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出来る訳が無い

 さて、大事な部分は取り合えずお互いに話し合えたと判断した俺はここで川村さんに踏み込んだ質問をしてみる。


「で、本当に貴方は「日本人」で合ってるんですよね?」


「・・・え?何でそんな事を聞いて来るんですか?当然私は「日本人」ですけど・・・」


「・・・じゃあ、出身地の「県」を教えて貰えませんか?」


「ええ。まあ。良いですけど。志摩手県です。」


「・・・え?今なんて?」


「ですから、し、ま、て、県です。」


「うん、島根県、では、無く?」


「・・・志摩手、ですね・・・え?シマネ?」


「いや、こりゃ参った。」


「え・・・?コレってまさかですけど・・・まさかの、ですか?」


「そう言う事に、なりますねぇ・・・」


 同じ日本でも、同じ「日本」じゃ無かった件について。


 そう、今俺たちの居る、こんな魔法が存在するファンタジーな世界が存在しているのだ。


 そうなればそこから簡単に想像はできる。


 パラレルワールド、そんな物が実際に在るのだ。


 俺と川村さんとはそもそもが違う「日本」からこの世界に入って来たと言う事。似て非なると言うヤツである。


「何処までも頭が痛くなる問題だなぁ。ドラゴンが聞いたらきっと爆笑しながら面白がる話だ。」


「えぇ・・・噓でしょ・・・同郷じゃ無いとか・・・全く違う世界?別の日本?そんなの・・・って、何です?ドラゴン?え、それってもしかして?」


 どう受け止めて良いやら難しい問題に直面してしまって俺も川村さんも困惑だ。


 しかしここでハッとして川村さんが俺に対して質問をして来る。


「あの!先程見せて頂いたアレ!アレはその、遠藤さんの本来の「日本」には繋げられ無いんですか?」


「・・・あー、ワープゲートっすか?ええ、そうなんですよ。繋がらないですね。」


 そうなのだ。繋がらないのだ。


 そもそも繋がって日本に戻れたとしても、さてその時に俺はどうなっているか分かったモノでは無い。


 試す事も出来ないのだからどうしようも無い事なのだが、しかし想像くらいは出来る訳で。


(元の歳と見た目に戻るのか?そもそも同じ時、同じ場所に移動できるのか?それこそ、川村さんがここに存在しているんだ。もしかしたら次元の違う「日本」になんて、まさか繋がったりしたならそれこそどうなるか何て分かった物じゃ無い。日本に戻ったら魔法が使えなくなる?それとも使えるまま?どちらの世界にも行ったり来たり出来る?それとも二度とこの世界には戻って来れなくなるのか?)


 想像する余地があり過ぎる。考えなど纏まる訳も無い。


 コレ!と言える断定できる情報が手元に無いのだから、そんな想像など幾らでも出来てしまう。


 そう、どうなるかなど分かったモノでは無い、と言う事だけが分かるのだ。


「例え繋げられたとしても、それこそ本来の川村さんの生きていた「日本」には繋げられ無いでしょうね。何時何分、ドコソコに繋げて欲しいとか言われても、そもそも貴女と俺とでは住んでいた「日本」が違うでしょう?帰りたい、戻りたいって気持ちは、まあ分かりますよ。でも、こればっかりは、無理ですからねぇ。」


「・・・あぁ、そうですよねぇ。向こうでは私って行方不明者として処理されてるんでしょうか今頃は。ああ、でもこんな年月経ってるんだから、当然死亡扱いされて戸籍が消滅してるかぁ。」


 向こうでは俺も当然に行方不明として扱われているのだろうなと思う。


 とは言え、それがどれ位の時間経過して発覚となったのかは分からない。


 俺の住所に尋ねて来る者がいるとは思えない。


 郵便物がポストに溜まって近隣住人が色々と不審に思って通報されて発覚などと言った事も考えられる。


 お隣さんとの交流、と言った事をしてこなかったのもあって俺が居なくなった事に気付いてくれる人は皆無と言って良いかもしれない。


 電気、ガス、水道、住宅家賃などは口座引き落としだったので預貯金が無くなって未払いになった事で行方不明が発覚、などと言った事もあるかもしれない。


(何とも悲しい終わり方だなぁ。その代わりにこっちで新たな人生再スタートって感じだけど)


