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真実はいつも残酷?

「来てくれるのはまあいいが、目立ち過ぎだろう?良いのか?マルマルに・・・戻る事は無いのか。ならば程々にな。あまりエンドウが歩き回ると使者が、まあ暴走するかもしれんからな。」


 師匠は先ず最初に俺へと苦言を呈してくる。まあとりあえず今日はもうこれ以上はマルマルであっちこっち行くつもりは無かったので良いだろう。

 次に来る時はサンネルにまた買い取って貰う時くらいか。期間を多めに開けて行くのが良いだろうその時は。

 サンネルもアレだけの数を捌くのは時間もかかるだろうし、次に買い取って貰うにしても直ぐには金も用意はできないだろう。


「で、時間あります師匠?魔石の話をご用意しましたよ?」


 師匠は比較的忙しいと言った状況では無いらしい。しかし気が抜けないとも言った感じだ。

 魔力薬製造に関してまだ情報は漏れていないと見える。が、しかしいつ産業スパイが潜り込んでくるか分からない状況だ。

 でも今は職員たちには休憩を入れさせていた時間らしい。魔石と言うワードで師匠の目が光った様に見えた。


「エンドウ、その話、詳しく聞いておきたい。おーい、今から私は出掛ける。私の代わりはお前がやってくれ。よし、エンドウ、森の家に行くとしよう。」


 師匠は近くを通ったこの工場の職員へと声を掛けた。そう言われた職員は慌てふためいていたが、ソレを無視して師匠は俺へと顔を向けてくる。


「いやいや、師匠、もうちょっとしっかりと引継ぎはしましょうよ。興奮しないでくださいそんなに。ほら、あの人凄い狼狽えてますから!」


 俺がそう言ってやっと師匠は他の責任者の所に向かった。話をしてくるためだろう。

 そんなに魔石の事は師匠の琴線に触れたのか、とちょっとだけ驚いた。魔法、魔力に関しての事なら大体の事に師匠は食いついて来るようだ。


 一分程して師匠は戻って来る。で、早速「移動しよう」と言って俺の背中をグイグイ押してきた。

 空き部屋へと入り、誰も近くに居ない事を確認してからワープゲートを開いて森の家へとサクッと移動する。


「ふう、では教えてくれ。エンドウの見解を。」


「師匠、先ずは家の中に入りましょうよ。お茶の用意をして、椅子に座って、ゆっくりと説明しますから。俺は逃げませんって。」


 この興奮度にちょっと引いて苦笑いをしながら師匠を諌めて家の中に入る。

 そしてやっとこ師匠が多少落ち着く時間も作る意味でお茶を淹れる。

 やっとテーブルについてお茶で喉を潤して、俺はまだかまだかと待つ師匠へとサンサンでの魔石の話と俺の見解を述べた。


 で、説明をし終わると師匠が頭を抱えている。


「何と・・・言う事だ・・・。魔石がその様な。コレは世に広まる説の事如くに影響を及ぼすぞ・・・頭が痛くなってきた。」


「師匠、無理に世間に公表しないでもいいでしょ?師匠、世界の混乱と平和、どちらを取ります?もし師匠がこの事を広めたいと言うなら止めませんけど、死人、出ますよ?確実に。それこそかなりの数がそこら中の国で。」


 事の大きさを俺は言葉にする。そう、魔石とは簡単に言ってしまえば魔力の結晶だ。

 そして魔力とは粒子であると推測できる。それこそこうして集積して固まるのであれば。

 そしてその魔力は自然界で特別そうした集まる場所が出来上がる。特異点と言っていいだろうモノが。

 この世に生きとし生ける存在に魔力があり、それが空気中に放出されるとしよう。

 その放出された魔力が「世界」に満ちているとしたら?ソレが飽和して溢れ、こうした「魔石」が産まれているとしたら?

 人工的にそう言った「力場」を生成できるのだ。俺が証明した。それが魔石職人のロヘドにもできると言う事も分かっている。まあそう言ってもかなりの魔力を消費するので普通の魔法使いは無理だろう。

