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惨たらしい絵面

 こうなると二人目、三人目は早い。そうして出てきた者たちはどんどんと次々に兵士が捕縛していく。

 捕縛されて縄で縛られた者たちを見て「捕まりたくない」と言った心理が働くのか、その後に結界から出てくる者たちの数が大きく増えてたりはしなかった。

 しかしそれでもぽつり、ポツリと一人、また一人と確実に出てくるのだが、一気に流れ出てくる、と言った感じにはならなかった。

 中には結界から出た者に対して罵声をぶつける者、裏切り者だと叫ぶ者もいた。しかしそうして叫んでいる奴らは当然、結界からは出られる事は無い。

 何故ならソレだけの言葉を吐けるだけの「敵意」を残しているからだ。剣を結界にぶつけて破壊しようとしている者もまだ居る。そう言った者には魔法が使える者も居たようで、おそらくはその者の「切り札」だったのだろう。

 炎の玉が集団の中から一つ放たれた。それは結界に当たり大きな爆発を起こしたのだが、まあ、結界は揺らがない。ビクともしない。

 それもそうだ。俺が結構な量の魔力を込めている。その程度で壊れたり解除されるような事は無い。


(あー、そもそも、俺がどれだけの量の魔力を内包しているかをその内に調べないといけないよなぁ?)


 ずっと考えてはいたが、後回しと言うか、忘れていた事を今更この場で思い出す。

 そんな間もじわじわと狭まっていく結界。捕縛した者の数はまだ少ないが、それでも五十人はいったか。

 これでもなお男たちはまだ自分が「死ぬはずが無い」とでも思っているのだろうか。

 とうとう結界は男たちの目の前に迫って剣を振るような隙間は無くなる。


「おい!押してくるんじゃねえ!さっさと退かねえか!」

「テメエこそ下がれってんだよ!畜生が!この見えねえ壁は一体どうなってやがる!?」

「くっそ!俺の魔法の爆発でも耐えただと!?これだけの結界にどれだけの魔力を込めていやがる!」

「お、俺は、俺はこんな所で死ぬ器じゃねーんだよ!この!この!」

「こ、このまま行くとどうなるってんだ?まさか、まさかだよなぁ?あ、有り得ねえだろそんなの!?」

「駄目だ!お、俺はもう我慢できない!そ、そこを退け!前に行かせろ!」

「おい、押すんじゃねえ!誰だ!あぁ!?おい待てテメエ!裏切るのか!」

「命あっての物種だ!こんな事に付き合ってられるかよ!死にたい奴はそうやって最後まで意地を張ってればいいさ!」

「逃げるんじゃねえ!金はどうする!破格の報酬だぞ!?諦めて堪るかよ!」

「か、金なんて要らねえ!俺は死にたくねぇ!退いてくれ!くそがあ!退けってんだよぉ!」


 地獄絵図、と言ったら良いか。もしくは「蜘蛛の糸」?と表現したらいいか。

 段々と中には確実な「死」を感じ始めて必死に動き始める者たちが現れる。だがまだそういったモノを感じ無い者、動じない者、諦めない者などとの諍いが少しづつ起き始める。

 結界を抜ける事ができた者は良いとして、押し合いへし合いに発展して出られ無い者たちも出ている。

 そう言った出られ無い者が邪魔な者を除ける為に無理矢理に隙間を通ろうとして邪魔をされたりとまるで満員電車の様だった。

 だがそんな事になればどうなるか。ここに集められた者たちは所詮は金に釣られたゴロツキどもだ。

 殴る蹴るに発展するのは直ぐだった。そしてそうなれば腰に佩いた剣を抜いてひしめき合いながらも斬り合いに発展する。

 まさに醜い争いだ。いや、自分が生き残るためと言う崇高な理念の元に争うのだから別段醜いとも言えないか。生存本能をむき出しにした戦いと言うか。

 所詮はこいつらには仲間意識なる物は存在しなかったと言う事だ。次々に結界を抜けてくる者たちは徐々に増えつつも兵士たちが一人づつ確実にしっかりと縄で縛っていく。

 増え続けるゴロツキ共に何故兵たちが慌てないかと言うと、俺がそいつらを拘束しているからだ。魔法固めだ。

 兵士たちの手が空かない場合、その隙を突いて心変わりして逃げ出そうとする者たちも現れる。そう言った奴らを逃がさないためのモノだ。

 そう、逃がすはずは無い。俺は結界を張る前に宣言した。なのにこいつらはこうして命に危険が迫るまで観念しなかった者たちだ。逃がすはずが無い。寧ろ結界を張る前に出頭してきていたなら見逃していた可能性はある。


