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薄情とは?

「で、川村さん、前村長は何処?」


「家の中で貴方を待っています。どうぞ、入ってください。」


 決闘の後は新村長となったバンベイが俺に近づいて来たのでそんなやり取りをした。


 バンベイは別段俺に対して何ら思う所が無いと言った様子であっさりとした対応をして来る。


 とは言えコレに不満やら文句は無い。寧ろ有難いくらいだ。


 ここでイチャモンを付けられたりしたら余計な面倒となる。


 ソレが無かっただけ相当マシだ。


 もしこの場にあのアフロが居たならば絶対に俺に突っかかって来たはず。


「えーっと、ワレル?って言ったかな。そいつは何処で何してんだ?」


 思わずそんな言葉が漏れた。只のボヤキでしかないこんな俺の言葉にバンベイは律儀に応えてくれた。


「ワレルは前村長から謹慎を言い渡されて自宅に居ります。あと三日は出て来る事を禁じられているので貴方に迷惑を掛ける事は無いでしょう。」


「ああ、そうなのか。気を使って貰ったみたいで悪いね。と言うか、あいつも村長候補とかだったりしなかったのか?」


 どうせならあのアフロはどの程度の高さの立場に居たモノだったのかを確認の為に聞いてみた。


 これは只の気まぐれだ。今更そんな事を知っても意味は無いけれど。


「ああ、それはあり得ません。普段の行動と態度が余りにも落ち着きが無い。アレでは候補に名など挙がりません。」


 厳しい評価だ。あのアフロはそこまで別に信頼がある奴じゃないらしい。まあそれでもあのアフロに従う者たちも居たのだから何かしら良い所もあったのかもしれない。


 とは言え、今はもうその様な事に思いを馳せるのは無駄である。


「じゃあ前村長に会いましょうかね。」


 俺は家の中へと上がる。これにはバンベイも一緒に付いて来た。


 そして前日に案内された部屋へと顔を出してみれば。


「さて、引継ぎも無事に終わったみたいだし、宜しくお願いします。」


 荷造りを終えた川村さんがそこに堂々と立っていた。


 そこにツッコミを入れる俺である。


「いや、サヨナラの挨拶くらいはしろよ。見送りとかあるだろうに。」


「そんなモノは私には必要ありませんから。」


「いや、少なくとも村人たちには必要なんじゃないの?最低限の挨拶くらいはして行くべきなんじゃないの?だって、ここに二十年も居たんでしょう?その薄情さは一体なんなの?」


 もうこの場に一切の用は無い。未練も無い。そんな感じである川村さんは。


 だけども村人たちの方は違うだろうと、そう思って俺は薄情過ぎると非難したのだけれども。


「もう昨日の内に話は全部済ませてありますので、さあ!行きましょう!連れて行ってください!」


 用意が良いと言うか、手際が早いと言うか。


 寧ろ早くここから出て行きたいが為に俺が言いそうな事を先回りして済ませていたのかもしれない。


(しかしこれが嘘だったら?川村さんの口からしかその事を知らされていない俺には判断出来ない訳だ)


