それぞれの役割
言うなれば俺はそこで別段何もすることが無かった。それもそうだ。既に生産は安定していると言う事だったので緊急事案などがあるはずも無い。
生産ラインは事細かに仕分けされており、各自の場所で所定の仕事を流れ作業で熟していくだけ。
数を熟すために大勢の従業員がここで働いているのだ。当初この工場を動かし始めた時から少しづつ働き手は増やしていて、今は働く人数が少ないと言った事も無さそうである。
「うんん?もしかして俺って役立たず?ここに居てもどうしようも無さそうだ。各場所の責任者なんかも配置されて監視やらフォローはされてるみたいだし。」
俺は製造部屋を出た。何せ本当に何をすればいいのか分かったモノでは無いから。
師匠は俺のまだ寝ている間に既に出発して行ってしまったと後から聞かされた。なので引継ぎの事を全くやっていないのだ。
でもそれをちゃんと師匠は分かっていたようで、クスイの所から「派遣」されてきた者が書類業務を引き継ぐと言う事で屋敷に到着した。
「では、ワタクシがこちらの仕事全般をお預かりしますので、どうかエンドウ様は警備を宜しくお願いします。」
その者の名はジェール。ずっと前からクスイと親交していた商人であるらしいのだが。
「ワタクシの商売はクスイ殿の店と合併を致しまして。ワタクシの店の方は一旦畳んだのです。新たに店を開き、とは言え、元の店の内装と扱う商品を変えただけですな。ですが以前の扱っていた商品も同時に扱う事になっており、クスイ殿の懐の深さに感服致しましたよ。」
どうやら合併というよりかはクスイがジェールの店を吸収したと言う形があっているようだ。
「あちらの店の方は既に安定しまして。クスイ殿から本日頼みを受けたのです。それを了承し、すぐにこちらに来たと言う訳でしてな。」
クスイは何だかんだ言って俺から受けた資金に対して「こんなにあっても」などと言っていたが、どうにも俺の知らない所でいつの間にかこの様に派手に金を使っていたようだ。そして。
「クスイ殿はこちらで製造している魔力薬の一部をその店での販売に踏み切りました。ですのでこうしてこちらで働く事はワタクシにも勉強になるのです。それにしても今まで厳重に秘密にされていた製造現場をこの目で見れると言うのは本当に興奮します!ここから世界が変わっていくのだと思うと自然と身体が震えてきてしまいます!」
どうにもこのジェール、本気でそんな事を言っているらしかった。一応は彼の「色」を確認してみたが、どうにも青、しかも何故か分からないが興奮しているのが反映されているのか激しく点滅しているのだ。
この口髭豊かなやせぎすの男はどうやら悪意も敵意も持っていない。純粋にこの工場で働く事に喜びを感じている様子だ。
「えーっと?じゃあそのお店は二号店、と言った所ですね。クスイとしては初かな?」
「ええ!ええ!そうですね!光栄です!これからクスイ殿の店はより一層に売り上げをバンバンと上げていく事になるでしょう!そうなれば!そうなれば!クスイ殿の店が世界中に!世界中に!」
「あのー、興奮し過ぎでは?それと、夢を見過ぎだと思いますよ?落ち着いてください。」
俺がそう言ってやっと自らの状態を悟ったジェール。少しだけ恥ずかし気に「ごほん」とわざとらしい咳ばらいをしてからもう一度俺へと話の続きを始める。
「ですので、こちらの警備の方はエンドウ殿の力に掛かっていると言う事です。貴方の事はクスイ殿から良く聞かされております。貴方に任せておけば安全だと。全て任せていいと。宜しくお願いしますね。」
純粋にこのジェールは世界を変えていくだろう魔力薬と言う商品にかかわれる事に興奮を覚えているだけのようだ。そしてその事に対して純粋に喜んでいる。
「えーっと、聞いておきたいのですが、クスイは魔力薬の製造権や製造法を販売したりとか言った考えはまだない様子でしたか?」
「おや?その話は聞いております。ですがクスイ殿は「まだその機ではありませんな」とおっしゃっておいででしたよ。売る事を否定はしておりませんな。何か一計、もしくは別の何か考えがあるのでしょう。」
「じゃあ俺がこれ以上は心配しないで良いか。ここの警備だけに細心の注意を払っておけば。分かりました。これから宜しくお願いしますね。」
こうして挨拶は終わり、それぞれの仕事に移った。とは言え、俺の仕事はそもそも何をしたら良いのだろうか?
