手広く?いや、キャパシティー問題が、ね?
「確かにソレは便利そうだけどさ、それ、どうすんのよ?売るの?」
マーミに一通り説明をしてからそんなツッコミを貰った。そうだ、これをどうするかだ。
そもそもリバーシもそう言えばクスイに相談すると言った事を考えていたはずだ。これ以上はクスイに負担を増やすのはありだろうか?
「うーん?サンネルにそこを頼んでみるとか?いや、魔物の素材だけ買い取って貰うだけにしないと、あっちこっちに下手に分散するのはなぁ。」
アレコレと覚えきれない程に物を分散するべきでは無いと思えた。
思い出そうと思えばおそらくは今の俺の「脳」ならいくらでもできそうだが。それでもそこまであっちやコッチと手広くやろうとは思えない。
やるなら全部そこら辺の「権利」なんかを丸投げするような感じで責任回避したい。
利権がどうの、手続き書類がどうのと煩雑な作業に囚われたくないからだ。
それにそう言った事に付き纏う者が現れたり出てきたりとするイメージがある。金稼ぎに一枚噛みたいと言った輩にわんさかと群がられるのは避けるべきだ。
「ままならないなぁ。マンスリには卵の件と救命胴衣の分が有るし?コレは別の街の商売人に持ちかける案にしておこうかなぁ。」
今日にマーミと遊ぼうと思ったのはチェスを考えていた。他にも一人遊びができる物としてルービックキューブなんかも考えていた。
レゴブロックなんかも面白そうだし、他にも知育遊具などもあれば子供に、親に大人気になるかなとも。
おはじき、ビー玉、けん玉、お手玉、竹馬、その他にも子供の遊びなんかは広めれば面白そうだとも思ったのだが。
「あんたねー、また突拍子も無い事、考えてるでしょ?顔に出てるわよ?」
マーミからツッコミを入れられてしまった。どうやら俺は分かりやすい顔をしているようである。
結構マーミに俺の表情からツッコミを入れられる回数が多い。
「で、どうするの?行くの?行かないの?」
マンスリ商店に行ってチェスを作る材料を買おうと思っていたのだった。もちろん魔法で木材をチョチョイのチョイで作るつもりであった。
しかし雨、そして傘の話で話が大きくずれた。俺はもう一度だけ確認する。
「マーミは待ってるって事で良いのか。傘なら造れる・・・かな?どうする?」
インベントリの中のビッグブスはまだまだ大量に残っていた。なのでこれの皮や骨を使えばおそらくはこの世界の「傘」第一号は作り出せるはず。
でもコレにマーミが。
「あんただけで行ってらっしゃいな。気疲れするのよね、エンドウと長く居続けると。何しでかすか分かったモノじゃないから、こういう時って。」
コレに続けてフォローなのか?「戦闘時には頼りに・・・いや、ぶっ飛んでるわね」と付け加えられた。解せぬ。
とまあこうしてマーミが一緒に来ないというので俺だけ向かう事にした。
一応はマンスリとも話をする事が有るので遅くなる可能性を説明し、マーミに気長に待っていてくれと言っておいて俺は宿を出る。
それと気が変わったら別に俺の我が儘に付き合う事も無い、とも言っておく。
別のやりたい事ができたならそっちを優先してくれていいと。俺のこの思い付きはこの先に何時だってできる事だ。
マーミを相手にするだけじゃ無く、カジウル、ラディ、ミッツも居る。別にこうして暇つぶしの遊び相手にどうかと思い、たまたまマーミが居たから声を掛けただけである。
俺以外にここに誰も居なかったらソレはそれで、おそらくは思いつきもしなかったはずだ。
俺は魔法で雨避けの魔力シールドを頭上に展開する。そしてそのまま道の真ん中を堂々と歩く。
これだけの土砂降りに、中央通りである、このいつもは人が賑わう場所には人っ子一人見当たらない。
これでは稼ぎが出せないはずで、開いている屋台は一つも無い。
俺はそのまま歩いてマンスリ商店へと雨粒一つにも濡れる事無く到着した。
「店は・・・一応開いてるか。だけど、やっぱ人はいないな。しょうがないか。この雨じゃなあ。」
店内には俺だけしか居ない様子だ。他の棚の方へと意識を向けても他の人の気配は無い。
それに早朝と言う事もあるのだろう。この朝早い時間から店が開いているというのは非常に珍しいはず。
まあこうして入り口に立っているだけでは買い物もできない。俺はチェスを作るための材料を、主に木材を買いに来たのだ。
