ボー☆ナス!
夕食は楽しい時間となった。美味しい料理と美味しいお酒。それと楽しい会話。ゴズ夫妻も途中でコレに加わり、こうして交流の輪とは大きくなっていくモノなのだろう感じる。
時間が大分過ぎてお開きとなる。ゴズからはまた来てくれと言われ、そしてクスイはゴズへとまた来ますと返す。
俺が調子コイてゴズ夫妻の前でワープゲートを開いて帰宅する様子を見せてしまったのは後でちょっと失敗だったか?と反省したのだが、食事中のクスイとゴズの会話を思い出して別にいいか、と開き直った。
その会話の内容とは俺の事であった。お酒が入った事も起因するのだが、俺とゴズが親しく話をしている様子からクスイは安心してゴズと俺の話を酒の肴に会話をしたのだ。
「エンドウ様は常識外れのお方でしてなあ。私はいつもいつも驚かされてばかりでしてねぇ。いやしかし、それがまた最近は私も面白く感じて来てしまっている始末でして。危ない傾向で自分を律するのが大変なのです。」
「おう、そうか。俺もコイツの事はやべえ奴だと思っていたぜ。常識外れと言うか、埒外だよなあ。んん?言ってる中身は変わらねえか?がははは!」
俺を人じゃないかのように言って二人は美味しい酒で上機嫌に俺をディスっていたりした。でも俺はこれを止めたりはしなかった。楽しそうで何よりだと眺めて美味しい料理を堪能していた。
ミルとルーネは料理の話で盛り上がっていて、テルモは美味い酒を一人ちびちびと飲んで「ふへぇ・・・」とヘラヘラずっとしていた。
俺のサプライズは成功したと言っても良いのだろう。クスイの家へと帰って来てから全員が椅子に座ってくつろぐ。
「エンドウ様、今日はこの様に我々を労って頂いて感謝します。非常に楽しい、充実した時間で御座いました。明日からもビシバシ、働いて魔力薬の販売に力を注ぎたいと思います。」
クスイのこのいきなり真面目になった言葉に俺は今日の今くらいは仕事の話はしないで余韻を楽しもうと返す。
「今はお酒で気持ちがいい酔いを得ているんだからそんな畏まるなよ。また今度食事に行こう。そうだな。もっともっと魔力薬が売れて、世界中に広まったらもっと凄い料理を食べに行こう。またゴズの店に行っても良いし、別のもっと豪華な店に行ってお祝いをしてもいいさ。今日はこのまま寝て気持ち良く一日を終わろうか。」
テルモは既に酔い潰れている。かなりお酒を飲んだ。ミルもルーネのペースに引きずられる様に酒をがばがば飲んでいたので既にテーブルに突っ伏している。
クスイはと言うと自分の限界を分かっているんだろう。酒は飲んでも飲まれるな、と言った感じでちゃんとしっかりと意識は保っている。酩酊する程に飲んでいない。
こうして二人をベッドに運んで俺とクスイも眠る事にした。そして翌朝。
「うーん、昨日は楽しかったですけどぉ・・・頭が重いです・・・」
頭痛まではしていないらしい。しかし頭がどうやら支えられないと言いたいのか、ミルはずっと俯き加減だ。
「助けてください・・・頭がガンガンするんです・・・あがががが・・・」
テルモもどうやら二日酔いがきついらしい。こちらは頭痛がと言う事で手で頭を押さえて青い顔をしていた。
俺はクスイの家に昨夜は泊まらせて貰っていた。そしてこの中で一番早起きをしている。
二番目に起きてきているのはクスイである。彼は目覚めて直ぐに顔を冷水で洗って気合を入れて「今日も張り切って参りましょう」と口に出している。
「ほら、二人ともこれを飲んで。ゆっくりでいいから全量飲むんだ。さて、俺も今日はどうしようか。うーん?こうして飲み会を続けたんだから、魔力薬の製造工場で働いてくれている従業員の人たちにも何かしてあげたいな・・・でも人数がなあ。多いからなあ・・・あ、ボーナスで出そう。それが一番無難かな?」
従業員の数はかなりの多さになる。それを飲み会で、なんて形にすると逆に準備が大変になりそうだった。都合の付かない者も出てくるだろうから、そう言った者たちにも配慮した形にするとなると、飲み会といった事はどうにも纏めるのが手間労力が掛かり過ぎる。