「門には番がいるし?一応は屋敷内に不審者がいないかはさっき一瞬で魔力ソナーで調べたから大丈夫だったし?そうなると侵入者対策?・・・あ!」
俺は一つのアイデアを思い付いた。とは言えソレはもの凄く単純だった。
入られると厄介なら、最初から入れない様にすればいいのだ。絶対に。正規の手続きをしなければ入れないようにすればいい。
門から入って来る以外の方法で入れない様にすればいいのだ。ならばコレは簡単だった。
こうして俺はこの屋敷の敷地塀に沿った結界を張った。門の部分だけを除いた全ての部分に。こうすれば不審者がこの屋敷の敷地内に入ろうとしても絶対に無理だろう。一応は地下を掘り進んで下をくぐらせない様にと地下3m迄の深さに結界を届かせてある。
「やり過ぎかも知れない。でもコレで不要に神経を使わないで済むのなら、ちょっとくらい多めに魔力を消費したとしても何ら問題無し。よし、オールオッケーだ。」
コレに安心した俺は思い出した。これにも問題があると。
「・・・おい、俺の仕事はもうこれで本当に何も無いじゃ無いか。嘘だろ・・・」
役目はしっかりと熟している。だが、もうこれ以上にする事が無いのだ。言うなれば俺はこの結界が維持され続けるように魔力を注ぎこんでいればいいだけ。たったそれだけで別にここに居ないでも構わないのだ。
お出かけも余裕なのである。今張った結界に籠めた魔力はザっと三日分と言った所だ。じゃあ次はその魔力が切れる時にここに来て減った魔力を籠めれば良いだけである。ここに居る意味がどんどんと薄れている。
「ワーオ。別に師匠と交代したりしないでも良かった?まあ、師匠はずっと勤めていてくれたし、長期休暇を提供するって考えれば良いか。最初はどうせこの魔力薬も俺の思い付きだったし。それに付き合って貰ってるみたいな形だったしな。」
そう言って俺は庭に出て日向ぼっこをし始めた。どうせ俺も今は有り余っている時間を何に使おうかというアイデアは思いつかない。
だったらのんびりするのもまた一興だろうと思ってのんびりする事にした。ついこの間まで王子様にこき使われていたので、ちょっとくらいはゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
そんな風に思って暖かい日差しを受けてホッと一息ついていたらお客様が現れたのを感知した。
門の所だけは結界を張っていない。なのでそこから入ろうとする人物を警戒するためにそこだけピンポイントで魔力ソナーを張っていた。
正規の手続きで入ろうとしたとしても、その人物がもし悪意を持ってしてこの屋敷に入ろうとしていたならすぐに分かるようにするためだ。
「で、今回のお客様は無理矢理、門から入ろうとしていると。敵意で真っ赤だな?」
俺は早速そのお客様が来ている門へと向かう。そこには門番へと喚き散らしている人物が。
その人物には五名の護衛が付いており、今にも剣を抜き放とうとしていた。
「ぇえい貴様!私を誰だと思っている!すぐにこの門を開けろと言っておるのだ!無礼者めが!死にたいのか?」
門番は偉い。アポイントメントを取っていない人物はちゃんとシャットアウトしていた。
幾らここに偉い人が、権力者が来たとしても正規の手続きが無ければ絶対に門は通さない。そんな気合を門番たちから感じた。
「どうしましたか?ああ、お客様ですね?はい、どの様な御用でしょうか?」
門越しにそのように俺は声を掛けた。門は鉄格子状であるので俺の姿も見えているし、声もしっかりと通っている。
なのにそれが聞こえていないのか、聞こえていたのかは分からないが、その人物は同じ言葉を繰り返した。
「おい!いい加減にこの門を開けないか!この私がこの屋敷の主となってやろうと言うのに!ぇえいお前たち!この者らから門の鍵を奪え。抵抗するなら殺して構わん!」
駄目だった。屑だった。どんな風に考えても、このでっぷりとした腹の派手な貴族服を着た男の言っている道理が理解不能だ。
同じ土俵に立って話し合い、ができない人種だと言う事が一瞬で理解できた。
