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さあ、狩りの続きだ

 翌朝である。皆は同じ時間に同時に起きて来た。それは別に示し合わせていたのではなく、どうやらたまたまだったらしい。


「おはよう。じゃあ飯にしようか。準備するからちょっと待って・・・」


 俺は台所に立とうとして声が掛けられた。


「私も手伝います。この装置はどうやって使えばいいんですか?教えて頂ければ私も料理できますから。」


 ミッツがそう申し出てきてくれた。俺はソレを受けてミッツにガスコンロの使い方を教える。


「凄いですね・・・燃える空気を出してこうして調理用の火が自由自在なんて・・・」


 ミッツは火に掛けた鍋でスープを温めつつ、そう言葉を漏らす。

 昨日に余ったスープを温め、パンの準備、そしてステーキを焼く。

 それらが出来上がったら食卓へ。当然昨日にインベントリからテーブルと椅子を出してあるのでそこへと運ぶ。

 コンクリコテージ内は家具が充実している。当然俺の魔法で周囲の木を変化させて加工して作った代物である。

 ソファーも完備、ベッドも当然、部屋のドアもちょっとデザインの凝ったモノを造って取り付けた。


「もう、冒険者なんてしないでコレで食っていけるじゃんエンドウは?」


「あのねカジウル、私がエンドウを誘ったのを根本からひっくり返すような事言わないでくれる?」


「そうだな、もう冒険者やめてもエンドウならどこでもやっていけそうだ。」


「駄目ですよラディ。私はまだまだエンドウ様から教わりたい事が山ほど有るんですから。でも、その恩をどうやって返せば良いのかまだ分からないんですけどね。」


 こうして騒がしい会話をしつつも朝食は終わる。


「さあ~、今日でちゃっちゃとハイオークを狩り尽くしてここでダラダラ暫く過ごそうぜ!」


「快適よねぇ・・・森の中だから凄く静かだし、呼吸も何だか楽だし。」


「空気が淀んでいないからか空気が美味いぜ。だが、ここに何時までも居るってのはできないがな。」


「そうですね。この件が終わればもうそろそろ時期に入り始めるでしょうから、変な言い方になってしまいますが、戻り頃、と言った具合でしょうか?」


 ミッツがそう言った事で俺はこのバッツ国にこうして居る理由を思い出す。


「あーそう言えば、マルマルからこっちへ来たんだった。もうそろそろ落ち着いてきてるのかね?向こうは?」


 俺のこの言葉にカジウルはあっけらかんと言い放つ。


「そいつは分からんが、駄目なら駄目でこっちに鞍替えすればいいんじゃねーか?難しく考えねーでバッツ国に拠点を移しゃいいさ。」


 コレに俺は思い出す。そう言えばすぐに行って様子を見て帰ってっこれる手段を持っている事を。


「あー、戻る前に俺が一旦向こうに行って様子を確認してくるのがいいか。」


 コレにマーミだけが未だに苦い顔をする。どうやら俺のワープゲートはまだまだマーミは受け入れられていないみたいだ。

 カジウルもラディも「ああ、そうした方が良いか」と受け入れて、ミッツは「エンドウ様は万能です!」と俺を何やら持ち上げる発言で。

 締めはマーミが顰めた顔で苦々しく呟く。


「終息してればいいけどね・・・」


 この言葉に全員が苦笑いだ。実の所マーミと同じ内心で皆はいたらしい。


 こうして皆は出発の用意をして準備は終わる。そうして意識を入れ替えて外に出る。

 気合は充分、ラディは早速昨日教えたレーダーを拡げていく。


「あー、昨日は大分遅くまで修練したんだが、まだまだこれだけじゃ足りないな。」


