さてはて狩りの時間です
「分かったわ。それで行きましょ。でも、危うくなったらすぐに撤退ね。」
「そうだな、数を一度で一気に減らし切らなきゃいけない訳じゃ無い。なるべく確実に一頭づつで行こう。」
「ハイオークの行動領域や、散開しているか、それとも纏まって行動しているかの調べもつけたほうがより確実です。今日はそこら辺を先ず探ってみるのはどうですか?」
三人はどうやらこの作戦には別段反対は無いようだ。
自分たちが強くなった自覚はある、その上で確実に依頼を熟せる方法を吟味する。
それでもヤバくなたら逃げ出す事もしっかりと入れて計画を組んでいく。
どうやら皆はやってやれない事は無い、カジウルの言葉にそう思ったようだ。
「よし!んじゃこの作戦で行くか。先ずは奴らの行動把握からだな。確かに数が数だからな。一日二日で終わる訳無い依頼だ。慎重に行こう。」
カジウルが話し合いの結果をまとめる。その内容は簡単である。
ハイオークの行動パターンを先ず調べる。そしてソレに基づいて奴らが少数になった場面でマーミの矢を放って攻撃しておびき寄せ、一頭から二頭ずつと戦闘し、確実に倒して数を減らしていく。
コレに俺がなる程とウンウン納得していると、基本的な「狩り」と変わらないとラディは教えてくれる。
「奴らは確かに脅威だ。しかし動物と行動は何ら変わらない。だったら冷静に対処すれば今の俺たちの強さであれば対処ができるはずだ。簡単な話だったのさ。」
自分たちが強くなったという自覚は持っているが、それでもまだ頭の中に有る「イメージ」と言ったモノの修正ができないでいたと言った感じなのだろう。
以前の自分たちでは相対するのは危険だと判断している魔物、その印象が拭えないでいたから最初に「十体」という数に反対をしていた。
でも、話し合ううちにどうやらそこら辺の方は考え方を変える事に成功したようだ。
「では出発しましょう。ハイオークが住み着き始めたという場所の周囲から慎重に。」
ミッツが椅子から立ち上がるとソレを合図に皆立ち上がる。
こうして俺たちは門を通って都市の外に出た。向かう先はカジウルがどうやら地図で事前に調べていたようで先導するのに「こっちだ」と言って声を掛ける。
それと同時に駆け足で道を走り始めた。それに着いて行く俺たちを門衛は「え?」と言った顔で見送っていたのを誰も気づかなかった。
門衛には出る時にギルドの依頼の説明をしている。今回は大物を狩る事になるので、そこら辺の説明として「異常」が起きた場合の即時対処をお願いするためだ。
この土地にハイオークは来たばかりで「安定」はしていない。なのでその点においてどう言ったトラブルが起きるのかは非常に読み難い。
なのでそう言った所をフォローしてもらうために連携をしてもらうのだ。
これは別にこちらだけのメリットだけでは無い。そもそも門衛の方もそう言った情報を共有する事で円滑に「守る」」事に繋がる。持ちつ持たれつと言う具合だ。
だから門衛も今回のハイオークの情報は聞かされている訳で、その場所へ行くのに「走る」という手段で、しかも1パーティしか向かわないとあれば驚くのもしょうがないだろう。
問題の場所はかなり遠目で、人の体力で走って行く距離では無いのである。
そんな事になれば「本当にアレで大丈夫なのか?」と疑問が浮かぶのが当たり前だ。
普通なら「大丈夫じゃない」のだが、俺たちはそこら辺が見えていなかった。
いつものマーミならそこら辺を気にしてカモフラージュとして馬車を用意したかもしれないのだが、今回はどうやら例の弓を手に入れている事で気分が良かったのか、そこら辺を忘れてしまっていたのだろう。
この事はまた後に目立つ事に繋がってしまうのだが、今のこの「つむじ風」の中にその事に気付く者は居ないのだった。
で、早々と現場近くの森の端っこまで到着してから、ここまでに掛かった時間に気付いてラディが言う。
「ヤバイな。ハイオークの事だけ考えて、俺たちの「脚の速さ」まで考えて無かった。これ、どう考えても一日二日で終わるぞ?」