「道理の通らない者にはこちらも通す道理が無いな。剣を抜いちゃったか。ならば警備責任者として見て見ぬ振りはできないんだよなぁ。って言うか。殺させたり絶対にしないんだけどね。あり得ないし。」
俺は魔力を飛ばした。そう、飛ばした。魔力とは自分が思い描く現象を自在に再現できる。なのでこの時に思い描いたのは「拳銃」だった。
パンパンパン。三発発射だ。いや、コレは俺の脳内で発した音だから実際に現実ではそんな音を出して魔力は飛んでいない。
目に見えない塊としてその男の護衛の、剣を抜き放った三人の肩を撃ち抜いた。
「ぎゃ!」「ぅぐっ!?」「いっでェ!?」
負傷した三人は肩を押さえて蹲った。残りの二人はどうにも剣を抜かずにいてニヤニヤはしつつ男の側に立っていただけ。
なので狙うのは剣を抜いた者たちだけにしておいたのだ。
直ぐにこの二名も異変が起きた事を察知して叫ぶ。
「な!なぁ!?何だ今のは!おい!お前たち!いきなり肩を押さえてどうしたと言うんだ!早い所コイツらから門を開ける鍵を奪わないか!」
門番は二名だ。その二人には俺が魔力を纏わせているので剣で斬られたとしても命は無事ではあったのだが、まあそうなると心労があるだろうから男たちに斬りかからせたりさせなかった。
「俺がやったって気付かなかったのか。まあそうなるだろうな。・・・うーん?この世界にも火薬って存在しそうだけど、恐ろしいから再現はしない方が良いよな。」
誰も俺のそんなボヤキなど聞いてはいない。肩を撃ち抜かれた三人は痛みでそれどころじゃないし、腹の出ている男、この際は「デブ」で良いだろう。
デブは喚き散らすばかりで現状の理解をできていない。タプタプと揺れる顎肉と怒りで顔を真っ赤にしているだけだ。「おい貴様ら何をいつまでやっている!」と叫んでいるだけ。
残った二名の護衛はどうやら三名の護衛が負傷した事に最初驚いてはいたが、次にはデブを庇うような形で周囲を警戒し始めた。
俺がやったと言う事が全く悟られていない。何だろうか?別に俺は特別な事は何もしていない。別に光学迷彩を再現してここに立っている訳では無いので俺の姿は視界に入っているはずだ。
それなのにここまで俺の事は全く無視とはどう言った了見なのだろうかと疑ってしまう。直後には、その目は節穴なんだろうな、と納得したが。
「エンドウ殿がこれを為さったので?コレは少々マズイ事になりませんか?」
門番の一人が俺へとやっと声を掛けてきた。でもマズイとは一体何かが俺にはこの時分からなかった。
「え?何で?狼藉を働こうとした奴にここの警備担当として迎撃しただけだけど?あ、もしかして過剰防衛?いや、でもこいつらこちらを殺そうとしてきたんだから過剰では無いな?そうなると・・・あ、もしかしてこいつら、貴族?」
「・・・はい、そう言う事になります。」
「えー?でもさ。貴族だからって言って何でもカンでもして良いって訳じゃ無いでしょ?寧ろ、貴族だから何でもカンでも、なんてしちゃいけないんじゃないの?道理が伴わない事は寧ろその貴族としての価値を下げる行いでしょ?権力が有るからって言って、威張る使い所が間違ってるんだよ、最初からこのデブはさ。」
「で、デブ?貴様ああああ!この私をデブだと言ったのか!よりにもよって!デブだなどと!」
俺と門番の会話が聞こえていたらしい。と言うか、俺の言った「デブ」という部分に、そこだけが聞こえていたと言うのが正しいみたいだったが。
「ああ、ようやっと俺の事をちゃんと認識できましたか。では改めて。ウチに何か御用で?」
「この私をここまで愚弄するか!いいだろう!貴様の顔は覚えたぞ!明日にはお前らをこの屋敷もろとも叩き潰してやる!」
「は?じゃあそんな事させないためにここでアンタの心を折っておくとするかな?」
「何を言っておる?心を折る?何処まで不遜な輩だ!明日には私の兵に慄くお前の顔が見ものだ。オイお前たち!早く立たないか!行くぞ!」
行かせない。先ずは魔力を地面へと流し、デブを含めて六名を固める。帰らせるはずが無い。明日になったら余計に面倒を持ち込んでくると宣言している奴をそのまま帰させる訳が無い。
