試してみるとアラどうって事無いね
海の中へと俺は入って行く。しかし俺は海水に濡れたりしない。魔法で事前に俺の周囲にバリアを張ったからだ。
俺の半径2mに海水は入ってこない。それを目にしたロヘドはストーンと言う擬音が幻視できる位に見事にその顎を落っとした。
そして俺は海底に魔力を流して台座を作り出し、そこに魔石を置いてソレを固定する。
力を発揮させた時に吹っ飛んでいかない様にしっかりと台座に魔石をがちがちに固めたら海岸に上がる。
「エンドウ、もうちょっとやり方があったんじゃないかしら?ほら、この人、元にまだ戻ってないわよ?」
ロヘドはどうやら自分の目で見たモノが信じられなくて気持ちがまだ冷静さを保てないらしい。
海の中に沈んだ魔石へと視線が固定されてずっと動かない。むしろ気絶して無いか?と心配になった程。
「じゃあ魔力を流してみようと思うんだけど、どうしようマーミ。俺が思う最小の量の魔力を流したとして上手く行くと思う?」
「知らないわよ。私に聞かないで。そもそも確かあんたはラディに教えていたアレ、それを先ずは「繋げ」ればいいんじゃないの?そこから徐々に流す量を増やせば?」
「ナイスアイデア!それをやってみよう。さて、上手く繋がるかな?」
ラディに教えたアレとは魔力ソナーである。あれは極々薄い魔力を拡げるモノだ。なのでここで俺がまだ会得できていない「密度」と言った問題を躱す事ができる。
いきなり意識して魔石に魔力を流そうとするよりも上手くいきそうである。薄いイコール魔力密度も抑える事に繋がっているはずだ。
なのでまずはその容量で魔石に自分の魔力を「繋げる」所から始めてみた。
するとどうやらコレが上手く行ったらしく海中にある魔石が淡く光った。
淡く光り続けるだけでそのまま何も起こらない。恐らくは成功した。魔石に刻まれた魔法陣が発動しない程度の魔力を送り込んでいると言う事になるのだろう。
そうすればこのままジワリジワリと俺の流す魔力量を絞って流し続けてみればいい。どれ位の所で効果が出るかを見極めればいいだけだ。
とここでロヘドがどうやら気を持ち直したようだ。どうやら魔石が光った時点でどんな効果が出るのかと言った観察する目へと変わったらしい。
ゴクリと唾を呑み込む音が波の音の中に紛れる。この音をさせたのは当然ロヘドだ。俺やマーミよりもよっぽど緊張しているのがちょっと笑えた。
そうやって俺は少しづつ流す魔力量を増やしていく。魔石へと繋がっている「糸」をちょっとづつ太くしていくイメージを。
で、そこで変化が現れた。海水にうねりができているのだ。詳しく言うと魔石の部分に渦ができている。
どうやら俺の考えている効果が発揮され始めたようで海水が一気に魔石の効果で押し出されて魔石の周囲に「流れ」が発生していた。
「おー、合格かな?もう少しだけ魔力を増やしてみよう。」
コレは失敗だった。密度、その点をまだ解決できていない俺がコントロールするのはまだ早かったのだ。
一気に魔石の効果が爆発する。魔石周囲の海水が一気に瀑布となって弾ける。どっぱーんである。
一瞬にして魔石周囲の海水が無くなてしまう程の威力を出した。どうやら「上限設定」も必要だと言う事が分かる。
天井知らずで威力が上がるとか、コレはもう兵器としか言いようがない。もちろん沖の方へと魔石の効果が向くようにしていたので海岸方向に居た俺たちに被害は無い。
しかしぶっ飛び過ぎたこの威力にロヘドが驚いて尻餅をついたのは仕方が無いだろう。
マーミの顔なんて「無の境地」になっていた。俺も多分同じ顔になっていたと思うが。
これでは半分実験は成功、半分は失敗と言っていいモノだ。
「しょうがない。もうちょっと込めるイメージを改良するか、あるいは俺が精密な密度制御をできるようになるまでは御預けか。」
「待ってエンドウ。私がやってみていいかしら?コツを教えてよ。あんた程の馬鹿みたいな魔力は私には無いから丁度良いんじゃないかしら?」
マーミがそう提案してきた。マーミのコントロールで上手く行くようであればコレをそのまま船へと組み込んでみてもいいかもしれない。
