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手間と労力を掛ける

 まだ男たちは店から遠い。距離があって良かった。こんな馬鹿どもにクスイの店の前まで来てほしくない。

 俺は地面を通して魔力を奴らに流してその身体の自由を奪っておいた。


「な!?ど、どう言う事だ!う、動かねえぞ!」

「・・・!・・・!・・・!?・・・!」

「ふー!ふぐッ!?ふぬぬー!」


 口を開く事ができるようにしたのは一人だけ。二人にはその汚い言葉を吐く口を閉ざさせておく。

 そのまま俺はそいつらを魔力を通して操り、大通りから外れた狭い路地へと向かわせる。


「勝手に身体が動きやがる!クソッ!?どう言う事だ!何でこんな!気持ちわりいぞ!」


 勝手に自分の意思とは違う動きをする身体に戸惑いと恐怖を覚えているようだが、俺はそんな事は知らない。知る気は無い。

 発していた言葉でこいつらがどういった人間性なのかは充分に分かった。後はどう料理するかである。


 俺も路地へと入り、適当な広さの場所にそいつらを連行して尋問を開始した。


「さて、お前さんたちが伯爵の使いって言うのは分かった。で、やっちまおうって言うのはどういう意味で言った言葉なんだ?説明して貰おうか?」


「て、テメエは誰だ!コレはテメエがやってやがるのか?!今なら許してやる!どんな手を使っているのかは分からねえが、すぐにこれを解きやがれ!俺たちは伯爵の使いだぞ!ソレに手を出す様な真似して許されると思ってやがんのかオラァ!」


 これには呆れてモノが言えないと言っていいだろうか?こういった「自分の今置かれている立場」がなんにも分かっていない奴と言うのは疲れる。

 一々今どういった状況なのか、先ず分からせないと話が進まないからだ。それをしないといつまでたってもこういった「上から目線」も「俺は偉いんだぞ」って態度も長引いて話にならないのだから。

 で、冷静にさせるのには何が一番効果的か、と言ったらソレは時間だろう。

 俺が言葉で説明しようとしてもこういった輩は聞く耳を先ず持つのにも時間が掛かる。

 身体に分からせようにも、その労力と言うモノが必要になってそこもソレ、こちらの手間だ。

 痛い目を見させるのは趣味でも無いし、俺の気分も良くは無い。

 なのでここはずっと黙っておいた。もちろん目線は相手に合わせ「無い」。

 こういった時には不気味さを演出した方がかえって相手も冷静さを取り戻しやすい。気味悪がらせた方が「相手は一体何者?」とか「何を考えているのか?」やらに思考を持って行かせやすいものだ。

 そう言った事を何も考えないでひたすら喚き散らす奴もまあ居るだろうが、この一人だけ口を開く事ができるようにしておいた男はちゃんと考えてくれるタイプらしかった。


「て、テメエは何がしてえんだ?おい!聞いてんだよ!答えやがれやオラァ!」


 多分もう少しで静かになるだろう。声を荒げるのはおそらくは恐怖からだ。正体不明の目の前の人物が自分たちに何をしようとしているのかが分からないからこその。

 そして自分たちに何をされているのかが分からないからこそ、って言うのも付いているだろう。

 まだまだ静かに佇んでジッと地面を見つめる演出を続ける俺。それがよっぽど効いたのか今さっきまで「クソ」だの「オラ」だの叫んでいた男はぐったりとし始めた。

 どうやら喚くのも疲れて来たらしい。疲れも自分を冷静にさせる効果がある。適度に暴れる余力が残っているからこそ自分の持つ恐怖を誤魔化そうとして相手を威嚇しようとするのだから。


「質問、答えてくれ。俺の質問に答え続けなければこのままずっと拘束する。正直に話せよ?嘘を言ってもバレるから。」


 コレに男は口を閉ざして何も言ってこない。ジッと俺を睨むだけ。まだもう少し時間が掛りそうである。

 なので俺はこいつらを放っておいておくことにした。先にサンネルに魔物素材を買い取って貰いに行こうと。

 こいつらがうろついている可能性と被害が心配で動きにくかったのだ。今はこうしてこいつらを取っ捕まえて動きを制限しているので、こちらはそれで自由に動けるようになった。

 なので俺は黙ってその場を去る。もちろんこの路地を通るだろう人がいた場合にこいつらを見つけて騒ぎになるかもしれないので壁端に寄らせてその周りを魔法で作り出した壁で覆って見えないようにする。

