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あれやこれやと忙しい

「まあお前がする事と言えば毎回驚かされる事ばかりって言うのは分かってはいたはずなんだがなぁ。」

「ねえ、もうちょっとさ、こう、何て言うのかしら?事前に教えておいてくれてもいいじゃない?」

「素晴らし過ぎますエンドウ様!この魔法はこの世界を根底から覆すでしょう!」


 ミッツだけどうやら感動でぶっ飛んでいる様子だ。それを俺はなるべく無視して答える。


「え、教えて無かったっけ?あー、もしかしてラディだけにしか使って無かった?」


 これからは気を付けると付け加えてから俺は本題に入った。その時にカジウルとマーミはジト目で俺を睨んでいたがこれも無視しておいた。


「で、売却の事なんだけど。」


 今、宿泊している宿の俺の部屋で会議中だ。

 説明は至ってシンプル。インベントリの中の魔物を全て売り飛ばしたい、と言った簡潔なものだ。

 コレに四人の答えとは。


「良いんじゃないか?あ、でも、市場が荒れないか?」

「絶対に問題にされるわよね?まあ値崩れ起こさないようなモノなら全部売っぱらっても良いんじゃない?」

「エンドウ、そう言えばどこの店に行くんだ?売るなら店の選別はした方が良いんじゃないか?」

「売却額は全てエンドウ様が受け取るべきでしょうが、でもそうしないんですよね?私たちが受け取ってもいいのでしょうか本当に?」


 それぞれ言いたい事は俺の予想していた通りの事である。


「ビッグブスは数を抑えて出すけど「一品もの」は全て出しちゃいたい。どうせならインベントリ内を整理したいんだよね。ほったらかしにしておいて後で片付けが滅茶苦茶大変とか、忘れ去ってる代物とかが残ったりしない様に。問題はまあ、起こるっちゃ起こるだろうけど、それはサンネルに全部任せちゃってるって感じかな。誰にも出所は話すなって約束もしてるし大丈夫だと思いたい。売却額は皆で割るから大丈夫。」


 最後の大丈夫は何に対してか、とツッコミは無しだ。俺はこれらの素材をこの「つむじ風」の一員になったからこそ得られたと思っている。

 なのでここはちゃんと揉めない様に売却総額は人数で割った金額を各自に渡すつもりである。

 でも、これに反対された。珍しくカジウルにだ。これに俺は驚いた。何せカジウルは「金はあったら有っただけ良い」と言う主張をする人物のはずだからだ。


「その金、パーティ共有の資金として溜めとけねえか?皆で同じ割合を出し合ってよ。っつっても恐らくはソレだけでかなりの高額に突入してるだろうけどもさ。皆で利用するモンを買う時に際してそこから出すって感じでな。まあ言ったら今回の船の購入資金、とかな。」


