説明をしながら、師匠が来るまでの時間を潰すのだった。


 そうこうしている内に師匠がこの場にやってきた。しかも十名の冒険者を連れて。どうやら応援らしいのだが。


「エンドウよ、どう言う事だ?恐らく何か起きたんだろうが、どうにも研究者たちの顔色が悪いが。状況の説明をしてくれ。」


 師匠が代表でそう疑問を口にするのだが、俺は逆にギルドの方での判断はどうなったのかを先に聞きたいとその質問にかぶせる。


「ギルドはどんな判断を下しました?どうやら戦力としてそちらの十名を追加派遣したみたいですけど?」


「・・・ギルドはどうにも中途半端な判断を下したよ。彼らを含めて我々合計「十五名」の冒険者で研究者たちの護衛をしつつ、調査を続行しろとな。考えが甘かった。ギルドはどうやら富を生むダンジョンを潰すのを嫌がっている。内部が大分腐っているな。」


 コレに研究者たちはバツの悪そうな表情になる。つむじ風の皆は「あーあ」と揃えて声を上げた。呆れた、と言った感情がしっかりとそれには籠っている。


「・・・んん?師匠、今「十五」って言いました?あれ?俺の事は計算に入れていない?だったら・・・」


「おい、エンドウ、ちょっと待て。何だその悪い顔は?・・・まさか・・・」


 師匠が俺の顔を見てそう言うので俺は自分の表情を直ぐに引き締めて「ナンノコトデスカ?」ととぼけて見せた。

 でもここで追撃が入る。


「エンドウなら一人で大丈夫だろ。」

「そうよねえ。ギルドが指定していない冒険者が勝手をやっても私たちは関知しないわ。」

「エンドウ様が行けば全て解決ですね!私たちは何も見なかった、と言う事で。」

「まあ、ギルドは「十五」って指定してきたんだ。俺たち以外の冒険者が何をしようが、それはしょうがない事だよなあ?」


 つむじ風の四人がそう揃って言う。助っ人としてここに来ている十名の冒険者たちはコレに「何を言っているのか?」とサッパリ意味が分からないと言った表情だ。


「おそらくはこのダンジョンを存続させ続けていれば、その内に魔物の氾濫が起こるだろう。もしくはもっと拡張をしてここいら一帯を呑みこんで誰の手にも負えないダンジョンと化すだろうな。今までの高難易度のダンジョンが攻略されていなかったからこそ、この現象が起きたんだ。これ以上拡張がすすんだら、この都市は破滅を将来背負う事になる。今直ぐにでも消滅させられるなら、するべきだ。」


 この言葉を吐いたのは研究チームの代表者であった。どうやら結論は出たようだ。

 おそらくはギルドが今のこのダンジョンの危険性を把握していない事でより冷静になれたんだろう。その表情はどうにも疲れている。そして悔しそうだ。


「さて、今後の方針は決まったな。じゃあちょっくらお話し合いをしようぜ、そこの十人。」


 カジウルがそう言って助っ人冒険者十名に近づいた。そして何やらゴニョゴニョと耳打ちしている。

 そして話が終わった時には。


「ここには「十五名」しか冒険者はいなかった。」

「おう、そうだな。今は研究者たちがダンジョンから戻ってきたばかりで休憩中であり、俺たちは待機だ。」

「次にダンジョンに入る前にこの事情を知らない冒険者が勝手にダンジョンを攻略しても俺たちは何ら関係は無い。」

「そうだな。俺たちは何も見ていない、聞いていない。」


 などと言いだす。どうやら口止めをカジウルがしてくれたようだ。


「と言う訳だ、エンドウ。パッと言って、さっと片付けて来てくれや。もうこれ以上にゴチャゴチャと面倒くせぇ事は無しだ。ダンジョンは消す、それでいこうや。単純だろ?俺たちは冒険者だからよ。それにこの都市の事情も、ギルドの事情もあるだろうが、もう、そんな事を言っていられるような状況は超えちまった。ならやる事は一つ、人々の安全、平穏の為に、ダンジョンは消滅させる。」


 カジウルはそう言って俺を送り出してくれた。

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