表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/327

森の中を御案なーい

 相手の警戒を解きたいが、こちらから迂闊に動くのは悪手だと考える。


 向こうの起こすアクションに対してソレに素直に従うのが堅実に関係改善の近道だと思ったのだ。


 コチラは貴女の求めに従順です、そんな態度を示せばこちらに害意、敵意が無い事を察して貰えるだろうと。


 まあそこに裏があると勘繰られると、どうしようも無いのだが。


(俺が喋った事で向こうもこちらと言葉のコミュニケーションは取れないって分かっただろうしなぁ。落ち着いて行こう。焦る必要も無い)


 槍を向けられていはするが、ソレが俺に傷を付けられるとは思えなかった。


 なのでここで自分の事を気にするのではなく、相手の事を考えてそちらの観察に集中する事にした。


 現地民なのだろうその女性は睨む様にして今も俺を見て来ている。


 恐らくは俺の見た目を気にしているんだろうと思われた。


 しかし俺に向けた槍先はブレず、ズレず、外れずと、ずっと「いつでも刺せるぞ」と脅しを掛けている。


 コチラが両手を上げて「降参」「敵意無し」を示していると言う事も解かっていない模様だ。


 暫く俺をジロジロと上から下まで観察しつつ一周した所でその女性は槍で俺の背中を軽く突いて来た。


 俺はそのアクションに合わせて一歩、二歩と前進する。


 するとまだまだと言った感じで俺の背中は槍でちょんちょんと突かれる。


(このまま進めって事か。じゃあなるべくゆっくりと進みますかね)


 どうやら事が動き出したと判断した俺は促されるままにゆっくりと求められた方向へと歩み始めた。


 余り早足になって歩いても警戒をされてしまう。かと言って余りにも歩くのが遅いと相手をイラつかせてしまう。


 丁度良い速度と言った事を探り探りしながら俺は森の中を進んだ。


 その間もずっと俺には槍が向けられ続けていた。


 妙な素振りを見せれば即座に刺す、そんな意が籠められているのは一目瞭然。


「なあ?そちらへの敵意は無い。害意も無い。分かる?そんなに警戒しないでくれ、って言っても、通じないよなぁ。」


 そんな言葉を掛けてみたら槍が一瞬で俺の顔の前に。


 どうやら「喋るな」とか「黙れ」とか「無駄口を叩くな」と言った事らしいコレは。


(はいはい、分かった分かった。その脅しに素直に従うよ。だからあんまりそんなコワイ顔するなってば)


 相手は俺を睨みつけている。何処までも疑われていると言った感じだ。


 とは言え、言葉が通じない。それこそ文化も常識も丸っきり違うのだろうからソレも当たり前の事だろう。


 自らの身の安全の確保、その為に本来ならば俺の事を即座に殺しに掛かって来てもおかしくない所だ。


 それなのにこうして生かして、脅して、何処かに連行しようとしているのは優しさからか、思惑があっての事か、或いは妥協からか、もしくはその全てか。


(俺の事を何かの生贄にする為に、何てのは勘弁して欲しい所だ。まあ、このまま行けば仲間の所に、とか、集落に、とかそんな場所に向かってるんだろうけど)


 この様な危険がモリモリな森の中で女性の独力で生き抜いているとは思えない。


(ジャングルの原生民みたいな恰好をしてるのに、その手に持っているのは鉄の槍だもんな。合って無いんだよね。文明レベルが)


 鉄の産出、製錬、精錬がされて製造しているとしか見られないその鉄の槍である。


 身に付けている服、恰好からして差があり過ぎる。


 鉄の槍が作れるだけの文明レベルがあるなら、もっとしっかりとした布で出来た服を着て居ても良いハズなのだ。


 そんなアンバランスには何かしらが影響しているのは確実だ。しかしソレが何かは分からない。


 そうして歩き続ける。かなり長く。そして違和感を覚える。


(森に棲んでるハズの動物、魔物?が、出て来ない?いや、一定の距離から近づかない?)


 俺はここで魔力ソナーの範囲を広げて様子を確認してみた。すると。


(とある場所から一定距離、かなり広く「結界」が張られている?)


