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面倒臭い事になってまいりました

 で、翌日な訳だが。早朝から教会へと足を運んでいる。ミッツはサンサンに置いてきた。

 今日は一人だ。昨日の少年の具合を見に来たのである。取り合えずあの後は体力を取り戻せたかどうかを確認に来た。

 まあ短時間で血液量が一気に増える訳では無いのでニ、三日は教会で療養だろうと思っていた。

 だけど俺が部屋へと行って見たら、少年はベッドから立ち上がって教会を出ようとしていた所だった。妹も一緒に。


「ちょっと待て。まだ安静にしていろよ。何でいきなりそんな。」


 そう声を掛けると、どうやらちゃんと俺の事を覚えていてくれたらしく、少年とその妹は俺に会釈をしてきた。


「昨日はどうも有難うございました。でも、僕たち教会に何時までもお世話になっていられるだけのお金も持っていません。ですのですぐにでも仕事に復帰しないと。」


 俺は「あちゃー」と手を額に当てる。単純に「入院費」が払えないと言う事だ。

 そもそもミッツが行った治療はボランティアであり、それとは別でこの教会の部屋を使う事には金は必要だと。


「なら俺が払う。食事も出す様にその分も余分に払う。だから引きこもってろ。四日は安静にしておけ。」


 俺はそう言って部屋に留まっている様に二人に告げて教会の管理者を探しに出る。そう、ここの神父を探しに行ったのだ。

 でも居なかった。出張に出かけていて不在だとこの教会に努めている事務員に言われた。

 なので俺は事情説明をしてこの事務員に代金を支払っておく。栄養のあるものを食わせてあげてくれとかなりの金額をインベントリから出して渡す。それとまた少年たちの様子を見に来るともついでに言って。

 そうしてまた部屋に戻ると二人は椅子にも座らず困惑気味に立っているままになっていた。


「あの!先程のはどうして?僕らには貴方様に何もお返しできる物がありません・・・」


 少年はそう言って俯く。どうやら俺の申し出は見返りを求められるモノと思っているようだ。

 でも俺にはそんな考えは無い。そもそも、彼が死にかけた事には少なからず俺たちの行動の影響の結果というのもあったから。その償いだ。自己満足であるので感謝もされる筋合いも無いし、されたくはない。バツが悪い。


「はあ~。謝るのはこっちでさ。君がこんな目に遭った事には俺たちにも少々の責任が有るんだよ。君が知らないだけでね。なのでその罪滅ぼしだと思ってくれないか?感謝も必要が無い。寧ろ、お前のせいだと非難された方が心が軽くなるよ。」


 軽く冗談めかしてそう事実を告げる俺に余計に困惑を隠せない少年。妹の方は「え?え?」と何も分からないと言いたげに呆然としている。


「あー、それとさ。君を切った、って奴がまだここら辺をうろついていたりすると危険だ。また君を狙ってくる可能性も残ってる。安全のためにもここに留まってくれ。それと仕事の方は傷の療養で妹さんが休みを貰いたいと仕事先に連絡をしに行ってくれ。頼んだよ。」


 俺はそう言って少年にベッドに横になっている様に言うと部屋を出た。切った奴は俺が始末しちゃったのでもう大丈夫なのだが、ここにちゃんと留まらせるために不安を煽る嘘を言った。


