どうやら護衛をする事になりました
ここでの事は全て内密に、とお願いしておいた。二人がこの求めに頷くのを確認してから俺は魔力操作の話をする。
とは言っても俺がする話は金箔の話だ。イメージの元にしたのはこの薄さであるので、それを丁寧に説明した。
「ふぬぬぬぬ?いくら力を込めようとも薄くはできぬのだが?コレは一体どう言う訳か?」
デンガルが早速だが俺の話を聞いて魔力を展開しようとしたのだが上手く行っていない様子になった。
まあコレはつむじ風の全員も鍛錬してできるようになったモノなのでいきなりは難しいだろう。
薄く引き伸ばすコツもそれぞれやっている本人が掴むしか方法は無いので根気が要るはずだ。
ミッツはどうにも確か立体的に範囲を広げる事ができていたから個人差と言った部分もあったりするだろう。
「コレは・・・大分難しいね。私も挑戦してみたが、上手くは行かない。デンガルは・・・顔が真っ赤だぞ!?おい、中止しろ!」
王子様が慌ててそう叫ぶ。デンガルが必死になり過ぎて顔に血が上り過ぎていたからだ。本人はプルプルと震えつつも集中力が凄いのか、王子様の抑止を無視して続けようとしていた。
「頭の血管が切れて死んじゃいますよ。落ち着いて根気よく、少しづつ広げるように。いくら身体に力を込めたって魔力操作はそう言った物では無いでしょう?上手くはいかないんじゃないですか?」
俺のこの言葉を聞いてデンガルが「ハッ!?」とする。どうやらちゃんと耳は通じていたようだ。
「むむむむむ!?興奮し過ぎていたか・・・心配をおかけして申し訳ありません殿下。」
デンガルはようやっと全身の力を抜いた。でも魔力操作は止めようとはしていない。器用なモノである。
こうしてデンガルの魔力操作にポツポツとアドバイスをしていると時間はそこそこ経つ。どうやらこの隠し部屋を見つけることができなかったらしく、先程まで押しかけていた者たちの声が聞えなくなる。
「もうソロソロ出てもいいかな?私も自室に戻って考え無ければならない事がある。デンガル、戻ろう。」
王子様がそう言って椅子から立ち上がる。考えなければならない事と言うのは恐らくだが婚約者の事であろう。
デンガルは戻る事を惜しんでいる。俺が内密にと言った事であるからして、この魔力操作は人目のつかない場所でやるべきだとしっかりと認識してくれているようだ。
なのでまだまだ集中力を高めているデンガルにとってはここで一人で閉じこもっていたいと考えているかもしれない。
「お前にも仕事があるだろう。今日はここまでにしておけ。出る時はどうするんだ?」
王子様がこの部屋のからの出かたを求める事でやっとデンガルが椅子から立ち上がる。
「ムムムぅぅぅウウ!?仕方がありませんな。では、こちらに。」
そう言って短い階段の一段目に足を掛けるとそこを踏み込んだ。すると扉がスーッと音も無く開く。
こうして隠し部屋から出ると誰もいない。もしかしたら誰かがずっと部屋で静かに待っていた可能性もあったが、それは大丈夫だったようだ。
「おっと、気を付けなければいけませんでしたな。もう既に全員が去ったようですが、油断しておりました。」
どうやら隠し部屋の「危険性」とやらを失念していたデンガル。王子様も「待ち伏せされていたら」と言った部分に直ぐに思考が行ったようだ。頭の回転が速い様である。
「エンドウ、君に相談がある。私の部屋へと来てくれないか?」
王子様はそう言って俺に頼み事をしてきた。これを俺はどうしようかと悩む。
もうやる事はほとんど終わったからだ。城で「まとも」に話のできる相手は二人確保した。その二人に後ろ盾になって貰って断りの書類は正式な手続きも踏んだ。後は城で「大暴れ」を残すのみとなったが、それはもういいかな?とも思い始めていた所だ。
「うーん?それってやっぱり「例の件」の事ですか?余り乗り気はしないんですけどねぇ。」
暗殺、などと言う言葉は迂闊に出す事はできない。その事実はもう既に城の者たちに広まっているかもしれないが、大っぴらには口には出せない事案だろう。
