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久しぶりのダンジョン

 そう言って直ぐにカジウルの姿は消える。いや、消えたように見える位に素早く瞬発的に動いた、という表現が合っているだろうか。

 次々に男たちの顎を拳で、蹴りで、打ち抜いてく。全員がその一撃で脳震盪を起こして気絶していく。

 時間にして10秒も経っていない早業だった。ドサリドサリと地面へと無造作に倒れていく男たちはピクリともしない。


「凄いなカジウル。前よりも数段強くなった?」


「んん?まあ、力の使い方は熟練になったな。おかげでこうして全員生きて捕らえられるくらいには力加減ができるようにはなったぜ。」


 俺はインベントリからこいつらを縛るロープを取り出しつつカジウルとそんな会話をする。


「で、こいつらは一体どんな罰を受けるんだ?」


 カジウルはここの「流儀」で始末を付けると言っていた。しかし俺はここに、このダンジョン都市に来たばかりなので、その中身とやらをまだ知らない。


「ああ、じゃあ説明しながらギルドに行こうぜ。」


 こうして俺とカジウルはこの犯罪者たちを引きずってギルドへと向かう事に。そうなると目立つ事、目立つ事。

 しかしその視線は俺たちでは無く、この犯罪者たちへと向けられていた。


「どういう事コレ?まあ、どうだっていいか。カジウル、教えてくれ。」


「ああ、そうだな。そもそもここはダンジョンが中心の都市だろ?だからさ、こう言った輩は命を掛けて貰うのさ、ダンジョンでな。コレが罰になる。」


 カジウルの説明を要約すると。

 犯罪者はダンジョンでの罠避けの為に使われるらしい。縄で縛ったままに通路を先に行かせて罠の「在る・無し」を発見するのに使われるそうだ。

 犯している罪が重ければ重い程、重ねていれば重ねている程に、その「使用される期間」は長くなるそうで。

 しかも、ダンジョンヌシに一人で突撃させてヌシの動きを把握するための囮、駒に使われる事も珍しくないそうだ。

 生き延びれば刑期が終わるまでそんな神経をすり減らす命懸けをさせられ続ける。

 死ねば、それまで。ダンジョンが中心で回っている都市ならではの独特で、そして残酷な刑罰と言えるだろう。


「こいつらは相当やらかしてるだろうな。調べりゃかなりザクザクかな?手慣れてたからな大分。で、皆は?師匠は?ダンジョンの噂も聞いたけど、攻略の方は?」


「おうおう、そんなに慌てて聞いて来るなよ。一つ一つ答えてやっからよ。皆五体満足でこの都市でボチボチやってるよ。それでだな?マクリールには事情は全部聞いてる。こっちも元気が有り余ってやがるよ。」


「あれ?師匠の事呼び捨てなのかカジウルは?事情を全部?と言う事は師匠があの「姿」なのも聞いたって事か?」


 若返っている、というのも師匠は話したのか?と。


「ああ、お前と会ってからの事を全部聞いている。そうじゃねーと俺たちのパーティには入れられねーだろ?いきなり現れたあんな正体不明の超絶魔術師はよ。それと、呼び捨てで良いって本人から許可を貰ってるんだよ。」