 ラディの魔力は大分薄くできており、俺からはもう何も言う事は無いと見えた。

 そしてその広げた距離もかなり広く、半径で百メートルはザっと出せている。

 多分これはラディだからこそできた事だろう。これだけ出来たらもう充分だと俺には思えたのだが、どうやらまだラディは納得いっていない感じだ。


「エンドウはもっと凄いだろ?だったら俺もソレを目指して悪い事は無い。」


 向上心が旺盛で大いに結構である。無いよりかはあった方が良い。ここでもういいか、と妥協しても申し分無い出来であると言えるが、それでもそれ以上を求めるのは良い事だ。


「じゃあ今日はラディに頑張って貰おうかな。むろん、俺も補助に回るから安心してくれ。」


 俺はこうしてラディのサポートに回る宣言をした。

 これを皆は反対しなかったので、そのままラディを先頭に森の中を行軍した。


 まず初めに来たのは昨日に二頭を狩ったあの現場だ。そこから周囲をまた続きで捜索していく。

 行動範囲がそこまで広がっていなければこの周囲に他のハイオークが居る可能性が有るからだ。

 むやみやたらと森の中を歩き回るのは得策では無い。だから、こうした手がかりから再び探し始める方が見つけられる可能性も高い。

 ソレは的中してラディが人差し指を唇に当てて静かにするようにとジェスチャーしてくる。

 ソレを受けて俺たちは即座に物音を立てないようにピタッと止まる。

 そして誰も声を発しない。ラディが集中し始めたからだ。

 それはおそらくレーダーに引っ掛かった存在が一体なんなのかを感じ取るためである。


 俺が教えた方法でラディは頑張っているらしく、眉間には相当な皺が寄っていた。どうやら上手くいっていないのか、はたまたまだ慣れていないだけか、険しい表情であった。

 そんな時間も一分程度。ラディは目を開いて長く息を吐いた。


「ふー・・・よし、行こうか。付いてきてくれ。数は一頭。ハイオークだ。その一頭以外に周囲には他のハイオークは感じられなかった。行こう。奴が動き出した。」


 どうやらラディのレーダーは実戦で初成功となった様子。だがそれは相当な集中をまだ必要だったらしく、ラディの額には玉の様な汗が幾つか浮かんでいた。

 でも誰もソレを突っ込んだりしないし、茶化したりしない。黙ってラディの案内で森の中を進む。


 そうして微かに視認できる距離まで辿り着いた。


「どうする?マーミの矢なら多分仕留められるだろ?昨日のはおったまげたからな流石に。」


 カジウルはマーミの弓矢の腕前が段違いで上がっていた事を口に出す。


「褒めてもいいのよ素直に。確かにこの距離でも確実に仕留められるわ。」


 マーミは昨日のスナイプでかなりの自信を持つに至ったようだ。

 俺の目には今、ハイオークが米粒程度の大きさにしか確認できないそんな距離にもかかわらず、それでもマーミは「確実」と言って胸を張っている。


「何処まで今の俺たちがハイオークに通用するのか確かめておきたい。マーミは危なくなった時の補助に回ってくれないか今回は。カジウルと俺で行ってくる。」


 ラディは力試しを提案する。冒険者にとってかなりの難敵であるそんな相手に、何処まで今の自分たちの力が通用するのかを確かめておくための試金石。この一頭をソレに使いたいと。


「良いのではないでしょうか?日に日に私たちはこうして魔力操作を鍛錬し続けていて「強くなった」と実感し続ける事ができています。定期的にこうしてソレを確かめる事は大事だと思います。いきなり調子に乗って後に、自らを計り損ねていて危機的状況に陥る、などと言うのは避けたい未来ですから。」


