大海原に漕ぎ出す?
見渡す限り青い海。澄み渡る空。今日も晴天なり。などと思いながら周囲を見渡す。
何処まで行っても左右は崖らしきものが見当たらない。
「確か聞いた所じゃこの街のもっと外れの方の崖だという話だな。」
ラディはダンガイドリが巣をつくる場所の情報も一応は持っていたようだ。
「船で一旦沖に出て、それから海岸線を見渡した方が早くない?」
マーミが案を出す。船をチャーターしよう、と。しかしカジウルがこれを抑える。
「別によ、急ぎって訳じゃ無い。遊びみたいなもんだろ?そこまでマジになるな。俺たちはエンドウの「観光」に付き合ってる延長だと思って気楽でいいんだよ。」
俺はコレにウンウン頷いておいた。確かにまだここでマジになるのは早計だ。
もうちょっと踏み込んで目処が確実に取れると思った時点で本格的になればいい。
そうしたら俺はこのサンサンの街の有力商人か何かを頼って、金は出すから俺の計画に乗ってくれとプレゼンするだけだ。
でもミッツはちょっとまだ鼻息が荒い。
「場所が判っているなら早く行きましょう!しっかりと今日は観察です!」
卵を仕入れた他の料理店を探さずにこうして来てしまった以上は、卵確保に努めたいのは分からないでも無い。
しかもうまくいったら卵養殖までしようといった、最終目標とも呼べないまだボンヤリとしたモノであるのに、これではミッツはヤル気が在り余り過ぎていて空回っているとしか言えない。
「まあ船に乗ってのんびりと行くのも悪くないかもね。で、船を出して貰うには誰に頼めばいいんだ?」
ミッツが大分テンション高めなので、ソレに合わせて俺はかなり低めな感じで行く。
バランスを取らないと皆が疲れてしまう事だろう。
まあでもこの街の観光にワクワクしている俺としては、これでも結構気分が上がっている。
「そうだな。向こうに漁業組合がある。そっちへ行って依頼を出してみようか。観光用の船もあるが、そっちは決められた場所にしか行かないからな。自由にあちこち見回るなら組合に直接船を出せる者がいないかどうか紹介してもらった方が良い。」
で、ここで俺はまたしてもこの世界の非常識を口にする。
「材料が有れば俺が造れるんだけどさ。どうしようか?ソレは最終手段にしておく?」
どうせなら造ってしまうのも手だと俺は案を出しておいた。なにせその漁業組合で断られたら手が無くなる。
海へ出るのに船を持っていなければ持っている人に頼る。それは分かる。しかしそれが駄目だったら?
自分で船を造ってしまえばいい。かなりの極論と言って差し支えないだろうが。
この考え方を持っているか、そうでないかでかなりの違いはある。
思考に行き止まりを作らないと言う点で凄く大事である。柔軟性を失わない様にすると言う意味で。
固定観念は時に大きな障害になる。人は時にソレに大いに時間を取られて問題を解決するのに難儀する。
凝り固まって動かせなかった考え方を壊し、前へと進むための苦労に四苦八苦して後に、やっと物事を進める事が可能になったり。
とにかく固定観念と言うモノは、さっさと事を進める前に、事前に軽く罅を入れておく事が良い。
で、皆はコレにどうやらパリパリと「船」と言った考え方に罅がしっかりと入った様子だ。
「相変わらず、いや、普段からそうだったか。」
「毎度の事常識がぶっ壊されるのは、本当に慣れないもんだ。」
「エンドウは何でもできちゃうわね。そうよね。会った時からこんなだったわ。」
「そうですね・・・エンドウ様が造った方が高い性能のモノが造れてしまうのでは!?」
こうして歩きながら半ば三人には呆れられる。毎度の事なのだがどうしてもコレに「もうちょっとどうにかならない?」と言いたい。
で、ミッツは相変わらず俺の発言に肯定的だ。そして俺が造る船の方が良いんじゃないか、と組合で船を出して貰うよりもそちらの案に賛成する。
「でも、もう組合に着いちゃったみたいだから先にこっちを済ませようか。」
俺は未だに落ち着きを見せないミッツをドウドウと抑えつつ漁業組合の事務所とやらに目を向けた。
そうして皆で中に入らず、俺とカジウルが受付に聞きに行く事になった。
