挑戦と言う壁
「クスイ殿はいつも我々に刺激を与えてくれますな。そう言われてしまえば受けるしかないではないですか。」
「いやー、魔法薬もこうして成功を見せていますからね。後は時間の問題ですか。それを手助けしろ、そう言う事ですな。」
我々にはできなかった事をやってのけた、その事に対してこの二人の商人はクスイへと称賛と尊敬の眼差しを向ける。
そしてこの魔力薬を世界に広めると言う夢を現実のものとして受け入れた。
「有難うございます。まぁ、私だけの力ではありませんがね。むしろ、私は全てお膳立てされていた物を受け取ってそれを展開したに過ぎません。全てはエンドウ様の御力ですよ。」
クスイはそう言って来るのでその二人も俺の顔をまじまじと見てくる。コレに俺は苦笑いをするだけだ。
俺だけではこれほどまでに早くこの魔力薬をこのマルマルに広める事は不可能だった。ほぼほぼクスイの力だと言って過言では無いと俺は思っている。
こうなるとお互い様だと言う事になるのだろう。俺は美味しい魔力薬開発と言う壁へと挑戦し、そして出来上がったそれをクスイは世間へと広めると言う挑戦をしているのだ。
互いに自分の役目を果たしているに過ぎない。俺はそう思ってクスイの方を見ると、クスイもまた俺を見ていた。コレに互いに苦笑いする。
これを見て商人二人は羨ましいとこぼしていた。
「羨ましいですな。その様な頼りになる相棒をクスイ殿は得られたのですな。」
「我々にも欲しいモノです。心の底から信頼できる相方を。」
こっぱずかしい、俺はその称賛にそう思った。しかしクスイはうんうんと頷いている。
「これからお二人にはこうして協力者として手を繋いで貰うのです。エンドウ様の御力も、これからはお二人も頼る事ができますよ?」
このクスイの言葉にギラリと二人の目が光る。
「ほうほう?それはそれは、どの様なお願い事をしましょうか?楽しみですなあ?」
「むむう?さてはて、どれ程のお願いまでしていいやら?コレは・・・ワクワクしますなあ。」
これに俺はドン引きだ。クスイも見かねて釘を刺す。
「あまりにも無茶を要求するようでは信頼は得られませんよ?互いに尊敬と信念を持って相対するべきです。エンドウ様はあなた達の「道具」などでは無いのですからね?」
「分かっておりますよ。信用、信頼を得られていない商人など使い物にならない事は。」
「そうですとも。こちらもこのマルマルで商売をし続けてきていますからな。そこら辺は抜かりありませんよ。」
そう言って二人が契約書にサインをした後は即座に「さあ、動かねば」と言って部屋を出て行った。
言った通りに食事はしていかないようだった。コレにクスイが溜息を出す。
「料理長に調理は待ってくれと伝えましたが、正解でしたね。接待として食事を出そうと考えていたのに、これでは。」
クスイは苦笑い。そして俺はと言うと護衛と言う名目でここに来ていたのにその点は全く必要無かったと言える。
「食事をしてから戻りましょうか我々は。ああして直ぐに戻ったとしても、まだこちらの準備は終わってはいないのですけどねぇ。コレはせかされるかもしれませんから、戻ったら準備の続きをせねばなりませんか。」
そう言ってクスイが気合を入れ直すと食事が丁度運ばれてきた。こうしてまだ昼飯を摂っていない俺とクスイは同じテーブルにつき食事を一緒に食べた。
非常に美味しい昼食を摂り終えて俺は屋敷へと戻る。俺はここの警備責任があるので長い事戻らないと言った事は避ける。
一応は何かしら大きな問題が起こるとすれば、門からの正面突破か、もしくは仕入れの荷物内に隠れての侵入かくらいだから、俺の警備としての仕事は多くは無いのだが。
「さて、それでもまあ、アレだ。少し早めの片付けておきたい事案は、あるんだけどな。」
俺が前に魔力固めをして数日の間、動けなくさせた事がある相手。そう、冒険者の「つむじ風」を勧誘、もとい、脅して国の戦力に組み込むための派遣されたあの使者の件だ。