 今思うと、多少は未練が残っていると言える。いや、多少では無く、多大に、かもしれないが。


 ソレがあっても今の俺はこちらの世界に馴染んで来たし、今更に戻ろうと言った気分にはならないけれども。


 川村さんは違うんだろう。恐らくは今まで元の世界に戻る事など諦めていたのだと思う。


 けれども俺とこうして出会って、そしてワープゲートを見て、もしかしたら、まさか、などと言った万が一と言う期待を蘇らせてしまったのかもしれない。


(悪い事しちゃったかなぁ。変に期待を持たせっちゃったのは。でも、しょうがないよなぁ)


 出来ないモノは出来ない。向こうが勝手にそう思って、当然に夢破れたに過ぎない。


 前提条件としても俺と川村さんとでは違う「日本」なのだ。俺に責任など無いのだけれども。


 俺は川村さんの「日本」を知るはずも無いのだから、そんな所に繋げられる訳も無い。


(このワープゲートはあくまでも「行った事のある場所」にしか繋げられ無いからなぁ)


 とは言え、この島から別の場所に川村さんを連れて行く事は可能だ。


 だからこんな提案を出したのだけれども。


「この島を出たいって言うならできますけど。どうします?」


 少々の落ち込みを見せていた川村さんがこの俺の言葉に「え?」と顔を上げた。そして。


「是非是非是非!もうこうなったらこの世界を全部見て回って海外旅行気分を思う存分に満喫したいです!連れ出してください私を!もうこんな何も無い島にずっとこのまま何て勘弁です!」


 その勢いに俺は大事な質問を一つする。


「・・・あの、この島の村長をやってるんですよね?戻って来る気は?」


「無いですね!」


 溌剌としてそんな事を宣言してしまう川村さん。ソレに俺は引きながらも訊ねる。


「・・・じゃあ引退で?そうなると村長の引継ぎとか先にするべき事をしておくべきでは?」


 幾ら何でも二十年もの間住んでいた場所なのだから、当然に愛着があると思っていたけれども。


「それならさっさとやってしまいましょう!こんなヨシイクゾウの歌みたいな場所からはさっさと出て行くに限ります!」


「えぇ・・・そんな妙な所は同じなんだ・・・」


 この川村さんの言葉に俺は色々とドン引きだ。


 オラこんな島嫌だ、とか言った歌詞が頭の中に浮かんで来る。


 川村さんのテンションが異常で何だか見ていて痛々しいと感じる。


 とは言え、そう言った気持ちを紛らわせる為にこれまで「家づくり」なんて物に集中していたのかもしれないと思えば、ソレを笑える訳も無い。現実逃避と言うヤツだ。


 無理だと思っていた事が可能になった瞬間の人間のテンションなんてこんなモノなのだろう本来。


 ならば川村さんのこの気持ちを汲んであげるのは人情だろう。


 そう思ったのだけれども。


「じゃあその引継ぎと言うのは話し合いですか?それとも投票とか?どうやってるんです?」


「決闘です!」


「・・・え?」


 俺はこの言葉に「どうなってんだよこの村」と思わざるを得なかった。


 どんなルールと決め事と経緯でそんな決闘などと言ったしきたりになったのか?そんな流れになる展開がイマイチ納得いかない。理解できない。


 とは言え、俺はこの村の住民などでは無いので文句を口にする権利など無いだろう。


「早速皆を集めます!」


「いや待って!?そのテンションで大きな決断しようとしないで!?」


 決闘の中身がどの様な競技なのかは知らないけれども、俺は川村さんの事を一旦止める事にした。


 この様な妙なテンションにさせてしまった責任が俺にも一部はある。


 こんな異様な精神状態で物事を決めると、とんでもない失敗か、或いは大成功のどちらかしかない。


 そんな一か八かみたいな二択の博打をやらせない為に俺は椅子から立ち上がろうとする川村さんの腕を咄嗟に掴んで止める。


 善は急げと言うけれども、今回の事は別に「善」では無い訳で。


 急がば回れとも言うけれども、別に急いでいると言った物事でも無い。


 だから落ち着くべき、俺のワープゲートは逃げたりはしないと伝える。


 けれどもコレには「遠藤さんは逃げるかもしれないんですか?」とか言われてしまって俺はドン引きだ。


 だがこれは利用できると考えた。ここで冷静にもう一度なって貰う為に川村さんを俺は説得する言葉を告げる。


「勢いだけで物事を進めようとするのなら逃げます。心を落ち着けてくれなければ逃げます。衝動のままに動かれたら逃げます。冷静に客観的に物事を見れないのなら逃げます。」