 さて、次第に結界を抜けていくものが増えた事でまだまだ余裕ができ始める。捕縛されたゴロツキ共は後から駆け付けた正規兵たちに引き取られてどんどんと牢へとぶち込まれるために連行されていく。

 徐々に、徐々にとゴロツキは捕縛されていき数が減る、そうしていると結界内に隙間ができて猶予が残る。

 猶予とは潰されるまでの猶予だ。この結果以内に第二王子がまだ含まれている。


「ええい!このような下らんものに私が閉じ込められるだと!?いい加減しろ!お前ら!早くこれを何とかしないか!」


 先程からその様な怒鳴り声が響くが、いくら結界、見えない壁へと攻撃を仕掛けても一向に敗れない事にゴロツキ共も精神が疲弊して行っている。

 最初は四百近かった者たちも三百、二百、百、と言った具合に見る見るうちに人数が減って行った。数頼みで威勢を張っていた者たちも、コレにすぐさま掌を返して結界を抜けていく。


「やっていられるか!アレだけ居たのにもうこれっぽっちかよ!もう逆転の目もありゃしねえ。止めだ止めだ!こうなりゃもう手も出ねえよ!」


 そう言って出て行くモノが増える。しかしこう言った者たちは分かっていない。遅い投降をしてきた者たちにの刑罰は、最初の方に結界から出てきた者たちよりも重くなる事を。

 これを決めたのは王子様だ。それもそうだ。ここまで抵抗を見せてきていた者のその「性根」を、即座に命が惜しくてすぐに結界から出られた者たちと同じには扱えない。

 この様に最後まで意地汚く諦めないでいた者たちに、早めに投降した者と同じ刑にするのは駄目だろう。

 こいつらは後々にその事へと文句をつけるだろうが自業自得と言うモノだ。雇われたその金額かいくらだったのか俺は知るつもりもない。もし俺へと文句を言ってきた時には逆に「果たしてそれは命を懸けるだけの値段だったのか?」と問う位か。


「貴様ら!前金を払っているだろうが!仕事放棄か!打ち首だ!私の手で直々にその首を落としてくれる!逃げるんじゃねえ!」


 さて、第二王子がとうとう結界に一人取り残された。ここまでになるうちに内部争いで怪我をしたり運無く邪魔だと言って殺されてしまった者たちも居るのだが、そう言った者は結界から抜け出られるようにしておいてある。

 少しづつ狭まっていく結界の影響が無く、押し込まれずにそのまま結界外へと出られるようにしておいたのだ。


 そうなると当然ながら最後の最後まで残ったのはいつまでも観念せずに敵意を剥き出しにしたままの第二王子と言う事に。


「さて、弟よ。コレでゆっくり話ができるな。と言っても、私はお前へと罪状を読み上げるしかできる事は無いんだが。ああ、それとだ。お前がソレを聞くだけでは納得はいかないだろうからこれもしっかりと見せておく。」


 そう言って王子様が結界に近寄ってぴらりと一枚の紙を第二王子へと見せつけた。そこには国王陛下の印が入った書類だ。

 それには第二王子の行ってきた罪が全て記載されており、それを王が「確認した」と言う事になる。確認したならばソレは要するに法に照らし合わせて処罰をします、と言う証明だ。


「ああ?何だソレは?そんな印一つがどうしたと言うのだ?誰のものだソレは?この俺が裁かれるはずが無いだろうが!」


 第二王子、錯乱していて分かっていないのか、もしくは本気で分かっていないのか。その印を見てその様な事を言い放つ。


「ああ、そうだね。王族だから表向きには。しかし弟よ。本当に解っていないのか?ああ、本当に駄目なんだな。公爵がお前を駒として使おうとしたのも頷ける。自身の末路すら、今の状況を見ても想像ができていないのか・・・」


「公爵が何だと言う!?奴は俺を王へと押し上げると言っていた!俺こそが相応しいと!お前の様な無能が王になるべきでは無いと!」


 馬鹿過ぎてモノが言えない。第二王子が公爵に唆された、などと言った感じではない。本人が心の底からそう思っている。王になるのは俺で、お前じゃない、などと本気で、この場面で。


 そんな時に屋敷から一人の女性が出てきた。それはマルブッシブ侯爵家令嬢、ミーシェル嬢だ。


「レクトル様、おめでとうございます。コレで晴れて次期国王は確実にレクトル様と成るのですね。ああ、わたくしは嬉しゅうございますわ。第二王子殿下は御自分が王になるなどと、どうしてその様な考えを持ったのか、不思議ですわ?」


