許せない事は
取り合えず作れそう、とは思ったが、その配分が分からない。なのでもうここら辺はテキトーでいいだろうと思考を切り替える。
血が足りずに低血圧に陥っていると立ち上がる事もできない。水分を多めに補給してソレを補うのが一番最初にするべき事だ。
献血に行って終わった後は職員の人に必ず念を押して言われるのが「水分補給」である。特に飲むのであればなるべくならスポーツドリンクが良いですね、と。
血を失い過ぎて失血性ショックで死亡と言った最悪な結果は防ぐ事は出来たみたいなのだ。ならばその後のケアをせずに体調悪化などと言ったつまらない流れは無しである。
「で、塩は岩塩だから魔法で一個粉末にするとして。岩塩ってミネラルが入ってるだろうから良いよな?うん、そこら辺は後回し。」
次に俺は果物を魔力を通して圧縮して果汁を取り出し、水に溶かす。
「果糖は確か吸収率が高いから直ぐにエネルギーになるはず。体力の方もアレだけ大怪我の後じゃ大分落ちてるだろうし、いいや、多めに絞っとけ。」
取り合えず種類を気にせずに片っ端から果汁を絞って水へと流し込む。そう、流し込む、だ。
山のようにあった果物の半分を一気に纏めて潰したのだ。
部屋に何の果物の匂いなのかもわからない甘い香りが充満する。
「おし。・・・結構甘いな?まあいいか。コレがもうちょっと薄ければアクエリかな?まあそこら辺は今関係無いな。」
若い頃はアクエリを好み、年齢が行くにつれてポカリへと変わっていったな、などと以前の自分の好みの変換を思い出す。アクエリは何故か歳を重ねていくにつれて「甘い」と感じて寧ろポカリに落ち着いた。
(そんなくだらない事を考えてる場合じゃないな。・・・患者が目を覚ました時にでも作ればよかったか。これじゃあ空気にそのまま晒してる事になるな)
ペットボトルに蓋が無く、そのまま放置しているような物だこのままでは。
俺が「魔法で雑菌の繁殖を防ぐには?」と考えようとしたところで患者の少年は目を開けた。
「気が付きましたか。意識は・・・ハッキリしていますね。起き上がろうとしないで、そのまま横になっていて。」
ミッツが優しい声で少年にそう声を掛けた。しかし少年の方は自分が何故死んでいないのかの方に全力で思考が持っていかれてしまっている様子だ。
きっと気を失う直前まで自分の死をしっかりと心に刻んでいたのだろう。
「僕は、何で、生きて、いるんですか?あぁ・・・でも、妹を、一人、残して、行かずに、すみました・・・」
どうやらこの少年には妹が居るらしかった。しかもこの様子だと兄妹二人きりであるようだ。
この少年が助かったのは本当に運だろう。しかも奇跡に近しい位の。
心の方が落ち着いてきたであろう所を見計らって身体を少しだけ持ち上げてやり、作った経口補水液を飲ませる。
コップに一杯分を移し替え、少しづつ飲むように言う。
「あ、ありがとうございます。・・・な・・・なんですか、コレ?はぁ~、全身に、染みわたるような感じがします。」
どうやらもう心配は無いみたいだった。深刻な後遺症などもパッと見で起きてはいない様に見える。
しかし心の方の「後遺症」が無いかが心配だ。なのでどうしてあんな致命傷を受ける様な事になったのかをここで聞いてみる事にした。
「君は何であんな傷を負ったのか、それを順を追って説明してくれないか?」
アレだけの傷である。それを受けた瞬間が「恐怖」として精神に残っていないかを確認だ。
こうして話をしている内にそれが有ったら何かしらの反応が出るはずだ。発汗、手足の震え、顔面蒼白。
でもそう言った症状も出ずに少年は淡々と説明をする。
「僕は仕事の帰りに三名のお役人様らしき人達に道を塞がれたんです。で、その時にその内の一人に問答無用で切り付けられました。」
理不尽、不条理、納得がいかないと言った面で、怒ってもいいはずなのに少年はその素振りすら見せない。
「切られた理由は分かりません。本当に、何も・・・」
そう言って遠くを見つめる少年。感情の整理がまだ付いていないだけかもしれない。
これ以上は負担を掛けてはいけないかと思ってベッドに横になるように言う。
「君を切ったそいつらの顔を思い出せるかい?ああ、説明はいい。頭の中に思い浮かべるだけでいいよ。」
俺はそう少年に聞く。そう、俺の方が怒りを覚えたのだ。
この少年は今まで真面目に生きてきたのだろう。そんな彼がこの様な目に合っていいはずがない。
なのでその犯人にも同じ目に合ってもらう。このような理不尽、不条理には法での裁きなど生温い。
その場の怒りでその様な思考に一気にぶっ飛んだ俺。
事後に後悔はしなかったが、反省はしなけりゃいかんなと思い直したのだが、今この瞬間にはそんな怒った俺にブレーキを掛けてくれる仲間が居なかった。
当然ミッツもこの時、俺の隣で表面には出さずに内面で静かに怒りに燃えていたのだ。止める者など居やしないのである。
で、少年が思い出したその犯人の顔を、魔法で俺は読み取る訳だ。
少年の脳内映像が、俺の脳内で魔力によって再生されるところをイメージする。もっと具体的に表現するならば「映画館」だろうか?