 次に向かう先は昨日の二人の所だ。そう、俺たちを探していると言うお国の使者様の、その逗留場所の宿である。

 当然二人に用がある訳では無い。寧ろそいつらの上司に会いに行くのだ。

 そしてそのまま俺だけ城に行くつもりである。他の奴らはどうした?と聞かれても答えないつもりである。

 俺だけが城へと行く。それをごり押しするつもりだ。普通だったならこんなふざけたマネは通らないだろうが、今はちょっと事情が違うだろう。

 これまでこのマルマルをずっと探し続けていても、尻尾の「し」の字すら掴めずにいた者たちの内の一人がこうして訪ねてきたのだ。

 あいつ等は長い事このマルマルに居過ぎている、そうなるとそもそも捜索して連行すると言った期限も設けられていたのではと予測するとだ。

 俺だけでもこうして確保できたのだから、とりあえず「つむじ風」の一人だけでも城へとそのまま連行してくれる事だろう。


 で、宿に行くのに道行く人にその場所を聞き込みすれば直ぐに教えてくれた。悪い評判と一緒に。


「ああ、あいつ等ね。道のど真ん中を我が物顔で毎日歩いていたよ。前を塞ぐ者が居たら「邪魔だ」と言ってね。お国の権力を前に出して偉そうにしてさ。ん、そういえばそいつらの宿だったか?あそこに見える曲がり角をずっと先に行けばすぐに見つかるよ。」


 当然そいつらを魔法で見つける事は簡単だったのだが、そんな奴らを探すのに魔法を使いたくなかったのと、魔法すら使う必要すら感じなかったと言うのがある。

 そいつらのマルマルでの態度がどの様なモノだったのかを知るためにこうして道行く人に聞き取り調査をしたのだ。

 もちろんその話は似たり寄ったりで、俺の判断としては「ギルティ」だった。まあ既に聞いていた話とあまり乖離している所は無いので憤りも無い。


「大分腐ってるんだなあ。それでもまともな奴がまだちょっとでもいる事を望みたい。」


 こうして俺はその宿へと着いたのだが、その入口の前には八人の男たちが円陣を組んでいて。


「犯人を我々だけで探すぞ。国に牙剥いた事を後悔させねばならん。」


 一人偉そうな態度で胸を反らして演説を行っている男が居た。で、話の内容は昨日のアレの事みたいだった。


 俺はその円陣へと向かって声を掛ける。


「お集まりの皆さん、丁度良かった。お探しになられていた「つむじ風」のメンバーは見つかりましたか?」


 この言い方に八人全員が一斉にこちらを睨む。相当お怒りのご様子だ。

 ソレは微かな情報すら捕捉できていないつむじ風の件での睨みなのか、あるいは昨日の件での事でイラついていて睨んできているのか。


「貴様は誰だ。我らを何者かを知っての事か?勝手に声を掛けてきおって下郎めが。下らん用事であったならば私のこの手で貴様を斬ってくれる。」


 先程偉そうに演説していた男がそう言う。着ている服は他の者たちよりもちょっと豪華な刺繍が入っている。

 どうやらこの男がリーダーで間違いなさそうだった。


「あれ?知らないんですか?つむじ風を召し上げるためにここマルマルに来て探しているんですよね?ならその者たちがどの様な顔をしているかを調べたりとかはしていないんですか?」


 俺のこのスーツなんて目立つはずだろうに、それでもまだこいつらは一向に気付かないでいる。


「その話を振ってくると言う事は奴らを見つけたのか?ふん!手間取らせやがって。お前ら、犯人探しは止めだ。先に奴らをしょっ引くぞ。おい、早く案内しろ。つむじ風は今どこに居る?」


 俺はもうコレに程度が低すぎると思ってしまった。これほどまでに無能の集まりを寄越してきて何をしたいんだか、と。


「そのつむじ風の一員なんですけどね、俺。知らなかったんですか?あー、全員知らないのかぁー。」


 俺のこのマルマルでの自分の評判はどれだけなのかを調べた事は無い。だけど有名であると言う事くらいは知っていた。

 だからてっきりこいつらも直ぐに反応してくると思ったのに怪訝な目を向けられるだけに留まっている。


「おい、ふざけているのか?貴様は一体何をしにきたと言うのだ?お前が一員だと?何処をどう見てもまだ成人したか、してないかと言った餓鬼では無いか。「つむじ風」は少しは名の知れた冒険者だぞ?ソレにお前の様な者が?馬鹿を言うな。」