そのあいつらの内の誰かは知らないが、どうやら暗殺組織に俺を殺せと依頼を出していると言うのを片付けなければいけない。
まあ多分リーダーをしていた男がその依頼主だと言うのが高い確率で合っていると思う。
下っ端たちはもう最後に見た時には確か心が折れていた。しかしリーダーの男だけはまだまだ元気と言った具合だったはずだ。
それを考えるとやはり予想は合っているはず。しかし「つむじ風」に関するそこら辺の事は既に書類で提出済みだ。もうかかわらないでね、と言った内容の、それも王子様とデンガルと言う重鎮の二名の署名済みである。
「まさか通っていない、って事は無いと思うんだけど。まあ処理を忘れられているって事も、無きにしも非ず?それか、既にその件は処理されていても、個人で俺の命を狙ってるって言う線が高いか。無駄にプライド高そうだったしなぁ。それも高官?っぽかったし。金もタンマリ持っていそうだったからなあ。」
俺の命にいくらの値段を付けたのかは知らないが、あまり良い気分とは言えない。
それと、どうやってそれを止めさせるかを考えると、それも難しそうだ。
「恨み、それも逆恨みって奴は大抵根が深いからなあ。本人へどう説明も、説得もした所でそう言う奴は大抵ずっと根に持つし。きっと同じ事を繰り返してくるだろうからなぁ。」
直接でダメなら搦手で、そんな風に動き出されたらこちらが面倒だ。その後始末に追われるのは労力がかかり過ぎる。
搦手を仕掛けてきた相手の使ったその労力と、それを鎮める為の俺が使う労力とでは、比べ物にならない位に「鎮める方」が使わねばならないエネルギーは大きい。
今の内に潰しておきたい。相手の怒りが俺への直接の被害を狙うという考えの内に。俺の関係者を巻き込んでくる前に。
「また城に行かなきゃいけないかな?何だか面倒な事になったなあ。それに、今行くとなるときっと魔力薬が到着したタイミングかな?うーん?」
俺がそんな時に出向くとデンガルにまた迫られるかもしれない。魔法の話をしよう!と。年寄りをあまり興奮させると血管がプチッとイッてしまうのではないかと少し心配がある。
それに王子様もその魔力薬の関連で城中を駆けずり回って忙しい所にお邪魔するのはどうかと思う。
「俺の知り合い全員に護衛を付けておかないといけなくなるかな?もうちょっと様子見をしようと思うんだけどなあ?それもそれでなんか嫌な予感がするんだよねえ?」
あれもこれもと考えながら日向ぼっこを庭でしていると、ドンドンとそれに雁字搦めにされていってしまいどうにも動けなくなってしまった。
「明日にしようかなこの件を進めるのは。今日はなんだかもういいや、って気分だしな。」
美味しい昼食を頂いて俺は気分が大分良かった。それなのにこの様な事に思考の大半を割くのが何だか勿体ないと感じてしまったのだ。美味しかった食事の余韻に浸りたかったのだ。
俺はあんまり難しく考えるのを止める。明日になったら動き出そう。それで遅かったらそれは今日動いていたとしても手遅れ案件だったのだ、と思う事にした。
そして翌日の早朝。俺の所にクスイからの伝言を持った使いの者が現れた。その使者は大層慌てている。
「すみません!エンドウ様はいらっしゃいますか!早急にお知らせしたい事が!」
俺は食堂に居たので手を挙げてここだと言った感じでジャスチャーを取る。すると息を切らしたその使者が俺へと一枚の手紙を差し出してきた。そしてただただ読んでください、と。
それを俺は受け取って直ぐに内容に目を通した。すると。
「何々?・・・あーもー、やってくれるなぁ?こうもすぐ嫌な予感が当たるとか。それこそ切り替えが早すぎるだろ、全く。」
俺は手紙を読み終えた後に直ぐに外に出る。そして光学迷彩を使って空中へ飛ぶ。そのまま手紙に書いてあった「待ち合わせ場所」へと高速飛行をして向かった。
で、そこは街の外、森の中の一角だった。そんな分かりずらい指定場所にすぐさま現れた俺にそいつは驚いた様な表情をしてくる。