一人ポツンとシアターにて座っている俺。目の前の巨大スクリーンにはまるで映画の様に、少年の「主観視点」で男三人の姿が映し出される。と言った感じだ。
「ミッツは少年の容態に悪化が見られないかの経過観察で付き添ってやっていてくれ。俺はちょっと出かけてくる。水分は多めに飲ませてあげてくれ。喉が渇いたらミッツもソレ飲んで良いから。」
そう言って部屋を出ようとする俺にミッツは何も言ってはこない。ただ一言「行ってらっしゃいませ」とだけ口に出し俺を見送った。
「さて、どうやら腹の底の澱みが沸々と湧き上がってきやがった。」
俺は犯人捜しのために街へと繰り出すのだった。
そうして歩き続けて十分もしない間に目的の顔を見つける。
「何で、なんの罪も無い少年を問答無用に切って捨てておきながらニヤニヤ顔なんだ?」
もしかしたら少年は「仕事帰り」と言っておきながら「犯罪」をした後なのかもしれない、などと言った考えはこの時浮かばない。
そもそも少年の身なりは別に汚い恰好では無かったし、気が付いた後に妹の心配をしていたくらいには優しさを持っていた。
浮浪児の兄弟で犯罪に手を染めなければ生きていけない、みたいな感じでは全く無かった。
そもそも、切られて死ぬ覚悟までした心の底からの悪党が、気絶から目を覚ましたら真っ先に自らの妹の心配、と言った事をするだろうか?
確かに俺は被害者の少年の事を何も知らない。けれども、道でいきなり少年を切る奴らなどロクでも無いと言う事だけはハッキリと分かる。どんな理由が有ろうとも。
俺は頭の中にもう一度映像を再生させる。その映像の中の三人の男はずっとニヤニヤしていた。そしてその真ん中の男がいきなり剣を抜き放ってそのまま斬りかかって来る。
バッサリ、そこからすぐにスクリーン一杯に地面が映る。そこから画面は全て真っ黒に。
「同じニヤニヤ顔で何も無かったかのように歩いてやがる・・・ならお前も同じ目に遭え。」
俺の居るのは大通りの脇道だ。三人は大通りの中央をノシノシと我が物顔で歩いている。そいつらの前を塞がない様にと人々が勝手に左右に分かれて道を譲っていた。
そんな奴らに俺は地面から魔力を流す。そして頭の中の映像、剣を抜いて斬ってきた男へとソレを「繋げる」。
(成敗!)
俺は少年の受けた傷を脳内に思い浮かべる。切られた時の映像もセットだ。
そしてソレを魔力を繋げた男へと一気に流す。すると。
ズバッ!だろう、擬音を付けるなら。でも服は切れていない。あくまで人体にのみ、魔力を作用させた。
だから突然の事に意識が追い付いていない男は、いきなり自らの身体に起こった違和感に立ち止まる。
そして異変に気付き、服に一気に血が染みていく事で傷を負った事を認識し、そしてそれがどうしてそうなったのかの疑問と共に倒れる。
その時の表情の変化はすさまじく、まるで早送りで、驚愕、痛み、疑問と流れて行っていた。
(あ~、心の中の叫びは暴れ●坊将軍なのに、やってる事は白昼堂々に必●仕事人みたいな?)
