「子供か!」「いや、ワクワクしたら仕方が無いじゃない?」
ブレーキを掛ける際には海へと船から直接魔力が流れるように。そしてそのイメージは徐々に海水の粘度が高くなるような、そんな感じだ。
船の方も少しづつ速度を落とす様に魔石に流す魔力を下げていく。するとすぐに船はゆっくりと女性三人がいる浜へとゆったりと進んで行く。
「海に魔力を初めて「流した」けど、すぐに魔力が拡散されるんだなぁ。」
魔力ソナーを海に向けて発した時にはこんな現象は感じなかった。もしかしたら「性質」が違うからかもしれない。使用する用途によって魔力の質が変化するのだろうか?
海は広大だ。直接海へと流した魔力はたちまちのうちに拡散して粘度の上がった部分の海水は元に戻っている。
また一つ魔力と言う不思議パワーの事が分かった時点で船は浜へと到着した。
「普通じゃないわよその速度・・・あり得ないでしょそれ。」
「凄いですね!このように船を自由自在に!さすがエンドウ様です!」
「うわぁ・・・私アレに乗ってみたいって言ったのかぁ・・・すみません師匠、私やっぱり遠慮させてください。」
マーミはいつものように呆れ、ミッツもいつものように褒めてきて、テルモは気が変わったと言ってくる。
どうやら船の速度は女性陣からの方も良く見えていたようだ。
流石にターボ状態まで速度は上げてはいなかったが、それでもこの世界での船で出せる限界速度は優に超えていたと。
で、船に乗っていた男二人も文句を言ってきた。
「エンドウ、俺は死ぬかと思った。身体が後ろに持って行かれそうだったぞ・・・」
「あんな速度で船から落ちればどうにもならん。軽く死ねるぞ?」
生きていたとしても気絶して溺れて死ぬか、あるいは怪我で泳げずにそのまま沈んでしまうか。
そう言いたいらしい。コレは救命胴衣の開発を急がねばならないなと思える。
「身体能力向上を使えば死にはしないんじゃないか?それと、海に放り出された時にそのまま沈まずに浮いていられる上着を開発したいからそこも協力してくれない?あ、このまま俺のインベントリに船しまう?それとも船着き場を借りてるし、一応は怪しまれない為にも借りてる期間の内は向こうに止めといた方が良いか?」
俺のこの言葉にカジウルが真っ先に反応した。
「おい、今エンドウ、サラッとヤバい事言ったな?何だって?浮いていられる上着?お前また何考えてやがる?」
コレに即座にマーミがジト目を俺へと向けてくる。しかしミッツがすぐに俺のアイデアを肯定する。
「それは凄いです!海で仕事をしている方たちの命が事故が起きた際に、今まで以上に救われる可能性が上がりますね!」
コレに因ってマーミのジト目は元に戻る。どうやら俺の救命胴衣がどんな目的の物であるのかを分かって貰えたらしい。
カジウルの方も直ぐに分かってくれたらしく俺を責める様な目を止めた。
ラディは「俺はもう慣れた」と言った感じで最初から落ち着いていた。テルモの方はまだポカーンとした顔で話の流れを眺めている。
ミッツは流石に長く「治療」に携わっていたからなのか、命と言った視点ですぐに救命胴衣の使い道と言うヤツに即座に辿り着いたようであった。
「船の方はしばらく停留させていた方が良いだろ。一ヶ月分は払ってあるしな。しかも来た船が一日目にして「行方不明」なんて言うのは噂で流れるにしても目立つ。このサンサンでは特にな。」
話の続きをラディが言葉にする。漁が盛んな街で船が経ったの一日だけしか停留せずに行方不明なんてその船着き場の悪い噂にもなってしまう。
営業妨害みたいな事をするつもりはさらさら無いのでここはインベントリにしまうのを止めておいた。
「そうするとポールどうしよう?・・・まあ、いいか。そこら辺は目立つけどたったの一ヶ月だしな。」
俺はそこら辺を気にしない事にした。しかし船にかんしてまだ考えておかねばならない事を口にする。