 コレに全員が納得した。もちろん俺もだ。コレで皆の許可は下りたと言ってもいい。


「じゃあちょっとマルマルに行ってくる。こうして呼び出して集まって貰って悪かった。顔を合わせてこういうのはちゃんと話合わなきゃって思ってさ。」


「ではエンドウ様、行く前にこうして皆いるので私の報告をさせて貰います。」


 ミッツがどうやら調べて来た情報を皆で共有しようと話始める。

 確かミッツは今日ダンガイドリに関する情報を集めて回ると言っていたはずだ。なのでその事だと察する。で、その内容とは。


 ダンガイドリの生態。先ずはこのサンサンから遠くも無く、また近くも無いかなりの断崖絶壁の中腹に巣を作っていると言う。

 そのダンガイドリはその巣を壁をその自前の強固な嘴を使って削って巣になる場所を作り上げると言う。

 その窪みに草や木の枝やらを集め固めてそこを拠点とするそうだ。

 卵もそこに生んで孵化させ、雛もそこで育てると言う。雄雌が交互に餌を獲りに行く交代制で、その大きさはかなりの巨体。

 大人一人をその脚で捕まえて飛び立てるほどの出力もあるそうだ。相当なものである。

 鳥というのは空を飛ぶのに巨体になればなるほど、自重を飛び上がらせるのに大変なエネルギーが必要になる。

 重いモノを当然持ち上げるのに多大な労力を必要とするのと一緒だ。それを飛び上がって浮く、飛び続けると言った事をするのにはかなりの力が求められる。

 ソレを大人一人持ち上げて飛び立てるのだから相当なモノだ。だからこそ、その鳥の卵を採ろうとするのならば危険が伴うのは当然だ。

 卵の出回る事が滅多に無いと言うのも頷ける。命の危険があるのだからそうホイホイと取りに行ける訳が無い。

 しかし金回りで切羽詰まった者が取りに行って失敗する話なんてのがやっぱり数年に一度くらいはチラホラ出ていたりするそうで。


「私らはそんなお馬鹿な話の上を行くって事よね?まあエンドウだもの、仕方が無いか。」


 マーミからそんな言葉を溜息と共に言われる。仕方が無い、そんな言い訳に俺の名を使わないで欲しいと思うが言葉にせずに呑み込んだ。


 ここまで危険な食材「卵」が出回る時には大抵はそれ専門の冒険者が現れた時や、何だか妖しい人物が目撃された時に出回ると言う。

 妖しい人物、そう言った話は改めて聞かれて「そう言えば」と言った感じで、その時になって良く目に入ったと言ったくらいでしかないらしい。

 コレはたまたまなのか、あるいはそう言った卵を採取する上での特別な隠れた「組織」があるのかは分からないみたいである。

 珍しい食材、あるいは高級食材を専門で採る冒険者も、数年に一度くらいはそのパーティの中で「重傷」「死亡」する事例もあり、素人が完全に手の出せる領域では無いと言う。


「改めて聞くと俺たちはトンデモナイ事をこれからしようって言ってるのが良く分かる。」


 カジウルがうんうんと頷く。コレにマーミも同じくウンウンと同意している。

 それもそうだろう。俺が気軽に「鶏みたいに卵養殖できないかな?」と思い付き言い始めてこうして動き始めたのだ。

 この世界基準で考えれば「頭おかしい」と全ての人に言われてしまう事だろう。このサンサンでは特に。

 でも別に絶対にできない事だとは俺には思えなかった。

 人は家畜を飼っている。その大本となる存在は在野に生息していた生物であるはずだ。

 ソレを捕縛して長年かけて飼い慣らして、今こうしてそれは当たり前として成り立っているのである。

 だからダンガイドリも捕縛から始まり、その生態を変えるだけの長い年月をかけて飼い慣らし、卵を得る事の出来る状態まで持て行けるはずなのだ。


「餌は何が良いんだろ?一日で食べる量は?それと有精卵と無精卵の寄り分けはできるかな?住処としてあの断崖を再現したモノをこちらで用意すればそこに巣を作ったりするか?あぁ、そうだ。そもそも巣をつくる上で外敵から身を守るためにそう言った生態になったのか?あるいは他の生物の縄張りから外れている場所がそこだけしか無くてしょうが無く作っているだけなのか?」


 俺が次々に疑問に思う事を呟いているとラディはそこへ待ったを掛けて来た。


「エンドウ、まだ気が早過ぎる。ダンガイドリの生態はそこら辺は調査が進んでいない分野だぞ?危険性が高く近寄れない所も、学者が探求できない理由でもある。そう言った部分は冒険者がある程度知っている情報もあったりするだろうが、そう言うのは「飯のタネ」だ。高い金を払うと持ち掛けてもそう易々と情報をくれるもんじゃない。」


 ミッツもコレに付け加える。


「冒険者ギルドもそこら辺の情報を提供はできないんです。あくまでも学者がギルドへと提供した情報しか扱ってはいませんから。希少素材を専門に採取する冒険者はある程度の数は居ますが、そう言ったパーティはギルドへ希少情報をホイホイと提供はしませんからね。あくまでもそう言った情報は「自分たちの財産」という形になりますから。」