 ミッツはこの先の「つむじ風」の事も考えてラディの提案に賛成した。


「よし!いっちょやったるか!危なくなったらマーミもエンドウも割り込んで助けてくれよ?」


 カジウルはそう言ってゆっくりと、だが着実にハイオークへと間合いを詰めていく。

 その後ろをラディも続いて「よし!」と小声で気合を込めて付いて行く。

 俺とマーミ、ミッツもその二人から10m程の間を開けて付かず離れずを保つ。


 そうしてハイオークとの距離は縮まって、とうとう15mまでその差は近づいた。

 この距離は大分運良く近づけたという話らしい。ニヤリとカジウルが笑い、ラディは真面目な顔で頷く。

 そして二人は走り出した。そのダッシュは木々をすり抜け、木の根や草が生い茂る地面を難無く軽やかに蹴り、あっと言う間にハイオークへと到達。

 ハイオークが反応する時間は無く、胴と首へとザシュ、っと言った感じの擬音を感じさせる斬撃が入る。

「グオア!」といった感じの断末魔、響くのは只ソレだけ。

 その攻撃だけでハイオークは絶命した。当然だろう。首を八割方切り離し、胴は半分程まで剣が入ったのだ。

 首への攻撃はカジウルが、胴はラディがやったのだが、事前に相談もせずに見事な連携だった。


「まあ、こういった時はカジウルは派手な首の方を狙うって長年付き合っていれば分かってるからな。」


 仕留めた獲物を前に感心する俺の顔を見てラディが察したのだろう。種明かしをしてくれる。

 そしてこれだけの巨体を難無く仕留める事に成功したカジウルは喜ぶ。


「よっしゃ!こいつを一撃で仕留められるのであればもう大抵の魔物に通用する。俺たちは無敵だな!」


 調子に乗った発言をするカジウルにマーミは釘を刺す。


「避けられたらお終いだけどね。あんまり余裕ブッこいて返り討ちなんてされたら大笑いして見殺しにしてあげるから覚悟しときなさいよ?」


 身体能力向上を使える今はラディとカジウルのその速度に追い付ける魔物は居ないと思うのだが、それでも慎重さと謙虚な姿勢は必要だろう。

 不慮の思わぬ事故というのもが起きる可能性を見据えて行動をするべきだ。

 かなりの瞬間スピードを出せるようになっているからこそ、その時に起きてしまった事故というのは甚大になりやすいと思うべきだ。


「ここまで早い時間で倒せるのは既にランクとしてはAを超えているのでは?私たちはこの力を世間にバレない様に隠さないと混乱を招きそうですね・・・」


 突如として現れた新星、というキャッチフレーズはこのパーティ「つむじ風」は使えない。

 かなりの活動年月を持つこの四人がいきなりこうして突然変異の如くに強くなった事が知れたら、その秘密を知ろうとしてくる輩が、それを隠して近づいてくるかもしれない。

 俺たちを利用して強くなるだけ為れたら姿をくらまして、違う場所でデカい顔をしようとするかもしれない。

 そんなマネをされたらキッチリと制裁は入れる気ではいる。そんなクソみたいなマネはさせる訳が無い。

 そもそもそんな薄汚い狡い考えの輩では無く、純粋に「強さ」を求めて加入したいと申し出てくる冒険者も出てくるかもしれないが、そう易々と仲間に入れられるかと言えば、悶着が当然ながらにその時には起こるだろう。

 長く活動してきたこの「つむじ風」にいきなり強さ目的で加入をしたいと申し出られても「今まで見向きもしなかったくせに」と断る理由もある。


 いきなり有名になればソレに伴ってドタバタが起きる。そう言ったモノに巻き込まれるのは勘弁だと、ミッツの言葉にうんうんとマーミが頷く。


「カジウル、私たちは何でここに居るのかは分かってるでしょうね?」


 このマーミの質問にカジウルが「あーハイハイ」と手をひらひらさせながら答える。


「マルマルでの件は忘れちゃいないって。・・・あー、もしかして、ヤバいぞ?この依頼は俺たち以外に誰か受けてる奴・・・いるか?」


 ここでどうやら根本的な問題が起きている事を四人が認識した。


「まさか・・・この依頼のパーティー制限は確かめたのカジウル?」


「おい、馬鹿野郎。もしかしなくてもこの依頼は他に別のパーティーと連携を取る事になってなかったかソレは?」


「強くなっていてすっかり忘れていましたが、ハイオーク十体は無茶な数ですよね?オーガを倒した事でどうやら私たちは大事な事を忘れてしまっていたようです・・・」


 カジウルを睨む三人。そこに俺は簡単な答えを提示する。


「依頼控えはある?ソレを見れば早いじゃん。で、そんなに慌てる事なのか?えーと、俺たちだけで片を付けるのは駄目な感じかコレ?」


 これにカジウルが懐から一枚の紙を取り出す。それをかさかさと乾いた音を響かせながら開いて改めて詳細を確かめた。


「ヤバイ。最低でも五人のパーティーを三つで取り組む事を推奨してる・・・でも、依頼を受けたパーティーが中心で仲間を集めるのが基本にはなってる。はぁ~、ヤバかった。」


 どうやらこの方法の他にギルドが募集を掛けて定員まで集まってから行動を始めるパターンもあったようだ。

 で、カジウルはそう言った細かい所を確認せずに俺たちを勢いでここまで連れて来たと言う事になるらしい。

 ラディもマーミもミッツも、そこら辺を確認不足でいたのは、どうやら強くなった事に自信があったのと、オーガを倒す事ができた事で「普通」と言ったモノを忘れかけていたから。


「じゃあ俺たちのパーティーだけで狩る事は別に何も問題ないって事で良いんじゃないの?」


 俺だけが何をこんなにザワザワしているかを察する事ができずにいた。

 なのでそこをマーミが諭してくれる。


「アタシたちはマルマルの都市で目立つ事をした。だからほとぼりが冷めるまでこっちに居ようってなったでしょ?なのにこっちで目立つ事してどうするのよ、って話。」


 俺もコレに「ああ」とやっと納得がいった。オーガの件があってゴタゴタに巻き込まれない様にとこのバッツ国に来たのだった。

 すっかりとここ幾日かの出来事でその事を忘れていた。馬鹿丸出しなこんな俺を「賢者」と呼ぶのはいかがなものか?

