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早くも到着

「おーい、ゴクロム居るかあ?もしくはそうだなぁ~。ミルストでもいいぞー?」


 俺はマルマルにある署の前に居る。そう、警察署とでも言ったらいいか。この街の警邏やら犯罪取り締まりを国の衛兵に代わってやっている所である。

 ここまでの付き合いに最初はなるとは思っていなかったが、なに分こう言った犯罪者を引き取って貰うにはこうした「訳を知ってる奴」に丸投げできるので楽と言ったら、楽だ。

 ここにゴクロムでは無く、この署の副署長をしてるミルストが現れた。


「エンドウ殿、お久しぶりです。・・・で、その十・・・一名の者たちはどうした事ですか?」


「ああ、そこら辺はそっちで尋問なりなんなりして吐かせてくれよ。取り敢えずこいつらは犯罪者だっていうのは保証する。あ、この子供もそうだから容赦はしないでくれ。・・・おい、デリー、もし、嘘を吐いたり、誤魔化そうとしたりすれば、今以上の痛みを受けると思え。確認しに来るからな?全てちゃんと正直に言えよ?」


 俺はそう言ってデリーを脅す。コレに脚を折られた痛みで呻いているデリーは余計に顔を青くさせ「ひっ!?」と泣く。

 もちろんあの森の中からワープゲートで一発移動だ。脚を折られているこいつらは逃げ出したくても上手く歩けない。痛みでそれどころではないだろう。

 そこら辺を気にせずに俺はこいつらをポイポイと放り投げてワープゲートを通した。出る場所は署の裏だ。

 そこからは全員の襟首とっ捕まえて引きずって署の前まで来たと言う訳だ。

 そして昭和時代の子供か?と突っ込まれるような行動をしたのである。友達の家の前まで来た子供か、と。

 ゴクロムやらミルストを呼ぶのに署の中に入ってからにすればいいのに、俺は外の入り口の前でそうやって声を掛けたのである。

 コレにどうやら丁度ミルストが居て俺へと返事をしてくれたと言うミラクルである。


「さて、では簡単にでも聞かせてください。こいつらは何を?」


 多分もっと色々な事を俺に聞きたい所をぐっと我慢しているんだろう。もの凄く複雑な表情になっているミルスト。


「ああ、こいつら俺の身包み全部剥いで森の中に縛って放置していこうとしてた。手馴れてるし、しかも躊躇も無かった。掘ればもっと余罪がザクザクだと思う。それと、人も殺し慣れてるな。それじゃ、俺行く所あるんで、これで失礼するわ。んじゃ。」


 俺が背中を見せて脇道に姿を消す時にちらりと見えたミルストの顔はピクピクと頬を引きつらせているっ表情だった。


(すまんなぁ。これ以上は俺もメンドクサイ事に付き合っていたくないんだ。早いとこダンジョン都市っていうのに行ってみたくて)


 俺は姿を魔法光学迷彩で隠して宙を舞う。そのままマルマルの空を飛んで外へと出た。


「さーてと。つまらない事で時間潰されちゃったしなあ。あ、でも俺がお人好しだったからかソレは?・・・あんなに俺って間抜けだったんだなあ。賢者っていった器じゃ絶対無いよ、俺は。」


 この世界の人物たちは俺の事を「賢者」などと呼ぶ奴らが多くて困る。俺はそんな器では無い。

 賢者と言う認識にズレか、或いは大きな違いがあるからだろうと思うのだが、それを今追及しても意味は無い。


「さて、こっちの方角で良いんだったか?それじゃあ空中散歩しながら道なりに飛んで行けばいいか。」


 ようやっと俺はしっかりとダンジョン都市に向かえるようになったとホッとする。

 暫く会っていないつむじ風の皆は今どう言う状況だろうか?まあ人は短時間でそれほどに変わるようには出来てはいない。

 男子三日会わざれば刮目して、なんていうのは覚悟と強い決意が相手にある時に使うものだ。しかも成長著しい相手である場合である。


 つむじ風の皆はベテランで、それで師匠も参加していればコレと言って苦戦する魔物とかもいないだろう。そう予想する。

 連携が合わずにギクシャクして空気が悪くなると言った事は考えられるかもしれないけれど。


「あれ?そもそも俺はダンジョン都市につむじ風が居るよって師匠に教えたし、伝言を頼んでたから合流するだろうけど。師匠がつむじ風の仲間に入るかどうかはその時の師匠の気分次第なのか?」


