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 それは俺の目からしてダイナマイトである様に見えた。手のひらに収まるくらいの筒。そこから何やら紐の様なモノが生えている。

 その紐に火を点けてそれをこちらに投擲してきた。それこそ一気に十や二十という数をだ。器用なものである。

 投げつけてくる間隔もかなり早く慣れた感じであった。

 その全てのソレが同じ軌道で飛んでくるのではなく、ぽいぽいと放物線を描いて飛んでくるもの。

 真っ直ぐに俺へとストレートで直行してくるもの。地面を滑って足元に流れてくるものなど。

 様々な軌道でそれは俺の目の前に飛んできた。と最初に接近してきたものがやっぱり爆発した。

 考えていた物と違わない、しかし威力は想像よりよっぽど小さい。けれども爆発、そしてその衝撃の威力は普通はこれだけの数を受ければ一たまりも無いものである。

 この練闘場は一気にその爆弾の衝撃で会場中の空気が震えた。


 モヒカンは持ち込んで来ていたダイナマイトを全て使い切るつもりなのかもしれない。

 その動きは袋から取り出す、火を点ける、投げる、の繰り返しでまだ一向に爆発は止まない。

 爆発のショックで驚いて叫ぶ観客もいたが、その声は爆音でかき消されている。


「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇええェェェえ!俺様をここまで虚仮にしやがった罰だぜヒャッハー!粉微塵にして犬の糞にしてやる!もうちょっと様子見をしてやろうと思ったがもういい!俺様の髪をこんなにしやがって許さん!」


 とあちらは怒り爆発しているが、俺は耳を塞いでその場に突っ立っているだけだ。

 音だけはどうにかこうにか耳を塞げばいいが、いかんせん爆発した時の光やその後の煙が充満して視界が塞がれている状況はいただけない。

 そう、俺は無傷である。バリアが完全に全てを防いでいるからだ。そんな事は煙で姿の見えない俺が見えていないモヒカンには分からないようで未だに投擲は続いている。


「テメエはこの世に影すら残せない位にミンチにしてやる!俺様の恐怖をこの会場に居る奴らに刻み込むのにうってつけだぜヒャッハーァ!オラオラオラオラァ!」


 相手が死んだであろうと思えるだけの爆発。それ以上にこの決闘を観戦しに来た奴らに「こいつを怒らせるのはマズイ」と刷り込むためのデモンストレーションも兼ねる。

 これだけの攻撃を仕掛けられる存在、キレたら手が付けられない。それをギルドにも印象付けてカードの剥奪を取りやめるようについでに脅すつもりなのかもしれない。

 この決闘は別にモヒカンの冒険者資格の剥奪を取り消すために有る訳じゃない。

 これが終わればモヒカンはカード剥奪される事になっている。だったらソレを「マズイ事」だと思わせるだけの派手さをここで演出して見せつければ考え直すかもしれない。ギルドが危ないと。