もしかしたら鉱石、鉱物などで作ってみても面白そうだったが、今の所そう言った物で重厚感を出すと言った事は考えずに単純に試しに作ってみるだけだ。大袈裟に素材を吟味する必要は無い。
「で、何故昨日の今日でお主がここに来ておる?まだ答えは決めてはおらんぞ?」
俺が店内を見て回っていたらマンスリに見つかった。まあ当然の流れだったかもしれない。雨の中、客の居ない早朝では目立つだろう。しかもここは本人の店だ。店内で商品準備などもしていたりするだろう。
で、もうマンスリに用は無い。聞きたい事は聞けた。まだ決めかねているという答えだ。だったらもう聞いておきたい事は済んだ。
後は適当な量の木材をゲットするだけ。それも切り残りの木屑で構わないのだ。ただで貰えたりするだろうか?と聞いてみる。ケチである。それと救命胴衣の方も聞いてみた。
「あのう、要らない木材とか屑木材ってただで頂けたりしません?あ、それと救命胴衣の方の量産化と漁師への宣伝とかはどうなってます?」
「お主・・・何を考えとるんだ?昨日は昨日で卵をあんなにあっさりと持ち帰りおって。しかも今日は今日で木材の入手でウチに来たのか?はぁ~解らん。お主が何を考えているのかサッパリ解らん。」
質問に答えてもらえなかった。ならばもういいだろう。木材売り場に行くだけだ。
ここにはキッチリと板状やら柱状に綺麗に加工した木材が並べ売られている。そのサイズも俺の知っているホームセンターと何ら遜色が無い。
アレコレ見ていても別に俺にはどれを買っても関係無かった。ならばすぐに清算レジへと持って行こうと手を伸ばす。
魔法でアレコレ加工するので木の切れ端でも構わなかったのだが、マンスリにはこちらの求めを聞いちゃいてくれなかった様だったので売り物の方をちゃんと買うだけだ。
「こっちだ。切れ端くらい、いくらでも持って行ってくれていい。こっちだ。」
どうやら切れ端をくれるというので俺はマンスリの後に着いて行く。
そこは木材加工用道具が置いてある部屋だった。どうやら客の求めに応じて加工もしてくれるところもホームセンターと一緒みたいだ。
「しかしまあ、木屑が凄い事になってますね。あ、そこの切れ端も貰っても?」
壁の側に寄り集められている小さな木の切れ端、そして薄く削れた木屑。それを俺は指さす。
コレに「何をする気なんだ」という無言の視線が俺へと向けられる。
「やだなあ。この部屋の不要という木材を引き取るだけですよ。それを何に使うかはもうちょっと仲良くしてもらえるようになってからですね。」
俺はそして風の魔法を放つ。そう、ダイ●ンだ。マンスリがこちらを見ていないタイミングでインベントリから大きめの袋を取り出しておいて正解だ。
その袋の中に木屑を全てこの風の魔法で吸い込み収拾する。この光景にマンスリが「ぬおわぁ!?」と驚きの声を上げる。
驚かせる気は俺には無かったのだが、もう起きてしまっては仕方が無い。マンスリはどうやら俺がこの様な方法で木屑を集めるとは思いもよらなかったらしい。
いきなり見せられたこの光景にマンスリが「なんて事だ・・・」と絶句していた。
この加工部屋の中にあった木屑、細かい粒子状の物から、カンナで薄く削られたカスまで、全てが俺の魔法で掃除されたので何処もかしこも綺麗サッパリだ。
後はもう使い道のないであろう短くなっている切れ端を、俺は丁寧に一つづつ手に持って大きさを確かめつつ袋へと回収していく。
こうして俺は充分な量を確保できたのでホクホクした気持ちで部屋を出ようとした。
「待て、待て待て待て!待てと言っているだろう。今のは何だ?何をしたんだ?」
そうである。このような魔法の使い方なんて思いもよらないのである、世の中は。
なのでその世の中代表としてマンスリが今俺へと先程の魔法の「使い方」を聞こうとして俺を引き留める。
「あ、木、ありがとうございました。じゃあ俺、宿に戻りますね。卵の件、決定したら教えに来てください。その時には協力を惜しみませんので。」
俺は礼を一言口にしてここを去ろうとするのだが、それをまだマンスリが引き留めてくる。
「救命胴衣の件は私が中心で増産体制を作っとる。・・・これを本当にお前さんの案として出さんで良いのか?裏が有るんじゃないだろうな?」