この言葉にミッツが「あ!?」と意味を理解した様子だ。で、続いてマーミが手で顔を覆う。
「あー、そうだったわね。どうする?とは言え、やる事は変わらないから先にやるだけやって、日数誤魔化すために遅めに戻る?」
「気付くのが遅れたな。俺たちワンパーティだけで事に当たる件じゃ無いから不審に思われてるかもしれないなぁ。そこら辺を考えて無かった。強くなり過ぎるのも・・・問題か?」
カジウルが付け加える。そこにミッツは。
「私たちは強くなりました。それは悪いことではありません。だったら中途半端に強くなるよりも一気に高みに上ってしまいましょう。周りが私たちにちょっかいを出してこれない程で吹っ切るくらいに。」
前向きである。そしてミッツ、変な部分で男前である。
とりあえずはシーカク国から目を付けられていない今のうちに、周囲から文句やらなにやら鬱陶しい行為をされても気にならなくなるくらいに強くなる事。
そうすればそう言った事もスルー出来る精神力も器も出来上がると言う事だろう。
妬み、嫉み、恨み、辛み。そう言った感情を持つ者は何処にだっている。
ならばそれらを受けても何でも無いと、鼻でそう言ったモノを笑って吹き飛ばせるくらいの気持ちを作っておくほうが確かに余程有意義であろう。
ミッツのセリフにどうやらみんなすんなりと納得したようだ。
「じゃあ行くか。取り合えずはラディを先頭に・・・」
とそこで俺の脳内レーダーに反応があった。咄嗟にソレを口に出す。
「こっから森へ入って少しした場所に二頭いる。えー魔物の種類は分からん。」
コレにラディは溜息をつく。そして苦笑いをしてぼやく。
「エンドウが居ると俺の仕事が全く無くなっちまうな。いい事だ。」
「あ、じゃあラディにも俺のやってる索敵教える?魔力をこう・・・」
俺は説明をしようと思ったのだがカジウルに後回しにしようと諭される。
「先ずはその見つけたのを様子見しに行こう。なに、この辺に生息してる魔物はどれもこれも今の俺たちで簡単に対処できるはずだ。問題はハイオークのみ。あ、グレートマッドはヤバいからソレだけは要注意な?」
このグレートマッド発言にマーミがちょっと苦笑いになる。それを見ていなかったカジウルは森の中へと視線を向けていた。
「よし、行動開始だ。」
こうして俺のレーダーを頼りにゆっくりと森の中を行く。
もちろん誘導するために先頭は俺だ。仕方が無い。ちょっとラディの仕事を取ってしまった事を後ろめたく思うがそれでも一度口に出してしまった言葉は呑み込めないし無かった事にもできない。
こうして森の入り口から100m程行った場所にそのレーダーに反応した魔物の姿があった。
ソレは何と言ったらいいだろうか?
「あー、巨大な二足歩行の・・・いのしし?」
その身長は2m50cm近い。それが二頭いる。
ソレをぼーっと見つめる俺は後ろから掛けられた声で気を取り直す。
「エンドウ、見えたか?どうやら当たりだな。マーミ、狙えるか?」
ソレはラディだった。まだまだハイオークはこちらに気付いていない。距離があってその姿も大分小さくしか見えないのだが、ラディは分かったようだ。
俺と言えば魔力を目に集めて「双眼鏡」をイメージして魔法を発動していた。なのでその魔物の姿を鮮明に見る事ができていた。
で狙えるかと問われたマーミは弓を取り出している。
「やって見なくちゃ分からないわ。けれど、多分狙える、届くと思う。って言うか、ぶっちゃけ、仕留められそうな感じ?」
「おいおい、マーミ、どうした?言っている意味分かってるか?」
カジウルがこのマーミの言葉にツッコミを入れた。
次には弓を構えて矢を番えるマーミ。弓矢へと魔力を流しつつソレを引き絞った。
新しく得たその弓を見たミッツが「綺麗」と言葉を思わず漏らしている。
そしてラディはその弓の事を追及しようとして言葉を止めた。
「マーミ、それは・・・いや、なんでも無い。」
マーミの集中を乱してはならないと考えたのか、誰もそれ以上は話をしなかった。
とその瞬間に空気が鋭く切り裂かれる音が響く。
