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裏事情

 クスイの反応は先ずは溜息からだった。深く深く、心底深く、といった感じで大きく長い深呼吸を一つしてから話始める。


「エンドウ様が警備に付かれたなら大丈夫だとは思っておりましたが、いきなりこの様な問題が振りかかって来るとは思ってもみませんでした。」


 どうやら侵入者の件でもドタバタしたと言う。そして師匠に変わって俺があの工場に留まる事を知って安心も同時にしたと。


「しかしですなぁ。問題は貴族様の方ですな。特徴を聞きましたが、この街とは違う土地を治めておられる侯爵さまでしたよ。噂を聞いてこちらに直々に来られたのですな。そして、まあ、その侯爵様はそもそも常識を持ち合わせていないと言うか、何と言いますか。」


「ああ、それは俺も思ったよ。一応は心を折っておいたが、その後にまだまだしつこくあの屋敷を自分のモノにしようとちょっかいを出してくるだろうな。・・・おそらくだけど、魔力薬製造の「中身」も一緒に引き渡せとか言ってくるんだろうな。」


 魔力薬の事が無ければ遠い土地から侯爵自らこんな所まで来て「屋敷を寄越せ」などとは言ってこないはずだろう。

 事実、侯爵は門の前で喚き散らしていた。あのまま屋敷に入り込んでいたらきっと自分の身分を振りかざして居座るつもりだっただろう。

 そのまま自分の手の者を引き入れ続けて実効支配とでも言うのか?恐らくは従業員たちの事を脅して追い出すか、もしくはそのまま製造をさせつつ、出来上がった魔力薬を自分のモノとして主張するつもりだったりしたのだろう。


「ああ、屑だな。遠慮しないで良いか?とりあえず国の中枢には知り合いがいるし、直接命令を王様から出させて止めさせるっていう事もできそうだけどな。」


「エンドウ様は一体何をしてきたのです?余り聞きたくないような、聞いておかねばいけないような・・・」


 眉根を顰めるクスイ。一応はここで俺のコネで魔力薬を御城に、国に一定数卸す契約なども取って来れそうだが、まあ慌てずとも良いだろう。

 その内に王都にこの魔力薬の噂が広まって城にまで届けば、その内に使いがクスイの元へと寄越されたりするだろう。

 その前に片付けたいのが侵入者の事だ。「糸」は繋がっているのだが、まだまだ伸びていてストップしない。このまま行くとこの街の一番外側まで行くだろう。


(そうなるとそこにあいつら二名に命令を出した奴が潜伏してるって事だよな?)


「なあクスイ。侵入者の方は今泳がせてあってさ。この後もう暫くしたらそいつらの上司を捕まえられそうなんだ。先にそっちの片づけをしても良いか?」


「エンドウ様は計り知れませんなぁ・・・ええ、大丈夫でしょう。今日の所は・・・侯爵様の方もこれ以上は動く事は無いかと。」


 侯爵が目覚めた後にしそうな行動というと、俺へとやり返すために兵を集める事だろうか?もしくは屋敷の所有者であるクスイの所に直接何かしらアクションがあると思われる。

 しっかりと元に戻せない位にぽっきりと折れた心のままにいてくれたのあれば、こちらとしては楽なのだが。

 武力に物を言わせようとする方向で来てくれるならこちらとしても簡単なのでまだマシなのだが。

 逆に搦め手でクスイの方へと狙いを変えられると心底面倒臭い。その面倒臭さに俺がうんざりして力づくで片付けてしまいそうになるかもしれない。

 そしたらソレはそれでまた面倒だ。単純な人物であって欲しいモノだ。そうで無いとクスイの心労が増える。働き過ぎない様にクスイには前に言ってあったが、それをクスイが守っているかは伺い知れない。

 クスイと俺とでその「働き過ぎ」と言うハードルの捉え方が違うかもしれないという点もある。

 ここでクスイに過労で倒れられるのが一番響く。なので今、クスイに異常が出て無いか、魔力を彼の身体に流して診察を密かにしている。


「あ、それとクスイ、製造法や、製造権などはまだまだ売る気は無いのか?」


「そうですなぁ。まだ時期尚早と思っています。まだまだこの魔力薬を必要不可欠、とまで広めて行ってからそういった所を考えて行こうかと。まあ理由はソレだけではありませんが。」