 ホウレンソウが成立していないのか、あるいは情報を精査する能力が無いのか。もしくはそもそも本気で俺たちを探すつもりが最初から無かったか。

 コレに俺は呆れてモノが言えなくなった。ついでに大きく溜息を吐いてしまう。コレで明確だ。調査など全くしていないと言う事なのだろう。

 この俺の態度に相手は「もういい」と言わんばかりに剣を抜き放った。そして何も言わずに斬りかかってくる。

 そしてたった一言「死ね」と言って俺の身体をバッサリと切ってきた。


「まあ傷一つ付かないんだけどね。あーあ、なんだよもう。問答無用で殺しにきやがったよ。どうしてくれようかな、コレ。許せないんだけど?」


 怒りがジワジワ腹の底から浮いてきた。この相手の「答え」に。もう何処から突っ込んで良いかも分からない。


「お役人様だからな。上から目線は百歩譲って、まあ、許せる。けどさ、いきなり何の罪も無い相手を即座に殺しに来るたぁ、コレはもう、どうしようも無い。しかもその理由が自分たちが「調査」を全然していないから判断できていないのを、こっちのせいにするかのようにとか。救いようが無いな?」


 こうして平然としているのを見て驚いた相手が、視線を手元の剣と俺の身体を往復させる。


「貴様一体何者だ!?ええい、怪しい奴め!お前ら、こいつを斬れ!一斉に掛かれ!」


 俺は「つむじ風ですよ」と説明をしたのにもかかわらずこの言い草だ。もう何も言えない俺がいる。いい加減にしろ、と言う気力すら失せる。

 でも怒りだけは未だに沸々と湧いて来るものだから、さあどうしようかと思考していたら一斉に剣が迫ってくる。


「別にこいつら全員纏めて動けない様にしても良かったんだが、今回は全部受け止めてみるか。」


 肩、胴、背中、ふともも、首、頭部など。色んな所を剣が走って行くのだが、俺には傷一つ、筋一つすら入らない。

 俺の全身が魔法で表面をコーティングされていて、剣が、攻撃が、それを突破できていないからだ。


「うん、素人剣術じゃ当然この守りは斬れないわな。そりゃそうだ。さて、どうしてくれよう?」


 俺はここまで一切手を出していない。そんな相手に八人がかりでこいつらは襲い掛かってきているのだから、俺だって反撃してもいいだろう?と考える。

 殺す覚悟ができて襲ってきているなら、相手からの反撃、抵抗されると言った事も理解の上でだろう。それと、殺される覚悟も。

 そっちがその気なら、こっちもその気。目には目を、歯には歯を、である。

 自分たちが、自分たちだけが殺す側に何時でもいるという認識は間違いである。


 弱ければ死に、強ければ生きる。争いの真理だ。


 こいつらは自分たちが強いと「勘違い」している。多分反撃されて死んで初めて本当は「弱かった」と自覚するのだろう。

「権力」という形の「力」の下にこいつらはこんな理不尽を働くのだろうが、そんな理不尽は、それとはまた違ったより強大な「理不尽」の前では完膚なきまでに叩き潰される事を自覚していないのだろう。上には上がいるのだ世の中は。

 こいつらのその「権力」という性質の中にも上がある。一番上が「王」だろう。こいつらはそんな「王」に自分たちがした事と同じ事をされたら「理不尽」だと感じるだろうに、自らの行動を顧みたりしない。