 もしくは近寄らせない何かが設置されていると見て良いのだろう。


 俺が感知できる範囲にはこれと言って「ヤバそう」な感じの反応は拾えていない。


(安全圏の確保をしっかり取っている。ああ、ある程度の全容が見えてきたな)


 俺の脳内に直ぐに立体マップが浮かんで来た。


 そのとある場所には木造建築の家、畑や池が存在している。


(こんな場所に人の住める土地か。凄まじいな)


 冒険を楽しむ、そんな気分で制限していた魔力ソナーだったが、こうして解放と相成った。


 楽しむよりも気になる方が勝った上での事である。


(さあ、ここにはどんな人々が生活してるのか?少しドキドキするな)


 そんな気分でいるのは俺だけであって、先程から槍をこちらに向けっぱなしの現地民の女性の表情は固いまま。


 その集落までの距離はまだまだ長く、このままの状況が暫く続く。


 到着までに俺は考えてみる事にする。


 どうしてあんな場で俺とこの女性は出会ったのか?と。


(コレだけの距離が有るんだから散歩をしに出て俺と遭遇したって訳でも無いだろ?じゃあ、偵察?哨戒任務?ソレもしっくりこないな?異変の調査、ってのも、ちょっとおかしいな?)


 調査などと言うのは一人でするもんじゃ無い。


 だけども女一人、他に誰とも遭遇していない。


 一人で食料の調達の為に遠征した、と言った事もあり得るかもしれない。


 だけどもソレは危険が過ぎると言うモノじゃ無いだろうか?


(こんなファンタジーな世界だから、巫女さんが居て、予見とか、未来視とか、神様からのお告げみたいなモノも現実に在り得そうだ)


 そう言った現象に従って動いたら森の中で未知の相手と遭遇、そんな想像もしてみる。


(好い加減に口を開いてくれないかなぁ。さっきから黙ってばっかりで言葉を発してくれないじゃん)


 このままではずっと言語理解にまで至らない。コミュニケーションが致命的に取れず仕舞いで。


 魔力でずっと頭脳強化をしているのにこれでは全く効果無しになっている。


 別に魔力の無駄遣いとは思わないが、しかし精神の方が疲れる。


 ここで気を少しではあるが張り詰め続けていた事を自覚して、ソレを緩める事にした。


 どうせこうなったらこの原住民の女性は喋っちゃくれないのだろう。集落に到着するまでは。


 そんなこんなで歩き続けた森の中。ようやっと目的地に辿り着く。


 いや、ここはまだまだその手前だ。どうやら見張りが存在している。


 何やら木の上から声が聞こえて来た。


 どうにもその音源へと視線を向けてみると木の上に家。


「おー、ツリーハウス。しかも滅茶苦茶整ってるなぁ。家のデザインが全くミスマッチ。」


 まるでソレは計算し尽くされた様なキレイに処理されている木材が使われていた。こんなジャングルと言える様な森の中で異様な光景だソレは。


 その家から出てこちらを警戒したのは上半身裸の、腰巻一つの男性。その髪型はアフロ。


(いや、アフロって・・・)


 俺はその衝撃に言葉も出ない。ソレは直径50cmはあろうかと言う程の大きさ。


 その男が俺をここまで連行して来た女性と話し始めた。


 男の髪型に気を取られている場合では無いと思って俺はその会話に全集中する。


 ここの住人との会話が出来る様にと俺は言語理解に努める。思考する事に意識も魔力も集中させる。


 上げていた腕を下ろして俺はボーっその光景を眺めつつ耳に入って来る言葉を咀嚼していく。


「ああうん、祖、雲長?えーっと、村長、か。気、意見?うん?危険が危ない?ああ、そう。石、忍?責任は誰が取るのか?亜矢氏ん・・・怪しい輩、連れて来るとは、精神はどうなっている?即座に殺すべきだったはずだ?」


 少しずつではあったが、その会話が理解でき始めた所で交わされていた内容が物騒なものだと知る。


「ああ、俺って出合い頭に本来なら殺されていたポイなぁ。」


 声を荒げて「殺せ」と言っているのはアフロの方。


 しかしそこを女性の方は「村長に取り次いでくれ」と伝えている。


 ソレをアフロは怪しいヤツを村長に合わせて危険があれば誰が責任を取るのかと言っている訳だ。


 押し問答、と言った感じでは無い。アフロの言っている方が正論と言えば正論と言える様な状況だ。


 女性の方は「私の勘は当たる」と口に出し。


 男の方は「そんな曖昧なモノを真に受けられない」と突っぱねる。


(女の方が埒が明かないと言って勝手に奥に進んで行かないって事は、ここが検問みたいな場所って事で良いのか?)


