まだまだ世界は不思議に満ちていて冒険が溢れている
俺たちは今ケンフュの案内で食事処、しかもかなり高級なヤツの個室に居る。
ここで事情を話せと言う事で、俺はカクカクしかじかと川村さんと出会うまでの経緯を説明した。
川村さんがこの世界へと来てしまった内容に関しては俺の口から説明する必要は無い。そこは省いた。
「それで、当人が島から出たいって言うのでソレに協力した次第で。」
「それで何も後ろ盾が無いから私に?貴方が後援者になれば別に問題無かったでしょう?」
「ぶっちゃけ、面倒。」
この俺の言葉に川村さんは良い顔をしない。当たり前だが。
代わりにケンフュが俺を責める。
「無責任では無いかしら?貴方、何処までも身勝手よね。」
「川村さんから俺へと返せるモノが色々とあったならば、もっと便宜を図って助けてあげても良かったけどね。あの時点で川村さんが俺へと出せる報酬なんて、ここで言うのも何だけど、何も無かったんだよね。」
残酷な事に川村さんが出せるお礼の品などたかが知れていた訳だあの村の様子で見たら。
思い返してもあの時点で俺が欲しいと思えるモノを川村さんが出せていた、提示できていたとは思えない。
「自分の願いが叶うってのを目の前にした興奮でそこまでの事を本人が考えて無かったよね、うん。」
そう、川村さんは島から出られる事だけに夢中であり、人に物を頼んでいると言う自覚が見られ無かった。
申し訳無く思うでも無く、振る舞いを謙虚にするでも無い。
島外に出たら何が待っているのか?その事だけに意識が向いていた様で俺への礼と言うモノを川村さんは失していた。
「あ・・・」
今更にその事に思い至って川村さんはどんよりとした空気を醸し出す。
「俺の人情で出来る事はここまでって事なんだよね。とは言え、何も対価が欲しかったり、御礼をして貰いたくてこんな真似した訳じゃ無いからさ。別に川村さんに特に要求なんてのは無いんだわ。この程度の事は何の労力にもならないし俺にしてみれば。」
「人情ねぇ。言わせて貰えば、そんな感情でここまでの事をしてあげるのは破格と言えるのだけれど?貴方にしてみれば何も気にする所の無い簡単な事なのね。」
盛大な溜息を吐きながらケンフュからその様な言葉をぶつけられた。
しかし別にコレに何ら思う所は俺には無い。ケンフュの言う通りだから。
「で、引き受けてくれるって事で良いのか?」
「・・・良いわ。その代わりに二つ依頼を受けて頂戴。貴方にしてみれば簡単な事よ。狩って来て貰いたいモノが二つあるってだけ。」
「オーケーオーケー、ソレで行こうか。その詳しい内容は明日って事で良いか?」
「ダグに案内させるわ。今日来た同じ時間に受付に来て頂戴。話はコレで纏まったって事で良いわね?それじゃあクミ。これからの話をしましょう。まあ愚痴でも雑談でも良いわ。仲良くしておく方が今後の事を効率良く進めて行く為にもこの男の事は放っておいて女の会話をしましょ。」
「いきなり俺を除け者にしようとするのはどうかと思うが?」
ケンフュのいきなりの変わり様に俺は突っ込むも。
「よ、よよよ、よろしくお願いします!ソレと遠藤さん、ありがとうございました!」
この川村さんの言葉でケンフュへの交渉は終わりを告げる。
その後はケンフュと川村さんが互いの身の上話やら近況やら質問やら愚痴やらなどなどで会話が続いて俺が口を挿む余地も無く食事会は終了、解散となってしまった。
店を出た後は川村さんをケンフュに任せて俺は自宅へとワープゲートを繋げて帰宅。
そうして翌日には約束の通りに俺は再び武侠組合に顔を出す。すると。
「・・・はぁ~、何だかなあ。何で俺が案内役なんて言う安い仕事を受けなきゃならんのだろうなぁ。」
受け付け前に仁王立ちしながらそんなボヤキを口にしているダグを発見する。
「久しぶり。元気にしてた?」
「おう、エンドウ、お前は何で、こう、おかしな事になってんだよ?」
「言いたい事はそれだけダグ?さっさと行ってきなさい。」
俺がダグへと挨拶すれば、ダグはコレに何か言いたげな顔になり、それをケンフュに責められる妙な構図に。
「ケンフュの機嫌が今より余計に悪くなる前に行くとするか。」
そう言ってダグは俺に対して何らの説明も無しで外へと向かう。
俺もソレに付いて行ってケンフュに何らの挨拶もしないで組合を出た。
その後はトントン拍子。連れていかれた場所でダグに説明を受けて指示されたヤツをそのままサクッとやってパッとインベントリへとポイ。
帰りはワープゲートで戻って二件目に向かう。
ダグからはコレに「もうどうでも良いわ~」と、全ての感情が入った投げやりな言葉を頂いた。
とは言え、仕事が早く片付くのは良い事だ。悪いこっちゃ無い。
再びダグに連れられて向かった先で同じ様にダグから説明を受けて指定のモノをさっさと狩ってインベントリにポイである。
そしてまたワープゲートで戻って来て依頼の達成をケンフュの居る受付に報告すれば。
「・・・早過ぎるわ。こっちは受け入れ態勢を整えてる最中なのだけれど?」
「えぇ?そう言われてもさ?なあ?ダグ?」
「何でそこで俺に話を振ってくんだよ・・・」
大体これまでにかかった時間的に言ったら四時間も無い。
その掛かった時間もほぼほぼで八割が移動時間と言う。
しかしケンフュからは「本当に狩って来たのか?」と言った疑いの目は向けられてはいない。
これは一応は俺の事を信用していると言う事なのだろう。いや、俺の事をでは無く、俺の実力の方を信用していると言った所か。
そんな事を思っているとケンフュに付いて来いと言われる。
ソレに従えば着いたのは解体場。そこに出せと言う事なのだろう。
俺は何もコレに文句を付けずにインベントリからホイホイと指定のモノを取り出す。
超が付く程の巨大さのヘラジカみたいな奴。
同じく超が付く程にデカい、クジラに脚が付いた様な四足歩行のソイツ。
どちらも陸生である。恐ろしいモノだ。こんな巨大生物が平気で平原で生息していたのだ。これを驚かずして何を驚くと言うのか?
