飲み会だ
食事休憩は取れるように時間をずらしつつ従業員には休み時間を取らせていた。しかし店の忙しさに皆食事は軽食で、しかも早食いをしていた。ゆっくり食事も楽しめないのは少々俺も考える所がある。
「さて、皆。今日の仕事はコレで終わったが、この後の予定は?良ければ俺が夕食を奢ろうと思うんだ。良く皆頑張ってくれているからな。給料だけじゃ無くてそこら辺の感謝の気持ちとして。何処か行きたい店があるなら言ってくれ。」
従業員たちは俺の事をクスイからちゃんと聞いているのだろう。俺がこの香草焼きの考案者だと。
「どれだけの高級店でも構わない。人生一度は入って見たかったと言った憧れの名店とかあるか?金額は気にしなくていいから遠慮無く言ってくれ。」
この言葉に従業員たちはてっきり喜んでくれると俺は思っていた。しかし反応が無い。ポカンとした顔に全員がなっていた。
「・・・え、何この反応の無さ?誰か無いの?ほら、この店が好きだとか言った味?あれ?」
「あのー、本当に良いんですか?俺たちは給料をしっかりと貰ってますし、その様な施しを受けたりするのは・・・」
一人がそんな言葉を絞り出してきた。コレに返す俺の答えは。
「ああ、言ったじゃないか。こうして毎日頑張ってくれている感謝の気持ちだから。給料はしっかりと払ってはいても、こうも毎日忙しいと気晴らしの一つもできないだろう?休日はあっても日々の疲れを抜くのに手一杯になっているんじゃないか?明日は休日だったよな予定では?じゃあ今日は俺の奢りでパーッとやって明日はグッスリと眠って疲れを抜いてくれ。」
この言葉に数名が「今日の当番じゃ無かった奴も呼んでやっていいですか?」と聞いてきたので俺はもちろんだ、と返す。するとこの場に居た全員が喜んだ。
「うはぁ、スゲエなウチの上司って俺たちに感謝とか言って飯奢ってくれるんか・・・」
「他の所じゃこんな事言ってくれる経営者なんて皆無だよな。」
「うん、そうだよね。凄い太っ腹。今日はバリバリに飲みたい!」
「どこの店とか決めらんねぇよな?どうしたらいいんだろ?」
「何処に行くかよりも先ずは休みだった奴らに順に声を掛けて行かねえ?まだ夕飯前だし、ギリだろ。」
「良し、皆で手分けして呼ぼうぜ。あ、でも店はどうしよ?」
俺はコレに以前つむじ風と一緒に個室で飯を食べたレストランを説明した。場所をあれこれと説明すると、どうやらその店の事を察してくれたようで皆が「やった!」と何故か声を揃えて快哉を上げるのが可笑しかった。
俺は店に行って先に話を通すためにその場を離れた。もう既に片づけは、店の閉め作業は終了している。
従業員たちは皆手分けして他の今日休みだった従業員たちへと声を掛けに行くためにバラけて解散をする。
時間を待ち合わせて俺の指定したレストランに集まるのだ。
こうして俺が先行して店に到着。店主は突然の事ながら快く引き受けてくれた。
「あ、人数がどれくらい集まるか聞いてなかったんですけど、大丈夫ですかね?」
「はい、大きい部屋をご用意できます。それと今日は充分な食材も確保してありますのでご安心を。」
俺はコレに嫌な予感がした。だって食材がタンマリとあると言うのだ。俺のこの予定に無い大人数になるであろう求めに対応できると。
普通のレストランならおそらくは数を揃えられないのでお断りを、などと言ってきそうだ、考えてみれば。
なのにここは受け入れられると言ってきた。人数がどれくらいになるか分からないと言ったのに、である。
「あの、それってもしかして小太り男が係わってませんか?」