さて、心を折るのならば実績があるアレで良いだろう。空を飛ぶ経験を「充分に」楽しんでもらうとしよう。錐揉み回転入りだが。先ずはデブ貴族から。
でっぷりとした身体が瞬間的に大空へと打ち上がった。大体ペットボトルロケット、と言った所か。これでも打ち上がる速度の方は手心は加えてあるつもりだ。
そして錐揉み回転。もちろんたっぷりと恐怖を感じてもらうために顔はちゃんと地面へと向かせ、真っ逆さまに落下させる。
地面と衝突寸前、それこそ地面と鼻の先の間が1cm程でピタッと止める。
「ぶぉ・・・ぶぼぉぉェェェ・・・!」
デブ貴族が盛大に吐いた。地面にはつんとした臭気が漂う。どうやら胃液しか出てきてはいなかったが。
「じゃあ、もう一度行きますね?今度はもう少しだけ高く、それと速度ももう少し上げましょうか。」
ちゃんとしっかりとその耳に聞こえるように、大きな声でハッキリと俺はデブ貴族に宣言する。
「ま!待て!貴様待てといってお・・・がああああああああ!?」
最後まで良い切る前にその叫びは空へと吸い込まれる。再度打ち上げた高度は先程よりも断然高い。
そして今度落ちてくる時には大回転だ。錐揉みに捻りも加えて、それこそどんなスポーツでもこれほどの動きは無理だろう、と言える急激な動きの変化もさせたりする。
そして今度のストップは身体が大の字になっている状態で地面すれすれで。
「うぼっ・・・!ゲロゲロゲロロオロロロロロロ・・・」
またしても盛大に吐いたデブ貴族は気を失いかけていた。この二回だけで憔悴しきっている。
「では、お聞きします。明日、貴方は、何をしにここにやってくると仰られたでしょう?」
「お、お・・・ぉまへ・・・こ、このよふな・・・仕打ち、タダで、済むと、思うなよ・・・」
しかし気力を振り絞ったのか、まだまだ強気発言をしてきた。
「ああ、そうですか。たった二回だけで解放されると思っておいででしたか。貴方の心を折ると言ったじゃないですか俺は。聞いていませんでしたか?ならばもう一度行きましょうか。」
俺は直ぐにまた魔力を注ぐ。デブ貴族が打ち上がる瞬間に「ま」と聞こえた気がしたが、何を言おうとしていたのかは分からなかった。
「まあ「待て」と命令してこようとしたんだろうが、それじゃあまだ駄目なんだよなぁ。」
護衛の者たちは固めてあるままだ。一応は先ず頭を潰しておくのが手っ取り早い。護衛なんて今は放っておけばいいのだ。
デブ貴族が俺にまだ命令口調でモノを言ってきている間はいくらでも打ち上げるつもりである。
心を折る、もう二度と治せない位に。元に戻せない位に。
今度は急激に「振る」。右に振られた、と思ったら、左に。左の次は上に飛び、急降下して、また右、等々。
急激な「G」を掛けながら滅茶苦茶な軌道でデブ貴族をシェイクする。
そして今度はゆっくりとした速度で地面へと着地させた。
「ゲロっ・・・ゲロっ・・・ゲロロロろろロォオオオ・・・」
やっぱり吐いた。でももう既に胃液も底をついたのだろう。その口からは何も出てはこなかった。今のデブ貴族の喉は胃液で相当に荒れてしまい、痛みと不快感で一杯だろう。
グロッキーで既に虫の息などと言った表現ピッタリなデブ貴族はそれでも気を失ってはいなかった。
口を閉じる事すらできない程に体力を失って涎がだらだら垂れっぱなしで、それでも絞り出した一言がこれだった。
「ま・・・まっへくらはい・・・は、はなひ、話はいまひょう・・・」
どうやら三回目にしてやっとこのデブ貴族の脳味噌は「まとも」になったようだ。でも、次に出る言葉がまだまだ「まとも」で無かった場合は容赦無くまた飛ばすつもりだ。
この行為が傲慢だと言うのならばどうとでも言えばいい。この世界には法があるのだと言うのならば、このままこのデブを見逃がせばいい。
だけども、その後で、そうして貴族だからとか、法が有るからとか言って、この貴族の「明日になったら兵で屋敷を蹂躙する」と言う宣言をどう処理するつもりだと言うのか?