「これ、舵を触って魔力を流すと誰にでも使えるんだけどさ。盗まれたりしないようにするにはどうしたらいいかな?毎回俺が元の状態に戻すのって面倒なんだよね?鍵つけられるようにしたら良かったなぁ。」
今更どんどんと「しとかなきゃいけなかった事」を思い出す。こんなマヌケは賢者と呼ばれる資格は無いと改めて思う。
コレに簡単な答えをくれたのはさっきから話に付いて来れていなかったテルモだ。
「あの~?だったら、そのーですね。その舵を取り外してしまっておけばよろしいんじゃないでしょうか?あ、そう言った改造はできないですかね?」
コレに俺は「ナイスアイデア」と思わず口から洩れる。しかしそれを気にしないで早速直ぐにハンドルの取り外しができるように改造を施した。
テルモが「ないすあいであ?」とまたしても思考の迷路に入っている間にその改造は直ぐに終わる。
ふーっと俺が息を吐いてやり遂げた感を出していると他三名が呆れたと言った感じで言葉を吐く。
「なあ?これを動かすのにドンダケの魔力が必要なんだ?俺はまだ船の操縦をさせて貰ってねーから分からんが。」
「そうね、宮廷魔術師じゃまだ少し足りないくらいじゃない?私たちはほら、魔力量上がってるでしょ?運転はできてもそこまで長時間は無理って感じかしら?」
「常人では盗むのも、ましてや運転するのも困難だろうな。で、盗難防止は・・・別に必要性を感じないが?」
カジウルは基本的な質問を、マーミがその答えを、ラディが現実を口にする。
現実的じゃない。ソレはそうだ。宮廷魔術師がそもそもこのサンサンをふらふらと歩いている訳が無い。宮廷と付いているからにはお城でのお務めだろうソモソモが。
宮廷魔術師に匹敵する人物が盗人を生業としている確率も「あり得ない」と言える程に低いだろうし、そんな人物であれば、そもそもそのような人生を送らないだろう。
ならばこんな心配は本来要らなかったのかもしれない。でも一応はやっておいて損は無い。俺たちの想像をはるかに超える泥棒は存在しない、と言った保証はどこにも無いのだ。
マーミは魔力量が宮廷魔術師でも足りないと言っているが、じゃあその足りない魔力を補充する手立てが在ったら船が盗まれる可能性が出ると言う事だ。ならば念には念を入れておくのが丁度良いだろう。
「私も乗ってみたいのですが、よろしいですかエンドウ様?」
ここで船着き場への帰りへは自分も乗ってみたいと申し出てくるミッツ。
コレに別段拒否をする理由も無い。それに船には人を乗せられるスペースは残っている。
「良いんじゃないか?あ、そうだな。だったら速度が出た時に後ろに持ってかれない様に椅子を取り付けたらいいか。」
ここにきて俺は身内以外の人がいないからと言ってどんどんと船を改造していく。
インベントリ内に入っていた椅子の足を取り払ってそれを船の空いている邪魔になら無さそうなスペースへと接着していく。
ドンドンとこうして改造するのが楽しくなってきている俺へと冷静になれと声が掛けられる。
「おーい!そこまでにしとけ!今日はこれからダンガイドリの巣を下見に行くんだろ?時間をここであんまり食っている場合じゃないぞ?」
ソレはカジウルからだった。コレに俺も大きく「あ!」と声に出してしまう位に熱中していた事に気付かされ、少々の恥ずかしさが込み上げてきた。
俺はバツが悪くなって頭をかゆくも無いのにポリポリと掻いてしまう。
「じゃ、じゃあ出発しようか。カジウルとラディで良いのか?他は?テルモも乗るって言って無かった?あぁ、ヤッパリ止めておくって言ったっけ?」
この反応に全員がクスクスと笑ってくれたので、俺は苦笑いをするしか無かった。
思い切り「子供」な部分を曝け出してしまった様なモノだ。ちょっと恥ずかしかったが気持ちを切り替えて出発する事にした。
ダンガイドリの巣を探すうえでミッツの調べてくれていた情報が役に立った。
ミッツは今船に乗り込んでいる。そう、調査に一緒に行きたいと願い出てきたのだ。
