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売れ行き拡大?

 手紙の中身、それは魔力薬に関しての事だった。どうにも王子様はこの魔力薬に関して独自に前々から調査をしていたと言う事で。

 どうやら魔力薬を売り始めた初期の頃には王都にその噂は、情報は伝わっていたみたいだ。王子様はいち早くソレをキャッチしていたんだろう。手紙には王子様が調べ続けていた情報が並べられている。そのどれもがちゃんと「合っている」から流石だ。


「なるほどな。俺にその魔力薬の「コネ」があったらいいな、寧ろ絶対に関わってるだろ、って確信してこの手紙を出して来たんだろうな。変な所が勘が良いと言うか、読みが鋭いと言うか。」


 ゴタゴタがある時には思い浮かばなかったが、一旦落ち着いてから再び考えたんだろう。

 そして要約すると、俺へと「魔力薬、一杯こっちに融通して」と言う内容の手紙を書いて急いで出した、と。

 しかも女性騎士を派遣すると言う手間まで掛けて。


(訪ねてきたのが使者としての立場で、しかも女性であれば無下に追い返したりはしないだろうと考えたか?でも、俺の基準はそうじゃ無いんだよ)


 幾ら女性でも無礼だったり、常識を知らなかったり、こちらを下に見てくるような相手だったら俺は思考する事無く追い払っていたはずだ。

 このアリシェルが俺の事を調べたと言ったが、それ位は大目に見るし許しもする。だって彼女は恐らくは王子様からの命令だったとしても、俺の事を怪しいと感じたのだろうから。

 自らの騎士としての立場として、俺との事前調査無しの接触は避けようとしたんだろう。そして調べた結果、王子様からの命令であったとしても「邪悪」と俺を判断していたら、こうして会っていなかったはずだ。

 寧ろ俺へと攻撃を仕掛けてきた可能性も無くは無い、と思う。王子様の将来の禍根と成る、と判断したら自らの命と引き換えにでも俺を殺す、そんな風にも考えそうな面構えである。

 お茶を飲みつつもキリッとして態度を緩める事無く、まだまだ俺へと警戒をし続けているその様子に俺はそう感じとる。


「じゃあ、どうしましょうか?あ、手紙の内容を読んで貰ってもいいですか?貴女の判断も加味して手紙の返事をしようと思います。」


 俺は読み終わった手紙をアリシェルに渡す。すぐにその手紙へと目を通した彼女は直ぐに俺へと頼んでくる。


「こうしてこの屋敷へと私が入れたと言う事でハッキリしています。貴方は関係者として深い部分に関わっていると言う事ですね?であれば。どうか魔力薬を融通して頂きたい。」


「月にどれくらい、って言う話はクスイとするのが良いかな?俺がここで勝手に決めれないし?あ、そうだ。そうなるとジェールにも相談か?あー、どうすっかなー?侵入者の件の方も片付いて無いんだけどなぁ?ああ、責任者とのそこら辺の話し合いはちょっとしたゴタゴタが片付いてからでいい?少しだけ面倒な事が起こっててね。」