「早かったじゃないか。もっと遅く来るだろうと思っていたのだが。さて、貴様には私が受けた屈辱の何倍もの苦痛を味わってから死んで貰うからな!妙な動きはするなよ?人質の命が惜しければな?」
そいつはどこかで見た顔。それもそうだ。「つむじ風」を城へと連行するためにマルマルに来ていた使者を取り纏めていた男だったからだ。
そして人質の手を縛り、拘束している屈強な身体をしたチンピラ風の男がニマニマとしてナイフをその手にして弄んでいる。
「おいおい、こいつが来るまでの間はこの人質の女をやっていて良いって約束だったよなあ?まあいっか。こいつを殺したらカワイ子ちゃんはたっぷり時間を掛けて後で嬲ってやるぜぇ?そん時は俺が飽きたら殺してやるから、それまではヒイヒイ言って楽しませろよ?」
このゴロツキがこの社会にとって全く必要が無い存在だと言うのはこの発言で充分に分かったのでもういいだろう。
こんな人としての屑は後回しでいい。先ずはちゃんと聞いておかねばならない事がある。
「テルモ、大丈夫か?痛めつけられたり、性的暴力を振るわれたりしていないか?」
「だ、大丈夫です師匠・・・なんだか分からない内に攫われて、ここまで連れられてきましたけど。到着して直ぐ師匠が現れたので。」
「貴様・・・私を無視する気か!ここまで私をコケにした事を後悔させてやるぞ!」
先程から何やらピーチクパーチクと煩い事この上ないが、俺は無視を決め込む。考え事が先だからだ。こんなくだらない奴の相手をするよりも、こいつをどう処分すればいいかを決める方が先だ。
「さて、アンタには城に突き出してそれ相応の罰を受けて貰う方が良いのか。もしくは俺の怒りのままにここで始末をして後で王子様に事後報告で良いのか。ちょっと迷うな?こんなもの凄く人の神経を逆撫でするような方法を暗殺が失敗して直ぐに間髪入れずにしてくるとか、な?外道な方法をこんなにも堂々と採って来るその腐ってる性根は治る?治らない?・・・生かしておいてもどうせ逆恨みはしてくるんだろ?なら、ここでひっそりとお亡くなりになって木々の栄養になって貰うのが一番か?」
俺には力がある。この今の現状を何ら一歩も動かずに解決できる力が。悪を倒すための力を持ち合わせている。
今回のこの男の逆恨みは俺へと向けられたものだ。それなのに全くそれに関係の無いテルモへこうして誘拐、強姦、そして殺害をしようと企んでいた。コレはもうどう考えても悪逆非道な行いだ。許せるはずが無い。
俺へと脅しのための人質として彼女を使った後は、このチンピラ屑への報酬の一つとしてこの男はテルモを「自由にしていい」とでも言ってあるのだろう。さっきの聞くに堪えないクソ発言でそこら辺はもう判明している。
城勤めの役人であろうとも、今この時はこの男は単独で、そして自身の恨みからに因る私怨行動である。そこには公務などと言った高尚な理由は何処にも無い。只の犯罪者だ。そしてそんな相手のこうした犯罪行為へのこの世界の対処法として「殺害」も含まれる場面である。
何ら罪のない人質の命を守るため、そしてその安全最優先として考えると、この二名の犯罪者への対応はそれこそ「正当防衛」で殺傷もやむなし。
「でも、まあ、ちゃんとこいつらに「一番の嫌がらせ」になる事をしっかりと受けて貰おうかな。この場で只殺すだけじゃ自分たちが「何をしたのか」の理解はできないだろ?そこら辺を死ぬ程後悔する方法を今回は取らせて貰うぞ?覚悟は良いだろうな?」
「貴様は一体何を言っている?妙な動きをすればこの人質の命は無いと言っているんだ!その態度は何だ!私へと先ずは土下座をして謝罪するのが筋だろうが!?その余裕は一体なんだ!人質などどうなっても良いと言うつもりか!?」
理解に乏しい、もしくは自分が一番だと思い込んでいて、それがもうどうする事も出来ないとは憐れである。
男は怒りで声を荒げているが、別段全く俺はこれを怖いとは思わない。
「別に、人質はもう助けてあるから大丈夫だし?そもそも自分たちが動けなくなってるの、分かってないの?ほら、テルモ、こっちに来て良いよ。」