なので俺は閃いた。ボーナスである。コレはいいアイデアだと思った。一応は定期的に出せる様だと良いんだがな?と考えはしたのだが、その思考は俺の社会人をしていた頃に偏っていると言える。
この世界は俺の棲んでいた日本では無く、そして働いていた会社でも無い。
こちらの世界にはこちらの世界の給料支払い制度があるし、秩序と言うのがある。それらに大胆な改革のメスを入れて変えていくと言った壮大な事をするだけの事までは面倒が過ぎると考え直した。
あくまでも今までずっと働いてきてくれた事への俺からのお礼として一時的に支払うと言った形を取ろうと思い、クスイにこの事を話してみた。
「エンドウ様がその様にお考え為されたのなら私は反対は致しませんよ。それに、つい先日のどうやらサンネル殿との売買で得た金をまた私に丸投げ、をお考えなのでしょう?」
鋭い、クスイは俺の行動を読んでいた。とは言え、もう何度かそう言った資金提供はしているのでそこまで難しい事でも無かったりするが。
「資金はまだタンマリと残っています。と言うか、使えておりません。魔力薬の売り上げが随分と急激な上がりを見せておりましてね。減らない、寧ろ増えているのです。なのでそこへまた運用資金、などと高額を突っ込まれてしまうとですな、無駄にその金を狙った取るに足らない小悪党が寄ってくる事にもなりかねないのです。」
クスイから控えてくれ、と言われてしまった。そして追加で万が一にも資金が危うい場面に突入したら助けを求めるとも。
俺はコレに「分かった、何かあったらすぐに言ってくれ」と伝えた。
さて、俺が二日酔い勢に与えたのはいわゆるスポーツドリンクだ。大体500mlの量を与えた。これを飲み切ったミルは早くも症状を回復させたのか、直ぐに朝食の準備に取り掛かり、あっという間に食事の準備が完了した。
スープにパン、そしてサラダ。スープにはしっかりとお肉が入っている。未だに頭が重そうなテルモにも食べきれるだろう量に調整がされていた食事だった。
俺とクスイはそれらをパパッと食べきり、仕事に向かう事にする。俺は香草焼きの店である。またしても店への嫌がらせがあったら今度は俺が直接デブ馬鹿の奴に痛い目を見させるつもりだった。
俺が家を出る前にミルの方も既に食事を終えて片づけをしていた。テルモはと言うと二日酔いの症状は軽くなっている様子に見えたのだが、それでも全身が怠いとでも言わんばかりにその動きはもの凄くノロノロとしていた。食事もまだ終えていない所である。
「行ってくる。テルモ、あんまりだらだらし過ぎると・・・太るぞ?」
俺は爆弾を投下してからクスイの家を出た。悲しみの籠った声で「ししょぉ~・・・」と俺を呼ぶ声が聞こえたが、俺はそれに構わずに店へと向かった。
店の開店準備はパパッと終わる。もちろん俺の魔法がモノを言うからだ。肉の準備はもちろんの事、テーブルや道具の殺菌も魔力を流して即座に綺麗ピカピカである。
そこに従業員たちが入って来て朝の挨拶をしてくる。準備はしてある事を告げ、しっかりと今日の仕事の件でのミーティングをして俺は店を出る。
「さてー、ダンガイドリの様子を見に行こうかな?どうやらデブ馬鹿カリブルは来ていないみたいだし、さっと言って卵を貰って帰ってこようか。んー?餌を色々と購入して手土産に持って行くか。」
漁業組合、それとマンスリの所に顔を出して餌を購入してから向かおうと考えて俺はサンサンにワープゲートを繋げる。
ゲートを通ればそこは別世界、とでも言いたいくらいの日差し。マルマルと同じ日光が降り注いでいるはずだと思うのだが、それでもサンサンの日差しはより一段鋭いように感じられるのは何故だろうかとくだらない事を考える。
肌にピリピリとした感覚を与えてくるサンサンの強い太陽は海面の波に反射してきらきらと目に眩しい。
「うーん!こっちの風は気持ちが良いな!潮風が鼻の奥を刺激してくる。あー、リゾート地だなホントここは。」