 いきなり出て来て第二王子へ慈悲を掛けろと懇願するのではなく、王子様に色目を使ってその腕へと自身の胸を押し付けて甘い言葉を吐いている。

 なぜこのようなタイミングでこの場に現れたのだろうか?もう全て遅いのに。王子様がミーシェル嬢へと冷たい目線を送っているのだが、それを全然彼女が気付いていない。


「ああ、ミーシェル、君はどうしてここに?」


 しらっとそんな言葉を掛ける王子様の笑顔は凍っている。美青年の王子様の笑顔だ。華やかでまるで温かい太陽の様な輝く笑顔なのだろう、本来なら。

 でも、何故かその笑顔は輝いては居るのだが、その輝きがオカシイ。冷えた空気でダイアモンドダストでもその周囲に漂っているんじゃないかと言った輝きである。つまり、背筋が凍る、と言う事である。


「第二王子殿下はレクトル様への人質になるだろうと言って私をここへ。ですが私はこうして無事です。」


「はははは、そうか。そう言う事なんだね。では、弟よ、ミーシェルの言う事に相違は無いか?」


「おい!ミーシェル何故そいつに色目を使って居る!お前は私が!」


 第二王子の言葉を遮るように少々声を荒げつつミミーシェル嬢はより一層「演技」を深める。


「レクトル様はあのような愚か者の言う事を信じると言うのですか?・・・私は悲しいです。」


 ミーシェル嬢はそう言って潤んだ瞳で王子様の瞳を見上げる。その可愛らしさは誰もが見惚れるものだったのだろう。今までなら。

 だけどもコレに全く動じていない王子様はこう言い放った。


「ミーシェル、ああ、そうだね。愚か者の言う事になど耳を貸すのは馬鹿げているね。そう言った者たちはこちらの話なんて聞く耳を持たない。道理も得ていない。そんな者たちと君は違う、そうだろう?ミーシェル?」


「はい、わたくしはその様な者とは違いますわ。」


 ミーシェル嬢はきっぱりとそう答え返す。すると王子様から「ふう」と小さなため息が漏れる。そして次には。


「彼女を安全な場所へ。そうだな。一番堅牢で誰も入って来られない僕以外が会いに行けない場所へとお連れして差し上げろ。」


 王子様は兵を三名指定してそう言ってミーシェル嬢をこの場から移す様に命じた。でもその文言がどうにも不穏だ。

 しかし俺がそう思っていてもミーシェル嬢はそうは思わなかったようでコレに「お気遣いありがとうございます」と言って素直に兵に案内されてこの場を離れて行った。

 ミーシェル嬢を案内する兵は一人でいいはず。残り二人は護衛として着いて行く、と言った事なのだろう。だけどもそれ以外の意味が込められている様に感じて俺は仕方が無い。


「なあ王子様?情けを掛けたのか?まあ、あれだけぞっこんだったんだ。仕方が無いよな。」


「いや、そうでは無いよ。彼女には相応しい結末は用意してある。そこにはまあ若干は情けは入れているかな。彼女にとってソレは余りにも屈辱だろうけどね。」


 どうやら何か考えがあっての事らしい。でも俺が裁く立場に無い。俺は第二王子の様子の方を見る。

 結界は未だに縮んでいてもう彼を「潰す」程になっていた。このまま俺がこれをストップさせなければ文字通りぺしゃんこだ。


「エンドウ殿、そこら辺で止めておく事は可能かな?じゃあソレで。弟よ。それでは質問だ。これ位は解るだろう?自分の身がこのままだとどうなるか、解るか?いや、脅しじゃない。コレは現実だ。兵たちよ。撤退だ。ここには私と彼と弟のみを残して次に移れ。」


 この屋敷に勤めていた者たちも応援に来た正規兵たちに連れられて行っている。この命令でこの場に居る者は王子様と俺と第二王子のみになる。

 コレに「は!」と言って兵たちが潮が引くようにさっと引き上げていく。


「さ、弟よ、いや、メルデントル。お前が犯した罪の数を数えろ。お前が作り出した悲しみの数を。」


「何だと言うんだ!?俺は王族だぞ!俺はこの国の王となるのに何が罪だ!数えろ?馬鹿を言う。俺のために民屑がどれだけ減った所で何だと言う?あいつらは俺のための利益となったのだから本望だろうが!あいつらは王の俺に使われてこそ幸せと言うものだ。それを!」


(駄目だ、典型的な屑だコレ・・・どうにも救いようが無いぞ?どうする?)