「それじゃ遅すぎないか?他に魔力薬を手に入れた商人が詳しく解明しちゃうんじゃないか?ソレで大量生産に成功したら駄目じゃ無いか?」


「それはそれで結構なのですよ。その研究開発に見合うだけの儲けが回収できると思えば。そこは商人としての判断、決断を求められる所です。それを私は邪魔をしようと思いません。寧ろ、その行動に出る商人は一目置きますね。それを成功させたならなおさら。寧ろその方と商談をしたいとも思えるでしょう。」


「へぇ~、そう言う事か。となると、もうソロソロ、クスイに「お願い」をしに来る商人ってのも近々来そうだな。」


 先見の明、早い者勝ち、そういった部分がある。クスイはそういった申し出をしてきた者たちを門前払いするとは言っていないのだ。クスイの方から「販売しますよ」といった宣伝をしないと言っただけで。

 それと多分だが魔力薬販売において提携できる店を探しても居るのだろう。そういった契約などの点も考えているはずだ。

 恐らくはまだ商人たちはクスイを見極めるために「待ち」「情報収集」をしている。だがそんな中で思い切ってクスイとの「話合い」を願い申し出る者も出てくるだろう。

 それがジェールだったのではないだろうか?彼は確信を持って魔力薬が世界を変えると考えた。そしてその「革命」事業に自分も携わりたいと純粋に願ってクスイの所に話を持ってきたに違いない。あの様子であれば。

 となると、この魔力薬が商売として儲けの出る商品だといち早く見抜いた商人が殺到してきていてもおかしく無いのだが。それだけの時間が既に立っていると俺は思ったのだが。


「なあ?他の商人の動きはどうなんだ?魔力薬の味の改良は大発明と自画自賛できるんだけど、それに食いついて来る商人は今まで多くは居なかったのか?」


 コレにクスイが苦い顔になって説明をする。


「・・・ギルドですよ。商人ギルドです。そちらの方で「汚い」奴らが居りまして。その者たちが販売初期の頃にやらかしましたからね。」


 どうにも話を聞いていると「馬鹿な奴らだ」と思える事をしていた。


 商人ギルドのその「汚い」奴らは最初にクスイに魔力薬の原料を卸すのをストップさせようとしたらしい。

 原料が得られ無ければ生産はできない。コレにクスイが泣きついて来ると思っていたようだ。そして泣きついてきたクスイに製造法を差し出させてソレを「汚い」奴らだけで独占し、自分たちだけ儲けようとしたようだ。


 だが、クスイは既にソレを見越していたらしく、充分な資金で商人ギルドを頼らずに独自の原料入手ルートを確立。これに「汚い」奴らはギルドで騒ぎ立て、口を滑らせてしまったらしい。その企みを。間抜けだ。

 ソレでどうやらそのギルドに加盟している、その企みになど参加していない真っ当な商人も動きを制限されてしまっているそうだ。


 ついでにあの開墾した土地で原料の生産も始めており、そこで働く人々も仕事を失った者たちやあぶれ者、その他に様々な理由で真っ当に生きて行けていなかった者たちを雇って働かせているそうで。

 それらの者たちにはクスイは相当に感謝されているらしい。今の所、順調過ぎて怖い位になっているそう。


「とまあ、この様な状況でして。ジェールはそんな中で思い切ってギルドを脱退、除名をされてまで私の所に来たのですよ。」


 ギルドではそこに名を連ねていれば様々なサービス、相互補助が受けられるのだそう。それを脱する勇気はかなり要るらしい。抜けるのにそれほどに勇気が要るだけに、相当に受けていたメリットは大きいモノなのだろう。

 ちなみにクスイは加盟していないそうで。しかし取引などはしているという立場らしい。


「地道にやってきましたからな。時にそのギルドの「汚い」奴らに邪魔をされたりもした事がありましたが。それでもこうして地道に力をつけて参りました。今更ギルドに入るつもりもありませんからね。」


