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結果はどうなった?

 今俺たちは船の上だ。そしてラディに安全運転をして貰い、昨日のあのダンガイドリの巣へと向かっている。


「おぬしら、この私の身に何かあれば商会が黙ってはおらんからな?そこら辺は分かっているだろうな?他にもお前たちには仲間が居るだろう。そいつらにどれだけの報復がされるか、覚悟はできているか?」


 どうやら身の安全の保障の話らしい。コレに俺はちゃんと告げておく。


「あ、もうその点は大丈夫です。マンスリさんには既に俺がそこら辺の守りを固める魔法は掛けてありますので。それと救命胴衣も着て頂いているので海に落ちたとしても沈んだりはしませんから。」


 俺はマンスリに着てくれと言って新しく作り出した救命胴衣を渡してあった。

 コレの事はあの卵の話の後にしておいたのだ。ダンガイドリの卵の件よりもこちらの方がマンスリの食いつきが良かった。

 製作するにあたり、マンスリの店で素材を吟味してそれらに魔力を流して一瞬でサンプル作り渡したのだ。これらの材料費はマンスリの方で提供すると言われたのでこちらに何の負担も無い。一応は作り出した場面をマンスリには見せてはいない。見られていたら何かとうるさく付き纏われるだろうと思っての事だ。

 当然作り出したこれを実験してみない事にはと言う事で、こうして海まで来て救命胴衣を俺が来て実際に浮いて見せたのだ。

 この実験は大成功ですぐにマンスリもこの救命胴衣の製作に取り掛かると言ってくれた。

 どうやらこれが有る事に因っての海難事故の犠牲者を大幅に減らす事ができると即座に理解したようだった。流石は海の街で商売を長年やってきた人物である。


 そして俺たちの購入した船を目にした。そう、ここは船着き場だ。俺たちの船を留めてあった。

 帆を張るポールが無い事に気付いたマンスリが「こんな船が海を走る訳が無い」と言ったので、じゃあ乗って貰いましょうかという流れである。そこまで言うなら乗ってくれとマンスリに促してラディに運転を頼んだ。

 そしてそのまま俺が半ば無理矢理に「このまま行っちゃおうか」と言ってラディにそのまま運転をさせてダンガイドリの所まで連れて来たと言う所だ。まあ、誘拐に近い。いや、俺たちの船を小馬鹿にしてくれたマンスリが悪い。