 別に集落を守るための壁と言ったモノがここには存在しない。森との区切りが何処にも無い。


 そうなるとこうして見張りを立てる事になるのは理解できる。


 この森に生きる他の存在から集落を護る為に周りに何らかの「不可侵領域」を作り上げてはいてもだ。


 緊急事態や想定外の事が起きた場合の見張り、連絡員は必要だろう。


 そうこうしている内にアフロが俺に対して視線を向けて来た。


「お前、何者だ?とは言え、言葉が通じないのだったな。こちらもお前の言っている事は分からん。・・・悪いとは思うが、我らの安寧の為にここで死んでくれ。スマンな。」


 既にもう大体の内容が分かるくらいには俺の頭は理解していた。


 このアフロが俺の事を殺して「何も無かった」にしようとしている事も。


「ちょっと!止めなさいよ!そんな権限はアンタには無いでしょ!?」


「俺を止める事がお前には出来ないって事も理解してるだろ?俺じゃ無くても誰だってこの結論に至るはずだ。邪魔をするなよ?」


「だからと言って!」


 女性は俺がアフロに殺されそうになっているのを止め様としてくれているが。


 どうにも言葉だけで手出しは一切無し。


 どうやら直接に行動で止める事は本当にしてはならないと言った感じらしい。


 アフロを止め様とする言葉の中にはしっかりと必死さが感じられるので薄っぺらい上辺だけの物では無い事は窺えたから良いモノの。


(もしそれが上辺だけの言葉だったら、どうしていたか分からんな)


 俺を殺そうと近づいて来るアフロのその手に持つのはやはり洗練された刃物。ナイフよりは大きく、剣よりは小さい。鉈と言う雰囲気だ。


 ソレが俺に向かって袈裟斬りに振り下ろされるけれども。


 そんなモノをワザと食らってやるのが何だか癪に障ったのでヒョイと当たる直前に大きくバックステップして避けて見せる。


 こんな森の真っただ中で地面がそれこそ安定しないボコボコの足場でバックステップだ。


 着地でコケそう、ではある。けれども俺はそんな間抜けにはならない。


 ふわりと地面に着地する。そもそも空を飛べるのだから着地に失敗も何も無い。


「な!?なん、だと?」


「え?今の何よ?」


 アフロも女性の方も驚いているが、そんな事は俺にはどうでも良かった。


 どんな心算でアフロが俺を殺そうとしたのかは分かった。


 けれども女性のその「勘」とやらの方がまだ分からない。


 どうして俺をこうしてここまで連れて来て村長に合わせるなどとその「勘」が働いたのか?


 何かしらの根拠がそこにあるとは思うのだが。


(この整えられているツリーハウスといい、鉄の短槍やら鉈やら。どう考えてもソレ関連だよなぁ)


 魔力ソナーの範囲は広げたが、その詳細レベルまでは上げてはいない。


 集落の中にどんな人物が居て、どんな人々が暮らしていて、どんな暮らしぶりなのか?なんて所までは調べちゃいない。


 全力本気を出せばそんなモノを丸裸にしてしまえはする。


 けれどもソレをすれば俺は精神を非常に疲弊させる事になるだろう。


 そんな事をせずともここまで来れたのだ。後は流れに身を任せているだけで話は進むのではないかと思っているのだが。


 懲りずにアフロが俺にまた斬り掛かって来た。先と同じ軌道だ。どうやら俺が避けた事を「まぐれ」だとか何とか思ったに違いない。


 ここで俺は「好い加減にしろ」と言って刃を掴んでやろうと思ったが、ソレを止めた。


 またふわりと、今度はサイドステップで飛んで着地。振るわれる凶刃を避けてみせた。


「くそッ!?コイツ一体何なんだ!」


 アフロが俺の事を睨んで来るが、ソレはこちらのセリフだと言ってやりたい。


 やりたいが、このまま俺は「現地民の言語」を理解できている事を知らせずにこのまま行こうと悪巧みした。


(アフロのやって来た事は蛮族と同じだな。さて、どう言った評価にすべきかなぁ)