 もしかして誰にも引き止められない様にさっさと移動する為に俺へと嘘をついている可能性もある。


 とは言え、既に次期村長は決まった。あながち嘘とも思えない。


 話は既に昨日の内に全て終わらせてある程度の納得を村人たちにして貰っているかもしれない。


 とは言え、この疑念を解決するのは簡単だ。聞いてしまえば良いのである。


「えー、バンベイ、さんで良いかな?こう言ってるけど、本当?」


「ちょ!?何で疑ってるんです!?」


 川村さんはそんな風に憤りを俺へとぶつけて来るけれども。


「前村長のおっしゃった事は全部本当です。既に昨日に経緯の説明は受けました。今はこうして私が村長になりましたので、この島から出て行く事も了承します。」


「そこに何か思う所とか、引き止める理由とかはあったりしないの?」


「長年この村に多大な貢献をし続けてきてくださっていた方ですから。村長の座もこうしてつつがなく引継ぎも終わりましたので、今後の自由を主張されるに否はありません。」


 俺の心が汚れているのだろうか?川村さんの言葉を散々に疑って掛かった事に少々心が痛んだ。


 バンベイのその言葉に嘘偽りなどは全く感じられず、サッパリとしたものだったから。


 そういう訳で、俺は川村さんを連れて移動する事となった。


 玄関まで戻って俺は靴を履いて川村さんへと質問を飛ばす。


「じゃあ行きますかね、の、その前に、何処が良いですか?」


「・・・え?何がです?」


「王国、帝国、教国、砂漠の国に、中華風の国と色々あります。直感でどれにするかここで決めるのも一興でしょ?」


「えぇ・・・どれが何だかサッパリなのに勘で決めるんです?うーん・・・じゃあ、中華風で。」


「そのココロは?」


「砂漠は絶対に昼と夜の寒暖差が激しいでしょ?ソレはきついから却下。教国、でしたっけ?何かそれだけ聞くと宗教国家臭が凄いので嫌な予感がします。キナ臭いじゃないですか。それと、帝国って聞くと何だかあくどいイメージが湧いちゃったので省きます。世界征服とか企んでません?逆に王国って響きは何だか自由を感じるんですけど、何処か頼り無く聞こえちゃって。それで消去法で残った中華風が良いかなって。」


 俺はこの川村さんの考えに「ぶふっ」と思わず笑ってしまった。どうやら俺の中の妙なツボに嵌まったらしい。


「くッくッくッ・・・面白過ぎる・・・何でそんな事に・・・川村さんの脳内ってどうなってるんでしょうね?」


「何で遠藤さんが笑うんですかね・・・あの、さっさと移動しましょうよ。」


「いや、その全部の国の一番偉い人たちと知り合いだから、川村さんの言った事を伝えてみたらきっと皆微妙な顔になるんだろうなって考えたら・・・また・・・ぶふっ!」


「・・・え?今なんて言いました?嘘でしょ?遠藤さんは一体何者なんです?本気で言ってるんですかソレ?」


 それらの国のお偉いさんたちと川村さんは面識は無い。寧ろどんな国がこの世界に在るのかすら知らなかったのだ。この島から出られ無かったのだし。


 だから油断するのは当たり前だ。


 俺が知り合いと言う事で先程の言葉がそう言った国家元首の耳に入ったら失礼に値すると気付いた川村さんはちょっとだけ慌てている。


 失礼な言動などしたって俺が知り合いでも何でも無かったらここまでアタフタとする事も無かった。


「あの、今のは喋らないでくださいよ?今の言葉を聞かれたら私指名手配とかされるんじゃないんです?」


 こんな下らない事をそれぞれの人物に聞かれたって別にそこまで怒ったり不機嫌になる様な者たちでは無い。


 けれども俺はここで川村さんの「黙っていてくれ」と言う求めをスルーする。


「じゃあ行きましょうか。はい、ここを通れば直ぐ到着しますよ。」


「ちょ!話さないでくれるとは言って貰え無いんです!?」


「はッはッはッ!」


 俺はワザとらしい笑いをして先にワープゲートを通る。


 先に到着した先で待っていると後から慌てた様に、少々怖がるようにして直ぐに川村さんが移動して来た。


 この時にバンベイにワープゲートを見られてはいるが、別に問題は無いだろうと考える。


 全てを納得した上で川村さんをこうして見送ったのだろうから言い触らしたりはしないだろう。


 村の者たちにワープゲートの事を伝達されたりしても別に俺には何らの影響も無い。


 あの島は巨大とは言え周囲は海で囲まれ、何処か別の大陸に簡単に移動すると言った事など出来る訳も無い。


 あの村以外の他の土地の人々にワープゲートの事が広がる危険性は無い。


(また何時か顔を出す事もあるのかな?無いのかな?まあ、バンベイが誰かに早々にワープゲートの事を喋る様には見え無かったし?)