 そこまで考えての事かは分からないがモヒカンはまだまだと言った感じでダイナマイトを投げまくる。


 一時間でどれだけ用意してきたのか?と思われる爆発はようやっと終わりを告げようとしていた。


「ひへへへ、これで最後だ。あらよっと、あ、手が滑っちまったぜぇ?」


 その最後の一投はこの決闘の見届け人として名を入れていたギルド職員の元に飛んでいった。

 わざとらしくモヒカンが大声で言葉にしたからこそギルド員は素早く気付いて退避しようとしたのだが、それを見越した軌道で逃げようとした方へとダイナマイトは飛んでいく。

 でもそれは不発に終わった。


「なんだ?何で爆発しねえ!?ちっ!どうやら不発だったようだぜ。命拾いしたな。げはははは!」


 汚い笑いと共に職員に対してそう吐き捨てるモヒカン。もうすでに俺が死んだものと思っているようだ。

 それは仕方が無いだろう。あんな爆発の連続でソレが幾つも直撃コースだったのだ。

 勘違いしてもおかしくない。そう、だが俺は無傷であり、何の影響も受けていないのだけれど。


 そして最後のあの不発弾も俺の仕業である。ダイナマイトの導火線の火に水を掛けたのだ。

 別に難しくない。ちょっとだけ視界に入ったあらぬ方向に飛んでいくダイナマイトが目に入ったのでソレにちょっいと魔法で水をサッと掛けたに過ぎない。

 コレは「あ、俺以外の方に飛んでいったら危ない」と被害を懸念して行った行為である。

 しかも煙が爆風でホンの少し晴れた場所からたまたま見えただけに過ぎない偶然であった。

 追加すると、この世界の導火線が高性能でなくて良かったと思える瞬間である。

 水に濡れても火が消えない導火線なんてモノがこの世界に有ったら爆発を防げなかったはずである。


「はーもう、うるさくて敵わなかった・・・で、終わりで良いんだな?そっちの攻撃は?だったら俺の方が反撃するぞ?覚悟は良いか?俺はお前を殺すつもりだ。」


 煙が徐々に晴れて行き、俺はやっと大きく息を吸えるようになる。そして言い放つ一言。

 俺は指先に魔力を集める。それを俺が死んでいない事に驚いて固まっているモヒカンに放つ。

 指先を向けられてようやく構えを取ったモヒカンはもう遅い。

 目に見えずらいゆらゆらと揺れる無色透明な魔法は野球のチェンジアップの様な速度でモヒカンにぶつかった。


 次の瞬間にはモヒカンが無慈悲にも灰に変わる。それも一瞬で。

 俺が放った魔法は高熱。只々超圧縮をした野球ボールくらいの大きさの超高熱原体。しかも内部に青白い光が発生しているほどの。

 それがモヒカンに触れたと同時にその熱は奴に襲い掛かった。もちろん効果範囲は限定したイメージでちゃんと発動させた。それは成功してモヒカンだけを包んで魔法は発動する。熱が拡散して周囲に被害が出ない様に調整しておいたのだ。熱がモヒカンを包む、しかし、熱は外部に漏れない。そんな領域を作っておいた。

 その結果は見ての通り。モヒカンは灰へと変わった。いや、灰すらも途中で無くなった。ほぼ消滅である。

 燃え上がって火は一瞬だけモヒカンを包み込む。そう、一瞬だ。0.5秒も無かっただろう。その火が消えたその後には灰。それほどの瞬時の出来事である。

 魔法とはこんなにも恐ろしいのだ。それを抑えて発動するための練習が俺には今後必要だと言うのが分かった。

 人一人を瞬時に灰に変える魔法である。この熱が周囲にも拡散していたら大火事どころか他に死人が出てもおかしくない物であった。

 その魔法はモヒカンを消滅させた所で一緒に跡形も無く空気に溶けるように消える。

 放つ前に発動するための魔法を冷静に考え抜いてからじゃないと、本当に俺は周囲に被害を撒き散らしかねない。

 それでは歩く災害である。そんな物に俺はなりたい訳じゃ無い。このモヒカンとはそれを図る良い試金石であった。有意義な決闘である。


 そして誰もが黙っていた。会場の観客の誰一人として声を上げない。


(む?確か決闘では殺しは御法度、何てルールは無いと言ってたんだがな?)


 どうも会場中が何やら変な空気のまぜこぜになった雰囲気を醸し出している。

 どうにもソレが俺には理解できない。どうやらソレも短い時間ではあったが。

 その静寂を終わりにしたのはカジウルであった。始める時に司会者みたいな事をしていたのできっと決着の合図をしなければと言う使命感であったのだろう事が分かる、それは事務的な静かな声音であった。


「け、決着・・・勝者はエンドウ・・・」


 勝利者宣言が為されたのにも関わらずカジウル他、この会場に居る誰もがモヒカンの居た場所を見やる。

 そこには溶けて残った剣や槍などの、既に姿形を残していない武器だった物が転がっていた。

 視線はそこに手中している。さもまだモヒカンがそこに居るんじゃね?と言いたげな目をそこに向けていたのだ。人が瞬間的に燃えて消えた、それが理解できていないのだ。

 モヒカンの「死」を誰もがまだ呑み込んでいない。あれだけ派手にダイナマイトを投げまくっていた存在だったのだ。

 それが反撃、しかもこの世界では理解できないようなものでの攻撃によりモヒカンは消えた。そう解釈しているのかもしれない。


 俺は静かな会場の中を見回した。そしてマーミを見つける。そして近寄った。

 それにビクッと警戒心をあらわにして身構えて俺を迎えるマーミ。


「ねえ?俺、この後どうすればいいの?もうここから出ていいのかな?それと、手続きはこの後何かあるのか?ギルドに戻ればいい?あと、頼んでいたのはやっといてくれた?」


 気軽に声を掛ける俺に警戒心を解いて肩を下ろすマーミ。


「え、ええ。大丈夫よ。やっておいたわ。後は換金するだけね。私が一緒に行くわ。どうやらカジウルはまだアレみたいだし。」


 会場中が未だに静かである。しかしザワザワしていて少しだけ状況は動いたようだ。

 俺はマーミの言葉に従って一度ギルドへと戻るためにこの練闘場を出て行った。


 さて、幾度も忠告をしてもこちらの命を狙ってくる者に反省はあるだろうか?