別に全員で入っても良かったのだがラディは「外で待つ」と言い、マーミは「皆で行くモノでも無いでしょ」と。
ミッツもここで「私たちは外で待ちますね」とやっと落ち着きを取り戻したようにそう言った。
こうしてカジウルと俺で船を出して貰えそうな漁師はいるかと訊ねに行ったのだが。
「おう、確かにダンガイドリの巣を観光で回る船はねえな!だってよ、鳥の奴らはかなり凶暴で巨大だ。そんな所に命懸けで船を出して見に行きてえ、って奴はいねえだろうさ!」
白いTシャツ、青いズボン。捻じりハチマキに黒く焼けた顔。
何処をどう見てもこれぞ「海の男」と言った要望の受付がそう声高々に言う。
ダンガイドリの餌にでもなりたい珍しいタイプの自殺か?と言った事まで追加で言われる。
「あー、俺たちは個人的にだな。ダンガイドリの調査がしてーのよ。で、だ。その「命知らず」の船乗りを、いたら紹介して欲しいって寸法でな。」
カジウルはそう受け付けへと述べる。コレに返ってくるのはちょっと渋い顔だ。
「お前さんたち、どう見ても食材採りの奴らじゃ無いだろ?あいつ等みたいな専門家になら紹介もできるんだが。一応は募集は出しておくが、おそらくは一人もいないぞ?」
専門のハンターなら船を出してもいいと言う船乗りは三あるいは四人くらいは出ると言う。
しかし俺たちの「つむじ風」は確かに一介の冒険者でしかない。そんな奴らの要求に答える者は出てこないだろうと。
この組合は俺たちの事を冒険者ギルドに問い合わせてしっかりと身辺調査をするのだろう。
申請書を書けと言われ、そこに必要事項を明記して出したら難しい顔に受付がなっていたから、コレに俺は期待はしない方が良いと早々に見切りを付ける心の準備をする。
ここでのやる事はコレで終わってしまった。すぐに船を出してもいいと言う船乗りがいてくれたら、今日の間に直ぐダンガイドリを見に行けたが、そうでないのなら仕方が無い。
「じゃあ次は造船所を見に行きたいな。ここまで大きな街だから船を造ってたりする場所もあるだろ?」
俺は漁師ギルドを出てすぐにカジウルにそう話を振る。外で待っていた皆にもソレが聞えただろう。
で、この俺の発言への反応はと言えば。
「まさか本当に造る気だとは・・・えーと?確か海沿いの端にあった様な?」
「相変わらずの無茶ぶりなこった。でも、こうでなくっちゃな。」
「そこまでする必要性ある?あ、でもそう言うって事は船を出してくれるって漁師の望みは薄いって事ね。」
「エンドウ様の造る船ならバッチリですよね!早速行きましょう!」
カジウルは本当に船造るの?と。ラディは何やらもう俺がこの先で何を成していくのか?と言う所に面白さを感じ始めているみたいで。マーミはギルドの紹介で船を出してくれそうな者が出てくる可能性が低いと言うのを察してくれた。
ミッツはテンションが上がっている。どうやら俺が何かしら「動く」事に期待を持つようだ。
俺からの「常識」はこの世界の非常識だと、だからミッツも新しい「世界」をそうして目にする事に興奮するのかもしれない。だからこのハイテンション。
こうして俺たちは船を出してもいいと言う人物が出てこなかった場合の次の対応の為に造船所へと向かう事にした。
で、着いた矢先に俺たちの対応を取ってくれたそこの造船所の職員は。
「いらっしゃいませ。うちは小さな一人用の小舟から、超大型漁船まで建造しております。ご入用の船の条件はどういったモノかご説明して頂ければ直ぐにでもご紹介できます。」
ここはすぐ前が海と言った所にある。作った船を海へと出すには側に造船所を作らなければ確かに話にならない。
「買えるって事をすっかりと忘れてたな。コリャ本格的に俺たちの常識が崩れてきてるって証拠か。」
カジウルが「そうだった」と言った顔になってこの職員の言葉を聞いてのこのセリフである。
ラディもマーミも同じくそう思ったのか、額に手を当てている。
ミッツだけ「エンドウ様の造った船に乗ってみたいのですが」と小声でこぼしている。
皆がそんな状態であったので俺がコレに答えておく。
