事件は現場で起きているんだ
そんな所に何故か俺が挨拶をする流れになってしまう。まあそれ位はここでやっておかないといけないだろう思って俺も話を始める。
「えー、私が遠藤です。皆さん宜しくお願いします。それでデスネ。先程の言葉に驚いている方もいらっしゃると思いますが、その事で説明をしたいと思います。本来のこの工場の目的を。」
俺はここで何故魔力薬の改良と大量生産をしているのかの「真の意味」を話す。とは言えそこまで偉そうな事では無く、最初に俺が思いついた時の事を話したのだ。
「魔法薬はマズい、それをひっくり返して世の中に広める。それがこの工場の目的なのです。端的に言って、もうその目的は達成されています。もう冒険者の皆さんがこれらを購入し、以前のマズイ魔力薬は飲めなくなってしまった事でしょう。」
ジョークを混ぜた事実を入れてちょっとした笑いを取る。コレに職員の全員が「確かに」と実際に自分で試飲した実感でウンウンと深く頷いている。マズイ以前の魔力薬と改良した魔力薬をちゃんと従業員全員に飲み比べをさせてあるのだろう。
何を自分たちが作り出しているのか?ソレをしっかりと自覚させるために。
「ここから、今、この工場から、世界を変える。私たちはその偉業をもう既に達成したのです。皆さんはこの事を胸を張って自慢してもいいでしょう。そして、だからこそ、です。自分の命を大切にして欲しいです。侵入者はきっとこの工場の内部情報を盗もうと、魔力薬の製造方法を盗もうと侵入しようとしたに違いありません。なのでそういった犯罪者は情報を持ち帰るのに貴方たちの命の事など気にしたりはしない。」
ここで授業員たちはごくりと唾を呑み込んだ。師匠が言った「自分の命を優先しろ」と言った意味がここでやっとしっかりと恐怖と共に浸透したのだ。
「ウチの魔力薬が真似され、それらが世に出回ってしまっても、世の中を変えた元祖は何処か?ソレはもう既にこの工場からだとこの街の人々は知っています。そして冒険者の方たちは既に周辺の街へとこの魔力薬の事を広めてくれている事でしょう。ならば、世界を変えると言う点で見て情報が盗まれる事も別段痛い事ではありません。だからこそ、製造レシピを守ろうとして貴方たちに命を張ってでも守ってくれ、と言わないのです。寧ろ、ここまで既に安定した製造をできるようになっている貴方達を失う事の方が大損失です。」
俺のこの言葉でジッと静かに従業員全員の視線が集まる。もの凄く真面目な顔で、真剣に。
「ですが、盗むと言う犯罪を犯して情報を得ようとする者たちは金儲けか、あるいは自分の地位、名誉、権力を不正に得ようとしているに過ぎません。そのような者たちに只々情報をくれてやるなんてもってのほかです。何の苦労もせずに他人の物を奪おうとする者に遠慮はしない。私が必ず、その報いを受けさせると皆さんに約束しましょう。」
ここで従業員はフンスと鼻を鳴らしてその「悪人」への怒りをその身の内へと発生させていた。
「ですから、皆さんは今の仕事に誇りをもってこれからも務め続けて頂きたい。いつか私たちの作る魔法薬を解析し、似た商品を開発する商人も現れる事でしょう。それは仕方が無い事です。彼らも我々の商品を買う事ができます。それを元に独自の開発、改良を施し販売する事は、私たちには止めることはできません。ですが、その時には!自分たちの作った物こそが「元祖」であると、そう自信と、誇りと共に言葉にしましょう。たった今!ここに居る皆さんこそが、皆さんが作り世の中に出回る魔法薬こそが全ての大本だと!ここに居る皆さんが世界を変えるのです。いや、変えたのです。どうかその事を忘れずに、仕事に励んで頂きたいと思います。」
これで挨拶を終わります、と言った所で部屋がびりびりとする程の拍手がされた。
どうやらこの程度の拙い演説でも感動して貰ったらしい。俺はちょっと気恥ずかしくなって深く一礼してから師匠の後ろへと一歩引く。
