壊滅と解決?
「どう言う事だろうか。差し向けた者たちは全てが失敗に終わっている。」
「簡単に行く仕事だと思っていたのだがな。運良く、と言った部分がどの失敗も強い印象だな。」
「おいおい、誰だよこの仕事を受けようって言ったのはさー?」
「今更だろう?おぬしも最後は賛成に回ったであろうが。ここに居る者の全員の認識が甘かったと言うだけの事だ。」
「しかしだ、今回仕向けた数は幾つだったか?もう成功していれば今頃は第一王子は死んでおるはずだ。第二王子もさぞ喜んでいるハズ。」
はい、コレで確定だ。メルデントルが主犯でした。それと暗殺が今回も失敗した事はまだ報せが来ていない様子。
「天井に潜ませての奇襲は失敗してもいい。少々痛い消費になるが、二つ目のメイドを操っての犯行が上手くいくようにするための囮だ。これだけやれば失敗は無いだろう。我が組織の犯行だと言う足も出ない。こればかりは防がれる事もバレる事もあるまい。」
いや、余裕だったけどね。だけど確かに度肝は抜かれたな。しかし俺の魔力ソナーの「穴」を知る事ができたと言った所は感謝かもしれない。
「その方法なら安心だよなあ。それにその方法なら万が一にも失敗はしないと思ってるけど、調べられる前に始末するための駒は忍び込ませてあるしな。今ん所、俺んところから騎士に入らせた奴だろ?それと、あの見た目がちびっ子のヤツ。二つ仕込んどきゃ大丈夫だろ?始末するに失敗とか、これなら有り得ねーし?」
有り得ました、しかもあんたらが思いもよらない方法で。
「では、これにて解散とするか。もう少々すれば連絡員もこの場に来るだろうが、どうする?報告をこの場で全員待つか?」
ここで俺は扉を開いて中に入った。もちろん俺がその「連絡員」だと錯覚させるためだ。
でも、よく考えたらこんなバッチリなタイミングで、しかもこの部屋に入る許可も取らないでいきなりのご登場だ。
「何者だ?」と、そう警戒されてもいいはず。なのに完全にこの五人は俺の事を警戒しない。これには俺の方が拍子抜けしそうになった。ドンダケ危機感が無いのか?と。
でも、こいつらはここが絶対に安全だと思っていたのかもしれない。入って来るなら組織の関係者以外に有り得ないと。
しかもこの五人を捕まえようとするならば一人でこんな場所に潜入なんてするはずが無いとも考えているかもしれない。第二王子からの特別な使者が来たとか思っている可能性もあったりするかもしれないが。
ソレにしたって無防備過ぎる、と思ったのだが、どうやら仕込みで服の下に武器を隠しているらしい。
そしてこの五人はどうやら自分の実力にかんしても大分自信をお持ちのようだ。
「暗殺は無事失敗、第一王子は未だ健在でしかも始末用に潜ませていた者たちは身動きできない状態です。」
俺はここで自分の事を挨拶する前におふざけを入れた事実を述べ伝えた。
ここで真っ先に違和感から武器を抜いたのは五人中四人。当然だ。最初に「無事失敗」何てふざけた言い方をしたのだから。
そして残る「はァ?」と言った顔になって動かないでいるのが一番若く見えるチャラそうな男だった。
武器を抜き構えた者たち四人は面隠しをしているが、老人と言った印象がある。聞こえていた声からしても全員が有る程度はしわがれた声だったから恐らくは間違っていないと思われた。
とここで一番最初に動き出したのは意外にも動きを止めていたチャラ男だった。こいつだけ顔を隠していないのだが、短髪で髪を後ろに撫でつけている。目つきは吊り上がっていて、何だかニヤニヤしていた。
「ま、適当に死んどけ。」
その一言でチャラ男から俺へと魔法が放たれた。火の玉だ。大体バスケットボール大の、である。
この男は魔法に、そして人を殺すのに慣れている印象を受けた。老人たちが動かない状況で真っ先にこのチャラ男が魔法で攻撃してきたのだ。
恐らくは「殺してから考える派」と言うヤツなのだろう。爆発が凄かった。そして煙も凄い。
俺に魔法が直撃して爆炎が俺の通ってきた通路の方にも溢れ出していた。これほどの魔法を受けたのが普通の人なら木っ端微塵だろう。