巣の位置がこのサンサンのどこにあるのかをナビゲートしてくれているミッツ。
でも俺が本気で魔力ソナーを全開に広げればおそらくはミッツのナビが無くとも見つけられたと言うのは口には出さない。
「凄いです!こんなにも風が!こんなに速い乗り物は今まで乗った事がありません!」
ミッツは大分興奮してそう叫ぶ。どうやらこの船を気に入って貰えたようだ。
カジウルも同じような事を口走る。
「慣れてくると爽快感抜群だな!うひょー!鬱憤が消えて無くなっていくぜー!」
二人にスピード狂の疑いが高い確率で出てきた。
「お前らもう少し気持ちを抑えろよ。調査の事、忘れてんだろ?」
ラディがそう言って二人を落ち着かせようとするが、効果が見られない。
はしゃいでいる二人に呆れた目を向け続けるラディ。
そんな風なやり取りをした後に、それは見つかった。サンサンの街から結構離れた距離にある巨大な崖。
その場所に巨大な鳥の影が幾つも幾つも見えたのだ。
数の多さにもしかしたら繁殖期なのかも、と俺は考えた。
「船を止めるぞ。かなりここからまだ距離はあるけど。これ以上進むのはちょっと危険だと判断したんだが。ミッツ、今の時期のダンガイドリはこんなに集団でいるのが当たり前なのか?」
「あ、はい。この今の時期は「つがい」ができて卵を産んで温めているんだと思います。引っ切り無しに巣へと鳥たちが行ったり来たりしてますけど、たぶん交代で卵を温めて、餌を獲りに行っているんだと思います。」
確か鳥が卵を温めるのは相当過酷な行いでは無かったか?動物番組などでそう言った特集などを見た時にそう解説していた番組があったはず。それを見た覚えがある。
四六時中卵を管理し、しかし自分も餌を獲り食べなければ体力が減るばかり。
だから「つがい」が交代してその時間を確保して子育てがされると。
「なあ?こんなに引っ切り無しにダンガイドリが飛び交っているのに、あそこから卵を採ってくるなんて、生半可な事じゃできないんじゃないか?つうか、無理じゃないのか?」
で、俺はコレにそんな感想を持つ。いや、普通は誰だってそう思うだろう光景だ。
崖に巣、そして数えるのが難しい位にいるダンガイドリ。それがずっと飛び交い続ける。
「こりゃ確かに何か「タネか仕掛け」が無くっちゃ卵を採るなんてできないんだろう。」
ラディは確信を持ってそう言葉にする。コレにカジウルも「そりゃそうだな」と同意する。
「じゃあちょっと暫く観察しよう。バードウォッチングと行きますか。」
口が滑って俺が言葉にしてしまった「バードウォッチング」に三人は一瞬だけ気を取られたみたいだったが、その後は飛び交うダンガイドリの方へと視線を向ける。
それにしても随分と危険なバードウォッチングだと思う。それこそ、この鳥に襲われるのは最悪の場合、命を落とすのだから。
大人一人を持ち上げて空を飛べる力強さ。その大きな鋭い爪の後ろ足に捕まればそのまま空高くにまで連れ去られ、そこで放されようモノなら墜落死だし。
そのまま餌と見なされたら生きたまま食われると言う残酷な運命を辿る、何て事も想像してしまう。
「絶対に何かしらあるんだろうなぁ。卵を採取できる手が。でも単純な作戦なのかも案外?囮を出して、そいつに注目が集まっている時にサッと掠め取るとか?」
一番単純で、かつ効果的。しかし大いに危険が伴う作戦。
コレはそもそも現実的じゃないな、と思って他の方法は無いかと考えながら観察を続けた。
だけどカジウルとラディが俺と同じ事を考えたらしくそれを口にする。
「どうもよ?卵を採るには、何か条件でも無い限り無理だぞ?それこそあのダンガイドリを一匹残らず一か所におびき出して誘導する何かが無けりゃ駄目だろう。」
「あぁ、そうなると囮って言うのが、な。考えたくもないが、奴隷商を探ってみた方が良いかもな。」
探るとはどう言う事だろうか?もしかして俺たちも奴隷を買って囮に使ってみる実験でもすると言うのだろうか?