「では、その件に私も協力をさせてください。問題を早期に解決させるにも人が要るでしょう。お願いします。」


 話の流れ的にそうなるかな、と思っていたが、まんまとそうなってしまった。取り合えず俺としては一人の方が何かと動きやすいから遠慮したい所だが。

 どうにも断りづらい。王子様からの使者で、しかもおそらくだが、こんな仕事を任せられるだろう人物だから実力もキッチリ備わっているのだろう。

 そうなると「邪魔だから」と言って申し出を断りづらいし、そもそも彼女の面子を潰すのもどうかと考えてしまった。


「うーん?仕方が無いかぁ。では、取り合えず今日はここに泊まっていって貰った方が良いかな?ちょっと相談してきます。」


「いえ、私はこの街で適当な宿を取りますので。」


「あ、スイマセン、ちょっと心配な事と、それと後、教えて欲しい事があるので、ソレの方でこの屋敷に泊まっていって欲しいんですよね。すみませんが、お願いします。」


 俺はそうお願いしてからアリシェルに部屋でまたしても待ってもらい、ジェールの部屋を訊ねる。


「おーい、今、いいか?話があるんだ。後でジェールとクスイで相談して貰いたい案件もあって説明したいんだけど。」


「はいはい、どうぞどうぞ。時間はあります。寧ろ、呼んでいただけたなら私の方からそちらに向かいましたよ。」


 ジェールは今書類仕事が一段落終わっていたようでソファでお茶を飲んでいた。

 俺は立ったままで先程の「国からの要請」の話をする。


「ま、まさかここまで早い時期にその様な展開になるとは思ってもみませんでした!ソレは早急にクスイ殿と話し合わなければ!ああ、そうなると国へとこちらも連絡員を出さないといけないですかね?ちゃんとした魔力薬の知識を持ち合わせている者が行かないといけないですね!ああ、それとその使者殿も一緒に話し合いに参加して貰わないといけないですかね?」


 あーじゃない、こーじゃないとジェールは自分だけでひとしきり盛り上がる。


「こうしてはいられませんでした!今からクスイ殿の所に相談に行ってまいります!では!警備の方宜しくお願いします!」


 ジェールはそう言うといくつかの書類を持って直ぐに部屋を飛び出した。


「・・・ヤル気出し過ぎ問題。もうちょっと落ち着いた人物を寄越せなかったのかな、クスイ。まあ仕事が早いのは良い事か。あれが、まあ、空回りしなけりゃいいんだけどな。」


 俺はアリシェルの居る部屋へと戻る。


「随分と早く戻ってきましたね。どうだったのですか?」


 そうアリシェルの方から話しかけられる。コレに正直に答える。


「今の話を責任者にしました。すぐに話を詰める必要があると言って先程出て行きましたよ。経営者の元にね。多分この分だと二日か、あるいは三日くらいで先ずは契約案を作って提出できるんじゃないですかね?」


 ジェールの魔力薬への熱意はすさまじいものがある。多分これくらいの日数でクスイとの話合いを終わらせて書類製作も即座に終わらせてくると思えた。


「そ、それほどまでに素早く動いて頂けるのですか?・・・どうやらこの話が順調に進んでくれそうでほっとします。」


 何だろうか?この言葉にどうにもソワソワした気分になった。今、この魔力薬の事でゴタゴタが起きている。

 一つは侵入者の件。それともう一つはどこぞのデブ貴族の件。さて、この二つが解決していないのに、ジェールをこんなにも簡単に外に出歩かせて良いモノだったのだろうか?

 最低限の護衛を付けるべきでは無かったのか?順調に行っている話の裏に、こうした面倒事が隠れていたのを忘れていた。


「迂闊だった。ああ、スイマセン。ついでに一緒に来て貰えませんか?どうにもちょっと心配事ができてしまって。」


 俺の勝手な判断として、侵入者の方には相当な脅しは掛けられたと思っている。なのでそっちの方でジェールが襲われると言った形は無いと考える。

 アイツらも馬鹿じゃ無いと思う。あの一件で俺の力は感じ取ったはずだ。それをあいつらが上司へと詳しく説明して失敗をちゃんと整理できているとすれば、奴らが組織と言う形を取っていたなら「損を出す」と判断して、手を引かずとも今は最低でも様子見をしてくると思っている。

 コレは只の俺の妄想に過ぎないのかもしれないし、甘い考えかもしれない。でも勘が「当たらずも遠からず」と言っていた。


 なのでここでもう一つの心配の方がコワイ。それはあのデブ貴族が癇癪でも起こしてジェールを襲ったりしないかと言う事だ。

 俺へと仕返しをしようとは考えつかないでも、他の者に手を出そうとしてくるかもしれない。理不尽な怒りを自分よりも弱い者へと向ける。

 そしてジェールを人質に「寄越せ」と行ってくるかもしれない。この者の命が惜しくば、とか言って。

 あのデブ貴族なら言ってきそうであるから余計に面倒だ。そうなって欲しくは無い。一々ああいった存在とやり合いたくない、心底、鬱陶しいし面倒臭い。

 マトモな交渉などできるはずが無いのだ、あんな中身の人物と。それをしなければならないと言うのは無駄でしかない。

 散々心を折ったと思っていたが、後々に補強材でも入れてきて心を立ち直らせて、無理矢理に立ち上がらせた可能性も考える。


「まだ近くに居ると思うんだけど。この勘が当たらないでくれると助かるんだがなぁ?」


 俺とアリシェルは屋敷の外に出る。そして俺は魔力ソナーを結構急速に広げてジェールの反応を探った。

 屋敷の中に居る時にやってしまえばよかったのだが、別にあの時には既にジェールは屋敷を出た後であり、その場でやっても、屋敷を出た後にやってもどちらも別にそこまで変わらないかな?と楽観視していた。