 そして単純な、国すら叩き潰せる、そんな強大な「理不尽」を今まで目の前にした事など一度も無いと見えた。


「まあ確かにしょうがないよなぁ。個人で国を、しかも単純な「力」で叩き潰すとか、想像すらしない事だもの。」


 そうなのだ、俺にはそれができる力が、膨大な「魔力」を有している。

 既にこの時に俺は魔力を地面に流して八人全員へと行き渡らせている。そして動きを拘束している。


「う、動けん・・・キサマい、一体何をし、した!?」


「ここでお前ら潰したって何の意味も無いんだよなぁ。せめてゴミ箱が有ったらこいつらそこに突っ込んでおくのに。」


 流石にこの場で八人全員「惨殺」などするのは如何なものかと思い止まる事ができた。

 昨日は昨日で怒りに任せてやってしまった事だが、今日は「自分の事」だから少しだけ冷静になれた。


「流石にあんな幼い少年をなんの理由も無しに憂さ晴らしに殺そうとした馬鹿は許せなかったけどさ。」


 正直やり過ぎたと思っている、でも反省はしていない、と言うヤツである。

 やり過ぎないように今回はちょっとだけ一呼吸おいて冷静になっているのである。

 考えてみれば、最初の目的は城に行って「俺たちにもう構うなよ?」という脅しをかけるつもりだったはず。

 なのにこうしてみれば何て事は無い。話が通じなかった、最初から。これでは城まで行けない。

 城で暴れて力を見せつける作戦はここで頓挫してしまった。修正が利くかはまだ分からない。


「考えが甘かったんだなぁ。これじゃあ最初からそもそも無理だったって事だもの。どうしよ?一人で乗り込むか?」


 もちろん城にである。当初の予定としてはこの使者を使って手続きやら、何やらの細かい所や説明を端折れたらいいな?程度だったのだ。

 でも、もうこんな事態になったのだから、この際、相手側の手間や面倒やら混乱などは一切無視して、一人で城へ突撃して直に文句つけてやろうかと言った所である。

 こいつらを無事に城に返した所で自分たちの「都合」の良い所だけを報告、もしくはでっち上げて俺たち「つむじ風」を犯罪者として扱うようにするに違いないと思えた。


「しょうがない。行ってくるか。・・・皆に相談・・・しないでいいや。」


 マーミから「一言、言ってからにしろ」と説教されてはいたが、サンサンに戻って一々ナンヤカンヤ事情説明するのもどうかと考える。まあ正直、単に面倒臭くなっているだけ。

 既に城に行ってくるからね、と宣言してここに来ているのだ。使者が一緒でも、居なくても結果は変わらんだろ、と軽い気持ちで俺はその場を後にした。

 ちなみに魔力で固めた奴らはそのまま拘束を解かずにである。こいつらを俺は野放しにする気は無い。

 そして放置である。こいつらがこの後にどんな目に遭おうとも俺は知らない。知る気も無い。

 人を人とも思わぬその所業、その因果応報だ。このまま晒し者にでもなっていればいい。本当ならまだこれでも足りない。

 人を一人殺そうとした罪業としては生温すぎる物だと思う。けれども俺はこいつらへと止めを刺すのも馬鹿らしく思ったのでほったらかしにしていくのである。


「あーあ、城に行くにはどっちの街道を行けばいいんだ?ああ、そこからかぁ。でもコレが普通だよな。魔法の便利さにちょっと怠け癖が付いてる感じがする。」


 こんな世界だ。物を調べるにしたってインターネットもスマホも無い。ならば人に聞くしかない。

 こうして俺は城に向かうための話を聞くために先ずはクスイの家に行く事にした。

 別に師匠に話を聞くのでもよかったのだが、師匠は城に余り良い思い出は無いだろうと思って却下した。

 城下町に行くだけである。そちらに着けば後は観光でもしながら現地で話を聞けば城なんて目立つ物だ、すぐに辿り着くだろう。

 そう楽観しながら俺はいつものように人気の無い路地裏に行ってワープゲートを開いてクスイの家の庭へと移動した。


「で、そう言う訳なんで、城ってどっち?」


 こうしてクスイが丁度休憩に入っていた所に来た事ですぐに俺は事情を説明した。


「エンドウ様のお怒りが、私には御止めできないですなぁ・・・はあ~。あまり、無茶な事をされないようにお願いするばかりで御座いますよ。胃が痛くなりそうです。」


「あ~、ごめんな。心配かけさせるね。でも、この国の腐った所を俺、もう押し付けられちゃってるからね。許せん事なのよそこは。いきなり殺しに来る使者とかさ、馬鹿なの?ってね?」


