整理しなくちゃいけないんだけどなあ
食事はすぐに済む。今日はまだまだ時間が有り余っていて日も高い。このまま先に進んでもいいのでは?と思えなくも無いのだが、皆で決めた事は守ろうと言う話であるので、思い思いに皆は自分のしたい事をしている。
カジウルは軽く剣を振ってどうやら「調整」をしているようだ。
ラディは椅子に深く腰掛けて何やら目を瞑って集中している。
マーミはシーツを敷いてそこに寝転がってポケーっと日光浴だ。
ミッツは俺が前に教えた事をメモしてある紙を熱心に読み返して復習していた。
で、俺はと言えば頭を働かせている。椅子に座ってあーでもない、こーでもないとブツブツと腕組したり天を仰いだりしている。
何を考えているのかと言えば、インベントリ内に入れてある魔物の処分についてだ。
ダンジョン内で倒したキメラに、牛魔人、それとサイクロプスに、ハイオーク、ドン・モーグルも。
「あ、確かオーガもある。なかなかに処分が難しいぞコレ?うーん?一気にサンネルが買い取ってくれたら整理も付くんだけどな?」
「なに独り言さっきから。私たちに言えない事?・・・あーそうか。それの問題ね。忘れてたわねずっと。」
俺の不審な動きがどうやらマーミにお気に召さなかったようでちょっと機嫌悪そうな声で俺にツッコミを入れて来た。
しかし俺が「アレに入れっぱなしの討伐魔物が、ね」と説明しようとしたら直ぐに納得してくれた。
「そういやこの間どうしたのよアレ。確かクスイに売るの助けて貰うって言ってたわよね?どうなったの?」
マーミがそう追及してきたので正直に答える事にする。他の三人にも聞いてほしかったので俺は少々大きな声で言う。
「サンネルって言う魔物の素材を扱う商人を紹介して貰って、一応はトレントを今回は買ってもらったよ。えーと、硬貨で貰うと大変だと思ったから、一応一時的に与っとくって感じの判断で俺のカードの方に金額は全部入れて貰った。コレで大丈夫だった?」
この説明にマーミは「一体いくらだったのよ?」と質問を重ねてくるが、俺はソレを「分からない」と答える。
「ちょっと、何でわかんないのよ?あんた騙されてる?まさか詐欺にでもあったんじゃないでしょうね?」
睨まれた。マーミもクスイが紹介したと言うその商人を疑いはしたくないのだろうが、俺が金額いくらか分からないと言ったモノだから不安になったのだ。
これは一応サンネルの名誉にかかわる事なので俺はちゃんと弁明する。
「えっと、サンネルは悪党商人じゃないって事は先に理解してくれ。んで、額を見ないで契約をしたのは俺だから。騙されてもいないし、不当に安い値段で買い叩かれた、って訳でも無いから安心してくれ。この金は後々にギルドの到着したら分配するし、その時に金額は確認しようじゃない。あ、入金された履歴って見れたりするの?」
俺は未だにこのカードの使い方がイマイチ把握できていない。
コレで金を下ろしたのは確かまだ一度だけ。なので他にはどういった機能が付いているかなどは知らないでいる。
マーミからの説明によると、どうやらそこら辺は追う事ができるらしい。なので後で金額を確認したうえで買取された額が妥当だったのかと、それと皆でそのお金を分配する事をこの場で相談した。
翌日の五日目の朝。出発の準備を始める。先ずは荷物の片付けからだ。
もう朝食は皆摂っている。身だしなみも整え、後はテントやら、テーブルやら椅子やらなどをしまうのだが。
「周りの目が有る。専用の収納にしまってそのまま人の目の無い所でエンドウにしまって貰おう。」
ラディは仕方が無いと言ってテントを畳む。俺もテーブルと椅子を折りたたんだ。
これは結構いいお値段の折り畳み式の持ち運び便利なやつだ。バッツ国でカジウルが調子に乗って買い揃えた物である。
「持ち運び」がしやすいとは言え大荷物である。当然俺のインベントリにしまう事になったのだが、ここでこの折り畳み機能は役目を果たす。
周囲の他の旅人たちは俺たちを見て「金持ちだ」「折り畳み?ああ、冒険者か」「アレあると便利だけどその分ね」「馬車の旅なら良いんだけどさ」などとチラホラリとそれぞれの意見が漏れ出ている。