「まあ、何処の誰だか知らねーが、間抜けだったな。俺の魔法をまともに食らってりゃ肉片一つも残りゃしねーし?」
「相変わらずお主の魔法は凄まじいな。これでは跡形も無いだろう。詠唱を「適当に死んどけ」などと言った言葉にしてしまうのはおかしいが。それをできてしまうお主はソレだけの修練を積んだのだから文句も言えんが。」
「おいおい、俺を褒めるなら素直に凄いと言えよ。それとカッコ悪いから修練積んだとか言わないでくれるか?俺は天才なんだよ、天才。俺様は「賢者様」なのさ!」
爆風で少々乱れた髪を手でかき上げてきらりと白い歯を見せるチャラ男。どうやら自分で自分を「賢者」と呼んでいるようだ。
俺にはその神経が分からない。自分で賢者と名乗るのもそうだが、天才だ等と。本当の天才とはどう言ったモノかを俺も知りはしない。
だけども俺からしてみるとこのチャラ男がどう見たって「天才」には見えないのだ。そう、詠唱なんてしている時点で。
(もう師匠はあれくらいなら何も口にせずにできるんじゃないかな?このチャラ男が天才だって言うなら師匠は何だろうか?ソレで持ってじゃあ俺は?いや、やめとこうこの考えは。虚しいだけだ)
俺はまだ煙の中だ。しかしこの五人は既にもう俺が死んだものと思って会話が続く。
「こやつを生かして捕らえて情報を吐き出させれば良かったのでは?」
「いや、すぐに危険の排除で正解だろう。ここにどうやら手が伸びているのだ。我らの命を考えればすぐに始末をつけたのは正解だろう。」
「音も振動も大分出た。ここを直ぐに出よう。それと、もうここは使えんな。勿体無い事だ。」
「なあ?とりあえず早く出ねえか?煙が目に染みんだよな。さっさとこんなシケタ場所から出ようぜ。」
「しかしどうやってここがバレた?まあ、いい。後々で調べさせよう。」
ここで面隠しの老人の誰が何を言っていたのかの判別は別に重要じゃない。どうあってもここで全員を俺は逃がさないからだ。
「・・・ぬ!う、動けんぞ!?どうなっておる!」
「ぐぬぬぬ!なんだこれは!?どうなっている!」
「あ、脚が上がらん所か、身体全てが!?」
「指先一つ動かせんぞ?どのようにしたらこの様な・・・」
「おいおいおい、コリャ魔力だぞ?固められてんなァ?オラよっと・・・って、おい!おいおいおい!?何で俺の魔力で解除できねぇんだオラ!?全開だぞ!?俺の!魔力の!全開で・・・ぐぬぬぬぬうううう!?くっそがああああ!何で解けねーんだよお!?」
俺はかなりの量をこの魔力固めに詰め込んだ。このチャラ男も絶対に抜け出せない程に。だってちょっとムカついたのだ。
「いきなり魔法をぶっ放すってさ。ここが崩落したらどうしようとしていたんだ?、何処がどう崩れるとか、もしくはこれぐらいなら大丈夫とか、計算してから放ったのなら分かるけど。あれ、何も考えないで撃っただろ?アレで天井崩れてきて生き埋めとか面倒臭いじゃないか、そうなったら。」
俺が徐々に晴れてきた煙の中からそう言ったモノだから五人が目を見開いてこちを見た。見ようとした。
でも魔力固めで首まで動かせない状態で視線だけをこちらに必死に向けてきている。
「俺様の魔法で無傷だとぉ?!馬鹿な!どうやってやり過ごしやがった!直撃したはずだ!」
俺は喋る事だけはできるようにしてあるのでチャラ男がそう叫んでくる。まあ直ぐに黙らせてこのまま国の兵士に突き出しても構わなかったのだが。
「まあ、いいじゃないかそんな事は。で、あんたらは暗殺組織の偉い人達、って事で良いのかね?じゃあすまないけどもそのまま俺に付いて来て貰うから。宜しく。」
俺のこの言葉に全員が黙った。俺が喋る事を封じている訳じゃ無い。コレは多分諦めたからだ。絶体絶命のピンチ。しかも抜け出せるいいアイデアは無に等しい、と。無駄なあがきにこの場で今なるよりかは後々まで待って逃げ出せるタイミングを待つと言った所だろうか?慎重な判断だ。
「お前は誰に雇われた?どうやってここを見つける事ができた?どうやって侵入してきた?」