 そんな経緯が有って今目の前には断崖である。そう、巣に到着だ。マンスリは俺たちの背に隠れてダンガイドリ達に自分の姿を見られない様にと必死だ。


「なあ?エンドウ。あんまりその爺様を脅かしてやるなよ。と言うか、俺もこんなに間近で見るのは初めてだからよ。少々ビビっちまってるが。」


 カジウルがそう言葉を漏らす。ラディは二回目なのでどうやら既に気にならなくなっている様で。


「カジウルはまだマシだ。俺は昨日ここでもっとヤバいモノを目にしたからな?後でその時の事を説明してやるよ。それにしたって、昨日の今日で異常じゃないか?」


 ミッツはと言うと初めての船、そして大海原にちょっと興奮した様子で。


「エンドウ様の言う通りですね。慣れてくると可愛く見えてきます。話に聞くよりも大きく見えますね。思っていたよりも巨体です!」


「どう言う事だ?何故こやつらは襲い掛かってこない?寧ろ落ち着いた感じで船に・・・その中でも一回り身体の大きい個体が何故お前の前で頭を垂れる?」


 船に一羽のダンガイドリが近づいてきて、見事に船上の空いたスペースに舞い降りる。

 俺、カジウル、ラディ、ミッツ、それとマンスリが乗っているので空きはかなりギリギリだ。

 そんな巨体のダンガイドリが俺の側まで来て一礼してからまた飛び立った。

 この動作にマンスリが混乱しているのだ。どんな行動だったのかと?どういう意味を込めた動作なのか?と。

 ダンガイドリがどの様な思惑を持ってその様な動きをしたのかテンで思いつかないのだろう。


「アレがこの群れの中心のヤツなのかな?うーん?俺たちを受け入れてくれた、って言う事でいいのかね?じゃあラディ、あの階段の所まで付けてくれ。」


 俺は昨日崖に作り出した階段の所へと船を寄せてくれるようにラディに伝える。

 まだここはダンガイドリのテリトリーの外だ。だから船をこれ以上崖に、巣に近づけさせればダンガイドリが襲ってくる領域である。

 しかしそれが一切無い。どうやら俺たちに危険が無い事をダンガイドリ達は認めてくれたらしい。

 これにはマンスリが「そんな馬鹿な・・・」と思わずと言った感じでこぼす。


「じゃあちょっと皆待っててくれない?餌をいくつか試してみてくる。」


 俺は店でのあのプレゼンの後に救命胴衣を作るついでに色々な穀物類を購入してあった。

 見覚えのある形、無い形。合わせて五種類ほどの説明を受けてそれらを一キロずつ購入した。

 購入したそれらは麻袋詰めで、店員や客の目がこちらに向いていないタイミングを見計らってインベントリに全部突っ込んだのだが、バレていないかその時はヒヤヒヤしたものだ。

 インベントリはむやみやたらと人に見せる物では無い。しかしラディにこの時またしても突っ込まれているが。人気の無い所に一旦持って行ってからゆっくりとしまえばよかっただろうに、と。

 無理に店の中で購入後に直ぐにしまわなくても良かった、と


「さて、そんな事よりもまずは餌として魚以外は何か食えそうなのは有るか?」


 俺はその時の事を頭を振って忘れる事にする。今この時はダンガイドリに与える餌の話だ。

 ちょっと深めの小皿を出して、そこへと先ずはトウモロコシの様な見た目の物を出して見た。

 するとコレに興味を引かれた巣に居たダンガイドリが一粒それを口に入れた。すると次々にそれをカパカパと食べ始める。

 どうやらコレはこの鳥にとっては美味しいご飯となり得ているようだ。


「うーん、ならもうちょっとこの足場を拡げて他の鳥たちにも試食をして貰ってみようかな?」


 最初に出した小皿はもう空っぽだ。どうやら相当にお気に召してくれたらしい。

 だが、この個体だけの嗜好かもしれない場合がある。なのでこの場に他のものたちを招いて食べてもらう事にする。俺は巣の足場を拡げるためこの崖に魔力を流した。

 俺が足場として持ってくる材料はもちろんこの崖の岩の部分だ。だからと言ってこの崖がそのせいで脆く崩れるようにはできないのでしっかりとそこは計算している。

 この巣の窪みの部分、その天井が崩れてきたら卵が割れてしまう。なのでそこら辺の強度も考えて危険にならない部分から足場となる材料を引っ張ってきている。

 こうして出来上がった出っ張り、その足場に先程に船の上にやってきた一回り体格の大きいダンガイドリがやってくる。

 それに俺は皿を五枚出し、それぞれに買って来た穀物類を出す。

 するとそれを見て興味を持ったのかジッとそれらを見比べ始めるダンガイドリ。

 そして最初にトウモロコシモドキを食べ始める。次にはその隣、次はその隣と言った感じで一口ずつ味わうように時間を掛けて全種類食べた。

 どうやらそれらは全部「イケる」らしい。その中でも好評だったのがトウモロコシモドキだった。

 モドキと言うのは俺の勝手な命名だが、それでもダンガイドリのお気に入りはそれであるようだった。

 そこで俺は魚も用意する。そしてダンガイドリに対して「どちらがいいか?」と訊ねるようにモドキと魚を並べて差し出す。

 すると両方ともを見比べてからまず魚を食べた。そして次にモドキである。どうやらどちらも欲しいと言った行動の様だった。


「良し、コレで餌の方も魚、穀物類どっちもイケるって分かったな。そしたらその餌の配分かぁ。毎日魚を出す、って言うのもかなりの負担になるだろうし、そこはマンスリに丸投げでいいか。」