「あ、くっそ。駄目だった。もう囲まれてるじゃん。でも間に合いそうだな。よし、そちらに集中して魔力を流して足止めだ。」


 かなり遠くまで魔力を魔力ソナーを通じて流すのはちょっと焦っていたので少々多めに魔力が漏れた。そう言った事もあって前に師匠から注意されていた事をちょっとだけ守れなかった。


「あおーん!」「に゛ゃー!」「ギャンギャン!」「キャインキャイン!」「ニギャー!」「ヂュウゥゥ!」


 そこかしこに居たであろう野良の小動物たちの悲鳴が上がってしまった。ついでにアリシェルの馬も嘶いて少しだけ驚きで身体を震わせる。


「どう!どうどう!・・・っと。今の魔力の波動は・・・まさか貴方が?」


 アリシェルを連れて行くのは今回の場合、何かと情報が得られないかと言う点でだ。

 ジェール襲撃を企てた者たちの中にアリシェルの知る顔が居ればそこから犯人が割れるだろうし、そもそも俺だけが問題をこうして解決するよりかは、こうして国の、王子様からの使者が同行していて正式な問題として取り上げてくれたのなら俺の手から「国の問題」へと変わってくれる。

 そうなれば手厚い保護が魔力薬製造に関して入るだろうから、と考えてのアリシェルの同行をお願いしたのだが、ちょっと早まったかもしれない。即バレた。


「貴殿は今何を・・・」


「ソレは後にしてください。それと馬を驚かせて申し訳ない。じゃあ、そこの真ん前の大通りを先ず行きますので、付いて来てください。ちょっと早めに行きます。」


 私は走り出す。しかも人の出せる速度を遥かに超えた速さを出して。

 コレに驚いて慌てて馬を走らせるアリシェル。ちゃんと俺の後ろを付いて来てくれている。

 通りにはちょっとだけ人が多めに居たのだが、俺と馬を遠目から見て通りのど真ん中からスーッと人が割れていく。


「あ、こっちの脇道に入ります。」


 俺は大きくジェスチャーを入れつつ大きな声でアリシェルへと指示を出す。

 結構な急カーブを掛けてその脇道へと入ったのだが、アリシェルの馬は相当に優秀らしい。かなりの余裕を持った状態で俺の後を付いて来ている。


 そうしてそこそこの細い脇道を行くと目の前には四人の男が見えた。一人はジェール、後の三人はどうにも見覚えが無い。

 と言う事はこいつらはジェールを狙った者たちだと言うのがすぐわかる。二人が前、一人が後ろと言った形でジェールを挟んで逃がさない様にしていた。その手には脅しだろう。剣を手にしている。


「まあ俺が既に事前に魔力固めしているから大丈夫だけど。ちょっと魔力多めに消費したな。しかもこれだけ遠くの相手に届いたって言う事実は・・・俺って何でもアリだな。」


 実を言うと「もしかして間に合わなかったかも?」とか思っていたのだが、走っている時にもしっかりと魔力は流し込んでおり、こうして被害無く済んでホッとしている。


「おう、ジェール、ちょっとだけ説明宜しく。」


 俺が声を掛けると固まっていたジェールは緊張が取れたのか深く大きな深呼吸をした。


「え、エンドウ殿・・・はぁ~。良かったぁ~。こ、この者たちに急にこちらの道へと引き込まれまして。何が何やら私には。」


 ここで声を掛けたのはアリシェルだ。


「お初にお目にかかる。私はアリシェル。今回の魔力薬の件でお世話になる者だ。して、こいつらは何と言っていましたか?」


 正式に国がこの事に首を突っ込む、と言う事だこの質問は。ジェールが工場責任者だと言うのはもうアリシェルには分かっている。なのでジェールの安全はしっかりと守られねばならないのだ。