 師匠もミッツも俺を買いかぶり過ぎだと思うのだが。


「なあ?どうする?今更人を集めるか?それともいっその事この際だ。俺たちだけで全て狩るか?」


 ラディがカジウルへと選択を迫る。


「どうにもこうにも、どうやって誤魔化すつもりよ。もう三頭やっちゃってるわよ?」


 マーミが詰め寄る。しかしミッツは。


「十頭を狩ってしまえばイイのでは?で、提出するのは一頭にしてしまえばイイでしょう。で、残り九体はエンドウ様に持っていてもらえばいくらでも誤魔化せるんじゃないでしょうか?」


 マーミが言うのはこうである。


 そもそも俺たちは幾日かの時間を掛けて一頭を探し出し、仕留めるに至った。

 そこで帰還してギルドにソレを売る。依頼は一体だけ、と言った条件の達成扱いをされる。

 そうして「普通」を装うのだと。


 で、実際は俺のインベントリの中に残りの九体は入れたままにして出さずに持ち続ける。

 ギルドの方へは俺たちが金をある程度出してハイオークの調査を再びしてもらい「何故か見当たらない」と言った結論を意図的に作り出す。


 ギルドにいちいち俺たちが金を出してまで再調査をさせる言い訳は「申し訳無いから」だ。

 一つのパーティーのみで先走って一頭しか仕留められなかった事で依頼の中途半端な達成に責任を感じたからと言えば通じるだろうと。


 バッツ国での「時機」では無い狩りは、この国住みの冒険者が依頼を受けない傾向にある。

 そんな中でこうして余所のパーティーの俺たちが依頼を受けた。

 でその他のパーティーが集まらなかったから自分たちだけでこうして狩りを始めたが、一頭が精一杯で成果は芳しくない。

 ソレを情けなく思ってギルドに再調査依頼。その費用を俺たちが負担すると。


 当然俺たちは森に長くいた事と、ハイオークとの戦闘で激しく疲弊していて宿へと籠るという寸法だ。


「・・・ソレで行くしかねえか。はぁ~、だとすると、一頭分はタダでギルドに寄付する感じで良いのかね?」


 カジウルはミッツの案を採用する事にしたようだ。

 ラディもマーミも妙案だとうんうんと首を縦に振って納得している。


「じゃあさっさと全部狩っちまって、あと三日は拠点でゆっくりと過ごそうぜ。」


 こうして今日はこのまま残りを全部狩る方向となった。


 そこからはスムーズに事を運ぶ。俺が先ず探す。方向だけを指し示し、ラディが後は引き継ぐ。

 そうやってラディのトレーニング。見つけたらマーミの矢で一頭を確実に仕留め、二頭目はカジウルが、三頭の場面ではラディが最後を。

 で、ミッツは出番無し。


「私だけが何もしていない事に少々不満がありますが、まあ仕方が無いですよね。」


 そのまま狩り続けて残り一頭になる。ここまででザっと三時間だ。


「早すぎる。どう考えても戦力としてもランクはぶっちぎりでSだろコレは。俺たちは本当に強くなったが、強くなり過ぎじゃないのか?」


 自分たちの強さがどうやら怖くなったようでラディは少々引き気味だ。

 コレにマーミが考え方を変えろと言う。


「私はもう改めたわよ?ラディも早い所慣れるように意識を持った方が良いわ。こういう時にカジウルがうらやましいわよね。何にも考えていないのが。」


「ちょい待てコラ。何も考えてない訳じゃねえぞ?そもそも強くなる事は良い事じゃねーか。受け入れるのが早い、と言えよ。」


 ちょっとした漫才でもするかのように気楽な感じでやり取りする二人。いつもの事だ。

 そこに真剣な声でミッツが願いを口にする。


「最後の一頭は私にやらせてください。ここまで着いてくるだけで私も自分がどれだけハイオークに通用するかを確かめたいです。」


 コレに三人が心配するような顔をミッツに向けた。

 そもそも戦闘職でないミッツでもこのパーティでそこそこの修羅場はくぐってきている。

 魔力操作も上達し、身体能力向上もミッツは使い方が上手い。

 自分の着ている服に魔力を纏わせる事も常時できている。防御の面も悪くない。