「仲良くやれてたんならそれでいいや。で、つむじ風の皆がダンジョンを潰し回ってる、って聞いたんだけど?」


 俺とカジウルは大通りを歩きながら会話を続けていたが、この俺の質問にカジウルが答える前に冒険者ギルドに到着してしまう。


「その話は全員が揃ってからしてやる。こいつらを先ずはギルドに突き出しておこうか。」


 そのまま俺とカジウルは犯罪者どもをそのまま引きずって建物内へと入った。

 手続きはカジウルがやってくれた。俺もこの男たちの口に出した言葉を一字一句、どいつが言った言葉だったかも全て違えずに説明して調書を取るのに協力した。


「はい、ご協力感謝します。こいつらは自分たちのやってきた悪事に見合った罰を与えますのでどうぞご安心を。」


 対応してくれた男の職員はそう口にする。その後は奥から屈強な男が五人現れた。どうやらここのギルドの用心棒と言った所みたいだ。

 現れたその用心棒が犯罪者共を奥の通路に引きずって行く。それを最後まで見送ってからカジウルは言う。


「待ち合わせは別の部屋だ。ギルドで今日は集まる日だったんだ。二階に行くぞ。」


 どうやらこのギルドの二階の部屋で集まる予定だったという。皆と会うのは久しぶりだ。ダンジョンでの活躍の話を聞くのがちょっとだけ楽しみである。

 そうして入った部屋には師匠とミッツが既に居た。


「あ!お久しぶりですエンドウ様!いつこちらに?」


「ふむ、どうにも遅かったな来るのが。しかも、何だ?様付けで呼ばれていたのか。」


 ミッツは驚きと喜びで、そして師匠はミッツが俺の事を様付けで呼ぶ事を面白がっている。


「今日付いたばかりだよ。色々向こうでは師匠と交代した後にあってな。ようやく片付いてこっちに来れたって言う訳で。」


 二人の質問に纏めて答える。するとカジウルがドカッと空いていた椅子に座る。


「立ち話も何だろ?座れよエンドウ。積もる話もあるかもしれねえが、もうちょっと待ってくれ。全員集まってから話をしようぜ。この部屋は今日一日借りてあるんだ。ゆっくり話せる。」


 俺はこのカジウルの言葉に思い出す。


「なあ?この部屋は盗聴の類は無いのか?というか、無いな。別段どこかに仕掛けがあったりもしないみたいだな?」


 俺は椅子に座りつつも魔力ソナーを広げて部屋の内部を調べてみる。そして外の様子も。

 しかし別段コレと言って不審なものは見つけられなかった。こうして今までもギルドで部屋を借りた際には何らかの不審が付き纏っていたので用心したのだが。どうにもそう言った事はこの部屋には仕込まれていないようだった。


「おう、そういやそうだな。確かに今までだとエンドウは毎度異変を見つけてたからなぁ。」


 カジウルがシミジミと言う。コレに師匠が。


「お前はいつも何をしていたんだ?ギルドで盗聴?・・・そんな事が?」


 師匠は冒険者ギルドを信じていたようだ。しかし一気にコレで不安にでも駆られたようで部屋の中をキョロキョロする。


「マクリールさん、大丈夫ですよ。エンドウ様がもう既に調べたようですから。」


 ミッツはこの師匠の行動に「落ち着け」と声を掛ける。するとそこにこの部屋に入って来る人物が。


「あら?なんだ、久しぶりじゃないエンドウ。こっちに来るのにかなりかかったわね。・・・それと、カジウルが私よりも先にここに来てるのが驚きだわ。」


「おい、何でそんな事で驚くんだ?いや、まあ、こういう時はマーミはいつも大抵は俺よりも先に来ていたけどよ。」


 このマーミとカジウルのやり取りを久しぶりに見て懐かしいと感じてしまう。そんな感慨を持つ程に長く離れていた訳では無いのに。


「おう、俺が最後か。よう、エンドウか。こっちに来たんだな。えらく長くかかったようだな。まあこうして合流で来たんだ。良しとしようか。」


 ラディが最後に部屋へと入ってきた。コレで全員だ。それぞれが空いている椅子に座って話合いがこれから始まる。と言った時にマーミが俺へと先に質問をしてきた。


「ねえ、先にエンドウの話を聞かせなさいよ。どうにもこっちに来るのにだいぶ時間が掛かってるじゃない。アンタのその力があっても、何でここまで遅かったのよ?」


「ああ、じゃあ先にそっちの話をした方が俺も分配の話もしやすいな。じゃあアレからだけど・・・」


 つむじ風が何故今日ここに集まったのかを後回しにし、先ずは俺の話から始める事になった。

 その後はアレコレとマルマルであった事を一つ一つ説明していく。別にこれと言って深い部分まで喋った訳では無く、起承転結で簡潔にである。

 そして最後に俺はここでお金の話を振った。


「皆の取り分をここで振り分けたいんだけど、どうだろ?幾ら分を振り込めばいいか、ラディ、また計算してくれないか?俺の分はもうほぼほぼ使っちゃってる状態だし、等分するのに人数に入れなくていいからさ。」