正直に言ってやり過ぎた感は否めないが、それでもここでやらねば第二、第三の被害者が出るかもしれないと考えた。
なのでコレはこれでお終いにしてこれ以上は手も足も出さない様にする。バッサリと切られた男のこの後、命が助かるか、そうで無いかは放置だ。救助はしない。
こいつらが少年にやった事を、俺が少年に代わってやり返した、と言った形にする。
(少年のアノ状況で周囲には人は誰も居なかった。すぐに少年を見つけてくれた人が居たのだろう事は本当に運だったんだろう。じゃあ今周囲には人がこんなにもいるんだ。コレで死んだら運が無かったと)
いきなり倒れた男を遠巻きに見るだけの周囲の人々、野次馬でサークルが出来上がっている。しかもその円は結構大きい。そう、コレに誰も「近づきたくない」と考えているのがその円の大きさで証明されていた。
余程この男たちが嫌われていたのだろう。残りの無事な二人が慌てふためき、騒いでいたり、周囲を警戒しているのだが「救護を呼べ」と叫んでいるのに周囲の人々は顔をお互いに見やるだけで全く動かないというのが恐ろしい所だ。
そこにどうやら警邏をしていた兵が居たらしく円の中へと二人入ってきたのだが。
「どうされましたか?え?いきなり倒れた?凄い血が・・・しかし服が破れていない?は?どう言う事ですか?一応は署まで同行願います事情聴取をしますので。・・・コレは、もう助からないでしょうね。」
どうやら兵は流れている血の量で助からないだろうと判断したらしい。それでも治療を行える者を呼ぶために片方の兵が円から出ていく。
「おい!私たちは国からの使いの者だぞ!つむじ風を探しているのに何故この様な事態に!?犯人を探し出してブチ殺してやる!我々、しいては国に牙剥いた事を後悔させてくれる!」
(あ、こいつらがそうなのか。どうせなら全員始末しておけばよかったか?)
まだ少々怒りが治まり切っていなかった俺はそう追加で思ってしまう。
それこそ、そんな国の使者がいきなり路地で会った少年をいきなり切ったのだから「中身」が腐っている。
こいつらはこのままでいてもまた問題を起こしそうだと考えられた。
今も「暗殺」を気にしたのか剣を抜いて構えてそう怒鳴っている。それこそ今にも周囲の何の罪も無い人に斬りかかろうと言わんばかりに血走った目をして。
(こんな奴らが使者として俺たちを探していたのか・・・もうこの国は底から腐ってるのかね・・・)
そんな所まで考えがいってから俺は路地からそっと消える。もちろん少年の容態が気になり始めたから教会に戻るのである。
こうして戻ってきたらまだ教会の入り口には人が残っていた。そんな人たちのその話題が。
「俺は最前列で見ていた。傷がよ?一気に塞がっていったんだぜ?スゲエだろ?アレこそまさに聖女様の奇跡ってヤツだよな!」
「わしゃ、昔からミッツ嬢ちゃんの治療を受けているもんじゃがよ。いつものように治療を受けに来た時に嬢ちゃんと一緒に男がいてよ。」
「ああ、それ知ってるわ。ウチの爺さんがさ「ワシ、百まで生きちゃるぞい」なんて言って張り切っててな。なんかいつもとは違って見知らぬ男に診察を受けたって言っててよ。」
「ウチの隣の姉さんがさ、いつの日からか復調して元気になってさ。以前はすっごく青い顔してずっと日常を送ってたのに不思議なんだよ。」
などと言って井戸端会議でガヤガヤしていた。その隣を何食わぬ顔で通り過ぎる俺。
教会を出る時にも確か同じような話を野次馬がし続けていたが、その時にも俺はその横を通り過ぎていた。その時は怒りが先行していて耳に入ってきていた話は記憶に残ってい無い。
野次馬たちは話に夢中で俺が横を通り過ぎた事を気にしていなかったが、俺が丁度教会の中に扉を開いて入った時にソレはちょっとだけ聞こえてきた。
「なあ?今入って行ったあんちゃん、アレ誰だ?」
「見た事あるぞ?おおそうじゃ!あの時の!」
「あんな奴見た事今まで無かったよな?え?教会関係者?神父様には見えなかったよな?」
(ああ、ヤバいな。面倒な事になりそうだから帰りは直接ワープゲートでこっからサンサンに戻るか)
俺は香草焼きの方の様子を見に行くのを断念する。少年の方の容態の方が気になるのだ。