 悪用される確率は無いとは言えないが、それでもソレをするなら莫大な金がかかるだろう。それこそ国家予算に匹敵するくらいの金が。

 人工的に魔石を生む技術、コレはおそらく「戦争」が起こる理由に充分だ。


 この魔石のできる理由と言うのはそもそもこの世界の成り立ちにまで食い込む説だろう。

 神様がこの世界を創った、と言うのなら、こうした機構を世界に組み込んでいると言う事だ。

 そして神など居ないと言うのなら、この「魔石ができる」と言う自然現象は「奇跡」と言った類のモノとなる。

 そんな壮大な事象をこの世界に生きる「人」が人工的に再現できるという事実は、おそらくこの世界の均衡を崩すと言う事に他ならない。

 世界情勢やら、もしくは自然摂理の破壊などだ。それが将来どんな結末に収束するか見当もつかない。

 一つだけ言えることは最も最悪な結末として「滅亡」だろう。国と言う単位での話なら人の生き残る可能性も残るが。

 この世界に生きとし生けるもの、存在する全ての「破滅」ではシャレにならない。


(それでも人は目の前の利益追求に必死になって、それらを見て見ぬフリして結局手遅れになるんだろうな)


 後でロヘドにも言っておかないといけないか、と思ってから師匠を見る。すると師匠は意が固まったと言った顔になっていた。


「うん、コレは封印だな。この事実は余りにも危険すぎる。忘れよう。うん、忘れよう。」


 胃が痛い、そんな悲痛な表情だった師匠が次にはそんな風にケロっとなっていたのでコレに俺はちょっと驚いた。

 でもコレが正しい判断と言っていいのだろうと思う。


「で、師匠、魔力って言うのはそう言った想像力とソレを世に顕現させるという意思一つで現象を引き起こす物質だというのは解明できたんですけどね。その魔力が人の中にこうして満ちている訳です。そう言った魔力を生成する機能が、人に組み込まれている、あるいはそう言った臓器が存在すると言う事なんですけど。」


 そう、その魔力を何故人がこうして自由自在に扱えるのか?ソレの根本に悩む。

 そう神様に「創られた」と言うならもう何も言わない。それは人の理解の範疇を超えるからだ。

 しかし、自然とそう言った進化をしたというならちょっとこれはコワイ話だ。

 そもそもこの世界に神などと言った超常的な存在がいなかった場合だ。

 人がこの世界でどのように発生したのかの根源が分からなければいけない。そしてそこからどう言った経緯で魔力を扱えるようになっていったのか?と言った進化の歴史だ。

 そうなるとこの世界はどうやって発生したのかと言う推測もしなければいけない。なぜ魔力などと言う物質がこの世界を満たしているのか?など。


 地球が産まれた経緯は数々の推測からしか成り立っていない。いくつもの調査の結果、莫大な数字、それらの情報を因り集めた予測でしかない。

 地球ができたその瞬間を「見た」と言える人がいないのだから証人も証拠も無い話だ。だから数々の「痕跡」と呼べるものを重ねて重ねて出た「形」でしかない。全てが「おそらく」と言った形でしか表現ができないのだ。

 それでもソレが「合っているだろう」と言った見解で一致しているのが現状だ。世間だ。そうして常識と言っている。

 ただソレだけでしかないのである。コレは捻くれた抉った見方でしか無いのだろうが。


 でもこの見方は今この「地球」とは違う世界の成り立ちを話すには大事な事だ。

 で、またしてもこの話の振りに師匠が頭を痛める。


「・・・やめよう、その話は。エンドウ、お前が「賢者だ」と言う事はもう充分に、頭が痛くなるくらいによーーーーーーーーーーーーく、解った。解ったから、これ以上はそう言った話は、今後無しにしようか?」


 師匠は今までの人生で見てきた自分の「世界」をぶち壊されたと追加で口にする。


「今までの私の研鑽は一体何だったのか?と思わされる。これ以上は余り衝撃を与えないでくれ。もうちょっと、な?優しく教えてくれると、ありがたい・・・壮大過ぎて追い付けん。」


 師匠はそう言ってテーブルに突っ伏してしまった。

 少々の時間を置いて師匠が回復してからワープゲートで帰らせる。魔力薬製造の監督に戻らなくちゃいけないのだ。

 こうして森の家に一人残った俺。忘れずにロヘドに一応釘を刺しておくためにサンサンへと戻った。


 で、ロヘドの工房へお邪魔させてもらった。丁度休憩時間を取ろうとしていたと言うロヘドに単刀直入で注意しておいた。「この魔石の技術は一切漏らさない事」と。

 誰にも漏らしちゃいけない、何故なら、と説明しようとしたところでロヘドからそれ以上は言わなくていいと止められた。


「何となくなんだがよ?コレが滅茶苦茶ヤバイ物だって言うのは、もう俺も薄々とは分かってるんだ。だから誰にも漏らしゃしねーし。一子相伝、とか偉そうな事もしないつもりだ。こいつは墓の中まで持ってくよ。」