 どうやら相当の場数、修羅場を乗り越えてクスイは店を出したと。叩き上げもここまで来るともの凄いと思える。ギルドのその「汚い」奴らの妨害も当時は相当だったはずだ。

 それでもこうして一人の力で店を持って、そしてその店を守って商売を続けて信用、信頼を勝ち取ってきているのだから器が違う。

 クスイはもしかしたら大商人、世界をまたにかける程に器がデカい人物なのかもしれない。


 と言った理由で今は製造法の販売は様子見だと言う事を納得した俺はここで話を切り上げた。


「じゃ、俺はちょっと行ってくる。どうやら今、泳がせていた二人が怪しい奴と接触をしたみたいだ。」


 こうしてクスイの家を出て少々急ぎでその現場へと急行する事にした。糸を辿って速足だ。どうにもあいつらは後ろから付けられているのを警戒してあっちこっち回り道をして逃げていたらしい。


「もしかして、その途中で何かしら合図なんかで連絡しあっていたとかいったら、俺にはさっぱりだな今更。」


 奴ら二人が辿ったルートを俺も行く。魔力の糸を巻き取るように。途中で二手に分かれたらしいのだが、それは別の場所で合流しており、結局はとある一角にあるボロ小屋の中に続いていた。

 二手の内片方のだけでなく、一応は二つちゃんと追跡をしっかりとやってからそのボロ小屋へと到着した。


「後で何かしらがあった場合にヒントになり得るモノがあったかの知れないから一応は見て回ったけど。只々逃げていただけって感じだな。他の組織員とやり取りしていたって感じは見受けられなかった。」


 そう感じただけで見落としがあったかもしれない。でも今は目の前のボロ小屋だ。


「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんか?」


 中に三人、人が居るのはもう既に分かっている。そしてその内の二人は脱走した侵入者。俺の興味は残りの一人の方である。


「・・・まあ、別に逃げられはしないけどね。」


 反応が無い。しかし確実に居る事は判っている。そして俺はこのボロ小屋を囲うように魔力の壁で覆っている。

 中に居る逃げてきた二人は俺の声を知っているから直ぐに理解しただろう。泳がされていた事を。


「返事は無いけど居るのは分かってるからお邪魔するよ。居るんだったら返事をして欲しかったね。」


 ボロ小屋へと入れば既に剣を抜き放っている男が一人、泰然とした態度で立っていた。残り二人はナイフを手にしてこちらへと向けている。しかしその顔は暗い。

 二人は自分たちが手も足も出ない事を分かっている。既に昨夜にソレを体験したばかりだ。なので諦めモードに入っているようで。

 だけども堂々とした態度の男はこちらへと質問をしてきた。


「お前さんは何者なんだ?こいつらが仕事を失敗したのも驚いたんだがよ?捕まって逃げ出して、そしてここまで追跡されて、って。どうにも信じらんねぇんだわ。説明してくれっと嬉しいんだがな?同じ轍を踏まねえようにさ。」


「ああ、なるほど。でも残念だな。教える義理は無いんだよ。まあそうだな。ここで誰が雇い主なのかを教えて貰えれば、教えなくもないかな。」


 俺はそう言って男の要求を蹴る。

 交渉するなら同等を要求するのが筋だろう。より有効なカードを持つ方が、これに追加してより有益な情報を得る事ができる。それが交渉というモノだと思う。

 先ずはお互いにちゃんと同等と呼べるものを出し合って並べてからだろう話をするなら。


「いや、すまねえな。知っているんだがよ、それは喋っちゃなんねーんだ。だから痛い目見たく無けりゃ喋ってくれると助かる。」


「でも、それができない事をこの二人からもう察しているんじゃないのか?諦めるのならそっちの方だと思うが?」


 俺はここでお喋りに興じる。こいつらを逃がさない自信がある。けれども別にここで逃げられても良いとも考えている。

 逃げ出したらこの堂々としている男にまた「糸」を付けてアジトとやらを探るだけだ。


「ああ、そうなんだよ。コイツらからアンタの事を聞いていてな。失敗したのはお前さんのせいだと言うじゃないか。だから俺としてはここでアンタを仕留めておきたいと思っていてな。」


「んん?簡単に追跡された事を知りたいって言ってなかった?矛盾しない?ああ、別に矛盾しないか。交渉が上手く行ってさあ聞いた後はお前の命を貰う、って言う展開な。どっちにしろ俺を見逃したりする気は無かったって事か。俺は別に今あんたらを見逃しても良いかな?って考えていた所だったのに。素直に君たちが依頼主の事を話せば、俺もそれ以上は君らに手を出そうとは思わなかったんだが。」