 そうして何度もこちらを殺そうとしてくる者を放っておくメリットは無いだろう。

 俺はそういった基準に基づいて「殺し」をすると決めていた。気まぐれで殺さない時もあるかもしれないが。既にバルトンの件では眼鏡は殺してはいない。

 あの時は殺さずに生かしておいてゴクロムにその処分を任せた方が何かと世のために繋がるだろうとも思っていたから。要するに殺すも殺さないも俺の気分と、相手の態度と、状況、条件次第である。


 そして今回のモヒカンはダメだったと言っておく。生かしておいて得になりそうな奴じゃ無かった。

 マーミが口にしていたが「犯罪奴隷」などと言ったモノに堕とせばいくらかはマシだったかもしれないが。でもそうじゃないのだ。

 練闘場で決闘である。奴は何処までも俺への敵意を消さずに終始殺意マンマンで攻撃してきていた。

 あのまま圧倒的な魔法の数々で俺が奴の「負け」を引き出したとしても、奴はきっと自分の弱さを認めないで俺への憎しみを増していただろう。

 そのまま奴隷なんてモノに堕とされてもきっとそれは消えなかったはずだ。

 そんな禍根を残してまで奴を生かしておく理由が俺には無かった。将来奴がどうにかして自由を得た場合、俺を探し出してきて恨みつらみをぶつけて来ようとしたら周囲にもどんな被害が出るか分からない。

 そんな未来を残しておくメリットなど何処にも無いのだ。生かしておけば出る将来の被害を見越して、処理を決断する。それは俺が中心で考える。これぞ自己中心であろう。

 万が一にも、などと言う不安は早々に実現するはずが無いから忘れがちだ。しかし、それが起こった場合に後悔してもしきれないのが世の常である。

 モヒカンをあの場で生かしておいて、さあ数年後、十数年後に奴が目の前に現れて復讐だ等とお門違いにも程がある事をぬけぬけと言ってきた場合である。

「自業自得だろう」と言い返してやっても理解もしなければその意味も分かろうとしないのだきっと。そして逆上し襲い掛かってくる。

 そんな未来が思い浮かぶくらいならこの場でキッパリ因果因縁は絶つ。


 ソレだけの覚悟をあの森での生活で俺は得ていた。野生の獰猛な動物を以前一度、下手に情けを掛けて生かしたら復讐に来た事があったからだ。

 そいつは俺が与えた傷が治った後に俺が森に入って来た所で物陰に隠れて俺の事を狙い飛び掛かって来た。その猛獣は豹か虎かと言った感じのネコ科のようだったのだが。

 その時は返り討ちに合わせてもう一度情けを掛けて見逃したのに、時間が経って再び森で奇襲を掛けてきたのだ。

 与えた傷が見覚えのあるモノで見逃した猛獣だとすぐに判ったのだ。そいつは執念深く、そしてしつこく俺を狙ってきた。

 だからだ。追っ払うのは簡単だ。しかし、俺以外に下手に被害が及んだら?と思ったらこれ以上は許せる範囲を超えていた。


 俺だけならいい。しかし、そんな事をお構いなしなのだ襲ってくる相手は。だからそんな場面で被害が他に及んだ場合に俺が俺自身を許せなくなるだろう。

「もっとしっかりと俺が止めを刺していれば」と。そんな後悔を抱えて生きる事になるのは御免である。

 もっと気軽に生きる事を望んでいる俺にはそんな重たい荷物は背負いこみたくないのだ絶対に。

 ならば相手の命運をこの手で断ち切るしかない。そちらの方がよほどましだと気付いたのだ。

 しかし、それでも手当たり次第に断ち切ってばかりでは殺人鬼と謗られても仕方が無くなってしまう。

 世の中から弾かれたりはしたくない。だから基準が要るのだ。その基準に沿っていれば最悪自分自身で自分を嫌悪しなくて済むのだから。


 ギルドに戻って椅子に座り待っている俺にマーミが声を掛けてきた。

 どうやら賭けの換金が終わってこちらに戻ってきたようだ。


「・・・言われた通りにしたのだけれど、本当にヤバい事するのね貴方は。これ、どうするつもりなの?冒険者ギルドはこうした事に対して「手を貸す」だけだから損害はないからいいのだけれど。賭け屋の奴らが涙目になるわね。」


