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ぶっ飛んだ行動

 昨日に船を止めた場所へと俺たちは到着した。


「凄い数ですねぇ・・・あの中に行くんですか?いくら師匠でもそればっかりは・・・」


「まあ俺は心配して無いがね。エンドウならどんな無茶だと思う事でもすんなりとやってのけるからな。心配するだけ・・・損とは言わねえが。」


「ラディ、あんまりじゃ無いかソレ?でも、まあ心配はいらないよ。こう見えても俺は頑丈だから。」


 そう冗談を俺が言うと「知ってた」とラディが突っ込みを入れてくる。

 ラディに緊急の時にはすぐさま俺を置いて逃げてくれと頼んで俺は船から降りる。

 コレに「えぇ!?」と叫んでテルモは驚いたが、俺が海の上に立っている事で言葉を失くした。


 俺は海の上に魔力で作り出した「板」を生成している。その上に乗っているのだ。

 そこから俺はゆっくりと歩き始める。何処からがダンガイドリの警戒領域なのかを確認しながら。

 コレは船に居るラディ達にもその範囲がどれくらいからなのかを教えるためである。

 ドンドンと進む俺、そして段々と近づいて来る正体不明の存在に湧きたつダンガイドリ達。

 鳥たちが発した警戒するけたたましいその鳴き声を耳にしながら俺は考え事をした。


 ===========


「あのう、ラディさん?師匠、あれ、有り得なくないですか?」


「ん?テルモ、って呼び捨てでいいか?エンドウのアレを一々驚いていたら心が持たないぞ?あんなのはしょっちゅうだ。でも、まあ今回のコレは少々どころか、俺も驚きがデカいんだがな。」


 海の上に立つ男が群れるダンガイドリの中で笑顔になっている。これを見た俺たちは驚きで心をかき乱されている。

 あの巨体のダンガイドリを撫でたり、持ってきた餌を与えたりと仲良く触れ合っている姿を目にしたら誰だってそうなると言うモノだ。


 その内にエンドウは崖に近寄り始め、そこへ何やら手を付いた。俺は隣のテルモに視線を送るが既に思考を放棄している様子に見える。


「何をする気だエンドウめ。これ以上はもうテルモが持たないぞ?俺ならまだ耐えられるが、しかし・・・おいおい、階段を作っている?巣に行く気か!」


 俺は船からエンドウの行動をジッと見つめ続ける。いつもいつもやる事、なす事、飽きさせない奴だ。

 そのまま崖に作り出した階段を上っていって巣に居るダンガイドリにエンドウは近づいている。


「巣に居る親鳥は卵を守って警戒心がより大きくなっているぞ?大丈夫なのか・・・?」


 テルモに一々驚いていてもしょうがない、などと偉そうに言った俺だが、今回は少々ソワソワさせられる。

 エンドウには心配など無用だと思っていたとしても、目の前でなされる事が前代未聞な事ばかりではそれも無理からぬ事だと思う。

 既にテルモはハラハラドキドキで胸を締め付けられている様で、拳を作って胸を抑えている。


「これ以上何かしらやればテルモが気絶するぞ?エンドウ、遠慮って言うモノを覚えてくれ。」


 俺はそう小声で呟くが、そんな事はお構いなしにエンドウは巣を守っているダンガイドリと接触した。

 一撃、その鋭いくちばしがエンドウの顔を直撃した。コレにドサリと隣で音がする。テルモだ。

 どうやら気絶は免れたらしいが、尻餅をついて腰が落っこちたらしい。そこには柔らかい敷物が敷かれた椅子があって尻を傷めずに済んだらしいが、テルモの顔は青褪めている。


「まあアレくらいで死んでちゃ今までのは何だったんだ、ってな。テルモ、心配するな。あれくらいで死んでたら今まで二十回以上はエンドウは死んでる。」


 こう言ってもテルモの顔色の悪さは落ち着かない。しょうがないのでエンドウの観察を続けるが、少し顔を逸らしていただけでもう巣に居るダンガイドリと仲良くなっていやがった。

