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何処にだって存在したりするんだ

「今の聞いたかお前ら!この人数相手に一人で俺たちをコテンパンにしてくれるってよ?」


 あっはっは、と男たちの笑い声が響く。どうやら本当に心底俺を舐めているらしい。


「じゃあ行こうかギルドに。君たちを犯罪者として突き出すために。」


 この俺のセリフに笑っていた全員がピタリと笑いを止める。


「あ?今何て言った?俺たちは金を貸してくれとそう言っただけさ。別にあんたを脅して金を巻き上げようとした訳じゃ無い。な、そうだろ?耳が遠いのか?その若さで?つうか、お前まだガキだよな?子供がそんな大金持ってちゃ将来歪んだ大人になっちまうだろ。それなら俺たちみたいな大人がその金の使い方ってヤツを教えてやるからよ、なあ?」


 またしてもゲラゲラと笑いだす男たち。何がそんなにおかしいのか俺にはサッパリなのだが。


「ああ、そうか。じゃあ俺の返答は「貸さない」だ。あんたらもうコレで俺に用は無いだろ?目の前から消えてくれないか?」


 俺はこのどうにも茶番な空気をキッパリと「断る」と口に出して切って捨てる。

 コレに額に青筋を浮かべて代表として喋っていた男が怒り出した。


「あぁ?!大人の言う事を聞けねえってのか!?ならここは教育してやらねえとよぉ!大人として義務だよな?義務。ただし、いてぇぞぉ~?痛みで後で「ごめんなさい」してもそんときゃ遅いぜ?」


 コレを合図にしたのか男たちは剣を抜く。コレに俺は「おいおい」と思う。

 痛い目見させるにしても刃物なんて持ち出したら下手すれば死ぬだろうに、と。


「道理の通らない事を言われて「はいそうですか」と従えないのは当たり前だろ?何言ってんだあんたら。教育とか言ってるけど、あんたらからそんな授業を受ける義務なんて俺にあるはず無いだろ。あんたらが大人だって言って「教える」なんて義務だ何だと言うけれど、これ位の事が分からない頭の癖に偉そうに言ってて馬鹿に見えるんだが?」