「うッ・・・!?」


 俺を置いてけ堀にする様な行動を控えさせる為に、そんな容赦無い言葉で川村さんの興奮を抑えつける。


 これはそもそも、安易過ぎたのかもしれない、俺の方が。


 川村さんのこの「島を出たい」と言う気持ちはずっと圧縮され続けていただけであって、無くなっていた訳では無いのだ。


 通販番組でやっているのを見た事がある、あの布団圧縮袋の様な要領なのだろう。俺はソレの蓋を開けて一気に中へと空気を入れてしまった様なモノである。


「・・・この島から連れ出す事は良いんですよ。だけども、長年に渡ってこの島で生活していたのだから、そこは最低限に果たす義理ってモンが有るんじゃ無いですか?それと、現実的な所をもっと見て頂くに、戸籍が無い。川村さんには何処の国に行ったって。まあ、何とかできる伝手を俺は持ってますからそこら辺の所の世話も出来ますけど、ね。」


 俺がそこまで言ってからやっと川村さんは大きく息を吐いて肩の力を抜いた。


 しかしここで俺はその落ち着きを取り戻した相手に対して再び容赦無い言葉を浴びせる。


「言っておきますけど、その住宅の知識とか技術、刃物関連のアレソレを無闇矢鱈にこの村と同じ様に公開したり考え無しに広めたりすると、恐らくは誘拐されて監禁されて、それらの情報を散々拷問されて搾り取られた挙句に殺されますよ、犯罪者組織に。」


「・・・え”っ?」


 敢えてここで先に伝えた。大事な事を。


 俺はこの島から出たいと言うのなら出してやるとは言ったが、その後の面倒を俺が全て何もかも見るとまでは言ってはいない。


「世界を彼方此方見て回って世界旅行をしたいとか口にしてましたけど海外観光気分?川村さんの力じゃ無理ですね。それにそもそも、お金持って無いでしょう?」


 その海外旅行とやらを俺が全てエスコートするなどとも言ってない。


 あくまでもこの島から出たいなら出来る、そう言ったまでだ。


 川村さんがそうやって島外に出た後は色々と欲求を落ち着かせて満足してこの島に戻って来ると思っていたのだ俺は。


 だけども村長も辞めて島には二度と戻ってこない宣言するし、挙句に次期村長は決闘で決めるなどと言った流れになってこっちはドン引きしている。


 こちらが最初に思っていた展開と大きくズレた。そんな感想を今俺は持っているのである。


 川村さんはそもそもこの島から出た後のリアルな「プラン」、計画などと言ったものを全く考えちゃいない。


 俺と言う魔法と言う力を持っていても、そもそも初めて行く土地、場所、国などとなったらそこの言語やらお金と言ったモノを気にしていたくらいだ。


 それらを持たぬ者がそれこそ、そう言った所に足を踏み入れた場合、その苦労は俺がしていたモノと比べたら天と地の差が出るだろう。


 徹底的に「現実」を突き付けて冷静さを取り戻して貰う為にこの様に厳しい事を俺は口にしている。


「川村さんの為に言ってますからねコレ?理解して貰えてますか?そもそもここ、異世界ですよ?そこそこな無茶を口にしている自覚はありますか?」


「・・・あ、ソウデシタネ・・・」


 一気に膨らんだ期待と言うモノを、ここでまた一気に萎ませる事は相当に残酷な事だとは俺も思うが、致し方無しである。


 後で何かと文句を言われたくは無いこっちだって。


「さて、またここで一呼吸入れる為にお茶を飲みましょうか。」


 こうしてまたインターバルを置いてから再び話し合いをする事となった。今回は主に川村さんの為に。


 そうして一服した後に先に口を開いたのは俺の方だ。


「そもそもが川村さん、この島の住民とはどうやってコミュニケーション取ってたんです初期の頃は?助けられたとか、協力して貰ったとか言ってましたけど、言語理解を出来る様になるまでにどれ位の時間が掛かったんです?」