 俺の座っているテーブルには大金の入った袋が幾つも並べられていく。三つ四つ五つ。


「倍率が低ければ掛ける金額をデカくするしか勝った時儲けが出ないだろ?でも、倍率も賭ける金も高ければ?早い話、俺にとって儲け話にしかならなかった。ただそれだけの事だよね。」


 そう、俺がマーミに頼んだのは今俺が所持している金額を全額俺の勝ちに賭けておいてくれと言うお願いだった。

 事前にマーミに金を渡しておいてその全額を俺の勝ちの賭けチケットへと変えてもらっていたのだ。そしてソレを換金してきてもらっていた。

 この冒険者ギルドは手数料を取ってこういった「賭け」に人手を出して手伝いをする。

 賭けを興行する専門の商売人がこうしたイベント事に急遽対応して賭博を開く。

 そう言った業者は培ってきたノウハウが有るから即対応でここまでの事が可能なのだ。ある意味凄い事である。

 そうして俺と言う無名の冒険者でランクが低いと倍率ドン!で、モヒカンは名の売れて、しかもその悪辣さも実力もあったので倍率は低く設定されていた。

 何対何だったかは知らないが、この袋の詰まり具合、それが五つである。

 賭け屋に儲けが出なかったのではなかろうか?と言えそうである。

 骨折り損のくたびれもうけ、そんな言葉が浮かぶが、もう遅い。諸行無常である。


「はい、コレ、手数料ね。頼みを聞いてくれてちゃんとやってくれたお礼。」


 俺は白金貨を一枚マーミに差し出す。がしかしマーミは大きな溜息を吐きはしたが受け取る様子が無い。


「ねえ?たかだか私は子供の御使いをしただけよ?なのにこんなに貰えないわ?むしろ貰った後がコワイわよ。」


 どうやら自分はなんてお使いをしてしまったのかと今になって怖くなったようだ。

 しかし、貰ってもらわなくては礼にならない。なので無理矢理マーミの手を取りそのまま白金貨を握らせる。俺がマーミに頼んだ事なのだ。礼をしなければ俺が納得できない。


「今後とも何かあったらお願いするかもしれないので取っておいて。それこそ、俺は冒険者の事を何も知らないから今度手取り足取り教えてくれると助かるね。今回の礼として受け取れないと言うんなら、授業料の前払いだと思ってくれれば。」


「もうなんなの一体貴方は?分かったわ。コレは貰っておく。何か分からない事や手助けが必要な事が有ったら言ってちょうだい。力になるわ。あーもう、ホント今日は何て日なのかしらね・・・」


 どうやら納得してもらえたようだ。今度マーミには冒険者のルールやらイロハやら何やらを教えてもらうとしよう。


「で、貴方、どんな事をすれば人一人が一瞬で灰も残さずに消す事ができるの?火が上がったと思ったら、瞬時に真っ白になって、それが灰になったからだと分かったらその時には既に灰すら消えていた。・・・あんな現象、聞いた事も見たことも無いわ。貴方の力なのよね?エンドウは魔法使いって事でいいのかしら?魔法以外で、何て言わず、魔法でだってあんなマネできるなんて聞いたことも無いけど。」


 どうやらあの練闘場での静けさの答えはこのマーミの質問がその中身だったようだ。

 俺は素直にこれに応える事にした。得体の知れない人物から「魔法使い」へと変わるためだ。

 人は自分の理解できない事に怯えるものだ。しかし、自分の知っている「モノ」へとソレが変わればその自分の知り得る「枠内」に当てはめて理解したように錯覚し、納得する。

 人は納得さえしてしまえば何かとその後は静かである。いくらそれが本質を理解できていなかったとしても、だ。


「俺は魔法使いだよ。ここ最近ここに来たばかりだったけど、すぐに他の場所に行っててね。もう一度戻って来たんだ。ここを拠点に冒険者をする予定なんだけどね。」


 端的に説明をしておく。嘘でも無く、しかし真実を言っている訳でも無い。


「・・・ねえ、それなら私たちのパーティーに入って貰えたら嬉しいのだけれど。その強さ、うちで使ってくれない?貴方が入れば最上級ランクになる事も夢じゃない。」


 勧誘である。さっきの態度とは違って積極的な言葉を掛けてくるモノだ。切り替えが何とも突然である。

 しかし俺はコレを考えてしまう。この勧誘に黙った俺にマーミは少しだけ引いた。


「ゆっくりと考えてくれていいわ。別に断られても構わない。」


「あのさ、最上級になれるとか言ってるけど、それって俺一人の力のおかげで、って事になるんだろうってのは分かってる?パーティーだって言うならばその全員がその最上級に見合った力を有していなけりゃ意味が無いんじゃないのか?そんな見掛け倒しで一人におんぶにだっこなパーティーに何の価値があるんだ?」