「今日は下見だけするつもりだったのですが、どの様な船あったりするか見学して行ってもよろしいですか?あ、見学料はおいくらです?」
俺のこの見学料、と言った言葉に驚かれた。職員は「えぇ?」と言った感じである。
日本では生産工場の見学を無料でしている所もあると聞いた事が有るが、普通はそんな大事な場所を見たいなら料金を払え、と要求するのは当たり前なのでは?と俺は思っている。
自社の製品の宣伝効果や何やらと、そう言った事情もあったりして無料と言った対応をしていたりもするのだろうが。
「いえいえ、内はそんなモノ要求しません。まあ勝手に歩き回られると困りますので案内は付きますが。」
俺はそこに「案内という仕事に発生する賃金は?」と聞いたら「案内も仕事の内です」と返された。
「エンドウ、お前だけ行ってこい。俺は船の良しあしは分からねえ。」
「俺はちょっと造船に興味がある。着いて行ってもいいか?」
「私は来る途中でいい感じの店があったからそっちでお茶してるわ。」
「では、私はそうですね。うーん、ここはマーミと一緒に休憩していようかと思います。」
カジウルは遠慮し、ラディは知識と言った面で興味を持っていて見学を希望。マーミは喫茶店でも見つけたのだろう。そこで一息つくと言う。
ここでミッツが珍しく俺について来ないみたいだ。いや、毎度の事に出掛け先でしょっちゅう俺に引っ付いて歩いていた訳でも無いのだが。
ここでミッツの「造船」と言った所の勢いが無くなったのは、俺が船を購入する気でいると言う風に感じたからだろう。
ミッツは俺が材料を購入して独自のオリジナルの船を建造するのを望んでいたようであったから、熱が急速に冷めたのかもしれない。
こうして俺とラディがこの造船所を見て回る事になった。
「こちらは最近になって注文を受けて建造中の物です。かなり大型で最新の技術を組み込んで、しかも設計も新たに書き起こした代物ですよ。」
「あの、それって俺たちみたいなのに教えたり見せちゃったりして良いんですか?」
いきなりクルーザーみたいなデザインの船の前に案内され、しかもどんな船なのかを説明されて俺は「おいおい」と思ってしまう。
「大丈夫ですよ。こちらはもう既に公開されています。このサンサンの街の大商人、マンスリ様の方でこちらを大々的に宣伝していいと言われていますから。」
この大商人と言う紹介に俺は「お」と思う。ダンガイドリの件の話を持ち込むならこのマンスリと言う者に持ち込めばいいだろうと。
で、ここでラディが補足をしてくれる。
「確かこのサンサンの商売をほぼ全て掌握してるんだっけか。しかし金にガメツイ訳でも無く、しかし金使いが荒い訳でも無い。かなりのやり手だって話だ。商売の機と見るやその投資への額にかなりのモノを一気に投じる賭けみたいな事もすると言う噂も聞くな。」
コレに俺のマンスリへの印象は「大胆不敵」と言うモノだった。
そしてこのラディの話に職員が乗っかる。
「この船はこの街に別荘を持っている商人や貴族様など向けなのです一応は。しかし最新技術も組み込んでおりますので漁船へも使う事ができるのです。ですので幅広い面でこの船は画期的、革新的とも言えるモノですね。だからその点を入れてこうして大々的にこの船をこうして公開しています。」
船に使われているその技術のお披露目も兼ねていると言う。
今使われている漁船がどの様な船で、どういった代物なのかは知らないが、こういった技術が導入されたならきっと良い方向に向かうのだろう事が感じられる。
ソレだけこの職員からは自信が満ち溢れている様に見えた。
「で、コレはおいくらになるんですか?その技術とやらの単品の価値などを教えて貰えると購入の参考になるんですけど。」
俺はここでその技術とやらがどの様なモノなのか聞いてみたくて「お値段」の方から話を振ってみる事に。
「技術だけのお値段は、申し訳ございませんがお教えできないんです。この船全体でのお値段しかお教えできません。お聞きになりますか?」
で、聞いてみた所「魔白金」で十枚だそうだ。この船は特別に新たに起こした設計と、そして内装がゴージャスで貴族向け。