 とは言え、バンベイがどう言った者なのかをあんな短時間の内に知る事は無理だ。


 もしかしたら俺たちの前だったからあんなに静かに冷静に対応していただけで本性はブッチャケ口軽陽キャマンだったりするかもしれない。


「川村さん、新村長はバンベイで良かったのか?」


「え?今ソレを聞くんですか?私は今目の前の光景に感動しているのに?」


 今更で、そして無粋な事を聞いて来るなよと言った視線が俺に向けられる。


 川村さんはこれと言って何でも無い事の様にバンベイの評価を口にした。


「別に問題は無いでしょうね~。私が村長の時よりも寧ろ良くなると思います。真面目だし、しっかりとしていて面倒見も良いし。人望もあって纏めるのも上手いですよ?・・・何で私がそもそも村長に選ばれたのか疑問になるくらいに。」


 そう言った後は再び入国審査の列へと目を向ける川村さん。


 その目は珍しい物を目にした時のソレであった。


 川村さんを暫くはそのままにしておいて俺は今後の流れを頭の中で整理する。


 どうにもこの調子であれば川村さんはここに定住と言う事で良いのだろう。


 キラキラした目で行列をまだ見ている当人は世界旅行などと口にしていたけれども、俺はあっちこっちに川村さんを連れ回す気は無い。


 連れて行った所で面倒が増えるだけと感じている。


(一々アレもコレもと求められるのは正直言って鬱陶しいだろうしなぁ)


 以外にも結構図太い神経を持ってる川村さんである。


 各地に連れて行けばあれは何だこれは何だと俺の事を都合の良いツアーガイドにして来るだろう。


(そうなるとじゃあ先ずは誰に相談を持ち掛けるかだなぁ。誰が良いかねぇ。世話してくれそうなのは・・・)