しかし五人の中の一人が光明を見つけ出そうとしてどうやら話しかけてくる。会話をしてこちらの意図を引き出し、そこから交渉でも持ち掛けて解放するように仕向けるつもりであるのだろう。
でもコレに俺は応じない。ニッコリとした笑顔で彼らを歩かせる。俺は魔力を操作して彼らの身体を無理矢理操って歩かせる。
チャラ男だけが抵抗を試みようとして自身の魔力を放出して脱出を図ろうと必死な形相だ。だけど無駄である。俺はそれを許したりはしない。
チャラ男が放出する魔力の倍を流し込んで無駄な抵抗を抑えつける。すると流れ込んできた魔力量が自身では撥ね返す事が不可能だと悟ったチャラ男が絶望でもしたのか、もの凄く「残念」すら通り越した表情になる。その形相には憐れみすら感じる程の「絶望した」と言った具合か。
「さあ、次はえーっと?城に一番近い家だったな?ん?屋敷だったっけ?ま、いいや。でもこの五人はどうしよう?どうせ城に行くつもりだし一緒に連行するか。」
どうせこいつらは衛兵に渡してもどうせすぐに城の方へと連れて行かれて牢にぶち込まれるだろう。
暗殺組織の幹部だろうから衛兵詰め所だとかにはずっとは置いてはおけないはずだ。そうなれば多分、事が重大過ぎると言う事で、結局は城の方での厳重な牢にでも入れられる事になるだろう。そこで尋問がされる事となるだろう。
このまま俺が城に戻るついでに王子様にでも引き渡せば、王子様の手柄として収まるのではないだろうか。そうなれば王子様の味方に付く者たちも少しは増える可能性もある。
「まあどう転ぶかは先が分からんし、そこまで俺が何かと世話を焼く必要も、立場でも無いや。」
取り合えず今は最後の場所へと向かうばかりだ。こうして俺は元来た通路を五人と共に出る。外に出れば何やら小屋の周囲が騒がしい。
どうやらあの魔法の爆発で小屋からは離れている場所から「何がどうした!?」と言った騒動になっている様子だった。
なのでコレに巻き込まれない様にこの場所から遠回りに教会の敷地を出ていく。幸いにもこの小屋に近づいてきた周囲の者たちと入れ替わりでこの場から去る事ができた。
「えーっと?コッチかな?五人も連れてると目立つけど、空を飛ぶのは・・・うーん。じゃあこのまま走るか。」
俺は空中を飛ぶのを控える事にした。五人も連れているから全員を操作して一緒に空を飛ばせるか不安だったので、仕方無くこいつらを走らせる事にした。
とは言え、面隠しをしている老人が大通りを走っている光景など目立ち過ぎるので、俺は人気の無いルートを脳内にマッピングしてから走り出した。
グルグルとあっちへ、こっちへと彷徨い続けつつもどうにか最後の目的地に着く。
「さて、どうしようかな?じゃあチャラ男君に門を開けて貰おうかな。」
俺はそのままぐったりしているチャラ男を門番の前まで歩かせる。チャラ男だけじゃ無く他の四人もぐったりとしているけれどもそこは無視だ。
息も絶え絶え、と言った感じであるが、この程度で人は死にはしない。とは言え、この五人の口は塞いではいないのでもしかしたら舌を噛んで死のうとする可能性はある。
けれどもそれはそれで放っておくつもりだ。こいつらが死のうが死ぬまいが、今の所俺にはさして影響は無い。
薄情だとか、冷酷だとか、そんな風に他人から言われるかもしれないだろう判断だが、ここは私が生きていた「日本」では無い。
既に俺はこのチャラ男に殺されかけている。ならばそんな相手に掛ける情けは無い。寧ろ情けを掛けているのはこちらの方だ。
自殺すると言う選択肢を取れる状態にしてあるだけありがたいと思ってもらいたいモノである。
まあ自殺する勇気や決断など、この五人にできるだろう気配はこれっぽっちも見当たらないが。
部下たちには仕事を失敗したら「処分」何てのを押し付ける癖に、こうした組織の上に居る幹部はこう言った自分の絶体絶命に自殺なんて選んだりしない。
こいつらは自分の命惜しさにきっと自分たちの組織の情報を売るだろう。そしてその見返りにでも自分たちの身の自由を引き出そうとするはずだ。