 コレに何処からか「プチ」と言う音が聞こえたような気がした。

 けど、誰も動かない。動かないのは既に俺が魔力を地面に流してこいつら全員をもう拘束していたからだ。

 何だかこの対応も馬鹿の一つ覚えみたいになっちゃって来たな、とも思うのだが、便利なのでしょうがない。使い勝手が良いのでついこの手で相手を動けなくさせてしまう。


「じゃあ、そこのあんた。そう、あんただ。誰に俺が「お金持ち」なんて教えて貰ったのか白状してくれないか?」


 俺はこの男の中から一番見た目弱そうな奴の拘束を口だけ解いてそう問いかけた。

 もちろん他の残りの奴らの口は塞いでいる。呼吸は鼻で出来るようにしてはあるので窒息死はしない様に気を付けている。

 ここで全員殺すつもりなら鼻も塞いでこのまま拘束したままに、ここから去るだけでいい。そんな手段もある。

 けど今の所はソレはしないである。きっとこいつら全員が今、心の中で「何で動けないんだ!」と言う疑問を抱えている事だろう。

 このままにして時間が過ぎれば過ぎる程にじわじわと恐怖を感じ始めるだろう。


 質問をした男は先程から黙ったままだ。確かに喋れるようにしたはずなのだが。

 でもこれ、ただ単に男が質問に答える意思が無く、ただ口を開かないだけだった。


「はぁ~、さてさて。どうしたもんかな?昨日拷問をして一人やっちゃったばっかりだし。今日はそんな気分じゃないんだがなぁ。」


 このままこいつらを放置する気にもならない。金持ち、などと情報を漏らした奴をとっちめてやらない事には。


「一番犯人としての容疑者として上がるのはギルドの・・・手続きをした職員だよなぁ。」


 確かそう言ったモノを漏らすと厳しい罰則があると言っていたはずだ。

 しかし、その規則の穴を突いて犯罪をする者はいない、とは言えない。

 何処にだってそう言った不正を犯す者が出る可能性はある。


「さて、じゃあ団体さんでギルドに顔を出しましょうか。まずは。」


 こうしてこいつらの身体を操って、一緒に俺は冒険者ギルドへと向かった。


「ごめんくださーい!少々よろしいですかぁ?」


 俺はそう大声で言いながらギルドの中へと入る。他の冒険者はどうやら都合よく出払っていたようで受付嬢しかいなかった。


「はい、どの様なごよう・・・け、件で?」


 ゾロゾロと不自然な歩き方で入ってきた団体九名を見て、受付嬢は何事かと驚いて目を見開き頬を引き攣らせている。

 この反応をしっかりと俺は「読み取る」。どうやら受付嬢は「白」でいいらしい。

 俺はお金の分配をした部屋に盗聴の類のモノが無かったのは確認していた。なので後は可能性と言えば。


「彼らに言い寄られたんですよ。「金を貸してくれ」って。どうやら私の事を「お金持ち」だなんて誰かに吹き込まれたみたいでして。私はそんなお金は無い、って言ったのにもかかわらず最終的に剣まで抜かれて問答無用で脅されてしまいまして。こうして彼らを連行してきました。この場合の彼らの罪はどんなモノが上げられますか?ちなみに彼ら全員が剣を抜いて来たのですけど、私の事殺す気だったんですかねぇ?」


 俺は受付のカウンターの奥まで聞こえる様な大声でそう「報告」をする。コレに「へ?」と言った間の抜けた声で俺へと視線を向けてくる受付嬢。

 この九人の拘束はまだ解いていない。なので剣をその手に持ったまま直立不動でギルド内で綺麗に横一直線に並んでいる。俺はその前に堂々と出て話をしたのだ。

 この異様な光景に受付嬢が自分の手に余ると思ったらしく「ギルド長をお呼びしてきます!」と叫んでおくの通路に慌てて走って行った。

 抜き身の剣をその手に並んでいる男たちの迫力があるやら、マヌケやら、場違いな空気感。

 ギルド内の壁に「抜刀禁止!」と言った張り紙があるのだが、こいつらは俺の魔力で拘束されているので動けないままである。


(ここで「ハズレ」だったら魔石を買った時のあの爺さんか、あるいは船を買ったからあの時の職員か)


 そのどちらも違うと思えた。それはその二つは「商売」であるからだ。

 魔石の方の爺さんには「覚えておく」と言われたが、それは多分今までに居なかった珍しい客としてだと思える。決してこの様な安いチンピラを使って俺から金を脅し取るような犯罪とは繋げにくい。


 船の方もあの時の職員の「売れた!」と言った喜んだ雰囲気だったのを思い出す。

 商売をする者としてそう言った感情を出す人がこんなツマラナイ真似はしたりしないだろう。

 売れた喜びを持つ者が人を襲ってお金を得ようとするなどとは考えづらい。


 まあこの二つは俺の勝手な見方、想像なだけではあるのだが。


 そんな風に考えていると、やっとここのギルド長らしい男が俺の前へとやって来た。

 らしいと言ったのは只黙って俺を見ているからだ。自己紹介も無しに俺の事をジッと見つめてくる。

 体格は俺などよりも断然良く、身長は10cm高い。黒く焼けた肌はこのサンサンの男たちに良く見られるモノだが、右頬に大きな傷がある。

 髪は短く切りそろえられ、その目から放たれる威圧感はかなりのモノだ。

 そんな人物がジッと何も言わずに無言で見つめてくるのだ。普通の一般人なら怖気づいて足をガクブルものである。

 でもそんな圧力など俺にとっては何処吹く風なのだが、そんな時間が15秒と言った長い時間続く。

 するとその大男はスッと頭を下げて謝罪の言葉を発した。


「すまない。君はうちのギルドでカードでの分配振り込みの手続きをしたのだったね?話は聞こえていた。この九名は冒険者に登録をしている。規則に則り処分しよう。それと・・・残りは部屋に来て貰って話をしたい。いいだろうか?」


「先ずは貴方が誰なのかを教えて貰えませんか?」


 俺のこの言葉でいつの間にかギルドに入ってきていた冒険者数名が顔を青褪めさせる。

 職員も同様に。何がそこまで恐ろしいのかと思ったのだが、俺は済ました顔で大男を見やる。


「重ねて失礼をした。私はここのギルド長を務めているモンテルと言う者だ。以後見知りおいてくれ。」


 そう言って俺に付いてくる様にジェスチャーをして奥の廊下へと向かう。その後を俺は追う。

 魔力で固め動けなくしている奴らはそのまま放置するかどうか迷ったが解放する事になる。

 それはすぐにこいつらを「捕縛」する為の職員が来たからだ。それもこの九名なんか目じゃない程に屈強な戦士と見られる男が十名。

 その手に縛り上げるロープを手にしている所をチラっと横目で確認してから解除する。


 廊下を歩いて奥の部屋へと到着するまでにドッカンバッタンと争う音がしたがすぐにソレは止んだ。

 どうやらあの十名は相当お強いらしい。抵抗の声も上げさせずに即座に奴らを縛り上げたようだ。


 そして案内された部屋に入ればそこはギルド長の執務室だった。部屋の構造やレイアウトは何処のギルドも似たり寄ったりと言った感じみたいだ。部屋の調度品などは各ギルド長の趣味と言った所か。