背伸びをしながら人気の無い脇道から大通へと出ると大勢の人々。観光目的で朝早い散歩をする人だろう雰囲気の人が多めだろうか。
そう言った観光客相手に商品を売り上げようと客引きの声が「いらっしゃいませ」と響いている。
俺はそんな人込みの中を掻き分けながらマンスリの店に向かう。そこで以前にダンガイドリ用の餌を購入している。
それらを買ってから漁業組合に行ってダンガイドリ用の餌を追加で貰いに行くつもりである。
「うーん?店に着いたけど、マンスリに見つかったら何かと煩いかな?」
俺は静かに店の中へと入る。マンスリは多分魔石コーナーに居るはずだ。以前はそこで魔石の購入もした。
しかしそちらへとは近づかない。ここで働く店員に購入したい物を伝えると「直ぐにご用意いたします」と即対応して貰えた。
どうやら俺が購入する量を伝えたのが大きな数であったからだと思う。こいつは上客だとでも思われたようだ。
清算場所で待っていてくれと言われて待っていると、そこに俺の注文した品と、ついでにもの凄い機嫌の悪い表情をしたマンスリがついでにセットでやってきた。
「お主・・・うちでモノを買おうという気か?面の皮が随分と厚いではないか。」
以前にマンスリからの申し出を断っていた事もあり、俺への評価がかなりダダ下がりであるマンスリ。
「うーん?ソレはお互い様じゃないですか?断られた事がある人物の前にそうやって姿を現してきたんですから、あなたも相当だと思いますよ?」
嫌味を込めて俺も返す。別に俺もここまでマンスリが機嫌悪く登場していなければこうした返しもしなかった。
マンスリのその目の鋭さの中には俺への敵意が見え隠れしていたからだ。
この俺の返しに眉一つ動かさずにマンスリは俺を睨み続ける。こうして睨んできていても、矜持と言う物があるのだろう。店の客として現れた俺が商品を大量購入をしようとしている手前、自分の感情一つで「売らない」などと言った子供の様な稚拙な対応はとれないと。
「ダンガイドリの所に行くんじゃな?なら、依頼を頼みたい。卵を一つ、取って来てくれ。」
「・・・そんな険しい表情で睨みながらする頼み事か?まあ別に良いけどさ。で、その条件として、どうしてか聞かせてくれたら、良いよ。」
俺も多少の意地悪はしても良いだろう。これだけの敵意を向けられているのだ。その様な態度で頼まれ事をされてはすんなりとOKは出したくなくなる。
この返しに余計に眉間に皺が寄るマンスリ。しかし口を開いた。
「今度、家族で祝いの席を開く予定だ。そこに、出したい。」
「ふーん?よっぽどの祝い事なのかね?いいよ。分かった。そう言う事なら採って来る。まあ、ダンガイドリが生んだ卵の中に持って行っても大丈夫なのがあったら、って言う条件だけど。あんまり期待はしないでくれ。あ、そうなるとちょっと待ってくれよ?一度依頼を受けて駄目でした、って事になるとちょっとアレだしな。がっかりはさせたくないし、採って来られる卵が無かったら代わりの物を渡すよ。」
俺はダンガイドリの卵に関しては「無精卵」しか採って来ない事にしている。なのでダンガイドリの生んだ卵の中にそれが無ければ駄目だこの場合。
この条件にマンスリが「それで構わん」と言って一つ頷いた。どうやら俺が代わりを出すと言う点を飲み込んだらしい。
こうして俺は餌を購入して店を出た。支払いはカードで、である。まだまだカードの中にある金額は全く持って減る様子は無い。
さて、次に向かうのは漁業ギルドである。そちらで処理した魚の廃棄物を回収するのだ。コレはダンガイドリの餌として使えるので、この店で購入した餌とダブルでダンガイドリに与えるつもりである。
「で、お前さんそんな理由・・・まあ、いいけどよ。ほんと、信じらんねぇ奴だな、あんた。」
俺は理由を説明した。漁業ギルドの受付のおっさんに。何に使うのかをしつこく聞かれたので喋ってしまった。まあいいだろう。
「で、タダでくれとは言わないから、お金なら払うよ。」