「・・・ああ、知っておられましたか。侯爵子息様からの求めで本日はうちの店の最高級料理を出す様にとの予約が入っておりました。しかもその量も大量です。しかし急激にそれを無しにされまして。仕入れた食材が台無しにならずに済みます。ありがとうございます今日は。侯爵子息様と言う事で粗相はできなかったですし、しかしこうして予約を無かった事にされても解除料を求める事も難しかったものでして・・・」
暴挙をすると言う話はここで響いてくる訳だ。あの小太り男はこうして気分で勝手な事をし続けてきたんだろう。自分の侯爵家の権力を使って。
「すみません、もう一つだけ。その予約解除はいつ頃に?」
「はい、これは昨日の夜ですな。それが何か?」
俺は全力でこの街に魔力ソナーを広げた。そして小太り男の居場所を探る。するとどうやらここでは無い別のレストランで食事を摂っていた。
(はぁ、店の前の騒動は全くこの件に関係無いか。良かった)
この予約キャンセルが今日の朝の騒動と関連が無い事に俺はホッとした。もしそれが何かしらの要因で小太り男がキャンセルをした理由だと言うのであれば、もの凄く俺が気まずい気分になっただろうと思ってしまった。
「いえ、では今日はお願いします。」
俺は準備をお願いする。店の外に出て従業員たちが見つけやすいように俺は入り口に立っておいた。
もう辺りが暗くなり始める頃に差し掛かった。なので店の前を照らす光を俺は魔法で作り出しておく。
(魔力ソナーで街全部を調べた時に食材をかなり山盛りにしている店が三つ。これらはあの小太り・・・デブ馬鹿でいいいだろ、もう)
後で俺はその三つの店に顔を出そうと考えた。デブ馬鹿の尻拭いをするつもりじゃ無い。店を助けるためだ。
余りにも勝手が過ぎる行動を取るデブ馬鹿はこの際どうだっていい。それに迷惑を掛けられている者たちを少しでも救おうと言った安っぽい正義感からだ。
こうして俺が少々の考え事をしている間に従業員たちは集まってきた。全部で十五名。コレで全てだと言う。
「じゃあ今日はパーッといこうか。皆、楽しんでくれ。」
この店はカード支払いができると言う。サンネルに売った素材の金額からこの分を引いても全く金額の桁は減りもしない。
少しくらいは俺の取り分がこの中に入っているので、今回のこの飲み会の費用はそこから出すといった感じで良いだろう。
(後でつむじ風の皆への説明は増えるけど、まあ、許してくれるだろ)
テルモへの感謝はまた別の日に、と思って今日は俺も従業員たちと親睦を深める目的で飲み会に参加してこの日は夕食となった。
その翌日は朝からレストラン巡りだ。昨日調べた三か所の店に俺は訪ねて回るつもりでいる。
こうして各店に俺が訪れた理由を責任者に説明したら礼の言葉を述べられる。
「イヤー助かります。ウチとは別の店もどうやらやられたらしくて。余って無駄になりそうな食材を買い取って頂けるのは非常に有難いです。」
俺は各店に行って余って腐らせてしまいかねない食材を買い取っていった。ボランティア精神、などと言う気は無い。
コレは只の気まぐれだ。サンネルに素材を売却した金額が無かったらしなかった事かもしれない。本当に偶々だ。
インベントリに買い取った食材を入れる所は見せてはいない。回収する所は人払いをして見られない様に配慮はしてある。覗き見もされない様に魔力ソナーで警戒も怠ってはいない。
そして礼と言う事でその三つの店はそれぞれで次に俺が食事をしに来た時に割引をしてくれると言う。
これに俺はテルモを連れて行くか、などと打算して店を回り終えた。時間はちょうど昼である。
「さて、どうする?今日は店の方は定休日だしな。ダンガイドリの様子を見に行きたいんだけど、デブ馬鹿の動きを監視していないと何やらかすか分かったものじゃ無いな、これ。どうしよう、クッソ関わりあいたくない。」
昨日の事を考えれば香草焼きの店に居た方が良いかもしれない。なにせ破壊宣言をされている。アレが只の脅し文句だと言うのであれば、それはそれでいいのだが。