 くれぐれも国の機能がマヒするような大立ち回りは勘弁してくれとクスイに願われた。

 確かに俺はこのシカークと言う国を混乱の坩堝に落とし込みたい訳では無いから、この申し出にはウンと頷くのだが。

 あちらさんがこれを認めずに大事にしてくるようだったら受けて立つ所存だ。舐められっぱなしはいかんせん我慢する気はこれっぽっちも無い。

 こう言った気持ちになるのは自分が「力」を持っていると自覚して、それがこの世の中に「通じる」と解っているからだ。

 イキリと言われても、暴君だと言われても、相手が売ってきた喧嘩なら買ってもいいだろう。

 許せる範囲での暴言なら、俺だって呑み込む度量はあると思っている。

 けれどもいきなり剣で斬りかかって来て「死ね」と言われたのだ。国の使者がそんな事をすると言う事はそもそも、大本の「国」が俺に死ねと言ってきたのと同じである。しかも実際に普通の一般人なら確実に死ぬ攻撃を叩きつけられた。言葉で只、脅された位だったら呑み込んでいた。しかし実際はあの場に居た全員が俺に斬りかかってきている。

 コレで怒るなと、イラつくなと言われても、それを許せる範囲はとっくに超えているだろう。


 こうして俺はクスイから地図を見せてもらう。テーブルに広げられたそれを見てどちらの門から出て向かえばいいかを確認する。

 こうしてクスイの所を出て俺はまだ向かった事の無かった方向へと歩く。

 まだ出た事の無い方角の門だ。道を行きながら周囲の観察も忘れない。


「ああ、お城がある城下町から来る人達やら、そっちに向かう人たちがいるんだから賑わいが凄いよな。」


 門の側にはちょっと良い目の宿が立ち並んで、屋台飯もどうやらちょっといいお値段の物が並んでいたりした。

 門を通り抜けて直ぐに横道に馬車を寄せ、荷を下ろして売買を行っている者もいれば、旅装束で門で検問を受けている人たちもかなりの人数が居る。

 寄り合い馬車だろうか?旅支度で大きなリュックを背負った者たちがひしめき合っている馬車が有ったりと人の入りも出も頻繁だ。


 俺はそんな門へと普通に近づく。このマルマルから出る者たちの検査をしている列に並んで自分の順番を待った。

 で、自分の番になったらこれまたあっさりと出る事になる。普通に冒険者証を見せればそのまますぐに通された。

 された質問も「どちらに行く気かね?」だけで、コレに「王都へ」と言うだけで「通って良し」これだけだった。


 何か封鎖措置がされているかとも思っていたのだが、そうでは無かった。

 つむじ風をこのマルマルから出さないための「言い含め」などがされているものかと思ったのだが。


「仕事をしていたのか、してないのか。それともする気が最初から無かったか。あるいは逃げられるとは思ってもいなかった?」


 今更どうでもいいだろう。今もまだ動きを止められたままに宿の前にあの八人はいる事だろう。

 あと最低でも二日は持つだろう魔力を込めてあのまま放置してある。どんな事になるやらは、もう考えずに放っておけばいいだろう。

 人の命を簡単に殺そうとしてそれ位でまた自由に動けるようになるのだから死ぬよりかはマシだろう大分。

 そう思ってもうこの先の王都の事へと思考を切り替える。


「余り皆を待たせるのも悪いよなぁ。でも、この街道を真っ直ぐ行くだけだからそんなに時間は掛らない?だけど歩く速さを考えれば目立つような速さは出せないよな?」


 もう既に旅の荷物も持たずに手ぶらで呑気に散歩気分で歩いているこの時点で目立っていたんだが、俺はその事にこの時、気付けていない。

 なのでそのまま歩く歩幅と速度をちょっと上げた位の不自然にならない程度で街道を進んだ。


 そうして歩いていればもう夕方間近だ。街道の途中で村が幾つかあったのだが、俺はそれらを全てスルーである。

 本来の旅人ならそう言った村で宿泊するだろう。そう言った相手を商売にしてお金を村でも稼いでいるはずだ。

 そんな村をさっさと通り過ぎていく俺は大分おかしな人物に見えた事だろう。

 しかしコレには理由がある。そう、休まず歩き続けてこの街道を王都に向かうのは余りにも遅い。

 だから人目のつかない夜間の内に「一っ飛び」してしまおうと考えたのだ。

 別にワープゲートを使おうって訳じゃ無い。あれは一度行った事のある場所で無いと繋げられない。

 何処に繋げていいのか分からないワープゲートなど、どうしようも無い無駄な魔法と化す。

 もしかしたらそう言った実験もしてみると新たな発見が見られるかもしれないが。それは今やる事では無いし、この先の将来でやるとしても相当に遠い未来になる事だろう。


 今は王都へと向かうのが第一。次に城下町をぶらついて観光し、三つ目に城へと下見に行く。と言う流れをボンヤリと抱えている。

 一応は先ず城下町への到着が先だ。後の事はその時にまた考えるつもりである。


「行き当たりばったりだなぁ。一時の怒りに任せてで動いたとはいえ、これじゃあ何も考えて無いのと一緒だ。でも後悔はしてないんだよなぁ。反省が多少はあるけどさ。」


 こうして街道を歩き続ければ既にもう俺の周囲に人はいない。こんな夜中に出歩く様な旅人は居ない。

 いたとしてもソレは深い事情があるような急いでいる者だろう。もしくは犯罪者か。


「さて、ここら辺で飛んでみるかな。別に俺は急いでるって訳でも無いけど。無駄に時間を消費するのもな?」


 俺は身体を魔法で浮かせる。浮かせる方法も「風」を操って、だ。人体の重量を浮き上がらせて空へと飛ばす事ができるだけの風量を発生させるのだから周りへの被害が出そうものだが。