 どうやら既に魔石をいじくり回しまくっている内にロヘドは自然と「ヤベェ」と理解していたようだ。個人の抱える特殊技術として腹にしまって出さずに生涯を終えると言ってくる。

 こうして直ぐにロヘドへの口止も終わってしまったが、ロヘドとはこれでは口約束でしかない。それでも俺はその言葉を信じて何も追加で言わなかった。

 そして外に出た時には既にこの時には夕方に差し掛かろうという時間だった。

 外に出ている屋台で俺は夕食を買い食いして済ませて宿へと戻った。


「明日はお楽しみの船が有るから、ちょっと早めに寝ようかな?他の皆は・・・まあ明日の朝になりゃ分かるか。」


 明日は船へと魔石を組み込むつもりだ。そしてソレで海でかっ飛ばすつもりだ。障害物が全く無い青く輝く大海原。きっと爽快だろう。

 そう言った楽しみを抱えて俺はベッドへと潜り込む。


「あ、そう言えば師匠に魔石渡して実験してそのまま持って貰っとけばよかった。あ、クスイにも渡し損ねてる。まあ、いいか。」


 すっかりと携帯電話モドキを渡す事を忘れていた。明日になってつむじ風の皆に実験は付き合ってもらえばいいだろう。渡すのはその後でも構わないはずだ。

 こうして俺は部屋がまだ暗くなったばかりだったが即座に眠りにおちた。


 翌朝の起床は早かった。思わず「子供か!」と自分で心の中だけでツッコんでおいた。

 で、下に降りて食堂に行くともう既にカジウルが起きていた。


「よう、エンドウ。・・・あ、俺か?うーん、昨日別れた後に寝たんだがよ。どうも睡眠時間がソレでズレちまった。んで、こうして朝っぱらに起きちまってよ。」


 そう言ってカジウルが溜息をして頬杖をついた。俺はそこに確認を取る。


「今日は船を海に出すんだけど、どうするカジウルは?」


「あぁ、乗るぜ?正直ちょっとワクワクしててよ。かっ飛ばすんだろ?爽快だろうなあ?あんなだだっ広い何も無い場所で思う存分ぶっ飛ばせるんだろ?」


 カジウルにスピード狂の疑いが出た。コレに俺は黙っていようと思う。

 俺も海で自分の自由に船を操作してかっ飛ばせる事にワクワクしているからだ。だからこんな朝早くに起きてしまった様なものだ。これでは何もカジウルに言えないのである。


「あんたらね、海の藻屑になっても知らないわよ?まあそんな時でもエンドウに助けなんて必要性無さそうな所が怖いやら、おかしいやら。」


 マーミも朝食を摂りにだろうか降りてきた。そして呆れた感じで俺をディスっている。いや、もしかしたら褒めているのかもしれないが。

 俺はマーミに昨日は分かれてアレからどうしていたのかを聞いてみた。


「エンドウ、あんたさ、恐ろしいモノ教えてんじゃないわよ・・・見たわよ?ミッツが治療している所。あれはヤバいわよ?まだ総本山まで話なんて行ってないだろうけど。それでもいつミッツが審問にかけられるか分からない。審問にかけられないで連行されて陰で即「消される」可能性だって心配しなきゃいけない程だった。ミッツは頑固な所があるから、アレを今更止めさせる事なんて無理よ?」


