本格的に先に進めたい
「おーい、もう伯爵の件はすっかり片付いたぞ。テルモはもうマルマルに戻ってもいいし、店の再開も今から可能だ。どうする?」
家の中に入ってそうクスイとテルモに報告をする。コレにテルモはポカンと口を開けっぱなしに、クスイは頭が痛いと言いたげに掌を額に当てる。
「エンドウ様、経緯は・・・聞かずとも良いですな。聞けば余計に頭が痛くなりそうです。商売の話に戻りましょう。どうするねテルモ?すぐにでも人員を呼び集めて準備をしに店に行くかい?」
「は、はい。分かりました。もうコレで何も心配はいらないんですよね?なら精一杯仕事を頑張ります!早速店に向かってもいいでしょうか?」
「そうだね、明日以降からだろう店を開けるのは。今日は休業していた間の店の掃除になるな。」
こうしてクスイとテルモは香草焼きの店の再開を話し合う。ここで俺はマルマルでの仕事は終わったとしてサンサンにまた戻る事にした。
そうしてササッと道の脇に入ってワープゲートを通り、サンサンの路地裏へと出る。
もう時間はかなり経って夕方に差し掛かっている。
「今日はもう宿に戻ろう。皆が揃ったらまたミーティングかな?夕飯は、宿でにしよ。」
こうしてその後は直ぐに宿へと入り、夕食を頼んでゆっくりと食事をする。
(こういう時に魔石を未だに渡すのを忘れているのがねぇ。ボケたのかな俺は?まあ中身はもう六十とっくに超えてるんだよなぁ)
折角作った連絡用の魔石を皆に未だ配る事をしていない事で自分を疑い始める。
外側は「若い」が中身がホンとは「年寄り」なので、もしかしたら脳の機能が低下しているのでは?と。
これを俺はワープゲートのせいにしておいた。これ、使い勝手が良過ぎてその他の事をほったらかしにしてしまう位だ。
これを使えば遠い土地へも直ぐに行けてしまうので連絡用に魔石が要らない。むしろこの魔石の使用を考えている距離がそこまでの遠距離を想定していない面もあるのでどうしても有用性を確かめる優先順位が低い。
だからと言っても作ったのは必要だと思ったからだし、あれば便利だと考えたからだ。これで未だに使用実験もしていない事は少々問題だ。
「皆が集まったら直ぐに渡そう。そんでもって明日は皆にダンガイドリの所に来て貰ってそれから・・・」
ゆっくりと食事をして時間を潰しそんな事を考えながら皆が帰って来るのを待った。
そうしているうちに宿へ皆が帰ってくる。しかもこの時間に集まってくれ、と約束してもいないのに同時にだ。
「おう、飯はもう食っちまったのか?なら俺もそうするか。」
「あら?エンドウ、テルモは?ん?もう伯爵の件が片付いたから帰した?イヤな予感がするわ・・・」
「またお前暴れたのか?・・・ん?派手にやってきた?頭の痛くなる話だなオイ。」
「良かったですね!コレでテルモさんもお店に集中できますよ。マルマルが今よりもっといい街になっていけばいいですね!」
この件で「良い事だ」と言ってくれたのはミッツのみ。まあいつもの事だと思ってそこは流す。
「渡しておきたいものが有るから後で俺の部屋に集合で。それと実験もしたいから協力してくれ。」
「嫌な予感しかしないんだが?」
「危ない事じゃ無いでしょうね?イヤヨ?そんなのは勘弁して?」
「もしかして、アレか?そういやまだだったな。緊急時には役に立ちそうだ。」
「あら?ラディは見当が付いているんですか?えーっと?エンドウ様?一体何を?」
こうして皆は宿での食事をし終えた後に俺の部屋に集合する。
「えー、こうして皆に集まって貰ったのは他でもない。これを渡したいがためだ。」
魔石をそれぞれに渡していく。「1」はカジウル、「2」はマーミ、「3」はラディで、「4」がミッツだ。