 この言葉に皆が眉根を顰める。俺がコレに「何だろ?」と思った時にカジウルが先ず最初に口を開いた。


「要らねえ。」


 俺がコレに「え?」と短く疑問を漏らすと再びカジウルが言う。


「要らねえよ。そもそも俺らは前回の時にも貰い過ぎだったと思ってるしな。それと、俺たちのパーティ資金は潤沢と言えるくらい、まだまだ残ってる。俺は辞退する。」


「・・・良いのかカジウル?皆は?」


 確認のためにそう俺は聞いたのだが、カジウルは一つ頷くだけ。次に他のメンバーの意見を聞こうと思ってマーミの顔を見ると。


「私も要らないわ。というか、貰わなくても良いくらいに稼いでるもの、ここで。」


「稼いでる?それって、ダンジョンで、って事?」


 俺はまだこの都市での「つむじ風」の活躍とやらを聞いていない。なのでこのマーミの発言に質問しかできない。


「はい、そうです。ダンジョンアタックを何度も重ねました。その稼ぎで莫大な金額を稼ぎだしていますので、エンドウ様の御売りになった素材の売却額を分配しないでも大丈夫ですよ。」


 ミッツが答えを返してくれる。しかし俺は師匠を見る。


「師匠はどうです?ドン・モーグルは?」


「あれはお前だけの力で倒しただろうが。私が金を受け取る謂れが無いぞ?」


 師匠から断られてしまった次にラディへと質問をする。本当にいいのか?と。


「俺も受け取らないで良い。結構どころか、今後慎ましやかに生活していれば働かないで良いくらいの稼ぎは出した。」


 俺はコレに「おいおい」と思わず口に出す。するとカジウルがここで何があったかの説明をしてくれるみたいで口を開いた。


「今度はこの都市で俺たちが何をしていたのかをエンドウに説明する番だな。じゃあ、そうだな。この都市に着いてからでいいか。」


 こうしてカジウルはこの都市に来た時からの話をしてくれる。


「俺たちはな、別にここに来て直ぐにダンジョンに潜った訳じゃねえ。金はあったし、お前が来るのを暫くは待って、その間に色々とこの都市で遊んでいよう、って事になった。この時点ではまだギルドにも行っていない状態だったぜ。」


 どうやら来て直ぐにダンジョンに様子見すらしに行かなかったようだ。

 カジウルはこの都市の美味い酒を求めて。マーミは服やアクセサリーをウインドウショッピング。あくまでも買ったりはしなかったようだ。

 ミッツは教会で慈善活動にいつも通りと言った感じで。しかしここではミッツは自身が目立つような活躍をする事はしなかったみたいである。

 派手に回復の魔法を使っていると、それが広まってまたしても「聖女」呼ばわりされて、ゆくゆくは身動きが取れなくなるだろうと考えたらしい。

 ラディはと言うと、この都市の情報を仕入れていたようだ。ダンジョンの情報、それと美味い料理を出す店も。


「まあ、そこでマクリールが現れた、って所だな。ミッツが最初に対応したんだ。教会に居る事がほとんどだったからな。俺らと会うなら確実性が一番コレが高い。」


 こうして師匠はつむじ風に合流し俺の伝言を伝えたらしい。ここで師匠は皆に俺との関係を説明してこのつむじ風と共に行動をし始めた、といった流れである様だ。


「そこからギルドに行く事になってよ。ダンジョン攻略と洒落込むか、なんて事になった訳なんだが。ちょっとここからがヤバい話でな?」


 カジウルが言うにはどうやら位置の近いダンジョンが「繋がった」と言う事らしかった。


「俺たちが入ったダンジョンは比較的、出てくる魔物の危険度は低い所だったんだ。だけどなぁ?そこのダンジョンから近い、隣に存在した難易度が滅茶苦茶高いダンジョンがどうにもこっちのダンジョンをだな?」


 どうやら吸収、もしくは同化でもし始めたのか、難易度の高い方に居るはずの魔物が現れる様になったという。


「難易度の高いダンジョンの方はと言うと、コレがなあ?そこに入る冒険者が少なかった、って言うのよ、後から聞けばな。命が掛かってる仕事だ。ここでの冒険者は無茶はしない。金が稼げりゃ良いんだからな。そうなると、だ。ほったらかしにされていたモノが拡張し始めて、隣接するダンジョンと融合する程に膨れ上がって・・・ってな訳よ。」