マーミの放った矢が飛ぶ音だ。それは障害物となる木々の隙間を通り、目標へと突き刺さる。
しかもそれは見事にハイオークの眉間を貫き、一頭を倒してしまった。
「コリャスゲエな・・・いつの間にこんな腕を上げたんだマーミ。」
カジウルが驚いた顔をそのままにそう呟く。問われたマーミは静かに息を吐いて吸ってと、呼吸を整えている。
「もう一頭も狙う?どうする?今ならやれるわよ?」
余りにも鮮やかに一頭が沈む。もう一頭の方はソレを目にしていない。
そう、気付かれていないのだ。二頭はこちらから見て後ろ姿だった。
しかしマーミはその後方の一頭がこちらへ偶然振り向いた瞬間を狙い矢を解き放ったのである。
眉間を貫かれたハイオークはおそらく絶命だったのだろうと見えた。
うめき声を上げる訳で無し、暴れる訳で無し。静かにその巨体をドシンと地面に叩きつけるように倒れる。
するとその衝撃でもう一頭が気付いて後方を振り向いた。
だがもうその瞬間にはそいつの眉間にも矢が見事に刺さっている。
そうマーミが二矢目を既に放っていたのである。
「おーコワ!これだけの距離あって、しかも障害物だらけだぞ?ヤバいだろ。」
カジウルがまたしても驚いたと感想を述べている。しかもブルリと一つ震えてから。
「と、とにかく仕留めた獲物の所まで行きましょう。血抜きは早めにしておいた方が良いですからね。なるべく手早くやってしまってここから離れてしまいましょう。」
血の匂いにつられてその他の凶暴な肉食獣が近寄ってくる可能性を鑑みて、さっさと片付けをしてしまおうとミッツが動き出す。
コレにラディが追従して仕留めた獲物へ素早く走り出す。
俺もカジウルもその後ろを付いて走る。マーミはどうやら周囲の警戒を担ってくれるみたいで視線をあちこちへと向けながら俺たちの後方を歩いてくる。
「よし、じゃあ一気にやるぞ。こいつらの肉は脂が乗っていて甘い。高級食材でもある。さっさと処理を・・・」
ラディがナイフを懐から取り出してハイオークの首へとあてがう。
おそらくは大きな切り口を作ってそこから体内の血を抜くためにしようとしているのだろう。
「なあ?皮は?売れないのか?余計な傷は無い方が高い値が付くんだろ?だったら俺がやるよ。」
俺はラディが処理しようとしている一体に向けて魔力を流す。
もちろん魔力で血流を操作するイメージでだ。ハイオークの心臓も魔力で締め付けたり緩めたりを繰り返すイメージもプラスだ。
心臓と言うポンプを激しく動かしてより手早く血抜きをする。
すると矢が刺さった穴から血がドバドバと流れ出てくる。
そう、今付いている傷から血抜きをすればいい訳で、追加で傷を付ける必要は無いのだ。
こうして大量に溢れてくる血も地面へと流した魔力で沈めて埋めてしまう。
血の匂いも風を魔法で作り出して上空へと散らす。森の中に散らしてしまえば微かな血臭にも敏感な肉食獣が居た場合に騒がれる可能性も無いでは無い。
こうしてほんの三分もかからずに一頭の処理は終わる。それをインベントリにしまい込んで俺はさっさと二頭目に取り掛かった。
こうして二頭目も即座に処理を終わらせる。コレに呆れたと言ってくるのはマーミである。
「あんたね、前にもダンジョンで「出したら駄目だ」って言って残ってるのが有るでしょ。言って見ればコレもそうなんだけど?」
どうやらここまで綺麗なハイオークの死体は駄目らしい。グレートマッドの時にも注意をされた事を忘れていた。
「あ、ヤベ。ゴメン。いや、でも。解体は今じゃなくても後で出来るじゃん?とりあえず狩るだけ狩った後でどこか個室を借りて作業をすればいいよ。そっちの方が早いし手早く済む。今じゃなくても良いんじゃない?」
俺の意見がここでは採用され、次のハイオーク探しとなった。
「で、次はどっちの方角だ?こうなったらさっさと全部終わらせちまおう。」
カジウルは依頼を手早くこなしてさっさと帰還しようぜと意見を述べる。
でも、ここで冷静な判断をしたのはラディだった。