「エンドウは何かしら勘違いしているみたいだが。奴隷を買った奴らのその「使い道」を探ればその囮って言う作戦が合っているのかどうかの答えは出るだろ?まあ奴隷商の奴らも客の個人情報を喋ったりはしないだろうがな。」
ラディが俺の表情を読み取って教えてくれる。それとこの確認の仕方は現実的では無いとも。
恐らくはそう言った方法でダンガイドリの卵を採るための情報を得る、と言った手段もあると言いたいのだろう。
採取専門の冒険者がもしかしたら囮として奴隷を買っていると言った可能性もある。そうなればこのダンガイドリの卵の採取にはそう言った方法が取られていると言う事になる。
「ここでこのまま観察し続けていても埒が明かないように思います。今日は一旦帰還して話し合うのが良いのではないでしょうか?もしくはもう一度情報収集をして見ると言う手もあります。私が集めた以外のもっと重要な手がかりなどが、もしかしたらあったりするかもしれませんし。」
ミッツはそう提案してくる。情報を探す人物が変われば、それぞれ目の付け所も変わる。
「うーん?まあ今日の所はこれくらいでいいか。別に急ぎでも無いしな。ゆっくりとやっていこう。」
こうして俺は船の踵を返して帰還する事にした。船着き場へと到着するとそこにはマーミ・テルモが待っていた。
「早いじゃない帰ってくるの。どうかした?」
マーミが考えていた予想よりもよっぽど早い帰りだったのだろう。ちょっとだけ驚いている声音だった。
「あー、なんかさ、ちょっといい案と言うか。解決策が浮かばなかったと言うか。芳しくないんだよコレが。」
カジウルがそうマーミに答える。芳しくない、コレは確かに言えている。卵を採取すると言う点においてどのような方法を取れるか?そこが分からない、思いつかなかったから。
俺も確かにこういった採取に危険を伴う仕事を専門としている冒険者が、どの様にしてダンガイドリの対処をしているのかが分からなくてモヤモヤとしている。
でもそれ以上に今俺の中でそのモヤモヤとは違う別の正体不明の何かが頭の中を覆っていた。
「採取専門の冒険者は一つだけでは無いじゃないですか。そうなるとそう言ったそれぞれのパーティーで採り方の違いとか、こだわりって言うのが有ったりするんでしょうか?」
カジウルがマーミに観察していた時のダンガイドリの状況を話していた途中でテルモがそう言葉にした。
そしてその言葉に俺の頭の中を覆っていた霞が晴れてピーンと来た。
「そうだよ!それだよテルモは天才だな!よし!コレはちゃんとやる事整理しないと!巣へはこうして・・・トリの対処は・・・こうじゃ無いな?あーでも、こういう風には・・・でも最終的には養殖だろ?そうなると・・・」
俺が勝手に盛り上がってしまったのを呆れた目で見てくるのは大体、毎回、マーミである。
「ちょっと、エンドウあんたね?解決案を思いついたのなら私たちにも話なさいよ?あんた一人で考えた事って今まで大抵ろくでも無い事だったんだから・・・」
ロクでも無い呼ばわりは酷いと思うのだが。一応はもうこうして帰ってきた事だし今日はもう向かうつもりは無い。
「ああ、宿で説明するし、実行するのも明日にするよ。じゃあ戻ろうか。」
まだ宿に戻って引きこもるには早い。なので皆でこのまま何処かの食事処で昼食を取ってゆっくりしてから宿での作戦会議?をする事になった。
そうして宿では俺のアイデアを話して皆に意見を聞いてみたのだが。
「すまん、お前がとうとう何を言っているのか分からない。何でそうなった?」
「エンドウが常識外れだと分かっていたはずなんだがな?どうにもまだ認識が甘かったらしいぜ。」
「頭が痛いわ。どうしてそんな考えになるの?ねえ?もうちょっと私たちの「常識」って言うのに合わせてくれない?」
「普通の冒険者なら絶対に考えもしない、思いつきもしない案ですね!さすがエンドウ様!」
「し、師匠?それ、本当に本気で言ってるんですか?あの、私にはどうしても無茶だとしか思えないんですけど?」
カジウルが困惑し、ラディが常識外れだと俺に言い、マーミが頭痛がすると言って頭を抱える。