 こう言った存在を「残しておく」メリットが感じられない。こいつは最後まで自分の非は認めたりはしないだろう。沙汰を待つ間に牢に閉じ込められている間、反省もせず諦めずに自分の窮地を脱そうとしてあらゆることをしようと試みるだろう。寧ろ、何故自分がそうして捕まって罪人として牢に閉じ込められているかなんて理解しようとは思わない。寧ろそんな事すら思いつかないはずだ、この態度だと。

 ここで第二王子がどうやって罰せられるかの詳しい事は分からない。国王と言えど人である。自らの子供を殺そうとは思えないだろう。

 だけどもここは俺の知っている世界と常識が全く違う。それに王族の「普通」何て俺は知らない。この第二王子の処分はどのようになるのかと思ったのだが。


「ふう~。父上に私は一つ、許可を頂いている。秘密裏に、だ。私と父上だけにしかこの事を知る者はいない。そしてこの場でその話をしよう。」


 王子様はそう言って国王としたその話をここでブチ撒けた。


「王は愚か者であってはならない。暴君でもソレは同じ。浪費家であってもいけないし、人の、民の心が判らぬ者でも駄目だ。最低でも凡百、それでも優秀な部下が周りを囲っていればマシと言った所。優秀な者であれば手放しで喜べるが、だからと言って失敗をしないとは言切れない。躓いてもより良い国へと目指す心を持ち、過ちを即座に穴埋めしてその過去を足場に次は失敗しない様にと戒める精神が必要だ。強い心が。」


 王子様が話ている間、第二王子がチャチャを入れるだろうと思っていたのだが、それが無い。どうしてか?ソレは余りにも王子様から出ているオーラが第二王子を圧倒していたからだ。


「メルデントル、昔はお前とよく中庭で駆け回って遊んだな?私たちは歳が近い。仲が良かったのに、いつ、こうして私たちは分かれてしまったんだろうな。もう遅いんだけどさ。」


 悲しそうにそう言っている王子様の顔は別に悲しそうな表情にはなっていない。


「ああ、小さい頃はいつもお前は私に対して「いつか兄上を越えて見せる、吠え面かかせる」と強く言っていたっけ。子供の頃はそんな言葉は可愛い物だった。けどれども、もう、駄目なんだ。もうこの歳になったら冗談では無くなるんだよ。そして、お前は何処でどう捻じれてしまったんだ?何故そんな王として相応しくない考えを持つようになってしまった?」


 王子様の独白は次で終わった。


「父上から、いや、国王陛下からこう言われている。メルデントルを「処分せよ」だ。父上はお前の所業を知っていたんだ。だけども容易に処分はできずにいた。親として、そして王としての立場もあってな。国の混乱を避けたかったんだ。だけども私がこうしてお前の、そしてその国の腐敗部分を全て明るみに出した事で、決断を下した。お前は・・・ここで死ぬ。」


 最後の一言は少し間を溜めてから吐き出されるように放たれた。。俺たち三人以外の人物が居ない事でその静寂に大きくその言葉が響く。


「馬鹿な!俺は将来のこの国の王だぞ!?お前をここで殺して俺がこの国の頂点になるんだ!そのような馬鹿げたことが有るか!ミーシェルの侯爵家とだって話は付いている!王となればミーシェルは后として俺の物になるんだ!金なんていくらでも使ってあいつに贅沢をさせてやれるんだ!」


 第二王子は信じられ無いのだろう。でも現実は非情だ。王子様の表情は冷たい。もうこれ以上は見ていられないとばかりに目を瞑る。


「ミーシェルは、何で私を裏切ったのかな?彼女には別に私は嫌な思いをさせていたと言う事は無かったはずなんだ。けど、そうで無かったから彼女は私からお前に乗り換えたんだろう?」


 王子様の疑問で話題が変わる。その答えを自慢するように第二王子が口を開く。


「は!あいつはな!いつも澄ました顔した貴様が嫌いだったんだ!いつもいつも花や茶菓子や小物だ何だと、全く金の掛かった贈り物などしてや来ないと文句を言っていた!宝石や豪奢なドレスが欲しかったとさ!貰っても嬉しくない物ばかりに笑顔でいるのが辛かったと!」


 どうにもクソである。美人の裏の顔とでもこの場合は言うのだろうか?