「これってよ?あれか?アレなのか?」
「お高い買い物よねぇ。それがこんなになっちゃうなんて・・・」
「こいつは誰にも盗られちゃならんなぁ。こんなのを普段から持っていろって言うのはちょっと重圧だな。」
「綺麗な球ですねえ・・・しかも表面じゃ無く中に紋様が?」
カジウルは要領を得ない言葉を、マーミは相変わらず呆れ、ラディは有用性を理解しながらもプレッシャーを感じ、ミッツは別の所に感心している。
ここで俺は早速「実験開始」だと声を上げるが。
「じゃあちょっと起動実験と言う事で、俺が廊下に出ているから、カジウル、その魔石にちょっぴりだけ魔力を流して見てくれ。ああ、剣に流す感じで、それでいて頭の中は俺との「会話」をする感じで・・・」
「おい、無茶言うなよ?初めてなのにそんな説明じゃ良く分からん。」
俺のこの言葉にカジウルは感覚が掴めないと言われてしまった。しかしここでラディが名乗り出る。
「こいつは先ずは俺がやってみた方が良いだろ?」
そう言えばそうだ。ラディは確かに俺との「通信」をしている。その感覚が有れば多分繋げられるだろう。
こうして俺が廊下に出る。扉を閉めれば声は聞こえない。
しかし今俺の頭の中ではラディの声が響いている。コレに脳内だけで返事を返す俺。
『あー、聞こえているかエンドウ?前にお前から一方的に突然繋げられた時の感覚を思い出して魔力を魔石に流している。コレで大丈夫か?』
『うんうん、大丈夫だ。ちゃんと聞こえてる。実験は成功だな。俺からそっちに「繋げる」事はできても、その魔石から皆が俺に「繋げられるか」が心配だったんだ。コレで後は明日にもっと長距離を実験してみようか。』
ラディからの棘のある言葉を一切取り合わずに俺は実験の結果が良好な事だけを喜ぶ。これで一旦は短距離での実証実験は成功だ。後は長距離でどれだけの距離が大丈夫なのかの実験をしたいと告げる。
そして今のうちに他の三人にも実験をして貰う事にした。そして三人とも成功する。全員が同時に繋げる。あるいは魔石同士だけの会話を繋げるなどだ。
そうして部屋に戻ればカジウルもマーミもどんよりした顔になっていた。
「コレはスゲー便利だがよ。持ってなきゃ、駄目か?」
「緊急時には確かにコレは凄く有用だけどさ?コレ、バレたらシャレにならないわよね?」
「ゴメン、バレない様にしてくれたらウレシイナ?的な?確かにこれって世界的に見てもヤバイ代物だろうなぁ。」
今更かよ!と声を荒げて激しく抗議された。この二人にツッコミを入れられてしまう。だけどミッツだけは違う。
「革命です!エンドウ様の生み出す全てがこの世界を動かしてしまう代物ばかり!技術革命です!世界がエンドウ様の手に因って変わります!」
興奮状態に入っていた。この状態に水を差す事は非常に可哀そうだと思う。凄く本人は良い気分だろうから。だけどここで言っておかねばならない、言っておかねばならなかった、ちゃんと。
「ミッツ、戦争は好きか?好きなら仕方が無いが、ミッツがもし口を滑らせようものなら、たったその一言だけで死人が何十万人にも膨れ上がるだろうな将来的には。興奮している所に悪いが、ミッツは俺の敵か?俺は戦争が大嫌いだ。」
この俺の言葉でミッツが口を閉じ、目を見開き、そしてホンの少し時間差で次は顔を真っ青にした。
どうやら俺の言葉を直ぐに理解してくれたようだ。でもコレに他の三人から非難が俺へと飛ぶ。
「おい、そんな物騒な物を俺たちにそう簡単に渡してんじゃねーよ!」
「エンドウあんたね?便利だからっていっても「良いモノ」と「悪いモノ」が有るくらいは分別が有るならこんなモノ生み出さないでよね?」
「ちょっと今の脅し文句は俺でも見過ごせないぞ?けどまあ、俺もエンドウの基準に麻痺してきたからなぁ。」
