これからの事
馬車から降りた王子様の最初の一言はこれだった。
「誰が誰の首を切り落とすのでしょうか?公爵殿、私を殺すと宣言なさっているので?」
綺麗に王子様の声が響き渡った。ぎろりと公爵が声のした方を睨みつける。そして。
「私はこの国の王族の次に重要な公爵だぞ!ソレを第一王子如きが私を捕縛した挙句にあのような粗末な牢に入れるとは!」
公爵と言えば王族の兄弟か何かしかが得る爵位だったか。王族に何か万が一があった時には、代わりに国のトップに立つ事になる貴族だ。
「ああ、スミマセンでしたね。即座にあの場所で処刑してしまえば宜しかったでしょうか?大人しく牢に居て頂けたらもう少しだけ恩赦を出しても宜しかったのですがね。」
王子様が公爵の言葉に耳なぞ貸さない発言をする。コレに公爵が激怒する。
「この腑抜けの盆暗めが!メルデントル第二王子に劣る劣化品が!王になるのは貴様では無い!この私だ!」
「ええ、知っていましたよ。弟と手を組んだように見せかけて、後々は私を始末した後はメルデントルを手に掛けるつもりだったんでしょ?まあアイツもそこまで馬鹿では無いからそこら辺は薄々気付いていたでしょうけど。寧ろ逆に公爵を返り討ちにする気で利用しようとしていたんでしょうからね。」
この王子様の返しに逆に公爵の方がギョッとして目を見開く。
「敵は一体誰でしょう?私にとっては公爵も、弟も敵だった、と言って良いかもしれない。だから双方一緒に一網打尽にさせていただく。ここでメルデントルも終わりですよ。あいつは違法奴隷に手を付けていましたからね。それと賄賂に癒着、ああ、国の金にも手を出していた痕跡があるのでそれも今調べをしていますよ。それと追加で貴方の屋敷の書類を根こそぎ攫えば貴方と弟が組んでいた証拠も出るでしょう。」
「こ、ここで貴様を殺せば何とでもなるわ!ええい!お前ら!ここに居る者たちを全て殺せ!証拠など残すと思うなよ!死人は証言などできやしない!王子を殺せ!ころせぇ!」
「いや、まあ、うん。追い詰められると人って言うのは最終的には暴力しか縋るモノが無くなるんだな。そりゃ戦争も起きるってもんだ。社会が成熟していなけりゃ、そんなの容易に起きるよな。」
俺はこの公爵の叫びを聞いて人の根源的部分を感じる。コレに王子様は冷静に述べる。
「ああ、そうだね。だから国と言うモノはこういった者たちに政治をやらせるわけにはいかないんだ。自分が危うい、なんて思ったらすぐに相手を殺そうとする。公爵は暗殺組織なんていうのを自分で作り出して運営までする始末さ。そうやって暴力で支配をしようとする。まったく。」
この場で動いた公爵側の私兵は居ない。もちろん俺が全員「魔力固め」で拘束しているからだ。
「エンドウ殿、前から聞きたかったのだが、どの様にすれば魔法でこれだけの数の者たちを拘束できるようになるのかな?」
「いや、うーん?そうだなぁ。たゆまぬ努力と、後は魔力操作ですかね?多分それでできるようにはなるかと。」
「いや、それだけでは無理ではないかな?だってそうなるとデンガルはできないよ、こんな事。」
多分予想だと師匠なら二人、あるいは三人くらいまでならやれそうだ、などと俺は考える。
最終的に魔力量がどれくらいあるかと言う点も問題になるとは思うが。まあそれはたゆまぬ努力で間違っていないはずだ。
魔力操作も頑張ってできるようになればデンガルも今持っている魔力量で一人くらいはイケるのではと俺は考えた。
「エンドウ殿、今回も助かるよ。これだけの数にぶつかられるとこちらも兵に被害が出る。それを全く無しで片付けられるのは非常にありがたい。」
「あ、ついでにこの屋敷にも隠し部屋が無いか調べておきますか?捜索するにしてもそう言った重要書類を隠しているのって、大体そういった場所になるでしょ?時間の短縮にもなるし。そもそも早い所この件を全部終わらせたいし。」
この申し出に「お願いする」と言って俺へと頭を下げる王子様。
「いやいや、そう簡単に頭を下げちゃイカンでしょ王子様。頭上げてすぐに。周りの目が有るからね?」
こうして俺は魔力を屋敷へと流して様子を見る。するとやっぱりこういったデカイ屋敷と言うのは隠し部屋があるのがデフォなのか、当たり前のように存在した。
「そこの正面の入り口から入って左、廊下一番奥の右側の壁に有りますね。どうやら壁に偽装された押し込むと回転する扉です。地下に繋がってますね。そこにどうも書類があるようです。」
「馬鹿な!やめろ!何故そんな事が分かるんだ!ええい!やめろ!行くんじゃない!」