ソレに巻き込まれるのか?と思うとこの王子様の相談にはあまり乗りたくはない。だけれどもこうして後ろ盾になって貰ったし、そもそもこの暗殺に侯爵令嬢、王子様の婚約者が一枚噛んでますよと教えた責任は有る。それと。
「ああ、ここで王子様が死なれちゃ困りますよね。なんたって俺の手続きに連名してくれたんだから。居なくなてもらっちゃ困る。あー、駄目だなコレ。分かりました。承りましょう。」
「そう言って貰えて助かる。そうで無ければ王族命令でエンドウを無理矢理引き込まねばならない所だった。君ほどの者を味方に付けられて心強く思うよ。」
王子様は俺が断ろうとしたら王族特権で俺を取っ捕まえようと考えた程らしい。それだけ俺を高く評価していると。
コレは冗談では無いのだろう。助けた時の刺客を文字通り「止めた」事もそうだが、こうして魔力操作をして見せた事で王子様は何としてでも俺を味方につけたいと思ったに違いない。
だがまあそれでも「無理矢理」なんて言葉は本気では無いのだろう。俺がそんな事で捕まえられるはずが無いと王子様も思っているらしく、自分で言っておいて「悪い冗談だった」といった顔になっている。
「ああー、長引きそうかな?一旦時間を見繕って皆に報告?でもなあ?戻る時間、有るかな?」
そう考えつつ王子様の部屋へと戻る事に。デンガルは難しい顔をしつつもどうやら今日の仕事があるらしく執務机に乗った書類といつの間にやら睨めっこをしていた。
コレに王子様は声を掛けずに部屋を出る。廊下に立っていた護衛も王子様が出てきたその後ろに付いて来る。
そしてやっぱり俺の事を睨んできているのだが、コレに王子様が一瞥すると護衛は一礼してそれ以降は俺を睨まなくなった。
こうして王子様の部屋へと到着して直ぐにお茶が出される。しかも王子様手ずからだ。
「座って楽にしていてくれ。じゃあ先ずは、エンドウ殿に頼みがある。」
畏まって俺の名を「殿」付けで呼び直した王子様。もうこの時点で俺はいくつかの展開が予想できてしまった。
「私個人の護衛として付いてはくれないだろうか?もちろんずっとでは無い。「この件」が終息するまでの間をお願いしたいのだ。」
「はあ~。やっぱりそうかぁ。これ、断ると後々が怖いなあ?一つ聞きます。命を狙われたのは今回が初めてですか?」
コレに苦い顔をされる。どうやら以前にも幾度かこういった事があったらしい。
「近場に視察に行った際に野盗に狙われた事が一度。城で飲み物に異物を混入されかけたと言った事が一度。そして今回、だな。」
そこまでしょっちゅう狙われていたならオチオチ寝てもいられないだろう。命を狙われる恐怖と言うのは大分ツライものがあるだろう。俺もこの世界に来てすぐに森の中の生活に入り似たような経験を持っているので辛さが分かる。まあ俺と王子様とでは比較にならない差と言うのが有るかもしれないが。
「分かりましたよ。護衛はします。ですけど、他に王子様に味方はいないんですか?」
「痛い所を突かれたな。今はそうだな。弟の派閥の方が規模が大きいとだけ。そいつらも自分の利益だけしか見ない強欲者ばかりでな。今持つ既得権益を必死に守ろうとしている者たちばかりで厄介でな。しつこい、しぶといの二重奏だ。まだまだ力の無い私には手に負えなくてな。」
そんな取り巻きばかりのその弟様とやらがどんな奴なのかが、この説明だけで何となく察する事ができた。
「ああ、でもそうなると。侯爵令嬢も「そっち側」と言う事になりませんか?まあ、まだ確証が得られていないと言うのは有りますけど。それも苦しいのでは?」
もの凄く辛くて苦しそうな顔になって王子様が天井を見上げる。
「そうなんだよ、泣いてもいいかな?本当にそれが残念でね。おっと私の部下が来たようだ。」
そう言った王子様の言葉で俺は警戒を上げた。部屋の扉にノックが無いからだ。俺は全力で魔力ソナーを広げる。そうすると窓の近くに反応が有ったのでそちらに視線を向けた。
王子様の護衛を引き受けたとあってはここでのんびりとはしていられない。不審に思ったら即座に動かないと王子様は直ぐに殺されてしまう。そんな間抜けはできない。