ここで俺たちが荷物も持たずに手ぶらであったりしたら不審に思われると言うモノだ。
しっかりとここで「旅の荷物を片付けている」という印象を与えておくのはカモフラージュとしての効果だ。
ただモノじゃない、周りにそんな印象を与えると、その中から俺たちに付き纏おうとする輩が出てくる確率も大きくなる。
お近づきになって「おこぼれ」に与れないかと言ったゲスな考えを持つ奴が付き纏ってきたらうざったくてしょうがない。
互いに利益を享受する事ができる間柄、そんな相手が近づいてくるのであれば歓迎ではあるが、そう言った人物は大概が大物だったりする。
大物の人物はたいていが「勘」が鋭い。そうなるとそう言った人物と関係を持てばややこしい事に巻き込まれないとも限らない。
大体がそう言った人物なんて裏に何かしら抱えていたりするものだ。裏じゃ無くとも表にだって。
普通を装う、そしてそう言う人物からの興味を持たれない様に、あるいは接触を受けない様に。
ここまでの道中は一応は近寄られたりはしなかった。恐らく旅の始めだったから。
しかしもう目的地まであと今日含め二日で到着予定だ。なので普通ならここらでこういった輩も出てくる訳で。
「なぁあんたら。水を分けちゃくんねぇか?代金は払うからよ。おたくらは余裕あるだろ?見てりゃ分かるそれ位は。すまねえが、助けると思って半日分お願いしたいんだがな?」
ソレは一人の商人と思わしき男だった。行商と言うものなのだろう。
その男はもう出発の準備を終わらせて背に大荷物を背負っていた。コレで水も持ち歩かねばならないのだから大変だ。
どうやらこの男は馬車持ちでは無い。人力で荷物を運んであっちへこっちへの旅烏の様子だ。
「ちょいとばかり多く仕入れをしちゃってな。運ぶのに余計な体力を使っちまって。水の消費が計算以上になっちまったんだ。お願いだ。この通り。」
どうやら俺たちの向かう場所と同じ所にこの男も向かうらしい。
旅は道連れ世は情け、俺は男を他の旅人に見られないような場所へと連れて行く。
「水を入れる物を出してくれ。ああ、コレの中に入れればいいのか?ほら、どうぞ。」
その男は俺を訝し気に見つつも皮で作られた水筒を差し出してきたのでそれを満杯にしてやった。もちろん魔法で生み出した水で。
イメージは水道水だ。蛇口を捻って水がジャー、満杯にしたらきゅっと止める。コレに驚きの目で俺を見る男。
「おお!アンタ魔法使いなのか!すまねえな、貴重な魔力を使わせちまった。しかもこんなに貰っちまって。金は割増しで払うよ。・・・え?要らない?タダ?いやいや、そうはいかねえよ!」
俺は別に金を欲しかった訳じゃ無い。この男に情けを掛けただけだ。
なので俺はここで遠慮をするなと言って金を受け取らずにその場を離れる。
「あんたの所で買い物する機会があったらそん時は値引きしてくれ。それでいいさ。」
そう言って俺は片付けが終わった皆の所に戻る。で、マーミに説教を食らった。
「あんたね、安易にそう言う事するのは止めなさいよ。まったく。ちゃんと「水」の話はしたでしょうが?」
コレに俺は素直に「はい、スイマセン」と反省の言葉を口にする。でも後悔はしていない。
こうして俺のお説教が終わってから出発した。
五日目は何事も無く順調だ。街道は至ってスムーズで他の旅人がごった返している訳でも無く、だからと言って俺たち以外の姿が見えないと言う訳でも無い。
魔法で身体能力向上をできる俺たちにとって、今のこのペースでの旅は非常に遅い速度と言える。
本気でダッシュしたらおそらくは二日半、あるいは三日でその目的地へと到着するだろう。
その光景は真面目に考えたら非常に異常である。そんな速度でもし街道を爆走していたら、その噂はたちどころに他の旅人たちに広まり、そして今頃俺たちは有名人と化してしまっていただろう。
で、爆走の話はさておき、未だに俺は次に向かっている場所がどんな所なのかを教えて貰っていないので、段々とワクワクしてきていた。
この世界に来て新たな土地。新たな経験。まだ見ぬ景色。それらが俺の心に期待となってドンドンと膨らんで童心が蘇る。