「え?・・・私、最初から会話が成立してましたよ?・・・あ、いや、良く考えれば物凄くコレ、おかしい事ですよね・・・いや、本当にコワイ、何これ・・・」


「今更?・・・って言うか、最初っから会話成立?ファーストコンタクトから?」


 どうやら俺と川村さんは根本的な部分が全く以って違うらしい。


 その事実に背中が若干薄ら寒くなる。どう言う事だろうか?と。


 そこで俺は確認の為にとある実験を試みてみた。


「俺のこれから言う言葉が解るのなら、右手を上げてください。解らなければ左手を上げてください。では、行きます。」


 そこから俺は日常会話レベルでの「各国の言語」を順に口にして行く。


 シーカク国、神選民教国、サハール、中華な武侠国。


「・・・全部右手なんですね。どれもこれも意味が解る?聞こえている言語は全て別々だと理解しつつ?」


「うわぁ・・・私、こんな能力持ってたんですか・・・えげつないですね・・・と言うか、そんな事この島に居続けていたら分かるはずも無いんですけどもね。」


 ドン引きだお互いに。今、川村さんが喋っているのは「日本語」である。


 当然そのままではこの島の者たちに理解をして貰えないハズであるのに、ソレは通じてしまったようだ。


 俺が同じ事をしても恐らくは通じる事は無いと思う。そんな違和感が俺の「言葉」と川村さんの「言葉」の間には存在していた。


 ここで俺はこの島の言葉を川村さんに口にして貰おうと思ったのだが。


「いや、そんな必要が無かったからこの島の独自言語なんて私、喋れませんよ?」


「・・・他国に行ってもその調子で川村さんはその「日本語」だけで通用するっぽいですね・・・うわぁ、チートじゃん。あ、俺が人の事をとやかく言えないな。」


 俺は俺で魔力、魔法を使って川村さんと似た様な事が出来てしまう。


 と言うか、俺の方がよっぽどである。言語の問題だけと言わず、あらゆる事をこの魔法と言う力技で解決して来たのだから。


「どうやら何処に出しても川村さんはやって行けそうですね。さて、それじゃあ互いの事はある程度は知れたのでこの件はここら辺にしておきましょうか。それで先程の村長の引継ぎなんですけど、冗談じゃ無いんですよね?」


「冗談などでは無いですよ?まあ、私が村長にさせられた時は何も知らされずに有耶無耶のままでやらされて、勝っちゃって、そして何もかもが後から知らされた事ではありましたが。」


「それって絶対に断られると思われてたって事ですねぇ。」


「人を纏める立場なんて、そんな器じゃ無いです私。だから事情を最初に説明されていたら何が何でも断ってましたね。その決闘も弓矢の的当てでしたよ。村長が高齢で弦を引くのにも一苦労って程の老齢で。村長交代のその後に一週間でポっくりと逝きましたね。亡くなる前日までまだまだ元気、と言った様相だったんですけど。いや、本当にもうね・・・」


「その調子であれば村長引継ぎの決闘ってのは、誰もやりたがらないんじゃないですか?それと、村長の地位を降りる事にも反発やら反対意見が出て来そうなもんですが。」


「そこは無理やり権限発動して黙らせて全員参加させます。」


「えげつない。やる事が大人げない。とは言え、その内容ってどうするんです?」


「村長が何時もその決闘の中身を決めますね。そして今回は私が考えると言う事になります。」


「考えてあるんですか?ソレ?」


「全員参加型のバトルロワイヤルで良いんじゃないですか?最後に残った一人が村長すれば。」


「雑ッ!と言うか!何だか恨みつらみを込めてません?」


「いや、もうどうでも良いって言うか?」


「多少の義理人情は見せましょうよそこは・・・」


 川村さんの頭の中にはもうこの島の事などこれっぽっちも無い。どうでも良い存在と化している模様だ。


 とは言え、俺にはそこに口出しする権利は無い。


 だけども一言くらいはフォローを入れるべきだろう。


「もうちょっとマシなモノを考えてあげてくださいよ。と言うか、多分この島から川村さんが出て行く事を反対されるのが目に見えてますが?説得はしてくださいね?長年ここで生きて来たのだからそこら辺はちゃんと村の全員、とまでは行かずとも、主要な者たちくらいは納得させてください。立つ鳥跡を濁さず、ですよ?」