「くっ!何故身体が動かん!?こ、これは!?殿下、どう言う事ですか?」
その声は静かでいて驚きを秘めつつ、王子様に問いかけている。しかし姿は見せていない。
ソレはそうだろう。俺が魔力ソナーを一瞬で広げて引っ掛かった不審者に「必殺魔力固め」を施しているのだから。その場から動けはしない。でも一応は喋れるように口は動かせるようにしてあった。
「エンドウ殿、解いてやってくれ。私の信頼できる一番の部下なんだ。ゼドル、こちらは私が雇った新しい護衛だ。挨拶をしてくれ。」
俺はその言葉で直ぐに解除をした。するとどうやらゼドルと言う男は直ぐに俺の力量を悟ったのか静かに窓際から姿を現して自己紹介を始めた。
しかしその顔は明かしては貰えない。覆面をしているからだ。
「お初にお目にかかる。殿下の護衛兼、情報操作、諜報をしているゼドルだ。以後お見知りおきを。・・・貴殿は計り知れぬ力を持っているな。これほどまでに冷や汗をかいたのは十年ぶりだ。」
どうやら俺は認められたとみていいらしい。王子様がこのゼドルの言葉に笑みをこぼす。
「お前がそれ程の言葉を口にするとはな。と言うか、エンドウ殿の力を褒めるにしたってもうちょっと言葉を選んだらどうなんだ。」
そう言って王子様は笑う。どうやら大分心を許した相手の様だった。褒めるだの言葉を選べだのと言うのはそもそも俺が彼の実力など知らないからだ。
十年ぶりだと言われても「それが何?」としか俺には言えないということである。この話は後にして王子様は話をし始める。
「で、どうだった?気付かれたりはしていないか?」
どうやらいつの間にか彼に仕事を頼んでいたようだ。護衛だというのにこの場を離れていたというのは諜報を頼まれていたからであるようだ。
それにしても俺はずっと王子様の様子を確認しつつこの城の中まで入っていたのに、そんな素振りを見せずにいつ王子様はこのゼドルに命令を出していたのだろうか?結構侮れない王子様である。
(婚約者にはベタ惚れだったけどね。でもどうやらかなりのやり手だし決断力もあるようだしな)
「気付かれはしませんでしたが・・・お耳に入れておきたい事が。流石に屋敷の中までは探れませんでしたが。メルデントルが居ました。入り口に。肩を抱いて屋敷へと一緒に入って行きました。」
この報告が何なのか俺は一瞬分からなかった。でも王子様のリアクションで察してしまう。苦々しい顔で俯いてしまったのだ。
「・・・それで、ミーシェルはどんな顔だった?そしてどんな態度だった?会話は少しでも拾えたか?」
どうにもコレは黒であるらしい。ゼドルが沈痛な面持ちでそれを語る。
「メンデントルは「どうだった?」と。そして・・・侯爵令嬢様の方はコレに「思わぬ邪魔が入ってしまった」と。」
この報告に俯いていた王子様が顔を上げる。確定してしまったのだ。婚約者が、愛しい人が自分を殺そうとしていた事を。
その表情は「無」と言った所だろうか。そして続けてゼドルの報告の続きを促した。そう、その時の婚約者の表情を。
ここで一縷の望みを王子様は託していたかもしれない。でもそれは裏切られてしまう様だった。
「殿下、余り思いつめられないようお願い申し上げます。・・・邪魔が入った、と言った時のお顔は非常に残念そうに見えました。そしてその後に肩を抱かれた時には嬉しそうな、顔を、しておりました。」
この報告を聞かせるのは部下として心苦しいのだろう。沈痛な面持ちでゼドルは報告を終えた。
「報告御苦労。ありがとう。ゆっくり休んでくれ。後の事は他の部下たちに分散しておいてくれ。行って良い。」
王子様のその時の笑顔はしっかりと部下を労うための物であった。しかしどうやら長年付き添ってきたゼドルにはその裏側はありありと読み取れるようで。
「・・・はい、畏まりました。失礼致します。」
と、暗い感じで部屋を去っていく。もちろん窓から出ていったようだ。いつもしている事なのだろう。慣れた感じだった。しかしその時には心配する視線を王子様に向けていた。