俺のこの言葉を受けて十名の兵を連れて王子様が公爵邸へと乗り込む。どうやら公爵の私兵は庭に出したコレで全員と言う事らしい。
中に入っても抵抗を見せて襲い掛かって来る者たちは居ない。まあ襲ってきても俺がソレを止めるが。
今回は俺も一緒に屋敷へと入っている。俺の先導でその隠し扉の前へと辿り着く。
俺はいかにも「あ、いつも使ってます」と言った軽い感じで廊下の壁の隠し扉を難無く開ける。
「いやー、何と言うか。エンドウ殿は心底、敵に回したくないと思いますね。では行きましょうか。」
こうして隠し部屋の中に有った書類は裏帳簿だったそうで。王子様が軽く二枚、三枚と書類をペラペラと巻くって見た所すぐにソレが判明した。
「国に納めるはずの税を誤魔化していますね。しかも他にも余罪がゴロゴロ・・・ああ、なんだって城の国税局はこれを見つけられなかったのか。いや、そうか。癒着している者が居るか。」
結構国が崩壊しかけるレベルで腐っていた模様。しかしコレに俺からは何も言える事は無い。只々心の中で「王子様、ガンバ」と応援の声を上げるだけである。
こうして大量の国の腐った資料を回収した王子様と一緒に城へと戻る。公爵はと言うと貴族牢に入れられるのではなく、今度は石で組まれた罪人用の牢へと連行される事になった。
そしてすべての資料を揃えた物を国王に渡しに行くと言うのでソレに俺も同行する。
向かったのは王の執務室。許可を得て部屋の中へと入る。そして開口一番に王子様が書類を国王へと手渡した。
「先ずは読んでください。そして判断を。」
眉を顰めてソレを受け取った国王は書類を時間を掛けてゆっくりと読み込んでいく。その隣には秘書か、あるいは丞相かがその書類を覗き込んでいる。
そして神妙な顔になっている国王は読み終わった後に心底残念そうな溜息を吐いた。
ソレに合わせて王子様が口を開く。
「関わった者、全てを断罪してよろしいですね?それとこの件は私の名で行います。それを承認してください。国の兵を今回のみ私が動かす権限と、それと父上の私兵も借り受けたいのですが、よろしいですか?」
王子様はヤル気だ。全部根こそぎやり切る構えだ。しっかりと国王を見据える王子様の目は鋭い。
コレに観念したと言ったようにまた国王が大きな溜息を吐く。
「分かった。もう私にはこれを止められん。良いだろう。書類を作っておく。」
「いえ、もう既に作りました。国王陛下の印をお願いします。」
もう仕事は全て必要なものを終わらせていたのだろう。王子様が懐からいつの間に作成していたのか、一枚の書類を取り出して国王へ突き出した。
ソレを受け取って頭から最後まで読んだ国王がまた溜息を吐く。
「お前の事を長年見誤っていたんだな。もう少しだけお前と話しておくんだった。もう少し穏便に事を済ませろと、そう言っておく機会を作るべきだったな。」
その書類に国王が印を押す。それを返された王子様は早速行動に移るつもりらしい。では、とだけ言って部屋を後にした。
「もしかして今日で終わりにするつもりか?で、いつまで俺は付いていればいい?」
「そうですね。メルデントルが隔離され、侯爵家当主を縛につかせた時でしょうか?それまではお願いします。」
廊下を歩きながら会話をする。その間に何処からともなく何人もの見知らぬ者たちが王子様に近づいては書類を渡し、それに王子様がサインをして返却される。
それらの書類を受けた者たちは次々に廊下を行く間に現れては消える。どうやら王子様の部下たちが動いているのだろう。
コレは一気に全てを動かすためであるようだ。それらの指示が全て終わるころに王子様の私室へと戻って来た。
部屋へと入ると「おかえりなさいませ」と二つの挨拶が来る。コレはメイドさんとケリンが口にしたようだ。
どうやらケリンはこのまま王子様付きのメイドとして護衛を兼任して行くつもりであるようだ。
「変わった所は無かった?まあ大丈夫だと思うけど。」
コレに二人が「ありません」と言ったので、どうやらもうメイドさんを狙うモノは居ないのだろう。ケリンも任務に失敗しているとは言え、もう既に組織は一応は壊滅している。
なので失敗をしたエージェントは「消す」みたいに刺客は送られてきてはいないと言う事だ。
王子様がソファに座る。そしてメイドさんから出されたお茶をのんびりと飲み始めた。
「なあ?動かないで良いのか?直接王子様が指揮を執ると言った事は?」
「ああ、もう無いね。父上から既に許可は貰った。動くのは後は騎士団と父上の私兵が少々に、私の部下がいくらかだね。既に動き始めたから後は終わるのを待つだけだね。もう私が直にこれ以上は動く案件は早々になくなったよ。」