 その際に声を出せていた男の口も塞ぐ。喚かれても面倒が起こるからだ。


「じゃあね。答える気が無いならそこでいつまでもそうしているといいよ。」


 こうして脅しを残して俺はその場を去った。で、その後はすぐにワープゲートでサンネルの倉庫の近くへ移動した。


「あ、またアポ取らないで突然、突撃とか。うーん?会社員時代に学んだ事はもう忘れたってか?でも今日に約束を取り付けて後日に来てもいいだろうし。そもそも買い取って貰いたいっていうのもそこまで急ぎじゃないんだよな、ちょっと冷静に考えたら。」


 全部今日中に片付けなくちゃいけない訳では無い。なるべくなら早めにチャッチャと終わらせたいだけだ。

 どうしてもと言う訳でも無いので気持ちを気楽にして倉庫事務所の方へと向かう。

 すると何故か今回もサンネルが居た。しかも仕事中で指示を出していたと言った感じでは無く、どうやら俺を待ち受けていたような、そんな佇まいで。


「どうも、ようこそおいでくださいました。ささ、どうぞ中へエンドウ様。」


「今日もよろしく頼みますね。今日は一気に多数の素材の買取をお願いしたいんですけども、資金の方は大丈夫ですか?」


 こうして事務所の中へ案内されている間に会話を交わす。


「はい、エンドウ様の卸していただける物は「質」も「量」も保証されていると言うのが前回で充分に理解しております。ですのでこの度はどんなモノでも受け止められるように金の調達は万全にしたつもりです。」


「なら少々ヤバいなと判断したらそこで止めてください。一つずつ魔物素材を出していくのでお金の方が足りなくなりそうになったら制限して頂く感じで。」


 一気に全部出してしまうと「買い取れません」といきなり言われてしまうかもしれない。なので小出しにしてサンネルの懐としっかり相談しつつ買取をして貰う事にした。

 コレにサンネルがごくりと唾を呑み込んだ。


「エンドウ様はそれ程の物をお持ちと言う事でございますね?私もこの商売を長くやっていますが、背中が寒くなったのは久方ぶりです。」


 部屋へと入りソファに座るとお茶と菓子が出される。俺はお茶で喉を潤してからサンネルを見る。

 サンネルは俺が言った言葉に少しだけ緊張してしまった様でソファに座る動きが少々固くなっていた。


「じゃあ一つ目、キメラですね。」


 俺は紙をインベントリから取り出す。コレは前に木に魔力を流して加工して作ってあった物の余りだ。

 ソレに魔力で俺がダンジョンで見た「キメラ」の映像をそっくりそのまま紙に写るようなイメージを通す。

 すると何も描かれていなかった紙にジワジワと画が浮かび上がる。

 コレにはサンネルも驚きを隠せなかったらしく「ブフッ!」と飲みかけていたお茶を吹き出しそうになっていた。


「・・・まず、どう言う仕掛けなのかは問いません。しかし、これ、どれ程の大きさですか?皮に傷は?毛並みは?眼球の確保などはされておいでですか?あぁ、尻尾もあればなお良いですね。」