俺に交渉をしようとして何者だと問いかけてきた奴がいた時点で、この五人の動き的に見てそういった流れを考えているだろうと簡単に察する事ができる。
そしてまだチャラ男はここでまだ諦めていないみたいだった。
「おい!この妙な男を直ぐに殺せ!兵を集めろ!取って置きの「道具」を集めて即座にこいつを殺せ!」
喋れるようにしていたので当然だが、この屋敷の門番へとそうチャラ男が命令を出す。するとその門番は門を通って大急ぎでその命令を伝えるために敷地内を猛ダッシュする。
そして屋敷の中へと入ると「ピュー」と笛の音が響いたのがこちらにも届いた。
「じゃあ行きましょうかね。こうなったらもう派手にしちゃってもいいだろ。あ、五人もいるから他に拠点は無いか聞いてそこも潰すっていうの流れも?まあそれは面倒臭いからここで最後にして城に一旦戻って報告はしないといけないか。」
俺は門番の開けた門の隙間から屋敷の敷地内へと侵入をする。後ろから連行している五人を引き連れて。
先程はチャラ男だけが叫んだが、他四名は未だに黙って居る。頭をフル回転させてこの場をどうやったら切り抜けられるかを一生懸命に思考しているようだ。
俺は彼らに魔力固めを施している。そしてその魔力は俺と今の所この五人を操るために繋がっているので、その「様子」がありありと手に取るように分かってしまう。
コレがもし俺の魔力を分離しておいて個別になっているとすると、ここまでの事は察する事はできない。でも今は全員の動きに妙な部分が無いかどうかを探りつつも変な真似をしない様にするために魔力は繋げたままだ。
そんな状態で俺はちょっとした「悪い事」を考えた。余計な事をこの五人に考えさせる暇など与えないと言う点でも良いアイデアだと思う。
「じゃあ、あんたらにちょっくら仕事をして貰おうかな。」
五人へと繋げてある魔力を俺は全部同時に操作する。しかもかなり複雑な事をさせるつもりだ。
なので魔力で俺の「脳」の強化を意識して、久しぶりに脳をスーパーコンピューター状態へと意識的に持って行った。
であえであえ、などと言った時代劇でしか聞いた事の無い言葉が庭に響いている。もちろんそれはこの屋敷で仕事をしている責任者たちの声だろう。
庭にはどんどんと屋敷から人が出てきて埋まっていく。五十人程が集まるとそれは止まった。どうやらここに常在している警備の者たちの様なのだが、そいつらの格好は統一はされておらず、全員が「ならず者」と言ったバラバラな装備である。
そこへ最後に勿体ぶったように一人の男が前に出てくる。その着ている服は高級品で戦闘をすると言った感じの服じゃない。
装飾品を体中にジャラジャラと付けたいかにもな「成金」の格好だった。
「おい、何故お前らが五人揃ってこのワシの屋敷に来ている?しかもそいつは一体誰だ?伝令からはその男を殺せと、お前は言ったらしいなコンド?」
チャラ男の名はどうやらコンドと言うらしい。しかし俺はソレを覚えておこうとは思わない。今後もチャラ男で良いだろう。こんな奴の名前など覚えておく気にはならない。チャラ男で充分だ。
そしてどうにもこの成金、このチャラ男よりも「上」のようだ。偉そうな態度でチャラ男を睨んでいる。
そしてデブだ。それこそバランスボールを想像させるような見事な体形をしている。そしてハゲ。見事なまでに不摂生が祟っている様相を呈している。脂ぎった皮膚、弛んだ顎、ぶよぶよの脂肪。
どう見ても役満だ。宇宙戦争の映画に出てくる宇宙人の「アレ」に似た顔つきで、聞くたびに不快な気分にさせるだみ声と、本当にこの男とは長く喋っていたくない気分にさせられる。
「後で話は聞くが、この様に私の手を煩わせた責任は重いぞ?お前たち、あの男を殺せ。」
最後にその成金は言葉を吐いた。心底怠そうに、つまらなさそうに。
そしてその命令でこの場に出てきている部下たちがジリジリとこちらににじり寄って来る。どうやって反撃をされるかを警戒しているのが分かる。
流石暗殺のプロ集団と言ったら良いのだろうか?それとも自分が痛い目を見たくはないから全員が様子見と言う臆病者、卑怯者であるのだろうか?