 彼に何かあったら国の責任、とまではいかないが、王子様の面子の問題にも繋がる。魔力薬の卸しの契約をこれからしようと言う時にこの様な邪魔が入るとなれば、その邪魔をしてきている者は王子様へと敵対していると言っているのと変わらない。それこそ顔に泥を塗る以上の事をしていると言う事だ。


「え、ええと、宜しくお願いします。私は工場責任者のジェールと申します。あっと、それで、こいつらが何を言っていたかですね?・・・殺されたく無ければあの屋敷の権利書をこちらに渡せ、ですね。まあ私の所有物では無いのでコレを了承するなど端から無理なのですが。」


「じゃあコレあのデブ貴族のヤツが放った部下か。くだらないなぁ。何にも考えてねぇ。調べてねぇ。安易で短絡的がここまで極まるって、それで貴族ってどう言う事よ?」


 ジェールから聞いたコレに俺は呆れてモノが言えなくなりかける。多分、権力と言うモノにあぐらをかいて座り続けて、血の巡りが悪くなって鬱血して腐っているのだ。

 自分の言う事を聞かない者が現れたら、貴族と言う名の権力で暴力を振るって、相手に泣き寝入りさせていたに違いない。それをずっと続けていたんだろう。

 反撃をしてきた者には「国への反逆の意思アリ」だか何だかイチャモンを付けて投獄でもしてきたに違いない。

 何事にも自分の身分を振りかざして民たちを苦しめてきた貴族だと言うのがすぐに思い浮かぶ。


「おっと、こう言うのは只々怒りに任せて潰す前に、ちゃんと裏取りをしないといけないか。って言うか、俺は別に正義の味方でも何でもないんだけど。それでもこうしてそのデブ貴族がここまでしてくるんじゃ・・・根底から徹底的に潰すしかないよね?」


 俺は今、いつもは自分の奥深くに沈んでいる澱みが浮上してきているのを感じた。別段自分が正義感が人一倍あると言う訳でも無い。

 けれどもこうして理不尽に対して思う所はある。抗える力を、理不尽を真正面から単純な力で簡単に潰せるだけの力も持っているとなると、黙って泣き寝入りなど絶対にしない訳で。

 悪意に対して報いを受けさせる、なんて偉そうな事を言うつもりは無いのだが、相手の方が表に出せないような手段を取って来るなら遠慮は要らないだろう。こちらも表に出せない力で相手に対処するだけだ。


「どうするつもりなのか、聞いてもいいだろうか?先程「デブ貴族」とおっしゃられていたが、その点もしっかりとお聞かせ願いたい。私としても、コレが貴族がしでかしたのだと言うのであれば、国にしっかりと報告をせねばならないのだ。」


 アリシェルは未だに動かない三人の男に対して警戒を続けている。それは俺がその三人を動けない様にしてあることを知らないからだ。

 彼女は三人がこんな事になっているのにもかかわらず、未だに微動すらしない事を不思議に思っている様子だが、それは後で説明すればいいだろう。

 ジェールは何やらクスイから俺の事はしっかりと聞いていたらしいので、自分を襲った三人の男が全く動かないこの状況でも冷静さを取り戻していた。


「あの、では、このままクスイ殿の所に一緒に行きませんか?話し合いをするにもその方が早いかと。」


 ジェールのこの言葉で俺たちは動く事にした。全く動けない三人の男はそのまま放置して。

 こうして俺たちはクスイの家へと到着する。ジェールを襲ってきたあの三人の男を憲兵に差し出さなくて良かったのか?と道の途中でアリシェルが言ってきたが、あれは放置でいいだろうと俺は言っておいた。

 この俺の言葉にどうにも納得はしていなかったものの、アリシェルはそれよりも今後の為の話し合いの方を重視したらしく、クスイの家へと向かう足取りを止めたりはしなかった。


「えーっと、すまん。クスイ。話がちょっと予想以上に大きくなりそうだ。俺だけじゃ何も決められないから連れてきた。」


「エンドウ様は本当にいつも突然問題を持って来てしまいますな。それに・・・その問題の大抵は半分解決している様な案件もありますな。で、今回はどのような件ですかな?」


 俺は家の中に入る際にっそう言ってあいさつ代わりとしたが、その後の事はジェールに丸投げをした。

 ジェールが事情説明を最初から始める。アリシェルが魔力薬の契約の使者だと言う事も。


「ハア~。本当に、いつも、突然、この様な大きな問題を・・・まあ、エンドウ様が居るならこの件はまあ直ぐに話は付くでしょう。しかし、そうですね・・・、侯爵様の事の方が・・・不味いかもしれないですな。」