「えーっと?師匠?どう言う事ですか?私捕まってて・・・ってあれ?」
先程からチンピラが全く動かないと言う事に気付いたテルモがポケッとした顔に変わる。
そしてソロリソロリとゆっくりとその場から足を動かして移動するのだが、チンピラ屑はその手にナイフを持ったままに顔の向きすら動かない。
「えー、何ですか、これ?し、師匠?何したんですか・・・」
ゆっくりと俺に近づいて来るテルモはチンピラ屑から俺、俺からまた、と何度も顔を往復させる。
「見ての通りだよ。で、だ。俺はお前みたいな奴が殺したいくらいに大嫌いでね。こちらに来てからそう言った感情の制御が甘くなってるんだ。本当は命って言うのは大切なものなんだと思う。人権って言うのは大事な物なんだと思う。けどさ、お前のテルモへかけた言葉はそれらを完全にパア、にするモノだったよ。」
俺はこの時にテルモに後ろを向いておくように言った。そして耳を塞いでおくようにも。
俺はその屑の方から「絞る」事にした。身体の末端から丁寧に、である。
叫び声が煩いだろうから顔の周囲を音が響かない様に魔法で囲って。
「ああ、多分ぎゃああ、って叫んでるのかもしれないな。やめろ、とか怒鳴ってるのかもしれないな。でも、お前がテルモを襲ったとしようか?止めて、と言って、お前、やめるか?触らないで、と言ってお前、やめるか?嫌だと叫んで、それで行為を止めたりするのか?しないだろ?それに最後の最後でお前は飽きたら殺してやる、って言ってたな?お前は今までそうやって何人殺してきたんだ?演技だった、とは言わないだろ?俺の魔力ソナーでも調べたけど、別段お前は本心からあのセリフが出ていたんだから。こうして拷問を受けるのはお前が今までやってきた事の帰結だと思え。因果応報、俺が手を下してやる。しかし殺しはしない。処罰は司法に任せるつもりだから有難く思えよ?」
メキメキとあり得ない角度にまで手足が捻じれ絞られて行く。骨も、筋肉や腱なども、コレでぐちゃぐちゃになった事だろう。
胴体は手出ししないでおく。こうしてチンピラ屑が片付いた所で俺は隣りの男を睨む。
「さて、次はアンタの番だな。ふむ、アンタは偉い役職に付いているんだって?だから、何なんだ?犯罪を犯せばそんなものは関係無い。さて、言い訳はあるか?聞いておいてやらん事も、ない。」
自分が雇った男がすぐ側、隣で手足が勝手に捻じれて行く様を見て理解ができずに言葉に詰まっているのだろう。男の口はあんぐりと大きく開いている。
ドサリとチンピラ屑が地面へと倒れた音で意識を戻したのだろう。急に叫びだした。
「貴様!私を誰だと思っている!貴様の様な平民が手を出していい存在ではないのだ!私に傷一つ付けてみろ!国王陛下が黙ってはおらんぞ!?」
「程度の低い事だな。今この時になって縋るのが国王陛下、ですか。そうですか。平民だから貴族には手を出しちゃいけない?あり得ないね。貴族でも罪を犯したら罰せられるだろう?今がその時じゃないか。誘拐、それから人質を使って脅迫?ああ、殺人未遂も?そんな犯罪を犯した貴族なんて世の中には要らないんだよ。分かって無いな。多分ここに国王陛下がいたとしても、アンタがここで殺されようと黙ってるだろうね。」
「貴様あ!私を侮辱するのも大概にしろよ!・・・おい!さっきから何故出てこない!?さっさとコイツを切り刻んでやらんかぁ!」
虚しい叫びは森に吸い込まれて消えていく。この男の部下はもう俺が片づけてある。全員両手、両足をボッキボキに折って。
そう、既にここの周囲には男が雇ったならず者たちが潜んでいたのだ。いたのだが、俺がコレに気付かない訳が無い。
なので既にここに到着した瞬間に全て掃除しておいた。魔力ソナーを広げて接触した奴ら全員をその時点で全員魔力固めからの手足を捻じり折って。
「さて、もう話す事も無いらしい。アンタも同じ目に合って貰うとしよう。」