 それをどうやら皆はギルドに戻ってその事を報告したらしい。するとギルドはこの報告をした「つむじ風」を、そのダンジョンへと調査隊として派遣要請をしてきたそうだ。

 これを一応は皆で相談の上で依頼を受けたと言う事だった。


「で、まあ、肩慣らし?マクリールの魔法の腕前を見よう、ってな事も含めてな、入ったんだ、その高難易度ダンジョンに。出てくる魔物は別段、今の俺たちにかかりゃ苦労するようなモノじゃ無かった。で、だ。そうやってマクリールの実力を見る事になったんだが・・・エンドウの時と同じような事になったぜ。」


 どうやら師匠がダンジョンで張り切ったという事であるようだ。相当に魔法を考え無しにでもブッ放したんだろう。


「迫って来る魔物は全部一撃だったな。そうやってダンジョンを潜りっぱなし、進みっぱなしだったからよ。遭遇した魔物は全部仕留めちまった。調査隊だったからな。ギルドからの派遣の荷物持ちも一緒に居たんだ。倒した魔物の回収と研究をギルドの方でやって解析結果なんかを安全のために反映して情報として冒険者に周知するためにな。」


 どうやら師匠無双をしていたらしい。倒した魔物はどんどんと運ばれてギルドが回収をしたようだ。どうやらかなりの大規模な突入調査である。


「で、ヌシ部屋前でやっと止まった。魔力が尽きた、って言ってよ。それで、まあ、そこで一旦冷静になって引き返した、って訳だ。そのダンジョンは拡張をしていたのがどうやらマクリールが暴れた事でコレで止まったんだが、どうにも低級とは繋がったままのようだったぜ。またしばらくしたらギルドが調査を出すって事になってる。マップはまだ全てを埋めた訳じゃ無いんだ。まだまだ変化をしそうだった。安定期にはまだまだ掛かる、って事で、俺たちは一旦そこで報酬を受け取って、今こうして次のダンジョンアタックはどうするかを決めるために集まってた、って訳よ。」


 話が終わって俺は師匠をジト目で見る。


「師匠、俺に散々以前に言ってましたけど、これはどう言う事ですかね?」


 俺のこの一言に師匠は顔事プイッとあらぬ方向を向いて視線を逸らすのだった。

 やらかすな、と人に言っておきながらこれである。まあ、師匠も相当に隠れストレスでも抱えていたんだろう。

 こう言う人物は溜めに貯めて爆発させる時が一番怖い。制御も何も無く、只々ぶっ放し続けるか、一瞬で全て出し切ってその場で爆発するか、どちらかだ。

 前に師匠に俺の出した障壁へと魔法をぶつけ続けさせた時があったが、アレでガス抜きをしていなかったらもっとここで酷い事になっていた可能性すら考えられた。


「まあ、いいや。それで、どうする?そのダンジョンは攻略方向?それとも・・・この都市って確かダンジョンからの資源で回ってるんじゃ?」


 聞きかじった内容を思い出して俺はそう問いかけた。コレに皆が複雑な顔をする。


「俺は攻略をするべきだと思ってる。ギルドにもそう伝えた。けどなあ?」

「私も攻略に賛成したんだけどね。ギルドの研究者たちは新しい発見だ、って言って聞き入れないの。」


 カジウルもマーミも即座に攻略する事を提案しているが、ギルドの方では研究者がそれを渋って「待った」をかけているようで。


「そうですね。即座に動くのは大事なのでしょうが、まだまだここはこのダンジョンに起こった事象の解明に時間を掛けるべきだと思うんです。」


 ミッツがこのダンジョンに起こった現象の究明をする時間も大事だという。しかし攻略しないとマズイ、とちゃんと認識はしている風な苦い顔だ。


「俺も今後の事を考えて研究者が一旦答えを出す迄は待つのが良いと思う。アイツらの様な人種は満足する前にダンジョンを攻略されたら文句をいつまでもしつこく言ってくるだろうからな。それが一々鬱陶しい。」


 ラディはそう言って腕組をして大きく溜息を一つ吐いた。コレにカジウル、マーミ、ミッツが「あー」と言って同意する。どうやら昔に一度そう言った似たような場面にでも遭遇したのか、体験しているのか。


 ここで師匠だけが何故か平常心だ。その師匠から漏れた言葉はと言うと。


「エンドウが来たんだ。もう何も心配は要らないだろ。」


 その一言が部屋に響くとこれを聞いた四人が。


「ああ、そう言えばそうだった。何だ、簡単な事だったじゃねーか。」

「そう言えばどこぞのどなた様がこの場に居たわね。議論しないでもよかったわ。」

「エンドウ様が居れば全て解決ですね!では空いた時間に教会の方に顔を出して頂きたいのですが、宜しいですか?」

「まあ確かにエンドウが居れば心配は無いか。って、おいおい、ミッツ、止めとけ。この都市の教会は裏がきな臭いぞ?」


 皆は俺へと視線を向けて勝手な事を口走る。だけどもラディの言葉だけは引っ掛かる内容だ。これはフラグだろうか?