 マーミは将来ミッツに迫るであろう「魔の手」の事を口にする。コレに「俺が責任は持つよ」と言っておく。


「その時には俺が全部片付ける。俺の魔力全てを使ってでもミッツを救うさ。その総本山ってのを敵に回してでもな。」


 この発言にマーミに、いや、カジウルにも同じようにドン引きされた。


「お前の力は知ってる。だけどな?滅多な事言うな。そりゃよ、俺だって仲間が捕まりゃ助けてえとは思うさ。けどな?それでも総本山相手、とか考え付きもしねえよ?」


「敵に回す、って言っても返り討ちに・・・遭っているエンドウが想像できないって、もうソレだけで背筋に悪寒が走るってどう言う事ヨ・・・」


 そんな話をしている内にラディが降りて来る。


「どうした二人ともそんな青い顔して?まさか何かまたエンドウがやらかしたのか?・・・って感じでも無さそうか?」


 当たらずとも遠からずと言うのはこういう時に使うのだろうか?ラディの勘はいつも鋭い。

 ラディのこの指摘にカジウルもマーミも「聞かない方が良い」と言ってこの話を切った。

 そこにミッツがやって来る。


「皆さん早いですね。じゃあ今日はこのまま朝食を摂ったら海の方に行ってすぐに船を見に行きましょうか。」


 最後にこうしてミッツが来た事にカジウルとマーミがホッと胸を撫で下ろしていた。


 こうして食事が終わり俺たちは船着き場へと向かっている。早速今日は船の操作に慣れるためだ。

 とは言え誰も船の操縦の免許なんて持っていないだろう。まあこの世界での船の操縦に免許なんて必要なのかは分からないが。

 最終的に俺が魔力で何とかする、そんな意見で全員が一致している。


「あのう、私も行くのって、必要あります?」


 テルモがそう言って俺たちの後ろから声を上げる。まだ彼女をマルマルには帰していない。

 ここら辺はゴクロムに話を聞いて早めにテルモを帰せるようにしておいた方が良いかなと考える。


「まあちょっとした長めの休日だと思って疲れを癒してくれよ。香草焼きの店はずっと忙しいままだったんだろ?ならここでちょっとくらいは英気を養っていけばいいさ。あ、それでテルモはミッツの治療を見学してたのか?」


 俺はここで昨日にミッツと一緒に教会に行ったテルモが何をしていたのかを訊ねてみた。


「凄いですよねー。あんな治療、私見た事ありませんでした。しかもミッツさんのソレを師匠がそもそも教えたって言うんですもん。あ、これ、もしかして広めちゃいけないやつです・・・?」


 俺はこのテルモの言葉にニッコリ笑って一つ頷く。これを見たテルモがサッと顔を青褪めさせる。

 どうやらコレが世間にあんまり広まっちゃいけない案件だと言う事に直ぐに気付けたみたいだ。


「そう怖がらなくてもいいだろ。黙っていればいいんだ。でも、時間の問題なんだろうなあ?」


 おれはそうやってぼやく。ミッツの治療行為はマルマルとサンサンと言うまだ二つだけだ。まあ主にマルマルでは俺がやった事なのだが。

 それでもこの先にそう言った治療を受けた人たちの口に戸は建てられない。

 ジワジワと街中にその話は噂となって広まり続けるだろう。それが早いか遅いか、時間がどれだけ掛かるのか?

 その時に総本山とやらがどんな動きをしてくるのか。その時に俺はどう言った対処をするのか。


(その時にならなけりゃ分からんか。今はまだ考える時じゃないな。今日は船だ、船)


 きっとその時が必ずやってくる。そう確信はあるが、だけどソレが今で無いなら話は後だ。

 いや、未来にきっとやって来ると分かっているならそう言った根回しやら、対抗手段やらを用意しておく準備をしなければならないとは思うのだが。

 それでも今は大海原を爽快な風を受けて走り回りたいと言うワクワク感の方を優先してしまうのは仕方が無いだろう。


「あ、そう言えば昨日さ。漁業ギルドで船を出して貰えたんだ。そんでもって漁を体験させてもらったんだけどさ。」


 俺は話題を変えるために漁業ギルドへ依頼を出して海へと遊びに出た話を振る。

 そして「幻の魚」を獲った事と、その他に大漁の魚がインベントリの中にある事を伝える。


「お前本当に何やらかしちゃってんだよ・・・?あ?一応は秘密にして漁業ギルドには隠した?いや、そう言う事じゃねーだろ・・・」


 カジウルがそうじゃないと言ってくる。しかしどう言ったら俺へと伝わるのかを悩んで諦めた。


「もう、何も言葉が出ねーよ。仕方が無かったって言うのは信じるが、それでもそんないきなりお前、初めて海に出て幻との遭遇とか?ありえねーだろう普通に考えてよ?どんな運だよソレ?」