「座って楽にしていてくれ。今お茶を持ってこさせよう。」


 俺とギルド長は対面になる様に座る。間を隔てるのはこれまた趣味の良いテーブルだ。

 かなり良い木を使っていそうな、良く表面が磨かれた木目の美しさを感じさせるテーブル。

 そこに秘書だろう女性がお茶を持ってくる。それを俺は先ず一口飲んだ。飲んで驚く。


「昆布茶・・・すか。うわ、マジか。こんなのが出てくるとは思ってもみなかった。」


 心の底から本気で驚いた俺にどうやらギルド長は満足した様子だ。


「良ければおかわりしてくれ。で、本題だ。先程直ぐに緊急で君のカードの手続き履歴を確認した。もちろんコレは私の権限で。事後承諾の様な形になってしまったが、許して欲しい。」


「手続きは正式なんですよね?そうであれば構わないです。で、そうなると犯人、特定できたんですよね?」


 俺はこのギルド長の行いと許可の求めに頷く。そしてここまでして俺をこの部屋に連れて来たと言う事は犯人がもう誰か分かったと言う事だ。


「君の手続きを担当した職員と見て間違いないだろう。その者は手続き後の情報を冒険者の許可無く勝手に閲覧し・・・」


 もうその後は分かる。あの頭の悪い九名へとソレを漏らした。そして俺を脅させて金を奪い取ろうとしたと。


「その者は今既に拘束するための人員を向かわせている。彼の者の罪をしっかりと公表し、適正な処分をする。コレで許しては貰えるかね?」


「まあ俺としては犯人が誰か分かればソレで良いです。処分もそちらでキッチリやってくれるなら俺から何も口出しはしないですよ。再発防止策をあとは入れてくれればそれで。」


「こちらとしては違反した場合の厳しい処分が「防止措置」になっていると油断していた。まことにこの度は申し訳ない。過去にも同じような「事件」が起きていなかったかどうかを捜査するつもりだ。その際に見つけたモノが同じ者たちの犯行だった場合は罪を加算する。今後は再発させない事を誓おう。」


「まあここでギルド長が誓っても、やる奴はやるんですよね。そこはまあ今はいいか。分かりました。俺はコレで引き揚げます。」


 俺の最後のこの言葉にかなり苦い顔になるギルド長は立ち上がり頭を最後にもう一度下げた。

 コレに振り返る事無く俺は部屋を出る。


(何だってこんなに冒険者ギルドって問題がポロリと出てくるもんなのかね?)


 この分だと過去のデータを調べればもっと余罪がモリモリ出てきそうである。

 でもこれ以上は俺の出しゃばる問題では無いので素直に引き下がるが。

 俺が問題にしていたのは誰が犯人かだ。それがこうして俺の予想通りになったのでもう何も言う事は無い。

 この後は何をしようと思っていたのだったか?と斜め上に視線を投げながら俺はギルドを出た。


「サンサンに行って様子をもう一度見てくるつもりだったんだっけ。あー、どうしようか。」


 一日二日でそう大きな変わりは無いだろうと思ったのだが、こうした確認を怠って後々に不味い事になるのは御免だ。

 この冒険者による恫喝のせいで少々ヤル気が落ちていたが、ここで他の事をやろうと思っても同じ様に気乗りしないままであると判断して俺は人の居ない場所へと足を運んで先ずは森の家へと向かった。