「情報の十体をこの配分だと一日で終わらせかねない。そうすると、そのまま帰還すれば絶対に余計な注目を浴びる事になる。せめて帰るなら翌朝だな。」
ミッツはうんうんとこのラディの言葉に首を縦に振って同意した。
でもそれ以上にツッコミを入れたのはやはりマーミだった。
「あのね、明日の朝に戻ったとしてもそれでも注目は集めるわよ。十体ものハイオークを探し回って二日も掛からないで依頼を終わらせる?ハッキリ言って、もうちょっと常識を思い出しなさいよ。」
どうやらもっと多くの日数を掛けないといけないと言う事らしい。
「じゃあ、どこかに拠点用の家でも建てるか。取り合えずどっか人目につかずに、かつ広さを確保できる場所を・・・」
俺のこの意見に四人が全員立ち止まり俺の顔を見る。
「この非常識という言葉すらも置き去りにして行くぶっ飛んだ思考はどうすりゃいいのかね?」
「もう、私もどう諫めていいのか言葉が見つからないわよ・・・」
「もう、いっそのこと、こうなりゃ快適にこの森の中で時間をすごせりゃどうでもいいんじゃないか?」
「さすがエンドウ様!素晴らしいお考えです!そうするともう少し奥の方に行った方が良いかの知れませんねぇ。」
カジウルはどうしたモノかと逆に冷静になり、マーミは俺の事をどう抑えればいいのかと悩み、ラディはそもそも開き直り、ミッツは・・・追及はしないでおく。
しかしここで、そもそもの根本的問題の方に皆は目を向けていなかった。
たった五人の冒険者パーティーで、十体のハイオークの討伐。
ソレは不可能とは言わないまでも困難に次ぐ困難だと言う事を。
たとえ幸運が続き、スムーズに一日一体ずつ仕留めて行ったとしても、森の中でキャンプし続けて全てを狩りきる事など難易度が高いどころの騒ぎでは無いと言う事に。
普通はそもそも一体を発見するのにかかる時間が半日で「激運」、一日掛かれば「幸運」、二日で見つけられたら「まずまず」、三日かかれば「普通」、四日掛かると「ちょっとマズイ」、五日以上で「時間がかかり過ぎている」と言った具合が通常らしいのだ。
ソレを皆が見つけた側からハイオークを即撃破などとした事で「討伐」の方に意識が行ってしまい。索敵の視線での目線がすっぽ抜けたのだ。
そしてそもそも一頭を上手く狩る事ができたら普通は戻る。そう、戦闘で疲れた体を癒し、傷を受けた治療もしなければいけない。
都市に戻ってアレコレの手続きをしてハイオークをお金に変えなくてはならない。
まず基本、ここまでの巨体を持つ魔物なのである。それを狩れたのなら一旦戻るのが普通だ。森の中をそのまま持ち運んで次の獲物を探すなんてもってのほかである。
連戦などと言う事は本来は冒険者は基本的に絶対に無い事だ。イレギュラーが起きたり緊急事態が起きねば。
もしくは連戦などと言うのは計画性を持ち、被害が最小限で押さえる事ができた場合の余力がある時だけだ。
だが今回のハイオークと言う獲物はそれに当てはまらない大物である。
俺のインベントリがそもそもこの四人に受け入れられてきている証拠、と言ってしまうのはどうにも悩み処とは言え、ハイオークを狩るという行為に緊張していない様に見えて、実の所は皆は冷静に為れていなかったと言う事であると言えた。
だから今その結果、こうして俺は森の奥の丁度いい広場でこうしてコンクリ造りのコテージを生み出している。
「相変わらずエンドウはぶっ飛んでやがるなあ。」
「カジウル、それ、アンタ誉め言葉として言ってる?だったら今のあんたの感性はおかしくなってるわよ。」
「だが、俺たちはもう慣れて行かないといけないぞ?だってエンドウはうちのパーティーの一員なんだからな。」
「凄いですね!これなら住居問題が即解決です!開拓もエンドウ様に掛かればあっと言う間です!」
この場所はある程度広さはあったとは言え、石やら木やら何やらでそこまで綺麗な整地と言える場所では無かった。
しかしここでも魔法が大活躍である。俺は地面に魔力を流してそこへイメージを乗せる。