そこら辺があってこのお値段と言う事らしい。こうなると参考になりにくい。俺としてはシンプルなモノで構わないのだ。もうちょっとそうすると安くできるかもしれない。
でも払えなくも無いかな?と考えてしまった所でラディから抑えろと言われてしまう。心を読まれていたかのようなタイミングだった。
「顔に出ているぞ?今回の事にはこんなド派手な船で無くていいはずだ。他のを参考にしよう。」
どうやらこの船に「ちょっと良いな」と感じた事が顔に滲み出ていた様子だ。コレに俺は「あぁ、すまん」と素直に謝っておく。俺だけが勝手に盛り上がっていたからだ。
この後は他に建造中の船や、その他にはすぐに購入可能な小舟なども見させてもらった。
この造船所はかなり巨大であっちこっちと歩き回っている間にかなりの時間が過ぎてしまった。
「今日はどうも有難うございました。仲間と話し合ってみたいと思います。」
こうして俺とラディは造船所を後にした。
で、すぐに三人の待つそのカフェを俺は魔力ソナーで探してそこへと直ぐに足を向けて歩き出す。
「エンドウ、今日購入しなくても良かったのか?とは言え、見て回るのにちょっと時間を掛け過ぎちまったからな。明日にでもすぐに買うのか?」
ラディはそう俺に聞いてくる。コレにちょっとだけ俺は考えたい事が有ったので皆に意見を聞いておきたいと告げる。
「後で話をしたいんだ。その時になったら言うよ。」
こうしてすんなりと皆と合流した後は俺の「また夕日が見たい」と言う我が儘で海へ向かう。
その時にまたあの曲を流した。今度は俺の周囲だけに響くように調整をしたのだが、やはりコレに三人は諦めた様に一言。
「楽器もねえのにな。良くやるわ。いや、曲はスゲー良いからそこだけ否定しねーけど。」
「俺も始めてこれを聞いた時には街全体に流れているとは思っても見なかったがな。」
「ねえ、この響きを出している楽器は作れないの?っていうかこんな音が出る楽器なんて見た事無いし、聞いた事も無いわよ。」
「素敵な曲ですよね・・・あぁ、凄く心が落ち着きます。」
ミッツだけが曲に聞き惚れて目を瞑っている。
「やっぱり海と夕日にはこの曲が合うなぁ。何度聞いてもいい。でも、トランペットを再現して作り出すのは・・・うーん?構造とか原理とかぼんやりとしか分からんからなぁ。」
俺が今、頭の中に流れる曲を再現して魔法で音を鳴らしているだけであって、楽器のそのものの再現はできそうにも無い。作れる自信が無い。
俺にそこら辺の金管楽器の知識は無く、また音楽の才能も無い。できるのは思い出したこの曲を直接魔法で空気中に響かせて再現する事だけ。
「なあ、船の事なんだけどさ。買う?それとも俺が造った方がいい?造るとなったらその点でちょっと色々と知りたい事があってさ。」
俺はここで船に関してどちらがいいかを皆にアンケートを取ってみた。
「俺は明日の漁業ギルドで誰か依頼を受けてくれた奴がいないかを確認してからでいいと思うぞ?」
「買ってしまった方が俺たちの好き勝手に海に出られるだろ?そちらの方が手っ取り早くて済むんじゃないか?」
「エンドウに造らせたら後々どんなモノが出来上がるか分かったモノじゃないわ。いい意味でよ?だから買った方が無難ね。」
「私はエンドウ様の造ると言う船がどのような物になるのか見てみたいです!」
カジウルは保留、ラディとマーミは購入、ミッツは造船と分かれた。
でもここでマーミがミッツにツッコミを入れる。
「あんたね、今の私たちは別に船造りが目的じゃ無いのよ?ミッツ、アンタちょっとズレてきてるわよ。」
ズレていると言われたミッツは「そうでした」と素直に謝っている。とここでラディが俺に聞いてくる。
「なあ、エンドウが知りたいって、何が知りたいんだ?お前の事だ。恐らく「常識」を知りたいんだと思うが。」
どうやらラディは段々と俺の事を把握してきているようだ。鋭い所を突いて来た。
「ああ、そうだ。魔石に関しての事と、あとそれから魔法陣をソレに刻む技術ってヤツを知りたいんだ。船を造るって事になったら魔石を組み込んだ動力を狙って作ってみたいんだよね。」
魔法陣の効果やその種類、それらをどうやったら学ぶ事ができるのか?