ミッツはいつものように俺の事を全肯定してくる。テルモは俺の正気を疑った。
「ああ、やるよ。だって将来卵を気楽に食べれるようにするにはコレが一番やりやすいと思えたからな。でも、良く分かるよ?この方法は多分俺にしかできないんだろうな、って言うのはさ。でもまだまだ調べなきゃいけない事が多いから明日に全部を即実行って言う感じにはしないけどね。」
先ずはお試し、と言った所を俺はやろうと思っている。なのでいきなり「卵ゲットだぜ!」とはならない。
そこら辺の事も話して見たモノの、カジウルがお手上げだと言った感じで両手を上げる。
「もうエンドウの好きにやって構わないんじゃないか?俺たちはエンドウから協力を求められた時だけ力を貸すって感じでよ?」
どうやら俺の考え方に流石に着いて行けないとカジウルは言外に伝えてくる。
コレにマーミが賛同した。
「エンドウはもう私たちに構わず卵の件、進めちゃえば?どう考えても私たちができる手助けなんて無さそうよ?」
コレにちょっとだけ怒ったのはミッツだった。
「何を言っているんですか二人とも!幾ら私たちがお手伝いができる事が無さそうだからって、それをここで言葉にして言う事は無いでしょう?全てエンドウ様に丸投げするような!」
「いやいや、ミッツ、怒ってくれるのは嬉しいけど。でも皆に無理をしてまで協力してくれって言うのは違うんだよ。確かに手助けとか協力って言うと、今回の「コレ」は俺にしかできないだろうし。絶対に参加だとも言わないから。他に皆がこのサンサンでやる事を見つけたり、もしくはのんびりしていたいって言うならそれをしてくれていいんだ。強制はしないよ?」
俺のこのミッツを落ち着かせようとして言った言葉に、テルモがおずおずと手を上げて発言の許可を求めてくる。
「あのー、私は師匠のやる事を見学していたいんですけど、イイですか?なんの力にもなれそうも無いんですけど。でも師匠のその、やろうとしている事って前代未聞じゃないですか。ならそれを見てみたいんですよね。い、イイですか?」
コレにラディが同じ意見だと追加してくる。
「エンドウのやる事はいつもぶっ飛んでる。だから退屈しないで済む。俺も見学させてもらうとしようかな。明日は直ぐにまたあの崖に行くんだろ?船を俺にも操縦させてくれないか?速度が凄かったからな。俺もやってみたい。」
取り合えず意見は出終わった。で、結論はと言うと。
「自由で良いんじゃないか?そもそも俺のこの卵の件も無理強いして協力してくれって言った感じでも無かったはずだ最初から。なら自由行動で最初からいいじゃないか。」
こうして結論が出た時にはもう既に夕飯の時間だった。この日は宿の食事を摂ってベッドへと入る事になった。
そして翌日。既に朝食は済ませてある。俺、ラディ、テルモは漁業組合に向かっていた。
カジウル、マーミはとりあえず今日は俺たちには付いて来ない。どうにもまだ頭の整理が付けられていないと言って。
ミッツはと言えば今日も教会で治療行為をすると言う事で同行はしていない。
「で、エンドウ。何でまたここに?」
「え?ダンガイドリって主に魚を餌にしているんだろ?だったら捌いた魚の捨てる所とかを実験用に回収させてもらって、それを食べてくれるかどうかやってみようと思って。」
「考えがもの凄い飛びますよね師匠って。うーん?ダンガイドリを将来的には「飼う」って言う発想から来ているんでしょうけど。その餌の為に漁業ギルドの方に魚の提供をして貰うって言う形になるとか。いきなりデカいですよ考えてる事。」
ラディは質問、それに答える俺。そしてテルモが答えに「あり得ねえ」と褒めてくる。
「まあここら辺はやってみない事には分からないから。あ、すいませーん。少々お尋ねしたい事が。」
俺は受付のオッサンに声をかける。すると。
「おいおい、あんたかよ。まさかまた常識知らずな変な依頼を出しに来た訳じゃあるめぇな?」
そのまさかだと俺が答えると大きな溜息を吐かれた。確かに俺がこれから質問する事はこの世界じゃ常識を逸脱しているのだろう。
でもそんな事を気にしていると話を進められない。本当はインベントリに入っている大量の魚もあったりするが、これを減らすのは最終手段だ。