 だがそれでも専門で「戦う」という職で無い事で三人が心配をしているのだ。

 でもそこで俺が申し出る。


「俺が一緒ならいいか?補助はするし、危なかったら俺が攻撃を受け止める。二対一でいいだろ?俺もここまで何もして無いしな。」


「エンドウ様が側についていてくれれば何の不安もありません!是非に!」


 ミッツがコレに大きな声を出して食いついた。それに静かにと言ったジェスチャーで俺は人差し指を唇に当てる。


「しー。あんまり大声を出すと余計な何かに見つかるかも。ここは森だから何が起きるか分からないしな?」


 既に俺はレーダーでそう言った類は無いと確認はしているが、不用意な大声はやはり控えるに限る。

 コレにはラディは自分でも確認をしていたのか「大丈夫だ」と口にする。


「俺も周囲を確認しているが不穏な生物は徘徊していない。ちょっとやそっとの大声じゃ近寄ってくる獣も魔物もいない・・・」


 しかしラディがそれを言い終わる前に地面がゴゴゴゴゴと地揺れする。

 そして俺は即座に見落としに気付いた。咄嗟に魔力を強めに地面に放ってその地揺れの元を探る。


「地中から来るぞ!ここから皆離れろ!俺の合図でだ!いいか!?・・・今だ!」


 皆一斉に自分が立って居た場所から5mは飛び退く。次の瞬間には俺たちが居た場所に巨大なモグラが飛び出してきていた。

 ぼっしゃーん、と言った具合で土が周囲に撒き散らかされる。飛び出て来た勢いで土が吹き飛び周囲がその土の匂いで充満する。


「何よコレ!こんな奴見た事無いわよ!?」


 マーミが真っ先にこの闖入者に声を荒げた。カジウルも驚きで声を荒げた。


「こいつは地中を来たのか!?こんな魔物なんて聞いた事ねぇぞ!?この森の固有の魔物か!?」


 驚きは続くがどうやらラディは少々だけこの魔物の知識があったようだ。


「こいつはドン・モーグルだ!そう珍しい奴じゃない!だけどこれだけの大きさの話なんて聞いた事も無いぞ!?」


 どうやらこいつは普通に地中に存在する動物、あるいは魔物の一種らしい。


「余りにも大き過ぎはしませんか?これはどうすれば・・・」


 その全高は2.5mと言った感じだろうか。高い。デカイ。

 しかし、どうにもおかしい。俺たちを襲おうともせずに鼻をヒクヒクとさせるだけで身動ぎ一つしないのだ。

 で、二十秒くらいそうやって居るとそのまま穴から全身を出してきた。

 先程まで下半身は穴の中だった。全身が出てくると余計にデカイ。


 でも俺たちには一瞥もくれずにクルリとその場で反転し、再び穴の中に入って行く。

 どうやら完全に偶然だったようだ。そう俺は結論した。


 只単にこのドン・モーグルは地中から感知した微かな音に導かれてそのまま地上に出て来ただけなのだろう。

 たまたま、ただそれだけ。でもその偶然の威力が凄まじかった。

 カジウルが強くなった事で調子に乗った発言があったが、それも意気消沈している。


「ヤバいな・・・エンドウが居なけりゃ俺たち吹っ飛んで死んでたんじゃねえかなアレ・・・」


「あんなにデカくなるもんなの?つか、モーグルでしょ?確かにちょっと大きめになるとあの種は「ドン」を付けるけど。あそこまで?」


「これは報告案件だろうな・・・でも、信じてもらえるかどうか分からん話だなコリャ。」


「でも、一応はコレもハイオークの「言い訳」に使えそうですけど・・・」


 マーミは自分の知っている存在との余りのかけ離れた大きさに戸惑う。

 ラディは冷静にギルドへの報告の事を考えているが、その表情は苦笑いだ。

 ミッツはラディの一歩先を行く。どうやらこの事もハイオークの件を「隠す」事に使えると考えている。


「えーっと、どうする?このまま狩りを続ける?・・・なんかそんな空気じゃないって感じだけど。」


 俺たちは突然の衝撃にまだ立ち直れておらず、少々この場に留まり続けた。


 そして先ずはミッツが言葉を漏らす。


「ここの場所はギルドに調査してもらうために場所の目印を付けておきましょうか。そうすればモーグルの件は信じてもらえるのではないかと。」