 このアフロは「誰が考えても同じ結論になる」などと言って自分の行動を正当化していたけれども。


 そうなればこの集落に住む全員が全員「蛮族」と言っても差し支えない。


 けれどももし、只単にこのアフロがそう言った暴力に直ぐに頼る様なタイプなだけだったならばどうか?


 まだ会った事も無い他の人々への評価を早まる必要は無いと言う事になる。


 そこでこの茶番をどうやって終わりにしようかと考える。


 ここまで俺を連れて来た女性は動く気配が無い。本当にこのアフロを止められる権利を持たないのか、どうなのか。


 このアフロは俺が止めなくてはならないのか?と思ってしまう。


(自主的に止まってくれないと話し合いすらも見込めないって判断になるんだがなぁこちらは)


 そんな余裕の態度を見せた事が悪かったのか、アフロがこちらを睨みつけて来てまたその手の凶刃を振るって来る。今度は横薙ぎだ。


 とは言え、ソレも躱して見せる。ヒョイとバックステップで。


 このまま追いかけっこ、鼬ごっこの様なやり取りを続ける心算なのか、アフロはまたこちらへと踏み込んで来る。


 だが、先程の横薙ぎは避けられる前提で放ったモノらしい。アフロのその顔に驚きは浮かんでいない。


 早くも俺の動きに対応して来たと言う事なのだろうが、その程度でドヤ顔しながら斬り掛かって来る事に少々のイラつきを覚えさせられた。


 なので再びその追撃を避けて見せる。


 その追撃は考えられていて回避し難い様にする為に深く踏み込んでの、また再びの横薙ぎだった。


 でも、俺にはそんな浅知恵は通用するはずも無い。


 見えている。こちらにはハッキリとその動きは。


 アフロは俺の着地際の無防備な所を狙ったのだと思うが、甘いのだ。


 別に俺は一々着地しなくては魔法が使えない訳じゃ無い。


 そもそも俺は空を自由に飛行できるのだから。


 スーッとその振るわれる刃を避けて行く俺の事をアフロが苛立った声で。


「この化物!」


 と叫んで来る。けれども俺はコレに何も言い返さない事とする。


(勝手にこちらを襲って来ておいて、その結果が自分の思い通りにならなかったら相手を化物呼ばわりかよ。失礼なんて言葉が遥か彼方に置いてけ堀だな?)


 コレには内心で「流石蛮族、会話とか対話って言う言葉が辞書に無いんだな」と感心してしまった逆に。


 さて、先程までの俺のイラつきは去った。相手がこれ程にしつこく勝手にこちらを殺そうとしてくるのならば怒り続けているのも馬鹿らしい。


 これからこのままずっと相手が諦めるまで無駄な行動を繰り返させ続けて分からせると言うのもまた一興かと思ってしまう。


 相手が諦めるまで、今ここで徹底的に実力差を見せつければ後々に楽が出来るだろうと考えた。


 この後に集落へと入れた場合に何かと色々と俺にイチャモンを付けて絡まれるのも面倒だ。


 ここでアフロには解らせる為に「絶対に敵わない」と思わせるのが良いだろう。


(入れなかった場合は勝手に不法侵入するけどね)