 どうやらダンガイドリに関する情報はここまでと言った感じである。コレはもう手探り状態から始めるのと一緒だ。

 でもそれだけ分かれば後は地道にやっていけばいいだけだ。スタート地点はゼロから、それが分かっただけ充分である。


「じゃあこうして情報の共有もできたし、俺はマルマルに行ってくる。あちこち様子見しなくちゃいけない事やら何やら多くて忙しいのは何でかな?」


 この感想に俺へとそれぞれが苦笑いをしているのをチラリと視界の中に入れつつ、ワープゲートでまたクスイの家の庭へと移動する。

 で、ここで何やら庭でウンウン唸っているクスイが見えた。

 俺が突然現れてもクスイはもう慣れたもので驚いたりしないで出迎えてくれた。

 しかしその続きには頭が痛くなりそうな問題も付け加えられて。


「エンドウ様、少々問題が起きました。テルモの事です。どうやら貴族に目を付けられまして。」


 この展開の早さに俺も頭が追い付かない。クスイ以上に混乱しそうになる。


「何処から知ったのか「香草焼き」の評判を聞いたメルティン伯爵がテルモを自らの料理番に、えー、何と言いますか、本人の意思を確認もせずに無理矢理「雇った」ようなのです。で、テルモを私の方で隠し匿っていますが、長くは持ちそうにも無いのです。」


 ついこの間に店が開いたばかりだと言うのにその評判が貴族へと届いたと言う。

 そしてどうやらこれだけ聞くにその貴族は「身勝手」で、クスイの表情からも読み取れるが「あまりよろしくない」貴族である様子だった。


 店が今日はどうやらタイミング良く休みだったのが幸いしてテルモは連行されずにいたらしい。

 テルモが朝、少々の雑用を片づけるために店に行っていたそうで。それを終わらせて外に出て鍵を閉めると一目で分かる服装、お偉いさんの「使い」が店の入り口でドアをガチャガチャとやっていたそうだ。

 裏口から出たテルモはそれに恐怖を覚えて陰に隠れたらしい。その時にその使いの話を耳にして「危険」だと判断し、街中を誰にも見られない様に慎重に隠れつつクスイの所に逃げて来たそうだ。


『ふん!小娘を引っ張って来るだけで何故私たちがこんな所まで来なければならんのだ!』

『伯爵も「素直に従わなければ無理矢理にでも連れてこい」などと、簡単に言ってくれる。』

『店が閉まっているじゃ無いか。面倒だな。こんな面倒を掛けさせやがって。見つけたら一発ヤっちまってもいいよな?』


 コレがテルモが聞いたその男たちの会話だそうだ。正直そんな使者に見つからなくて本当に良かった。テルモは運が良い。

 もし見つかっていたならばどんな目にあわされていたか想像するに恐ろしい。

 これではテルモが逃げると言う選択肢を採用するしか無かったはずで、そしてソレは正解だったと。

 相手は男三人、しかもガラの悪そうな奴らだったと言う。もうこれだけでその「伯爵」とやらはクソだと分かってしまう。

 たかが評判の店の女一人にこれだけの事をしている馬鹿だ。いくら貴族とは言え客として招く者に対して、恐怖を与えそうな使者、しかも三人もの男を派遣すると言うのは考え無しと言うほか無い。

 考えれば普通は一人でいい。しかも物腰柔らかな者を派遣するべきだ。

 いや、この場合は伯爵は客としてテルモを連行させようとしたのでは無く、自分の料理番の一人として「連れてこい」と言った、犯罪者でも捕縛するようなノリで命令をしたのだろう。

 何処までも横暴、尊大な態度、そして人を見下した性格。ギルティとしか言いようが無い。


「テルモは?とりあえず俺の方で匿うよ。森の中の家に連れて言っておく。その間の香草焼きの店はどうする?」


「しょうがありません。暫くはお休みにします。と言いたい所なのですが、正直言って不安です。味を知っている客がどう動くか分かりません。なので、いい案は御座いませんかエンドウ様。」


 俺は香草焼きの件にも客が不満を爆発させる展開になんてなるとは思っても見なかった。


「師匠に・・・は無理だな。負担がかかり過ぎるだろ。どうするかね?突発的に店を開く、かつ、出す数の制限。そうだな一日に五十食限定とか?その際は俺が後は焼くだけまで下拵えした物を運ぶって感じで行けるか?テルモには森の家で下拵えをして貰って、そうやって長い間過ごしてもらう感じで。」


 店が閉まっている間の「言い訳」はどうするかも聞かれる。しかしコレに俺はもう大っぴらにしてしまえと言っておく。


「正直に包み隠さずに事情を書いた張り紙をしたらどうだ?そうだな、テルモが聞いた男たちの会話も乗っけちまえ。それで恐怖をテルモが持った事もな。うん、そこら辺はテルモに直々に文を書いて貰おう。その伯爵の名前も大々的に乗っけてさ。客の不満を全部背負って貰うとしよう。」