それがもし本気だったなら?壊されてしまえばそれまでだ。一応は警戒をしておかねばならない。
「レストラン巡りして救済してる場合じゃ無かったかな?・・・いや、まだ店は無事みたいだ。一安心か。」
俺は考え事をしつつ歩いて香草焼き店の前まで戻ってきた。しかし丁度その時に男が四人こちらに近づいて来るのを発見した。その中には昨日見た顔があるのを確認する。
その見た顔と言うのは、昨日あのデブ馬鹿に付いていた護衛だった。コレに俺は「本気か?」と訝しんだ。
こんな往来の多い場所、目撃者がいくらでも居る所でいきなり破壊行為はしないだろうと考えたのだが。
その手には何故か剣では無くて「ハンマー」を持っていたのだ。流石にコレは見過ごせなかった。
「おい、お前ら、そんな物を持ってウチに何の用だ?今日は定休日だ。店は開かないぞ?」
俺は先ず穏便に用件を聞こうと考えた。まだこいつらの行動、目的が「確定」した訳じゃ無い。
排除をするならそれらを知ってからでも遅くは無いのだ。でも、一応は店の壁や窓へと俺は魔力で覆って防御を忘れない様にしておいた。
「てめえは昨日の・・・はっ!何用だって?俺たちはな、カリブル様の御命令で来たんだ。てめえはお呼びじゃ無いんだよ!」
どうやらデブ馬鹿の名前はカリブルと言う名前らしい。それと俺に対して用事は無いと。
カリブルの護衛と言っても、俺が魔力を流して身体を操ってやった奴の顔はこの場に無かった。もしかしたらビビッて今回来ていないのかもしれない。とは言えそんな事よりも、こいつらをどうするかの方が今は大事だ。
「命令ねぇ?で、何をするって言うんだ?」
簡潔に俺は聞いた。この質問にこいつらはニヤリと笑って行動で示し始めた。
しかしまあ、この護衛どもは命令を一切遂行できずに引き返す事になるとは微塵も考えていないのだろう。
その手に持ったハンマーを四人が一斉に店の窓へと叩き付けた。が。
「な!?何で割れねーんだ!クソ!壁だ!」
同じ様にそれぞれがこの店を破壊しようとして壁や窓をその手に持つハンマーで思い切りぶっ叩くのだが。
「何でだ!何で壊せねえ!?どうなってやがる!」
いくら破壊を試みようともビクともしない。その事実に徐々に困惑で狼狽していく護衛たち。
しかし受けている命令を遣り遂げようと、めげずに壁をバキンガキンとフルスイングで攻撃を加え続けるのだが、やはり何も変わらない。
「このぉ!テメエが何かしてやがるのか!ふざけるな!」
余りにも喚くし、店をガシガシとハンマーでぶっ叩く異様な光景は目立つ。なのでコレに多くの通行人がこの騒動を視界に入れて「何だ何だ」と野次馬が増え続ける。
いわゆる刺激や娯楽が無い者たちにすればこの様な事は自分たちの「お楽しみ」なのだ。面白い見世物が始まったと言わんばかりに人は増え始める。
俺はコレにとっくに裏口から店の中に入っている。注目を浴びるつもりが無かったからだ。
「命令」と言った形を受けているこの護衛たちはそう簡単にこの場を引き下がれないのだろう。
当然そうなると見世物に自分たちがなっていると分かっているとは言え「店に傷一つ付けられませんでした」などと言った報告をカリブルへとする訳にもいかない、と。
「お前たち下がってろ!・・・ふううううう!はぁ!」
どうやらこの四人の中のリーダー格の奴が「奥の手」を使う決心をしたようで。その手からは赤く燃え盛る炎の玉が。
どうやらこのリーダー、魔法を使えるらしい。その威力もなかなかに凄まじそうだ。しかしまあ悲しいかな、それも通用しない。
こうしてとうとう放たれたその魔法は「ばああん!」と壁に激突した。かなりの衝撃を発生させているので「普通」の壁なら木っ端微塵、店は倒壊、火事でボーボーに火の手が上がるだろう。