 まあ確かに運なのだろう。いきなり一発で幻なんて付く魚が引っ掛かる何て。

 そんな話をしていれば船着き場へと到着だ。そして一発で分かった。

 俺たちが購入した船は新品だ。他の停留している船とは輝きが違った。


「うわー、スゴイカッコいい船ですねー。コレに乗って海ですか・・・いいなあ。私も乗りたい。」


 テルモが船の見た目の感想を述べる。それと乗ってみたいとも。

 コレに俺は別にいいのでは?と思った。ラディとカジウルが一緒に乗る予定だったが、もう一人乗るスペースは充分にある。


「良いんじゃない?あ、でもコレ改造するから後で泣かないように。」


 俺が少々警告をする。コレにテルモがビビりまくり「え!?泣くってなんですか!?」と俺を見る。

 このテルモの動揺をマーミが「かわいそうね・・・」と呟く。コレに余計に怖がったテルモがプチパニックに陥りそうになる。


「おい、二人ともあんまり脅してやるな。あんたも別に船から突き落とすと言われた訳じゃ無いだろ?万が一にも船から落っこちたら助けるさ。」


 この言葉にテルモは落ち着くが、俺は「あ」と思い出す。


「救命胴衣とか作らなきゃいけないかな?思い付くの遅いな。昨日船で漁に出た時に思いつかなきゃいけなかった事じゃん。あー、考えなきゃな。」


 救命胴衣と言うのがどういった作りになっているのかしっかりとした構造を俺は分からない。

 取り合えず浮き輪は作るとして。それと着ている服が浮けば問題無いのかなと安易に考える。

 そうなると材質だろうか?浮きが付いた簡易的なベストを作ればいいだろうか?

 コレの案件も卵と一緒にマンスリ商会にアイデアを持ち込んだらこのサンサンでの海難事故などに役立つのではないかと考える。


 俺がそんな事を考えていると皆は船を観察していた。乗り込んでみたり、帆の部分を確認したりだ。


「まあ今日は服に魔法で水に浮くように付与をして乗ればいいか。」


 そんな事を考えて俺も船に乗り込んでみる。案外安定していて乗っていて船酔いなどをし無さそうだと思えた。


「じゃあ出発、とその前にここで改造するのは・・・不味いか?」


 俺は早速この船の処女航海をしたかったのだが、自制して待ったを掛けた。


「とりあえずあの魔石を実験した場所なら誰も居なさそうだし、あっちに先ずは行って見れば?そこでやれるんじゃない?ソレにしまう時も人に見られないようにしなさいよね?」


 マーミが提案してくれた。俺はソレが良いかと納得して船に乗り込む。

 その時にはラディが帆を張ってくれていた。カジウルも手伝ったのか準備が早い。


「よし、じゃあ最初は魔法で風を起こして進もうか。・・・運転頼んで良い?」


 俺はカジウルとラディに頼んでみる。テルモはまだ船に乗っていない。

 どうやら俺が改造した後の船へと乗る気みたいだった。なのでマーミ、ミッツ、テルモはこの場から魔石を実験した場所へと歩いて向かってしまう。


「あれ?その時の浜辺、どっちだ?船じゃ進む方角が分からないぞ?・・・まあちょっと遠目まで船着き場から離れればどちら側かにそれらしいのが見えるだろ。じゃあ行こうか。」


 俺の言葉に男二人が呆れた目でこちらを見てくる。それでも何も突っ込んでこないのはおそらく「どうにでもなる」と見込んでの事だろう。

 風は俺が起こしていくらでも船を進める事ができる。海上で停滞などはする事が無い。ならば走り続けていればおのずと見つかると。


 こうして海へと繰り出す。そして驚くのはラディの操船技術。カジウルもキビキビした動きでその補助をしている。

 俺へと「風」が帆に当たる向きなどもラディが細かく指示をしてくれるので、あっと言う間に船は水平線へと向けぐんぐん進む。

 魔石での改造が必要無いかな?と思ってしまえるくらいに。でも、これでは人手が必要なのだ。

 ラディもカジウルも帆の様子を見ているので掛かり切り。そして俺だって風の制御もラディの指示を受けて細かく調整するので気が多少張ったままでいる。

 これでは余裕が無い。もっともっと気軽に海を楽しみたいのだ俺は。


(いや、おいおい、本来の目的を忘れかけたぞ今俺・・・)


 そう思って一度ここで休憩を取ろうと言って俺は風の魔法を一旦止める。

 するとラディもカジウルも帆を畳んで一息ついた。


「速いぜ・・・あっと言う間にこれかよ?感動してる暇も無かったぞ?」


「帆船に引っ切り無しに勧誘されるぞ?良かったな。冒険者を辞めてもこれなら海の男になれるぞエンドウ。」


 カジウルはもっとゆっくりと海を感じたかったと言い、ラディには転職の話を振られる。


「冒険者は辞めるつもり無いよ?それと、カジウル、コレ、まだ改造するから。」


 俺はそう言って見る。すると二人からげぇ~と言った感じの顔を向けられた。


「何だよその顔は?冗談にしても分かってって今日はこうして二人は船に乗って来たんだろ?」


 俺は魔石を取り出す。これを船に何とか操舵と連動するように取り付けたいのだが。


「うーん?やっぱりこっちか?これをこうして中に繋げてここをヘコませて・・・うん?こっちを向けると左で、こっちが右に・・・」


 などと船に魔力を流して「変形」をさせていく。もちろん船が壊れないように慎重にだ。

 徐々に流す魔力の「密度」はセーブでき始めていると実感がある。だけどまだまだ不安も残る。

 船に使われている材料が割れたりしないように細心の注意を払って改造を進めていく。

 その際に使われる材料はそもそもこの船に使われているマストだ。かなりしっかりしている材質なのでこれを使用している。ハンドルを作り、それに連結連動、後方船底に魔石を繋げるように改造を施す。