 その可能性に辿り着いたが、別段気にする程でも無かった。みな大人同士、それぞれが納まる場所に納まるだろう。泣きじゃくる歳の赤子じゃあるまいし。

 なのでこの点を考える事を止めて空の旅を満喫する。おそらくだが道なりに飛んで行っているので間違いは無いと考えているのだが。


「初めて行く場所って先ずは下調べをしてからだよね道の。この世界にスマホは無いしな。調べるにしたって人に道を聞くくらいか?」


 この世界は魔法で便利、などと考えていたが、ちょいちょい不便でもある。

 自分の生きてきていた世界、日本がどれだけ利便性に優れている社会だったのかがこんな時にシミジミ感じる。


「さて、歩きで12?馬車で6?なら、空を飛んでショートカットしたらどれくらいなのかね?それに速度も比べ物にならない位に空飛んでる方が速いっていう。」


 道とは真っすぐなモノでは無い。それこそ、この世界の街道と言うのはそれが顕著だ。

 森を避けて曲がりくねっている道、川を迂回して通る道、それこそ途中で野盗に盗賊、もしくは魔物が出て来るかもしれない危険性など。

 土木工事、道路建設がこの世界の文明レベルだとそれこそ困難を極めると思われた。森を真っすぐに突っ切る道などを作ろうとしたらもの凄い莫大な資金と人員、年月が必要だろう。

 ソレはきっと「現実的では無い」と断じられて即却下されるような。道を整えろ、などという注文が付けばもっと巨大にそれは膨れ上がるはずだ。


 さて、俺は空を飛んでいるのでそう言った障害が一切全く無い状態である。コレが何を意味するのかと言うと。


「あそこかな、ダンジョン都市って?・・・そりゃ空を飛ぶってもの凄い事だよなぁ。」


 飛行機に乗った事など何回もある。出張で。しかしここまで「空を行く」という事に対して感慨深くなる事なんてこれまで無かった。


「空を飛ぶって事が如何にもの凄く信じられない事なのかと言うのが分かるわ。この世界の人には見せられないな?」


 動画サイトなどではジェットスーツなるモノを着てその身一つで空を単独高速飛行している動画なども配信されていた事もあり、それを俺は見た事がある。

 しかしその時の俺の感想は「凄い事をするなあ」くらいしか思わなかった。

 だけれども、この世界の人が空を飛んでいる俺を見たら?きっとこの程度の事では収まらないと思われる。この事が広まれば世界を震撼せしめるのは想像に難く無い。


「このまま都市の中に入らないでちゃんと門から入ろうか。先ずは何処か目立たない所に着陸かな?」


 こうして俺は街道からそう離れていない人の居なさそうな場所を見つけてそこへと降り立つ事にした。


 降りた先は街道の直ぐ脇の林の中。そこからさも「道に迷っていました」と言った感じで街道に出るつもりだ。

 街道には多くの人が居た。おそらくはその殆どが商人、或いは冒険者だと言う事が窺い知れた。

 大きな馬車、もしくは背負い袋を持つ者はきっと商売をこの都市にしに来たと予想できる。

 武装した者たちはこのダンジョン都市で一発を当てようと来た冒険者か、或いは商人の護衛での冒険者だろう。


(なるべく人が少ないタイミング・・・それとコッチを見てない時に、っと)


 俺はそれを注意深く観察して根気よく待った。そしてベストなタイミングだと思った時に街道に出る。

 その恰好はマントをしっかりと羽織ってフードも被った。コレで完璧だろう。

 だけども俺は冒険者を舐めていた。見ていない、視界に無かった人物がいきなり現れたら誰だってビックリする。

 俺は「どうせ見ていないから分からない」と思って紛れ込めるだろう格好にこうしてなったにもかかわらず、一人の冒険者が俺へと声を掛けてきた。


「おーい、お前さんどうしたんだ?いきなり現れたな?・・・そっちの林からだな?どうしてこんな所から?」


 その冒険者は大声でそう俺へと問いかける。俺はコレに驚かされた。


「え?あの、何で分かったんです?・・・あー。この林を突っ切れれば近道になるんじゃないかって思って。」


 この冒険者の大声でどうにも周囲からの視線がこちらに集まった。


「おう、そうか。でもな?あんまり馬鹿な真似は止めろよ?どうして街道があるのか考えろ。安全の為だぞ?こう言った林の中にだって時折魔物が現れる事がある。そんなのに襲われたくはないだろう?そいつと遭遇してだな?もし、逃げてこの街道にまで魔物を誘導して来てしまったら?他の旅人にその魔物が襲い掛かったら?まあ、そう言う事だ。他の迷惑になる行為に繋がるから、今後は止めておけ。今回は運が良かったと思うんだな。」