店の方は問題があるとしても客が大入りで仕事が天手古舞なくらいだろう。死にはしない。
けれども少年の方はいくら傷が塞がったとは言え、経過観察が必要である。
「まあ、ままならない予定なんてあるある。店の方を覗きに行くのはいつでもできるか。」
そう呟いて俺は少年の寝ている部屋へと入った。
ミッツにここで「おかえりなさいませエンドウ様」と言われ、俺は素直に「ただいま」と返す。
「どう?容態は。精神の方に傷とかは見受けられる?」
身体は完璧に治っているので心の傷が心配だ。しかしコレにミッツは問題は無いようだと返してくる。
少年は今眠っている。水分の方も大分と摂取したのか、水瓶の中身が半分以下になっていた。まあミッツも飲んだりして減ったのだろう。
ここで一人の少女が入ってきた。その後ろにはこの教会のシスターが付き添っている。
「お兄ちゃんは無事ですか!・・・お兄ちゃん!」
その少女は寝ている兄の側に近づきその手を握る。そして無事だと分かると安堵の涙を流して床へと膝を付いた。
良かった、と言葉を繰り返し涙を流し続ける少女に俺はホッとした。
死ななくて良かった、と。コレで助けが間に合わなかったら俺はどんな行動に出ていたか分からなかったな、と。
ひとしきり泣いて安心し、心の平安を取り戻した少女がミッツに土下座をかましてきた。
「聖女様!お兄ちゃんの命を救って頂きありがとうございました!このご恩は一生をかけてお返しし続けます!」
返し続ける、のは流石に重た過ぎる。ミッツは困った、と言いたげに苦笑いをする。
でもこの少女に何も声を掛けない。ミッツは理解しているのだろう。この少女にとって兄の命はソレだけの価値があるのだと。
そしてこの恩返しに対していくら拒否しても、この少女の納得には届かないと。
「ええ、分かりました。貴方の申し出を受け取りましょう。さ、喉が渇いているのではないですか?これを飲んで落ち着いて。」
ここには急いで駆け付けたのだろう少女にミッツはコップを差し出す。これを受け取った少女は「ありがとうございます」と言ってグイっとソレを一気に飲み干した。
大分喉が渇いていたのだろう。飲み終わった後に時間差で少女は静かに驚きの声を出した。
「おいしい・・・こんなお水は飲んだ事がありません。凄い。」
落ち着かせるために飲ませたのだが、逆に感動と言う驚きで少女を余計に混乱させてしまう事になった。
飲ませたのは果汁たっぷりで作った残っていた経口補水液。それを飲んだ少女の顔はホッとしている。
「ミッツ、後の事はもう大丈夫そうだから戻ろうかと思う。それと、皆に話して相談したい事ができた。」
俺はそう言って帰館したいと告げる。コレにミッツは少女を見てニッコリと微笑んで言う。
「もう容態は安定しているわ。お兄さんが起き上がったらこのお水を飲ませてあげて。食欲が出たならば消化に良くて栄養のあるものを食べるように。あ、そこにまだ残っている果物は全部食べていいわ。じゃ、お大事にね。」
まだまだ多く残っている果実を少女へと食べるよう言い渡すとミッツは立ち上がる。
こうして俺とミッツは教会の空き部屋へと入ってそこからワープゲートでサンサンへと戻った。
そのまま宿へと向かい、皆が帰ってくるのを待つ。別に魔法でまた連絡を取っても良かったのだが、それは止めておいた。
これから皆に話したい事とはあくまでも俺の我が儘だ。しかも危険な、が付く。
こうして待つ事暫く。連絡を取らないでいたので、そう直ぐに集まる事はあり得ない。と思っていたら、何故か皆同時に宿へと戻って来た。
「なんかよぉ?妙な胸騒ぎがしやがって戻って来て見りゃこれだ。何かやらかしたな?」
「どうしてもねぇ。変にザワザワしてさ。これきっと何かあるわ、と思って。」
「はぁ~。マンスリの件を断ったと思ったらすぐこれか。退屈はしないで済みそうだが、胃が痛くなりそうなのは止めてくれよ?」
どうやら三人は何かを感じ取ったのか、こうして集合と相成った。
俺の宿泊部屋へと皆を集める。大事な話があると言って。
「じゃあ、すまないけど、相談させて欲しい。コレは皆にもちょっとだけ、ホンのちょっとだけ、関係した事だから。」
俺は少年が斬られた件を話す。そしてそれをやったのが俺たちを探しているお役人様だと言う事も。