これらを俺が知る事ができれば便利な道具が作れるかもしれない。
そうしたら冒険が、旅がもっと快適に変わるだろうきっと。
「この街に確か小さい工房があったか?そこが潰れて無けりゃ教えを請いに行ってもいいんじゃねーか?急ぐ訳でもあるまいしよ。」
カジウルはそう言ってくれる。そう、このダンガイドリの件は別段急いでいる訳でも何でもないのだ。
このサンサンの街に滞在する日数も決めていない。なのでここはのんびりと進めていくのが良いだろう。
「色々とやりたい事がちょっとずつ増えていくなぁ。あ、マルマルの方の魔力薬の様子も見に行ってこようかな。何だか忙しいなぁ。じゃあ明日はそれぞれやる事を決めてバラバラに動こう。それでその後は皆自由に過ごすって事で。」
俺はちょっとだけボヤいた後に、明日の皆の予定を話し合う。
と、しようとしたところで夕日が沈み切ってしまい周囲は暗くなってしまった。なので話の続きは宿でする事になった。
こうして就寝前に各自の動きを決めておく。用事を終わらせれば後は皆自由に行動してもいいと言う事を決めておいた。
観光するも良し、何か個人的にやりたい事があればソレをするも良い。
カジウルは漁業組合に行って様子を聞いてくると言う。ラディはもう一度だけ造船所に行って色んな船の値段を確認してくると言う。
マーミは俺の魔石の件について来てくれるらしく、ミッツはダンガイドリに関する情報を集めてくれるそうだ。
話し合いは終わり皆その夜はぐっすりと眠った。
そして翌日。昨夜に決めた事をみんなでバラバラにやりに行く。
で、俺はマーミに案内して貰って魔石の工房へと向かっている最中だ。
「エンドウは何を作りたいの?魔石と言えどもその大きさから、刻む魔法陣まで様々なのよ?船に組み込むってつもりらしいけど、一体どんなものを作るつもり?」
俺たちは細い路地を通りながら工房へと向かっている。どうやらその場所はかなり入り組んでいる場所にあると言う事らしい。
そうして次々に当たる曲がり角。そんな道を右左に複雑に行きながら俺はその質問に答える。
「水を吸い込んで、放出する。かなりの大容量を吸い込めて、高い圧力で噴出させる事ができる様な魔法陣を組み込みたいんだよね。それを船の推進力にしたいんだよ。もしくはスクリュー?」
コレに突然マーミが立ち止まる。俺はそれに後ろを振り返るとマーミはその美人な顔を渋面に変えていた。
「すくりゅー?って何よ?・・・はぁ~。またやらかす気なのねエンドウは・・・ぁ~もう分かってた事だけどさぁ~。あんた、魔法陣の「ま」の字も知らないのよね?そんなド素人が魔石に魔法陣を刻むなんてできる訳が・・・まあエンドウになら一発で出来そうだから嫌なのよねぇ~。」
ジト目でそう言われてしまう。コレに俺は意見を述べておく。
「いや、俺だって最初から上手くできるとは思って無いからな?ちゃんと学ぶつもりだし、しっかりと練習もする気だし、それで魔石が足りなくなったとか言うなら自前で何とか魔石を取り寄せるつもりだし。・・・ん?」
俺のこの言葉を「はいはい」と軽く受け流して再びマーミは歩き出す。
いつもマーミは俺にちょっと辛辣過ぎないだろうか?とちょっとだけ思うのだが、工房はもうすぐだと言われてその考えを引っ込める。
そうして目の前に出現したのは、まあ何処からどう見てもこの街のいたるところに建っている普通の家だった。
白い壁、そして屋根はうすら汚れていたが青である。入り口と見られる扉には別に看板やらも無く、只々普通のそこら辺にある家と変わらない。