 コチラには幾らでもその手段はある。けれどもソレをここまで使わなかったのは只の気まぐれだ。


 そんな事を考えていれば、ここに来てアフロがこちらを強く警戒し始めたので動きが止まってしまった。


 俺からは何も仕掛けていないのに本当にアフロは身勝手だ。


 向こうが俺を何も無かった事にする為に殺そうとしてきたのに。


 こうして俺が何者であるのかを考え始めた途端に斬り掛かるのを止めてしまうなんて。


 この様な対応をして来るのならばアフロは最初からもっと俺とのコミュニケーションを取る努力をしておくべきだったのだ。


 自分勝手、そんな態度の変化で俺の中のこのアフロへの評価が「最低」に至る。


 諦めずに俺へと斬り掛かり続けて来ていた方が余程マシだったくらいだ。


 今更に警戒をするのであれば、ここに俺が来た時に最初からしておくべきだったのだ。もっと慎重な対応を採るべきだった。


 いきなり殺害を試みるとかどうかしている。


 このアフロがどんな身分で、どの様な権限があるのかなど俺は知らない。


 知らないが、それでもこのアフロが傲慢であると言うのは充分にこの結果で理解した。


 迂闊とか、蛮勇、考え無し、そう言った「単細胞」と言うレッテルをこのアフロに俺は貼る。


 こうして中途半端なこの現状に相手の方はどの様に次に動いて来るのかと思って黙って俺は様子を見る事にしたのだが。


「ミニャル!何て奴を連れてきやがった!どう責任を取る気だ!」


 いきなりアフロは女性を怒鳴り散らした。


 コレには俺も思う所がある。ミニャルと言われたその女性がどう言う心算で俺をここまで連れて来たのかを。


 ソレと同時にこのアフロにはうんざりした。


(お前の採った行動はどうなんだよ?責任転嫁しようとしてんじゃねーよ)


 考え無しの行動、アフロがやった事はそう言う事だ。


 とは言え、ミニャルと言う名なのだろう女性のやった行動も考え無しと言えば、確かに同じだ。


 俺と言う、向こうからすれば正体不明なはずの存在をこうも安易にこんな所まで連れて来たのだから。


 だがしかし、アフロの採った行動は、それ以上に余計に愚かだ。


 アフロは単純にして明快、面倒だから排除、思考停止である「余所者は殺して無かった事に」などと言った理由なのだ。


 最初から敵対行動、それは確かに白黒つけて立場を明確にする。それは現状を分かり易くさせはする。


 けれどもソレは破滅的な選択だ。


 だって俺がもしもっとキレ易い性格をしていたら?


 そんな事になっていれば今頃は既にアフロは血だるまになって息絶えていたはずだ。


 そう、アフロは俺の事を見下していたのだ。強そうには見えない。なら、殺せる、と。


 俺の実力など気にも留めない、こちらの見た目だけでそう判断した。


(初めて会った相手の力量なんて全く分からないハズなのによくもまあそんな選択を即座に取ったよなぁ?自分の腕っぷしを信じて俺を「消す」つもりだったんだろうけどさ)