「あー。とうとう鬱憤が爆発してやりやがったか。っていうか、これだけ俺たちが見つかっていねーのにまだ帰って無かったのか。」
「前から良い話は聞かなかったし、流れる噂だって悪い物ばかりだったしね。限界に来ちゃったか。」
「そうだな。あいつ等の態度は国を背後にした威圧と言うのはもう周知の事実だったからな。今回は恐らく暴走か。いくら何でも・・・やり過ぎだったな。」
カジウルは心底嫌そうに、マーミは呆れたと言った感じで、ラディは難しい顔を浮かべる。
「お前に目を付けられちゃお終いだな。その雰囲気だと、やるつもりだろ、お前。」
カジウルからビシッと人差し指を向けられる。そう、俺が相談したい事はこれだ。
「昔からあんな奴らだったと言うなら今回の件は「目に余る」で良いよな?俺の心のどこらへんに響いたのかは自分でもまだちょっと分からないんだけどさ。怒りがまだ治まって無いんだ。」
俺がそう吐露するとマーミの喉がゴクリとなる。どうやら俺の顔は相当に怖い顔に変わっていたみたいだったらしい。
「ちょっと、それって国を敵にする、って事を言ってるの?流石に私たちは付いていけないわよ?」
そう言われるが、そんな事は既に俺も解っている。と言うか、もうやってしまった後だ。まあ俺がやった事だとは絶対にバレないだろうが。
ソレをまだ話していないので追加でソレを報告する。するとラディが頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てながら言う。
「お前が、エンドウがやったと言う証拠は無いだろうからソレは、まあ、良くは無いが、いい。だがな?俺の勘だと、あいつら俺たちを指名手配するぞ?」
コレに俺は「ソレは流石」にと思ったのだが、ミッツが補足してくれた。
「役人たちは恐らくですが、今回のエンドウ様のやった事を私たちが起こした事だと無理矢理に主張してくるのではないでしょうか?それこそ証拠も何も無いでしょうが、やりかねない様に思います。」
俺はこれを聞いてまさかとは思ったのだが、そいつらのニヤニヤ顔を思い出してうんざりした。
もしかしたら、それこそ低い確率ではあるのかもしれないのだが、それやる可能性が否定できなかったから。
「・・・なあ?どう思う?俺としてはもう国の、城に押し入って暴れてしまいたいんだけど。」
ラディ、マーミはギョとする。それはそうだろう。国に喧嘩を売るにしたってその本拠地へカチコミに行きたいと言ったのだから。
当然俺には思惑が有って、それこそ大本を絶たないとこの問題は終わりそうにないと思っての事だったが。
ソレは常識として二人の脳内には思い浮かびもしなかった事だと言う事だ。
で、ここでラディだが、俺の意見に賛成の姿勢を見せてくれている。
「なんだろうか?もうエンドウはソレをしない限り治まら無さそうだな。勝手にやれ、などとは言わないが、そもそもそれに俺たちは一緒には行けないぞ?」
そうだ、ラディの言う通り、コレは俺の怒りである。彼らに共に来いと言う事は言えない。寧ろそんな事を頼むつもりは最初からこれっぽっちも無かったのだが。
「勝手に俺の独断でやってしまえばよかったか?相談して心労を与える様な事して悪いな。」
俺はそう謝罪したがコレにマーミに怒られた。
「あんたねぇ~。それこそ、そんな事しました、って後から事後報告されてたらこっちは心臓止まってるわよ。こうして先に話してくれた方がまだマシ!これからもやりたい事があったら先に話してちょうだい。こんな相談事とは言え、黙って居られちゃいくら命があっても足らないわ。」
マーミが言うには、俺がしたい事があったら先に相談しろと言う事らしい。
確かに俺はこの世界の常識が分からない。なので逐一相談するのが堅実だ。それも、ほんの小さな事であろうとも。
確かにちょっと今は怒りがまだ燻っていて「城への突撃」何て言う風に言ってしまったが、それこそ俺の常識に当てはめてみてもコレは「普通」じゃ無かった。反省しなければいけない所だ。
「私はもういい加減にこの制度自体を止めさせるべきだと思っているので城への訴えを出すといった部分には賛成です。」