「一人にした方が良いかな?俺も一端部屋から出ようか?」
「ああ、気にしないでくれ。このままいて欲しい。まだまだ話したい事があるからね。」
ゼドルが消えた時にはいつの間にか立ち直っていた王子様。いや、無理に普通に振る舞おうとしているだけだった。
纏っている空気が痛々しい。感情の爆発を必死に抑え込もうとしているのか、表情筋がぴくぴくと稀に痙攣しているのが察せられた。
「で、話したい事とは?はぁ~。まあ護衛の件は受けちゃったしね。答えられる部分はいくらでも支障をきたさ無い程度くらいは話しますよ。」
「ああ、じゃあ聞かせてくれ。そうだな。「最初から」って言うのはどうだい?」
どうやら俺が師匠とどうやって知り合ったのか?そこら辺から聞きたいらしい。コレに俺は「さて、どうしたものか?」と頭を悩ませつつ、当たり障り無いような説明を頭を捻りながら王子様に聞かせるのだった。
そうしていると時間は過ぎる。もうかなりの時間が経ってしまい、さて俺は今日どうしようかと思った。もちろん寝床である。
このまま俺だけが宿に戻るのは駄目だろう。何せ護衛の頼みを受けてしまった。ならば最低でもこの城に留まる事をしなければならない。
「あの、一旦戻っていいかな?皆に相談もしておいた方がやっぱりいいだろうし。問題が片付くまで、でしたっけ?いつになるか、とか、分からない・・・デスヨネ?」
「ああ、そうだな。今日の所はもう城の中に居るからな。流石に派手な襲撃は無いと思う。まあ、狙われるとしたら寝込みかな。その時にはゼドルが見張りに立ってくれるし、大丈夫だ。いきなりこの様な頼みをしてそちらの都合も考えず申し訳ない。」
王子様はさも「何も感じていません」とばかりに寝込みを襲われる「暗殺」の話をした。コレに俺は「フラグ?」と思ってここで王子様に「応急手当」をしておく事にした。一応は何も言わずに、だ。
「じゃあちょっと説明しに行ってきます。いつ頃戻って来るかは分かりませんけど、多分明日の朝にはまた必ず顔を出します。それじゃ。あ、それとこれから見る光景は誰にも内緒でお願いします。」
椅子から立ち上がり、ワープゲートをサンサンへと繋げて俺は直ぐにその中へと入る。
その時に王子様が何かゴチャゴチャと言っていた気がするのだが、それを無視する。
「忙しい、ああ、忙しい、忙しい。なんて言ってる場合じゃない。さてと、宿に行ってみて、誰か居るかな?」
行って直ぐにこうして戻って来るのはどうかとも思ったが、多分つむじ風の皆は「まあ、お前だからな」と言って出迎えてくれるだろうと思う。
まあ皆の中でそんな評価に俺がなっている事が良い事なのか、悪い事なのかは分からないが。
そんな感じでいつもの宿へ。サンサンで最初に決めたこの宿はこの街の大体中心に在って観光する拠点として立地が良い。
で、宿へと入ると最初に会ったのはマーミだった。
「あら?速いわね?って言うか・・・勘なんだけど、その顔、またなんかやらかしたんでしょ?」
俺は別にいつも通りの顔をしていたはずなのにマーミから鋭いツッコミが入る。何で分かるんだろうか?女の勘とはこの世界でも不思議な解明できない現象だ。
と、そんなくだらない事を考えていたら、ラディが宿に戻って来た。
「・・・なあ?まだそんなに時間は経っていないだろう?速攻で大暴れして戻って来たのか?って言うか、そんなマネはまあ、しないか。いや、お前ならやりかねないな。」
ラディの中では俺はどういった人間として位置づけられているのだろうか、ちょっと問い詰めたい所だったがそれを抑える。俺の存在自体がテロだとでも言いたいのか?と。
一応は先にこの二人に話をしておいてしまおうと思って宿の食堂のテーブルについて貰う。
「ああ、ちょっと変な事に巻き込まれたらしくてな。王子様の護衛を引き受ける事になってさ。」
この言葉を聞いてラディは笑い、マーミは大きく溜息と、全く違うリアクションをされる。
「あーっはっはっは!こりゃいい!傑作だ!毎回お前は斜め上どころの騒ぎじゃないから面白い。」