「それを俺「だけ」に集約して、後はそうだな?反重力?もしくは俺の上に地面とは逆ベクトルに向いた重力場を発生させれば俺って無重力になるよな?」


 自分を引き寄せる「力」。今俺が地面に引き寄せられている重力の感覚。

 ジェットコースターで上下反転した時の感覚や、エレベーターで一瞬だけ下に降りる際に「フワッ」と浮き上がるような感覚など。

 それらの身体に感じた事のある感覚を、自分の頭の上で起きているイメージで引き出す。


「・・・うおっつと!?結構これ慣れないと気持ち悪くなるな。ああ、浮いてる・・・成功、で良いのかな?後は・・・」


 強力な風圧で俺自身を空の彼方へと浮き上がらせる。そして街道に沿って猛速度でぶっ飛ぶのをイメージしつつ風の受ける角度を考える。


「あ、コレ俺が身体に直接風を受けるんじゃなくて魔法で作った壁に当てるようにすればいいのか。」


 そうすれば風の当たる面積が大きくなって浮上する力も上がる。それと、それほどの密度、力を発生させる風に顔を晒すのは息ができなくて苦しいのだ。


「あ!・・・あ!あぁ!ちょっと一気に上がり過ぎ、た!やばいやばい!結構な恐怖だぞ!?気持ちがその分いいんだけど!」


 根源的な憧れと、そして恐怖とでも言えばいいのか。大空に、夜空に舞い上がった俺はかなり精神がテンぱった。


 そのまま暫くして安定し始め、落下の危険性も無いと分かると俺は空を自由に飛び回る。調子に乗って。


「タケコ◯ターってこんな感じか?でも、全く違うような気もするな。まあこれくらいで遊びは止めて王都にこのまま初飛行と行くか。」


 今の俺はまるであの有名な漫画の技「●空術」で空を飛んでいるかのようになっている。

 この気持ち良さは半端じゃない。これこそが人類が空を求めるにあたっての最終目標と言っても過言では無い位の気持ち良さだ。

 脳内麻薬がドバドバ出ている自覚がある。テンションが上がりまくっていて速度を上げに上げまくった。

 自分を浮かせる風と、前方に押し出す風とで二つ使って、自分が今出せるであろうイメージの最大速度へと向けて出力を上げている。

 モンスターマシンか、あるいは新幹線か。とにかく自分が動画やら、テレビで見た、あるいは実際に体験した事のある速度を再現しようとして無尽蔵に魔力を注ぎ込んだ。


 で、コレで失敗した。当初の目的を忘れたのだ。何処まで来たのか?ソレは俺も解らない。

 目の前には真っ暗な大海原、そしてその海面に綺麗に映る夜空の月がある。そう、王都を通り過ぎた。いつの間にか。夜に飛んだので周囲の景色も闇の中だ。

 そしてそんな周囲の変化も読み取り辛い中で高速を出して夜空をカッ飛んだのである。一直線を。


「スピード狂の疑いって、俺じゃん・・・コレマズイな。戻るしかない。」