 しかもここでも餌を取り出して手ずから食べさせている。呆れた奴である、どこまでも。


「あの警戒心の塊になっているダンガイドリをどうやればそこまで手なずける事ができるんだよ・・・本当に常識はずれだなぁ。」


 エンドウはダンガイドリの顎?を手で擦って撫でているのだが、その撫でられているダンガイドリはと言えば抵抗も見せずに目をつぶり気持ちよさそうである。


「師匠は・・・何者なんでしょうかね?私こんな話聞いた事無いです。って言うか、こんなのってアリですか?」


 流石にエンドウの呑気そうな顔が見えてテルモの精神も少しだけ軽くなったようだ。


「ああ、テルモ、知らない方が良い事なんて世の中ごまんとあるさ。お前は・・・知りたいか?」


 この俺の質問にテルモは即座に勢いよく首を左右に振った。しかも激しく。


「だろうな。お前はマルマルに戻って店をやるんだろ今後とも。なら多分知らなくてイイ事だ。今日の事は忘れられないだろうが、なるべく関係者以外の者には喋らない方が良い。」


 この忠告にテルモが無言で今度は激しく縦に首を振る。その様子に少しだけ「首は大丈夫か?」と心配になる程だ。


 こうして話している間にも他の巣へとエンドウは出向いて全てのこの場に居るダンガイドリとの交流を終えた。


 ==========


「いやー、間近で見ると凄い大きさだし迫力もあるけど、可愛いモノだよ慣れてくると。」


 俺のこの言葉にテルモもラディも顔を青くする。コレに俺は「そんなに血の気の引く事言ったか?」と問いただしたのだが。


「し、師匠の考えが私では理解できない天上のモノだと言う事が良ーく今回で分かりました。」

「いつものこったが、くれぐれもその感想はカジウル、マーミには言ってやるなよ?」


 今回の調査はここまでとして俺たちは船着き場へと戻る事にした。

 その後は餌用にそのまま持って行っていた樽を漁業ギルドへと返却に行く。もちろん中はちゃんと洗っておいた。

 この時に受付のオッサンは「・・・まさかとは思うが?」とだけ口にして、後の残りを言い淀んだ。何を言いたかったのか結局分からない。

 その後は元々あった場所に樽を戻して俺たちはギルドを後にする。


「これからどうする?一応はもう俺のやろうとした事は、ほぼ半ばまで済んだと言って良いんだけど?」


 俺はラディ、テルモにそう聞く。


「何を言っている?いや、何をした?いや、・・・後で皆の前で詳しく話せ、いいなエンドウ?」


 ラディにそう言って睨まれる。ラディは俺の言った「ほぼ半分」と言う所がどうやら気になっている様子だ。

 そしてテルモはと言うと。


「あの~、私は一度マルマルに戻って様子の確認と、クスイさんとの相談もしたいんですけど・・・」


「そうだな、一度テルモも連れて行って見てクスイに判断を仰いでみるか。ラディはどうする?」


 マルマルに戻る事を考えて残りの今日の予定を組んでみる気になった。

 コレにラディはマーミとカジウルにダンガイドリの事を説明しに行くと言って俺たちと分かれる。その時にラディは。


「お前に説明させるとアイツらがどうなっちまうか分かりゃしないからな。俺が間を取ってゆっくりとやんわりと伝えてやらにゃいかんだろ?」


 と言われてしまった。解せぬ。


 そうして俺とテルモは人の通りの全くない路地へと入りワープゲートを通ってクスイの店のいつもの裏庭へと到着だ。


「あぁ、私は夢を見ているんだ、それも、とびっきりの悪い夢を・・・」


 テルモは未だこのワープゲートに慣れていないらしく、何処か精神が遠くへとまた飛んで行っていた。

 これを背中を叩く事に因って取り戻させて俺はクスイの家に入る。テルモはテルモでコレに「はっ!一体私は何を!?」と短い間ではあったが記憶がぶっ飛んでいたようだ。


「ただいま~。クスイいるかい?」


「どうもエンドウさん。父は今店の方に出ています。」


 クスイの娘のミルが出迎えてくれてお茶を出してくれる。テルモもコレに恐縮しながらも出されたお茶を啜って人心地付いていた。


「父を呼んできましょうか?小腹は空いていませんか?でしたら軽食を用意しますよ?」


「あ、お構いなく。クスイへも別段急ぎの用じゃないから大丈夫。」


 俺はそう言ってミルへと言葉を返した。するとミルは未だ仕事が残っていたようで「では」と言って奥へと姿を消した。


 お茶を啜る音が暫く続く。ちょっとここ最近はドタバタと忙しい時間を過ごしていたので、この静けさに逆に心が落ち着いた。


「あのう?師匠?こんなえーっと?ゆっくりとしていていいんですか?いくら私を狙ってた奴らが捕まったからって言って、面子を潰されたと言って伯爵が直接乗り込んできたりとかは・・・」