どうやら珍しくラディが大声で笑う。どうにもツボに入ったらしい。この件のどこにそこまでラディの笑いのツボに入る部分があったというのか?ちょっと理解ができないでいるとマーミが話始める。
「あんたはいつもいつも妙な事に巻き込まれるわよねぇ。放っておくと何処に転がっていくか分かったもんじゃないわ~。」
コレに俺は反論する。仕事は成し遂げた、と。
「いやいや、つむじ風は召し抱えられる事を拒否する、って言う書類を出したから!一仕事終えてるから!しかも王子様とあれだ、ホラ?王宮魔術師のデンガルって言うお爺さんの二人の連名も貰って提出してるし?」
それに付け加えて断った際の監視や活動制限などのデメリットなどをしないようにと言うのも追加で捻じ込んできてあるから、と説明をしておいた。
「おいおい、それは大事過ぎやしないか?いや、エンドウが暴れた方がより一層大事に発展しそうなんだがな?・・・おや?そう考えるとコレは随分と控えめか?」
ラディはどうにもどこかで酒を飲んできているらしく、何時もの雰囲気と違って上機嫌で俺をからかってきている。
「ラディ、どっか美味い店でも見つけた?今度教えろよ?あと、ラディの奢りで。」
ちょっと低めの声で不機嫌さを装って俺は言う。コレにラディは「おおコワ」と言って一旦口を噤む。
「ねえ、じゃあマルマルに戻っても大丈夫って事?}
マーミがそう聞いては来るが、それに待ったを掛ける。
「いや、まだ書類は最終まで行ってない。止められてる状態だから無理かな。でも王子様と王宮魔術師の二人の名前が入っているから無視とか握りつぶすとかはできないと思う。時間の問題?・・・あ、そう言えば魔法固めしてある「あいつら」はどうなったかなぁ?」
あいつら、と言うのはマルマルの固めたままの使者の事とシーカク国での「諜報部(笑)」たちの事だ。
逆らったらヤバい奴として俺への認識を改めていてくれたら解放しても良いのだが。でも俺は放っておく事にした。
なにせあんな阿呆どもに掛ける情けを持ち合わせていなかったから。マーミから「あいつ等って?」と質問を受けたがこれ以上マーミから説教を受けない様に苦笑いでやり過ごした。
その後はカジウルとミッツが戻って来て一緒に酒場兼食事所に行って飯を食いながら同じように事情説明をした。
その際にはカジウルに「もうどうしようもねえ」と、お手上げだと言われる。
ミッツからは正式に書類提出した事に対して「仕事がお早い、流石エンドウ様」と褒められ?た。
「じゃあちょっといつに解放されるか分からないからさ。何だっけ?そのダンジョンが多く有る都市に先に行っててくれても構わないからさ。俺も事が済んだらそっちに向かうから。」
コレに四人が皆「しょうがない」と言って明日には準備、明後日には出発すると言ってこの日はそこで話は終わりにした。
そして翌日の朝には約束通りに俺は王子様の部屋へとワープゲートを使って訪問する。
「あ、やべ!王子様以外誰も居ない事を確認してからじゃなきゃダメだった!・・・いない?はぁ~良かった。」
ちょっと最近は緊張感が足りなくなってきたな、と思いつつ俺は部屋の中を見回す。王子様が見つからない。
だけどそこにどうやら隣の部屋が寝室だったらしく、ドアを開けて王子様が俺の前に現れる。
「やあ、約束を守ってくれたか。良かったよ。エンドウ殿に昨日味方になって貰えていて。はぁ~。早速だけど、昨晩に襲撃を受けてね。何だろうか?なりふり構っていられなくなった?我慢できなくなったのか。どうやら私を一刻も早く殺したいらしくてね。」
どうやらフラグを即回収、と言った騒動になっていたようだ。でもこうして王子様が無事だったと言う事は。
「エンドウ殿が私を守ってくれたのだろう?ゼドルを上回る腕前の暗殺者を雇ったみたいでね。防衛を突破されて一撃良いのを食らったよ。だけど、何とも無かった。コレは昨日の内にエンドウ殿が私に掛けてくれた魔法なのだろう?」
そう、王子様に俺が事前に掛けておいた魔法である。服にじゃ無く、王子様の身体に直接魔力の膜が張るようにだ。寝込みを襲われるかもしれない、などと言っていたので服は寝巻に着替えるだろうと思っての事だ。