「あーもう、要らねえ要らねえ。持って行ってくれ。前と同じだよ。樽だけ返してくれりゃいい。」
こうして俺は手に入れたい物を手に入れて漁業ギルドを出る。そしてどの様にしてダンガイドリの所に向かうかを考えた。
「ワープゲートを使っても良いし、船ででもいい。あー、海の上を飛んでいくのも凄く気持ちよさそうだなぁ?」
俺のこの独り言を聞いても誰も理解はできないだろう。そんな事を考えながらふらふらと散歩しながら海辺へと足を運んだ。
やはり海は良い。何が?と言う所は具体的に言えないのだが、まるで心が洗われるような、そんな感じだ。
「最近は魔法で空を飛ぶのも慣れてきてるからな。この何も無い海の上を自由自在に飛べたらもの凄く気持よさそう・・・」
俺はそんな考えに抗えなかった。ふわっと飛び上がって、そのままビューンと。それこそ姿を消すのも忘れている。
まあその時に周囲には人がおらず、目撃者がいなかったと言う事が大きかった。しかしどこか遠くで飛び立つ俺を見ていた者がいたかもしれない。でもそれすらも気にならない位に海の上を飛行するのは気持ちが良かった。
「うはあー!コレは船とはまた違った快感だ!ヒュー!気持ちいいイイィ!」
まるで子供か、とでも言いたくなるような感想で俺は何処までも飛んで行く。途中で切り返してダンガイドリの居る場所へと向かう事も忘れない。
「さてとー。ダンガイドリは今は卵産んでるのかね?前回来た時から時間がかなり経過してるからなー。卵は無いかもな?寧ろ雛が生まれていて子育て中?警戒心がより大きくなっていて俺を拒絶してくるかもなあ。」
どれくらいの周期でダンガイドリが卵を産むのかの詳細を俺は知らない。専門家に出もなろうかな?と思ってしまうくらいには卵の味が強烈なので詳しく生態調査をするのも良いかと考えてしまう。
「いやいや、そこまでは、なぁ?おっと!見えてきたな。ととと!威嚇の声を上げてるなぁ。」
どうやら俺は歓迎をされていないらしかった。でもそれも短い間だけ。一羽のダンガイドリが良く響く声で一喝したのだ。
その後は警戒をして泣いていたであろう鳥たちは一斉に鳴き止んだ。
「おぉぅ・・・どうやら「ボス」が居るみたいだな。そんでもって俺の事を覚えていてくれたか。」
その後は例の崖の部分に俺は着陸する。その後は手土産に持ってきた餌を全て出すと前回に来た時のように鳥たちが順番に餌を食べに来た。
「うーん・・・卵は、無いね。しょうがないか。もうどうやら雛が・・・早いのは生まれているみたいだしなあ。」
その雛は手の平に乗るサイズの真っ白な「毛玉」とでも言ったらいだろうか?それがヒヨヒヨと世話しなく鳴いたと思ったら親鳥から口移しで消化された餌を与えられている。
それを腹一杯に食べた雛はとたんに大人しくなるのだ。毛玉が集まって睡眠を一斉に取るその光景は非常に面白い光景である。
俺は少し卵が得られなかった事に残念な気持ちになったが、次にはマンスリに何を代わりに出そうかと考える。
「あー幻魚で良いかな?あれも貴重な代物だろうし。つり合いが取れるのかね卵とは?価値はどっちが高いんだろう?でも、足り無けりゃ他に食材一杯渡せば良いかな?」
レストランで買い取った分の食材はまだ残っていた。そうなるとつり合いと言う点で見てこれらの食材を差し出せば構わないかと考える。
これらの食材は高級所のレストランの料理で出すはずだった物である。高級品であるはずだきっと。ならば足りない分の差はつり合いが取れるまで大放出でいいだろう。
寧ろ、買取の量が多過ぎた。これらを処理する予定を立てていなかったので微妙に問題だったのだ。
「問題は預かっているこの幻魚をサンネルの許可無く引き渡せない、って事なんだけどな。一度マルマルに戻って直ぐにでも話を付けに行くか。」
俺はもうここに用は無い。珍しいだろうモノが見れて俺は一応は満足をしている。ダンガイドリの雛なんてこの世界で見た事のある者は皆無なのではないだろうか?