「うーん、別に裏なんて無いんですけどね。正直に言って救命胴衣の方はこのサンサンに必要だから?って感じですね。早めにコレがこの街に広まれば少なくとも悲劇が起きる可能性が低くなるでしょ?だったらソレはそれで良いんですよ。案は「ただ」でマンスリさんにご提供します。それで金儲けができたりすれば俺の事を少しは信用してくれればそれで。」
これにマンスリがポカンとだらしなく口を開けてしまう。
「何と言う馬鹿だ・・・これほどの者を見た事が無い・・・」
「・・・それ、失礼過ぎません?」
何度も俺を引き留めてきたマンスリがいきなりこれである。去ろうとしていた俺はコレに逆に足を止めてしまう。
「これほどまでに金になる案を私への信用の為に差し出すんだぞ?馬鹿としか言いようが無いだろう?」
「はぁ~、じゃあ馬鹿で良いんで。今日はこの辺で失礼しますね。人を待たせているんで。」
待たせているのはマーミである。あんまり遅くなりすぎても悪い。なので今日の所はここまでだ。
俺がこれほどまでにあっさりしている事に、余計にマンスリの眉間に皺が寄っている。
もう俺は今、卵の件よりもこの木で作るチェスの方へと意識が向いていたのでさっさと店を出た。
雨はまだ止んでいない。なので俺は来た時と同じに魔法を使って宿へと戻る。
多少は時間が経っていて雨の勢いは多少減っていたが、それでも通りに人は見かけられない。
誰にも出会う事無く俺は宿へと戻って来た。
「ただいまー。って、皆なんで集まってるの?」
宿へと入ればそこにはつむじ風全員集合である。食堂の椅子に座って皆俺を待っていた。
「よう、戻ったか。じゃあ早速作る所も見せてくれよ。」
「面白そうなものを作るんだって?こんな雨じゃ外に出る気にはならんからな。」
「エンドウが遊具を作るって言うのを教えたの。そしたら自分たちもって言ってね。ここで待たないでも良かったのにこれよ。」
「エンドウ様がどんな物をお作りになるのかが知りたくてお待ちしていました。楽しみです!」
ミッツはどうやら気持ちを持ち直したようだ。それでも少々いつものミッツよりもテンションは低いように感じる。
カジウルは俺に作って見せてくれと。多分その魔法で作っている様子を見るのすら暇を潰すためと言う事らしい。
ラディはどうやらこの雨の中じゃ街の情報を集めるのは億劫だと言っている。
この全員集合のきっかけを漏らしたマーミに別に俺は怒る事は無い。別に誰にも喋るなとも言っていないし、マーミが他の用事で俺の遊び相手になって貰えなかったら他の皆に相手になって貰おうと考えていたからだ。
「はあ~、じゃ、俺の部屋に集まって。ここじゃなんだから。」
こうして俺は皆を部屋へと集めて、貰って来た木屑を目の前に置く。そして魔力をそれに流して「成形」していく。
先ずは白黒で切り分けられた盤。次に駒の形を一つずつ思い出しながら魔力を流していき、形が整ったらそれを「固定」させる。
次々に駒は出来上がっていき、一揃いがテーブルの上に並ぶ。
「こいつはどうやって遊ぶんだ?まさかお人形遊び・・・をする形には見えないがな。」
「この板はどうして二つの色に分かれている?どうやらこれを並べると言ったように感じるが。」
「前の時やつとはまたガラリと変わったわね?形が色々あるし、役割が振り分けられてるのかしら?」
「早速遊んでみればいいのでは?説明をエンドウ様がしてくれるでしょう。」
やはりこの世界には盤上遊戯は存在しないのか、はたまた一般には出回っていないのか。興味深げに四人がチェスを見つめる。
俺はコレに一つずつの駒の動きを説明していく。そしてそれが終われば次に並びを。
「じゃあ、カジウルとマーミ、対戦して見ようか?「王」の駒を討ち取った方が勝ちの戦略遊戯だよ。」
いきなりやった事無い二人に対戦させるのは面白かろうと思ってこうして俺は指名した。
その二人もコレには乗り気になって「やってやるか!」「あら、負けないわよ?」と気合が入る。
こうして俺も横からその戦いを見つつ、追加説明をしたり、勝敗が決まれば交代して対戦を楽しんだりと、この雨の日と言う今日を過ごした。
夢中になり過ぎて昼飯を食べ損ねかけ、夕食も食べ損ねかけるといったハプニングが起きたりもしたが。