「あら?もしかして・・・潰れた?前に来た時にはそんな様子は無かったんだけど。」
つむじ風が前回に来た時が何年前の事かは知らないが、マーミが感じるには潰れた可能性があるらしい。
でもとりあえずは確かめてみない事には始まらないのでドアをノックしてみる事に。
「前は看板が出てたはずなのよね。繁盛してる、って感じでも無ければ、でも客がいない、って感じでも無くてさ。」
この時ノックから二十秒以上経っても反応が無かったのだが、俺は魔力ソナーでこの家の中の様子を探ろうとした時に扉は開いた。
「誰だ?今は仕事を受けていないんだ。注文は遠慮してくれ。」
出てきたのは無精髭を生やした白い肌の瓶底眼鏡を掛けたアフロヘッドのオッサンだった。
インパクト充分なその見た目を俺はこれから先忘れる事は無いだろう。それ位にキャラが濃いオッサンは三十代に見える。
「すみません。ここが魔石の加工工房で合っていますでしょうか?私はエンドウと言います。宜しくお願いします。」
丁寧に俺は挨拶をして頭を下げる。するとこの男は俺を怪訝な目で見てくる。
しかしマーミが俺の側にいた事でソレを少しだけ緩和していた。
「あんた、以前に魔石を頼んできた冒険者のパーティーの人だったか。」
「あら、覚えていたのかしら。そうよ。で、仕事を受けていないってどう言う事?」
マーミは単刀直入、用事を済ませるための最短距離をいくためにズバッと聞きずらい所を真っ先に突っ込んだ。
「ん?言葉の通りだ。少々前に大仕事を受けて金は有り余るほどにある。仕事を休んで今は休息中だ。無理に仕事をしなくとも生活ができる位の大金だったからな。」
「で、看板も出さずにこうしてダラダラしてるって訳ね。エンドウ、諦めた方が良いんじゃない?」
俺はこの大仕事と言うフレーズでピンときた。
「船に組み込まれているのかな魔石が?そうすると、どんな魔法陣を刻んだのか、魔石がどれくらいの大きさだったのかとか知りたいな。」
この俺の発言に男が鋭く睨んでくる。
「お前さんあの船を見たのか?そうか。で、俺の事を知ってこうして近づいて来たんだな。使われた魔石の大きさもも、それに刻んだ魔法陣の事も話してはやれんぞ。守秘義務がある。残念だったな。」
「え、いや、違いますよ。別に貴方の事を調べたって訳でも無いし、調べようとしてもいないです。」
コレに「は?ならなんだ?」と眉を顰められるが、ここで俺の用事を伝えるのが早いと思って言う事にした。
「魔石の事を知りたいんです。魔法陣の事も。そしてその刻み方?加工方法も。ド素人がソレを誰の導きも無く一からやろうと思ったらどれだけの物が要求されるか分かったモノじゃないですよね。だからそう言った道の人に教えを請いたいと思いまして。このサンサンには観光で来たんですけど、そう言ったモノを学ぶのならば工房があると教えて貰いまして。こうして御教授願えないかと訊ねた次第でして。」
この説明に溜息をつかれる。でも「呆れた」と言った感じでは無く、警戒心を解いた、と言った感じに近い。
「船に使われた魔法陣やら魔石の資料なんかは手元には無いから俺が口を割らなきゃ大丈夫か。注文を受けてはいないが、そう言う話なら教えてやってもいい。最近はちょっと暇が過ぎて退屈していた所だ。職人が増える事は俺も嬉しい。入ってくれ。茶でも出そう。」
こうして工房の中に入らせてもらえる事になったのだが、俺は驚いた。