 ずっと考えていたようだ。穏便に済ませられる方法を。


「そうだな。これは確かな証拠だからな。そうすると早めにこの森から出なきゃならんか。」


 カジウルはそう判断する。マーミも同じ意見なようでうんうんと首を縦に振る。


「そうね。もうゆっくりとしている時間は無いわ。ちょっと日数的に早いかもしれないけど、そこは運が良かった、って感じでのらりくらりするしかないわね。」


「その運が良かったのもこいつが現れた事でぶっつり途切れる、って流れか。慌て急いで報告をギルドにする案件だからなコイツは。」


 ラディはそこに補足する。どうやら話は纏まったみたいだ。ラディが最後は締める。


「一頭だけ残しておくわけにもいかねえし、ちゃっちゃと狩るべきだな。エンドウ、すまんが探してくれないか?で、ミッツ、お前が最後はやってみるんだったか?早い所済ましちまおう。」


 この言葉で俺はレーダーを拡げる。それはすぐに見つかった。が、かなり遠い。もう少し奥の方の森の中に反応があった。

 ソレを話すと全員が了承する。


「もうこの際だ。一日延びようが大きな差はないさ。行こう。」


 ラディがそう言うと俺が指示した方向へと走り出した。それに続いて皆何も言わずに走り出す。

 そう、俺たちは身体能力向上を使用して走るのでかなりの距離が離れていたとしてもソレをものともしないのだ。

 そして到着は早かった。俺がレーダーで見つけた場所から動かずにハイオークはそこに居た。


「昼寝していますね・・・こういった時は「好期」と言うのでしょうが、力試しとしてはちょっと・・・」


 ミッツがこのシチュエーションに少々の不満を漏らす。どうやらガッツリな「戦闘」をお望みだったようだ。

 ミッツは意外にも好戦的な場面が所々あってその性格がなかなかに掴みづらい。


「でも、私の力でも一撃で仕留められるかどうかを確かめるならこういう場面の方が確認はしやすいですね。」


 どうやら思考を切り替えたようだ。こういった切り替えが早いのもミッツの特徴だ。

 迫る相手を一撃で、そうすれば自分の危険もより一層減る。

 これが二撃、三撃を掛けねば倒す事ができないとなると、その間に相手に反撃をされて危険が増す可能性は増加する。

 死ぬときは一瞬だ。それは自分の命も仲間の命も同じである。そうはさせないために命のやり取りは一回で済ませられるのであればソレが一番いい。

 長引くと言う事はそれ即ち自分も仲間もその分だけ危険に晒される時間が長くなると言う事。

 その長引いている時間の中で、ほんの一瞬終わらせるのが早ければ助かったのに、などと言った場面が出てこないとも限らない。

 冒険者は危険と隣り合わせ。ドン・モーグルが出てきた場面でソレは肝に刻まれた。


 いちいち危険な場面を作り出し、自ら飛び込むような事にこだわるのは愚かだ。

 俺とミッツは静かにハイオークの元へと近づいた。音もさせず、振動も伝えない様に。

 起こしてしまう要因を全て排除する。俺の魔法で。スヤスヤ寝ている危険存在を起こす様な馬鹿をしない為に。

 近寄る際のイメージは這い寄る影だ。音も無く、ただ静かに。魔力の展開は実際はそんなイメージでは無く、魔力で音の反響と振動を抑えるイメージである。

 なので歩く際に足と草が擦れる音すら、地面を踏む音すら響かない。響かせない。


 どうやらハイオークの昼寝をしていた場所は木々の隙間から日が差し込んでいてそこだけ気持ち良い日向である。

 仰向けで何の警戒心も持っていないかのような寝姿にちょっとミッツがイラっとしたようだ。

 表情を見ると眉根に皺が寄っている。でも気を取り直したのか手に持つメイスを握りしめ、全身に、そして武器に魔力を纏わせ始めた。


 そして思い切り振りかぶり呑気に寝ているハイオークの額へとソレを打ち下ろした。

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