 クスイは俺の方をチラッと見て最後を締めくくる。恐らくだが俺があのデブ貴族を「潰す」だろうな、と察したに違いない。

 色々と俺がやらかしたこの街での事はクスイはちゃんと調べて知っていると思われる。大抵が事が終わった後に直ぐ俺自身でクスイにその事を話に行くのでその時には「知りたくない」と言っているが。

 後からしっかりと調査を独自にしていなければ、このタイミングで俺の事をチラ見する事は無いだろう。


「先ずは大まかな部分を決めて少しづつ契約を詰めていきたい。こうして突然の事、申し訳ありません。」


 アリシェルがそう言ってクスイへと頭を下げた。しかしクスイはソレを「構いません」とだけ。


「まあ、エンドウ様とこうして付き合って暫くしましたからね。少しは慣れましたよ。」


 このクスイの返しでアリシェルが俺を見る。不思議なモノでも見る様な視線で。

 しかし何もそこら辺に追及をして来ない。ここでジェールが。


「ではクスイ殿、早速ですが契約内容の方の検討をしていきたいのですが。」


 ジェールはソワソワしている。恐らくだが国からのこうした大きな契約を持ちかけられた事で浮足立っているみたいだ。しかし反対にクスイは凄く冷静な表情でジェールを見ている。


「なあ?緊急で多く数を欲してるのか?それとも気長に待つつもりでいるのか?どっちだろうな?」


 俺は王子様がどのくらいの期間で契約をしたいのかを疑問に思った。手紙にはそこら辺の具体的な事は書かれていなかったのだ。

 なのでコレがもし国の方で切羽詰まった問題として王子様が考えているのならすぐにでも魔力薬の方を提供したいとは思う。

 しかし今はデブ貴族のゴタゴタも混じって俺はどちらを優先するべきなのかを考えた。


「王子様に直接デブ貴族に対しての令状を発行してもらうのが良いのかな?」


 お前は国の契約を横からちょっかい出してんじゃねえ、と言った内容の令状を正式に出してデブ貴族に付きつければ多分だがこの問題は解決する。いや、解決して欲しい。

 あのデブ貴族は俺がアレだけ心を折ってやったにもかかわらず、ジェールを襲ってくるという暴挙に出ている。

 国のそういった「邪魔だから手出しするな」と言った紙切れ一枚で大人しく引き下がるだろうか?と言った疑問が出てくる。


「その貴族があの屋敷を手に入れようと動いているのか。しかも真っ当な方法では無い、と。この事は国に戻って報告をしよう。で、その貴族の特徴は分かるか?こちらでも情報を集めて動きのある者を探しておいて釘を刺しておこう。」


 駄目だった。俺は既に面倒臭く感じていた。なのでここで一先ず大体の事を一纏めで片付けられる方法を取る。


「なあ?ジェールとクスイは時間は、あるよな?それと、アリシェルさん?で、いいか?馬はクスイの所に預けておいて、ちょっと付き合ってくれ。まあ、他言は無用でお願いする。」


「まさか・・・エンドウ様?ヤル気ですか?流石にソレは・・・」


「クスイはミルに馬の方を頼みに行ってくれ。戻ってきたら出発だ。」


 クスイは俺のこの求めに諦めた顔をした。解せぬ。それはこの場では流すが、一番手っ取り早い手をここで取るのは間違ってはいないだろう。

 直ぐに書類の方を用意して一旦店の方へと姿を消すクスイ。そして戻って来た時にはミルもいた。


「私は外に居るお馬さんを預り所に連れて行っておきますね。行ってらっしゃいませ。」


 ミルは既に察したようだ。俺がトンデモ無い事をするのだろうと。クスイが何と説明したかは知らないが、ミルも呆れたような顔で俺を見ている。解せぬ。


「じゃあここでワープゲートを出すから、皆直ぐに入ってくれ。繋がっているのは王子様の私室だ。突然クスイたちが行くと混乱が増えるだろうからアリシェルさんが先に入ってくれると助かる。」