「侯爵令嬢は良いのか?とは言え、もう証拠は上がっていると言って良いのか。でもアレだけ好きだったんだろ?」
王子様は一瞬だけ苦い顔をしただけで表情を元に戻してこう言う。
「仕方が無いよ。過去を見ずに今を、現実を見ないとね。今を逃せばもう後は無い所まで行ってる。しかも、もう動かしてしまった後だしね。後悔はしていないよ。彼女が、ミーシェルが僕の味方では無いのなら、敵であるのなら、容赦はしてはいけないんだ。審議をすると言うのなら事が全て終わった後にしないとね。でも、彼女が私への暗殺にかかわっていたのは事実だ。刑は免れない。過去の彼女は私の「夢幻」だったのさ。」
悲しい目をちょっとだけしてお茶を一口飲んだら王子様はもう元の目に戻っている。これにはもう何も言えない。
俺もメイドさんに「どうぞ」と出されたお茶を飲んで一息つくと「結果」を待つ事となった。
そうして待つ事一日。俺は城に泊まらせて貰っていた。王子様の護衛をしているので隣部屋だ。すぐに異常に駆けつけられるようにするためだ。
「まあかなりのでっかい案件だから、そりゃ一日で終わるはずが無いもんな。」
まだ一段落着く所まではいかない様でまだまだ時間が掛るらしい。かなりの兵を導入しているが、もしかしたら王の命令書があるのに身柄拘束を拒絶して抵抗を見せている者たちも居るのかもしれない。
とは言え、俺の関わる部分はもう無いと言えるだろう。と思ったらどうやら第二王子がかなりの抵抗を見せているらしく。
「やあ、おはよう。もう食事は摂っている?じゃあエンドウ殿にまたお願いしたい事ができたんだ。すまないが手伝ってくれないかな?」
「人使いが荒い・・・王子様は何だかメキメキと面の皮が厚くなって行っている様に思えるね。それは俺に護衛として付いて来て欲しい、と言うだけで良いんじゃないかな?一応は俺は王子様の護衛だから危なくなれば助けるし、王子様が行く所に俺も付いて行くだけだし?」
「度々申し訳ない。確かにこの頃は表情を固定する事が多くなったかな?面の皮が厚い、か。言い得ているよ。ちょっと今の苦労を考えると笑えないけどね。じゃあ弟の屋敷へと行こう。」
どうやら第二王子は最後の抵抗をかなりしているらしい。そこにはどうにも許婚まで居る様子だ。王子様の表情が若干暗い所からして確実である。
こうして俺はまたしても王子様を馬車に乗り込んで、その屋敷へと向かう事になった。その馬車の中で王子様が言う。
「こちらの導入している兵の数からして別に相手を無力化できる揃えはしてあるんだけど、やっぱり被害の事を考えたらどうしてもエンドウ殿の力を借りたくてね。弟以外の者たちはかなり手早く拘束は完了したんだ。それでも多少の抵抗を見せた奴らは居たんだけど、それでも死人は出ていないから。怪我人は出ているけど。だけど弟の揃えた数がどうにも微妙に多くてね。荒くれ者を素早く集めるために高い金を出して雇ったようだ。」
要するにこの件で「死人」を出さなかったと言う実績が欲しいのだろう。怪我と死とでは大きな隔たりがある。印象も「死亡」が無い方がかなりの高評価と言う訳だ。
ここでの王子様の解決の結果で将来の「王」としての力を示したいのだろう。残った貴族へと。
多くの貴族がこの件で捕まったに違いない。自らが王として納めるようになった時にこうした偉業と言うモノがあれば部下たちを御しやすくもなるはずだ。これだけの事を行って死人を出さなかった、と言う信頼があれば部下たちも王に従いやすい。
不正をしていない残った貴族たちに「ケジメ」を付けた所を見せつける。そう言った強さもある事を分からせるために。次期国王の自分に従うように促すのだろう。
王子様の説明で俺は大体の事を納得した。なのでここで安心して良いと言っておく。
「こちらの戦力を全員無事のままで第二王子を捕まえられればいいんだな?まあ、別にやる事は変わらないからいいんだけど。いつものように固めちゃえばいいかな?うーん?敵に死人は出ちゃいけないのか?」
俺がそう気楽に言うので王子様がコレに若干恐れを見せて頬が引きつる。そして俺へと向けただろう小声で「本当に味方に付けられてよかった」と口に出す。
王子様はこれを俺へと聞こえない声量で言ったと思っているだろうが、俺は聴覚を強化していたりするのでちゃっかりとこれを拾っていた。
(まあ最初に会った時は王子様は襲われてた側だし、被害者だったし。流石にそんなのを見て敵になったりはしないよなぁ。)
今更こんな状況でこの王子様と敵対するパターンとしては、本当は王子様は「悪」で、俺を騙していたとか?そう言った感じだろうか?