 どうしてそこに向かったのかと言えば、それは風呂に入るためだ。

 真昼間に入る風呂は夜に入る風呂と比べると爽快感が違う。なのでここで一度サッパリとリセットするつもりでここに来た。

 すぐさま俺は風呂を用意する。簡単だ。俺の魔力の量はお湯など簡単にドバドバ出せるのだからして。


「俺、このまま風呂屋でも儲けられるんじゃなかろうか?・・・面白くない商売だな。ぼろ儲けだろうけど。」


 元手が掛からない。それは客が来れば来るほど丸儲け。しかしこれほどツマラナイ商売は無いだろう。

 金はいくらでも手に入るだろうが、そんな手応えの感じられなさそうなモノをやる気にはならない。


「あぁ、どこででも風呂が入れるようにしたいなぁ。・・・そう言えば家を一軒、インベントリに入れっぱなしだったか?」


 なので今度その家を出して大浴場でも取り付けようかな?と湯船にざぶりと浸かりながら親父クサイ「うはぁ~」と言う声を上げる。


 こうしてどうやら溜っていたストレスを俺は大分長湯をして抜いてから、マルマルへとワープゲートで移動した。

 そしてこちらに来てから思い出すが、別にそこまで緊急の事案が無い。


 つむじ風を今も血眼になって探している使者とやらは放置していても問題無いだろうし、テルモを連行しようとしていた何とか伯爵?は署長のゴクロムに任せてある。

 後は師匠の所で魔法薬の生産は安定し始めているし、クスイの商売も別に問題は出ていないはず。

 魔物の素材はもう先日に売っているので、サンネルが今頃は嬉しい悲鳴を上げて一生懸命にあちこちに駆けずり回っている事だろう。大きな問題は無さそうだ。

 しかしテルモの店の方の営業はどうだろうか?今日は営業を見送っているハズ。

 問題がもう少しだけ落ち着くまではと判断してテルモはまだサンサンだ。まあクスイの事だから多分抜かりはないだろうが。


 そうしたら後はクスイに金を振り込めばいいだろう。俺のカードの中の金は少々の金は残してそれ以外を全部クスイの商売計画への投資金でいれて今日は終わりだ。


「クスイは居るかい?金の振り込み手続きをしたいんだが、読み取り機はあるか?」


 俺はそう言いながらクスイの家に入る。勝手知ったる他人の家。コレにクスイもミルも何も言わない。

 ソレはおそらくだが俺がクスイの命の恩人だからなのだろう。それにこうして商売のパトロンみたいな事もしているので文句を言い難いのかも知れないというのもあるが。


「おや、エンドウ様。・・・まだ、投資をするので?充分に資金はまだまだ残っておりますよ?それでもあって困らないモノではありますが。それと、やはり現金をそのまま持ってこられるとこちらも管理に神経を使いますので先日購入しましたよ。」


 どうやら振り込みの機械をクスイは購入していたようだ。それはどうやら「登録」なる手続きが必要らしかったのではあるが。使用するのに年会費も掛かるので便利な道具ではあって「前」のクスイの商売規模では導入していなかったらしい。