ここからは師匠が続きをどうぞ、という意味だ。コレに師匠が「お前って奴は」みたいな表情で俺を見てきたのだが、コレが何を伝えたいのかが俺にはサッパリ分からなかった。
「皆、コレで私からの話は終わりだ。各自この後決められた残りの休憩時間を取ってから仕事に戻ってくれ。では、解散。」
コレで終わりだ。いや、終わりでは無い。俺はこの従業員の中に紛れ込んでいる異物を見つけていたからだ。
ワラワラと従業員たちが部屋から出て行く。そんな中でこの部屋の一番隅に居た一人の授業員がその場に立ち尽くしていた。
「で、師匠。こいつどうしましょうか?」
「ん?何だエンドウ。・・・どう言う事だ?」
師匠は部屋に俺と師匠とその一人が残っている状態になってやっと違和感を覚えたようだ。
「・・・こいつは見知らぬ顔だ!クソ!昨日のは囮でこいつが本命だったか!」
この工場では新たに雇った者は必ず顔見せをする。そして師匠はそれらの者たちの顔をちゃんとしっかり覚えていると言う事だ。
俺と師匠はそいつへと近づく。俺の魔力固めでそいつは動けないから一応は安全だ。
「エンドウよ。どうして見つけられたんだ?この工場の者たちは結構な人数がいた。しかもこいつの事を今の今まで私が分からなかったと言うのが何とも納得いかない。」
師匠はこいつの顔を見てすぐに侵入者だと見抜いたのだ。だからこそ、ここに集まってきていた従業員に紛れていたとはいえ、こいつの事を直ぐに見つけられなかった事が師匠には悔しいようだ。
「多分ですけど、自分の印象を薄くするための手段とかがあるんでしょうね。だから師匠でも見つけられなかったんじゃないですか?」
俺が見つけられたのは偶然だ。ただこの場で魔力ソナーを広げて違和感があった方を注視しただけ。そしたら皆同じ反応を見せる従業員たちの中にあって一人だけ違うリアクションをした者を見つけていたのだ。
集まった従業員たちの事を誰一人として知らなかったので、俺はそこでちゃんとここで働く人たちの事を知っておこうかと思って魔力ソナーを広げて一人一人の反応を見ようと思ったのだ。
そこに不可解な反応が一人出た事で気付いたのだ。侵入者だと。
「俺の挨拶の中で一人だけ凄く眉根を顰めて睨むような顔になっていたんですよ。コイツ一人だけね。でピンときて。で、案の定俺の魔力を流して調べてみたら敵意で真っ赤、と言った感じですね。」
「はあ~。そう言う事か。確かに隠れてこそこそするならその様な手段があれば簡単に紛れ込めるな。私はまんまと嵌められたのか。一本どころか二本も三本も取られてコテンパンと言うヤツだなコレは。くっ!自分が情けない。」
「でもどうやらこいつはその道を極めてる仕事人って感じに見えますね。だったら師匠も見抜けなかったのはしょうがないんじゃないですか?」
「いや、コレは私の慢心が招いた事態だ。一層気を引き締めねばならんだろう。エンドウには見つけられたんだ。私もその域に少しでも辿り着けるようにと普段から精進を重ねているべきだった。」
忙しくてソレを忘れていたと言って師匠がムーっとした難しい顔をする。
「まあまあ良いじゃないですか。それは後々にして貰って。こいつがどれくらいの情報を得ているのかって言うのを尋問しないと。それとこいつらを差し向けた依頼人も聞き出さないと。製造法がもう既に外に渡って無けりゃいいんですけどね。」
未だに侵入者は一言も喋らない。別に俺が魔力固めで口までカチカチに固めている訳じゃ無い。
沈黙は金、雄弁は銀、と言うヤツだ。こうやって黙って居れば俺たちが情報を得る事は不可能だと高を括っている。
確かにそうだろう。このままでは捕まえたこいつから得られる情報はゼロだ。けれどもここで一つやってみる価値のある事はある。
と言うか、コレは一度、あの助けた少年で成功をしているので大本の犯人が分かる可能性は高い。
「とは言え、こいつはどうにも協力的では無いし、それに拒否反応とか、無理矢理思考を別の方向に切り替えたりされたら読み取れないかなぁ?」