消火作業も困難で、地域住民の退避、隣接する家に火が延焼、大火事に発展、「普通」なら。
これを野次馬で見ていた人たちが大惨事を想像してそこかしこにて悲鳴を上げる。しかしその爆発が治まり、煙が晴れると直ぐに静かになる。
そう、焦げ跡一つ付かずに店は無傷である。何せ俺が魔力で保護をしてあるからだ。これくらいの事は簡単にできるだけの魔力が俺にはあるので簡単なものだ。
「諦めるまで好きにさせていれば通報する人が現れるだろ。何せ街中で火事になって当然な魔法なんて使ったんだしな。頭悪いよなあ。そんな事すればこの街の住人全てに睨まれるって言うのにな。」
こうなれば当然この男たちが何をしようとしていたのかを察した野次馬が数名集団から離れていく。
取り敢えず通報しに行ったんだろう。そしてそれだけじゃ無かった。
店を壊そうとしているとハッキリと判明し、しかも大火事、それこそこの街を火の海にしかねなかった行為を目撃してしまったのだ。
野次馬の中から腕自慢だろうムッキムキの男性が六名声を上げて現れる。
「てめえら!なんて事してんだ!」
「街中で火の魔法なんてぶっぱなしやがって!」
「覚悟はできてんだろうな?ああ?この犯罪者共がぁ!」
「何も無かったから許されると思ってるのなら大間違いだぞ?」
「法を犯してまでこの店を潰そうとするたぁ、良い根性シテやがんな?あぁ?ごらぁ!」
「お前らは違法行為を行った現行犯で捕縛するが、まあ、痛い目見とけや、な?」
その男たちの方が断然体格も大きいし、強面である。コレにビビり始めた護衛たち。
しかし自分の手にハンマーと言う凶器を持っている事で気を少しだけ持ち直して言い返す。
「俺たちはカリブル様の命令でやってんだ!てめえらの出る幕は無い!すっこんでろ!」
「カリブリだかカレボレだか知らねえよ。馬鹿か?誰もくそも無い。お前らが今この場で誰の命令だろうが何だろうが犯罪を犯してんだ。ぶっ飛ばさねえ道理はねえんだよボケ。下手しなくてもお前らがこの店燃やしてりゃ他の家に火が移ってただろうが?ああ?そんな事も分からねえのかその空っぽの頭の中は?大火事になったら手前ら責任取れんのか?ああ?」
この言葉を言い終えてから六人の勇者は犯罪者たちに素手で殴りかかる。彼らはどうにも喧嘩慣れしているらしく、反撃でハンマーを振りかぶられてもそれをひょいと掴んで逆に取り上げる。
六人で囲って四人をボッコボコ。フルボッコだ。徹底的、と言えばいいだろうか?殴る蹴るだけじゃない。取り上げたハンマーで腕、脚の骨を叩き折っている。
まあ妥当な線かもしれない、この処置は。一件の家を焼き討ちしようとしたのだ。周囲の事など、燃えた先の事などを考えもしないで炎の魔法を放ったのだ。
そんな真似を二度と出来ない様にする為の方法を採るならば、相手の反撃する気力でさえバッキバキに折ってしまうのがこの場合は手っ取り早い。
決定的な心を折る手段を取る事は、この場合正解なのだろう。相手がまだやり返す気持ちが残っており、かつ身体が思うように動く状態というのは厄介だ。
自分に気が向いていないと見るやいなや、仕返しをしてやろうと言う気が大きくなって行動に移してくるだろうそうなれば。
魔法が使える者であれば集中力が必要になるはずだ。ならばその集中を妨害する何かを与えておかないと危険だ。またしても先程の様な魔法を使われては堪ったモノでは無いだろう。
「お前らがやった事は今ソレだけの罰が与えられて当然の事だったと、コレで理解したか?」
俺は今も店の中に居る。この外の様子は魔力ソナーで状況把握をしており、会話もしっかりと聴覚強化をしてあるのでちゃんと聞こえている。