 勝手に川村さんをこの国に置いて行く心算な訳じゃ無い。一応は権力を持っている者に挨拶をさせるつもりだ。


 とは言え、誰にこの話を持ち掛けるべきかを吟味はしないとダメだろう。


 ファロンはどうか?ダグは?キョウでも良いかもしれない。


 取り合えずはそう言った名の通った者に話を持ち掛ければ多分断られる事は無いと思うのだが。


「・・・ケンフュが安定かな?あそこなら直ぐにでも色々と学べるだろうし、仕事も事務関係とかに就けさせて貰えそうだし、問題無さそうか?」


 俺は知り合いの名を数名思い浮かべてその中で一番信用が出来そうな人物を決めた。


「よし、それじゃあ組合に向かうのが良いな。行きましょうか。」


「ん?何処にです?あ、中に入るんですね。え、でも私は身分証明証もパスポート的な物も持ってないのに入れるんです?」


「自分が今どうやってここまで来たのか覚えて無いんですか?」


「・・・え?不法侵入!?」


「人聞きが悪過ぎるんで大声でそんな事を言うの、止めて貰えません?島に帰りますか?」


「申し訳ありませんでした!」


 腰を90度に勢い良く曲げて謝罪をする川村さんを横目に俺はワープゲートを再び出す。


 そしてさっさと移動してしまう事にした。別に入国の行列に並ばなくたって俺は中へと入れる手段がある。ワープゲートは偉大である。


 川村さんを連れて行くのにこの方法が一番楽チンで問題を小さくできるので採用である。


 悪さをしようと言う訳では無いのだ。この程度は認めて貰いたい。


 とは言え、これがバレると説教を食らう事は目に見えているのでその点は覚悟はしている。


 誰にバレると説教を食らうのか?と言うか、これから会いに行こうとしている人物にである。


 それと、説教と言うよりも疑念を持たれる、或いは危険視をされる事は確実だろう。


 また俺の事をケンフュは険悪な態度と辛辣な言葉で責めて来るに違いない。


 その点には少々ウンザリな気持ちになりつつもソレをなるべく考えない様にして武侠組合の建物の陰に到着だ。一瞬である。


「あ、千年機関に連れて行くって手もあったなぁ。まあしょうがないか。」


 正面入り口に移動しながらもそんな事を思い出す。


 機関長のタリフートならば多分俺の頼みを聞いてくれるだろう。


 これから会おうとしているケンフュには断られる可能性の方が高い。


「えっと、あの、付いて行けば良いんですよね?これ、私捕まったりしません?」


 川村さんはそんな不安を口にするけれどもソレを俺は無視して建物の中へと入る。


 コレに「何か言って欲しい・・・」と落ち込みつつもしっかりと俺の後ろをぴったりと付いて来る川村さん。


 それはしょうがない事だろう。だって初めて来る場所でいきなりの迷子など堪ったモノでは無いだろうから。


 さて俺はここで以前にここに初めて入った時の事を思い出す。


 そして記憶にある位置の受付の方に歩いて行けば。


「確かケンフュは・・・お、居たな。良かった良かった・・・スマン、話がある。時間は取れるか?」


「・・・今度は何を企んでいるの?その背後の女性は何?もし治安を乱す事をしようと画策しているのならば容赦はしないわ。」


「何でいきなり俺が以前に何かをやらかした感じで言ってんだよ?何もして無いだろうが俺は。」


「貴方・・・この期に及んで自分が成した事を全く自覚していないの?」


「・・・別に悪事を働いた覚えが無いんだが?」


「貴方が動いた後の始末がどれだけこの国に影響を出したか分かって無いの?・・・チッ!まあ、良いわ。で、話はその背後の女性の件と言う事?」


「舌打ちされる様な覚え無いんだけど・・・まあ、良いや。色々と事情があってここじゃ何だからさ。人払いでお願いするよ。」


「面倒をそう易々と持ち込まないで欲しいものだわ。只でさえ私は貴方の事を信用していないの。話だの頼みだのと、そんな関係を構築した覚えは無いのよこっちには。」


「じゃあ千年機関の方に行ったら良いか?迷惑なら向こうに頼みに行くんだが。」


「・・・来なさい。私の目の届かない所で事を起こされても厄介だわ。さっさと行くわよ。」


 少々の苦い顔をしてからケンフュは立ち上がるとさっさと奥のスタッフ以外立ち入り禁止の廊下へと行ってしまう。


 代わりに受付に入った職員はさも「いつも通り」と言った感じでスッと自然に業務の引継ぎに入る。


「行きましょうか。ここで突っ立っていても先に事が進まないんで。」


 ケンフュを見てその美貌で呆けている川村さんに俺はそう声を掛ける。


 俺たちは只でさえこの国では目立つ格好である。なので先程から周囲の目がこちらに多く向いていたのでこの場から直ぐに離れるが吉である。


 幸いにも誰にも絡まれはしなかったのだが、このままここに立っていたら何時そんなガラの悪い輩に絡まれるか分からない。


 こうして俺は川村さんを促してケンフュの後を追う。


 そうしてケンフュの入った部屋に俺は川村さんと一緒に入る。


「さて、扉はしっかりと閉じておいて頂戴。施錠も出来るからやっておいて。それで、さっさと話を聞かせなさい。」


 単刀直入、ケンフュは手短に話せとそう急かして来たので俺はザックリした要求を口にした。


「ああ、じゃあまどろっこしいのは後でにして結論だけ。この人を此処で雇ってくれないか?それと、この国の常識ってのも教えてやって欲しい。」