 踵を返してまた飛んできた方向へと戻る。戻りの夜空飛行はしっかりと地上を気にしながら飛んだ。まあやるのが遅いと言われても言い返せない。


「こんな俺を賢者だとか言うんだもん。見る目が無いよ。そんなご大層な人物じゃ無いぜ、俺は。」


 そうぼやきながら、今度はしっかりと月の光で暗闇に浮かび上がるシルエットを確認して王都に到着した。

 到着したとは言ってもその王都内へと着陸した訳じゃ無い。王都を守る外壁のもっと離れた外側にだ。


「まあ、ちゃんと手続きして入るのが一番だよなあ?このまま外で一夜を明かすか。」


 どうやら閉門時間になって外壁周辺で野営をしている者たちも居たのだ。その中に紛れて俺も野営をしようと考えた。

 朝一で開門したら入ればいいだろう。そんな事を考えて、まるで街道を夜通し歩いてきましたと言った感じに見せつつ、防衛用の高くそびえ立つ外壁周囲で野営をしている集団の側に行く。


「おう、あんた。こんな時間にどうしたい?野盗か?盗賊にでも追っかけられたのかい?」


 こんな時間に無理にこうしてここまで来るような旅人は普通はいないのだろう。俺へとそんな心配の声を掛けてくれる人たちがいた。


「ああ、ちょっと急いでいたモノで。無理して夜間に歩き続けたんだ。朝一に入りたくてね。」


 無理のある言い訳、嘘である。これ位の嘘は別に心は痛まない。俺はいつもいつも嘘を吐くような性格では無いし、嘘を平気で付く様な根性も持っていない。

 だけど今はこうして他人とは言え心配してくれている他人に「本当の所」を伝えたとして信じるはずが無いし、説明する必要が無い。

 声を掛けてきた彼らも何か異常事態でも起こったのか?と言った確認のためと言う理由も含んではいるだろう。

 なにせこんな夜更けに一人の男がなんの荷物も持たずにこうして現れたのだ。しかもその恰好も普通見ない服装だ。

 さて、彼らが何で俺の事に気付いたのかと言えば、今彼らは酒盛りをしていたから。

 五人の男たちである。どうやら商売人が二人、護衛三人と言った構成の様で、こうして無事に王都到着を労うためと言った感じだろう。

 その表情は誰もが俺が現れるまではホッとして笑顔でいたからだ。もうここまで来れば安心、と言った印象である。

 実際にここは外壁のすぐ横だ。それこそここまで来れば「何事も」無いだろうと安心するはず。

 そんな所に俺の様な不審者が姿を見せたのだから警戒も起きると言うモノだ。


 この五人以外では他にも野営をしている所が三つ、四つ、見受けられてはいたが、もう就寝している。

 彼らにこれ以上は警戒心を抱かせるのも少々心苦しかったので、俺は酒の肴を用意して提供する気になった。

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