「許婚なのにもかかわらず、そうやってケチな貴様に愛想をつかしたんだ!俺の与えた宝石やドレスを貰った時のミーシェルの笑顔は俺だけのものだ!心底嬉しそうにしていた俺へと向けられたあの顔は!俺だけの!」


「・・・行事等で彼女が出席をする際には宝石やドレスを私から出していたはずなんだが?私の婚約者であるからソレに相応しい装いをしてもらうために。そうして毎度あるごとにちゃんと送っていたはず。出席した時も送ったそれぞれの品は身に着けていてくれていたはずなんだが・・・」


 第二王子が俺だけの物、などと言って王子様を挑発する。しかしコレに応じずに冷静に王子様が分析を始めた。そこに第二王子は叫ぶ。


「侯爵家にも俺から金を与えれば俺へと尻尾を振ってきた。喜んで俺の部下となった!それがどうだ!?何故あいつらは俺の危機に助けに来ない!?」


「ああ、もう彼らは捕縛してあるから、これるはずが無い。違法奴隷、賄賂、脅迫、殺人、税金の誤魔化し、ああ、それと隠して私兵の拡大もしていたな。武器の異様な買い付けも調べてある。多分だが、公爵と繋がっていたんじゃないかな。革命でも起こす気で。そんなモノを父上が許すはずが無いのにな。」


 この言葉に第二王子は「え?」と言った顔になってしまう。何だか鈍い、鈍すぎる。もうとっくに観念していい時間は充分に過ぎたと思うのだが。それでもまだ第二王子は自分が「助かる」などと思っているのだろうか?


「知りたい答えはもうお前から聞けた。ソロソロお別れしたい。のだが、すまない。エンドウ殿。コレを解いて貰っても?」


 王子様は突然そう言って第二王子を結界から解放する事を俺に頼んできた。


「ん?このまま俺が結界で圧縮して潰してしまうんじゃ無く?」


 俺は思わずそう聞いてしまった。これを聞いて第二王子は自分の最後をこの時にやっと想像をできたようで、その惨い絵面が脳内で再生されたようだ。さっと顔から血の気が引いている。


「ああ、確かに先程まではそうして貰おうと思っていたんだが。でもね。最後は私の手で、ね。私もここで一つ、手を汚しておかねば。」


 コレは王子様の覚悟なのだろうか。弟という存在に対して最後の最後は自分の手で、と思い直したんだろう。


「決闘をしようか。見届け人は彼だ。さあ、やろう。兄弟最後の別れに決闘だなんて、洒落ているだろう?お前の最後は父上ではなく私が引き受けよう。」


 王子様はこう言うが、シャレになっていないのである。趣味が悪いと言って良いレベルだ。だけども俺はこれを了承した。結界を解く。


「・・・本当にそこの奴は手を出さないのか?はっ!俺も舐められたモノだ!いいだろう!俺の剣の錆にしてやる!その後は全部貴様に背負わせてこの件を全て終わらせれば俺が晴れて王となるのだ!」