 テルモがそう不安を口にした。


「あー、あるかもねぇ。一応はそんな暇無いとも思うんだけど。署長に頼んだからなぁ。相手が追い詰められて自棄を起こす、って言った展開もあるか?」


 テルモに「悪い冗談は止してくれ」と責められるが、コレはおそらく最悪って言う流れのパターンだと思われたので、その時にはなるようにしかならないとも言っておく。


「まあその時には俺が何とか・・・するか。もうそこまでいっちゃうとなぁ?権力とかお貴族様とか関係無しに「暴力」でしかなくなるだろうし?そうなったら徹底的にやっちゃってもいいかなあ。」


 お茶を飲みながら呑気に危険な事を述べる俺にテルモが流石に顔色を青くして引く。そんなタイミングでクスイは現れた。


「どうもですな。テルモが気分悪そうですが、エンドウ様?あんまり追い詰めてやらんでくださいよ?では、今日はどんな話を?」


 俺はクスイに香草焼きの店は開けられそうかと質問をする。


「いやはや、本当に。客が店の前に来ては残念な顔をして去ってしまうのは商売人として心痛い所です。こうしてエンドウ様がお見えになられたので、明日には一時的に再開をしようかと考えていたのですが。テルモ、大丈夫かい?」


「あ、あの、私は今からでもお店を再開させたいのですが、駄目なんですか?」


 テルモはどうやらヤル気はあるようでクスイにそう訊ねる。


「駄目と言う訳では無いが。こうして再開させようと思ったのもエンドウ様がこうしていらっしゃったからの提案なんだ。一応は準備や下拵えなんかもあるだろう?従業員に連絡もしなけりゃいけない。出勤できるかできないかも含めて確認もね。」


 こればかりはしょうがない。テルモのやる気はクスイもありがたい事だろう。

 今の所まだ皮むきやら肉を柔らかくする、香草に漬け込む、などと言った下拵えはテルモしかできない。

 そのテルモがヤル気を出してくれているのだから店の未来は安泰だ。


「そうですね。ちょっと焦りました。私にもできる事が、こんなに人々を喜ばせる仕事ができるのが凄く嬉しかったもので。早く再開したいってずっと思っていたので。」


 健気な事である。その気持ちに俺ももっと答えなくてはと思い、俺は署長、ゴクロムの所に進捗状況を見に行ってくると告げる。


「ではテルモは少々の間私の所で預かりましょう。」


 そう言ってクスイの家にテルモを置いて俺はワープゲートを開いてゴクロムに会いに行った。


 で、俺は署の側の人気の無い場所に出る。そこから路地を出て署の前を見ればそこで怖い顔して仁王立ちしているゴクロムの姿が。


「うわ、何してるんです?そんな所に突っ立っていたら誰も中に入れませんよ?」


「・・・おう、お前さんか。相談したい事がある。来てくれ。」


 いつにない真剣さで俺へと「中へ入れ」と促すゴクロム。そのままこの間お貴族様の「使い」の事情聴取をした防音の部屋へと連れて行かれる。


「で、何かありました?お貴族様の動きの方で厄介な事でも?あ、香草焼きの店の方を再開したいんですけど、大丈夫そうですかね?」


 部屋に入るなりブスっとして喋り出さずにいたゴクロム。そこに俺は質問を矢継ぎ早に投げかける。


「何にもねぇ。確かに厄介だ。店の方はまだ止めといてくれると助かる。」


 いつもの豪快なガハハと言った感じのゴクロムでは無い。相当に悩んでいるみたいに見える。


「詳しく話してくれないとその相談の中身も分かりはしないですよ?とりあえず協力はしますから、教えてくれません?いつまでも怖い顔していないで。」


「ぐぬぬぬぬ・・・アレから即座に再調査をしたんだ。いくつもの伯爵が関わっていたのでは?と思えるものをな。何処までも真っ黒なのに、肝心の決定的証拠が出ねえ。そしてあのクソどもを拘束して牢にぶち込んでいるんだが、その情報が漏れた。伯爵の犬がこの署内に居る可能性がデカイ。そのおかげで伯爵の動きがピタッと止まりやがった。動きを見せねえ。引っ張り出したくても、おびき出したくても、ウンともスンともさせられない状態になってやがる。伯爵は慎重と大胆を使い分ける一番厄介な野郎だとコレで判明した。これじゃあその内に伯爵の手の中にあるだろう証拠を処分しちまう可能性が高くなる。時間との戦いになってる。いや、させられた。しかも相手は籠城で、こちらは決定打を掴めねえ。負け戦だ。」