そうすればラディも操作が可能となるだろうから。なので俺はここでマーミへと魔石へと魔力を繋げたやり方を教える事にした。
薄くて細い糸状にした魔力を伸ばして魔石に繋げると言うイメージをこの場で言葉で教えたに過ぎなかったが。
それでもマーミは大分魔力操作に慣れてきているのですんなりとソレを成功させる。
前にも魔力操作のアレコレを教えていたのでここでソレが生きたと言う事だろう。マーミが隠れてずっと欠かさず魔力操作をし続けていた証でもあると言える。
どうやらマーミも魔石に自分の魔力が連結したと言った手応えを掴んだらしい。
こうして次はマーミでの実験が行われる事になった。
マーミが徐々に流す魔力を増やしていく。
「思ったよりも簡単に魔石に魔力が繋がったのは良いけどさ。ちょっとコレかなり難しいわよ。」
魔石の方ではマーミから送られた魔力でどんどんと海水を押し出す事に成功している。
水流が産まれてかなりの威力を出しており、これなら船の推進力として使えるだろうと判断した所でちょっとだけマーミがゲンナリしたお疲れ顔へと変わっていた。
「そこまで消費魔力は無いみたい。なんて言えばいいの?効率?ってのは良いけど、ちょっと魔力量を上げたらコレ、また威力が跳ね上がってさっきみたいになりそうよ?私の操作でも。」
どうやらかなり魔力をセーブしているようだ。それがどうやらマーミの神経を削っているみたいである。
「じゃあちょっとだけ流す量を増やしてみてくれ。実験だ・・・おおう?!俺の時とまでは行かないけど、コレはドッカンターボかな?」
俺の要求にマーミが応えてソレを実行する。するとギュルギュルと海面がうねりを上げていると思ったらデュバーン!と盛大に海水をぶっ飛ばす結果が。
マーミもコレをした後に魔石への魔力の接続を切った。またしても爆発する海面にロヘドが魂の抜けた顔でソレを眺める。
「コレはかなりの大型船でも作らないと魔石に見合わないなぁ。どうするか?」
小型の船にこれを取り付けたら逆に魔石の出力に持ち堪えられず船がひっくり返って沈んでしまうと。
であれば考え方を変えて単純に、この威力に負けない質量の船を造って取り付けるしかないと言う事である。
そうなれば自然と船は大きな物を用意すればいい。だがしかし今回の調査にそこまでの物は必要が無いはずで。
こうなるともう俺だけが決めちゃいけない問題だ。このダンガイドリの件は皆でやる予定のモノである。
ここは一旦保留、と言う事にして俺は魔石を回収するのだった。
回収後はその場でロヘドと分かれた。別れ際にロヘドは感謝の言葉を俺に述べてきた。
「今日学んだことは俺の今までの経験の何百倍だろうか?あんたと出会えなかったら知る事さえ、考える事さえしなかっただろうな。さて、もう長い休みは終わりだ。精進するよ。本当にありがとう。」
ロヘドはそう言ってニッと笑うと「よっしゃ!やるぞ!」と肩をグルグルと回して気合を入れながら去っていく。
そうしてその背中が見えなくなってからマーミに。
「船、どうすんのよ?その魔石を使う気ならちゃんと皆と打ち合わせして、考えて造りなさいよ?」
しっかりと釘を刺された。コレに俺は「そうするよ」とちゃんと返しておく。
そして昼時、マーミと俺はてきとうに店に入ってそこで食事を済ませる事にした。
そこにカジウルがやって来る。どうやらコレは偶然だったらしくカジウルもちょっと驚きの顔になった。
「お前らもう用事は済んだのか?なら俺も一緒に飯を食うぜ。」
こうして食事を共にすることになったが、話は漁船の事になる。
「やっぱり船を出してくれる漁師は見つかんねえ。ギルドも結構数多く声掛けしてくれたらしいが。それでも一人もウンと言ってくれるのは居なかったとよ。こうなりゃ船を買うか、エンドウが造るっきゃねえが、そっちは上手くいったのかよ?」
「あのさぁカジウル。あんたからしてエンドウが「上手くやった」と思っているのか聞きたいのだけれど?やっぱりやってくれたわよ、やっぱりね。」
マーミがまたしても俺への評価を口にする。やり過ぎ、と。