法が貴族を守るのならば、その法を守らぬ無法を貴族がしているのだ。どうしようもない事に対して自らにソレを止める力が無いならば泣き寝入りしていればいい。
だが、それをやらせないだけの強力な力を持つのならば、この場でソレを止めるために力を行使するのが後々のためだろう。
郷に入りては郷に従えと言えども、無法に従う義理は無し。さて、道理を通す気はこのデブ貴族に有るか、無いか。
「では質問です。ここにはどんな用事でやってきましたか?その約束はちゃんとされていないご様子。いくら貴族の方とは言え、敷地内に許可無く入ろうとする行為は違法ですね?そうではありませんか?」
こうして俺が質問をしている時間で少々の頭の回転の回復はしてきたようで、デブ貴族の呂律は治り始めてきている。
「ご、御尤もです。・・・こ、この屋敷に訪ねてきたのは・・・そのぉ・・・」
歯切れが悪かった。後ろめたい事が無いならちゃんとハッキリとここでどのような用事だったのかを言えるはずだ。
俺は続きを直ぐに言う気があるのか、言う気は無いのか、それを少々の間待つ。
だが、一向に続きが無い。なのでこちらから新たな質問をした。
「では、次に。門番の役目は何でしょうか?そしてその役目を全うしているだけなのに、その者たちを無礼者と言い、殺すと脅し、しかも剣まで抜いて実際に斬りかかろうとしましたね?それが貴族の矜持ですか?」
デブ貴族は徐々にだが回復してきており、今は呼吸も安定しているからか、その安くて薄いプライドも治り始めていた。
そう、睨んできているのだ俺の顔を。そして睨んでくるだけで俺の質問に答えない。
「・・・残念ですね。では、もう一度行きましょうか。」
と俺は言い終わる前にデブ貴族をまたしても飛ばしていた。今度は念入りに、重点的に攪拌する。
この方法はもうソロソロ慣れてきてしまうかな、と考えたのでコレでまだ反抗的な態度やこちらを舐めた事を言い始めたりしたら別の方法で徹底的に潰そうと考えた。
「では、また質問です。貴方はどこの誰ですか?そう言えばお名前も聞いていない事を思い出しました。」
でも、返事が返ってこない。それもそうだ。気絶していた。さて、コレにどうしたものかと、ちょっとだけ考える。
「そちらの皆さん、コレを返しますのでさっさと持って帰ってください。あ、それともお仕置きを受けて行きますか?その気が無いのであれば早々に視界から消えて頂きたいのですが?」
俺はそう言った後に五人に纏わり付かせていた魔力を引っ込めた。するとそいつらは首を高速で上下に振ってデブ貴族を担いで一目散に逃げて行った。
「あのう、エンドウ殿?これってヤバくないですか?」
門番の片方がそう言って俺に質問をしてくるが、俺はこれを別にどうってことが無いと言い返す。
「明日に兵を集めて攻めて来ようモノなら完膚なきまでに叩き潰すよ。舐められるのが一番駄目なやり方だから、こう言うのは。ああいった輩はこれ以上は吐けない、っていう位に徹底的に潰しても、やり返そうって気を後々で起こしたりする人種だからね。自分は悪く無いって自らに信じ込ませて。時間が経てば経つ程に、その内にコテンパンにヤラれた事すらも忘れたりするものだよ。よっぽど物覚えが悪い奴はそう言った事をするものだ。そういう時にはもう二度と這い上がれない、って所までしっかりと潰す必要がある。もしくは最悪、死んで貰わないといけなくなるって言うのも含むかな。」
俺は森の家で過ごしたあの期間で、散々そうして「自然の怖さ」を学んでいる。怖さと言うか、しつこさと言うか。
その道理に基づいて俺はここで行動するつもりだ。弱みなんて見せるつもりは無い。寧ろ、相手を叩き潰すつもりでここの警備をするつもりだ。