「・・・いや、寧ろそんな面倒な事にせずに誰にも何も言わずに今直ぐにでも行っちゃえば良くないです?」


「行方不明だって事で村が大騒ぎしますよ・・・その後のゴタゴタの事を考えてあげてくださいよ。川村さん、曲がりなりにも今、村長やってんですからその責任てのがあるでしょうに・・・ハッチャケ過ぎです。ブッチャケ過ぎです。俺、逃げましょうか?」


「分かりました~。スムーズに引継ぎが済む様な案が出ないか少し考えてみます。」


 俺が少々の脅しを掛けると川村さんは直ぐに案を考えると言い出す。


 なので俺は丁度良いと思って本日の話し合いはお終いだと告げる。


「それなら今日の所は俺、帰りますよ。はぁ~、色々とあり過ぎて疲れました。」


 俺はさっさと玄関に移動して靴を履き、ワープゲートを出して自宅に戻る。


(あれ以上長居してもテンションおかしくなってる川村さんに付き合ってられなかったしな)


 あの島から出られる事に静かに執念の様なモノを燃やしている川村さんとはあれ以上顔を合わせては居たくは無かった。


 しかしこうして早々に退散したは良いが、あの様子なら明日も村にお邪魔して様子を見るべきだろう。


「何やら碌な事にならなさそうだからなあ、あのまま任せていたら何か起こしそうだ。あんまり行きたくは無いけど、顔は出さないといけないだろうなぁ。」


 こうして疲れた心を慰撫する為にベッドに飛び込んで暫く俺はゴロゴロして精神の安定に務めた。


 こうして翌日、朝食を摂った後に俺は覚悟を決めて島へとワープゲートを繋げて移動した。


 移動先は村長宅の前。堂々と俺は姿を現わしたのだが。


「え、何この人だかり・・・どう言う事だってば・・・」


 村長の家の前のスペースには住民がワラワラ集まってざわざわしているのだ。


「早速何かやらかしたの?川村さん、あのままの勢いで昨日の内にヤベー布告でもしたんか・・・」


 この事態に俺はどうしようかと悩んでしまう。


 だけどもここで家の中から五名の若者が出て来てこう言ったのだ。


「村長はこうおっしゃられた。次期村長は、多数決だ、と。」


 これを聞いて俺は「何て事を考えたんだあの人は・・・」と頭を抱えたくなった。


 ついでに「決闘何処行った?」となる。


(こんな小さな村でそんな面倒な事をしなくても・・・禍根を生み出さないか?これ?)


 家の中から出て来たこの五名がその候補者なのだろう。


 この中から村人に村長になって欲しい人物を選ばせると。


(絶対に派閥とか有るじゃん。いさかいやら反発が出て抗争とか起きそうじゃん・・・)


 ここで結果が出ても、ソレに納得がいかない者が居たりすれば後で問題を起こすのではないのか?


 全ての者がここで出た結果を呑み込んでソレに従うとは限らない。


 そこまで考えて俺の脳内にはあのアフロの姿が浮かんで来た。


(昨日は村長の家に入った時点でアフロの魔力固めは解除していた。・・・うん、五名の中にアフロは居ない。アイツ、何処行った?)


 この場にアフロが要れば一悶着起きそうな物だったのだが、どうにもこの場に姿が見え無かった。


 俺はその事を気にするのを止めた。今は目の前の展開がどの様な所に落ち着くのか気になったからだ。


 その若者五名はそれぞれ距離を取った場所に移動して立ち止まった。


 どうやら誰に付くのかをここで決めるらしい。


「村長に相応しいと思う相手の所に集まるべし。」


 そんな簡単な一言だけが響いてその後に静かになる。


(いや、だから、決闘はどうなってんのよ?)