カジウルも「まあそうだよな」と言って納得するのもしょうがない。何故なら俺も後から考えれば「いつもやらかしている」と自覚があるからだ。
しかし今回は大分勉強になった。この世界の「魔力」と言ったモノを知る事に繋がったからだ。
反省はしているか?と言われると「していない」なのだが。
「船はどうせなら造ってみたいって考えてる。そこはとりあえずラディが船の方を改めて見に行っているからその時に話し合いかな。魔石の方で「問題が無い」とは言い切れないけど、それでも使えない事も無くてさ。どうせならコレ組み込んで推進力として利用したいんだ。」
取り出した魔石をカジウルに見せるとコレに「お前は何やらかしてんだよ?」と珍しくカジウルからも突っ込まれる。
どうやらカジウルも「綺麗な丸い」魔石はお目に掛かった事は無いのだそうだ。
「しまっとけ。不用意にこんなモンを出したらいけねえや。しかも何だよ、その表面ツルツルの玉はよ。魔石ってそんなんじゃないからな?相変わらずオッソロシイな、エンドウはよ。」
どうやらこれを目に付けた輩に襲われてもおかしくないという。
取り合えず直ぐにしまったのでそこまで多くの人の目には触れていないとは思うが、それでも可能性ができてしまった。
噂が広まればこの魔石を狙ってくる者が出てこないとも限らない。
これには俺も不用意過ぎたと反省した。しはしたが、どうせ俺のインベントリから勝手に他人が中をあさって持ち出す事など不可能なので、すぐに頭を切り替える。
食事を終えた後は自由行動となった。とは言え俺は様子見にマルマルを見に行ってくるとカジウルとマーミに告げて別れる。
「気を付けろよ?まだ向こうは俺たちをとっ捕まえようとしてる国の使者様がうろついてるだろうからな。」
「ホント、これ以上は余計なマネはしないでね?様子見だけにしてねマジで。」
別れ際に二人に心配されつつ俺は建物の陰でワープゲートを作り出してクスイの家の庭に移動した。
「こんちわー。クスイは居る?おっと、ミルさん、今日は店は休み?」
「あらエンドウさん?そうですよ。この間の魔法薬の販売でやっと一息付けた感じで。山場はとりあえずは乗り越えた、って父が言っていました。あ、今お茶を出しますね。」
俺はコレに甘えて椅子に座ると出されたお茶を啜る。店の方にクスイは出ているそうで、どうやら店が休みと言った訳では無く、ミルは従業員として「休み」らしかった。
俺は別段マルマルに「これをしよう」と思って来た訳では無いのでゆっくりと待つ事にする。
只の様子見に来ただけなのでこうしてクスイの家にいるだけなら使者様とやらに見つかる事も恐らくは無い。
外をほっつき歩けばおそらくはすぐに俺の事は広まる事だろう。マルマルの街中の様子も確認しておきたかったがソレは止めておく。
どうして街中の事も確認したかったかと言えば、それは魔法薬の広まり具合を知りたかったと言った所だ。
どれ位の反響で、どれくらい受け入れられていて、この先はどうこの魔法薬をもっと多く出回らせて広めていくか。
そこら辺の事を考慮に入れた様子見をしたかったのだ。だけどソレは俺が直接調べたりしなくともクスイが全部既にやっているのだろう。
休憩に入ったらしいクスイが「ふう~」と息を吐きながらやって来た。
「ん?クスイ、ちょっと痩せた?働き過ぎで体力が落ちているんなら休息もちゃんと仕事と割り切って休んでくれよ?働き過ぎで倒れられても困るぞホント。」
俺はクスイにブラックを押し付けるつもりは無い。今のこの事業をやり遂げられるのは今の所クスイだけだと俺は思っていた。
でもクスイは充実していてそう言った心配は無いと言う。
「寧ろ、少し体重が落ちて動きやすくなったと言うべきですかな?食事もしっかりと取っておりますし、睡眠も充分にとれていると思いますが。確かに、この先も長い目で見て行けば効率と言う面で休息は重要なモノだと理解しておりますよ。ぱったり倒れたりなんかしたら娘の将来が気になって気になって成仏もできませんしね。」
そう言って笑うクスイの顔は確かに血色は良い。心配は無いようだ。
「クスイ、魔法薬の今後はどういった感じになりそう?師匠は離れても生産は安定し始めたか?」