「早速また殺されかけるとか?この城の警備はがばがばのザルですか?ええまあ俺が掛けた魔法ですけどね?」
「いや、参った。これには私もどう言って良いか分からないんだ。腕の立つ暗殺者だから突破してきたのか、警備兵たちの警戒心が足りていないのか。しかしエンドウ殿が付いていてくれれば安心して眠る事ができるよ。ありがとう。」
「あの、さっさとこんな馬鹿げた事を終わらせたいんですけど?その暗殺者はどうしました?」
「ああ、すまない。まんまと逃げられた。ゼドルも怪我をさせられてね。」
「はぁ~。怪我ですか。俺がすぐ治しますから。ゼドルは何処ですか?」
護衛が一人いなくなってしまうのは俺の負担が増える。なのでちゃっちゃと治してしまうために俺は治療するからと居場所を教えるように言う。
「私の寝室にいる。暗殺の事は父上に報告をまだしていなくてね。それにゼドルも怪我をしている今は不用意に動けばそこをねらわれる可能性もある。というか、エンドウ殿、神官だったのか?」
護衛を一人でも減らせば暗殺も容易になるといった所か。狙われるのは王子様の命だけとは限らないと。王子暗殺を成功させるためにはゼドルも殺しておくと。
「ゼドルは王子様が昨日路地裏で命を狙われた際にはいなかったけど、どこに居たんだ?」
「ああ、別件で動いて貰っていたんだ。まあ言うなれば弟の派閥の貴族の不正の証拠集めだな。ゼドルにしかできない仕事もいくつかあってね。ずっと私だけを守り続けると言った仕事はさせていないんだ。まあ言うなれば人手不足だな。」
そう言って苦笑いになった王子様と一緒に隣部屋へと入る。すると腕に包帯を巻いたゼドルが居た。どうやら深く腕を斬りつけられたらしい。
「申し訳ありません殿下。情けないばかりです。私が不甲斐ないばかりに殿下の御命を危険に晒す様な真似を・・・」
心底悔しそうな表情になるゼドル。どうやらその悔しさは腕の痛みすら超えるモノの様で拳をギュッと強く握っている。
「いいんだ。お前が居なくてはできない仕事が幾つもある。死なないでいてくれただけありがたい。」
王子様のこの言葉に「しかし」と口にするゼドル。どうやら今の自分の怪我では王子様を守る事ができないと思っているようだ。最終的に王子様の身代わりに肉壁になる覚悟はあるだろうが。
「じゃあそう言う事だから。その包帯取って傷口を見せてくれ。すぐに治すから。」
俺のこの言葉にゼドルは「は?」と驚いている。何が「じゃあそう言う事だから」なのか、と。
無理も無い。俺は王子様の護衛だ。治療と言う事になれば神官にやって貰う事だろうから「なんでお前が?」と言う事になる。この世界の常識で見れば俺のこの発言は非常識と言うヤツだ。
でもここで四の五の言っていられる状況では無いだろう。
「ゼドル、言う通りにしてくれ。ゼドルもエンドウ殿の底知れない力を体験しただろう?彼がこう言うんだ。」
王子様がこう言うのでゼドルは渋々と包帯を取る。そこにはかなりの長さで一直線に刃物で切られた傷が。しかも縫ってある。長さは大体9cmか、あるいは10cm程。縫ってあるのでその深さは分からなかったが相当な傷だ。これでは確実に片腕が使えなくなったと言ってもいい。大幅戦力ダウンだ。
でも、こんなかなりの怪我でも大丈夫である。俺は魔力を流して直ぐに治療を施す。切れた肉が互いに元通りにするイメージを流していく。
流す魔力をしっかりと把握して、傷を元に戻す上でズレなどが生じないようにしっかりと丁寧に筋肉繊維の状態を確認しつつくっつけて行く。
キッチリと快癒したのを確認してから魔力を流すのを止める。後は抜糸だけ。と思ったらいきなりゼドルが立ち上がって「何じゃこりゃぁ!?」と叫ぶ。
腕を振り回したり、グニグニと傷のあった部分を摘まんでみたり、腕に力を込めて見たりと、違和感が出ない事を幾度も確かめる。
まあ信じられ無いものを見たので驚いた、と言うのは分かるが、護衛が王子様の目の前でそんなリアクションはどうなの?と俺は思った。