「貴殿は一体何を言っておられるのだ?私室に?どう言う事だ?何を出すというんだ?」


「エンドウ殿は規格外だとクスイ殿から窺っておりますれば。しかし流石に何をされるのかを説明されておりませんのでどうにもこうにも・・・」


 アリシェルとジェールは困惑を隠せない。しかしこういった事は「百聞は一見に如かず」だろう。体験してもらった方が早い。


「エンドウ様、自重は・・・なさる気は無いようですな。仕方がありませんな。参りましょう。」


 クスイは覚悟が決まったようだ。アリシェルとジェールの気持ちを待つ。


「ふむ、いいだろう。何をしようとしているのかはイマイチ掴めないが、入る、のだな?そんな事ならばいくらでもしよう。」


 いい度胸だ。流石は騎士と言った所か。話が早く終わらせられるというのであれば、彼女はどんな行動でもしてみせると覚悟をしている。


「わ、私も大丈夫です。商売をやっていた者なら時に大きな決断を迫られる事は幾度もあります。ならばこれも乗りこえて見せましょう!」


 何か決心の方向がズレている様に感じるが、ジェールも気持ちに整理が付いているようだ。


「じゃあ、この中に踏み込んで進んでくれ。あ、一応先に俺が顔を入れて向こうの様子を見ておくよ。入っていきなり人とぶつかるとかあるのは駄目だろ?」


 俺が何を言っているのかアリシェルとジェールは分かっていない。クスイはそこら辺、以前にワープゲートは見ているので俺が何を言いたいのかを理解していたみたいだ。苦い顔をしている。

 皆の前には黒い渦、その中へと俺は顔だけ中に入れて王子様の私室に誰も居ない事を確認して入るようにと促す。


「・・・ありえない。何だこれは?魔法・・・なのか?それにしても怪し過ぎる!コレに入って行けと?本当に?え、本当に?」


 今更怖気づいてしまったのか、アリシェルは何度か俺へと確認の言葉を投げてきた。

 ソレに俺は「そうです」「入ってください」「大丈夫です」「騙してはいません」とその都度彼女へと返答する。

 いい加減にしてくれ、と言った時にどうやら勇気を振り絞ったようだ。


「ええい!このような事で怯んでどうする!私は騎士だ!ここで怯えては使い物にならん!・・・んんん~・・・とりゃーぁああ!」


 気合の入れ具合が半端無い。その雄叫びが部屋にこだまする。その後にジェールは怯えつつもその足を止めずに「さささ」とワープゲートを通った。

 どうやらアリシェルが飛び込むまでの間に精神を落ち着かせていたようだ。無言でジェールは入って行ったので俺は「流石だなぁ」と感心した。

 ワープゲートを初めて見た者たちは一様にビビったり、ドン引きしたり、勇気を振り絞ったり、決めていたはずの覚悟が揺らいだりと、そう言った様子を俺は見てきた。

 その中でジェールが一番早かった。アリシェルがその前に時間を稼いでいたとは言え、だ。


「はぁ~。私も通らねばいかんですな。では、行かせて頂きましょう。」


 クスイも早かった。恐らくはもう既に解っているからだろう。俺がクスイに害をもたらす様な真似はしないと。


「よしよし、思ったよりもこれならかなり早く事が終わらせられそうだ。じゃあ、行くか。」


 俺もワープゲートを通る。そして俺の前に入って行った三人がポケッとしているのを視界に入れる。

 さてここからはアリシェルが先触れとして王子様へと連絡してもらう事になる。早い所に呼んでもらわないと話が進まない。


「おーい、大丈夫か?早い所王子様を呼んできてくれるか?さっさと終わらせようよ?」


 俺はアリシェルの目の前で大きく手を振って正気を促そうとした。すると彼女は「は!?ここは何処!?」とお決まりのセリフを吐き出す。


「みんな何故かコント見たいな感想を口にするのはナゼナノカ?」


 何だか毎度の事、ワープゲートを通った者たちはそう言った事を吐き出す。こういった事は世界共通?とでも言うのだろうか?

 そうして「何だかなぁ?」と俺が思っていると、やっと正常に戻った思考でアリシェルは慌てた様にこの部屋を出て行った。

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