 おめでたい。ここまでおめでたい頭の人間がいた事に少々俺も衝撃を受ける。いや、俺の会社員をしていた頃にもこれほどまでとは言わないが、変人が居たはずだ。

 そして世界は広いのである。ここまで自分の都合の良いようにしか考えられない者はそれこそ探せばいくらでもいるんだろう。

 たまたま、今、俺の目の前にこうして現れただけで、本当は俺の身近に沢山こういった存在が居たのかもしれない。自分が知らないだけで。


 王子様は第二王子と距離を離す。その間は3mくらいか。遠いか、あるいは短いか、微妙な距離だ。

 何故そのように思うと言うと、剣の長さがあるからだ。

 二人は剣を抜く。そして構えた。既に始まっているのだ、決闘が。


 第一王子は片手で剣を持ち、自然体で立っている。

 第二王子は剣を両手持ちで正眼で下段に構えていた。


 ここで変に怪我でもされても困るので俺は王子様への魔法を解いていない。なので第二王子から一撃食らった所で無事だろう。

 なので俺はここで王子様が一撃をワザ食らうのでは?と思ったのだ。そこに何食わぬ顔で居る事で相手がソレに驚いている隙に一撃を入れる物だと思った。でも、結果は違った。


 第二王子が一足飛びで豪快に距離を詰める、と同時に上段から鋭い一撃を放った。

 でもそれを簡単に身体を捻るだけで躱してしまった王子様。そして次にはスパ、と第二王子の首を刎ねてしまう。

 素人の俺が見ても隙の無い動き、と言ったら良いか。綺麗だった。動きが。

 とは言えそうも言っていられない。ここで第二王子は死んだ。問題は全部終わったと言う事だろう。そうなれば俺の雇われもここで終わりと言う事だ。長い様で短い間だった。


「エンドウ殿。これを跡形も無く「消す」事は可能でしょうか?」


 自らの手で落とした弟の首を見つめながら悲しそうにそう王子様は俺に頼んできた。「仕事外ですかね?」と問うてくる時の王子様の顔に別段後悔などは見られない。

 俺は無言で炎を作り出す。そして死体へとソレを放った。ボウボウと五秒ほど燃えって火は消化する。その後には第二王子の亡骸は無い。

 そして俺は王子様へと視線を向けた。何故なのか、と。


「凄まじいですよね。相変わらずエンドウ殿の魔法は。・・・そうですね。ここで第二王子が行方不明として処理した方が何かと、ですかね。後の事を考えてです。」


 苦笑いをした王子様は城へと戻ろうと言って歩き出した。ここにもう何も用は無い。俺もその後ろに付いて行く。

 こうして帰りの馬車へと乗り込んでガタゴトと城への帰還を果たす。


「父上に報告をしに行きます。エンドウ殿も一緒に来てください。」


「ん?もう俺ここで解放してくれても良いんじゃない?別にこれ以上はもう脅威は無いでしょ?」


 コレに「良いじゃないですか」と言って王子様は俺の事を無視して廊下を歩く。

 何だか分からないが俺もソレについついと付いて行ってしまう。王子様が何を今後で考えているのかを読めないので「まあいいか」と言った軽い気持ちでいた。


 王の執務室前に到着。王子様はノックをして事が終わった事を告げる。


「国王陛下、全て終わりました。そのご報告に参りました。」


 コレに「入れ」と短い返事がしてようやく王子様と俺は部屋へと入る。

 そこには悲壮な顔で椅子に座る王様がいた。コレはどうやら先に城に戻った者から大体の報告を受けている様子だ。


「メルデントルは、どうなった?」


 只々王様が聞いた事はソレだけ。恐らくは王子様が兵たちに撤収させた後の事を知りたいと、そう言う事だ。単刀直入で。


「行方不明です。まんまと隙を突かれて逃げられました。」


 嘘だ。真っ赤な嘘だ。そんな事を真顔で報告する王子様。しかしコレに王様が発した言葉は。


「お前ならそうすると思った。・・・私は何処で間違えたのだろうな?うむ、分かった。捜索隊を作ろう。捜索期限は一年間、で良いか?・・・馬鹿息子め・・・」


 大きく息を吸って吐き出す王様の目には一筋涙がこぼれる。コレに俺は思う。


(おいおいおい、関係無い奴の前でそんな涙流す所見せていいの?王様、威厳は?大丈夫なの?)


 俺の心の声を読んだのか王様が俺へと声を掛けてくる。勘が良いのだろうか?


「そちにはレクトルが大分世話になったようだ。礼を言う。私からも報酬を出そうか。何がよいか?」


 何だか俺が師匠から聞いていた話と大分印象が違う。王様は聞いた話じゃもっと「無能」って言った感じの印象だったのだが俺は。


「いえ、何も。私は王子様に雇われの身ですので。そちらの方で頂く報酬だけで結構です。それ以外を頂くつもりは一切ありません。」


 結構無礼な断り方だコレは。王様が「あげる」と言ったのにこの様にハッキリと「お前からは要らん」などと、ハッキリと貰う道理が無いと言って断るのはかなりの命知らずな発言である。

 たったこれだけで不敬罪でこの場でそっ首切り落とされても文句が言えないレベルである。俺は一般人である。なので本来なら逆らう何て事は畏れ多い事で、してはいけないのである。


「そうか、謙虚であるな。しかし息子がこうして生きているのも、そちのおかげよ。私から何か与えたく思う。まあこれでは押し付けであるな。しかし受けてくれ。私の気が済まんのでな。」


 さて落とし所を探す段階に入った。まあ直ぐにこうした事はその場で思いつかない事ではある。なので俺は逃げる事にした。


「ならば保留としていただいても宜しいでしょうか?そうですね。欲しい物ができた時にまた訪れさせていただくと言う事で一つ。」


 俺はここで無難な逃げ口上を発する。でもコレに王様は別に機嫌を悪くするような事は無かった。「それでよいだろう」とだけ口にして終わりだ。

 だけどもここで王子様が厄介な事を言いだした。

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