これらの魚は非常食、もしくはサンサンを出てまたどこか他の地へと行く事になった際の道中で食べるための食料として残しておきたい。
だから最初はタダで手に入りそうなものを先ず初めに使ってみるのだ。コレで上手くいかなかったらインベントリから出して見るのもいい。
そう、先ずはダンガイドリを手なずける作戦である。餌付けだ。
もしこれが成功したらもっと踏み込んだ段階へと突入してもいい。
ダンガイドリの餌は本当に「魚」だけなのかと言う点だ。もしかしたら穀類も行ける口だったりすると食べさせる餌の購入しやすさが変わる。
もしかしたら食べる餌に因って卵の味わいも変わったりするのだろうか?と言った事も将来検証できるかもしれない。
そして品種改良でそもそも生態を人工的に変化させる。崖で、何て事をせず、地上で飼育すると言った事も可能になるのではないだろうか。
かなりの年月を掛けなくちゃいけないかもしれない。もしくはダンガイドリの順応能力が非常に高く、すんなりと成功してしまうと言った事も。これらは、やってみなけりゃ分からない、と言う事だろう。
「魚を捌いた際の出る頭やハラワタなんかを譲って欲しい?はぁ~、なんだ?何なんだ?何でそんなモノを欲しがるんだよ?まあ、いいや、今朝獲れたてのヤツ、今さっき下処理したのがあるから持って行っていいぞ。案内する。」
案内されたそこには魚を処理後の「クズ」が満タンに入っている樽があった。
どうやら漁で獲れた魚の内、漁師が持ち帰る分の処理をここでしていくそうで。
「好きなだけ持って行っていいぞ。何なら樽事な。」
「コレは発酵させれば良い畑の肥料にもなりそうだなぁ。あ、じゃあありがとうございます。」
俺のニコニコした顔を見た受付のオッサンはそう言って戻っていってしまった。
これをしまう所を見られなくて済んだので早速俺はインベントリを開いて樽をそのままその中へと突っ込んだ。
こうして今俺たちは海の上に居る。船着き場から出発する際にはラディに運転のコツを教えた。
そしてここまでそのラディの運転で来ていた。
「ふぅ。凄いなコレは。ここまで自由に走り回れると爽快だ。前を塞ぐ物が何も無いって言うのはこれほどまでに解放される物なんだな。」
ラディは自分が操縦した事への感想を述べる。
「フワワワワワ・・・ヤバいですよ、ヤバいですよコレ。病みつきになりますねこの気持ち良さは。」
テルモも初めての海、初めての船、初めての速度に深い感動を得ていた。
「ラディは覚えるの早いよなぁ。ちょっと教えただけでこんな簡単に運転できるんだもん。才能かぁ?」
ラディは魔力ソナーを使える。要するにソレは魔石へと流す魔力の調節がすんなりと出来ると言う事に他ならない。
俺が説明を一度しただけですぐにそれを理解して実践してみせた。そして船の運転も凄くスムーズに行っている。
速度の限界値は俺の出した速さに及ばなかったが、それでもしばらくの時間、船を運転していた。
「コレは確かに魔力が大分必要だな。これ以上は枯渇する。エンドウ、変わってくれ。」
「俺が魔力の供給を魔石にして、運転はラディがする、って言う分担もできるけど?」
俺はラディへと運転を続けたいなら俺が「燃料役」をすると提案する。しかしこれを断られた。
「速度調整するのにソレだとマズイだろ。お前の流す魔力の量一つ変われば運転の機微も相当に気にしなけりゃならないからな。」
ソレはそうだ。運転している人物が速度を落としたいと思っても、魔石へと魔力を供給する役割の者がそれを受けてどれくらい流す魔力量を落とすか、そこにズレが出る。
運転にチグハグが産まれて上手く操舵できなくなったりすると事故である。
「やっぱり直列じゃ無くて魔力貯蔵できる魔石を間に挟めたら良いんだけどなぁ。」
俺がそうぼやくとテルモがそこに突っ込みをしてきた。
「師匠、そんなモノが市場にバレたら一気に大混乱に陥りますから。止めましょう、そうしましょう。」
俺の頭の中にはイメージができているので作れない事は無いのだが、テルモに止められて「今はまだ、まあ、いいか」とラディと運転を交代するのだった。