 コレに諦め顔をしていた二人の男の方から注意が掛けられる。


「あいつは妙な魔法を使うみたいなんです!捕まれば情報を抜かれちまいます!逃げてください!」


 どうやら覚悟は決まっていたらしい。そしてこの剣を持って俺と対峙している男は「情報」を持っているらしかった。


「じゃあ遠慮無く逃げさせてもらうぜ。あばよ。」


 懐からサッと何やら小さな白い球を取り出した男がソレを床に叩きつける。けど、何も起きない。


「クッソ!こんな時に不発か!?ちっ!もったいねえ!二個目だ!・・・って!何で二発とも!」


 既に俺の魔力でこの小屋の中は満ちている。何やら道具を床に叩きつけ割る事で効果を発揮する物であったらしいが、それを俺が勘単にやらせるはずが無い。

 地面にぶつかる前に俺の魔力でソレをキャッチしただけだ。そしてこう言う場面でドラマや映画で使われる物と言えば展開的に見ても。


「煙幕か。もしくは刺激物を発して足止めする?相手の視界や嗅覚、聴覚などに影響を与えている隙に逃げる、と。ああ、フラッシュボムとかも考えるとヤバいな。」


 その男はまだ諦めていないらしく、どうやら三つ、四つと叩きつけて、その全てが不発で終わってようやっと俺の仕業だと理解し始めたようだ。


「アンタがやったのかコレは?ちっ!じゃあ直接やるしかねえか。お前ら援護しろ!こいつの目を引き付けとけ!」


 だが男の背後に居る二人は動かない。いや、動けない。当然俺が拘束を魔力でしているからなのだが。


「ちっ!こいつら使えねえ!・・・なら!喰らいやがれ!」


 またしても懐から何かを取り出したそいつはソレを俺の目の前に「ポイ」と投げる。それには火が付いていた。短い導火線だった。


(火薬がある?・・・そっか、でも大きく普及などはしていない?良く分からないな?)


 ソレを咄嗟に囲う。ナニで?それは結界で。魔力の壁でその丸をした形の小さな玉を。


(導火線が短すぎてなぁ。しかもちょっと驚いたから火が消せなかった。ちょっとだけ構造を調べてみたかったけど)


 ボム、と小さい音がする。その玉を囲った結界の中で。サイコロ状の結界で玉を隙間無く抑え込んでいたのでその爆発はそんな可愛らしい音だけでその役目を終えてしまう。

 癇癪玉か。あるいはもっと大きな爆発をする物だったのだろうか。今となっては分からない。どうやら男の持っている数がコレ一発だったから。


「あり得るはずねえだろ!どれだけ赤字だと思ってやがる!クッソ!コイツまで防がれるだって・・・話がちげーぞ!」


 やっと俺の事をしっかりと分かってくれたらしい。俺はここでもう一度だけ依頼主が誰なのか聞いておいた。もしかしたら気が変わって教えてくれるかもしれない。


「なあ?最初も言ったけど。依頼主が誰なのか教えてくれたら、あんたらにこれ以上は何もせずに解放して良いと俺は思ってる。まあ、あんたらがこれから先、ウチにちょっかい出さないと誓えるなら、だけど。ああ、でも、依頼主との力関係とかがあってソレは無理、とか言うのであれば俺も他に考えがある。」


 ここでやっと男の態度が変わる。そして顔色も変わる。青くなっている。どうやら頭の血の気が引いたらしい。


「こ、殺さないでくれ!た、頼む!この通りだ!お、お、俺には妻と子供が!」


「・・・陳腐な事を言うなぁ。それは俺の教えてくれ、って言った質問の答えになっていないんだけど?ちゃんと答える気が有るか、無いかだけ口に出しな。そうじゃ無ければ問答無用で意識を飛ばすから。」


 俺はその男に一歩近づく。すると男がこちらに剣を投げてきた。それは見事な回転で攻撃範囲が広くなっていて、それが俺に迫ってきた。


「どうだ!直撃だ!・・・おい、何で当たったはずなのに無傷なんだよ・・・」


 さて、別にこの疑問に丁寧な説明をしなくとも構わないだろう。何せ俺の求める答えが「剣の投擲」として返ってきたのだから。


「さて、最後まであがくのは立派だな。だけど、あんたは力の差すら見極められないクソ上司と言った所らしいぞ?ほら、後ろの二人を見て見ろよ。あちゃー、って顔してるだろ?」