脳内映画館でこいつの見ていた視覚情報を読み取って再生する試みだ。
「そうなるとこいつの頭の中に旨い事その時の映像が浮かび上がってくるような誘導が必要なんだろうなあ。」
俺はブツブツと考え事を続ける。しかし師匠がコレに「おい、不気味だぞ?」と注意してくれた。どうやら俺の顔はもの凄く悪い表情になっていたそうだ。
侵入者の男は身体が動かせずとも、ジッとこちらを睨み続けている。修羅場をいくつも潜り抜けてきた者なのだろう。怯えも、そして恐怖なども感じてはいない様子だ。
ただ淡々と逃げ出せるチャンスを見つけようと集中と緊張感をずっと保ち続けている。
「じゃあ先ずはこいつがどれくらい深い情報を得ているかを探ってみましょう。」
こうして俺はこの男の後頭部に手を添える。
「師匠がこいつに尋問してください。そしたら俺が確認します。」
師匠は俺を見て「何をする気だ?」みたいな顔をしてきたのでコレに「いいからいいから」とだけ返した。
「お前は既に魔力薬の製造法を得たか?」
しかしこの師匠の問いかけに黙ったままの侵入者。まあ当然の反応だ。だけども俺の方では全く違う。
(おーおー。コイツこの屋敷の中を隅々まで探しまわっているみたいだな。でも、見つける事ができていないらしい)
屋敷の中にも警備の目はあるし、職員の目もある。まだまだどうやら充分に捜索ができていなかったようだ。
成功である。この侵入者の思考を読み取っての映像化が。もしかしてこの事をこの侵入者が知ったら、質問された内容関連の事を思い描かない様にしてきたかもしれない。他の事を考えて俺にソレを読み取らせない様にとしてきたかもしれないが、今の所はそれも無い。
「お前は誰に雇われた?誰の差し金だ?」
(お?今度は音声付だ。ふむふむ?誰が雇い主かは分からないな。指示をだされただけ?こいつが上司?)
どうやら命令だけをされて誰が雇い主なのかは知らされていないといった所らしい。
単純にこの屋敷に潜入して魔力薬に関する資料を奪取して来い、という内容だ。
「この屋敷に他にお前の仲間が潜入していないか?」
(まあそこら辺はもう既に俺が魔力ソナーを広げて確認したから大丈夫だけど・・・お?後からもう一人潜入してくる奴がいるみたいだな?)
どうやら作戦として囮が突入、それがうまく行けば良し、行かなくともその隙にもう一人が従業員として潜入と言う流れが第一段階らしい。二段構えと言うヤツだ。
そして第二に、入り込んだ者が資料を奪い、そのまま脱出をするのだが、この後に逃げ出すための助っ人が後から来ると言う予定になっているようだ。
「師匠、そこら辺でいいですよ。大体の事は分かったんで。」
俺のこの言葉に師匠が眉間に皺を寄せる。尋問を受けていた侵入者も訝し気な目をこちらに向けていた。
「で、エンドウ、どうするんだコイツは?衛兵に突き出すか?」
「ん?ああ、それは後にしましょう。と言うか、もう来たみたいですね。ちょっと庭に出ましょうか。」
この俺の返事に要領を得ないと言った感じで師匠が「ハア~」と溜息を突きながらも付いて来てくれる。
拘束しているこの侵入者も一緒だ。俺が魔力固めを操作して歩かせて共に庭に出る。
こうして庭に出るとそこには木の陰に隠れている一人の従業員が。とは言えそいつは今捕まっているこの侵入者の仲間である。
「では捕まえましょう。一緒にこいつも突き出した方が良いでしょ?とは言え同じく尋問を先にこちらでしてからですけどね。」
その男は俺がそう言い終わらない内に木の陰から飛び出してきて隠し持っていた短刀を突き出してきた。
しかも捕まっている仲間へと。口封じらしい。だけどもソレは叶わない。
魔力固めで拘束していると言う事は、それはチンケな刃物程度は弾き返すと言う事である。もちろん俺が魔力を覆わせている部分を操作して、好きな場所の魔力を解除すると言う事もできたりするのだが。