「この店がもし燃えて他の家に火が移っていたら、お前らの処罰は死罪が妥当だ。今命がある事を喜んどけや。」
呻き声が続いているがどうやら事は収まったようだ。ここで聞き覚えのある声が現場に響いた。
「おいおいおいおい!お前らやり過ぎじゃねーか?まあ、いいか。こんな往来で火の魔法を打ち込んだクソ馬鹿にはお似合いか。おう、こいつらしょっ引け。尋問を徹底的にやっとけ。余罪があるだろ絶対にこいつら。おう、あとそれから、こいつらをボコにした奴の内の誰か一人でいい、状況説明をして貰いてえから付いて行ってくれ。」
その声はゴクロムだ。どうやら署長じきじきにお出ましらしい。十名の署員を引き連れて。
「おい、居るんだろ?出てこい。話を聞かせろこの野郎。この間のアレもお前の仕業だろ。ああいうのは事前に何か言っておけよ。こっちも忙しいんだぞ?」
このゴクロムの要請に俺は裏口から姿を出して手招きする。店に入ってこい、と。
「てめえはよー、全く。おーい、俺はちょっと用事ができた。話が終われば直ぐに戻るからよ、ミルストに話をしといてくれや。」
そう伝言を署員に頼んだゴクロムは裏口に寄ってくる。そして俺を前にして一言。
「おい、あいつらは侯爵の小デブの餓鬼の護衛だろ?今度のあの食い意地だけはいっちょ前に張ったクソ馬鹿は何をしでかしてやがるんだ・・・」
溜息を吐くゴクロムを店の中へと入らせると俺はお茶の用意をするのだった。
こうして状況が落ち着いた事で俺はこれまでの経緯をゴクロムに語る。するとその感想は。
「全くどこでもやらかしやがってあのデブ餓鬼・・・今回のは目を瞑れねえぞ?もしうちが追及を緩くした場合にこの店の常連客が黙っちゃいねえだろうからなぁ・・・」
ゴクロムは食い物の恨みは怖い、とでも言いたいのだろうか?確かに先日の常連客達のあの態度を思い出すと、どの様に彼らが今度動き出すかの予想は容易いかもしれない。
店が破壊された、などと言う話は直ぐに広まる事だろう。これだけの目撃者が出たのだ。当然その数だけ拡散も目を見張る速さとなるだろう。
しかし幸いにも店は無事、一応は最悪の想定を心配せずとも大丈夫だろう最低ラインは確保できている。いや、この場合は運良く、を付けた方が良いか。
店をワザとほんのちょっぴり壊させると言った方法も取れたかもしれない。奴らがハンマーで壁を叩いた時に、こちらでへこむ陥没具合をコントロールすると言った事も俺には可能だった。窓が一枚割れるくらいだったならばすぐに修理もできただろう。
ハッキリとした犯罪の証拠としてそれらを残しておけば奴らも言い逃れは出来なかったはずだ。それをさせなかったのは俺の「嫌だな」と言った気持ちの問題だった。
ちょっとでも店に傷をつけられるのを拒絶した事に因って、より大事になった事は言い訳できない。しかしそれは奴らがより一層罪を重くした結果に繋がったので結果オーライか。
店が破壊されない自信はあった。しかし相手が魔法を、しかも火のタイプの魔法を使うとは俺も思っていなかったので驚きはある。
しかしそれだけだ。魔法をぶつけてこられても店は守れている。この話が流れたとして「一応は店は無事」と言った事実があれば常連客は暴走などはしないだろうと。
「よし!デブ餓鬼が今後動き辛くなるようにこっちも動く。お前は・・・まあ、あんまり派手な動きすんなよ?」
「なあ?曲りなりにも侯爵家子息なんだろそいつは?大丈夫か?」
俺は多少の心配はする。するのだがまたしてもゴクロムは悪い顔をしてニヤッとした表情を浮かべる。
「俺が椅子からケツをさっさと上げてぇ、って普段から言ってるのは知ってるだろ?今回はやり過ぎだ。いっちょ、あの出っ張った腹に一撃ブチかましてくるさ。」