 己を知り、敵を知れば百戦危うからずとは言うが。


 ソレは自身の力よりも相手の力が上だった場合に逃げる事も、戦わ無いと言う選択肢も出来ると言う意味も含んでいる。


 自身を知り、相手を知らなければその結末はどうなるかなどたちまちの内に不透明になる。


 相手の事など気にせず、自らの力量を過信などすれば、その結果は「痛い目を見る」である。


 このアフロは完全にその「痛い目を見る」を選んでいるのだ。


 アフロが今その「痛い目」を見ていないのは只の俺の気まぐれでしかない。


 今からでも俺がその気になればこのアフロに「お仕置き」を幾らでだってしてやる事も出来る。


 だが俺はソレをしない。二人の成り行きを最後まで傍観者として見ている事を選んだ。


「ワレル!だから私は最初から言っている!村長の意見を聞くべきだって!幾らお前が村の守備兵長だからと言って勝手な真似をする事は許されて無いだろう!」


 どうやらアフロの方の名前はワレルと言うらしい。


「うるさい黙れ!俺は俺の判断と権限で出した結論だ!こいつの正体は得体が知れん!生かしておくことはできん!何としてでも殺すべきだ!」


 また勝手な事を言っているアフロ。分からないモノは殺す、怖いモノは殺す。そう言った選択しか取れないとは呆れてものが言えない。


 アフロのそれはマトモな事を言っている様に聞こえる。しかしこれは只単に何も考えていないと言っているも同然だ。


 アフロは自分が出した答えに固執して色々なモノが見えちゃいない。


 そんな事で良く守備兵長などと言った役職に就けているものだ。


 襲われた俺が怒りも恐怖も見せたりせずにこの場で堂々と立って事の成り行きを見守っている事など気づいていない。


 冷静になって俺の様子を見ればもっと別の事を思って良いはずだ。


 それこそ襲われていて何故そこまで静かにしていられるのか?とか。


 何かを待ち続ける様に佇み続けているのは明らかにおかしい、とか。


(そもそも最初から俺の事を敵視してる奴が直ぐにその気を改めるなんて事にはならんか)


 このままでは埒が明かないかと思い始める。アフロにはきっと俺の事が只単に「訳の分からない、理解の及ばない存在」としか映っておらず、そこに恐怖を感じているだけなのだろう。


 互いに言語を理解できていないといった事も加味してその様な状態になっているのだろうけども。


 俺は今彼らの言葉が理解できている事を知らせる気は無い。


 取り合えず集落の場所は分かったし、今ここでその村に直ぐお邪魔しなければ気が済まない、と言った事でも無い。


 後でまた様子を見に行けばいいだけだ。俺の力ならソレが簡単にやれてしまう。


 今に拘る必要は無いのだから一度ここは俺の方が引いて再度にまた訪れれば良いだろう。


 そう思って俺は踵を返してここまで来た道を戻る事にした。


 言い争う二名はその俺の動きに直ぐに気づかない。


 気づいた時には「クソ!?逃げる心算か!」などとアフロは的外れも大概にしろと言いたくなる様な事を口走るし。


 ミニャルはと言うと「あ!行くんじゃない!お前は村長と会わせる!」と言って俺を追いかけ様としてくる。


 しかしソレをアフロがミニャルの腕を掴んで止められている。


「はぁ~。全く、面倒な目に遭ったなぁ。取り合えず島の全容をマップ埋めする為に動こうかな。」


 集落、村の位置は分かった。ならばそれ以外の部分を調べるつもりだ。


 まだまだこの島は広い。他にも見ておくべき場所が沢山あるはずと思って今回の件は後回しにする。


 とは言え、今日の所はもうこれでお腹一杯だ。


 俺はワープゲートを出して自宅に戻ってゆっくりと心を落ち着かせる時間を採る事にした。


「人との交流ってのは良いモノだと思っていたけど、あんなのはもう二度と勘弁だな。」


 あれ程に根本的にコミュニケーションが取れないと言うのはハッキリ言って非常に疲れた。


 相手が勝手にこちらへと都合を押し付けて来る、しかも言葉も通じないとか言った状況は酷く精神に疲労を感じさせる。


 まあ途中で俺は既に向こうの言葉を理解して喋れる様にはなっていたけれども、ソレをワザと気分で口にしなかっただけであるが。


「あー、次に出会った時にはどういう風に対応するかなぁ。向こうは俺の喋る言葉は分からんだろ?だけど、向こうの言語を俺が口にしたら、きっとより一層に警戒を上げるんじゃないのか?あの調子だと。」


 アフロは過剰なまでに俺の事を恐れていた様に見えた。


 なので次に俺と会った時にいきなり俺が現地語をペラペラと喋った場合、より一層の警戒をされるのではないかと思ってしまう。


 どうやって言葉を理解したか?しかもこの短期間に。そこを注視されてまた何やかやと話が進まなくなりそうだと感じる。


 ここで俺は結論を出す。


「まあ暫くの間はあそこに近づかずに島を見て回っていれば良いか。別に積極的に関わらなくても良いだろ。俺は別に民族研究家じゃ無いしな。」


 そうして俺はその日の残りの時間はミニャルの事もアフロの事も忘れてノンビリとした時間を過ごして疲れを癒す事に集中した。


 そうして翌日、俺は早速師匠の所に昨日の事を愚痴りに行った。


 これに師匠、マクリールからは「愚痴を溢しに来るくらいならその島の探索を止めれば良いだろうが」と渋い顔をされながら指摘された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