 男は咄嗟に振り向いた。そして自分の部下であろう二名が先程この男が言った言葉を表情で表していた。「使えない奴」と。


「さて、息が吸えるかい?お前の顔回りの空気を全て「抜いた」ぞ?・・・あ、一呼吸で落ちた。」


 気絶させるために空気を吸えなくさせてやろうと思ったのだが、多分驚愕をして息をするのすら忘れていた所にそれだったので、一呼吸をしても酸素を肺に入れられなかった事で、その男は呼吸困難でいきなり失神した。


「うわぁ・・・もしかしてここで俺がちょっとでも手違いを起こしてたらコイツの事殺しちゃってなかったか今?結果オーライで良いか。」


 一応この男をロープで縛りあげる。そして小屋へと広げていた魔力を全部引っ込めた。そして。


「ああ、お前さんたち二人はもう消えていいよ。情報を持っていなかったってもう既に判ってるからな。情報はこいつから新たに引っ張るから。じゃ、お疲れさん。」


 俺のこの対応は甘いのだろう。俺はもうこの世界においてこの手で、意思で、人を殺めている。ここでこの二人を殺さないで今更見逃すと言うのはどうにも気まぐれに過ぎる。

 こいつらはもしかしたらこの後に他に「仕事」を受けて人殺しをする可能性がある。裏の仕事とやらを続けるだろう。

 そうするとここでソレを阻止できなかったのは見逃した俺の責任になるのでは無いのか?と。でもこいつらがそんな仕事を受けなかったとしても、どうせ別の誰かがソレをするのだろう。

 だったらここでこの二人を殺しても、殺さなくとも同じ結果になるだけだ。俺がそこまでしなきゃならない責任は無い。

 じゃあこいつらの組織を潰せばいだろう、などと言われてもソレは只の無駄だ。俺は今回、魔力薬製造工場として動いているあの屋敷を守るのが仕事なのだ。

 組織を潰したとしても、その依頼主が別の似たり寄ったりな組織に依頼するだけになる事だろう。鼬ごっこみたいに回りくどいやり方をするのは面倒なだけだ。

 そう言った組織を虱潰しにする、などと言った手間は今回の件では最終手段だ。


(頭を潰せばソレで終わりなんだから、その頭である依頼主を押さえる方が一発で解決だろ)


 今回の件を早い所に解決してクスイの心配を消しておきたい。コレが屋敷へと来たあのデブ御貴族様がやったのだと分かればソレで事は一つに纏まるので楽にはなるだろうけれども、そうはならない気がしている。


「どうにもこの二つは繋がって無さそうなんだよなぁ。別々で対処しなきゃいけないと言っても、こっちはコレで依頼主が誰だか分かるかもしれないから解決しそうだけどさ。」


 俺はブツブツとそう言いながら簀巻きにした男を担いで道を行く。


「さて、クスイの所に行くか、あるいは工場に戻るか。そうだな。戻るか。」


 俺は屋敷の方へと向かう事にする。あんまり警備担当者が長い時間居なくなってしまうのはマズいだろう。

 そうやって屋敷の門まで到着すると何故だかそこには一人の鎧姿があった。しかも大分立派、と言うか馬鹿デカすぎる、な馬に乗っている。しかも額に角の様なとんがりが生えている馬だった。


「おおう・・・馬だな。しかも大分立派なヤーツ。・・・一角馬?あれ?どう言う事?・・・どこぞのお偉い騎士様だろうかね。」


 俺は緊張感の無い声でそう感心しながら門番へと近寄る。そして事情説明をして貰う事にする。


「えーっと、あのですね?この方がエンドウ殿にお話があると言って。私たちも何分許可の無い方は敷地内に入らせる事はできないと伝えまして。あ、ちゃんと出かけていて不在だとも説明をしたのですが・・・」