 俺のこの言葉に冷静になったマーミが溜息を吐いた。


「はぁ~。そうよね、ちょっと貴方の力を見て欲が出たわ。そんな分不相応なランクになった所で私たちの実力が見合っていなければ虚しいだけよね。良く考えれば分かる事だった。ちょっと興奮していたみたい。」


 そう言って自分の肩に掛けているカバンに白金貨をしまってテーブルに頬杖をつくマーミ。


「いや、別に俺は入らないなんて言ってないし、良ければ俺に冒険者の何たるかを教えて欲しいね。よろしく頼むよ。俺はこれから金を稼がなくちゃいけないんでな。そこら辺の金稼ぎの効率のいい方法ってモノを伝授してくれると助かる。」


 頬杖を解除して俺を唖然と見ながらマーミは言う。


「え?いいの?本当に?・・・良し!分かったわ!貴方の力が有ればどんな討伐依頼もこなせるだろうから、バンバン依頼を解決すればいくらだって稼げちゃうわよ!私が責任をもって稼がせてあげるんだから!そうと決まればパーティー申請しなくっちゃ!来て!」


 立ち上がってギルドのカウンターへと向かうマーミが俺に背を向けた所でインベントリに金の詰まった袋を全部放り込んで片付ける。

 そうしてゆっくりと椅子から立ち上がってマーミの後ろについて行った。


 手続き申請をした後は俺はマーミと今日の所は分かれる事になった。

 俺はこれから今回の稼いだ金をクスイに渡さないといけない。

 それと師匠に連絡しないといけない。マーミの所のパーティーに加入したのでその説明だ。


「じゃあ明日のハチの刻にギルドに来て。顔合わせと簡単な依頼でも受けて連携の確認でもしましょう。」


 そう言ってギルドの出口で約束を交わしてから俺はクスイの店へと足を向けて歩き出す。

 帰り道の街の中の喧噪、その中でヒソヒソ話が聞こえて来た。


「おい、あれ見ろよ。あいつだろ?決闘の相手をこの世から文字通りに消し去ったって奴は。」


「お前声がデカいぞ。もし目をつけられたらお前も同じ目に遭うかもしれないぞ。機嫌を悪くさせるような事は言わない方がいい。」


 そもそもそんな陰口や噂を口に出していても別に俺は気にはしないし、いきなり機嫌を損ねたりしない。

 しかもその位で相手を消滅させるマネなんてしない。俺は暴虐などをする気は無いのだから。


(しかしもう俺の事がそんなに広まっているのか?早過ぎだろ)


 これにはそう言った事件をいち早く広める情報屋と言うのが有るからなのだが、それを今の俺は知らなかった。

 この情報屋は今話題のホットなニュースを記事にして売りさばくいわばゴシップ屋と言うか、新聞屋と言った類のモノではあるのだが。

 今回の決闘の件に関しても一枚噛んでいたらしく、こうして俺の事がこんなにも早くに街に広まり始めていたのだ。


 こうしてそんな自分が話題の中心になっている会話を耳に入れていたのは魔法で聴覚を強化していたからだ。

 あのモヒカンのダイナマイトの爆発で耳がイカレそうだった事がきっかけだ。

 聴覚保護のため鼓膜を守る膜ができるように、そして同時に聴覚強化を考えて微かな振動も受け止めるように、二つのイメージを同時に浮かべつつ魔力を耳の奥に集中したらしっかりとその効果が発現した。