ギイン、と金属が弾かれたような硬質な音が短く響く。強くその弾かれる音を響かせると言う事はソレだけ思い切り刃をぶつけたと言う事。本気で相手を殺そうとしたと言う事。
そしてその思い切りの良さはその道の「プロ」だと言う事。多分だが、こうして俺たちが一緒に付いて来た事に因ってこの侵入者を迎えに来た仲間の男は早々に悟ったのだろう、失敗を。
だからこうして即座に口封じに動いたのだと見られる。もしかしたら情報を吐いてしまっている可能性、それも考えての殺害も兼ねているに違いない。裏切り者を殺す、という点で考えても即座にこうして動いたのだろう。
「ああ、大丈夫だよ。こいつは何も情報を吐いてはいないから。安心していい。だけども情報奪取は失敗したって言うのは合ってるね。じゃあお前さんからも情報を貰っておこうか。」
魔力固めで既に動けなくさせているその男に先程やった事と同じ「尋問」を仕掛ける。師匠ももう既に俺が何をやっているのかが薄々と分かってきていたようで質問に入る。さっきやった質問と同じ内容だ。
そして新たに尋問をして一分程度。新たに分かった事と言えば。
「うーん?本当に敵さんは慎重に慎重を重ねているらしいですね。こいつも何も知らされていないみたいです。」
そう、こいつも雇い主を知らされていない。決定的な証拠が得られない、と言う事が分かったくらいだ。
「ならどうする?このままこいつらの処分は?」
「うーん?こいつがそもそもいきなり口封じを狙ってくるあたり、衛兵に引き渡したとしてもきっと逃げられますね。そうで無くとも牢に脱獄を手引きする仲間が来るか、あるいはこれもまた口封じが派遣されるだけじゃないですかね?」
得られる情報も無く、そしてこのまま犯罪者として衛兵に突き出したとしてもきっといい結果は出ないだろう。そう師匠に説明する。
「ふむ、確かにな。お前が尋問をしても情報が得られない位だ。こいつらの組織、あるいは雇い主か。慎重で、そしてどうやらかなり地位のある人物と見える。」
「このまま逃がしたくも無いですけど、だからって言って捕まえたままでいるのも管理が面倒で何ですけどねぇ。」
別段俺の内包する魔力の量を考えたらこのまま拘束し続けても減る量は微々たるものだ。だからそこら辺は問題無いが、しかしこいつらを管理するとなると、どうにも放置しっぱなしもできないし、連れ回すと言った事もしたくはない。
「師匠、いい案無いですか?こいつらを解放するにしたってこのまま何にも無しに、とはしたくないですね。」
俺は師匠にアイデア協力を求めた。だけどもソレに返された言葉は。
「私に聞かれてもな?うーむ、こいつらは要するに下っ端だろう?相手へと連絡を付けさせると言った事くらいしか使い道は無さそうだぞ?」
どうやらメッセンジャーとして位しか使い道が無いという事だ。確かにこういった侵入作戦でそもそも責任者が直々に仕事に参加、などといった事はあり得ないだろう。
直接交渉がこいつらと出来ない以上はこの組織の「上の者」へと伝言を伝えさせるためのお使いくらいしか使い所が無い。
「ああ、ソウデスネ。じゃあそうしましょうか。でも・・・たったそれだけじゃここに入ってきた「お仕置き」にはならないですね。一応は罰として心を折っておきましょうか。」
俺は先ずこの庭で先に侵入してきた方の男の抵抗心をバッキバキに粉々にしてやることにした。それをこのもう一人の仲間へと見せつけるように。
「ぎゃああああああ!?ああああああ!ヒイいいイイィ!?」
お空の彼方へ御招待だ。そしてその上空から一気に落とすのではなく、錐揉み回転を、それも回転方向がランダムになるように落下させる。そして。
地面へと顔面から衝突する直前、鼻の先と地面が後1mm、と言った所で止めると言うのを五回ほど繰り返した。既にそいつは三回目で自我崩壊を起こしかけていた様に見えたのだが、念のために追加で二回程バリエーションを増やした「お仕置き」で入念に心をボロボロにしてやった。