 どうやらここで待たせてしまっていたようだ。どうにも厳つい鎧に兜も相まって、門番にはずっと重圧であったようだ。

 俺が来た途端に凄くホッとして肩を大きく下げた門番。するとその時に騎士だろう鎧の人物が自己紹介を始めた。しかも馬から降りて。


「お初にお目にかかる。私はレクトル様からの命により、貴殿への使者として参った者である。名をアリシェルと言う。以後お見知りおきを。」


 そう言って兜を取った。まあ喋り始めた時に驚かされたが、女性騎士だった。と言うか、何故?と俺は話の中身よりもそっちが気になった。

 俺が城から消えてから即座に派遣しないと、このタイミングでここに彼女は現れる事ができないといった計算が俺の頭の中にできる。

 だからこれらがどう言った意図によるものであるのかが分からない。話を聞かねばこれらは先に進まないだろうと思って俺はこのアリシェルを屋敷の敷地内へと入る許可を出す。


「じゃあ、馬の世話は誰に頼めば・・・」


「ああ、この子は賢い。なのでこの広い庭に遊ばせておいてくれるだけでいい。もしくはこの門の側で休ませてやっておいてくれ。」


 何かあれば門番がこの馬の事は何とかしておいてくれるだろう。俺もそう思って目配せを門番にしておく。一応は頷かれたので、その後は屋敷へとアリシェルを案内する。


「一応は客間で話を聞くのでこちらに。どうぞ、お疲れでしょうからゆっくりとしていってください。」


 俺は捕縛して簀巻きにしてある男を担ぎつつも客間までの案内をし終える。そして少々待っていてくれと言って俺は先に男の方の処理をする事に。

 アリシェルには休憩時間の職員を捕まえてお茶と菓子を出しておいて欲しいとお願いして小部屋へと入る。

 そこは物置部屋だ。狭いが二人くらいは入っても別に大丈夫位には空間確保はできる。


「じゃあ頭の中を読めるかな?・・・気絶してる時は駄目みたいだな。半覚醒状態にするのが良いのか?そこら辺は分からんな。効率の良い方法とかありそうだけど。まあ、今は良いか。おい、起きろ。起きろって言ってんだよ。」


 俺は男の襟首を持って揺さぶる。それはもう盛大に。ガックンガックンに。


「・・・ぶっ!ぶっつはっぁ!って!くっそ!何しやがんだテメ・・・あ。」


 どうやら自分が囚われた事を直ぐに思い出してくれたらしい。


「ああ、正直に話してくれるとありがたい。客人が来ていて早い所そっちに行きたいんだよ。」


 簀巻きにされたままの男は自分の今の状態をしっかりと理解してから俺の事を睨んできた。


「はっ!甘ちゃんだな。殺さなかったのか俺を?喋る訳ねえだろ?知ってても、知らなくても、この業界じゃこう言うのはゲロったら信用がお終いなんだ。拷問されたって口は割らねえよ。」


「・・・ふーん、お前も上司からそう命令されただけで誰が依頼主かは知らないのか。お前も下っ端じゃん。あーあ、無駄だったな。このままあのボロ小屋に戻しておこう。」


 俺はこの男がそうやって「喋らねえ」と主張しているその頭の中を覗いていた。ずっと、魔力を通して。

 男がそうして口を開いている時に頭の中に浮かんでいたのは上司だと思われる男から仕事を指示されている場面だけ。依頼主が誰だったか、と言った風な映像は検索できなかった。


 情報は無し、無駄だった。いや、別段無駄ではないけれど、収穫が少な過ぎたと言った所か。労力に見合わない。

 この後はさっさともう一度男を気絶させて、ワープゲートであのボロ小屋へと繋げて放り込んでおいた。即座にワープゲートを閉じて事を済ませ終わる。


「あーあ、結局は依頼主が分からないって。じゃあこいつらの組織に直接乗り込まないといけなくなった?・・・ああ、それは後にするか。かったるいや。」


 俺は客人、アリシェルを待たせている部屋へと戻る。


「あ、どうも。お待たせしてしまって。では、こちらへは何用でしょうか?」


「エンドウ殿、と呼ばせて頂いても?貴殿の事を詳しく調べさせていただいた。気分を害されたのなら済まないが、こちらも殿下からの命令だったので。・・・貴殿の経歴が全く以て意味不明なのだ。貴殿、エンドウ殿は一体何者であるか?ソレを私自身の目で見極めたく。こうして貴殿を訊ねさせて頂きました失礼と承知で。それと、殿下からこれをお預かりしています。どうぞ。」


 ソレは手紙だった。王家の蝋封がされた物で、しっかりとそれが「正式」なモノであると言う証拠だ。


「なんだか面倒な事を押し付けられたか?まあ、読めば分かるか。」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] コイツら殺しても他の賊が動くだろうが……コイツら殺さなければ他の賊もコイツらも更に被害者を出すと思うんだよな。コイツら殺せば賊が減った分は確実に被害者は減ると思うの。
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