 どうやらサンネルはこのキメラを討伐したと言った事に疑問は挟んでこなかった。

 しかしその戦いが「激闘」であっただろうと言う想像で話をしているみたいだ。コレに俺はしっかりと答える。


「一撃で首を落したので全身キレイなモノですよ。大きさはほら、そこの壁の広さ程度はいってますね軽く。」


 コレにまたしてもお茶を吹き出しそうになっているサンネル。頑張って我慢したらしくに床にこぼさずに済んだようだ。

 この後も俺は牛の魔人、それとダンジョンボスだったサイクロプスの説明をした。

 その都度吹きこぼしそうになるサンネル。で、とうとう降参した。


「申し訳ありませんが、本日はこれまでとさせていただきたい。遥かに私の想像を超えてしまっています。これ以上は悲鳴が出ます。お許しいただきたく。」


 どうやら前回のトレントを捌いた金額を余裕でぶっ飛ばすほどの買取額になってしまうらしい。

 それでも多少の無理をして三体の魔物の買取をしてくれているそうだ。


「どうなされますか?魔金貨でのお支払いでもかなりの枚数になってしまいますが。今回も振り込みをなさいますか?」


「えっと幾らだっけな?現金でいただきたい額のそれ以外は振り込みで。魔白金一枚、魔金二枚、をお願いして後はカード振り込みでも構いませんか?」


 ニコニコ現金払い。魔石を買うお金以外は俺の冒険者カードに振り込んでもらう形で良いだろう。

 俺のに入っている金額を後に皆のカードに分けなくてはいけないな、と思いつつサンネルを見る。

 するとサンネルはどうやら準備があると言って額に浮かんだ汗をハンカチで拭きながら部屋を出た。

 ドアが閉まると大きな声で部下に何やら指示を出し始める。その内容は聞き耳を立てていない今の俺には入ってこない。

 一分ほどしてからサンネルは部屋に戻って来る。そうして前回の時の様に倉庫に今回の分を出して欲しいと願われた。

 断る理由は無いのでスムーズに移動し、空になっている倉庫でそれらを取り出す。

 もちろんこの場にはサンネルと俺だけ。他の従業員は居ない。人払いをちゃんとしてくれていた。

 ソレは正解だ。俺も不特定多数にこのインベントリを知られたくない。それと、今回出した魔物の迫力に負けてサンネルが腰を抜かして尻餅をついてしまった。

 他に誰も居なくて良かっただろう。こんな姿を他の誰かに見られるのはサンネルの威厳と言うモノを損ねた可能性もあった。

 でも、普通に言ってサンネルが腰を抜かす程なのだから、他の人なら気絶していても可笑しく無かったかもしれない。笑えないと言うヤツだ。

 冒険者の様に恐怖に慣れている訳でも無いだろう。しかしこうして魔物の素材を扱う商人とは言え多少の事には慣れているハズ。

 そんなサンネルがこうして身体の力が入れられなくなる程の迫力である。一般人だったら即倒モノに違いない。


「ほ、本日はこのように珍しい商品をお売り、頂き、誠に、ありがとう、ゴザイマス。」


 ようやく立ち上がって緊張にカチカチになりつつも、商売人としても挨拶を事にしてくるサンネル。

 どうやらもう既に死んでいるとは言え、この三体の死んでも放ち続けている威圧に似た迫力にどうしても分かっているとは言え緊張してしまうらしい。


「ではお支払いの方の準備が整っていると思いますので戻りましょう。」


 俺はそう言われて倉庫を出る。するとそこに美人秘書が居て俺を案内してくれた。

 サンネルはどうやらもう少し従業員に直接の指示を出さねばならなかったらしく後で部屋へと行きますと言って方々を小走りに走り回り始めた。

 こうして部屋へと戻れば新たに淹れて貰ったお茶を飲みつつゆっくりと待つ。すると五分ほどでサンネルは戻って来た。

 そうして早速前回と同じ方法で金額を処理した後に俺へと渡される袋。そこには話しておいた金額が入れられていた。


「本日はありがとうございました・・・またのお越しをお待ちしております。」


 サンネルにそう言われて部屋を出る。出口まで秘書の方が見送りしてくれる。

 敷地外へと出る際には深く頭を下げられて「またのお越しを」と礼をされて送り出された。

 ソレにふと振り返れば従業員が慌ただしく動き回っている。どうやら今回の分の「大仕事」」で大忙しになっているようだ。


「残りはオーガ?後はハイオーク九体・・・とデカいモグラかな主に。ビッグブスはまだ残ってるけど、まあそれはちょくちょく自分たちで食べてもいいし、他の店に卸してもいいし?」