何かの比喩だと思う。言葉のままだとは思わない、無いが、それでもゴクロムならばそれをしかねない。
俺はそこに触れずに俺へと向けられた言葉に「一応は静かにしておく予定だ」と返事をして署に戻ると言ったゴクロムを見送った。
こうして俺は今日の残りの時間をどのように過ごそうかと思考する。
「テルモに声を掛けるか。飲みに連れ出しても大丈夫か?カリブルの動きはゴクロムが抑えてくれるだろうから、今日の内か?」
暫くはテルモに大人しくしている様にとクスイの家に居させている。なので飲みに連れ出すのなら今日しか空いていないか?と考える。
「うーん?食材が俺のインベントリに余ってるしなぁ?しかもマルマルで飲むんじゃなあ?あ、そうだ。別にマルマルじゃ無くても良いじゃないか。」
俺はそう思い付いてワープゲートで早速店に予約を入れに行こうと考えた。その店とはゴズとルーネの店だ。
そしてついでにここで気が付いた。何もテルモだけじゃなく、クスイもミルも連れて行けばいいのだと。
「よし、じゃあ予定を聞きに行くか。先にゴズの所に行くか。食材は・・・こっちで出すから良いとして。後は料金は現金でかな?カードでもいいのか?」
ワープゲートを出しつつ俺はこちらが準備しなければならないだろうモノを思い浮かべる。
そうしてゴズの店の入り口前に出てくると俺は早速ドアをノックする。すると。
「あらー?久しぶり、って言う程じゃないわね。どうしたの?と言ってもウチの店に予約を入れに来たって事よね?あ、そうそう!教えて貰った冷やし酒!あれからウチの店の常連には提供してるんだけどね!凄く評判良いの!とは言ってもウチの店って個人で小さくやってる店だしね。売上とかバンバン上がりまくり、って言う程でもないのよねぇ!」
元気にそう声を上げて俺を出迎えてくれたのはこの店の主人の奥さん、ルーネだ。
「今日窺ったのは夕食四名を予約したい点何ですけど、なに分急に思いつきでこうしてお邪魔してしまう様な形になってしまい、申し訳ありません。空いていますかね?」
「あらあら!大丈夫よ!今日はお客さんの予約は入ってないわ。飛び入り大歓迎!と言いたい所なんだけどねー。今日の分の食材は仕入れて無いのよー。残念だけど。」
「あ、それなら持ち込みで調理の方でお願いしても?えーっと、結構大量に仕入れちゃった食材があって、その、余ってるんですよ、凄く。で、それらをいくらでもご提供するので代金の方もその分引いてくれると助かります。」
入り口の所で話を続けていたらそこに「ぬぬっ」と巨体の男が現れた。この店の主人のゴズだ。
「おう、入り口で喋ってねーで入って貰いな。食材は新鮮か?明日一応は予約が入っていてな。どんな料理を振舞うか考えてた最中でな。お前さんの出してくれる食材如何では料金は必要ねえぞ?」
こうしてゴズに案内されて店の調理場へと向かう。そして俺は食材を出そうと思ったのだが、インベントリを見せて良いかどうかを迷う。でもこれも一瞬だけ。彼らは信用できる。
「あー、食材は冷やしておいて鮮度を保つようにしておいた方が良いかな?ついでにそれくらいはやっておくけど。」
「おう、そんな事もしてくれるのか。まあ、じゃ、やってくれ。この箱に詰めてくれればいい。」
俺は指定された、どうやら鉄の箱へと食材を入れて行く。各レストランで買取をした食材の分量の大体半分くらいを満遍なく。
「おいおい、ドンダケ出すんだよ・・・と言うか、何だそれは?と言うか何処から出してんだソレは?おい、何処にそれだけの量を隠し持って・・・あー駄目だ。もう思考が追い付かねえ・・・」
構わずに箱一杯に食材を詰め込んだ。箱の大きさはかなりのモノではあったが、淵から食材がはみ出している。