そちらが来ないならこちらから行くしかないだろうと、俺はそう思って五人をけしかける。
そう、先程思い付いた「悪い事」とはこの五人を操ってこいつらを攻撃させる事である。ここまで来るともうこの成金は「犯罪者」で確定している。
ならば遠慮は必要無いだろう。俺は思い切ってここで全力で暴れてみると言う実験を行うつもりになった。
自分が何処まで今の現状で出来るのかを調べるためだ。この五人を操って五十人を超える戦力にぶつける。その差、十倍。
圧倒的にこちらが不利な状況で何処までできるのか?いつも俺はこういった場面は「魔力固め」で全て一瞬で終わらせていた。
でもここでどうにも他の方法とやらは無いだろうかと言う思い付きをしたのだ。せっかくこの五人をこうして今操り人形としているのだからソレを使ってみようと。
この思い付きはこの五人にとっては「悪い事」でしかない。助けて欲しいと願いつつも、その相手を自分の手で屠るのだから。
そしてこのアイデアは俺にとっても「悪い事」である。相当な「悪意」と言うべき行いだろう。やる事がかなりエグイ。
でも今まで殺しと言う仕事をしてきた外道にはお似合いの仕打ちと言うべきか。遠慮など今の俺の中には無い。と言うか、浮かんではこない。
この様な外道にはピッタリな最後だとすら思ってルンルン気分だ。後でその事を振り返ってみて自分でかなり落ち込むのだが。
今の俺はそんな事すら御思いもつかずにこの五人に先制攻撃を仕掛けさせた。先ずは一番近くに寄ってきた者へと一撃を振りかぶらせる。
「気を付けろ!私たちの身体はこいつに操られている!躱せ!油断をするな!」
せめてもの慈悲と言えばいいか。俺は彼ら五人の口を動かせるようにしてある。なのでここで一人がそう警告を発した。
どうやらここまで来る間、操られている事を伝えるのは後々に助かった時を考えて自分の立場が「不利」になると思って喋らなかったようだ。
そしてこうして突然その事を話し始めたのは俺が彼ら五人をこいつらに「ぶつける」と瞬時に悟ったからだろう。頭の回転が速い。
いきなり襲われた方はと言うと「え?」と言った顔になっていた。そしてバッサリ。
哀れその男は右肩から左わき腹に掛けて深く大きな傷を負った。助からない致命傷だ。
幹部の五人が操られており、この場に集まった者たちに襲い掛かる。それは大きな混乱をもたらしていた事だろう。本来なら。
だけど警告がなされた今、こちらを囲ってきている男たちの混乱は最小限とも言える位には抑えられてしまっていた。
そしてその警告が事実だと言う事をしっかりと一人だけの犠牲で実感をしたのだ。コレがもし警告なしだった場合はもっと多くの被害が出たに違いない。
運が良かった?いや、この者たちにはどちらでも無い。結果は決まっている。
「じゃあ、蹂躙しようか。そうだな。お前らには悪夢の始まりって感じか。・・・臭いセリフだった。口にして後悔するなコレ。」
自分の今のテンションがそんな臭いセリフを口にした事でおかしい事に気付く。どうやらここに来るまでの間に少々気が高ぶっていたようだ、知らぬ間に。
俺はコレで冷静になった。ここに居る者たちを全員殺そうかと思っていたのだが、数名は生きて捕縛しておくのが最上だろう。
当然その生かして捕縛する者の中にあの成金も含んでいる。不快感が凄いので視界にも入れておきたくは無いのだが、それでもこの組織とやらの「上役」である事はチャラ男に掛けた言葉で判明したので殺すと言う選択肢は無しだ。
正直に言って俺として跡形も無く消し飛ばしたい、と言った感想はあるのだが、しょうがない事だろう。この場ではこの感情を我慢するしかない。
そう思っている間に戦闘が発生している。もちろん俺の方からこの五人をけしかけている。相手側がこちらをより一層警戒して攻めてこなかったからだ。
一人、また一人と相手側の男たちが沈んでいく。もちろんその際には相手側も反撃をしているのだが、その攻撃は一度だってまともに入らない。