 俺はそうして一旦この広げた場所へと買って来た餌を全て出し並べておく。

 するとどうやら順位と言ったモノが存在するのか、お行儀よく順番にダンガイドリがこの足場にやってきて餌をついばみ始めた。

 満腹になったら飛び立ち、そして別の個体が降りたつ。そしてあっと言う間に餌はここに居たダンガイドリ達全てに回り切って丁度終わった。


「じゃあまたその内に来るよ。毎日じゃ無くて悪いな。あ!そうだ。卵を調べさせて貰うか。」


 俺は魔力を卵へと流す。もちろん魔力ソナーだ。コレで有精か無性かが判別できればその後の対応方法も決定する。


「お!?おお!?これ一個だけ無性だな・・・貰って行っても・・・良いかな?」


 俺は一つの卵に手を掛ける。するとちょっとだけ警戒させてしまったのだが、それは直ぐにスッと収まった。ダンガイドリの巣に最初に踏み込んだ時とは大きな違いである。


「こいつはいくら温めても孵らない卵なんだが、貰って行かせてもらう。大丈夫・・・か?じゃあ、ありがとう。頂いて行くよ。」


 今日のここでの実験はこれで終わりだ。こうして卵を抱えて俺は慎重に階段を下りて行く。

 そう、抱える、だ。この卵はダチョウの卵程までには大きくは無いが、だからと言って鶏の卵ほど小さくも無い。どうにも微妙な大きさだった。


「まさかなぁ・・・昨日の今日で卵を採ってきちまうとは、エンドウはもう・・・あー何も言えんわ。」


 カジウルが呆れたような、諦めたような言葉を俺へと吐き出す。


「もうトリたちを手なずけたのか。と言うか、昨日の時点で既にそうだったな。」


 ラディは納得している。既に昨日同行していたラディにはこの光景が予想できていたのだろう。


「凄いです!エンドウ様!その卵はどのようにして持ち帰る事ができたのですか!?流石に抵抗されたのでは?」


 ミッツは多少の興奮を見せつつも、冷静にダンガイドリから攻撃されなかったのかと問う。


「言葉が無い。お前さんは一体何者なんだ・・・あの中を平気で歩いて、しかも手なずけている?そんな馬鹿な話があるか?今までそれを為そうとしてきた冒険者や商人がどれだけ手を尽くしてきても成し遂げられなかった事をやってのけた?これほどまでに簡単そうに?」


 どうやらマンスリは「信じたくない」と言った感情の方が大きいみたいで、その表情は険しい。

 最後に小さく「そんな馬鹿な」と言った呟きがされたが、俺はこれに聞こえないふりをしておく。


「じゃあ今日はコレで戻ろう。あ、帰りはカジウルがやる?安全運転でお願いするよ。お客さんが乗っているからね。じゃあ帰ろう。」


 俺はそう言ってラディにカジウルと運転を変わるように手で指示を出す。

 コレにカジウルが「安全運転ねぇ」と言って俺に運転するにあたっての注意事項を聞いてきた。

 こうして速度をなるべく上げない様に注意をしつつも大海原を走る。

 まあマンスリが「この船はどうなっているのだ・・・」と言う呟きも船着き場に着くまでに十回以上口に出していたが、それも俺は無視した。


 こうして到着して船を降りると俺はマンスリへと声をかける。


「じゃあ卵の方は要検討と言う事で。あ、その救命胴衣の方は持ち帰って頂いて結構です。そちらの方の話も後日にお時間が出来ましたらまたお呼び頂いて続きの話をしましょう。では、本日はお疲れ様でした。」


 こうして未だ何を納得できていないのか、難しい顔のままでいるマンスリをこの場で見送って、俺たちの今日の予定の一つが終わった。


「さて、もう今日は今の所は予定は無いか。どうする三人とも?」


 ダンガイドリの巣があの場所以外にも存在するようではあったので、俺はそこを探してみたいと考えていたのだが。あの数が巣一つに収まるはずが無いのでそこら辺を確認しようと思っている。