この男の手足を無理矢理に捻じる。魔力で操作されていて自力でそれに抗えない男はぎゃあ、と叫び声をあげているのだろうが、俺の耳には入ってこない。ちゃんと音を遮断してある。
その男が反抗的な態度すら出せない程にぐったりとなっただろう所で、俺はテルモの肩をポンと叩く。
「もういいよ。じゃあテルモはクスイの所に先に戻っていてくれるか?何事も無かったように今日一日の仕事を熟してくれ。店の開店には間に合うか?あ、それと下拵えは終わってるか?間に合いそうも無かったら後で俺が手伝いに行くぞ?」
「あ、大丈夫だと思います。昨日の内に下拵えは終わらせてあるんです。少しづつ余裕を残せるようにってそう言った下準備はこの頃するようになっているので。あ、でも助けていただけるなら来て欲しいです。」
俺はテルモからこう言われて「時間ができたら行く」と言ってワープゲートを出してクスイの家の庭につなげる。
そこをテルモはやはりまだ慣れていないのか、恐る恐ると言った感じで潜って行った。
「さて、こいつら全員しょっぴいて貰うとして、だ。運が良けりゃ打ち首か。悪けりゃ首を括られてそのまま放置で見せしめに使われるか、そんな所か。どっちみち死ぬかな。」
確か公開処刑を昔は「娯楽」の一つとしていた時代があった、などと言うのを思い出す。
悪者を衆目に晒して遠慮無くそいつへと日々のストレスを叩きつける、などと言った国民のガス抜きのため、などと言った事も在ったりもしたのだろう。
「まあ、いいか。さて、チンピラ共は衛兵詰所、かな?この男だけは城に直接連れて行って王様に直に断罪して貰うのが一番かね。じゃあ、ゴミ捨て、しましょうか。」
やる事、なす事、犯罪しかなく、そうやって周囲の何ら罪のない人々へと悲しみ、憎しみ、怒り、恨みなどを量産するような奴らはゴミ呼ばわりでいいだろう。
こいつらは俺の許容範囲を即座に超えてきている。ならば話は早い。叩いて潰して圧縮し、ゴミはゴミ箱へ。燃やして灰にして、せめて畑の肥やしにしてくれよう。
「連れてくの面倒臭いな。このまま放置でもいいかな?・・・いや、駄目か。人の味を覚えた肉食動物とか魔物とかが発生すると駄目だな。」
ここでやっと俺は頭に昇っていた血が下りて冷静になって後片付けの面倒さに溜息を吐いた。
その後はワープゲートを出してポイポイと手足が捻じれ折れている男たちを放り込んでいく。
「ゴクロム所長が後はいい感じに処分してくれるだろ。警察署の目の前にこれだけの山ができてりゃきっと俺の仕業だって気付いてくれる・・・よな?」
俺は二十人近い数の片づけをゴクロムへと無責任に押し付けて最後の一人の処分に取り掛かる。
「今こいつを連れて行くと魔力薬の件とダブルでばたばたになるよなあ、城の方は。どうしようかなぁ?・・・こう言うのは直ぐにやってしまうのがいいか。後々での処理でも良いけど、それまでこいつの面倒とかやってられないしな。」
一度ワープゲートを閉めてからまた再び開く。次に繋げたのは王子様の私室に、である。
城には別段他の場所にワープゲートを繋げる事もできるが、一番「問題になり難い」のはやはり王子様の私室である。
事情が分かっていてくれていて、そして俺の話をちゃんと先入観無く聞いてくれるのが王子様なのだ。
城へと正面からこいつを連れて俺が現れたとしても、警備の者がそれを見て「はいどうぞ」と中へと入れてくれるなんてありえない。そこで悶着が起きるのは100パー見えている。
「で、居てくれて助かる。早速説明したいんだけど、いい?」
俺がワープゲートを通るとソファには王子様が座ってお茶を飲んでいた。どうやら休憩中にお邪魔してしまったらしい。
「頭が痛いね・・・いきなりやって来られるとこちらも準備と言うのがね?心の準備が、さ?」
悪いと俺も多少は思うのだが、これはコレで仕方が無い。後始末はして貰わねばならない。これも偏にこんな奴に好き放題させていたツケだと思って貰わねば。
俺は床に男を転がしておく。そのままソファに座って俺は「つむじ風」の件の事から王子様へと説明を求めた。その答えは。