重機で真っ平に地面を均した状態を思い浮かべて力を籠める。するとモゴモゴと地面がわずかに波打ったかと思えば、次にはすべすべの何処にもヘコミが見当たらない美しい整地が出来上がるのだから、これはもう魔法バンザイ様様である。
そこに俺は今回のハイオーク狩りの拠点を生み出していると言った具合だ。
「さあ、今日はどうする?こうして家もある事だし、続きは明日にするか?」
冒険者としては当然ながら「休息」が必要だ。しかしそれは「普通」はである。
強くなったこの「つむじ風」にはソレが当てはまらない状態だ。それは逸脱した、ともいう。
「今日はもう一回だけ探索を続けよう。今日中にやるだけやって、後は三日四日ここで滞在すりゃいいだろ。」
「そうね、面倒な事は早めに終わらせましょ。ハイオークが森から出て他に行っちゃう事も無いとは言い切れないし。」
「エンドウ、俺に教えてくれないか?どうやってお前は知る事ができている?そのやり方をぜひ伝授してくれないか?じゃないと俺の役目が、な?」
ラディは本来ならこのパーティの斥候であるはず。それを俺にお株を奪われているような状況ではバツが悪いと言いたいらしい。
そもそもそこまで気にする程でも無い、と思うのは俺の勝手な意見で、ラディだって矜持と言ったモノを持っているだろう。
ソレに強くなるという目線で言えば、この俺の魔力ソナーの方法は会得していて損は無い。寧ろ使いこなせれば大幅に強くなれる。
「よし、じゃあ皆にも教えるからそれぞれ使えるようになればいい。習得すれば応用が利くし、何より死角が無くなるからできるようになっておいた方が良い。」
こうして家の中に入ってくつろぐ前に、野外で俺の魔法講座は始まった。
俺がいつもしているイメージを伝える。薄く伸ばした魔力を徐々に広げて抵抗を感じたらそこに何かがある。
魔力をその対象を包むようにしてその「姿」がどう言うものか、存在が何なのかの判定の材料にする。
自分の知らない姿形であるとソレが何かは判別できないが、知っているモノであればそれが可能である事。
平面に水平に広げるだけじゃ無く、自分を中心にしてドーム状に広げれば自分の背後に何があるかも大体が把握できる。
広げる魔力は自分と繋がっていて一体化している、繋がっている、それをちゃんと自覚できていないと上手くその「抵抗」を感じ取れないので集中しないといけない。
「放つ魔力は、そうだな。髪の毛よりも薄い、もっともっと薄い。それこそ厚みなんて存在しないんじゃないか?って言うくらいに薄くしてくれ。」
俺の中のイメージは金箔だ。アレの薄さは確か0.1ミクロンメーター?
と、そこまで考えてこの世界の人々がソレを頭の中に思い浮かべられるだろうか?
俺はと言えばTVの番組でその薄さをこの目で映像越しとは言え見ているので実現できているのかもしれない。電子顕微鏡などの映像も出ていたりしてそれも目にしている。
だけれどもそう言ったモノを見た事が無い人にその厚みの説明をしても通じるだろうか?いや、通じない事が容易に分かる。
実物を見せるのと、それを言葉だけで説明するのは些か難易度が高すぎる。
幾ら具体的な言葉を並べても経験には劣る。今の場合は。
なので俺は皆が出す魔力の薄さを感じ取って判定して「もう少し薄く」と指導しなくてはならない羽目になった。
で、それは難航する。やっぱりそもそも俺と他は比べて見て異常な開きがある。
魔力操作に、魔力の根本的な内臓量。それ以外で言えば「考え方」や「経験」「知識」なども大幅に違う。差がある。
カジウルなんて放出する魔力が段ボール並みに厚い。ソレを薄くしろと言っても何故かコツが掴めないらしい。
ここまでカジウルはかなり器用で身体強化魔法習得も早かったし、武器に魔力を纏わせるのも直ぐに可能になっていた。
しかしどうやら得手不得手がここにきて出て来たらしい。どうにもこうにも薄くする、という感覚が掴めないでいる様子だ。
マーミはと言うとそこそこできている。コピー用紙くらいの薄さだ。
これはコレで成功というか、俺の要求する「金箔の薄さ」は求める所がきっとそもそも高すぎる、という基準になった。