 とは言え、今はもう違う。それらはもう過去だ。今は魔法薬の事もあるし、香草焼き店の事もある。

 利便性を考えてクスイはそれを購入したのだ。テーブルには読み取り機がドドンと置かれる。


「この金は前も言ったけどクスイの采配で自由に使ってくれ。んじゃ、コレ、こっちに刺せばいいのか?」


 俺はクスイの説明に従って冒険者カードを機械に刺し込む。すると俺のカードの挿し込んだ反対側にクスイも自分の懐から出した黒いカードを挿し入れた。

 そして何やら黒い箱の上にいくつかの文字が現れたのだが、クスイはソレを手早く指でタッチして操作すると両方のカードが光った。


「コレで完了です。それにしても、まあ、エンドウ様はまたこの様な大金を・・・」


 と言われたが、どれくらいになっているのかを自分で確認していないので分からないのだ。

 そもそもこちらの世界の物の価値、希少性などを全く分かっていない俺が金額を確認した所でしっくりとこないのだ。

 ならばこの先もそう言った「金」と言う世知辛い事は頭に入れないで自由な冒険者ライフと言うのを満喫したいと思っている。

 それでも金銭の事はしっかりと自覚をもたなくちゃいけないとも思うのだが、それでも必要最低限で良いだろうと考える。

 この考え方はこちらの世界に来てすぐに「弱肉強食」な森を知り、そんな中での自給自足なあの森で短期間ながらも生活したからだと言えると思っている。

 食料が欲しければ獲ればいい。それができる力が俺には有る。

 衣服は俺の着たきり雀なスーツで一張羅のままでいいだろうし、住むための家は自力で作り出せてしまう。


 お金に頼らずとも、社会に身を置かずとも、生きて行けてしまう。

 社会と言うコミュニティで生きていくために必須になる金を必要としない。

 だから余計にお金に執着しないし、稼いでもソレを簡単にクスイに渡せる。


「クスイなら詰まらない自分の欲望のために無駄遣いも、チョロまかす事もしないだろ?信頼してる証だよ。」


 などと俺は適当な言葉を無責任に言ってクスイへの返事にした。

 コレにクスイに大きな溜息をされてしまう。何が気に入らなかったのかと思ったのだが、そうでは無いらしい。


「商いをしている者から見たら「金」に執着しない人物は余程の大物か、あるいは俗世を気にしない世捨て人ですよ。あるいは自分の目的を達成させるのに金を惜しまないという恐ろしい人です。しかしエンドウ様は目的のために金を惜しまない、けれど、そこに一種の恐ろしさが無い。全く無い。私はそれに少々、いえ、逆に大いに恐ろしさを感じてしまうのです。その恐怖が疑心にいつか変ってしまうのではと思ってしまったのです。そのような方では無いとこうしてお付き合いを短いながらもし、お人柄は分かっているはずなのですけれど。だから溜息が出てしまいました。失礼を。」


 こうして心の奥に湧いた不安をちゃんと話してくれるクスイは俺を信頼してくれているんだろう。


「いやいや、俺はそんな深い事まで考えてないから安心してくれ。クスイの事業を焦がしたくないんだよ。俺から誘ってこうして俺の思い付きを商売してくれてるんだ。その責任は俺が取るべきなんだよ。だから金の問題だけは心配させたくないってのがあるんだ。」


「心配しますよ、これだけの大金なんですから。本当に、エンドウ様はどうにも計り知れない方ですな、全く。いや、全く。」


 クスイに苦笑いをされた。どうやらちょっとはその恐怖とやらを取り除く事ができたようだ。

 俺は金の話はここまでにして街の様子などはどうなっているか、テルモの店の方の件はどうなっているかを聞いてみた。


「街の様子は相変わらずですな。使者の方は未だに走り回っておりますが。店の方の評判は残念がる者たちがいるようですが、それはメルティン伯爵の方が落ち着いたら再開すれば不満の声は落ち着くかと。」


 俺は状況を聞いて安心した。とりあえずは問題無い事に。で、次は相談事を聞いて貰おうと今のサンサンで何をしているのかを話した。卵の話だ。

 コレにクスイは頭を抑えた。突然頭痛でもしたのだろうかと心配の目を向ける俺にクスイが一言。


「何を為さろうとしているんですかエンドウ様は・・・」


 と呆れた言葉をぶつけられた。それは解せなかったが、そっちに資金を回せばいいだろうと言われてしまう。


「私の方は資金繰りに関して不安も問題も今の所出ておりませんからな。無理してこうして莫大な予備資金を抱えずとも良かったのです。先にそちらの話をして頂けていれば受け取ったりはしなかったでしょう。今からでも元に戻しますか?」


 これを俺は「いやいや」と言って否定する。どちらにしろもう既に船は買った。

 後は調査をし始めてどうなるかだ。別にお金はもう一番高い買い物になるだろう船も買ったしそこまで大金は必要無いと思った事を説明する。


「でさ、クスイ。この事業が上手く生きそうな計画が立てられたらマンスリって言うんだっけ?その商会に任せようって感じに考えてるんだけど、大丈夫かね?」


 商人の事を聞くなら商人に。ここでサンサン一の商会の話を振ってみた。この質問にクスイから回答が来る。


「おそらくは、大丈夫でしょう。利がしっかりと出ると分かれば二つ返事で食いついてくると思いますね。ダンガイドリの卵は滅多に食べられませんから。貴族王侯の口にも容易に入りませんよ。それらはすぐに食べられてしまいますからね、地元で。あそこの土地の者たちは基本「美味いもの」は余所に出したがらない。そんな所にダンガイドリは生息していますからね。この事業は為せれば莫大、それも・・・はぁ~、今のこの魔法薬など目じゃ無い位の金額、それこそ国家予算規模に膨れ上がりますよ?お気を付けください。」


 クスイはそう言い終わった後に「国家予算規模は言い過ぎましたね」と訂正する。まあソレに近い位に売れると言いたかったらしい。

 そしてそうなれば妨害や、裏から利権を狙う者、おこぼれを与ろうとする者たちが近づいて来るとも。

 でも俺はそれら全部面倒な事はマンスリってのに押し付けてかかわらない様にすると言っておいた。

 それでは俺の受け取る正当な配当金が最少額にされてしまうとクスイに指摘されたが。


「それで良いんだよ。別に俺はこれを自分の金儲けのためにしようと考えた訳じゃ無いしな。卵食べてみたいって思い付きで、そしたらじゃあ市勢にその卵が多く流通すれば楽々簡単に気兼ねなく食べれるじゃん、と思ってだからなぁ。だから、良いんだよ。」