「そうですな。先日のエンドウ様の作って頂いた分で一応は冒険者たちの動きは治まったと言っていいですね。マクリール殿にはもう少し就いていて貰えないと今後の生産数に少々厳しいかと。」
「師匠には後を継いでくれる人を探して貰ってその人を育てさせて責任者の引継ぎを。まあでもそこまで急ぎじゃ無くていいし。そもそも師匠が続ける意思を持っている間はこき使って良いのかな?」
「まだまだ基盤は脆いですからな。マクリール殿にはビシバシとじゃんじゃん働いて貰う事にしますよ。」
本人の居ないのを良い事に言いたい放題した後に俺は街の様子を聞く。
「ところで、使者様はまだ街をうろついてる?そこら辺の情報を聞きたいんだけど。」
「まだエンドウ様、いいえ、つむじ風を探しているようです。街を出た形跡が無いのでまだ街の中に潜伏して隠れていると見ているのでしょう。冒険者ギルドに確認もしに行かないで勝手に「御触れ」まで出し始めました。」
コレに俺は顔をしかめるしか無かった。どれだけ執着が強いのかと。もしくはそこまで切羽詰まっているのかと。
でも、考えてみればしょうがないのかもしれない。使者様はどうやら情報を集めているとは言え直接ギルドに出向いていないようなのだ。
聞けば一発で俺たちの事が「分かる」はずなのにどうやらそっちに頭が回っていない様子。
ギルド長も積極的に使者様には接触はしないだろうし、俺たちの居場所を聞かれてもどうせ「何処に居るのかまでは分からない」と答える事だろう。
その後はエコーキーの太腿焼きの評判や、そもそもエコーキーが乱獲され始める一歩手前状態であると言った話を聞く。
香草の方もどうやらコレの件で値段が高騰しかけているらしく、いち早く農場も考えないといけないらしい。
「冒険者たちはエコーキーを狩るとどうやら真似して調理をしようとしているらしいですが、まあ上手くいったと言う話は聞きませんね。ですがそう言った輩が相次いで後を絶たないので香草の方が市場で品切れになりかけています。」
「じゃあ香草の農場も専用で作るか?それとエコーキーの人口的な飼育とか、品種改良とか、そう言った方面にも手を出そうか。」
「・・・やはりエンドウ様には敵いませんな。分かりました。そこら辺の「仲間」を増やす事にしましょう。私一人ではどうにもそこまで行くと手が届きませんからな。」
こうして新たに手広く事業を立ち上げる予定をザックリと話し合う。
お金の件も早急に造らないといけないかと思いサンネルの所にこの後に向かう事にした。
ソレをクスイに話すと「手加減をしてやってくださいね」と苦笑いと共にそう言われる。
取り合えず先につむじ風のメンバーにインベントリの中に入っている魔物の「どれ」を売っていいかの相談も先にした方がいいかと思い、一度サンサンへと戻った。
そこでふと思う。電話できないかな?と。で、前にラディに直で魔力と繋げて会話をした覚えがある。
でもあれ、実を言うと凄く魔力を使った。なので魔石で代用品ができないかどうかを考える。
(別に超長距離を離れていても連絡できるように、って訳じゃ無くて。街一つ分くらいの範囲をカバーできないかって事なんだけど)
超長距離はどうせならワープゲートもあるし、こうして街の中でバラバラな時にちょっと連絡したいなと思った場面での使い道が欲しいのだ。
特定の魔石に「反応」させるってだけでいい。そして俺の膨大らしい魔力で補う感じでいきたいのだ。
正直言ってできると思う。実験してみない事にはやはりこればっかりは絶対とは言えないが。
そうすると魔石が複数必要だ。最低でも五個は欲しい。そして予備もあったらいいな、と贅沢な事を思う。
「先ずは・・・そうだな。こういうのはラディに相談するのが一番安定か?」
ラディは知識が豊富で情報網と言うのも独自のモノを持っている。それとメンバー内でいつも冷静な立ち位置に居てそれでいて客観的にモノを見る目がある。
相談なら確実にラディが安パイである。なのでまたしてもラディへと魔力を飛ばす。
魔力ソナーで位置を特定。そして見つけたら魔力を放出。捉えたら集中して「繋げ」る。