これらの出した食材が、そもそもどの様な代物であるのかの理解は俺には無い。只々見た事あるような、無いような、そんな形をしているなあ?と言った感想しか出てこない。
「凄いわねぇ。どれもこれも高級食材ばっかりじゃない?これ、本当に貰って良いのかしら?ちょっとくらいは言ってくれれば代金払うわよ?あれもこれもこれだけの量って考えると相当お金掛かるし。」
ルーネはそう言って箱の食材たちをアレコレソレと手に取ってまじまじと見つめる。ゴズもそうだ。かなり眉を顰めつつ、出された食材の鮮度を吟味している。
「コリャ相当だな。かなりしっかりとした管理をされてたもんだぞコレ。鮮度を保つだけじゃ無くて味の深みを増やすための処置も施されてる跡があるな、こっちには。」
俺はこれらを買い取っただけなのでそこら辺の事など全然考えていなかった。レストランのシェフがしておいた事なのだろう。
自らの料理を客に最大限に味わって貰うための処置、下拵えをしてあったのだ。
ソレは店にデブ馬鹿が来なかった事で無駄に変わる所だった、と。予約をキャンセルされた事に解除料を請求したいのに、できなかったんだろう店側は。
おそらくはデブ馬鹿の各地で起こしている「不祥事」を聞き及んでいたに違いない。そしてそれらがもしキャンセル料を求めた時に自分たちの店に被害を出した場合を考えて文句を付けられなかったと。
テルモの店をぶっ壊そうとしてきている事からその想像が容易に付く。
「おう、それじゃあ料理の料金は要らねえ。4名だったな?連れてくるといい。最高級の美味い飯を食わせてやる。ああ、それに合う酒もな。」
ゴズのこの言葉に俺は「宜しく」とだけ告げて店を出る。出たらすぐにワープゲートでクスイの予定を聞きに行った。
順番が逆の様な気もしたが、別段いいだろう。どちらが先でも構わない。店は予約できたのだ。予定の人数よりも少なくなっても文句は言われないだろう。その一人分の料理をこちらがオカワリできるようになったと思えば。
「で、クスイ。夕食を一緒に食いに行こうか。」
「毎度の事突然ですなあ。まあ、予定は入れてはおりませんが。」
「よし、テルモとミルも一緒に連れて行くから。俺の思い付きで忙しく働かせてばっかりでさ。今日は俺のそのお礼の気持ちだ。美味しい料理と酒で至福の時をご提供、ってな。」
「妙なところがいつもいつも強引ですなエンドウ様は。では、御馳走になりましょうか。」
この夕食の事を俺から直接テルモとミルに説明をした。すると二人の反応は。
「え?良いんですか?私も一緒に?嬉しいです!ふふふ、どんなお料理を食べさせて貰えるんですかね?楽しみです!」
ミルは驚きながらも直ぐに喜んでくれる。テルモはと言うと。
「ふええ!?いつもいつも師匠には助けて貰っているのに、いいんですか?・・・え?昨日は香草焼きの店の従業員たちで飲み会したんです?ううう、私も行きたかった・・・でも仕方が無いですよねえ。あ、それで私もって言う事でこうして?有難うございますぅうぅうう!」
飛び土下座しそうな勢いでテルモが頭を連続で上げ下げしてくるのはちょっと引いた。
こうして了承を得られた事となり、夕方になって仕事を早めに閉めたら店へと向かう事に。
「別にそのままの格好でいいさ。別段畏まった店に行こうって言うんじゃないからさ。じゃ、入って入って。」
俺が入って、と言ったのはワープゲートである。もうここ最近は自分が「仲間」だと認識する相手にはかなり緩い感じでこうして「あまり見せない方が良いモノ」を解放してしまっている。
(面倒なのよりもこうして便利な面で役に立ってる場面であれば全然かまわないよな?)
こうして三人の背を押してワープゲートをくぐらせ、最後に俺が通ってゴズの店の前である。
「よし!今日は飲もう!」
俺はこの一言と共にドアをノックした。