「ラディ、聞き捨てならない発言してるけど、大丈夫か?その教会に狙われたりしてる?」


 俺はちょっとだけ心配になりラディにそう問いかける。つまらないヘマでラディが潰されるといった事は考えられないが、ここはハッキリとさせておきたかった。


「ああ、別に俺がヤバいって訳じゃ無い。そんな裏を探ってバレるようなポカはやらかさないさ。うーん?何と言えば良いかな?教会ではそうだな、裏金が色々と作られてる。それが内部のお偉いさんがやってる金作なのか、或いは教会全体内部での周知の事なのかは知らんがな。そこまでは深入りして無い。」


 爆弾発言。コレはミッツが怒りそうな案件だったが。


「なるほど。私が患者へと治療行為をしているのをどうりでニコニコ見ているだけだと思いました。私の噂を使って集金に力を入れていたんですね。さて、どうしてくれましょうか・・・」


 ミッツが静かに炎を燃やしている。ポーカーフェイスなのに溢れて来ている熱量が凄い。


「どこかに一軒家を借りてそこで治療院でも開きましょうか。お安い治療費で患者を診ると宣伝しましょう。ここの教会への不信感が確信になりました。喧嘩を売りましょう。」


 買うんじゃないのか?という突っ込みをぐっと呑み込んだ。そして俺はミッツへと冷静になるように言う。


「落ち着けミッツ。時期尚早どころじゃ無い。この都市はデカイ。治療院を開くにしたってやり難い事この上ないぞ?長くここで教会はやってきてる。その信頼をミッツがぶっ壊しでもしたら混乱が大きすぎる。冒険者たちの救えるかもしれない命さえも、その混乱の中では助けられなくなるかもしれない。」


 この言葉でウンウンと唸りながらもミッツは思考を冷やそうとして目を強く瞑る。


「分かりました。確かにそうですね。長年を賭けて地道に地方から少しづつ変えていった方が混乱も小さいですよね。あ、エンドウ様!マルマルの方の教会の様子を見に行きたかったんです。後で連れて行ってくれませんか?」


 どうやら冷静になれたようで、次のミッツの心配事はマルマルの方の教会の患者になった。

 全員がダンジョン攻略はまだまだ時間を待つ、という結果になったのでミッツのお願いを聞いても良いだろう。


(あー、またまたマルマルに戻るのか。行ったり来たりとまあ、良いんだがなぁ?)


 完全にワープゲートが無ければできない事案だ。こんな身勝手な事をホイホイできるのも魔法のおかげだと思うと有難い。

 しかしこうして一々他の土地に来たらミッツに「教会の様子を見に行きたい」と頼まれるのも手間になる。

 なのでここいらで教会での治療に当たる人員への「教育」をミッツにはして行って貰いたい所だ。

 本人が行かずともそう言った人材が育てばこう言った行ったり来たりを一々しないでも済む。

 だけどもやはりこの魔法での治療を広めるにあたっては障害が多すぎるし、大きすぎた。まだまだ教会関連には食い込むには時間が掛かるだろう。


「じゃあどうする?今日はもう解散にしておくか?」


 カジウルがそう言ってこの話し合いの場を終わらせるかを問う。そこに俺は頼みたい事を一つお願いした。


「なあ?その皆が入ったその低級ダンジョン?に入ってみたい。大丈夫だろうか?」


 コレに全員がうーんと唸る。どうしてだ?と。それに俺は簡潔に答える。


「せっかく来たんだからダンジョンは入っておきたいし、それに、本当に待っていても大丈夫なのか?そのダンジョン?」


 この俺の言葉に皆がハッとなる。そして代表でカジウルが。


「そうだな・・・幾ら中の魔物を手当たり次第に狩り取ってダンジョンの動きが止まったとは言え、ダンジョンでどんな変化がどれだけ起きて来るかは未知数か・・・許可を貰ってそう言った点に直ぐに対処できるようにダンジョンの近場で待機をしていた方が良いだろうな。」