「あーラディ、今大丈夫か?ちょっと相談があるんだ。時間いいか?」
『・・・いつも通りだな。相変わらず突然驚かせてくれるぜ全く。大丈夫だ。さっき船の方は大体の値段は確認してきた。造船所の職員も俺たちが船を購入する気マンマンだと受け取ってかなり上機嫌だったぞ。で、船の購入の件か?』
「あ、いや、それも相談したいが、それだけじゃ無くてな。また海岸で待ち合わせて直接話す。それでいいか?」
『分かった。昨日の所でいいな。じゃあまた後で。』
こうして俺は海岸へと向かう。途中で屋台で良い匂いをさせていたので、そこで売っていた鮎の塩焼き?の様なモノを買って齧りつつ歩いた。
到着すると先にラディの方がベンチに座っていたのでその横に俺も座る。
「待たせたか?突然急に悪い。でもまあ、ほら?思い付いたが吉日、って言うだろ?」
「そんな言葉聞いた事も無いが?まあいいさ。これ位でもう一々文句は言わない。で、どういった話だ?」
「あぁ、それなんだが。」
俺は前置きで魔石への魔法陣の刻み方を学んだことを先にラディに話す。
その上で魔石は何処に行けば買えるのかと聞いてみる。それこそロヘドの店に行けば売ってくれそうではあったが、彼はどうやら別れ際に「ヤル気」を出していたので今も恐らくだが魔石と「真っ最中」だと思えた。
なので少々そこにお邪魔するのが躊躇われたのだ。なのでこうしてラディに尋ねる事にしたのだ。
「それなら大店、マンスリ商店に行って見るのがいいか。あそこなら扱っているとは思うが、それでもかなりの値段だぞ?そうだな。拳大の大きさ、その三分の一くらいで大体白金貨二枚か、もっと行くかな。で、今度は何をしようって言うんだ?」
ラディの追及が迫る。でもコレに俺は正直に言う。魔石を「電話」にしたい、と。
まあ「電」の所の俺の感覚が通じないだろうと思って「通信機」と変えて言って見たが。
「正直に言って俺の魔力だけで直接会話を繋げるのって少々しんどかったりするんだよね。いや、それ位は何でも無いっちゃ、何でも無いんだけどさ。そう言った所で楽ができるならしちゃいたい訳よ。で、一部の役割を魔石の方に分担すれば、それを使って楽に遠くの皆に会話が可能で気軽にできるようになるって寸法でさ。」
「お前は相変わらず規格外な事を・・・まあいいだろ。俺も付いて行こう。交渉をするのにお前だけじゃ何やらかすか分かったモノじゃないからな。」
メンバー全員から同じ心配をされている気がする。あ、ミッツだけは違う。大抵ミッツは「さすがです」と言ってくれる。
と、こうしてラディの案内を受けてその大店「マンスリ商店」へと向かう事になった。
サンサンにある店の中で一番大きな店へと。
で、いざ到着して入ってみればあら不思議。そこはホームセンターの様な中身であった。
コレに少々呆気に取られている俺を引っ張りラディは店内の案内板に従って魔石コーナーなる場所へと連れて行ってくれる。
そこはもの凄く小さな個室であった。その部屋に入ってみればまるで宝石でも扱うが如くに透明なガラスカウンターに囲われて魔石がズラリと並んでいる。
まるで宝飾店にでも来た気分だが、納得した。どれもお値段が凄い。
「ありゃりゃ、コレはいくつも購入するって言うのは結構な出費になっちゃうね。しかも大きさも揃えたいし、ある程度の魔力容量の方も見込んで、そこら辺良い感じの大きさは欲しいんだけどな。五つは・・・無理っぽいか?在庫はどうなんだろう?」
ラディの説明してくれた魔石の大きさがどうやら丁度いい感じで使えそうだと、陳列を見て思う。
白金貨十枚、大体総額で百万円くらいだろうか。そう思うとこの世界で「携帯電話」と考えたらかなりのお値段、所の騒ぎでは無い。
有用性で言えばソレは多分この世界じゃかなりの価値になる。百万じゃ安いと思われるくらいじゃなかろうか。それはラディの反応からしてそんな効果のある「魔法陣」を刻んだ魔石など存在しないのだろう。
そもそも俺が魔力だけでラディへと会話を繋げた事だって相当驚かれた。それはこの世界に遠方の人物へと直接時間差無く会話ができるなんて「あり得ない」からだったのではと。