 コレは大声を出して注意するのも頷けた。俺と言う対象を使って周囲の他の旅人にも注意を促しているのだ。

 お前らもこんな真似は今後やろうとするなよ?と言う事である。それと俺の心配も底に含まれているのだろう。

 コレに俺は素直に説教を受ける事にした。


「あ、スイマセンでした。それと有難うございます。周囲の方々もご迷惑をお掛けしました。」


 俺は声を少しだけ大きめに出して他の旅人たちへと謝罪の言葉を口にする。

 コレにうんうんと小さく頷く者、無視する者、手を挙げてリアクションを取る者、じっと俺を見つめて観察して来る者など、色々と反応があった。


 声を掛けてきた冒険者はコレに満足して「じゃあな」と早足となり街道を先に行く。この後は俺は少々ゆっくり目に歩いて都市の門を目指した。


 さて、こうして無事、門へと到着したは良いが、その行列が長い。待ち時間はどれくらいになるだろうか?

 大人気食堂、などと言ったTV特集で見た事のある行列、よりも1.5倍以上ある。

 俺はその最後方に並ぶのだが、暇だ。こうした時に暇をつぶせるスマートフォンが無い。調べモノをするなり、動画を見たり、もしくはソーシャルゲームをしたりと、そう言った暇潰しができるツールが無い事がこうもモヤモヤしてしまうとは思ってもみなかった。

 この世界は刺激で一杯だ。当初の俺はそう思っていたが、こう言った場面では「むむむ」と唸ってしまう。


(どこの世界でもこうしたモノは付き物か。魔力が、魔法があっても不便な部分はあるなあ)


 現代日本と全く変わらない部分があると思えば、こうした所に堪えなければならない部分もひょっこり顔を出してくる。

 なので俺はその間の時間を潰すために周囲の会話を耳に拾う。


(空を飛んで中に勝手に入るのは何か嫌なんだよなあ、初めて入る所は。ちゃんと手続きをして入りたい)