 そうニコッと笑って見せたらまたクスイに呆れられた。そして。


「ははは、それでこそエンドウ様でしたな。そうでした、そうでした。」


 今度は納得した、と言った感じでクスイは大いに笑う。

 何がそうでした、なのか俺にはさっぱりだったが、クスイがどうやらこの件にこれ以上文句は無いらしいので俺は工場へと様子を見に行ってくるとクスイの家を出た。


「さて、師匠にはどんな話を振ればいいか?魔石の俺の見解を聞いて貰うとしようかな?」


 そうして俺は歩いて魔力薬製造している屋敷へと向かった。一度行った場所はワープゲートを使えば一瞬だ。しかし俺はソレをしなかった。

 ソレは俺の目撃情報とやらをばら撒いて使者様により一層混乱してもらうためだ。

 魔力薬を作っている屋敷はサンネルの倉庫とは全く違う方向である。なので俺の事を見かけた、と言った情報がこちらの区域でも流れればそれを耳に入れた使者様は面白い位に踊ってくれるのではないだろうか?と言った狙いだ。

 こんな風に余計な事をしてしまうと道でバッタリ、などと言った感じでその使者様に見つかってしまう可能性も無くはないが。

 それでも俺一人なら逃げるのに別に難しい事は無い。それこそ姿を眩ますのなんて一瞬だ。俺にはワープゲートがあるのだから。

 こうして別段急ぐでも無く道を行けば以前にここに来た時の警備員が目に入る。もう目的地に着いてしまった。

 ボンヤリと歩いて意識はしていなかったのだが、その速度は速かったようだ。


「ちわーっす。中に入っても?あ、ここで待ってなきゃ駄目?」


「・・・お前さんの顔は覚えてるよ。入ってもいい、と言いたい所だがな。この間こちらに国の使者だと言う者が現れてお前さんを探しているって言ってたぞ?何をやったんだ?あぁ、いや、すまねえ。別に犯罪を犯した訳じゃねーんだろ?捕縛しようなんて思ってねーよ。そんな目で見ないでくれ。」


 俺はこの警備員をちょっとだけ睨む。それは別に怒っていたからでは無い。

 既にこちらにも使者様がお顔を見せに来ていたという事に表情を顰めたのだ。どうやらフットワークは軽いらしい。

 でも今はこちらを見回らずにサンネルの倉庫付近を捜索しているのではないだろうか?

 つい先日の事である。あっちに顔を見せたのは。これほどにフットワークの軽い捜索範囲を広げているならばソレだけ情報も集めて早急に動いていると判断してみる。

 そう考えればこちらにはもう暫く足を運ばないのでは無だろうか?有益な情報はこちらの屋敷周辺では集められていないだろうからその事も加味して。

 もう一度同じ場所を再び探すというのは結構な決断を要するはずだ。

 なのでそこまでの事をする価値を見出せなければこちらの方をまた捜索にも、もう一度人を出すのに時間が掛るだろう。


 考えていると屋敷に行かせた連絡員が戻って来る。


「入っても大丈夫です。案内は要りますか?」


 どうやら許可を貰ってきたようだ。俺はコレに案内不要と言っておく。

 そして警備員二人に金を握らせた。コレはもちろん現金を普段から持っていないと不便な事もあると思って持ち歩いている金だ。


「あー、俺の事は使者様には「なるべく」喋らないでください。教えてしまうとクスイにも迷惑が掛かるかもしれないので。」


 俺はこちらに歩いて到着した事にちょっとだけ後悔した。失敗したかな、と。

 その失敗のフォローに口止の金が必要になってしまったからだ。使者には俺の事を誤魔化せ、と。

 なのでここで金と共に「雇い主に迷惑が掛かるよ」と脅しておく。一応はなるべくなどと言って柔らかく言ってはおくが、そこに仕事を続けていたければ俺の話はするなと続けて追撃しておくのだから、コレは少々質が悪かったかもしれない。

 警備員二人には一応念のためにも高額を手に握らせた。それぞれに白金一枚ずつだ。

 この金額に結構ビビってちょっとだけ手を震わせる警備員は次にはギュッと白金貨を強く握りしめる。

 コレで約束は「成った」である。コレに俺はにっこりと笑顔をちょっとだけ見せて屋敷、製造工場の敷地内へと入った。

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