 コレにクスイは正直に驚愕の顔になった。どうやら貴族に「抗う」って所に思考を持って行けなかったようだ。

 この俺の考えに難しい顔をしてしまうクスイだったが、最後には頷いた。

 どうやらクスイもその伯爵とやらには良い思いは持っていないみたいで、寧ろ「一発痛い目見ろや」と内心に抱えていたようだ。

 こうして俺はテルモの居る部屋にクスイと一緒に入る。そこにはベッドに座ってドンヨリした顔のテルモが座っていた。


「あ、クスイさん。しかもエンドウ師匠・・・!?え、何で居るんです?なんか国の使者だとか言う方々が散々探し回ってたんですけど?私の所にも来て行方を知らないかって、見かけなかったかって聞きに来ましたよ?!」


 俺の姿を確認するなりそう声を上げるテルモ。まだまだ元気は残っているようだ。

 これなら森の家でも大丈夫だろうと思った。しかし一応はあの森は危険地帯と言ってもいい場所なので護衛は必要だ。

 そこに考えが至りどうしようかと考える。どんどんとこうした考えなきゃいけない事が増えて言っているような気がする。むしろ実際に増えている。


「どうしたもんかなぁ?まだ師匠は魔力薬の件でこっちに残らなきゃいけないだろうし?俺が四六時中一緒に居る訳にもいかないしな?」


 こうして俺が悩んでいてテルモの質問に答えないでいるのでクスイが溜息を吐いた。

 コレにはテルモに「えーと?あの?その?」と戸惑わせてしまった。


「エンドウ様、今は事情を説明する前に彼女を連れて移動をしてしまった方が良いでしょう。その後に時間をじっくりかけて説明をして差し上げればいいかと。」


 クスイのこの言葉に俺もハッとして先にテルモを森の家へと連れていく事を優先する事にした。

 ワープゲートを作り出し、そこへとテルモに入るように言ったのだが、流石に驚きと戸惑いで一歩を中々踏み出さない。

 なのでコレに無理矢理俺が背中を押してワープゲートへと押し込んだ。


「え!え!?えぇ!?し、師匠!ちょちょ!ちょっと待ってください!なんですかコレ!?心の準備が!?入れば分かるってどう言う事です!?先に説明!説明を!あ、あ、あ!あぁ~!」


 以前に俺はテルモに師匠呼ばわりはするなと言っておいたのだが、今はそこにはツッコまないでおいている。

 今はそれどころでは無いし、別にここには事情を知るクスイしかいないので構わないと言うのもある。

 こうして俺はテルモを森の家へと招待する事となった。


 ポカンとして立ち尽くすテルモを手招きするが、彼女は一向に動こうとしない。

 まあある程度はリアクションの方も予想は付いていたのでテルモの手を引いて家の中へと半ば無理矢理引っ張って入れる。

 で、まあ、家の中に入れば入ったでまた入り口で立ち尽くすので背中を押して歩かせて奥へと誘導し、椅子へと座らせる。テーブルにお茶も出して。


「私は今死んでいるんでしょうか?夢?ソレにしてはあんまりにも現実的で?ここは何処?私は一体誰ですか?」


 どこのコントだと言わんばかりのセリフを吐くテルモに落ち着くように言ってお茶を飲めと促す。

 目だけをキョロキョロと左右に動かして家の中を見回しつつテルモはお茶を啜る。


「あっちが落ち着くまではここで暮らしてくれ。えーと、色々と使い方を教えるから。いいか?・・・おい、しっかりしろ。」


 未だフワフワとした感覚なのか俺の言葉が耳に入っていない様子のテルモ。

 仕方が無いのでソレを放っておいて俺は俺で茶を飲みながら考え事をする。


(やろうと思う事が増えていく。えっと、船の事に、魔物素材を売って、ダンガイドリを観察しに行く、マンスリってサンサンの大商人と話をするのは・・・もっと後になるか。マルマルの様子見だったはずがこれだからなぁ。メルティン伯爵って言う貴族との「話」もつけなきゃいけないか?)