そんなくだらない事を考えていると到着した。そこはデカイ敷地、巨大な屋敷、どれだけ金を掛けているのか想像もできない程に豪勢だった。敷地を囲む塀は何処までも続き、門から屋敷へと続く道はどれだけあるのか?と言った具合だ。
敷地内の庭に「何だコレ?」と思わせる銅像が立っていたりして何だか良く分からない。良い趣味とは見えないオブジェ。
そんな広大な敷地にみっしりと、くたびれた革鎧、手入れがされてい無さそうな剣を手にしたいかにも「崩れ」な男たちが密集していた。
数にして四百か、あるいはそれよりちょっと多いか。よくもまあこれだけ集められたものだ。その集める時間なんてそこまで多くは無かっただろうに。
金にブイブイ言わせて即座にかき集めたのだろう。こちらの動きを察知したタイミングも恐らくは相当早かったに違いない。随分と優秀な諜報員でも雇っていたのか、どうなのか。あるいは運良く偶然知ったと言うパターンもあるかもしれない。
王子様が行動を起こしたのは正しく電撃作戦とでも言っていい速さで合ったはずだ。にもかかわらずにこれだけ集められたのは、俺が感じるに偶然が重なったが故だと言う予想ではある。
さて、それでは通告をしなければいけないだろう。大人しく捕まれ、などと言っても金に目が眩んだこの様な目のギラギラした男共では「ハイソウデスカ」とはすんなりと行かない。脅しが必要だ。
「君たちは既に後ろは無いと知って欲しい。そして激しい抵抗を見せると言うならこちらもそれなりの対処をせねばならない。いわゆる「斬り捨て」だ。この場で死にたく無い者は今すぐに名乗り出てこちらに来るように。しかし俺は寛大だ。途中で命が惜しくなった者にも慈悲を与える。しっかりとその時には武器を捨てて素直に投降する場合は痛い目を見せずに済む。賢明な判断をして欲しい。」
俺はそう言って相手へと警告をする。もちろん別にこれだけ多くの数いる人たちに声を届けるのに怒鳴ったりはしない。
魔法で声の響きを拡大し、漏れが無いようにとその振動をしっかりと魔法で増幅している。
コレに相手側の者たちはゲラゲラと笑う。それは何故か?
「おいおい、こっちはこれだけの数が居るんだぞ?そっちはどう見ても百人ちょっとしかお見受けできねーじゃござりませんか?げははははは!」
こちらへ一番近くに立っていた男がそう言って下品な声で笑った。そいつはどうやらこの集団のどれかの内の一つのリーダーらしい。こちらをおちょくる言葉遣いでそう笑う。
ニヤニヤ顔で周囲に「なあ?そうおもわねえか?」と言って仲間だろう者たちと笑い合っている。
その他のパーティーだろう者たちもほとんどの奴らが同意してケラケラとこちらを嘲笑う。
そんな集団に守られるかのように第二王子はその後方でふんぞり返っている。そして一言。
「ふん!たったそれだけしか数を揃えられんとはな。やはり貴様は無能なのだ。こちらの戦力でこの場で蹴散らしてやるぞ。この騒ぎもお前が死ねばすぐに治まるだろう。のこのことこの場にやって来た事が馬鹿の証明だな。まあ来なかったとしても私が城までこのまま攻め入ってお前を血祭りにあげればいい話だったが、手間が省けた。さあ、お前ら、遠慮はいらん。私が許可を出す。あの無能を始末しろ。」
いやはや、既に自らの悪事がバレており、かつ国王にも報告されていると言うのに呆れた物言いだ。
しかもこうして兵が出て来ているのは国王からの命令書も出ているのだ。それに逆らうと言うのであればソレは反逆だと見なされる。
しかもここに王子様が来なかったら城までこの烏合の衆を引き連れて城で一暴れしただろうと言ってのけている。本当に馬鹿なのはどちらだろうか?