「事情は分かりました。で、俺に何をさせたいんです?まあ協力するって言いましたし。早めに店の再開もさせたいんで、できる事なら今日中にケリ付けたいんですけどねこちらも。」


 貴族と言うのは政治をやっていて、街の治安や安全なんかは独立してこうした警察機構が担当しているようだ。

 そして不正に対しても法に則った「執行」もこの警察機構で担っているそうで。


「伯爵の独自に持つ私兵も厄介でな。今その全員が屋敷の庭に集まってさながらゴロツキの集会みたいになってやがるんだ。しかもその数も百名近い。やってくれるぜ。力づくで突っ込んでやろうと思ったんだがな。これじゃあ一気に畳みかけられなくなった。・・・率直に聞く。お前さんなら、やれるか?」


 どうやら戦力が欲しいようだ。確かに俺はベルカン、この都市のマフィア?を捕らえるのに一暴れした。

 それを今回も求めていると言う事らしい。

 ならばここはイエスだ。でもちゃんと確認をしておかねばならない。


「無理矢理踏み込んで、その証拠ってのが見つけられなかったらどうするんだ?あんたの首一つで足りないだろそれって?ここで働いてる人たちの肩身が狭くなるどころか、全員の首が飛ぶだけじゃすまないだろ?」


「俺とお前さんだけで突っ込む。なーに、前回はマクリールの奴とやったんだろ?じゃあ今度は俺とお前だけで行こうぜ?できない何て事は無いだろ?」


 ゴクロムがそう口にした時の笑った顔は何処の極悪非道の悪人か?と思わせる様な凄く悪い笑顔だった。

 どうやらゴクロムは伯爵の屋敷に突っ込むのに全責任を自分で背負うために「単独暴走」を装う気マンマンらしかった。


「しかもあの時お前さんは「今度機会があったら」って言ってたじゃねーか。約束しただろ?ほれ、今がその時ってヤツだ。」


 確かに俺はそんな言葉を吐いた覚えがある。どうやらゴクロムは俺を逃がさないつもりらしい。いきなり肩を組んできた。

 コレに俺はしょうがない、と言った盛大な溜息を吐いてゴクロムと部屋を出た。


 で、いきなりだがもう伯爵様とやらの屋敷の前だ。アポ無し突撃とは恐れ入る。


「今度機会があったらって、突撃する事じゃ無くて「説明する」って言ったんだよな?ここまで来てやっと思い出すとか遅すぎた。」


「コマケー事はいいんだよ。そんじゃあぶっ潰そうぜ!あん時はマクリールとやったんだから、次は俺とだろ?なぁ?」


「何その理論?順番待ちとかじゃ無いだろ今回のは?あーもう、何だか面倒臭くなってきた。」


 ここで俺は魔力ソナーを一気に広げる。広大な伯爵の屋敷と土地をくまなく端の端まで魔力ソナーが届くように。


「ん?お前、今なんかやったか?生温い風が吹いた様な?気のせいか?」


 ゴクロムは野性の勘でも持っているのだろうか。俺の放った魔力ソナーを感じ取ったようだ。


(感性ってヤツなのかね?どうやら敏感な様子だな魔力に)


 俺はゴクロムの評価を少し上方修正しておく。


「で、一応は取り調べって言うのを理由に訪問って形を・・・取る気ないのかよ。」


 屋敷の門番だろう男が二人立って警備しているのだが、そこへとずんずんと足音を派手に響かせてゴクロムが近づく。


「おい、お前ら。取り次げ。ゴクロムが会いに来たってな。てめえの悪事を暴きに来たぜってよ!」


 門番を前にして胸を張り、そう主張するゴクロム。コレに俺は唖然とする。


「阿保なのか、そうか、馬鹿なのか。あ、アホもバカもどっちも意味同じだ。なんだこのキャラクターは?なに?どんな性格してるのゴクロムって?」


 このまま武力を持って突撃、と思っていた俺はゴクロムのこのいきなりの行動に困惑が抑えられない。


「このまま無理矢理屋敷に押し入って伯爵様を直接締め上げるとかじゃないの?」


 俺はそのまま思った事を口にした。


「あぁ?俺は一応所長だぞ?まず形から入るに決まってんだろ?伯爵を目の前にすりゃ何か口を滑らせる可能性もあるだろうよ。だから面会だ。て言ってもそう簡単に口を割るようなマヌケならこんな苦労はしないで済んだんだけどな。」