 テルモがこうして雲隠れして見つけられず、その事でその内に伯爵が諦めてくれればいいが。

 そうで無く、ずっとしつこく捜索し続けた場合の事も考えないといけない。

 もしかしたらクスイへと圧力を掛けてくる可能性がある。もしくは店の店員へと危害を加えようとしてくる可能性も忘れてはいけない。

 テルモを出せ、でなければ商売を妨害する、と言った具合に脅しを掛けてこないとも限らない。


 何故そこまで考えるのかと言えばその伯爵の身勝手さ、そして使者のガラの悪さである。

 そのお貴族様とやらはテルモの意思も確認しないで自らの料理番に「した」と言うのだから何処までも勝手だ。

 そんな人間がまともであるはずが無い。「した」らしたで、テルモを自分の元に連れてこさせるために派遣した使者が、口も顔も悪い男三人だ。

 自分の決めた事に逆らわせない、拒否すれば無理矢理連行させる気マンマンである。

 そんな事をやる人物だ。そいつが最低な事をやってくる可能性を考えないで放っておいていい訳が無い。

 もしこれが何も起きませんでした、などと言った展開になってくれればいいのだが、そうは思えない。微塵も。


「サンサンに居る皆にこっちの家に来て貰ってテルモを守ってもらうって言う手があるかぁ。」


 つむじ風の今の実力ならこの家の周りの魔物やら動物に後れを取る事はあり得ないだろう。

 サンサンのダンガイドリの方の進捗を先に進めるよりもテルモの件、こちらを先に片付けた方が良い。

 船の方は別段急いでいる訳でも無い。むしろ伯爵の件の方がどちらかと言えば急務だと思える。

 被害が出てからでは遅いからだ。クスイの店の誰か、もしくはテルモの店の店員がそのお貴族様の理不尽な圧力で怪我をさせられるかもしれない可能性を考えればダンガイドリの件、船の件の方が後回しだろう。

 人の命は値段に換えられない。死人が出てからでは遅い。殺す様な真似をいきなりしてくるなんて事はしないだろうと思いたいのだが、だからと言ってどんな事をしてくるかは分からない。


「ん?寧ろ別にここに匿わなくたってサンサンにテルモを連れて行っても良いのか?」


 そうすればつむじ風の皆にここに一々来てもらってテルモの護衛をして貰わなくてもいい。手間が省けるだろう。

 伯爵の手の者がサンサンにまで届くとは思えなかった。むしろマルマルに居たテルモが遠く離れたサンサンに移動しているなどと言う事すら想像できないだろう。

 なのでここでもう一度テルモを連れてサンサンに行くと言う選択肢もある。


「俺は俺で伯爵と会って見極めてみるか?でもなぁ。話がそもそも通じなさそうで疲れる予想が・・・」


 反社会勢力、と言うなら速攻で潰してしまっても構わなかったのだろうが、曲がりなりにもシーカク国で認められているであろう伯爵と言う地位にいる人物をそう易々と潰す訳にもいかないだろう。

 統治と言う問題もあるだろうし、シーカク国全てを敵に回すと言う事にも確実に繋がる。

 そう言った面倒な相手を潰すならそれなりの大義名分とその証拠とやらが必要になる訳で。

 ソレを一から調べたり探したりするのは手間と労力がかかり過ぎて現実的では無い。

 そもそもそう言った不正をしていなかった場合は徒労に終わるだけになってしまう。

 叩けばいくらでも埃が出てきそう、と言うのはそこはソレ、俺の偏見でしかない。


「よし、決めた。サンサンに行くか。問題は「一纏め」にしておいた方が対応がしやすいからな。バラバラじゃあちこち行かなきゃいけなくなって面倒になるだけだ。」


 俺はテルモがやっと心落ち着いてお茶を飲み干したタイミングで声を掛ける。移動するよ、と。

 コレにテルモがバラエティー番組で使われる「チーン」と言った効果音が聞こえてきそうな無表情になった。

 そんな彼女の背中をまたしても押してワープゲートをくぐらせる。そこは俺が魔石の実験をしたあの海岸だ。

 取り合えず俺はそこから俺たちが宿泊している宿へとテルモを連れて行く。

 で、そのテルモと言えば、半ば魂が口から出てしまっているのでは?と言いたくなるような呆けた表情で俺の後に付いてくる。言葉を失っているようだった。

 宿に到着するとそこにはミッツがいた。どうやらあの話の後の自由時間でまた街の中へと向かって戻って来た所らしかった。


「あ、エンドウ様。お早いお帰りですね。あら?そちらは?」


「話せば長くなりそうだから、部屋に行ってお茶でもゆっくり飲みながら話す。あ、最初に言っておいた方がいいな。彼女はテルモと言う。守ってやってくれ一応。」


 この俺の頼みにミッツを「ハイ?」と混乱させて驚かせてしまった。いきなりそう言われても訳が分からないのはしょうがない。

 入り口で立ち話を続けるのもアレなので、俺はテルモの宿泊費を出してミッツとマーミと同じ部屋に宿泊してもらう事にした。その際に三人の入れる大部屋へと変えてもらっておく。