思わずと言った感じでニコニコしながら上機嫌で歩く俺にカジウルが一言。
「子供かよエンドウは。そんなに楽しみか?ならちょっとだけ教えとくかね。」
カジウルがネタバレしてこようとした。コレでどういった土地に向かうのかの全貌を話されていたら俺はこの時に怒っていたかもしれない。
しかし、そうじゃ無かった。旅の最終日、その土地、その街に着く前にある小高い丘を越えるといい物が見えると教えてくるだけだった。
何が見れるのかと俺はコレに余計にワクワクを隠せなくなる。
「エンドウ、もうちょっと速度を抑えろ。歩く速度がさっきから上がり始めてるぞ?」
ラディに呆れられながらそう注意された。俺もコレにはちょっと恥ずかしくなって自重する。
「あー、すまんすまん。ちょっと楽しみ過ぎて。いやー、こんなにドキドキワクワクする旅は久しぶりだ。」
何処の「遠足が楽しみ過ぎる子供だ」と自分にツッコミを入れる。心の中だけで。
「今までエンドウってどういった人生歩んできてるのか謎よねぇ?あんたの事話しなさいよ。どう言う生活してきたのさ?」
マーミは俺の身の上話をしろと迫る。しかしこれをミッツは止めに入る。
「マーミ、貴女にも人に話したくない秘密なんていくらでもあるでしょう?無理に聞こうとするのはいけません。」
この場合俺の事を話した所で信じちゃくれない、信じては貰えない話である。
俺はそもそもこの世界に最初から生きていた人間じゃない。それを話したらつむじ風の皆はどう俺を受け止めるだろうか?
師匠には話した。あの時は自分の味方になってくれる人物が師匠くらいしかおらず、しかも魔法に精通しているからこそ、俺の身の上話をどう判断するかも聞いておきたかった。
ソレに自分の内にずっと秘め続ける事に負担があった。誰かに話したい。話を聞いて欲しい。
どうしてこうなったのかが分かるかもしれない。これからどうしたらいいか、元の世界に戻れるのか?
そう言った事をこの世界の住人からの意見を欲しかった。相談すれば俺の身に起きた不可解、不思議、不条理がもしかしたら解るかもしれなかったから。
でも、その結果は芳しくなかったが。何も分からない、ただそれだけが分かった。
でも良かった点もある。頭の中の整理もついたと言っていい。
どうせならこの世界を堪能する。その答えが導き出せた事は良かった。
混乱し続けているだけでは今後の事など決めようがない。なのでわりかし早い段階で心を落ち着かせる事ができたのは幸運だったのだろう。
「あー、俺はね。書類仕事をずっとしていたんだ。で、その仕事の方も一段落して。色々とまあその後に話をすっ飛ばすけど、こうしてこちらに来た事で、今まで頑張った分を取り返そうかなってね。」
嘘では無い。大分オブラートに厚く包んで入るが本当の事を話している。
そしてまあ定年、そこからいきなりこの世界に来てしまった所は端折り過ぎだが。
それで、この世界で自由に生きようと思っているのは事実だ。
「ずっと引きこもって魔法の本でも読んでたのか?それならエンドウのチグハグさは納得だ。」
カジウルはどうやら勝手に勘違いして、勝手に納得してくれた。
ソレを俺は否定はしない。したところで「じゃあ何なんだ?」となってしまうから。
他の三人もコレにどうやらなるほどと言った感じで頷いていた。
どうやら勝手に全員俺の事を決めつけたようだ。引きこもりだった、と。
ある意味では確かに定年までは「会社に引きこもり」みたいなものだ。
会社員として仕事、仕事、仕事であった日々。会社と家の往復で別段派手な趣味も無く、そして人の一生として見ても地味なものだった。
世間知らず、そんなモノであったのだろう。確かに流行などと言ったモノは興味が無かったし。
そして今の俺の皆からの評価は「引きこもり」で勉強ばかりだったので魔法の腕前がおかしい。
その代わり全く外に出て世界を知ろうとしなかったので世間に疎すぎる。
どうやらコレで俺へのイメージは固まったらしい。
「道理でエンドウは世の中てものを知らない訳よね。やっと納得したわ。」