俺の意見に賛成するのはミッツだ。けれども部分的な所を見て賛成だと言っている。
そう、今のシーカク国が出している冒険者を半ば無理矢理に国の戦力に取り込む政策だ。
マルマルに居るその役人たちもソレを為すためにやってきているのだ。で、その標的は俺たち「つむじ風」である。
大本を叩かないとこの問題が終わらないと思ったが、そもそもこの制度を停止させる案は俺は今の所思い浮かんではいない。
「うーん、正面から叩き潰すのが一番手っ取り早い気がしてきた。」
物理的に「そんな事言ってられない」と言った所まで徹底的に潰す。コレがまず真っ先に思い浮かんでいる時点で俺はまだ怒りが治まっていない事を示している。
こうして俺の怒りを小出しにして聞いて貰っている時点で少しづつ沈静はしてきていると自覚してきたが、それでも炎は燃えている。
「やるなよエンドウ!絶対やるなよ!やるなよやるなよ!」
カジウルが何処かのお笑い芸人の様な事を口に出すので思わず俺は「フリかな?」などと一瞬脳に掠める。
でもカジウルの本気で焦っている顔を見てここは冗談を言う場面じゃ無いなとボケるのを止めた。「え?ソレはやれって事?」と口から出すのを。
「とりあえずは俺だけでも城に行って「お話」してくるわ。皆はサンサンで待っていてくれないか?あ、この街に飽きたって言うなら先に別の街に移動するって言うのも割とアリだな。あ、ダンガイドリに餌やってからでいいか?」
「お前なぁ~・・・まあ、でも別にこのサンサンに不満がある訳じゃ無いから待つのは構わんけどもなぁ?」
カジウルが代表して言う。でもマーミが別案を出してくる。
「ねぇ、ここから二つ村を過ぎた大分に先の街にさ、ダンジョンが五つもある街があるでしょ?そこに行かない?」
どうやらダンジョンクリアがされていないそんな危険な街が有るらしい。
「あー、冒険者が大勢で積極的に潜っていても未だに最下層に至らないんだったか。しかし氾濫が起きたりしてないんだよな。」
ラディは俺にどんな場所かを教えるように追加の説明をしてくれる。
「そうですね。次に向かうのはそこで良いんじゃないでしょうか?エンドウ様のお帰りを待ってから出発で。」
ミッツは俺が城に行って戻って来る事が「当たり前」の様に軽い感じでそう意見を述べる。
確かに俺は城勤めなんてする気は無いし、戦争の駒として取り込まれるのも御免被る。
だからこれから城に行って「つむじ風」のケツをこれ以上追いかけ回さないように言ってきたらすぐに帰ってくるつもりだ。
まあ追いかけ回そうとして、奴らはそもそも見当違いの場所でグルグルして見つけられずにいるのだが。
マルマルに俺たちは居ない。なのに未だにそこに留まっているのはある意味間抜けだ。
幾ら俺が「目撃情報」を意図的に作って止まらせるように仕向けていたとしても、期間と言うモノが有る。
いくら探しても見つけられないなら自分たちの力の限界を悟って、もっと上の上司に相談でもするべきだ。
でも、俺が見たあの三人組はヘラヘラとした顔で居た。真面目に探す気がもう無いのか、あるいは最初から無かったか。焦った様子も、危機感も、微塵も見られなかった。
その場合に考えられるのは、あいつらがマルマルを今もフラフラして居るのは「務め」を盾にサボっていると言う事だ。自分の仕事を。
城に帰れば違う仕事などがあいつらにもあるのだろう。だから「捕まらない」と言った言い訳で、いつまでも本来の仕事をサボるための口実に使う、と。
(まあコレは俺の憶測でしかないけどな。それに一人があんな目に遭ったんだ。もうソレ所じゃないだろう)
既に俺がバッサリとやった後だ。大問題発生である。まあ俺が犯人だと言う証拠なんて残っていないのでどんな対応を取るのかはっきりするのはもうちょっと時間が経ってからだ。
きっと「面子が!」「国の使者を暗殺などと!」と言って騒ぎだして犯人探しに躍起になるのではないか?と俺は思っている。
(うーん、もう別にコレで良いのかなあ?何だかそれでドタバタしている所を想像したら留飲下がったわ~)
まあそんな事を思ってもこの根本的な問題が解決している訳では無いので、俺は翌日にマルマルにもう一度行って使者たちの様子を見に行って見る事にした。