それもそうだ。俺が操っているこの五人にはそもそも俺の魔力が身体中に張り巡らされている。重い剣の一撃も、鋭い一刺しも、そんな物は全く通りはしない。
幾ら反撃をしても掠り傷一つ付けられない事を理解し始めた者から逃げようとして後ずさっていく。自棄を起こして斬りかかる者からどんどんと地面へとその身体を沈ませていく光景に恐怖の方が勝ったのか、男たちが二人三人と逃げ出そうと背中を見せる。情けない悲鳴と共に。
「だけどまあ、許しはしないんだがな。お前らは固まってろ。取り合えずあと何人必要かな?まあ暫くはこのまま適当にやっておこう。」
まだ人数は残り二十人と言った所だ。もう既にそれほどまでに始末は終えていた。何せこの操り人形と化している五人の身体能力は高い。それと持っていた武器も相当な業物であるらしかった。切れ味が落ちないのである。
相当な数を斬ったのに、たったそれだけの事とは言えども切れ味が落ちない事で切った敵は一撃で地面に沈んでいる。早くにこれだけ数が減るのに充分なスペックであった。
仲間を襲っている状況の五人の口からは俺への恨み言が発せられていたが、それも暫くすると止まった。俺が止めた訳じゃ無い。彼らがソレを無駄な事だと判断したから口を閉ざしたのだ。
まあその恨み言は別に俺は聞いちゃいなかったのでそういった意味でも無駄口とも言える。
そうこうしている内に敵の数はこちらへの敵意を保っていて立っている者は六人となった。その内の一人は成金だ。
逃げるでもなく俺を忌々しいモノを見る様な目で睨んできている。こういった手合いはまだ隠している手札が有ると言うのがバレバレだ。
「確保したのは結局逃げ出そうとした十人。良くこれだけの数が戦意を喪失しないで向かってきたな?よく訓練されている、と褒める所なんだろうな。でもまあ、死んじゃ本も子も無いよ。」
まあこの場合は捕まっても、どちらにしろ生きていられる保証は無い。最終的に処刑ともなれば捕まっている間、尋問を受けている間は生きていられると言うだけで時間の問題だったりもするのだろうが。
こいつらが「許される」と言う事は無いに等しいのだろう。このような組織に属していたのだから。命が助かるだけの情報を持っていない限りは「助けて欲しい」などと言った交渉すらできはしない。
「貴様は一体何者だ?この私をゲンドル公爵と知っての狼藉なのだろうな?」
知りません。ええ、知りませんとも。そして公爵と言う立場にある人間が暗殺組織の上役だと。この分だと上役と言うよりも総帥とか言う対場なのか。
「うわぁ・・・なんだよ、腐ってるにも程があるだろうに。公爵?公爵?え、大丈夫なのこの国本当に?」
思わずそう口から漏れてしまった。コレに反応したゲンドル公爵は偉そうに胸を張る。何処から何処までが胸なのか分からないその体形で。
「時間は稼いだ。もうソロソロ衛兵がこちらに来るだろう。百人は下らん。さて、私の飼っている私兵とは違い国の正規兵は装備も実力も段違いだ。観念するんだな。それと、もう必要ないだろうが私の気が済まん。とっておきの切り札を使ってやろう。お前は、お前らは肉屑と化してもらう。」
どうやら俺「たち」全員をこの場で始末する気らしい。公爵自らの切り札で。要するに「死人に口無し」であると。
正規兵たちが到着した時には有る事、無い事を俺たちの責任として乗っけて死体だけを渡す、そんな事らしい。
そしてその公爵の一言の後に直ぐにその切り札とやらは現れた。屋敷の扉を「狭い」と言いたげな顔をして出てくる一人の大男。
「公爵様?こいつを殺せば俺の罪を減らしてくれるって本当か?へっへっへ。そういや人を殺すのって何年ぶりかな?良いよね、人殺し。楽しいんだ。あいつらが死を前に浮かべる何もかもが、さ。」
この大男の発言から察するに、どうやら公爵お抱えの殺人鬼らしかった。