マーミはヤレヤレと言った感じでそう溜息を吐いていた。
こうして無事に五日目の野営地に入る。予定通りよりも少し早い。
ソレは俺がルンルン気分でちょっとだけ足早になってしまったからだ。
コレに皆苦笑いと言うか、生ぬるい笑顔で見守ると言うか。俺はソレを全く気にせずに鼻歌交じりで歩いていたので皆はその時には「どうしようもない」と呆れていた。
こうして翌日最終日の六日目である。一晩寝て冷静になった俺はふと気づく。
朝食も終えて、野営の片付けも終えて出発してから暫くしてからだ。
「若干斜め?あ、丘を登ってる?大分先が長いな。いつ頃に「いいもの」ってのが見えるんだカジウル?」
俺は微かに、しかし確実に坂道になっている街道を歩きながらカジウルに聞く。
「おう、この先はまだまだこのままだ。で、昼を過ぎた辺りか。そうなればもうソロソロって感じだな。超えれば一気にスゲエぞ。」
カジウルはそう言って期待を煽ってくる。それに俺はワクワクが膨らんで速足になりかけるがソレを必死に抑えた。
この街道は別に俺たちだけが歩いている訳では無い。他の旅人たちもいる。
このほかの旅人たちは、何かしらの用事で、あるいは観光と言う娯楽で向かうのだろう。
商売行商であるのか、馬車が通る。この街道は大分整理されていて大分デコボコが少ない。スムーズに馬車は俺たちを追い抜いて行っている。
こうして歩き続けて陽が空のてっぺんに差し掛かる辺りになってちょっとだけ傾斜がきつくなった。
「もうソロソロね。今日は運が良いわね。晴れた日のここからの景色は絶景なんだから。」
「私もこの景色は初めて見た時は目が潰れるかと思う位の眩しさでした。」
マーミとミッツがそう言葉にする。そう、とうとう到着したのだ。
俺は逸る気持ちをグッと堪えてゆっくりと一歩一歩踏みしめつつ進み、とうとうその景色に出会う。
「うおお?コリャすげえな。まるで・・・ギリシャのサントリーニ島だな・・・」
この絶景を見たい知りたい人はインターネットで検索!
俺はこの景色を写真に収めたいと思ったのだが、この世界にスマホは持ってこれていない。
コレにチョとだけ落ち込みかけたが、これだけの美しい景色を忘れる何て事はあり得ないだろう。
一目見て目にも脳にも焼き付く景色だ。強い日の光が白い密集する建物、家々に反射して眩しさがヤバイ。
しかも鮮やかな青い屋根がまるでサファイヤかの如くに光る。
俺はこの光景にどうやら圧倒されて唖然とし続け、ピクリとも動けなかった。
「ほら、止まってないで行くぞ。エンドウのそんな姿を見るのも面白いが、他の旅人たちの邪魔だ。」
ラディはそう言って俺へと前に進むように促してくる。どうやら大分高い所まで上がってきていたようで、ここからは段々と下に行く流れだ。
ここから見える景色は海も目に入る。素晴らしい程の青だ。海と空が違う「青」で地平線で分かれている。
「いやあ、俺が見て来た景色で一番の光景だ。凄いなぁ。ああ、海風かな。潮の香。眩しい太陽。絶景かな、絶景かな。」
下り坂であるので少々速度が出てしまうのは御愛嬌。俺はこの海沿いの街に早く入りたい気持ちがあふれ出る。
そしてとうとう街の入り口へと到着した。そこには街門に「サンサン」と書かれていた。
「まさかと思うが、これ、この街の名前?何だろうか?笑う所なのか、あるいは名前のセンスを突っ込むべきなのか?」
俺はそんな独り言を呟く。しかしそんな思考はすぐに吹き飛んだ。美味そうな匂いがこちらへと漂ってきたからだ。
「へい!そこの皆さん!うちの自慢の焼き魚はどうだい?香ばしくパリッとするまで焼いた皮!ふっくらした身を噛めば噛むほど滲み出る旨味!この街に来たらこれを最初に食わなきゃ始まらねえよ!観光なんてその後だ!酒も売ってるから思う存分飲んで食って行ってくれよ!」
この気持ちのいい呼び込みにごくりと俺は唾を呑み込む。
うたい文句の通り、香ばしい匂いとその煙が風に流されて店の厨房からだろうか?こちらへと流れてきたからだ。
「よし、そんじゃあここの名物を食って昼飯と行こうぜ。」