「ああ、その点はもう受理されている。既に彼らに対しての要請は破棄された。・・・その床に転がっているのは、その件での?」
「そうであるとも言えるし、そうで無いとも言えるな。さて、どこ等辺から話せば良いかな?いつまでもマルマルで俺たち「つむじ風」を見つけられずにほっつき歩いていたって言うのから説明しようか。時間は?」
俺は話が少し長めになってしまうので王子様に断りを入れる。
「大丈夫だ。今日の午前中は何も処理する仕事は無い予定だ。まあ言うなれば半休日だね。とは言え、昨日の内にそれだけの量の仕事を一生懸命に終わらせたのだけれど、ね。」
これに追加で王子様が「台無しだけど」とぼやく。俺はコレに「諦めてくれ」とだけ言って話し始めた。
マルマルでこの男の使者団の内の一名が子供を何の理由も無く理不尽に斬った事も、そいつを俺が「成敗」した事も。
この男たちを監督不行きで街中で「魔力固め」で晒し者にしたりした事も。
まあその晒し者にする前にこいつらが俺を襲おうとしてきたからだと言うのも説明しているのだが、王子様の顔色は余り良いモノでは無い。
朝から最悪の気分にさせてしまったが、その度量で呑み込んで貰うとする。俺はフォローを入れない。
「で、こいつは俺を脅して危害を加えるために何ら関係の無い人を俺への人質にした。そしてその人質への口止めに殺害も当然の事だと言った感じでな。んでもって、人質は女性だ。分かるだろ?」
「殺す前にお楽しみ、かい?まあ、外道の考える事は大抵はそんなものだよね。で、他のは?」
「あ、ゴクロムって知ってる?全部押し付けてきた。何も言わずに署の前に全部捨ててきた。ああ、心配無いよ。全員手足が動かない様にボキボキにしてあるから。」
俺のこの説明に王子様がドン引きしている。そしてその顔を両手で覆って「仕事が増える」と漏らした。
「そいつは私が引き取っても構わないかい?ああ、ありがとう・・・こちらも手足が無残な・・・まあ、いいか。望みの処分はあるかい?」
「うーん?どうせコイツ生かしていたって俺の事ずっと逆恨みし続けるだろ?そうなるとまた俺にちょっかい出してくるはずだからさ。もう二度と俺と関わらない様にしてくれたらそれでいいよ。・・・この分だと今までコイツ、裏で何やらかしてきていたか分かったモノじゃ無いよな?そこら辺の調査もして貰おうかな?」
この俺の求めに王子様は「当然だね」と言って調べを付ける事を約束してくれた。
ここでふと疑問が出てきた。冒険者を城の戦力として取り込む政策は国王も承認したと言う話だったはずだ。
しかし前に見た時にそれ程に国王は俺の目には愚かな人物としては映らなかった。短い時間だけだったが、それほどの考え無し、と言った印象は無かったのだが。
これの理由を聞かせて貰おうと思って王子様にその点の話を振ってみた。すると。
「派閥だね。父上はこの時、城の中の勢力の均衡を保とうと考えてこの案を承認したんだ。けれども見通しが甘かった、って言うのがあるかな?まあ確かにうちの国の情勢は脅威に囲まれてるって言うのは事実だしね。その内に派閥勢力が膨らんじゃってね。声だけ大きい奴らが喚いたせいでそれに釣られる奴らがどんどんと増えてしまって、おいそれと手が付けられなくなったんだ。政策を止めようにも反対の意見の数が少ないと言うのもあるんだけど、それこそ説得材料が無くてね。大きな転換点がずっとこれまで無くきた、と言った所だよ。でも、もう今はその数も大幅に削れたから近いうちにこの政策は凍結になると思う。いや、私がするけどね。」
どうやらもう全ては解決済みだと言う事らしい。王子様がぼそりと「まあ、全てエンドウ殿のおかげだけど」と溜息に混ぜて小声で吐き出した。
「では、処理しなければならない仕事もこうしてできた事だし、休息は中止だな。急いで調べを進めよう。」
そう口にして王子様が立ち上がって背伸びをした。俺もコレに合わせて立ち上がって「じゃあ頼んだ」と言ってワープゲートを出してマルマルに戻った。