ラディはマーミよりも上手く薄くできている。どうやら斥候と言う役割である事が一因であるようだ。
神経を尖らせ、周囲の様子を細かく警戒する集中力がソレを為す事に繋がっている様に見える。
コレくらいできれば充分であると言える。だけどまだソレを維持するのは辛いらしく、気を抜くとどうやらマーミと同じくらいになってしまうようだ。
ラディは、難しい、と呟いている。どうやら俺のこの魔力ソナーは難易度が激高であったようだ。
「教えるのは・・・もっと魔力の操作に慣れてからの方が良かったみたいだな?ラディとカジウルのを比べて見てみると、良く分かる。」
俺はそう言った感想を持ったのだが、カジウルがそこに噛みついてくる。
「おいおい、俺はまだまだやれる男だぞ?今に見てろよ?ラディのなんて目じゃ無い位に薄く延ばせるようにしてやるからな!」
どうにもカジウルはラディに負けん気を発揮している。まあ腐られても良い事は無いのでそっちの方が大分マシだ。
で、ミッツなのだが、既に厚さはラディくらいにまで迫る厚みで、しかもドーム状を維持している。
それも半径が1.5m程とかなりの範囲である。
ミッツ以外の三人は地面と水平に拡がる感じな「平面」を練習している中、ミッツだけは「立体」を展開していた。
どうにもここら辺はセンスの違いが大きく出ると言った具合に見える。
「どうでしょうかコレは?うーん?基準が有ったりしてソレと比べられないと自分がどれだけ習得できているかが分かりません。」
「あー、そのままミッツはその範囲をゆっくりと拡大していくだけでいい。少しづつでいいぞ?・・・あ、もう辺りは暗いな。もう家の中に入ろう。食事してそのまま今日は寝ちゃおうか。部屋は充分に確保してあるしゆっくりと寝れるから安心しろ。」
余りにも集中している時間が長かった。今日はコレで終了だろう。
俺のこの意見に反対を誰も述べてこない。で、俺はそのまま先にコンクリコテージに入って早速調理を始める。
もちろん室内には台所も作り、システムキッチンを。火元は例のプロパンで。
換気は魔法で空調を管理。快適温度と空間をご提供。
「・・・アレだな?もうこれは何か全部すっ飛ばしてる感がドバドバ出てるな・・・」
カジウルは中に入って表情が抜け落ちた。
「驚かされてばかりだけど、これはコレで今までにない位だわ。カジウルの意見に同意よ・・・」
マーミが珍しくカジウルと同じ感想になったようだ。
「毎回こんなのを出された日にゃ普通に戻れなくなるぞ?」
ラディは今までと比べて天と地だと言いたいらしい。
「エンドウ様が居ればこうした問題も全て解決ですね。うーん!広々としていて心も解放されます。」
ミッツは「家の中」と言った安心感を感じてリラックスできた模様だ。相変わらず何故かミッツはこういう所が肝が据わっている。
と四人がそう言ってこの家の感想を述べている間に調理は進む。
別に俺が料理担当だとは言わないが、別にこうして作る事に約束事が有る訳では無い。
冒険者がこうして外に出て仕事を熟し、キャンプするときには食料と言えば携帯食料だ。
干し肉、硬く締めた日持ちのするパン、ちょっとした贅沢に野菜が入ったり、そして水。
どうしたって栄養は偏るし、お腹も満たされるとは言えない。しかも美味しくない。
だったら調理すればいいじゃない、などとはできないのだ。
そのためには調理器具が必要だし、その分の荷物を背負わなくてはならない。
火の管理は確かにするだろうが、食料を持ってくるだけで大荷物で無駄な道具など持ってくる余裕は普通の冒険者にありはしないのだ。
でも、俺は普通じゃ無いのはもう分かってる。だからそう言った冒険者の常識に囚われる必要は無い。
しかもここは別に他の人の目に付く場所では無い。なら思う存分快適に過ごしてやるのである。
俺はこうしてできたスープと買ってあった柔らかいパン。それと肉野菜炒めをテーブルに出す。大皿で。
小分けにするような面倒な事はしない。良く言えば豪快、悪く言うと大雑把。
「さあ、飯にして明日の朝から再開だ。」