と言う訳で、この魔石は俺のインベントリに封印と言う事になった。非常に残念な気持ちになる。
でも仕方が無い。皆に「便利だけど持ち歩きたくない」と言われてしまえばそれまでだ。
いつもは俺を持ち上げてくれるミッツも「既に私は今、教えて頂いた治療法が」と秘密をこれ以上抱えるのは負担だと告白されてしまい、流石に無理強いはできない。
自分が便利だと思ってもソレは俺の勝手で、この世界の常識では受け入れがたいのだろう。秘密にしていればと考えていても、それでも「絶対に漏れない」などと言った自信だって流石に無い。
コレはどう考えても仕方が無い事だと俺は諦めた。
「あ、船の事はどうしよう?アレも流石に直ぐにはバレないだろうけど?・・・最終的にはインベントリにしまえばいいか。」
船の事にかんしては未だ「誤魔化す」細工をしていない。帆を張る柱が今あの船には無いのだ。
「後で考えよう。止めだ止め。エンドウのやらかした事に「どうしよう」なんて考えるだけ無駄だ、無駄。」
カジウルがコレに「誤魔化し切れるはずが無い」ときっぱりと言い切った。
俺は内心で「解せぬ」と盛大にコレに反発したが、他の三人がウンウンと頷くのでコレに何も言えなかった。
いつもは俺を盛大に「凄い」と言ってくれるミッツも、今は「戦争」の振りをした後だったので心が冷静さを大分取り戻している状態だったのか、フォローを入れてはくれなかった。
翌日になる。この日も俺はダンガイドリへの餌やりに行こうと考えていた。
とりあえずはまた漁業組合に行って餌用の処理し終えた後の魚クズを貰いに行こうと思っている。
それと穀物類も一緒に数種類は持って行って餌にできる物とそうで無い物を調べようと考えていた。
あの鳥はかなり賢く、すぐに俺の事を受け容れた。巣で卵を温めていたヤツからはいいのを一発食らったが、別段俺には被害は無かったので良いとする。
恐らくだが、アレが一般人にヒットしていたら額に穴が開いていてもおかしく無かっただろうな、とも思うが。もしくは吹き飛ばされて海へと真っ逆さまに落ちて行っただろう。
「よし、調査報告書も書かないといけないな。恐らくだけどあいつらは直ぐに人に慣れさせる事は可能だ。ならその慣れさせるためのプロセスの方も考えないと危険だよなぁ。」
只餌を持って行くだけ、では駄目だ。その前に安全だと思わせられるだけの何かを奴らに抱かせないといけない。ならばと言う事で。
「で、俺たちが今度はエンドウと一緒にダンガイドリに餌やりにってか?いつから俺は飼育員になった?」
「いや、言ったじゃないかカジウルが。俺の思い付きに付き合うのもいいかな?って。あれ?ラディが言ったんだっけ?」
船着き場には俺、カジウル、ラディ、そしてミッツが居る。マーミは今日は街をぶらつくと言っていた。
どうやら「昨日の件でゲンナリしたから」と言う事で心を落ち着かせたいと言う事らしい。
悪い事をしたかなぁ、と思いつつも、反省はしていない。やり過ぎているのだろうが、今後とも同じ事をし続けるだろう自覚もある。だから一々反省をしているとキリが無いと思うのでしないのだ。身勝手である。
「とりあえずは俺がまた漁業組合に行ってくるから、その間は船で走り回ってていいよ?それと他に餌の種類を増やしてみたいって言うのもあるから穀物類でどこかに大量購入できそうな店って無い?」
「お前一人にさせていると今度は何をやらかすか分かったものじゃないからな。そういう大きな取引をする時は全員で行こう。」
ラディに注意されてしまった。でも俺はこれをありがたい事だと思っておく。
このサンサンであんまりにも俺みたいな余所者が大きく動けば、その動きを警戒されてしまうだろう。誰にかって?