王族が同じ王族をその手に掛ける、なんて言う話はどう考えた所で胸糞悪くなる話だ。王族としては立てたくなんて無い醜聞と言うヤツだろう。なのでこういった時には言葉を濁してマイルドな表現を使って事を終わらせるのがいいだろう話なはずだ。
しかしこの第二王子はこの場で直接の殺害宣言である。いくら何でも「殺せば何とかなる」と安易に考え過ぎだろう。そんな時期はもうとっくに過ぎている。それを分かっちゃいない。
「弟よ、こうして国王陛下の印の入った命令書があると言うのに逆らうのか?ならばこちらもそれ相応の対処をせねばならない。・・・エンドウ殿、お願いします。」
「ああ、まあいいさ。王子様を狙うって言った発言があったからこれも「護衛」として仕事をしますよ。」
俺はそう言ってこの四百を超える人数を囲えるドーム状の「結界」を張った。
毎度毎度同じように馬鹿の一つ覚えでは面白く無い。なのでここで一つ実験をして見る事にした。
そんな「目に見えない壁」を前にして余裕の態度で先ずは三十人ほどが動き始めた。既に剣を抜き放っていて、その目を「殺しは楽しい」とばかりにギラつかせている。
こちらは正規兵で、自分たちの方が逆賊だと言う事が分かっていないらしい。雇われた金の大きさに眩んでそこら辺の判断が正常に働いていないのか、どうなのか。
しかしそれも直ぐに止まる。いや、止まらざるを得ない。もちろん俺が張った「壁」が前へとそいつらを進ませないからだ。
透明な壁にまるでパントマイムでもしているかのようにコミカルな動きをする賊軍。
相手の方は何が起きたのかと目を見張る者、奇妙な動きをしている事にソレを笑う者、真っ先にその異変にマズい事が起きたのでは?と勘付く者、等々。まとまりが無くそれぞれが別々のリアクションを取っていた。
逆にこちらはと言うと流石正規兵と言うべきか、訓練をしっかりと積んできているのだろう。動揺は多少はあったがすぐに気を取り直して警戒心を上げていた。
でも一向に透明な壁に阻まれていて一行にこちらに近づけていない男たちを兵士たちは徐々に観察し始めた。
その中に余りにも滑稽な動きをする男たちに対して笑いを堪えられなかった者が「ぷっ」と噴き出した。
しかしその後は別に兵たちがつられてこの光景に我慢できずに大笑いを、などとはならずに、そこかしこで小さく笑いを堪えきれずに噴き出す音が響く。
「おい!先程から何を馬鹿な事をしている!さっさとあいつらを一思いに捻らぬか!さっさと飲み込んでしまえ!・・・おい!」
第二王子がそう怒鳴るのだが、しかし一向に誰も前へと進めない。進めないばかりか徐々に後退してく。
俺の創り出している壁が狭まって言っているから。そう、俺はこのままこの集団をこの「結界」で押しつぶすつもりでいる。
ホンの少しづつ絞られていく、狭まっていくソレに段々と壁に近かった者から気付いて行く。その者たちの気付いた時の表情は「まさか」と口は半開き、顔色は真っ青で目を見開いて硬直していた。
「あー、もう一度だけ言う。抵抗せずに素直にお縄について裁きを受けるなら、この場では殺しはしない。武器を全て捨てて観念した者だけを通す。まだまだ、まばらで隙間があるうちに投降する事を勧める。で無ければ君たちは後悔と恐怖と苦しみと痛みの中で死ぬ事となる。もうコレ以上は何も言わない。よく考えるように。」
俺はそう言うと王子様に兵の配置をして貰う事にした。この「結界」を囲うようにである。出てきた者たちを捕縛する準備をしつつである。
結界の範囲は分かりやすい。見えない壁を剣で切りつけている者たちが、そしてどうにか狭まっていく壁を押し返そうとしている者が居るからだ。
この四百近い者たちを囲う形は円形のドーム状だ。円筒状だともしかしたらこの中で魔法で空を飛べる者が潜んでいるかもしれないからだ。
この世界で俺だけが空を自由に飛べるのだ、なんて事は思わない。きっと広い世界のどこかにそう言った魔法を自由に使える者が他に存在するかもしれないのだから。