 この世界の常識に慣れていくためにも、こうして初めて来た場所では正規の方法を取りたい。


「なあ?聞いたか?マルマルで流行ってる例のアレ。」

「お?お前も聞いたか?まだ俺試した事無いんだよな。」

「それな。この都市に商人が持ち込んでるだろ、と思ったんだけど、道中でそういう商人は出会わなかったな?」

「途中で買おうと思ってたんだけど、失敗したなぁ。まだまだマルマル内で普及し始めたばかりって聞かされてがっかりだったぜ。」

「護衛をやってる冒険者の奴らに話聞いてみたけどよ、もう以前の物は飲めねえ、って力説されたぜ。」

「あー、以前のあれはマズ過ぎて飲めねえ。だけど俺まだその改良された魔力薬飲んだ事無いから、前とどれくらい変わったか分からんしな?」

「ふふん!聞いて驚け!俺は「味無し」を口にした事があるぜ!」

「味?お前それどう言う事だよ?ちょっと詳しく話を聞かせろよ。」


 こうしてどうやら俺の耳に魔力薬の話題で盛り上がる冒険者の会話が入って来る。

 そしてそれ以外にはこのダンジョン都市の噂話が聞こえて来ていた。


「おい、聞いたか?ここのダンジョンが次々に攻略されて消滅してるって。」

「嘘だろ?そうなっちまったらこの都市もお終いじゃねーか。そんなバカな事する奴居るか?」

「って言うか、そんな真似ができる奴がいるとは思えねえな?強さって意味でな?」

「そんな強い奴が居たらもうこの都市で噂になってるだろ。俺はついこの間までここに居てよ、用事で出かけていて帰って来たばかりだが、そんな話聞いた事もねえぞ?」

「俺たちはここに出稼ぎに来たんだ。その話、もうちょっと詳しく聞かせてくれ。これじゃあ何しに来たんだか。稼ぐどころじゃねえじゃねえか。」

「この都市のダンジョンの管理はどうなってやがる?全て消えちまえば商売あがったりだぜ俺たち冒険者は。」

「いや、違うだろ?最終の間のボス以外のダンジョン内の魔物が全て狩られたって聞いたぜ?」

「おいおい、何だよその全てってよ?規模が違い過ぎないか?法螺にしち大分面白く無いぞ?」

「冗談だろ?そんな事されたら俺はこれからダンジョン入るって言うのに、稼げねえじゃんか?」

「いやいや、全部とか有り得ねえから。大丈夫だろ。そんな噂話信じてんじゃねーよ。」


 俺にはこの会話がどうにも「つむじ風」が起こしているというのを察する。

 つむじ風の皆、それと師匠ならできるのだ。ダンジョンの最後に待ち受けるボスがどれくらい強いのかは知らないが、この噂話の中身を実現できるだけの力量はある、それを俺は知っている。

 ボスを殺してダンジョンを消滅させる、ボス以外の魔物を全て狩り取る。どちらもきっとできるはずだ。

 どっちが真実かは分からないし、もしかしたら尾びれ背びれが付いて話が盛られている可能性もあるが、信憑性は高い。


 そんな話を耳にしつつ暇を潰していれば時間を忘れる。とうとう俺の番になった。

 門番へと俺は冒険者証を見せる。そうすると一言門番が注意をしてきた。


「何だ、お前さんも冒険者か。どうにも妙な恰好だな?まあ、いい。底辺冒険者がこの都市で一発当てようとしてやって来ては毎年多くの奴らが次々に死んでいく。死ななかった奴もその内に無理を続けて死ぬ奴が多い。お前もどうやらランクが低いようだが、馬鹿な真似をして容易く死ぬような事が無いように気を付けろよ?生きてりゃその内良い事あるからよ?この都市の仕事は冒険者だけじゃ無く豊富にある。命を張るような仕事じゃ無く、安定した安全な仕事をして生きて行くのも一つの選択肢だぞ?それじゃあ、ダンジョン都市にようこそ。」


 俺はコレに「どうも」と言ってその場でキッチリ門番へと向けて深く頭を下げておいた。ぶっきらぼうな言い方だったが、この門番はしっかりと心を籠めて俺へと忠告をしてくれているのが分かったからだ。

 なのでこちらもそれにちゃんとした対応をするのが大人というものだ。

 まあ、俺への心配は無用だと言うのは横に置いておく。この門番は俺の実力なんて知らないのだ。だからこれは門番からの嘘偽りの無い俺への親切心からの忠告なのだから。


「さてと、皆と合流する前に、ちょっと色々と観光をしながら都市の中を歩くかね。」


 俺は周囲を見回しながら大通りを行く。良い匂いを出している串焼き肉の屋台、店の前で客引きをしている鍛冶屋の声、何やら怪しい雰囲気を出している看板の店などなど。

 この都市に初めて訪れました、と言うのがモロバレな態度で俺はこの都市を楽しんだ。


 そんな事をしていると、まあ、定番なのがこう言った輩だ。


「ようお兄さん!この都市は初めてかい?なら俺が案内しても良いぜ?銀貨一枚でどう?」


 銀貨一枚だと言うと「5000」円位だったか。ガイドさんを雇うとなると、まあ大体これくらい払っても良いかなと考える。


「じゃあ頼んでみようか。おすすめの場所って言うのはある?そうだなあ。景色が良いとか、この店の料理が美味いとか?後は、面白い物が売っている場所やら、かな?」


「へい、毎度アリ。前金で貰っていいかい?態度の悪い客だと払わないで消える奴が居るんだ。」


「・・・ソレは俺が払ったらお前さんがいきなり案内せずに姿を消す、っていうのも考えられるって事だろ?」


「そんな事はしないさ。この仕事を俺は長くやってるからな。矜持ってものがあるぜ?」


「分かった。じゃあ支払おう。ほら。」


 俺は懐から取り出したように見せかけてインベントリから銀貨を取り出し、男に放り投げる。

 これを綺麗に「パシ」と音を立てつつ綺麗にキャッチして見せる案内男。


「よっしゃ!じゃあこっちだ。付いて来てくれ。」


 こうして俺はこの男の後を付いて行く。別段この男の見た目も顔も何ら悪い印象は感じられなかったので安心していたのだが、どうにも人気の無い場所へと連れて行かれている様子だった。