「は?」

「・・・へ?」


「戸籍もそっちで用意して世話してやってくれない?ケンフュなら簡単にそう言うの出来る立場に居るだろ?」


「貴方、頭がおかしくなったの?それ、本気で言っているのかしら?」


 ケンフュからヤバい奴を見る目を向けられた。俺にはそう言った目で見られて喜ぶ趣味は無いので止めて欲しい所である。


「俺が言った事はそんなにおかしな事だったか?・・・おかしくは無いだろ?あー、でも、普通に考えたら非常識だな?」


「私がソレをしてあげる義理がないのだけれど?」


「まあ対価を寄越せって言うなら仕事の二つや三つは熟すから言ってくれないか?」


「その女性はそもそもそこまで貴方がしてあげるだけの人物だって事なのかしら?」


「いや、そういう訳でも無いな?」


「・・・じゃあどう言う訳よ・・・」


 ケンフュは呆れた感じでそう言い、俺も自分で答えを口にしておいて何だが、首を傾げてしまった。


 俺が川村さんにここまでするのは別段特別と言った事では無い。只の義理人情と言ったモノだ。コレは人として大層な事では無い。


 しかしケンフュからすると俺がここまでする相手なのだから何かしらの特別な存在なのかと川村さんの事を見ていた様だ。


 そこに食い違いが互いに発生しているっポイ。


「あー、面倒だけど、事情、聞く?あ、そう言えば自己紹介まだだな。はい、どうぞ。」


「え?えぇ?・・・えっと、そのぉ~、私、川村久美子と申します。宜しくお願いします・・・」


 おずおずとした態度でそんな力無い挨拶をする川村さん。これぞ日本人、と言った佇まい。


 その様子に何ら特殊なオーラなどを感じなかったのだろうケンフュがあからさまに警戒を解いた。


「ケンフュって言うわ。宜しく。・・・いえ、待ちなさい。何よ今のは・・・ちょっと!説明しなさい!」


 ケンフュが少々声を荒げて俺に突っかかって来た。


「あーあ、直ぐにバレたな。あんな短い挨拶でどうしてそこに気付けちゃうんだろうね?どうしましょうか川村さん?全部ゲロります?」


「えぇ・・・?その決断を私に出させるんですか?そこは遠藤さんが決めて欲しい所なんですけど。」


 どうにもケンフュは川村さんがこの国の言葉を喋っていない事にあの挨拶だけで看破してしまったのだ。


 そして通じている。そんな大きな違和感に対して何も言わずにはいられない訳で。


「時間は大丈夫か?仕事終わりにゆっくり飯でも食いながらで説明した方が良くない?」


「こんな話を持ち込んだ当人が良くもぬけぬけとそんな事を言えるわね・・・良いでしょう。仕事を先に片づけるわ。暫く待っていなさい。・・・逃げるんじゃないわよ?」


「いや、逃げるって何だよ?そんな事をする訳無いだろうが・・・」


 こうして俺と川村さんは客間に移動してそこで待つ事になった。


 そこで出された茶と菓子を堪能しつつ暫し待つ。


 俺は落ち着いて待っていたのだが、隣に座る川村さんはずっとソワソワしっぱなし。


「あの、聞いて無いんですけど・・・」


「え?言ってありましたよね?記憶に無いですか?」


「えぇ・・・?一言相談があっても良いと思うんですけど・・・」


 ジト目でそう責められてしまったが、俺はその程度で動じない。


「ちゃんと意見は聞いてたじゃないですか。交わした会話を全部思い出してくださいよ。俺はしっかりと言葉にしてますよ?」


「・・・そんなの憶えてませんよ・・・」


 どうやらいきなり何も知らせずにいたと勘違いされていたらしいが、俺は言葉にしてある。


 これまでの川村さんと交わした会話の内容の流れを追っていけばこうした結果になった事には納得して貰えるはずだ。


 だけども覚えていないと本人は言っているのでここで時間つぶしの為に俺はその流れを全て説明した。


 そうして最初から今の今までの会話の流れを全て再現して教えると。


「嘘ですよね・・・?全部覚えてるって記憶力どれだけあるんです?というか、そんなの解るはず無いじゃないですか・・・」


「取り合えず川村さんはこの国が気に入りませんか?それなら島に戻ります?」


「・・・島に戻すって言うセリフを脅しに使うのは止めてくださいません?」


「あ、バレました?だけどアンケートもちゃんと取りましたし?川村さんが選んだんですよ?中華風が良いって。」


「それってズルくないですか?何も知らない私に対して移住する場所を只の言葉の響きとイメージだけで選ばせるって・・・」


「川村さんに選択権は無いんじゃないですかね?連れて行っても良いと言った俺の匙加減一つじゃないですかそこは?」


「確かに自力であの島から出ていける力が私には無かったのでソレを言われたらお終いなんですけどぉ・・・」


 ちょっと拗ねた感じになってしまった川村さんに俺は言葉を続けた。


「各国を実際に見せて回ったらどれだけ時間が掛かるか分かった物じゃ無いし、何処に住むかを決めるとかなったらどれにするか迷ってたんじゃないですかね?ソレに一々俺の時間を取られるのも嫌だなって思ったので。それに。」


「・・・それに?」


「そもそも川村さんを世界旅行に連れて行くとか面倒過ぎるんで。各地でツアーガイド役をやらされたりとか勘弁です。言い様に使われるとか真っ平御免なので。川村さんだけに都合の良い様に世界は出来て無いんですよ。」