今ここにもそういった魔法を自在に操って空中浮遊ができる魔法使いが紛れ込んでいないとも限らない。それを確かめる方法は無いし、その時間も無駄だ。こうして天井まで覆ってしまえば出て行けはしないだろう。
もしかしたらこの俺の結界を破る事のできる者が中にはいるかもしれないが、今の所はその様な者は出て来ていない。
「で、エンドウ殿。コレは、まさか?確かに抵抗する者は容赦無く斬り捨ててその場で殺す事も許可は入っていますが・・・コレは流石にやり過ぎでは?」
もう既に王子様はこの先の結末を予想できたようだ。このままだと凄く悲惨な事になる、と。いくら金で雇われているだろう悪人ゴロツキだろうが、このままではあんまりな最後になってしまうのではないのかと。
情けを掛けるつもりか、もしくは犯罪奴隷として売り飛ばせるかもしれないモノが、ここでそれらが全部無しになるんじゃないかと心配しているのか。王子様はこれを「やり過ぎでは?」と表現する。
でも俺は既に慈悲は掛けている。ちゃんと忠告はした。コレでいち早く異変に気付いてちゃんと心変わりをしないと死ぬのはこいつらだ。
コレは俺が殺すのではなく、生きる道を放棄した者が死ぬのである。選択肢は示した。二つに一つだ。
もちろんこの「壁」を通り抜けられるのための判定は、俺の脳内の魔力ソナーで反応がしっかりと敵意の「赤」から「白」に変わった者だ。
しかし赤のままでも抜けるための方法はある。もちろんそれは武装放棄だ。持っている武器を全て捨てたというのが分かれば通り抜けられるようになっている。
敵意は残したままでも本人が「武器は全部捨てた」と言う意識が投降する意思「アリ」と見てソレを感知するようにしておいてある。脳内レーダー便利過ぎる。
もしかしたら「隠し武器」などを持っていた場合は、それがその者の「意識」に反映されるので赤のまま、そしてまだ抵抗を見せると言う意識が抜けないので壁は通り抜けられない。
身に着けている物で「コレは使いようによっては武器になる」と言った意識を持っている者も当然「隠し武器」と言う認識でこちらは処理するので壁は抜けては来れない。それを捨てなければ当然だが脅威と見なし壁を抜けさせはしない。
そして武器を全部捨てたとしても抜けられないタイプもある。それは「王子様を襲ってそのまま人質にして逃げ出してやる」と言った考えの持ち主だ。
こうしたタイプは隙を突いてやる、あんなヘナチョコ王子なんて抵抗されない様に体術で一発で気絶させれば、などと言った思考を持っていると駄目である。
一発逆転を狙うような思考を持っている者はそもそも諦めてもいないし、捕縛されるつもりなんて全く無い。真っ平御免とばかりにこちらの油断を誘おうとする。
そんな奴を抜け出させる理由は無い。そう言ったモノは最初は捕まっていても途中で知恵を絞って逃げ出すチャンスを窺い続けてくるものだ。
ならば後でそう言った面倒を抱え込むくらいだったら、その者は最初から壁から抜け出れない様にしておくだけだ。
そう言った者にはちゃんとしっかりと心が「折れ」たら出られるようにしておくのがここでは一番良い。
さて、俺がそうして「結界」の出られる条件を脳内である程度整理している間にもどんどんと壁は縮んで行っていた。そして暫くしたら、とうとう記念すべき一人目が抜け出てきた。
その男はしっかりと「白」でしかも武器も全部捨てていた。そして叫ぶ。
「死んでたまるか!こんな恐ろしい魔法なんて俺は知らねえ!クッソ!もう、もう駄目だと・・・死ぬかと思った・・・こんな事になるならこんな仕事受けなきゃよかった・・・」
その男は壁へと剣を何十回も叩きつけていた者なのだが、途中で自らの運命が「このままだとどうなるか?」をちゃんと想像できたようだ。
そうやって自分の最後を鮮明に想像した事に因ってその男はボッキリと心が折れたようだった。