カジウルはそう言って店を指さす。コレに皆も同意した。
「ここの魚はどれも美味いが、白身魚が絶品でな。酒も他と違うのが揃ってる。この店は有名でな。」
ラディもどうやらこの美味そうな匂いで腹の虫が治まらなくなったようだ。ラディには珍しく、すぐに食いたい、と言った表情が分かるくらいに出ていた。
「お酒はもう私たちも自分で冷やせるしね。キンキンに冷えた奴、この陽気で飲むのって最高じゃない?」
マーミはどうやら自分で酒を冷やせるようになったらしい。俺は教えていないのだが。
「前に何度か来た時もここでの食事でしたね最初は。美味しいからついつい食べ過ぎになるんですよね。」
ミッツはその時の事を思い出したのか苦笑いをしつつも「今日もそうなる」と確信を持っているようだった。
こうして俺たちはこの店で食事を摂る事にした。そしてどうやらこの店には個室が備え付けらしい。
特別料金を払ってそこへと案内される。で、メニュー表が無い。
「もしかして、今日獲れたオススメってのが出てくる感じか?」
俺は時価かな?とちょっとだけ考える。朝一で競りにかけられたマグロを掛け声一つで買い取っていく業者の姿が思い出された。
「なーに、俺たちゃ今じゃ金持ちじゃねーか。贅沢しようぜ。こんな事は前までだったら考えた事も無かったからな!」
「こうして飯を食うのに遠慮しないで済むのはエンドウのおかげだがな。」
「カジウル、そうやってあんたはいつも調子に乗って金遣い荒いでしょうが。いい加減痛い目見て少し反省すればいいのよね。」
「ラディの言う通りです。エンドウ様がいなければ、今こうしてこの店で個室で食事を摂るなんて事はあり得なかったですからね。」
その勧誘をしたのは私だと言いたげにマーミは腕を組む。
「さて、いきなり何だけど、イイかしら?その金の件なんだけど。エンドウの「アレ」の中に入ってるブツを捌き切った時に得ている金額、どうするの?」
これは要するにつむじ風として、これは「山分け」なのかと言いたいらしい。
そしてまだマーミは続けて意見を言う。
「私は「受け取れない」わ。だって私は何もしなかったもの。全部エンドウのおかげでしょ?だから私は受け取れない。」
どうやら冒険者としてのルール、あるいは自らの矜持を持ってして受け取れないと言いたいらしい。
コレに頭が固いとカジウルが突っ込む。
「前にエンドウは言ってただろ?俺たちゃ仲間だってよ。んで、仲間なら分け合うのが普通じゃねーか。マーミ、難しく考えねーで貰っとけ。」
ここでどうやら料理ができたようで運ばれてくる。と思ったらどうやらコース料理ッポイ。
とは言え、高級な店で食べる様なマナーは無いらしい様子だが。
そして出てきたのはカルパッチョ、見た目がそのままなやつだ。
しかもどうやらこの料理に合ったお酒が付いてくるらしく、小さなグラスに注がれた透明な黄金色に輝くお酒が一緒に出て来た。
「その話は後にしようぜ。先ずは美味い料理と酒を楽しもう。ここのは絶品だ。食えば気分は最高になる。」
ラディは早速目の前に出されたソレを一口食べる。そして小さく「うめぇ」といつものラディらしからぬ緩い表情になる。そして酒も一口。
どうやらラディは大分グルメなようだ。バッツ国で紹介されたゴズの店もそうだが、何処の土地では何が美味い店かを把握しているのではないだろうか。
「まあ、こうして料理が来ちゃったし、食べましょうか。っていうか、ここの店の料理は食べたら無言にならざるを得ないんだけどね。食べるのに夢中になってさ。」
マーミも料理を口にして「うーん、美味しいわ」と舌鼓を打つ。
「お酒も冷やすとまた違った味わいになるんですね。常温よりよほど冷やした方が美味しく感じます。」
ミッツもどうやら料理をもう食べてお酒も一緒に堪能している。そして皆やはり酒を冷やす事をマスターしていた。
最初に俺がキンキンに冷やした酒を飲ませた時のインパクトが余程大きかったのだろう。
魔法はイメージに左右されるらしい。なので「衝撃」と言った面で言えば、彼らの魔力で酒を冷やすのにこれ以上無いイメージとして刻み込まれているのかもしれない。