 俺は今、魔力ソナーを使っていない。何故ならそんな事をすると観光気分が一気に無くなってしまうからだ。

 なので切っている。今は別段緊急事態では無い。せっかく初めて来た場所なのだ。観光をちゃんと楽しみたかった。

 本来の目的はつむじ風、それと師匠との合流だが、別段そこ迄重要な目的でも無いのである。なので観光優先だ。

 だから効率的にも、楽しみ方の一つとしても、こうして案内を雇ったと言うのに幸先が悪い。


 俺は案内の後ろに付いて行きつつも目的地、コレは何処に向かっているのかを聞いてみた。


「なあ?何処に行こうって言うんだ?こんな道を通らないと行けない場所なのか?」


「ああ、大分穴場でね。良い店を知っているんだ。先ずはそこに案内するぜ?」


 こちらを振り向かずにそう案内男は答えてきた。俺はこの言葉を信じて一応は魔力ソナーを使わないで素直にそれに付いて行った。

 だけど、駄目だった。虚しいモノである。俺が案内された場所はそこそこ広さがある場所で人気が無い。そこに俺が入って行ったらどうにも「私たちは悪人です」と言った人相の男が五人、こちらの前を塞いできたのだ。

 しかもそれにタイミングを合わせて今先程通ってきた通路を三人の男が塞いだ。


「アンタ騙されやす過ぎだろ?途中笑いを堪えるのが辛かったぜ?間抜けだなあ?順調過ぎて逆に怖くなったくらいだぜ?」


 案内の男はこいつらの仲間だと言う事なのだろう。八人の男たちの顔はヘラヘラ、にやにやした顔でいる。


「・・・あー、そうかあ。何かしら問題が起きても対処は可能、って思ってるから平気でこう言うのにホイホイ付いて行っちゃうんだな。良く分かった。納得できた。」


 こいつらが俺へとアクションをまだ起こしてこないので、その間に自分の事を分析してみた。

 するとどうにも自分が魔法を使える事に、そしてそれがこの世界では非常識な規格外の強さである事で、俺はどうにも「油断が過ぎる」状態になっていると言うのがしっくり来た。


「ああ、この世界を楽しもうと考えていたけれど、こういったチンピラを相手にするのにも警戒なんてしないで良いくらいの力があるんだから、そりゃ油断するよな。」


「何をぶつくさ言ってやがる、あぁあ!?おら!さっさと痛い目見たく無けりゃ有り金、全部出していけや!」


「コイツ銀貨を吹っ掛けたら即座に払いやがった。相当な金を持ってるにちげぇねえ。着ている服も上等そうだし、身包み剥いで全部売っぱらっても金になりそうだよなあ?」


「どこぞの金持ちの坊主か、或いは貴族か?後々の報復があると怖い。金だけ要求して終わりにしとこうや。」


「は!殺しちまえばバレやしねえ。目撃者が居なけりゃこの都市から逃げれる時間も稼げるだろ。」


「一人旅?相当に金を持っていそうだな?今回はやっちまうか?」


「ここでの副業もコレで仕舞いにして他所に行く頃合いだな。」


「今じゃダンジョンに潜っても魔物が見つけられやしねえ。まあ、こいつでかなり稼げそうだからいいか?」


 こいつらは冒険者をしていると言うのが判明した。それと同時に毎度の事、この様に犯罪をしている事も。


「あー、君たち、どうやら人殺しにも慣れているみたいだが、この場で君らは死ぬ覚悟はあるか?」


 こいつらが喋っている内容に「殺人」が含まれていた。しかもどうやらもう何度もそれを繰り返していている事も察せられる。


「何だコイツ?はっ!死ぬ覚悟だって?何だ?お前が俺を殺すってか?ぎゃははははは!聞いたか今のをよ!?このひょろっちいのが俺をやるってよ?その前に俺がテメエを真っ二つにするけどな!」


 俺の質問に対して一番ガタイが良い男がそう大笑いしながら言う。


「強盗殺人、だよな?お前らがやってきた副業って言うのは?・・・縛り首がお好みか?それとも斬首?取りえず被害に遭った人数がどれくらいに上るのかは俺は知らないけれど、捕まって死刑になるのも、この場で俺に殺されるのも、違いは無いよな?ああ、一人だけ生き残っていて貰わないと、被害者の数やら、罪の数はどれくらいになっているのかの調査もあるかぁ。ああ、それと処刑をして見せる事で抑止力にしないと駄目だよな?二人居た方がそうなるといいかな?」