そこら中に魔石が転がっていたからだ。でも何かがおかしいという感じだった。
「ふむ、自己紹介がまだだな。俺はロヘドと言う。ん?ああ、床に散らばってるコレらが気になるか?後で説明する。まあそこら辺の椅子にでも座っていてくれ。」
そうしてこの職人、ロヘドは工房の奥へと入って行った。どうやらお茶を用意してくれるらしく、彼が戻って来る間に俺は床に散らばった青く光るガラスの様な「欠片」を手に取る。
「それは魔石の欠けたモノね。こんなにそこら中の床がキラキラ光って見える位に数を熟してるって事よ。この欠片がこうして掃除もされずに散らかってるのにも訳がある、って前に聞いた事あるわ。魔力がドウノコウノとか、うーん、忘れた。」
マーミはそう言ってこの工房の魔石の欠片の散らばり様を説明してくれた。
恐らく前にこの工房で水の魔石を頼んだ時にでもその理由を聞かされたことがあったのだろう。
すると戻って来たロヘドが詳しくそこを教えてくれる。
「魔石はな、形を整える作業ってのがある。その時に職人が「角」を落とす時に欠片が出る。それらがこうして床に散らばっているのはな、魔法陣を刻む際に魔力の安定化を狙うためだ。散らばった魔石の欠片に魔力共鳴が起こる。するとその込めている魔力が魔石へと上手くなじむ効果を狙える。俺はそう言った共鳴が無くても確実に刻める腕はもうあるんだがな。掃除が面倒なだけだ。確かに共鳴現象があると楽ではあるがな。」
俺はこの説明に「へぇ~」としか返せない。まだ実際にその現象をこの目にしていないので実感が無いのだから。
「確か魔石って魔力を吸収する鉱石だとか聞きましたけど、なんだか良く分からないんですよね。」
俺がそうド素人な発言をするのでロヘドはオイオイと心配な顔をこちらに向けてくる。
「お前さん本当にそこら辺の知識が全く無いのか?呆れたモノだ。これから職人を目指す者がどういう神経をしている?」
「あ、誤解をなさっているみたいなので訂正を。職人になる気はありません。申し訳ないんですけど。個人的に「知りたい」と言ったやつでして。ああ、講習料はお支払いしますよ。こうしてその知識を教えて貰うのですからそこら辺の対価は金銭でお支払いします。」
俺がそう言ってロヘドの言葉を否定する。すると急激に機嫌の悪そうな表情になってしまった。
まあコレには無理も無いなと思ってしまう。どうやらロヘドの言葉から察するに魔石に魔法陣を刻む職人は全体数が少ないようだからだ。
職人が増える事は嬉しいとロヘドは言った。なので職人になる気の無い人物がこうして「教えてくれ」と来訪したのだから、これから講義をしてやろうとしていたロヘドのヤル気が削がれると言うのも分かる。
「おい、金は要らん。聞かせろ。お前は何で個人でそんな事を考えた?おい、アンタは付き添いなんだろ?どうしてこんな奴の案内を?理由は?」
俺とマーミへ鋭い視線が向けられた。どうやら怒らせてしまった様で流石にコレには俺も不味いかなと思ってしまった。
もしかしたら教えて貰えないかもしれない。金は要らないと言われてしまった。それは俺のこの「教えてほしい」と言う頼みを断られたのと同じだ。
でもまだ望みはあるのかもしれない。只々俺を追い返すだけならこうして「訳を話せ」とは聞いて来ないだろうからだ。
「知らない知識があるとして、それを理解したいと思う、実際に自分でもやってみたいと経験してみたいと思いつく。それを行動に移すと言うのはおかしな事でしょうか?」
俺はド正直にそう口に出してしまった。