「あの、エンドウ様。私と一緒に教会の方へと来て頂けませんか?エンドウ様に診ていただきたい患者がいます。」


 深刻な顔でそうミッツが言うので俺はコレにどうにも首をかしげる。

 今のミッツなら大抵の病気や怪我などは治療できそうだと感じていたからだ。


「んん?まぁいいいけど。じゃあ行こうか。カジウルとラディはどうする?」


「俺はまだこの船でかっ飛ばしてていいか?もうちょっと速度を上げてバーッと!走らせてみてぇんだが?」


「カジウルがこう言っているからな。俺はそのお目付け役で一緒に船に乗ろう。こいつが調子こいて魔力をすっからかんにしたら戻って来れないだろうからな。遭難だな。」


 ラディがそう笑ってカジウルをからかう。二人はそのまま船に乗って走り出して行った。

 こうして俺はミッツと一緒にその患者とやらの治療をしに行くために教会へと向かった。


 で、到着すると教会の奥、ベッドで寝かされている患者の所まで連れて行かれた。


「この方です。どうにもここ最近身体の動きが悪いと感じられていまして。しかし私が「診た」所、何も異常が見受けられません。ちなみにこの教会の神父様です。」


 いきなり神父様だと言われ俺は一瞬だけ理解に苦しむ。確かミッツの治療を「肯定」してくれている人物だったはず。

 それがこの様にいきなり数日で身体の悪さを訴えてベッドに寝転がっているとなれば、それを少々訝しむ事しかできない。

 ミッツの診断で何処も悪く無いと出たのなら他に原因が何か、俺に分かるだろうかという懸念も。


「初めてお目にかからせて頂きます。このようにベッドに横になったままでは失礼ではりますが、この通り身体の自由が利かなくなってきておりましてな。ご容赦願いたい。」


 物腰柔らか、優しい顔つきのヨボヨボ爺さん。コレが先ず俺の神父への第一印象だ。


「貴方がミッツ様の師だとお伺いしております。本日は私の為にわざわざ足をお運び頂き、誠に感謝。」


 言葉ははっきりとしている。その目も死んでいない。俺を見るその目はしっかりと俺を捉えている。


「ミッツ様を通して私は今の現状の教会の治療行為を否定します。いつかこの貴方様の教え、この治療法が広まれば世界の悲しみがどれ程までに減らせるか。そしてどれだけ世界に平和が訪れるか、計り知れません。」


「いや、その考えは間違っていないが、一つ、見えていない。この治療法が広まれば「戦争」に利用されると言った点だ。戦場での負傷者が即座に治療できてしまうという点では戦線復帰、そこからの戦争の長期化と言った面も考えなけりゃいけない。コレはそう容易に広まってはいけない、この知識や技術をどこかに独占させるような真似はさせられないモノなんだよ。」


 この俺の指摘に神父様は驚きで目を見開いた。どうやらミッツが見せる治療に心奪われて「理想」だけが大きく膨らんでしまっていたようだ。


「申し訳ありませんでした。私の考えが浅はかでしたね。確かに、まだまだこの治療法は広まるべきでは無いのかもしれません。気が逸りました。慎重さを求められるのにそこまでの考えが至らず・・・」


 神父様は目を閉じて深く反省をしているようだった。しかし希望は見失っていない様で。


「しかしこの治療法は広めるにあったっても膨大な魔力を持つ者でしか行えない事もまた事実。そう言った者を育てる事もまた大事ですな。その方法を先ずは考えるべきでしたか。」


 確か師匠から聞いた話だと魔術師と言うのは今の時代「研鑚」を積む奴らが少なくなってきているという話だったはず。

 どうやら心配しなくともこの方法はもっと遠い未来、大分先になって実現する事となろう。

 そう考えると「あれ?俺量産できるな?」と言った言葉はこの場で呑み込んでおくべきだ。

 ミッツにも小声で「俺の事は無用に話すな」ともう一度だけ釘を刺しておいた。ミッツもコレには首を小さく頷いてくれたので分かってくれていると信じたい。


「ではエンドウ様、神父様の容態を見て頂けませんか?私にはこの原因が掴めなかったのです。」


 さて、話の次は本命の治療だ。神父様のこの現状がどうしてなのかの原因が、ミッツには心当りが無いと言う。

 しかし何故か穏やかな表情でミッツを見る神父様には「何故なのか?」と言った疑問に思う表情が出ていない。

 まさかとは思っているのだが、俺も一度、神父様の身体を診てみなければと思い魔力を流してみる。


「失礼しますね。魔力を流しますので、違和感などがあればすぐに仰ってください。すぐに魔力を止めます。」


 俺が神父様の身体を隅々まで魔力で読み取ってみた所、別に「異常」が起こっている訳では無い。

 身体の中に未知のウイルスなどが入り込んでいると言ったモノでも無い。


「お体には特に異常と言ったモノは見られませんね。ミッツと同じ判断を俺もします。」


「エンドウ様にも分かりませんか・・・なら神父様はどうして?」


 俺は「異常は無い」と言った。コレにミッツが気付かない。神父様はどうやら確信したようではあった。


「そうですか。分かりました。ゆっくりと養生するとしましょう。幸いにも食欲は無くなってはいませんので体力は未だ大丈夫でしょう。それも無くなり始めれば、とうとうですな。」