 そう呟きながら俺はまたクスイの店に戻る道を歩いた。

 途中で小路に入り人気の無い所でワープゲートを開いて拘束していたあの伯爵の使者の所に戻る。


「さてどうしたもんかね?おい、まだ気力は有るか?」


 そう言って俺は作り出した壁に向けて言葉を投げる。こいつらを隠すために魔法で作った壁はまだ健在だ。

 解除をせずにそのままにしておいてそう聞いてみる。もちろん口を閉ざさせるように魔力を流して奴らの身体は固めてあったので、ソレを解除しておいてある。

 最初に喚いていた一人だけでなく、三人とも口を開けるようにしておいた。


「ク、クソぅ・・・伯爵の野郎、こんなバケモンが居るって聞いてねえぞ・・・」

「俺、俺だけでも助けてくれ!金なら払うぜ?へっへっへっへ?なあ?旦那?良いだろ?見逃してくれよぉ。」

「俺たちは雇われてるだけで国家権力じゃねえんだ。私兵だよ只の伯爵の。見逃してくれ?なぁ?」


 心の奥でこいつらの事を「クズで良かった」と思う自分がいる。でもまだ早計だ。


「お前たちは伯爵に雇われる前は何をしていた?何で伯爵に仕えるようになった?」


「お、俺たちは山賊上がりだ。国の兵の討伐任務で伯爵が指揮を執る事になって、最後に残った俺たちは運よく逃げ出せた。しかし伯爵に直接見つかった。でもソレで見逃されたんだ。金を払うからお前らはこの私に仕えろってな。ひ、秘密裏に俺たちはこうして伯爵に見逃される代わりに雇われてる。金払いも良いし、自由もある。山賊してた頃よりもかなりマシになったんだ。」


 男の一人がそう言ったのを聞いて頭が痛くなった。屑を雇うのにもそれ相応の度量が要るだろう。ましてやこいつらを懲役まがいで使うならまだしも、金を払ってまで自分の都合よく動くコマとして飼うなんて頭がまともじゃない。

 いや、アリと言えばアリなのか。悪事を悪事と思わない者からすれば。そこに権力と言ったモノを付け加えてより一層厄介な事になっている。


「お前らは山賊をやっている時、何人殺してる?伯爵に飼われるようになって何人殺った?」


 俺は声を低くしてそう問いかける。どうやら自分でも知らない間に怒っているようだった。

 自覚をし始めると余計にイライラが募って来て仕方が無くなる。それを我慢して奴らの答えを待った。

 壁は解除していない。しかししっかりと俺の声は奴らに届いている。そして俺の不機嫌さも伝わっていた。


「お、俺は・・・俺は三人やった。伯爵に雇われてからは一人・・・」

「へ、へっへ?な、なあ?答えれば殺さないでくれるよな?な?な!」

「ち、違う!俺は仕方なく殺すしか無かったんだ!信じてくれ!伯爵に雇われてからは一人も殺しちゃいない!」


 こいつらは自分の命を守るためだけに必死だ。今ここで死んだらそこで終わり。ここを生き延びて伯爵に報告すればワンチャン報復までできると考えているのが丸見えだった。

 俺は彼らの心音、体温、脈、発汗、震えなどを魔力を通して把握していた。こいつらの胸の内がソレだけで分かってしまう。


「正直に答えた奴、お前は今は殺さない。でも、俺の質問に答えなかった二人。お前らは駄目だ。殺さないでくれるよな?ヘラヘラ笑っているお前、人を殺した事があるだろ?しかも楽しんでいたぶりながら、嬲り殺したな?・・・何でそんな事が分かるのかって?ソレはお前が知る必要は無いよ。その言葉だけでお前が俺の指摘した事が真実だと言っているんだから。」