ソレはもちろんマンスリ商会、もしくは冒険者にだ。珍しい食材をゲットする専門の冒険者に今の俺たちの動きを悟られると後々にどんな妨害を受けたりするか分からない。そんな事を受け無いかもしれない。
どちらにしてもそうなれば俺だけで対処するには面倒になる。一人で対応できないとは言わない。
俺にはこの魔法が有るのでアイデア次第でいくらでもそんな不逞の輩は一網打尽にできるだろう。
物騒な話はここまでにして、それでもマンスリ商会からも「怪しい」と睨まれて商品を売って貰えない、などと言った流れにもしたくはない。
俺一人で買い物をしようとすると、この世界の常識がまだ分かっていない俺が大口の取引でやらかしてしまう可能性はある。
ならば全員で相談してこうした物は買うのが良いだろう。そうすれば何か問題が起きても直ぐに共有できるし、問題解決にもスグに動き出す事が可能だろうから。
「購入を検討するならあの店でいいのではないですか?」
ミッツが言うのは多分だが俺が魔石を買ったあのホームセンターみたいな巨大店の事だろう。あそこはそもそもマンスリ商店だ。
あそこなら様々な種類を扱っていそうだし、大量購入にも対応してくれるだろう。
このミッツの提案でまずはそこへと行ってみると言う事になる。他に個人でやっている小売業なども見ようとなった際は後々で探して回ればいいだろうと。
で、早速到着したが、俺たちの対応をしたのはあの「お爺さん店員」だった。そう、魔石を購入した時のあの人だ。
「覚えておくぞ、と言ってあっただろう?ウチの店に今度は何をお買い求めかな?」
そう言ってニヤリと笑うお爺さん店員。そして俺はこの言葉にいち早く反応した。
「ウチの店、ですか。なるほど。貴方がマンスリさんですね。」
この返しに目の前の老人から鋭い視線が向けられる。
「ほう?私の言葉に直ぐその答えが出るか。なかなかだな。それにしてもあの魔石を買った後のお前さんの動きはどうにも理解が及ばん。このサンサンで何を企んでおる?」
どうやらこの街の商売のほぼほぼを仕切ると言うのは伊達では無いと言った所らしい。俺の動きがどうやら筒抜けだったらしい。
マンスリは俺の後ろのカジウル、ラディ、ミッツも睨む。その眼光は危険な冒険者をし続けてきた三人すらもたじろがせるほどのモノであったようだ。誰も声を上げない。
しかしそこで俺だけは呑気に声を上げる。
「もうこの際だし話をしちゃった方がいいかなラディ?後は人に慣れさせるのと、餌の問題と、後は巣箱を作れば。あ、まだ有精卵と無精卵の仕分け方?分かりやすい見分け方法とか?それと数をもっと増やして収穫量を上げるのも考えたいし。あ!そもそも無精卵生むのか?コレは真っ先に調べなきゃいけない事だった!あー、もう一杯考える事が多くてそこら辺を解消したい。駄目か?」
そもそも俺はダンガイドリを鶏と一緒と、どこかで考えてしまっていた事に今更気付く。
有精卵しか生まない場合はどうしたら卵をダンガイドリから得られるだろうか?きっとそう言った卵は取られまいとして親鳥がこちらを攻撃してこないとも限らない、と言うか絶対にあの嘴でつついてくるだろう。俺がやられたみたいに。
昨日に卵の件は俺が真っ先に調べておかねばならない事だった。卵を目的としていたのだからうっかりにも程がある。
繁殖やらは他の諸問題がもっと片付いてからの話だった。
「・・・はぁ~。何で俺にそれを振ってくるんだよ。良いんじゃないか?お前がどれ程の規模を考えているかを知るのは怖いが、それを達成させるには確かに、この大店を仕切る人物の力が必要だ。」
ラディは目の前の老人をマンスリとは言わない。それはそうだ。まだご本人から名を名乗られていない。
なのでこの場でそんな不確定な断定をしないのである。でも俺は確信しているし、ラディが「知らない」何て事もあり得ないだろう。
ラディは情報通だ。このサンサンでも結構時間をそこに掛けているハズ。そうなればこの目の前の人物がマンスリだと言う事は既に知っていたのでは無だろうか?