 犯罪調書を取るのにも一人だけでは矛盾が出る所もあるかもしれない。なのでこう言った場合は二人居た方が良いかも、そう考え直した。

 それと犯罪者の処刑と言う恐怖を群集に見せつけて罪を犯す事への抑止に繋げる、そう言ったのもこの世界での犯罪への対処の仕方とかだったりする。ならばインパクトの面で見て二人くらいは居た方が良いだろう。

 法を犯せばどうなるか?それを実際に魅せつけて民衆へと「犯罪、駄目、絶対」を教えるのだ。

 まあそれと、罪人を処刑するといった事で民衆の「ボンヤリ」と貯まった「悪事」への憤り、フラストレーションを抜くと言う目的もあったりするかもしれない。


「じゃあ、生き残りたい奴は二名、手を挙げて?」


 この俺の言葉に九名の男たちは大笑いを始めた。


「やべえ!コイツ頭おかしいぜ。」

「この人数を殺すって?お前一人で?」

「がはっははああああは!コリャ傑作だぜ!」

「どれだけ自信があるのか知らねえが、舐められたもんだなぁ?オイ?」

「自分の状況を冷静に見れねえ程にオツムが弱いと見えるぜ!」

「勝ち目がねえからって、コッチをおちょくって怒らせて隙を作らせる魂胆だったのか?当てが外れてどんな気分だ?」

「おいおい、そうじゃねーだろ?俺らを笑わせて隙を突く作戦だったんだきっと。まあでも、見事に笑いはしたけど、隙なんて見せねえけどなぁ?」

「道を前後塞がれてるんだ。隙なんて無いだろ、最初から。追い詰められていかれちまったんだろ、頭がよ?」

「それじゃあ早い所やっちまおうぜ。一杯飲む時間くらいは残しておきてえしな。」


 その最後の一人の言葉でこいつら全員が剣を一斉に抜いた。そこに突如乱入してくる声。


「おーい、エンドウ、何してやがんだ、こんな所で?こいつら知り合いか・・・って、訳無いか。」


「お?久しぶり!元気だったか?カジウル。あ、それと師匠は?」


 この場に現れたのはカジウルだった。そして俺を挟み込んできている奴らを一瞥した。


「お前なんでこんなクソザコ共にホイホイと囲まれてんだよ?」


「カジウルこそこんな所に何で居るの?皆とダンジョン攻略してんじゃなかったの?」


「ああ?俺はこっちの通りから向こうの通りに抜けようとこの道を来ただけだぜ?近道なんだよ、ここ。」


「てめえら仲間か?おい、ついでにこいつもヤッておこうぜ?追加だ追加。」


 カジウルに対してもこの犯罪者共はひるまない。いや、只単に俺たちの実力を知らないのだからそう言った問題では無かった最初から。

 根本的にこいつらはそもそも自分たちより明確に「強い」と判明している相手でなければ引いたり、逃げたりする事は無いんだろう。

 自分よりも弱い相手を甚振る弱者と言うやつだ。しょうも無い存在である。


「なあカジウル?こいつらの罪はどう言ったモノになるんだ?やっぱ即処刑?殺人も手馴れてるぞこいつら。」


 俺はこいつらの罰の重さを何となくカジウルに聞いてみた。すると面白い答えが返って来る。


「おお、そう言えばエンドウはここの流儀を知らなかったな。後で教えてやるよ。それとまあ、今はこいつらを片付けるのが先じゃねーか?いつまでもほっといても、俺が胸糞悪くなるだけなんだがな?」


「何をふざけた事抜かしてやがる!なら、テメエから死んどけ!」


 どうにもこのカジウルの言葉にイラついた一人が俺では無く、先にカジウルに対して斬り掛かった。だけどもその攻撃を簡単に避けるカジウル。

 避けられて勢いのままに振り切られた剣は地面と衝突してガキンといった音を立てる。剣を叩き付けた衝撃で手首を痛めたのか男は「うぐ!」と小さく呻いた。

 そこにカジウルが男たちに告げる。


「おうおう、怖いねえ?しかしまあ、ふざけてんのも、舐めてんのも、お前らの方だけどな。良かったなお前ら?俺が相手でよ?エンドウが怒っていたら、お前らこの場で即ざに地獄を見る事になってたぞ?安心しろ。俺はちゃんとここのギルドの方針にのっとってお前らに罪を償わせてやるからよ。」

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