 ヘラヘラと命乞いをしてきていた男へと魔力を流す。先ずは悲鳴を上げない様に口を塞ぐ。

 俺は壁を目の前にしているので中の男がどういった死に方をしているかは視界に入っていない。

 でも分かる。どんな死に方をしているのか。それは俺が魔力でその男を足のつま先からまるで歯磨きのチューブの残りを捻り出すかのように徐々に潰しているからだ。


「お前が殺してきた人達の痛みの十分の一くらいは苦しんで死ね。」


「ひ、ひいいいいいいい!」「うわあああああああ!」


 残り二人の恐怖の声がこだまする。でも俺はこの周囲一帯に防音の魔法をかけていた。

 なので幾ら騒いでもここに人は来る事は無いだろう。一応今魔力ソナーも広げて周囲の警戒は同時にしている。


 太腿まで魔力を流してそこでいったん止める。しかし今度は手の指先から再開だ。

 そして肩の近くまで潰してまた止める。一気に痛みを与えて気絶させない様に気を配りながら。

 多分壁の中は血臭が凄い事になっている事だろう。それも俺は風の向きを操って周りに拡がらない様にしている。

 しかし中の残りの二人はおそらくは鼻が馬鹿になりそうな程の臭いで一杯だろう。

 最初に響いた悲鳴はどうやら恐怖で口が固まり出せなくなっていたようだった。

 ここで俺は口を縫い付けて喋れなくしていた魔力を解く。すると。


「た、た、たたしゅけて!タシュけてくだしゃい!お願いしまシュ!おねがいしあしゅっから!うげぇ!うげぼぉ!おげがいじまじぇエエえ!」


「そう言ってお前がいたぶって来た人達に今まで助けた奴はいたか?一人でも。いないんだろう?ならお前が助けてくれなんて懇願するのは筋が通らないだろう?お前は助けたりしなかったんんだ。じゃあお前も助けられたりはしないんだよ。俺はお前のやり方でお前を殺す。納得の死に方だろ、悪人にして見りゃさ。あ、そうそう。一つ付け加えるよ。俺はお前と違って全く楽しくない。面白くないんだ。むしろ怒りが込み上げてくるよ。俺のそれが何でかなんてお前には分からないんだろ?」


 止まっていた魔法が再び動き出し、徐々に男を潰していく。再び俺が魔法で男の口を閉ざす。すると呻き声は上がるがくぐもっていて壁のこちら側にはそこまで響いて来ない。

 そしておそらくは胃の部分にまで扁平されて内臓破裂でもしたのだろう。その血が逆流して口から飛び散る「びしゃり」と言った音が響いたところで俺はこの男を覆わせていた魔力を解いた。その時に「ゴス」と思いモノが落ちる音がした。

 恐らくは潰さずに残った頭部が地面に落ちた音だと思われる。ここでやっと俺は冷静さをちょっとだけ取り戻した。


「ここまで怒りが込み上げてくるとは思わなかったな。俺はもっと大人しい性格だと自分では思ってたよ。まったく。」


 こうして若返っている事で正義感で血気盛んにでもなってしまったのか。これほどまでに外道をする悪人に容赦が無くなるとは自分で今まで思いもよらなかった。


「さて、嘘を言っても分かると言っておいたよな?一人も殺していない?しょうがなく殺した?山賊していてそりゃないぜ?お前は自分の為に人を殺している。悪事を働く前に自分で出来るだけ真っ当な仕事をし続けるべきだったな。その仕事がいくら底辺でもな。他人の命を取らなきゃ自分が生きていけない所まで追い詰められてたら、殺した事が許されるかって?そうじゃねーだろ?殺さないでも金は得られるじゃねーか。犯罪して、顔を見られて、通報されたらお尋ね者として街を歩けなくなる?だから殺すのか?そんな理屈で殺された者たちは堪ったもんじゃねーよ。悪い事をしたのはお前。殺人を犯さなければいけない所まで自分を追い詰めた社会が悪い?いいや、違うよ。全部お前が自分の意思で殺しをしたんだ。他人の命を奪ってまで自分だけがこの社会で生き残るのか?都合が良いな。ソレを法が許しはしないだろ?社会が、人が許しはしないだろ?ソレはお前が害悪になってしまったからだ。人の群れの中でそんな無法がまかり通れば社会は崩壊する。人々はそれを許す事はできないんだよ。必死に社会の中に生きようとしても、お前はやり方を間違えて害悪になってしまったんだ。排除されて当然だ。しかも後戻りできないんだよ、今のお前さんはな。やってしまった事は戻りはしない。特に人の命はな。」


 一人語ってしまった偉そうに。俺は法の番人でも警察機構の人間でもないのに。自ら医療に携わって命の論理観を熟考して導き出した答えでもないのに。


「お前には選ばせる。自ら出頭して俺に語った事実を自白して罪の基に断罪されて死を受け入れるか。あるいは俺にここで自らの死に方を選ぶこともできずに死ぬか。どっちだ?」


 デス・オア・ダイである。別にふざけている訳では無い。山賊で、そして人を殺しているのなら捕縛されても後に裁判でもすれば死刑となるだろう事が予想されているからだ。

 良くて懲役と言えども、恐らくはこんな世界だ。奴隷と言う立場で一生過酷な生を受けさせられて死ぬまで酷使されると予想する。


「シュ、出頭する!だ、だから!だから!あ、あ、あんな死に方は嫌だ!い、嫌だ!お願いだ!や、やめてくれ!」


 どうやら出頭する事を決意したようだ。先程の男の死に方はかなりのショックで与えたようである。

 コレで伯爵と言う権力に綻びが出来る事で良しとしよう。こいつが語った事実が明るみに出れば伯爵とやらの立場もぐらついて転落しやすくなると言うモノだ。そうなればテルモに構っている暇など無くなるだろう。