あの手乗り毛玉がヒヨヒヨと鳴いていた姿にほっこりした気分は貰えたので多少は満足している。
俺はこうしてワープゲートを出してこの場からマルマルへと即座に移動した。
その後は直ぐにサンネルの所に向かった。毎度の事、先触れも出さず、約束も無く、いきなり突撃しに来る俺の事をいい加減サンネルも良くは思っていないかもしれない。
そう俺は考えていたのだが。しかし出てきたサンネルは非常に上機嫌だった。先日の買い取った品が上手く捌けたのかもしれない。
「おやおや、これはこれはエンドウ様。本日はどの様な御用でしょうか?」
俺は幻魚の事をサンネルへと話す。俺が買い取りたい、と。
「むむむ?ソレはまたどうしてその様に?エンドウ様との取引であればこの幻魚の方は払い戻しでもよろしいのですが・・・」
どうにもまだ幻魚の方の処理に関しては目処を立てていないと言う所らしい。サンネルは説明してくれる。
「ワタクシも色々と考えたのですがねぇ。生の魚をアレだけ大量に仕入れる事ができました。しかも新鮮で凍っている。これほどまでに注目される事は無いんです。その注目もあって仕入れさせて頂いたモノは即座に捌く事ができましてねぇ。いや、鮮魚だけが目立った訳では無いですがね。他の品もどれもこれも直ぐに注目を集めましたよ。で、ですな。そこへ幻魚まで、となると・・・今はワタクシを監視してどの様に仕入れたのかを探りに来る者が出てきておりまして。別段、探られても痛く無い部分まで掘り返されるのも嫌なモノでして困りものなのです。」
どうやらもう市場では騒ぎになっている模様だ。確かに同じ商人たちがこぞってサンネルに対して探りを入れようとするだろう。鮮魚を仕入れる方法、これをこのマルマルで独占できれば、などと言った単純な思考で。
しかしコレは俺で無ければ無理な話なのだ。サンネルも俺に対して定期的に魚を卸して欲しいなどとは言ってこない。
解っているのだサンネルは。今回は偶々だと。以降は俺が気まぐれでしか鮮魚など持ってこない事を。
この分だと以前の時にもきっとサンネルの出した品で市場が荒れたんだろう。そしておそらくは値が高騰した。
そして今回もそれ相応に高い値が付いて売れたに違いない。サンネルが出てきた時の上機嫌の理由がそれで説明が付く。
「いや、買い取らせてもらうよ。まあそこまで高くはいかないけど。幻魚の売った値段いくらだったっけ?それに金貨十五枚付けてどうかな?」
俺は値段交渉に入る。つむじ風に配分しなければと考えていながらも、こうして勝手な事をしている事に若干の後ろめたさも感じながら。
「いえいえ。その様な金額は頂けませんよ。そうですなあ。金貨三枚、と致しましょう。解除手数料がその程度ですから。ささ、事務所へ参りましょう。」
どうやらサンネルは今回の取引を俺が買い戻しするのでは無く、契約解除として扱ってくれるらしい。
事務所につくと専用の用紙に何やらサンネルが記名をしている。どうやらその書類で決算処理をするようだ。
「では、こちらにそれを頂けますかな?・・・はい、結構です。手続きが完了致しました。」
サンネルは俺に例のキャッシュカードを出す様に言う。そして次には先程の書類を読み取り機の上に乗せ、そのまま俺のカードを読み取り機へと差し込んだ。
手続きはコレで全て終わりの様でカードは直ぐに返される。非常に便利だ。盆雑な手続きの連続では無く、こうして一発で終わらせられるのは。
「色々と迷惑かけてるみたいになっちゃってすまない。また今度珍しそうな魔獣とか狩ったら持ってくるよ。」
「はい、お待ちしております。・・・とは言え、こちらも今回の件が静まってからにお願いしたい所です。」
サンネルのこの言葉で見送られて俺は敷地を出る。と、ここで気が付いた。
「あ、あそこの壁の裏にコッチを見てた奴がいるなあ。迂闊にサンネルの所に出入りしてたけど、ほとぼりが冷めるまで来ない方が良いな。」
俺はその後、人気が無い路地裏に入ると直ぐにワープゲートでマンスリの所に向かった。そして直ぐに店内へ。
「帰って来たけど、居る?あ、居た居た。駄目だったわー。だからソレの代わりを出したいんだけど、何処に出せばいい?生魚だから一応は凍らせて鮮度を保っておくけどさ。そちらがいつお祝いをするのか分からないし、保管しておく場所に案内してくれない?」