 こんな雑で暴れん坊な見た目で言動もそうなのに、変な所で弁えている所が非常にミスマッチな印象が強い。

 門番も門番で困惑の色を隠せていない。いきなり現れて取り次げと言われても、いくら警察署長であれどもアポ無しでいきなり貴族に会える訳が無い。

 それに門番はこういった場面で突然現れた人物の要請に従う、と言った仕事まで入っていないのでは無だろうか?コレが伯爵よりも高位貴族の言葉なら違うかもしれないが。

 一応は後でこの門番も今の自分の持ち時間が終われば流石に上司に報告はするだろうが。


「おうおうおう!取り次がねえのなら力づくで通るぞオラァ!どうした?お前らをブッ倒してでも中に入れってか?」


 俺は冷静になってゴクロムの事を観察する。もう心の中は「早く終わらせたい」で一杯になりながら。


「約束も取り付けてないんだから当たり前・・・あ、なんだ、我慢がならなくて思わず一人で来ちゃった的な?「装う」のが雑過ぎる・・・まあ演技なんてできなさそうだし?」


 俺が呆れを込めた目でゴクロムを見るが、当の本人は至ってノリノリだ。


「なんだぁ?伯爵様は俺とは会えねえってか?悪徳貴族のくせしてよお!天が許しても、地が許しても!このゴクロム様は許さねえ!てめえの悪行はもう調べは付いてんだ!神妙にお縄につきやがれや!」


 もうソレはそれは大声で、10mは離れていても耳を塞ぎたくなるような大声でゴクロムはそう「セリフ」を吐く。

 そのサマは三文芝居の役者の様だ。これには門番も顔をしかめて耳穴に指を突っ込んでいる。

 ここまでの大声、声量だ。どうやら屋敷へとそれが伝わったらしい。


「ドンダケなんだよ。あぁ、執事かな?屋敷から出てくる時の表情、スゴイ嫌なものでも見る様な顔してたよ・・・」


 ドアから一人の男性が出てきたのだ。髪はシルバーで綺麗にオールバックにされており、着ている服はパリッとしている俺の着ているスーツの様な服だった。色は黒。

 流石にここは異世界なのでデザインがそのままそっくり同じ、と言った感じでは無いが、それでも俺がイメージする「セバスチャン」から外れない。


 門まで近づいてきて綺麗な一礼を見せると、その老人は先程とはうって変わってにこやかに一言。


「ゴクロム様、本日はどのようなご用件で?ささ、この様な所で大声を出されてはあらぬ噂が立ちましょう。中へとご案内させて頂きます。どうぞこちらへ。」


 この言葉で門番が門を開ける。コレにゴクロムが。


「な?これ位は俺に掛かれば簡単だ。がはははは。」


 どうやらゴクロムは自分が座っている所長と言う肩書を今度こそ捨てるために全開でおふざけを込めて伯爵へと対峙する腹積もりらしい。

 証拠を見つけられなくても、伯爵へと少しでも嫌がらせとしてダメージを与えるため。

 証拠を見つけても暴走した事で椅子から降ろされる為。指示を出す立場の者が単独で行動をするなんて相応しくない、と。

 俺はコレに振り回されていると言ってもいいのだろう。伯爵の件はまだ俺にも関係あるが、ゴクロムの所長辞めたい病は俺にはかかわりが無いのである。

 やりたいなら俺を巻き込まずに一人で勝手にやってくれないか?と言ってやりたいのだが、もうここまで来たらそれも遅いのだ。

 俺たちはこうして客間へと案内された。お茶と菓子を出されて持て成され、過ぎる事5分。

 そこに現れたのはダリ?であった。誰?では無い。あのシュルレアリスムの巨匠ダリだ。

 顔がもの凄い「そのまま」と言っても差し支えない位に似ている。


「貴様か、身の程知らずにも私の事を調べていると言うのは?しかも私の屋敷の目の前で下品にも大声で私を侮辱するかの如き言葉を吐いたそうだな?この私が直々にこの場で貴様の首を飛ばしてやってもいいのだが?」


 入ってきた伯爵はそう言ってゴクロムを睨む。これの返事が。


「おうよ!俺がこの屋敷を探して何にも出なけりゃあんたの自由にしてくれていいぜ。何でも言う事聞いてやるよ。だが、もしも悪事の証拠が出りゃあんたをしょっ引くからそのつもりでな?」