「いらっしゃいませ。お探しの大きさはどれくらいだい?」
この魔石売り場の担当であろう男が声を掛けて来た。お年寄り、しかし背がピンと伸びていてハキハキと喋り、まだまだ健康現役、と主張している。
「これくらいの大きさの魔石を五つ欲しいんですが、在庫はありますか?」
俺は手で欲しい大きさを表現して見せる。コレに店員が眉を顰める。
「何故、五つも欲しいのかね?見ての通り、こうして一般人が個人で買うにはお高い商品でね魔石って奴は。ウチはこうして見栄で専門の場所を設けているだけで、あんたみたいにまとめ買いをしに来た客は初めてだ。・・・何者だい?」
出て来た時とは違って鋭い眼光で俺を睨み始めた店員。どうやらおかしな注文をしてしまったようだ。不審に思われているのだろう。
「ここの店は買いたいと申し出た客を疑う所から商売が始まるのか?揃えられるのか、そうでないか、それだけ教えてくれればいい。」
ラディが横からそう挟み込んでくる。飄々とした感じで別段店員の失礼な態度を咎めている感じでも無い。
「そうだな、揃えられはする。だが、今すぐに、とはいかない。買うのならば前金を半分、明日には渡す事は可能だ。その時に残りを支払って貰う形になる。」
この説明にラディが「どうする?」と俺に問う。確かに別に今すぐ欲しいと言う訳では無かったので、そこら辺で妥協するのが良いだろう。
とソレを了承しようと思った所で別の考えが浮かぶ。
「すみませんが、仲間と相談してからまた来ます。あ、冷やかしに来た訳でも無く、買う意思はしっかりとありますので。それと買うのは・・・えーっと?コレにしようかと考えてます。では。」
俺はショーケースの中の一番大きな魔石を指さして店を出た。
その後ろからラディも付いてきているが「おいおい・・・」と言った感じの顔になっている。
それも当然かもしれない。その魔石のお値段は「魔白金・1」「魔金・2」の役「七百万」であったからだ。
拳二つ分ほどの大きさ。恐らくは魔石の大きさに比例して倍率ドン!と言った感じで値段が劇的に増えるのだろう。
だからラディが「なに馬鹿な事を考えている?」と付け加えてくるのも仕方が無い。
「俺の貯蓄が今いくらなのか忘れたから調べなきゃな。それと皆と相談してインベントリの中の魔物の素材を全部売っぱらいたいんだよね。そこら辺の分配の話もしたいんだ。」
「エンドウ、全部買い取って貰うとしても、一気に全てを・・・買える程の財力を持つ商会は無いと思うぞ?こまめに一つづつだろう、出来るんだったらな。借金を作ってまで一気に買い取る、って剛胆な腹を持つ商売人は皆無だろうさ。」
ラディのこの言葉に俺も納得はする。しかしずっとしまい込んだままだと後々にその存在を忘れてしまいそうになるのだ。なので思い立ったが吉日で処分をしてしまいたいのである。
「確か一つ目巨人の分も処分して無かったよなぁ。アレ?今取り出せるのかな?すっかりと輪郭があやふやに?」
時間が経てば姿形がどんなモノだったか忘れてしまう可能性も出る。
その時にインベントリからソレを取り出せるのか、できなくなってしまうのか。
そこら辺も早急に確認したい所なのである。なので幾ら初見のインパクトが強かろうが「忘却する」というのは人間なら仕方が無い事で。
もしかしたら細かい所を覚えていなくとも、うろ覚えくらいでもインベントリから取り出せるのかもしれないと言うのもあるのだが。
人の記憶というのは曖昧で不確かなものである。なのでそう言った不備が影響してインベントリから引っ張り出せなくなる可能性を残しておかずに、さっさと売り払い処分をしてしまうのが良い。
通貨としてならそこまでド忘れ、何て事も起こらないだろう。そもそも冒険者カードへとお金の「記録」も取っておけれる事だし、ここら辺はゲンナマで持ち歩くような事をしなくても融通が利く。
こうして俺は全員に魔力で通信を飛ばして「魔物の売却」で話がしたいと宿へと集合してほしい旨を伝えるのだった。
もちろんこの事で三者三様の驚きを貰った事は言うまでもない。