入ってすぐの所でずっと待っていたのか、マンスリは俺を直ぐに出迎えた。
「やはりか。ついこの間に時期は過ぎておったからな。しょうがない事だ。無理をさせた。そう分かっていながら頼む事では無かった。すまない。こちらだ。ついてきてくれ。」
どうにもマンスリは落ち着きを取り戻していたようだ。俺が出て行ってから何かと思う所でもあったのだろう。
眉間に皺が寄っていたのが元に戻っている。俺を睨んでくる事もしなくなっていた。この短い時間でどう言った心境の変化だったのかは聞くべきじゃ無いんだろう。
話を掘り返したりするべきタイミングじゃない、今は。なのでマンスリの案内に只々ついて行く。
「こちらの箱に入るか?もう少し大きな箱を用意するが?」
「あー、これなら他の食材の方をこっちに出して、幻魚は別の箱の方が良いね。」
俺はインベントリからじゃんじゃんと食材を箱に詰めていく。お祝いと言っていたので大勢が来るパーティだと思っていたので箱がパンパンになるまで食材を出した。
「お主・・・何処にそれだけのモノを入れておるんじゃ・・・それにコレは高級食材じゃろうどれもこれも・・・しかも、幻魚じゃと?」
マンスリが驚いているが、関係無い。インベントリも見せてしまっているが、まあいいだろう。
一々こう言った場面でインベントリを隠す事が面倒になってきた。有象無象、不特定多数の人々に知られなければ、まあいいだろう。
俺の「知られてもいい」と思っている相手の前でならインベントリは晒していくつもりだ。そう言った相手の数はそこまで多くはならないと思っている。
口止めはそこまで重要視していないので、今回のマンスリにも別段何かを言っておくつもりは無い。
そして最後に幻魚をドカンとそのまま取り出した。そして保管用の箱がこのサイズの分を用意できるかと俺は問いかけた。
「これほど立派な幻魚か・・・確かに卵の代わりになるわい。直ぐに箱を準備させる。では、代金を支払うからこちらに来てくれ。」
どうやらマンスリはコレに納得してくれたようだ。次にはコレに「依頼をした」と言った形になっているので俺へと代金を支払うと言ってくる。しかし俺はコレを断る。
「いや、お祝いなんだよな?だったらコレは俺からの贈答品として受け取ってくれ。御目出度いんだよな?じゃあ金なんて取れないな。」
「・・・舐めとるのか?わしは依頼をしたんじゃぞ?それに金を支払わなかったと言ったら同業の者に笑われるじゃろうが。金はしっかりと払う。いくらだった?言ってみろ。」
「んー?じゃあ金貨三枚で。」
俺は解除料に掛かった金額を提示する。しかしコレにマンスリが額に青筋を立てる。
「ふざけているのか?コレの購入にいくら掛かったと聞いておる。たったの金貨三枚?いい加減な事を口にするのも大概にするんじゃな?」
「いやいや、幻魚はタダみたいなもんでさ。こっちにも色々とあった上での、金貨三枚。これ以上は押しも引きもしないよ?それにさっき言ったじゃん俺は。贈答するって。あーそうだなあ?依頼の卵を採って来れなかったからなあ?依頼は失敗って事かな?本来だったらダンガイドリの所まで行くのにも危険なのになあ?ああ、前金貰わなかったわー。行って卵の有無の様子を探りに行く、って言う点では依頼としちゃ成立してるね。その点で言うと金貨三枚は妥当なんじゃないかなあ?」
「どこまでもふざけた事をぬかしおって・・・いや、最初にきちんと取り決めをして書類を作らなかったワシの落ち度か。耄碌したもんじゃわ。」
どうやらお祝い事の一件に頭がいっぱいになっていて、そこら辺の商売人として大事な部分をすっとばしてしまっていたようだ。
俺も俺で軽い感じで了承をして直ぐに店を出て行ってしまったので、そこら辺はまあ、どうしようも無かったと言えばそうなのだが。
どうやら俺の言い分で受け入れてくれる気になったらしいマンスリは金貨三枚を懐から取り出して俺へと手渡す。
「コレでよいか?・・・お主は本当に訳が分からん。本当に、本当に、解らん。」
もう俺はここでの用事はコレで終わりだ。マンスリのその言葉を受けてから俺は店を出た。