 そうして取った部屋で俺とミッツは対峙してソファに座った形になった。テルモはまだ心の整理がつけられておらず放心状態が続いていたのでベッドに寝ている様に言っておいた。

 こちらはこちらでミッツに事情説明をし始める。そうして十五分後。


「お話は分かりました。エンドウ様の頼みですから。どんと任せてください。で、エンドウ様はどうなさるおつもりです?」


「そうだな。伯爵が今の状態からこれ以上は手を出してこないなら、俺もこれ以上は別にどうこう思わないし行動も起こさない。でも、そう旨くはいかないと思ってる。きっと伯爵は何かしらの動きを見せてくると思うんだ。そうするとその場その場でソレに対処していって、もういい加減やり過ぎだ!ってなれば「潰しに行く」って感じかな。」


「ではこの事は後で他の皆にも話しておきますね。エンドウ様はもうこの後すぐにマルマルにお戻りになりますか?」


「あぁ、そうする。伯爵が今日速攻で動いて来るかもしれない、って言うのもあるし。こうなってしまうと警戒はし過ぎている方が安心するから。じゃあ宜しく。」


 俺がそう言ってワープゲートを作り出すとミッツに「はい、行ってらっしゃいませ」と見送りの言葉を掛けられた。

 コレに行ってきますと返して俺はまたしてもマルマルへと戻る。


「はぁ~。行ったり来たりしてるけど、それが苦じゃ無いのはワープゲートのおかげだなぁ。・・・ワープゲート、これってどう言った原理なのか改めて考えようとすると怖いよなぁ。」


 コレも魔法と言う不思議な解析不能な原理、理論がもたらしてくれている代物だ。

 イメージ一つでこんな事ができてしまっているのだからもう何と言って良いのか。


「やめよう。今は伯爵の件だ。使者は言葉使いも顔つきも凄い「悪い」らしいって言うしな。監視して問題が起こしそうになったら止めればいいか?あ、そいつらの顔、俺知らないや。どうするかなぁ。」


 先ずはそいつらを見つけるのが先決だと考える。しかしこのマルマルには国の使者の方もうろついていると言う。

 なのでそこら辺を迂闊に歩いたりはできない。見つかると余計な面倒が増えてしまう。


「クスイの店で待ち受けていればいいか?あ、魔物素材を売りにも行かなきゃいけないんだ。あーあ、これじゃあ暫くはサンネルの所には顔出せないか?」


 ちょっと調べれば香草焼きの店の出資者はクスイだとすぐに分かる事だ。

 なので伯爵がテルモを見つけられ無い事でクスイに対し「テルモを出せ」と圧力を掛けてくる事も考えられる。

 その時に「知らん」と言っても相手は信じないだろうし、その事で無理矢理居場所を吐かせるために嫌がらせで営業妨害をしてくる可能性が否定できない。


「身動きがとり辛い?まあでも気長にのんびりと待ちますか。今日はあっちこっち行ったり来たりで忙しなかったしな。」


 そう思ってクスイの店の方の入り口に回ってみる。そうすると遠くから店の方へと歩いて来る三人組の男が。


「アレ?もしかしてあいつらが?顔検分をテルモにさせたいけど連れてこれないし?」


 しかしどうやらそんな事をしないでも良さそうで。


「おい、ここか?じゃあちゃっちゃと引っ張り出して伯爵の所に連れて行くぞ。」

「ッたく余計な手間を掛けさせやがって。なあ、伯爵の所に突き出す前に一発やっちまうべーよ。」

「そうだな。こんなかったりー真似させられたんだ。その代金は頂かねーとよ。」


「お前ら全員ギルティ。因って強制排除決定。」


 俺はこいつらに問答無用で魔法を仕掛けた。

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