良くもまあこれ程の生物が只の平原に破綻も破滅もせずに存在するなあと不思議な気持ちになる。
流石ファンタジーと言って片づけてしまうのはどうにも簡単過ぎると思うのだが。
しかしそれ以外に上手く言える言葉が無いのも事実だった。
まあそんな存在を俺は簡単に狩ってしまえているのだ。一番の不思議は俺と言う存在だろう。
それこそ魔法などと言う不思議パワーでこれ程の巨大生物の命を易々に奪ってしまえるのだから、これらの生物よりもよっぽど俺の方がヤバイ代物である。
さて、そんな巨大なモノをどちらも出せば解体場は一気に狭くなった。
「何で二体同時なのよ・・・」
「あ、先にどちらか片っぽだけ狩って戻って来たと思ってた?」
「・・・片方をしまって。」
「あいあいよー。それで、川村さんはここに馴染んで行けそう?」
「・・・まあ、大丈夫でしょ。私の秘書として雇う事にしたわ。あんな特殊な力を持っているのだから外には大っぴらに出せない。」
特殊とは例のアレである。言語理解と言うか、意思疎通が互いに違う言語を話しているのに通じてしまうアレである。
この事が下手に世間様に知れ渡ってしまうのはよろしい事では無いのは確かだ。
「まあソレを除いてもクミは優秀だわ。今後の私の仕事の負担が減りそうね。非常に助かるわ。」
どうやらケンフュから高い評価を川村さんは受けている模様。
だが俺はここで気づく。
「・・・あ、ケンフュ、川村さんって文字の方はどうなってる?」
「文字?・・・ああ、その事ね。あの食事の後で既に確かめたわそっちの方も・・・スラスラだったわよ。呆れるわ。もうどうなっているのやら・・・一つ書類を試しに処理して貰ったらあっと言う間だったわよ。」
溜息と共にそんな回答が返って来た。
どうやら川村さんは言葉で喋るだけでは無く、文字の方も「チート」らしい。
この国の文字を知るはずも無い川村さんがケンフュからいきなり託された書類を素早く片づけたなどとなれば、そっちの方も要するに最初から理解できてしまっていると言った事なのだろう。
「あー、まあ、無事にやって行けそうで安心かな?よろしく頼むよ。」
「言われずともそうするわ。・・・もう一体は明日の今頃で。」
「あいあいよー。それじゃあ今日は戻るとするかね。それじゃあまた明日。」
こうしてこの日の残り時間は自宅に戻ってゆっくりと過ごす。
その翌日には約束の時間まではノンビリと過ごした。
その後はちゃんと指定の時間通りに組合に顔を見せて残りもう一体を出し、その後は他に用事も無いので直ぐにオサラバ。
川村さんへの挨拶も無しだ。もう俺に関わらなくても今後はケンフュが世話をしてくれるのだから昨日今日でまた一々顔を見せる事などしなくて良いだろう。
そうして自宅へと戻って来た俺は今回の件の「振り返り」をした。
「この世界には俺以外にもちょくちょくと何処かの世界から転移して来てる人が居るんだなぁ。」
川村さんと会った事でその事実がしっかりと確認できた。
日本だけでは無くて、恐らくはもっともっと色々な、様々で別々の世界からここに転移してきた人たちがいる可能性がある。
まあそれも多分、俺や川村さんとパターンは違えども同じで、望まぬ形の、突然で前触れも無くと言った具合だと思われる。
それはきっと理不尽、不条理、そんな言葉で表現するべきで。
「世界各地にそう言った痕跡が残っていたりするのかね?・・・ロマン?いや、そんなんじゃないよなぁ。」
そんな事を思いながら今後へと思いを馳せる。
「でも、そういうのを今後は探してみて回るってのも、良いのかも?」
この世界は広く、全てを見て回れた訳じゃ無い。
今後にも観光気分で行く先々を見て回っていれば、もっともっと多くの摩訶不思議なモノに出会う事になるのだろう。
「・・・うん、そう考えてはみたものの、あんまり楽しみにはならないね?」
それでもこの先もずっと、俺はきっとこの世界を満喫しようとするのだろう。
俺が何時、この世界での人生の終わりを迎えるのかは分からない、想像が出来ないが。
それまでは、その時が来るまでは、俺はこの世界を飛び回る事を止めないのだろう。
「行く先々でその度に何かしらの騒動と遭遇する?ソレを解決してまた「賢者」呼ばわりされるってか?うーん、それはソレで良いか。」
俺は窓の外に広がる青空を見て背伸びをしつつ。
「まあ、悪くは無いよ、悪くはね。」
定年退職した直後には、自分にこの様な残りの人生が訪れるなどとこれっぽっちも、一ミクロンも思う事など無かった。
第二の人生とも言える今は関わり合った人たちから「賢者」などと呼ばれて困惑しているが。
それ以上に俺はこの世界を楽しむ事が出来ていると言えよう。
「さーて、次は何処へ向かおうか。」
次に向かう地はどんな所で、何が待ち受けているだろうか?そんな事に少しだけ思いを馳せる。
これからも変わらず続く俺の余生は、まだまだ始まったばかりだ。
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終わり