「ああ、そうですよね。ええ、ええ、そうですとも。でも、事前にもっと分かり易く説明をして欲しかった、くらいは言わせてくださいよ・・・」


 ガックリと首を項垂れさせて川村さんは大きな大きな溜息を吐いた。


 確かに俺も配慮が少々足りなかったとは思ったけれども。


 しかし細かく説明とか意見を聞く何て事をする前に川村さんの「島を出たい」という熱量の方が大きかったので、そちらを優先したと言える。


 だからこそアッサリとしたアンケートだけを取ってその答えに従いここに決めたのだ。


 俺が全てを独断と偏見で決めた訳では無い事は確かである。


「まあ良いじゃないですか。選択肢が多い程に人は何かを選ぶ際に悩みに悩んだ結果に「安パイ」を選ぶ傾向にあるって言うし?俺から言わせて貰えば、ここはちゃんと川村さんはその安パイを選んだと思いますよ?」


「・・・じゃあ他の国はどんな所なのかを教えてください。その言葉を信じられる様に。」


「信じるも信じないも当人の感性次第じゃないですかね?ここで他国の話を聞いて今更迷いが生じて後悔するのも嫌でしょ?ソレに俺が嘘を教えていないって判別できる材料を川村さんは持って無いでしょ?止めておいた方が良いと俺は言っておきます。他の国と比べてもここはそこまで格差がある様な国じゃないし。寧ろ遜色無い国だし、生きて行き易いと思いますけどね。ソレにケンフュは信頼に足る人物だし。納得がいっても、いかなくても、ここで決定で。」


「私の今後の人生をそんな強引に決められるのはモヤモヤが募るんですが?」


「我儘が言える立場だ、と?」


「いえ、言えません。言えませんけどもぉ・・・」


「じゃあそこは我慢してください。もしそれでも不満が今後の日々で溜まり続けたりしたならば、それこそ、今度こそ、その後の事は御自分の力だけでお願いします。俺がここまでお膳立てしてるんですから、その後の事を決めるのは御自身でどうぞ。世界を旅してみたいと言うのであれば別に止めませんから。だけどもここでハッキリと言っておきますけど、川村さん、この世界には自転車も、車も、バスも、電車も、飛行機も、無いですよ?ソレがどれだけ旅をするのに困難な事か、想像できますか?」


 ここで会話は止まった。


 俺の言葉を真剣に捉えて川村さんが想像を巡らせ始めたからだ。


 そこに追い打ちを掛ける。


「この世界って山賊、盗賊、野盗が当たり前の様に存在しますし、悪党の数と言えば、日本に住んでいた頃と比べモノにならない位の数いますけど。自分は絶対に襲われないとか思ってます?このファンタジーな世界、殺人なんてのも比較にならない位に発生率が高いんですけど。自分が殺されない自信、その根拠を持ってますか?」


 俺のこの追撃に川村さんが物凄く嫌そうな顔になった。


 どうやらこの様子であるとやっとの事で自分の立場を理解出来た様だ。


「えっと、その、ハイ、この国に住まわせて頂きたいです・・・」


「そうした方が良いですよ。ケンフュの預かりになったと言う事になればきっと安全の確保はしっかりとして貰えるでしょうからね。自分の身を自分で守れるだけの力を身に付けたいって気になったら、紹介できる武術の道場もありますし。」


「・・・いや、本当に遠藤さんって何者なんですか・・・」


 この川村さんの質問に俺は答えない。


 それこそ俺がその「答え」を知りたいくらいなのだから。


(世界中で「賢者」とか呼ばれているとかここで自分の口で言うのなんて絶対に無しだからなぁ)


 こんな二つ名?で呼ばれるのは真っ平御免なのだが、各地の知り合いにはそんな風に思われている。


 賢者呼ばわりしないでくれとは頼んであるけれども、各人が内心で俺に対してそう思っているのは感じている所である。


(勘弁して欲しい。俺の様な一般人を賢者呼ばわりとか馬鹿げている)


 そうは言ってもここは異世界、ファンタジー。俺だけがそう思っていても虚しいだけだ。


 俺の持つこの強大な魔力やら、魔法やらはこの世界の住民基準で言えばそうした「賢者」と呼ぶにふさわしいと、そう言った部分は解るのだが。


(ケンフュみたいに会う人全員から警戒の目で見られる、ってのも、ソレはソレで勘弁して欲しいけどね)


 そんな結論が出た所で部屋に仕事を終えたのだろうケンフュが入って来たのだった。

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