この俺の言葉で顔を真っ青にした門番。どうにも御貴族様とやらを相手にするのは勘弁したいと願っているのだろう。だけども役目は全うしてもらいたいモノだ。
まあだからと言って、家族を人質に取られたとか言って脅されたりしたならば、その役目も放り投げていいとは思うが。
「じゃあ俺がここで代わりをしておくからさ、どっちかにさっきの事をクスイに知らせに行ってくれないか?」
そうして俺は貴族が来た事をクスイに連絡するために門番の二人いるウチの片方を使いに出した。
「先日の侵入者の事もあったりしたからね。ちょっと過敏になりもするよ。と言うか、あの貴族がまさか裏に居たんじゃないだろうな?ソレにしてはマヌケだったかな?」
その事を考えて俺は縄で縛って部屋に突っ込んであった侵入者二人の事を思い出す。
するとそこで丁度その二人が部屋を抜け出そうとして縄抜けしていた直後だった。
アイツらには俺の魔力を纏わせてある。しかも別段自由を奪うようなことはせず、だ。そこに細い魔力の糸を俺へと繋がるようにしているのでその二人の行動が手に取るように分かる。
「じゃあ逃げ出して貰うとしようか。まあ、後を追跡するけど。」
もちろん俺のその繋がっているままに魔力の糸を伸ばしてそのまま解放するので、その先に何処まで逃げたのかを知るのが簡単だ。
俺の無尽蔵とも呼べそうな魔力量だとこれ位の事は簡単だ。
俺はそちらへと意識を向けつつも門番との会話を続けた。
「なあ?あの御デブ貴族様は何処の誰だか名乗ったか?」
「いえ、それがどうにも。貴族だと言うのは分かりましたが、それ以上は我々も分かりませんで。申し訳ありません。」
「いやー、平民だとそれが普通じゃ無いか?どこぞの見た事も無い貴族何て知ってるはずが無いから。門番として、それこそこの国の王様でも通しちゃダメだろ。許可が無い奴はな。ちゃんとそう言った偉い奴はさ、クスイに話を通して準備するもんだよ、普通にな。ここはクスイの物なんだ。いくら王様でも人の土地に勝手に偉いからとか、権力が有るからって理由で、持ち主の許可無く入ろうとするのはもの凄く失礼だろ?そんな失礼をする王様なんかこちらから願い下げだって、な。」
この俺の言葉に門番が難しい顔をしてしまう。多分王様って所に引っ掛かりがあるのだろう。そんな大物が来たら確実に素通りさせてしまいそうだと。
一応はその後に何のトラブルも起きる事無くクスイへと使いを出してあった門番が帰ってきた。
ちなみに、脱走しようとしていたあの二人は無事に屋敷から抜けだした。俺がワザと開けた結界の隙間から、である。
当然張ってあった結界がそのままだと、あの二人には絶対に逃げ出せなかった事だろう。そして泳がせるためにワザと逃がしたと言うのもバレていないはずだ。
「で、クスイはなんて言ってた?・・・ん?ああそう、俺と話がしたいって?わかった。じゃあ行ってくる。」
もう既に脱走者二人のために開けた結界は塞いだ。ならばもうこの生産工場の敷地内に侵入しようとする奴らは完全シャットアウトできる。門の真正面から強行突破しようとしてくる奴ら以外は排除できる。
ならば少しの間だけクスイの所に行くのは別に大丈夫だろう。
魔力を伸ばして結界と自らを繋げておく。そしてそのまま歩いて門を離れる。
ワープゲートで行こうとすると魔力の繋げてある糸がぷっつりと途切れてしまうから。
結界と繋げてあれば万が一があったら俺がすぐに気付く事ができるし、それと逃げ出したあの二人の変化もちゃんと継続して観察していないといけない。なのでワープゲートを使用せずに歩きでクスイの所に向かう。
店に到着後、すぐに裏手の住居の方の入り口に回り中へと入る。
「待たせた。クスイ、話そう。」