 しかし周囲の音があまりにも聞こえすぎると音の洪水で全てが混ざってしまい何が何やら分からなくなってしまって仕方が無かった。

 それを解決したのがやはり以前にイメージしてできたもう一つの脳内の情報処理管理システム。スーパーコンピューター並みの例のアレであった。

 聞こえてくる音をそちらに流す為の回路を思い浮かべると、ドンドンと無理矢理入って来ていた音の洪水が静かないつもの状態に戻って行った。

 何処まで魔法と言うモノは偉大なのだろうか?そして偉大であればある程に怖さも増していく。

 しかしそれを包み隠して余りにも便利なので「使わない」という選択肢をまた選ぶことは無い。


 こうして自分が「人」からまたしても一歩を逸脱している事に自覚無しに歩く。

 そうしてやっとクスイの店へと戻って来ると店の中に入ってクスイを探した。


 そうすると直ぐに見つかる。カウンターに立って客の相手をしていたからだ。

 どうやら客が問い合わせをしていたようだ。


「なあ?あの魔力薬を買いたいんだが、もう無いのか?もっと数を購入したいんだ。頼む!」


「ああ、申し訳ありません。あちらの商品はまだ試作段階の物でして。実験的に売り出したに過ぎないのですよ。お客様からのご要望の声がより大きくなりましたら安定供給する計画でして。しかし、まだ一向に反応がありませんで。計画は少々難しい所なんですよ。」


 クスイの言は嘘である。彼はやる気満々であるのだ。一気に畳みかける勢いでこの魔力ポーション工場を建てるつもりである。

 従業員や腕の立つ魔法使いにも声を既に掛けてあり、準備はもうかなりの所まで進行している。

 それをまだ水面下に抑えて情報を出さない様にしている。このクスイの客に対しての答えもあらかじめ用意していたモノである。


(客の要望がもっと大きく広がりを見せてクチコミがある程度広まってから本格的に動くつもりなんだよな)


 密度の上がったそう言った声に、一息に対応して、そして爆発的に魔力ポーションを売り上げる。

 品切れをしない様に調整予測も入れて計算をしていく、とクスイには以前聞かされた。

 俺はそこら辺の事に口は出さないと言っておいた。クスイは俺などの意見を受けなくとも、きっとうまくやるだろう。

 俺は冒険者で稼いだ金をクスイに出資するだけである。

 コレは大きな世界を揺るがすプロジェクトだ。頓挫させない。金を焦げ付かせることもさせる訳にはいかない。

 金なんて言うのは俺が冒険者稼業で稼げばいいだけなのだから、そんなツマラナイものでこの商売を躓かせる訳にはいかないのだ。


 とは言え、そこら辺は師匠とも相談しなければいけないので今日中にはマーミの所のパーティーに入った事の意見を聞かなくては。


 と言った感じで客とクスイのやり取りは終わる。客はガッカリしつつも期待のこもった声をクスイにかける。


「マジで、そん時は宜しく頼むよ。予約入れておくからよ。二十本まとめ買いで確保しといてくれ。ちゃんと買いに来る!買いに来るからさ!」


 どうやら大分反響が高いようだ、改良魔力ポーションは。


 こうして客の対応が済んだクスイは俺を呼ぶ。


「エンドウ、裏で話があるんだ。おーい、ミル!店番頼むよー!」


 店の奥の棚を片付けていたらしいクスイの娘のミルが「はーい!」と大きな声で返事をする。

 それを合図に俺とクスイはカウンターの後ろのドアをくぐって居間へと出る。


「ここなら死角ですから誰かに不用意に見られる事は無いでしょう。どうでしたか、換金の方は?」


「ああ、コレでバッチリでしょ!ホラ。」


 俺は決闘で自分に賭けて勝った金をテーブルに置いた。しかしクスイはジト目で俺を睨んでくる。


「コレはどういった事です?どう考えてもこれだけの大金は今回の稼ぎでの物では無いですね?」


「いやいや、賭けに勝ったんで。これ、倍の倍の倍だよ?お金稼いできたのに睨まれるのとかあり得ないんだけど?」


「賭けとは何ですか・・・?詳しく聞かせてもらいましょう。」


 どっしりとクスイが椅子に座る。どうやら俺は尋問されてしまうようだ。

 詳しい話をしてクスイを納得させた。これには経緯と事情と説明に時間が掛かった。


「エンドウ様が賭け事狂いで身を滅ぼす様な方でなくて本当に良かったと思います。」


 硬い顔で硬い口調。クスイはそう言った後に大きく溜息を吐いた。

 そして小さく「斜め上すぎますね」とこぼして。


「じゃあコレ、全部クスイに預けるからさ。いかようにも使ってくれて構わない。よろしく頼むよ。」


「余りの過剰な大金にこちらが使い所を苦しむ所ですけどね。しかし金は金。有意義に使って廻してごらんに入れましょうかね。」


 こうして俺はクスイの所から森の家へと何時もの様にワープゲートで移動した。

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