「話は纏まったかね?で、もう一度聞こうか?君たちはこのサンサンで何をしようとしているのかね?私の目の黒いうちは妙なマネはさせないぞ?」
「あ!これじゃあ船の事もとっくにバレてる?あー、じゃあアレ早速しまわないと駄目かな?カジウルは船の操縦したかったんじゃない?ゴメン、爆走するのはまた今度で。」
「なあ?エンドウ?今はそんな話はしてないよな?いや、謝らんでいいから。」
俺たちの動向が探られていたと言うのであれば、購入した船のポールが既に無い事もバレている。アレをコッソリと調べられたりすれば魔石の事もバレてしまう。
俺はこの後すぐに船をインベントリにしまう事を考えてカジウルに謝罪をした。船を運転したかっただろうカジウルに。
「で、お前らは一体このサンサンで何をしようと?そして今日はウチの店で何を買いに来たんだ?」
「あ!ミッツ!もしかして教会の事もこの爺さんにバレたのか?ちょ!口封じも考えなきゃいけないか?おいおい、この事はまだミッツも広がるのは時期尚早だと考えてたよな?うーん?いくら積めば口止め料に足りる?寧ろこっちに引きづりこんじゃえば問題は解決?むしろ前進・・・」
「あのー、エンドウ様?ソレは後でよろしいかと?それよりも・・・質問に答えて差し上げないと、そのー?」
俺はミッツが教会で施している「治療」もバレてしまっているのではないかと思って慌ててミッツへこの話をする。
しかしミッツはどうにも緊張感が見られない。
「おい!貴様!私の質問を無視するな!いい加減にしろ!このサンサンで貴様らは何を企んでいるのかと聞いている!」
「あ、マンスリさん、そんなご自分の店だからってそのように大声を出すのは如何なものかと思いますよ?ほら、こんなに広い店内に何処までも反響していますよ声が。それにしても本当に品ぞろえが多くて圧倒されるなぁ。人聞きの悪い事はもうちょっと声を控えめでお願いします。」
「お前が話を聞いておらんのがそもそもの原因だろうが!・・・はぁ、私がこの店を取り仕切っとるマンスリだ。店の奥に来い。話ぐらいは聞いてやる。・・・何なんだコイツは一体、はぁ、こんな事で疲れさせおって・・・」
こうしてトボトボと歩き出したマンスリ。その後ろに俺たちは付いて行く。
そうして案内されたのはあの魔石販売コーナ、のすぐ隣にあるスタッフルームだった。
しかしそこは単なる休憩用の小部屋などでは無く、大きなソファーが並ぶかなりの広さの部屋だった。どうやらここは商談室の様で、その壁やら棚にある調度品はどれも高級品で固めてあるように見えた。
そして俺たちにマンスリはソファーに座るように促してくる。どっしりと腰を据えての話し合いが御所望のようだ。
俺たちがそれに素直に座れば目の前のテーブルにお茶と茶菓子を出された。それはどうやら秘書であるようで直ぐにその場を下がって仕事用の机に向かう。
どうやらこれからする会話の記録をつけるためであるようだ。どうやら俺たちがこれからする話が重要なものであると言う指示をマンスリから受けているッポイ。
「で、だ。先ず、お前たちはこのサンサンで何を企んでいる?つい先日に船を購入したそうだな?その他にも魔石の件でロヘドの所に行ったらしいな?何を注文したかまでは分からんかったが。この間買って行った魔石は何に使った?・・・ええい、お前らの考えが読めんわい。さっさと肝心な所を喋ってくれ。」
ここまでバレているとは思っていなかった俺はラディへと目を向ける。しかしラディはコレに肩をちょっとだけ上げて、また下げるだけ。どうやらラディは既にここまでのことはマンスリに調べられているというのは読んでいたらしい。
カジウルもマーミもとりあえずはこの場は何も喋らない事は決めたらしく、俺へと視線を向けてこない。お茶と菓子を堪能して素知らぬ顔だ。
これには仕方が無いのでしっかりとここでプレゼンしてしまう事にした。最初からコレは俺の思い付きで始めている事だ。
いつかはこのマンスリに事の全部を「ほッポリ投げて」後の事は全て頼むつもりだったのだ。
「率直に説明しますと、ダンガイドリを家畜化して卵を安定供給できるようにしようと動いています。」
俺のこの説明にギョッとした目を俺へと向けてくるマンスリ。どうやら思いもよらない事を口にされたと言う事らしい。
「そんな馬鹿な事を考えているとは、お主らはあの鳥の危険度を知らんのか?」