魔力を武器に流す事もできるようになっているので、これくらいならもう容易い事なのかもしれない。
こうして俺たちは次々順番に出てくるこの街、この店の自慢の料理と酒を堪能しつつ食事を終えた。
で、そして食べ終われば話の続きである。
「で、だ。エンドウ。俺はこいつらが何を言おうが、金は受け取らせるつもりだ。でも、理由があった方がやっぱ受け取りやすいってもんでよ。なんかいい案あるか?」
出てくる料理に合わせたさまざまな味のお酒が出て来たので結構な量のアルコールを飲んで居る。
中にはかなり酒精の強い物もあった。しかしそこは冒険者。ほろ酔い程度で酔いはそれ以上は上がっていない。
「そうだなぁ~。仲間だから、って言うのが駄目ならば、無利子で、返却は期限無しの貸付ってどう?あ、面白くない?」
俺のアイデアはマーミには不評だったようだ。ブスっとした顔になって俺を睨んできた。
「それって普通に山分けするのと変わらないじゃない。あー、もういいわ。それでいいわよ。まったく。」
次には呆れた顔でお手上げと言ったジェスチャーをマーミが取る。
俺も酔っていた状態で半分冗談で言ったわけだが、すんなりとコレが通った事に苦笑いが漏れた。
皆はお酒の力と美味い料理の力で上機嫌になっていたので、終始楽しい雰囲気でお金の山分けの件はこうして早くに決まった。
お酒と美味い飯の効果は絶大だ。偉大である。
腹も満ちて、さあこれからどうしようかと言った所でまずは俺は提案する。
「冒険者ギルドに行って早速この間のトレントの分の分配をしたいんだけど。観光するにも皆に資金は早めに渡したいしね。マーミの気が変わらない内に。」
コレに一言余計だとマーミに怒られた。こうして俺たちは先ずはこのサンサンでの活動資金、もとい、「遊ぶ金」を下ろすためにこの街のギルドへと向かった。
その道中にラディが話を振ってくる。
「なあ?ランクの件なんだが、これからどうして行くか、皆決まったか?」
そう、俺たちはまだ冒険者ランクの事を後回しにして保留していた。
「あー、こうしてすんなりとシーカク国から離れる事ができちまったからな。本来ならなぁ。もっとバタバタしてるか、もしくはもっと慎重に国を出てただろうしなぁ。」
カジウルはウンウンと唸っている。どうやらランクの件は今まで深く考えもしなかったようだ。
そしてマーミの意見としては。
「そうね。上げるに越したことはないけど、それを何時に、どんな状況で、どれくらいの頻度でして行くか?ね。」
「そうですね。エンドウ様が居ればランクなどと言うモノが霞んで見えてしまいます。エンドウ様の素晴らしさは既に最高ランクなどを超えた所に在りますから。」
一気にランクを上げる事に因って起こるだろう世の中の反応を懸念して、上げるタイミングが重要だとマーミは言う。
ミッツは俺の事を妙にアゲアゲしてきているがソレはスルーだ。どんどんとミッツが「狂信者」になっていっていないか?と心配になっていくが、それを俺は全力で見ない事にする。
そんな話をしつつもギルドに到着した。中に入ればそこは何処の南国リゾートだとツッコミたい内装だった。
外観はこの街の景色に溶け込む白い壁、青い屋根で目に眩しかったが。
中に入れば冒険者だと思われるどいつもコイツもの恰好が「何処のハワイアン?」と言ったモノで。
どうしてもその衝撃で俺は入り口で止まってしまった。
コレにミッツが横から説明をしてくれる。
「ここの冒険者は主にこの格好です。海沿い街ですので、依頼はその「海」関連なのです。重い鎧は着ませんし、街の気候も比較的暑いのでこういった格好がこの街の冒険者には主流なんです。」
コレに俺は「うん」としか返せない。理由は分かった。事情も分かった。
確かに俺以外の皆はこのサンサンの気候の暑さに服装を緩くしていた。
「ムキムキ小麦肌にパツパツのアロハシャツとか、どうなのであろうか?ハーフパンツで脛全開。ある意味男らしい、っちゃ、男らしいけども。」
俺からしてみれば何処からどう見ても、どいつを見ても「ムキムキチャラ男サーファー」にしか思えないのだった。