「なあ、エンドウ?こいつは・・・生きているのか?ふむ?どうやら本当に生きているのが不思議なくらいに、微かに息があるな?」
でも意識は手放しているな、と師匠が追加で侵入者の状態を言葉にする。
これを目にしていた仲間はガクブルと震えが止まっていない。まあそれもそうだろう。自分が次にこれを受けるとあれば勘弁して欲しいと心の底から願うレベルの光景を目の前にしていたのだ。
有名遊園地のこれまた有名な絶叫マシンなんか目じゃないものを見せられたのだ。それこそこの世界にそんな「娯楽」は在りはしない。
そんな「比較的安全な恐怖」を「娯楽として」楽しむ文化などこちらで生きる人たちに馴染みがある訳が無いのだ。恐怖を感じて当たり前だろう。
比較的安全、だ等と表現したのはこれらには故障や事故が稀にあるからだ。俺ももしかしたら魔法でそうして操っている時に「失敗」などをしたら大事故である。
まあその相手が犯罪者だったりすれば俺の心に掛かるだろう負担も軽くなるというモノだ。まあコレは半分は冗談であるが。
「じゃあ次はお前だな。・・・なんだ?止めて欲しいのか?・・・駄目だろ、それは。お前は仲間のこいつを真っ先に殺そうとしたんだから。こいつが味わったモノをちゃんとお前も味合わなきゃ不公平だろ?じゃあ覚悟は良いか?」
声を出さずに懇願をされるが、俺はソレを無視してお仕置きを強硬だ。最初にお空のアトラクションを受けた侵入者の方はと言うと横倒しになって白目をむいて酷く激しく先程から痙攣をし続けている。
俺が観察するに、別に命に別状はないので放置しておく。まあ心の方はというと御臨終だろう。
こうして二度目のお仕置きは開始された。
で、それが終わって師匠からお言葉を貰う。
「エンドウは容赦が無いな。コレはもう死んだ方が余程にマシな拷問だ。」
「失敬ですね。これでも手加減した方ですよ。・・・なんです?その信じられ無いって目は?」
師匠が俺の返しにギョッとした感じで目をカッ開いた。俺のこの言葉は嘘では無い。事実もっともっと酷い塩梅でお仕置きをしようかと思っていたのだ。
だけども先ず最初にやった一回目で「あ、コレはアカンやつや」と悟ったからこそ、少しだけ錐揉みスピードをマイルドにしたりとか、あるいは地面へと突っ込ませる速度を調整したりとか。
手心は加えたのだ。死なれてもつまらないから。コレはお仕置きである。
こういった事はできるだけチャンスがある時に、今後とも同じ場面が来たら上手く調整ができるように練習をするのが大事である。彼らは尊い犠牲となったのだ。
「さて、こいつらを縛っておいて屋敷の一部屋に閉じ込めておきましょうか。」
「良いのかエンドウ?そのままこいつら縄抜けでもして逃げ出したりしないか?」
「いえ、、それこそが狙いなんですよ。」
こいつらは今気絶していて俺たちの会話を聞く事ができない。もし聞いていたら安易に部屋から逃げ出そうとはしなかっただろう。
「何かやる気か?まあ、いいだろう。私はもう今日は休ませてもらうか。仮眠室で寝てこよう。それから明日にでも出発してしまおうと思う。工場を頼むぞエンドウ。」
「ええ、分かってますよ。じゃあ楽しんできてください。師匠は働き詰めでしたからね。お疲れ様です。」
俺たちはそう言いながら屋敷へと入る。二人の侵入者はインベントリからロープを取り出して縛って空き部屋へと突っ込んだら後は放置だ。
一応はここで師匠と分かれた。俺はこの後に工場の中でも散歩しようと歩き出す。考えてみるとこの工場を隅々まで見学した事は無かった。まあ既に魔力ソナーを広げて詳細は頭の中に入っているのだが。
それらを映像として脳内で再生する事も可能だが、実際に俺はこの工場ではあまりする事が基本的に無い。
なので時間は余っている。自分の目で確かめようと思って中庭に出てみる事にした。そして庭を散歩しつつ今後の事を考える。
この魔力薬関係で今後ともこうしたトラブルは発生し続ける事だろう。そうなると俺と師匠、もしくはクスイへの負担がかなり増えていくはずだ。