 この神父様の言葉にミッツが「え?」とだけ漏らす。まだ気付かないようだ。


「神父様、その様な事はおっしゃらないでください。きっと元気にして見せます。私がきっと原因を見つけてみせます!」


「いや、ミッツ、無理だよ。」


 俺はその一言だけを告げる。そう、神父様は病気でも疾患でも無い。


「寿命だ。」


 神父様が答えを口にしてやっとミッツがその問題があった事に気付いた。


「そ、そんな・・・仕方が無いのですか?神父様・・・」


 悲しみを目一杯込めた視線でミッツが神父様を見る。コレにしょうがない事だと神父様が告げる。


「私は既にもう七十を超えました。もう平均寿命を過ぎてこれでも頑張った方ですね。世の中には百を超えて生きた人もおられたとか。それと比べれば、奇跡に近いと言っていいでしょうな。」


「早いなー死ぬの。この世界って寿命短いんだな。人生五十年?アツモリかな?」


 俺はその歌を口にして見せる。織田信長の例のアレだ。

 これを聞いて神父様が深く頷いた。どうやら通じる所を感じたようで感慨深く言葉を口にする。


「夢、幻ですか。私の人生は確かにそう言った儚いモノでしょう。ですが、後悔はありません。私は確かに死ぬ前にこうして今まで自分が所属してきた教会のやり口を否定しましたが。だからと言ってそれまでの私の努力が無駄だったと言う気は無いですからな。これまで精一杯生きてきた。それを胸に誇って消えましょう。最後にこうして奇跡を目にしましたからな。人の命を救う術、その未来が明るく輝く。そのようなモノをあなたに、ミッツ様に見せて頂いた。それで私の心は救われました。それだけで私は満足です。」


 コレにミッツが大粒の涙を流す。しかし何も口には出さない。

 人の「生」「死」に対してここまで悟りを持って死んでいく人物に何も掛ける言葉が無いのだろう。

 こうして神父様の診察は終わりだ。手の施しようが無い、それが答えとなる。


 教会から出るとミッツは宿に戻ると言う。人の死には慣れてきてはいるのだろうが、その事で受ける感情の制御がまだまだ完全にできると言う事でも無いようだ。

 どうやら宿へと戻り、部屋で心を落ち着かせたいとの事なので俺はそれを見送った。教会の前で。この時にお互いに言葉は無い。


 そしてこれから俺はと言うと。


(まあ、ちょっと神父様に聞いてみますかね。さて、答えはいかに?)


 ミッツの姿が見えなくなって俺は教会の神父様の部屋へと戻る。

 ドアをノックして俺が訊ねたい事があると言う事で戻って来た事を知らせ、部屋の中に入る許可を貰う。


「何かこの私に聞きたい事が?私に答えられるならどの様な事でも。」


「助かる方法があるとすれば、神父様、貴方はそれにしがみつきますか?」


 俺のこの質問に神父様は信じられないと言った目で俺を見つめるのだった。

 もちろんコレは師匠がやらかした「アレ」の事である。そう、体内の魔力を若返りに使ったアレだ。

 神父様の答え如何によって、これを俺は施そうと思って戻って来た。

 そして神父様の答えは。


 ==============


 翌日は雨だった。朝からのかなりの激しい雨、その音で目が覚めた。

 これではダンガイドリの様子も見に行けない。買い物に出る気にもなれない。

 この分だと海は荒れて漁に出る事はできないだろう。今日一日は宿でゴロゴロしているしかなさそうだ。

 恐らくは俺の魔法ならそんな問題は全て解決できるだろうが。


「まあでも仕方が無いか。いい天気と言えばいいかこの場合は。こういう日じゃなけりゃ街からコッソリ出て旅に、なんて事も叶わないだろうしな。」


 俺はそんな感想を持ちながら教会の方へと視線を向ける。

 そして宿での朝食を摂るために部屋を出て一階に向かう。そこにはマーミがいた。


「あれ?マーミ早起きだね?なんかあるの今日?」


「あら、エンドウ、あんたいつも早いわよね起きるの。あら?いつもでは無いか。」


 マーミは朝食を食べ始めたばかりだったので俺も従業員に頼んで食事を持って来て貰う。そしてマーミと一緒に食べながら会話を続ける。


「ミッツが返ってきた時には酷い顔だったわよ?あれ、どうしたのよ。と言うか、まあ察しは付いているのだけれどね。」


 マーミが既に察しているのには訳があるそうで。


「あの子治療をやってるでしょ?んでしょっちゅうあんな顔して戻って来る事多くてね。大抵は助からない患者が居る時がそうね。で、今回は誰が死んだの?」


「え?俺が知っているって言う前提で話が進むのコレ?しかももう既に死んだと決定?まあ知らないって訳じゃ無いんだけどね。ここの教会の神父様が寿命でね。もう老い先短いんだ。しかも突然身体が動かなくなり始めた、って感じで。ミッツもコレに心の整理がついて行かないッポイみたいで。」