翌日の朝は晴れ渡っている。雨は夜遅くまで降り、このまま二日連続で雨かと心配したが、こうして雨が上がって爽やかな空気に深呼吸をする。
「昨日はやり過ぎたな。ちょっと皆熱中し過ぎだろ。」
一番強かったのはラディだ。見る見るうちに勝ち星が重なり、カジウルが「何でだ・・・」と意気消沈したくらいに。
ミッツとマーミが同率くらいで、一番下がカジウルだ。俺の勝ちは換算していない。
少々熱が入り過ぎてカジウルの頭がオーバーヒートしかけた。これを見たラディに頭を冷やせと言われたカジウルが水差しからコップ一杯分を出していきなり頭から掛けたので驚きで固まったくらいだ。
マーミから「あんたバカァ!?」と、どこかで聞いた事のあるセリフが飛び出ていた。
直ぐにミッツが布巾を持ってきてカジウルに渡す。その時にミッツも「突然何してるんですか!」と怒っていた。
ソレだけカジウルの脳はショートしていたと言う事である。人は頭に血が上っている時に思わぬ行動をするモノだ。今のカジウルがそうである。
水を被ったカジウル自身も即座に冷静になったのか「スマン」と小声で謝罪した所を見るにソレを自覚したのだと言う事が見て取れた。
「とまあ昨日はこうして賑やかに時間を過ごせたからいいけれど。」
じゃあ今日はどうしようか?と言った所である。
またダンガイドリの所に行ってもいい。もしくは無精卵をゲットしたのでこれを食べてみるのもいいだろう。
インベントリに卵はしまってあるのでいつでも出せる。保管場所には困らない。
「じゃあ今日は皆でこの卵を食べてみるとしようか。」
俺は今日の予定を皆に聞こうと思って宿の食堂へと足を運んだ。
そのまま宿の朝食を摂ろうかと思ったが、この卵をどうにか台所で調理できないかと考える。
「スクランブルエッグ?もしくは、シンプルに目玉焼き?ゆで卵・・・あーオムレツ・・・は失敗しないかな?卵焼きは甘いのが好きな人、しょっぱいのがいい人、出汁巻きがいい人いるよね。ここはマヨネーズを大胆にも作ってみてもいいか?」
しかしこの世界のこのダンガイドリの卵をどうやって食べるのが一番良いのか分からない。
そもそもこの卵は俺の知る「鶏の卵」と同じなのか、そうで無いのか。気になり始めると早く食べたい気分が高まる。
「よう。今日も早いな。で、どうした、そんな眉間に皺なんか寄せて。」
ラディがそう声を掛けてきた。どうやら悩み抜いた末に表情が渋いモノになっていたようだ。
コレに俺は考えていた事を伝える。すると。
「そんなに悩む事か?だったら料理人に先ずはお任せで作って貰ったモノをたべてみればいいだろう?その後に他の料理を思い付いたならソレをお前が試してみるのがいいんじゃないか?」
コレに俺は海の街という点に思いつく。海鮮の出汁を取ってみたい、と。そこから別のその他の料理が次々と脳内に浮かんでくる。
アラ汁なんてどうだろうか?もしくはマグロの兜焼き、鯛の煮つけ、ブリ大根、焼きホッケ。
日本酒が飲みたくなってきたのをグッと堪える。ここは別世界、日本酒は無いのだ。我慢である。
でも、考えたらそれに近いモノを造れるのではないのか?と言った思考にも飛んで行く。麹菌を見つけるのは至難かもしれない、もしくは存在しない可能性も。
「あんたら、またよからぬ事を考えてるんじゃないでしょうね?」
そこにマーミが現れる。俺だけじゃ無くラディにすら懐疑の視線を向けていて、これにラディが「一緒にするなよ」と抗議している。
卵を皆で食べたいと言う話を振るとマーミは「それは良いわね」と賛同してくれた。
「ラディの言う通りに素材持ち込みで料理してくれる店に行けば大丈夫でしょ。皆が揃ったら行きましょ。それで朝食なんて贅沢だわ。」
このサンサン、ダンガイドリの卵はお金を持っていてもタイミングが合わなければ食べる事が難しい。
ソレを今俺たちは持っているのだ。高額な料金も要らない、タイミングはいつだってオッケー。
そして今まさに朝食としてソレを食べようとしている。余裕である、贅沢である。
そしてちょっと間を開けてミッツが食堂に姿を見せる。
「おはようございます。あら?朝食は摂っていないのですか?何故?」
俺たちが雑談をしていて誰一人食事をした様子が見えずにミッツは不思議がる。なのでここで卵の説明をまたする。