「あ、知らないや。え?でもそれって関係あります?危ないにしろ、簡単にはいかないにしろ、それをしようと挑戦した人たちは今まで居たりしたんですよね?いなかったんですか?」
俺のこのいきなりの言葉にマンスリは呆れたと言いたげな視線を向けてくる。
「確かに、居た。昔はな。では、今はと言えば、結論が出ている。無理だとな。それをお前たちは無謀にも「可能だ」と言っている。これを馬鹿馬鹿しいと思わずに何と言えと?」
「それは只、失敗をし続けて成功する前に止めてしまっただけでは?できていたなら、ここで無謀だとか、無理だとか言う事も無い訳で。誰もその方法を未だ確立できていない、と。そこはそれだけ言葉にするので充分ですよね?結論だなんて言ってしまうのは諦めが早いですよ?」
この俺の言葉に顔をしかめるマンスリ。言いたい事があるようだ。しかしダンマリである。
「博打をさせるために来た訳では無いので先に説明をさせて頂いても?」
先へと話を進めるために俺はマンスリにそう伝える。コレに一つの頷きを貰って俺は続きを言う事にした。
「もう既にダンガイドリの懐柔は済ませているので、後はこれをどう家畜化していくかだけになってます。餌を安定供給できる。身の安全を確保できる小屋を提供。生物的欲求「繁殖」においての協力をしてくれる存在だと、飼育員を認識させられるようになれば、この時点でもう九割は終わったも同然ですね。もうそこら辺は地道にやっていけれるような計画は頭の中に有るんですよ。最初の内は俺が率先してそこら辺の世話の方も参加して、そちらで用意して貰って飼育員を徐々に増やす様にしていって、そうやって軌道に乗った後は全てそちらにお任せすると言った感じですかね?」
ここで追加で餌の内容を説明しておいた。漁業組合でダンガイドリに与える餌を提供して貰ったり。
魚だけでなく、他にも餌として供給しやすいものが無いか探しに今日この店にやって来た事。
飼育小屋は超巨大な建物になるだろう事、卵においては有精卵しか生まないのか、はたまた無精卵を生んだりもするのかと言った点の観察。そして仕分けの仕方の研究なども。
卵を採取する上で無精卵があった場合のシミュレーション、有精卵しか生まない場合にそれを採取する時に親鳥がどの様な対応になるかと言った対処など。卵が孵った場合の飼育方法なども。
ダンガイドリの生態を考慮した上でどのような飼育環境にするのか、はたまた家畜化する事に因っての飼いやすくなる為の品種改良なども視野に入れる事など。
大分踏み込んだ話までしてしまったが、マンスリはずっと俺の話をずっと黙って聞き続けた。
「で、どうですか?ここまでの説明で見込みは?」
しかしこの俺の言葉にマンスリは返事をしてくれない。それでも俺はじっと待つ。恐らくはマンスリがこうして黙っているのは時間を掛けてじっくりと考えているからだと思って。
「・・・懐柔、と言ったな?言葉だけでそう嘯くのは誰にでもできる。簡単だ。それをこの目で実際に見る事ができなければ、今までの話はただの法螺話に過ぎん。お前さんの話には証明にたり得るものが無い。ここに今それを出す事ができるか?出せんのであればもうこれ以上は時間の無駄だな。」
「あー、証明に足る物は今は出せないですね。でも、連れて行って実際に見てもらう事は出来ますね。今日はその「餌」に関してここで買って行って試してみる予定だったので実際に。」
「・・・は?何じゃと?見る事ができる?懐柔したと言うのをか?馬鹿を言うな。あの獰猛で人を簡単に大空へと連れ去る事の出きる力を持つ怪鳥に餌やりだと?死にに行くようなモノでは無いか。そうか、そのために船を買ったという事なのか。は!ふざけるにも程が有ろうよ。・・・正気か?」
「ええ、正気ですよ?あ、それと、ダンガイドリはむやみやたらと巣の一定の距離内に立ち入らなければ一切襲ってはこないですよ?大人しい物です。寧ろ慣れると可愛い物ですけど。」
俺のこの言葉に嘘は無い。それが分かったのかマンスリは顔をしかめて「本気か?」とだけ呟く。
「俺の話を信じるか、信じないかはお任せします。で、どうしますか?俺たちと確認しに行きますか?行かずにこの話は白紙にしますか?」
コレにマンスリは大層難しい表情になって腕組をしてうーんと唸り始めた。
 