 俺は昨日の事をマーミに話す。これにマーミは納得したようで「あー」とだけ。

 俺は昨日宿に戻って来た時にはみんなと顔を合わせずに直ぐに部屋に入ったので、あの後のカジウルとラディの様子も知らない。船を操縦して海を堪能してくると言っていたが、その後はどれくらいの時間を過ごしてから宿へと戻って来たのか気にしていなかった。

 そこら辺もマーミは知っているようで。


「昨日あいつ何やったの?カジウルが馬鹿みたいな顔して気持ち悪いとか言って宿に戻って来るから何事かと思ったわよ。ラディも苦笑いするだけだし。」


「あー、それ、カジウルはきっと魔力欠乏じゃないか?船を操縦して遊びたいって言って、ラディと乗っていったけど。」


「いつものように調子こいたってヤツか。相変わらず馬鹿な所は治らないのよね。どうにかして欲しいわ。」


 マーミから呆れたと言った感じで愚痴がこぼれる。昔からそう言った所がカジウルに見受けられるのだろう。それが今船と言う物を得たからか、未体験を味わう事に対して夢中になったと。

 何の障害物の無い海で船の速度をバリバリに上げるのは確かに爽快だ。なのでおそらくはそれで魔力の配分なんかを考えずに相当かっ飛ばしたに違いない。

 苦笑いしかしなかったラディはきっとカジウルの心情を酌んでの事なのだろう。


「で、二人ともまだ寝てるのか?で、マーミ一人だけって事か。じゃあさ、マーミ、今日の予定が無いのであればちょっと俺に付き合わない?こんな雨の中、やる事があるって言うなら無理強いしないけど。」


 コレに目を細めて「今度は何やらかす気だ?」と言った無言の圧力を放ってくるマーミ。

 でも俺はコレに勘違いしないでくれと言っておく。


「遊具だよ。前にほら、遊んだだろ?アレとは違うヤツをまた作るからマーミの意見をくれよ。」


 コレはリバーシの事である。今回はマーミの弓を得た際のドルグの店で時間潰しに作り出したのとは違うモノをマーミから評価してもらうつもりだ。


「あれねぇ。うん、面白かったし、夢中になったけどさぁ?今度は何を出そうって訳?あの時のとは違うって・・・はぁ~、もうエンドウのやる事、為す事、トンでも無いモノばかりなんだもの。疲れちゃうわよ。」


 俺はコレに「あの時散々楽しんでたじゃん」と言い返す。それと。


「それ作る材料を買い出ししにマンスリ商店に行ってくるけど、マーミも一緒に行く?」


「え?嫌よ?この雨の中じゃマントもずぶ濡れじゃん。あ、そうか、エンドウは魔法でそんなの関係無いわね。」


「いやいや、傘くらいは差していくつもりだけど?」


「・・・んん?カサ?カサって何よ?」


 俺は一瞬だけ思考が止まる。傘を知らない?と。で、たったそれですぐに推察が終わる。

 この世界には雨避けの「マント」はあっても「傘」は存在しないのであろう、と。

 自分の「当たり前」がこの世界には「無い」が多いと言うのをすっかりと忘れていた。


「あぁ~、そうか。そう言えば「傘」は無いんだなぁ。インベントリの中にも入ってないや。どうすっかなぁ?」


 俺は一人だけその事に納得しながら傘作りの事を考えてしまう。コレにまたマーミから注意をされる。


「あんたね、また余計な事を考えてるでしょ?そういうの、もう少し抑えなさいよね。」


 只俺は世の中に便利なものを送り出そうと考えているだけである。コレが余計か、そうで無いかは世の中が決める事であろう。

 まあここでマーミには「傘」がどういったモノなのかを説明していないからこそ、こうして疑われてしまっているのだ。

 ならばコレがどういったモノか教えておけば、マーミもコレに関して意見を述べてくれるだろうと思って俺は「傘」の説明をしておく事にした。

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