「良いですね!じゃあ何処のお店がいいでしょうか?腕が良い料理人の方が良いですよね。それに裏で卵を掠め取るマネするようなお店じゃ台無しですし。」
高級食材、それも滅多に市場に出回らないものだ。なのでミッツの言葉にした事も心配しなくちゃいけないというのは盲点だった。
確かに出された料理の量で卵を「全て使い切りました」というのは判断できないかもしれない。
作った料理をそれこそ大量に余らせ、俺たちに提供せずに店の者たちがそれをつまみ食いの様に食べていたりしたら、それはこちらも納得できない所だ。もしくは他に来店してきた客へと提供して売り上げアップを図るなども。
まあ俺からしてみれば事前に交渉を持ちかけられていれば容認できるレベルの話ではあるが。それをこちらへの断りや話し合いをして来ずに勝手にされていたらそれこそ怒る案件である。
そしてここは事情通ラディへと話を振ると。
「前回に行った所があるだろう?あの店なら大丈夫だ。じゃあ行こうか。」
「おいおいちょっと待て!俺を忘れるんじゃない!」
カジウルがそう言って階段から慌てるように降りてきた。コレで全員集合だ。こうして俺たちは宿を出た。
前回と言うのは、卵を仕入れたレストランの事。そこに行ったら先にお金持ちが全部の皿を平らげてしまって俺たちが卵を食べれなかったその店である。
早速その店に向かった。皆足取りが軽い。なにせ今回は何の心配もいらないのだ。卵はもう確保してある。
後はこれを店に調理を頼んでできた料理を食すのみ。俺もこのダンガイドリの卵がどんな味なのかワクワクしながら道を歩く。
「へい、いらっしゃいまし。本日は五名様で御座いますね?」
店へと入れば店員が対応してくれる。俺たちは個室にして貰いたいとお願いして案内をして貰う。
部屋に入るなり慣れた様子でラディが「料理長を呼んでくれないか?」と案内してくれた店員にチップを渡している。
そして店員が料理長を呼びに消えた間に俺へと卵を出しておくように言ってくる。
これに俺はすんなりとインベントリから卵を取り出してテーブルの上に置いた。
それからチョットして料理長が部屋へと入ってきた。
「本日は御来店いただき、誠にありがとうございます。ご用件をお伺いしても・・・!?」
料理長は部屋に入ったときに直ぐに頭を下げて挨拶を始めたので卵が目に入っていなかったようだ。
頭を上げた時には直ぐに気付いたようで、その瞬間に言葉を失っていた。
ラディが料理長と話を始める。俺たちはソレを黙って任せる事にした。
(それにしてもラディはグルメなのだろうか?この街を散歩すると言って情報収集をするというのは口実で、まさか美味しいお店を探すのが趣味とか?)
それほどまでにラディが慣れた様子で話をしているものだから、そんな思考が浮かんでくる。
そうして話がついたようでラディが席へと戻って来た。
「エンドウ、どうする?料理の研鑚のために少量を譲って欲しいと言われたんだが?」
「うん?ああ、別にいいよ。ちゃんと卵料理、堪能させてくれるならお安い御用だ。」
「その譲って貰う分の料金は払うと言っているが?」
「いや、要らない要らない。卵は、まあ言ったらなんだけど、タダで採ってきた様なものだろ?お金貰うのは何か悪いよ。」
この俺の言葉にカジウル、マーミが「お前はオカシイ」と言った視線を同時に向けてくる。解せぬ。
ミッツだけは「流石エンドウ様!懐が深いです!」と変に俺を持ち上げてくる。これはいつものようにスルーしておく。
「分かった。そう言う事だ、料理長。」
ラディがそう言うと部屋の入り口で留まっていた料理長が深く頭を下げて「ありがとうございます」と感謝を述べてくる。
真面目な人なのだろう。そのしっかりとした人間性に好感が持てる。
こうして俺たちは料理が来るまでの間、今後の卵の件についての話を少しだけした。
今後のマンスリとの交渉や、ダンガイドリの餌やりなど。
でもこれらを全て俺がやれと皆が言う。
「いや、俺は餌やりはこえぇよ。アリャ近づきたくねえ。」
「私は船に乗るのが心配。何が起きるか分かったモノじゃ無いもの。」
「船の操縦はやってもいい。交渉の件も横に居て相談に乗るくらいなら出来るさ。けどなあ?」