 そこでこの場に集まっている村人たちは互いに相談を始めたり、周囲の動きをキョロキョロと挙動不審に見つめたりと言った動きを見せた。


 どうやら誰にするかいきなりの事で直ぐに決められ無いと言った感じだ。


 とは言え、そんなモノは一人が直接動き出せばすぐにソレに追従する者が現れる。


 ミニャルだ。彼女は五人の候補者の中で一番大柄な若者の下へとスタスタと迷い無く向かった。


 その後は同じ相手にメールトも迷い無い足取りで向かっていく。


 こうなると釣られてぞろぞろと次第に動き出す者たちが出て来る。


 そうしてそこまでの時間も掛からずに結果が出た。


(と言うか、川村さんはこの場に来ないのかよ)


 当の村長がこの場に居ないとは何事なのか?確かに川村さんは「どうでも良い」などと言った事を昨日は口にしていたが。


 ここでミニャルが口を開いて宣言を出す。


「一番多く集まったのはバンベイ。次期村長はバンベイに決定。この結果に不満がある物は集まれ。そして、決闘だ。」


(反発する奴をこの時点で集めて纏めて叩き伏せるの!?やってる事が滅茶苦茶過ぎないか!?)


 バンベイとはミニャルが真っ先に向かった者の名である。


 圧倒的、とまではいかないモノの、バンベイの下には大多数と言える位には人が集まっていた。


 その他の四名の候補者にはそこそこな人数が分散したと言った形だ。


 この様な結果が出たのであれば。多数決だと宣言されていたのだからここで誰にも文句は言わせずに決定で良いはずなのだが。


(何で反対な者をここで集める?・・・ああ、一番最初が大事って事かな)


 文句があるならここで全部吐け、後からグズグズと言い出すな。そう言う事をやろうとしているんだろう。


 こうしてこの決闘に十五名の男たちが集まった。結構多いと言える。


「決闘内容は・・・全員纏めて掛かって来い!」


 そんなセリフをバンベイは叫んだ。


(何でやねん!)


 俺は心の中でそう叫んだ。


 一体全体どうすればそんな事になるのだろうか?ここで俺は考えた。


(・・・川村さん、面倒になってテキトーな事を言ったな?)


 後で説教をせねばならないかもしれない、そんな事を俺は心に留める。


 そして俺はここで改めてバンベイを観察をした。


 バンベイは大柄で爽やかイケメン顔、そしてゴリマッチョではあるのだが。


 そうであっても、幾ら何でも一人で十五人を纏めて相手にすると言うのは無謀だろう。


 とは言え、俺はこれに何らの割り込みも文句も付けられない。


 俺はこの村の者では無いのだから口出し無用と言うヤツだ。


 しかし心配くらいはする。危ないぞ、程度には。それくらいは人情だろう。


 だけども決闘の結果、そんな物は必要無かった。


 何らの危ない場面も無く彼は全員を叩き伏せてしまったから。


 パワフル、豪快、そんな言葉がぴったりな戦い方と言えば良いのか。


 バンベイが迫って来る相手に腕を大きく振るだけでソレに当たった二名が吹っ飛んだ。


 その動きの隙を狙い迫る三名。しかしソレに対して直ぐに体勢を整えたバンベイはまるでハグをするかの様に大きく両腕を広げてがっしりと三人を抱え込んだ。


 そしてそのままその場で高速でくるくると回転したと思えば、その腕を解放する。


 当然にその様な遠心力が掛かっている状態でいきなり解放された三名はそのまま吹っ飛んで行く訳で。


 その吹っ飛ぶ三名に巻き込まれた者が二名出てそのまま当たり所でも悪かったのか気絶して立ち上がっては来ず。


 この一瞬で一気にここで残り八名になっている。


 こんな展開に呆気に取られた間抜けが二名、ここで脱落する。


 バンベイに一瞬でその隙に接近されて腹を殴られたのだ。


 その殴られた腹を手で押さえて悶絶して地に伏した二名は再び立ち上がる事は無かった。


 もうコレで残り六名だ。壮絶過ぎる展開である。


 これに狼狽えた一人が逃亡、残り五名。


 降参を叫んだ者が一人出て、残り四名。


 ここでバンベイが直ぐに動き出す。強い踏み込みで肩口からのタックル。


 その体当たりは忌々し気にバンベイを睨んでいた者に向かって放たれていた。


 当然睨んだだけでその脅威が無効化出来る訳も無く、その者はタックルを食らった衝撃で5m程を吹っ飛んで地面に転がり動かなくなった。


 この時点で残りの三名が降参。


 こうしてこの「決闘」は幕を閉じた。

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