そうなるとテンヤワンヤで他の事に手が付けられなくなる可能性が大きい。
「まだまだ早いけど、製作方法を販売する時期なのかなあ?本音で言うとまだまだもうちょっと独占しておきたい所ではあるんだけどな?」
そんな風に考えながらその日はゆっくりと屋敷周りを散歩して終わった。
そして翌日。俺はこの屋敷の一室で眠っていた。これからは俺は常時魔力ソナーを張り巡らせねばならない。侵入者対策でここに常駐する。
「まるで警備員だな。二十四時間戦えますか?いや、無理。」
俺は欠伸をしながらそう言ってベッドから出る。別段疲れていたりはしなかったのだが、気分的にエナジードリンクなどを呑んでおきたいな、などと言った気分に見舞われる。
使用魔力量的にも、体力的にも、別にひっ迫していると言った事は無い。だけどもどうにも精神の疲れと言った部分はあるようだ。
「タバコは今も昔も吸っていないしな。確かタバコというのは「これからいっちょヤったるか!」という気合を入れるために吸うモノであるっていう認識なんだよなぁ。」
俺が会社員時代には若い奴らは全員がスパスパとたばこを吸っていた。タバコ休憩などと言って禁煙のオフィスから抜け出して、肩身狭く喫煙コーナーにそいつらは身を寄せ合っていたな、などと思い出す。
一日に何度もたばこを吸いに行っては戻って来て仕事、そんな事を一日で何度も繰り返し続けているのを見て私は「依存症は怖いな」などとのんきに思っていた。
寧ろ仕事が自分の全て、みたいな所があった当時の俺は「たばこを吸う暇など無い」くらいに思っていたはずだ。
「若い頃に幾度かは仕事を一気に終わらせるつもりで、たばこを仕事開始前に一本吸ってから取りかかった、って事もあったけどな。」
気合を込めるために、ニコチン作用で一気に脳活動を活性化させて仕事に取り掛かる。しかし思っていた以上のそこまでの効果を感じられ無くて吸うのを止めた記憶だ。
寧ろニコチンが切れた時の反動にイライラして余計に吸うのを止めるのに躊躇はしなかった。
「吸わずに残ったたばこを同僚にくれてやったら大層喜ばれたな。ヘビースモーカーでたばこ代だけでも月に相当な金額突っ込んでたよなぁ、あいつ。」
などと昔の仕事仲間の事を珍しく思い出しつつも部屋を出た。朝食はこの屋敷の食堂で出るのだ。
料理人を雇って厨房で働いて貰っており、食事は三食出る。朝昼晩。ここの魔力薬製造で働く従業員たちにはしっかりと食事を摂る事は厳命されていると言う。後からその事を俺は知った。
どうやらここでの従業員規則はクスイと師匠が決めたらしく、俺は一切かかわっていなかったので当たり前だが。
「あ、エンドウさん。おはようございます。」「おはようございます、エンドウさん!」
「おはようございます。」「おはようございます。」「おはようございます。」
何故か俺が食事を貰い終えてテーブルにつくと、その横を通る従業員たちがこぞって俺に挨拶を掛けていく。
ソレに俺は軽く手を挙げて返すだけなのだが、どうにも誰もがニコニコしていて何だか俺にはコレが奇妙だった。
そんな風に挨拶を受けつつも食事を終える。スープとパン、サラダ。スープには肉がたっぷりと入っていて食べ応えは充分だった。
「さてと、そもそも俺はこの製造工場でどんな仕事をすればいいのかね?師匠って普段ここでどんな役割を果たしていたんだろうか?」
師匠に対して丸投げして全てほったらかしでいたのだ。今更だがここで俺が何をしたらいいのかが全く分かっていないのである。
そもそも製造現場にも入った事が無いのでどのような生産ラインになっているのかすら分からなかった。
「え?あれ?どうしよう?気安く受けちゃったけど、そもそも俺は警備関係の事だけしか考えてなかったわ。」
このままここでウンウン悩んでいても仕方が無かったので、俺は一先ず生産ラインがどの様に動いているのかを知るためにそちらへと足を運ぶことにした。