「既にエンドウ様以外にこの話は無理というモノでは無いでしょうか?」
確かにダンガイドリは俺に懐いてくれている。そしてマンスリとの話も俺の頭の中にある構想を説明し、その資金と人員を提供して貰うと言った形になるだろう。
考えてみれば皆は確かに俺の思い付きに付き合ってくれる形になったが、最終的には俺の頭の中にあるビジョンは俺だけのモノで、皆には詳細を話してはいなかった。
大体ザックリした話はした覚えがあるが、こうも大胆に事が運んでしまっては皆が手伝えるという部分はとっくに超えてしまっている。
と言った所で料理が運ばれてきた。様々な卵料理である。色々あってどれを最初に食べてみようかと迷ってしまう程の数が有る。
「こんなに?凄いね。じゃあ食べよか。」
コレは一応は朝食であるので酒は無い。朝っぱらから酒盛りと言うのは流石に抵抗がある。
こうして俺は料理へと目を向ける。見た事が無い野菜を卵でとじている料理を先ず皿に取り、一口頬張る。すると卵の強い味が先ず口の中に拡がる。
俺が知っている卵の味のもっと何倍にも増した味が強烈だ。その後に野菜の甘みが優しく後から追ってくる。
「美味い!コレは確かに一度味わったらまた食べたくなる!あーでもこれ、滅多に食べられないんだったな。うーん、ますます養殖を現実にしなきゃなって思うな。」
別の料理も食べてみるが、どれもインパクト充分な卵の味が真っ先に口の中を叩く。
そして料理に使われた他の食材の味が後にジワジワと、と言った感じだ。
「卵かけご飯とかコレで食ったらヤバい事になりそう。やってみたいな。あ、でも米と醤油か。」
どれもこれも卵が主役!と強く主張する料理を次々に味見をしていくと、それらを全部一通り食べてお腹も一杯になる。
もう暫く卵は勘弁、とまではいかないが、それでも大満足と言えるくらいに堪能した。ダンガイドリの卵は凄まじい。
「プリンがヤバそう。あ、マヨネーズもヤバいなコレ?マズいマズい、思い浮かんだこれらって今はやめた方が良いな?」
ここまで濃いと言う領域を超えた卵の味である。これらの衝撃は計り知れない物になるのが想像に容易い。
卵だけでもこれだけの衝撃なのだ。これらの料理はやめておいた方が無難だろう。
「あ、茶わん蒸しも?・・・単純にゆで卵もヤバいんだろうな?ソレにマヨネーズを付けて食べ・・・あぁ、駄目だ駄目だ。頭の中が混乱してら。」
「何さっきからブツクサ言ってるのよ?エンドウ、あんたちょっと顔が強張ってるわよ?」
マーミからのありがたいツッコミが入る。俺はコレに因って料理のレシピをあれやこれと思い出し始めていたのを停止させる。
危なかった、と俺はマーミへと密かに感謝を送る。何せあのままでいたら料理長にそのままレシピを教えに行こうとしてしまっていたはずだ。
手広くやるにしても見境無くしてしまうのは駄目だ。順序やら手順、それに順番が有るだろう。
片付けなければいけない問題が先にある。マンスリが卵の件をちゃんと検討してくれているだろうかと思いを馳せるが、それは後は野となれ山となれだ。
マンスリが「駄目」と言ったらそこで話はお終いだ。ダンガイドリの卵の養殖は諦める事になるだろう。
「そうだな。そうなったら個人的に食べたくなったら貰いに行けばいいんだしな。」
「おいおい、卵を採りに行くんなじゃ無くて「貰いに行く」か?しかもそれ、駄目だったら卵を取らないってのが含まれてないか?」
そうだ、俺は別に無理矢理ダンガイドリから卵を奪うつもりは無い。なので今回みたいに「無精卵」が貰いに行った時に無ければ、卵を持ち帰らずにそのままダンガイドリ達との交流だけして帰ってくるつもりである。
野性の動物であるからして、繁殖、子孫繁栄を阻む様な事は酷である。こんな考えは今更だと自覚はしている。
俺がこうして生きているのにも他の生物を食して生きているのだから。
でもこうまで慣れて来てしまうとダンガイドリを可愛い物と見てしまう。見てしまっているのだ。もう手遅れである。
ならばもうコレはしょうがない事だ。家畜などと言った目で見れなくなっている。ならば卵も無理矢理奪うような事はしたくは無くなっていた。
カジウルが言葉の中に混じる俺の感情を鋭く読み取ってそう言ってきたが、俺はそれに苦笑いだけ返した。
 