 コレである。挑発するのにも、こうして証拠探しに来ましたと伝えるのにも、直球過ぎて俺は呆れてモノが言えない。

 まだるっこしい貴族の会話なんか最初から求めちゃいないが、それでもコレはあんまりにも駆け引きが無い。丸で無い。

 それでも鬱陶しい人間を排除するのにちょうどいいと言いたげに伯爵はコレに乗ってくるものだから、もう話が早すぎる。


「良いだろう。思う存分探せばいい。お前が何を探しているかは私には与り知らぬ事だがな。出なかった時にはお前には私の命令に絶対服従してもらうぞ?この先ずっと一生な。」


 ゴクロムが何を求めてやって来たか知らない、と伯爵は主張する。自分の身は潔白だと言葉にしておくと言った感じで。

 伯爵はちゃんと自分が調べられていたと言う事は百も承知だろう。だけどソレをあくまでも「知らない」と言っておく事に因って一応は無関係を装っているのだ。


「よおっしゃ!さあ行くぞエンドウ。ちゃっちゃと始末をつけるぞ!ほれ、なに呑気に茶を未だに啜ってやがる!」


 ゴクロムは勢いよく椅子から立ち上がる。そして俺の腕を掴んで無理矢理に立ち上がらせた。


「もうちょっとこう、さ?まあ、いいけども。あーもう、付いて来て。」


 伯爵が睨みつけてきているが、それを無視して俺たちは部屋を出る。まるでちょっとそこまで散歩に出てくるかのように。

 ドアが閉まる直前に伯爵から声が掛けられる。


「精々この広い屋敷を走り回る事だ。見つけられるモノなら見つけてみろ。」


 この言葉に俺は心の中で「もう見つけてあるんだよなぁ」とぼやく。

 そう、既に魔力ソナーを隅々まで広げて調べ上げてあった。この件を即座に済ませるために。

 あの時、門の所から見える範囲だけで無く、その地下まで魔力ソナーを浸透させてあった。そして。


「見つけたのは隠し部屋。地下に一つ、屋敷の構造的に一つ。で、どちらから向かいます?」


 廊下に出て俺は先ずは屋敷内の隠し部屋の方へと歩きながらゴクロムに尋ねる。


「仕事が早くて助かるぜ、ってなんでわかるんだそんなの?信用に・・・足りる情報みたいだな?これなら最初からエンドウに全部やって貰ってた方が良かったな!」


「いや、仕事しろよ。何だよ、役立たずかよ。」


 俺はこの丸投げ発言に流石にツッコミを入れた。コレにゴクロムが「面目ねぇ」とだけ謝る。

 その短い一言に「心底情けない」と言った感情が滲んでいたので、それ以上は辛辣な言葉を俺も口にしない。


 さて、この屋敷は相当に広かったので屋敷内の隠し部屋に先ずは行こうにも相当に距離を歩いた。

 そしてやっとこに到着したのは何の変哲もない壁の前。


「おう?ここか?・・・なんにもねえな?本当にここか?」


 俺は隠し部屋がある壁の前に立つ。そしておもむろに手を付ける。


「あー、確実にありますね。入り口は・・・ここじゃないけど。壁は薄いのかな?正規の入り口から入ります?そうなるとそっちにはちゃんと入るための仕掛けがありますよ?」


「あぁ?なんでそっちに最初から案内してくれなかったんだ?」


「あ、最初に調べた時はザックリと大雑把に調べて、それをそのまま、ここまで来たんです。もうちょっと詳しく調べれば良かったですね。道順とか考えれたなそうすれば。」


「いつ調べたんだ?エンドウ、お前そんな事していた素振り無いだろ?いつだ?教えてくれよ。」


 ゴクロムにガシっと肩をまた組まれる。俺はコレに大きな溜息を吐きつつ答えを教えた。


「生温い風が吹いた時ですよ。さあ、こんな事してる場合じゃないでしょ?さっさとこの壁どうにかしましょう。」


 この答えに「ん?そんな事あったか?」とゴクロムはその時の事を忘れているらしかった。

 次には「おおう、そうだな?・・・壁をどうにかする?」と言って首を捻っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気がつけばもう1年過ぎてましたね。 おめでとうございます! [一言] もふらー発見。 海の上で鳥にエサあげているというのは文字にすると幻想的だけれど、現実は樽に群がる怪鳥ともふって笑みを…
[一言] (๑╹ω╹๑ )だからお前は伯爵なんだよ?
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