 ダンジョンの変化が鈍る、止まったとは言え、その時だけかもしれないのだ。こうして今もダンジョンが知らない間に作り替わっている可能性が否定できない。

 ここで俺はもう一度ダンジョンって危険でしょ?と問いかけた。


「だから、俺が中の様子を魔力を広げて確認する。ヤバかったら低級ダンジョンの方だけはヌシを倒して片付けておいた方が良いんじゃないか?まあそう言った事情はどう判断するのかは俺がする事じゃ無いのかもしれないが。多分その高難易度ダンジョン?が低級ダンジョンを取り込んだら?相当にヤバい広さのダンジョンに変わるんじゃない?吸収合併?それならまだ完全に融合する前の低級ダンジョンのヌシは消してしまっておいた方が安全と言えば安全なんじゃないか?」


 この可能性を話したら今度は全員ギョッとした顔になる。忙しい事だ。

 そしてこの可能性にマーミが言い放つ。


「それってもの凄くヤバいんじゃないの?低級ヌシ倒した瞬間に高難易度ダンジョンが一気に取り込んできたりしない?その内部変化に巻き込まれて死ぬとか、一番やな死に方よ?・・・あー、頭痛い。」


 俺はコレにもうちょっとだけ付け加えておく。


「研究者が中に居た場合に、その変化に巻き込まれて遭難する事は考えられないか?多分可能性は高いんだと思うけど。そうなると救助隊も結成されるだろ?待機して直ぐに動けるようにしておいた方が良いと思う。それに・・・低級とは言え、高難易度のダンジョンに取り込まれたらそのヌシ、力を増して余計に厄介な存在にならないか?ヌシが2体居るダンジョン。しかも別々に存在するって言う面倒な事この上無いくらいになりそう。どう思う?それにダンジョンを構成する核となるヌシが二つになったとなれば、どう言った事が起こるのかなんて予測は不可能だと思うけど。」


 俺のこの発言に全員がまたしてもギョッとする。ダンジョンの謎は考えても考えても、幾らでも不思議現象が起こり得そうなものだ。だからだろう、こうして皆が驚くのは。その可能性を「在り得る」と感じたのだ。

 ここで真っ先に冷静になった師匠が次の行動を提案する。


「今のをギルドに全部説明して派遣依頼を出して貰うか。私たちはもう乗り掛かった舟だ。最後までこの件に付き合った方がよかろう。ギルドの方も新しく他のパーティに依頼を出して一々説明をするよりかは楽だろう、状況を我々が知っている分な。行こう。ここであまり時間を掛けて議論をしているよりかは現地に向かった方が良いだろう。」


 この案に皆が賛成をする。手遅れになったら後味が悪い、そう全員が感じたようだ。ならば俺も別にコレに反対は無い。早い所に話を付けるために全員で部屋を出る。


「先ずは受付にギルド長に大事な話があるって予約を取らないと駄目だろうな。どうする?ここに誰か一人残っておいて、他の皆は先に行っておいた方が良いか?」


 カジウルがここで全員残っている必要は無いと言う。確かにギルド長と面会だと言ったら、普通は事前にアポイントメントを取って起き、後日会う、と言った事が普通だろう。

 今はこの問題のダンジョンの件で余計に忙しくしていて予定も取れなさそうだ。

 ここでマーミが誰が残れば良いのかという所に言及する。


「マクリールが残れば良いんじゃない?今回の事で顔をしっかりと覚えて貰ってるでしょ?なら、説明して説得力が一番高くやれるのはマクリールなんじゃない?」


 確実性を求めての提案だった。説得ができなかった場合は俺たちは勝手にダンジョンへと突入する事になりかねない。

 何事も無ければ待機だけでいい。それが一番だ。しかもギルドからの直接依頼を受けていなくとも、俺たちが勝手にやっていた事として片付く。

 だけども、ダンジョンの変化が、しかもかなりのドデカイ変化が、俺には起こるのではないかという勘が働いていた。


(これを俺の口から言うと大げさ所じゃ無くて皆「お前が言うなら確実だな」とか言ってきそうだから口には出さないけどさ)


 こうしてギルドに残るのは師匠となり、すぐさま俺たちは出発をしてその低級ダンジョンへと先ずは向かうのだった。

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