 船の構造上、何処に穴を開けて、どの様にして繋げればいいかのスペースも、魔力をこの船全体に流している事に因って把握はしている。船の底に穴などを開けてしまうような事はしない。

 こうして出来上がったのはヨットクルーザーと言えばいいのか。マストを使ってしまったおかげでその帆が張れる長さがこれっぽっちも無くなってしまった。


「エンドウ、コレは不思議がられるぞ?あんまり人様に見せられねえな?」


「仕方が無いだろう。後で誤魔化すための柱だけでも後付けするか?」


 カジウルからは注意を、ラディからは事後の対策を。で、今はこの魔石をドッキングさせたこの船の実験が大事だ。

 魔石は船尾にある。操舵用のハンドルを握ってそこから魔力を通し、魔石へと流す。

 マーミと実験をした時の事をしっかりと頭の中に入れて微かな魔力から流している。いきなりドッカンターボで爆発しないようにだ。

 そして俺の手にはまるでエンジンが掛かったかのような、そんな手応えが伝わってくる。


「よしよし、良いぞ良いぞ~。・・・こういうのはブレーキってどうすれば?あぁ、魔力を海に直接流して船を押し留める様な抵抗を作り出せばいいのか。速度調整は流す魔力の量を変えていけば問題は、無さそうだな?」


 いきなり発進すればカジウルとラディが振り落とされてしまう可能性もある。

 なので俺は二人に心構えをして貰うのと、この船の操縦の仕方をざっと説明するように声を大きくして独り言のように喋る。


「エンドウ、どうする?そのマーミ達がいる浜はどっちだ?すぐに向かうか?」


 その声はラディだ。船の実験の方で夢中になってそちらの事を考えて無かった。


「あ、すまん。ちょっと待ってくれ。今探す。」


 俺はハンドルを片手で握りつつも首をぐるっと回して周囲を見渡す。魔力で視力を上げて。

 イメージを流すのは高性能の超高倍率まで上げられる双眼鏡だ。何処までも見渡せる、どんな遠くの細かいモノでも確認するこどができる。

 そんな強いイメージを頭に浮かべながら魔力を目へと集中させる。


「あ、あった。よし、そっちに舵を取って飛ばすから二人ともどっか掴まって。じゃあ、行くぜ!」


 俺はハンドルを回して右旋回する。慎重に魔石へと魔力を流しつつ。

 ここで一気に魔力を流してはこの場でどうなってしまうか分かったモノでは無い。

 魔石の実験をした時の事を思い出すと笑えない結末になりかねない。せっかく買った船が転覆してしまうかもしれないのだ。


「コレは流す魔力量を調整するんじゃ無くて、そうだな。ギアが普通に間に無いと操りにくいな。」


 今更考えるべき事では無かった。改良点を見つけられたと言うのは喜ばしい事だが、最初から思いついておけ、と言った感じだ。

 しかも魔力を貯蔵できる魔石を繋げてそこからスクリューへと流す機構も欲しい所だ。

 これでは魔力が全員欠乏したら船を動かせなくなる。そういった心配が無いとも言い切れない。

 何が起きるか分からないのだ。この船に俺が居れば安心かもしれないが、乗っていない状態の時も想定するべきだっただろう。


「皆が使いやすく改造を重ねるべきだな。」


 俺はそう言って魔石へ流す魔力を少しづ大きくしていく。すると段々と船は速度を上げていく。

 先程の帆で風魔法を受けて進んでいた速度など比べ物にならない位の速度を。


「うおおおおお!?待て待て待てエンドウオオオオ?」


「カジウル!無用に喋るな!舌噛むぞ!」


 カジウルは初めての事に驚愕し、ラディはソレに落ち着けと声を荒げる。


 こうしてアッと言う間にマーミ、ミッツ、テルモの待つ、あの魔石の実験をした浜へと到着した。

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