 この自首をした男が伯爵の名のもとに釈放されたり、あるいは口を塞がれない様に見張っておかねばならなくなりはしたが。


「お、俺は。俺はどうなる!?しょ!正直に言ったんだ!見、見逃して・・・命だけは勘弁してくれるんだろうな!?」


「・・・誰が見逃すって言った?俺は正直に話せと言ったんだ。なんだ?お前も俺の手に掛かって死にたいのか?なら早くそう言えばいいのに。」


「や!やめてくれ!お、俺も自首する!だ、だから、ああ、あんな殺され方は御免だぁ!」


「あぁ、大丈夫だよ。お前さんもこいつに付き合って一緒に自首してもらう。逃げ出そうとするなよ?そんな事しても直ぐに捕まえるからな。」


 こうして二人を解放するために壁を半分まで解体する。そこから顔面蒼白になった残りの男二人が這い出てきた。

 この時に俺は流していた魔力を男たちから引いていた。なので壁が半分まで無くなった所で必死に男たちが出てきたのは俺が身体操作をしての事では無い。こいつらが早く壁から解放されたくて必死になって動いたのだ。

 で、安堵と恐怖がない交ぜになって顔が鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった男二人を連れて俺はゴクロムの所に行く事にした。


 で、警察署?に到着したのだが、どうやらゴクロムは少々お出かけしているようだった。

 なので署で待たせてもらう事に。俺の隣には二人のガクブルと震える男二人。

 この異様さに実に周囲からの視線が「興味深々」で注がれる。

 しかも「あんな死に方は嫌だぁ・・・」「し、死ぬんだったらもっとマシな死に方で・・・」と小声で言うモノだから、二人の側を通った者たちはぎょっと驚いて速足になって通り過ぎていく。

 そこへ豪快な笑いと共に俺へと声が掛けられた。戻って来たゴクロムだ。


「おう!お前さん久しぶりだな。がっはっはっは。で、用があるって?で、そいつら、の事か?」


「あ、お久しぶりですね。そうです。こいつらの事で。とそこに追加で伯爵のやった不正を告発しに来ましたよ。」


 俺のこの言葉にゴクロムが嫌そうな顔をする。


「部屋に来い。そいつらも一緒にだ。俺が話を聞く。おう、今から俺が良いって指示を出すまで誰も入って来るなよ。」


 そう言って指をクイッとまげて「ついて来い」と言うジェスチャーをしてゴクロムが署の奥へ歩き出す。

 こうして取調室と言えばいいだろうか、四人も入ればちょっと狭い部屋へと入る。


「ここは盗聴されねえ様にした小部屋だ。特別製でな。で、伯爵の、って事だよな?説明してくれ。」


 俺はこのゴクロムの言葉が本当なのかどうかを調べるために魔力を周囲へと流して確認する。

 するとこの部屋の壁は非常に厚く作られて音が外に漏れださないような造りになっている事が分かった。

 天井も床もだ。かなり頑強にできている箱のようである。入り口のドアもぶ厚くて閉じれば中の音は一切漏らさない。

 こうしてこの狭い密室で伯爵の部下二人は俺へとした話をゴクロムへと話し始めた。


 話が終わればゴクロムがイライラした態度を隠さずに不機嫌そうに伯爵への文句を吐き出す。


「あのクソ伯爵、道理で情報と違う数だと思った。あんときの申請はこいつらを誤魔化してやがったのか。かーっ!舐められたもんだぜ。落とし前はどうつけてやろうか・・・」


 怒りを露わにするゴクロムにこの狭い部屋である。暑苦しくてしょうがない。

 男四人入れば狭い部屋である。それに追加で大男の怒りが部屋の気温を上げている。正直外に出てからにしてくれと言いたい。

 このゴクロムの怒りに震えあがっている男二人はもう涙目でガクブル震える位しかできない。

 これにはちょっと可哀想だと思う所もあるが、この後のこいつらの処分はゴクロムに任せるつもりだ。


「こいつら任せちゃっていいか?そんじゃ、後は宜しく。」


「おい、お前さんこの後はどうする気だ?つーか、何でお前がこいつらを連れて来たんだ?経緯を教えろよ!」


「え?そんなの必要無いでしょうよ。こうして伯爵の不正を握ったんだから。こいつらから他の情報を絞るだけ絞って、後はゴクロム署長のご判断に任せますよ。」


 俺はそう言ってこの狭苦しい部屋を出た。

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