大自然の洗礼は大いに心を揺さぶって来た
そうして魔力ソナーを広げてみれば、それこそあちらこちらに生体反応が無数にあってギョッとする。
「いやいや、コレはちょっと・・・気づいていなかっただけで、もしかして、俺って・・・狙われてる?」
巨大カモメには気づかれていないっぽかったが、あの巨大ダンゴムシにはそもそも狙われていてこちらに接近して来ていた可能性がある。
「うん、そもそも俺の居た場所目掛けて一気に転がって来てたもんな・・・」
俺はまだ木の陰に隠れたままだ。開けた場所に出るのはあのカモメに見つかるかもと思ってまだ動かずにこの場に残っていた。
しかし魔力ソナーを使った事で今ここに居続ける事も危ないのを知った。
そんな今も少しづつこちらへと接近してくる存在が三体、それぞれ別方向から迫って来ている動きが脳内マップに反映されている。
「・・・最初に接触して来るのは、ダンゴムシの薙ぎ倒した木の道からやって来る奴か。」
時間差がある。先ず初めに接敵しそうなのはダンゴムシが作り出した道から来る存在だ。
ここで俺はその正体をこの目で見る前に自身の前方に魔法バリアーを張っておく事にした。
そうしてその後に警戒する事、大体一分。
その姿は王冠を被ったかの様な頭をした「巨大蛙」だった。
その横幅は1mはあろうかと言う程で、体形はと言うとウシガエルと言った感じで。
「嫌な予感・・・」
俺はそのカエルを見た瞬間にこう思ったのだ。
その鋭い「王冠」をこちらに向けてぶっ飛んで来るんじゃないか?と。
その予想は的中した。
そして見事に次の瞬間にそのカエルは俺の張ったバリアに勢い良く衝突した。
透明で強固なその障壁を破壊する事が出来ずにそのカエルの頭部は潰れる。
ソレはこのカエルの突進の威力を物語っていた。即死だ。
「・・・グロイ。」
そのカエルは既に動かない。ドスッと地面に倒れてそのままだ。
「この島の生物、どれもこれもオカシイ・・・」
このカエルの餌の獲り方はこの巨体での突進力、ソレと、頭にある王冠の様な形をした鋭い突起での突き刺しだったんだと思われ。
「次のが来る前にここから離れよう・・・」
俺は一気に精神力が削られて全身の力が抜けていくのを感じた。
なのでこれを回復させる為に俺は直ぐにワープゲートを出す。
ソレは自宅に通じている。戻ったら即座にベッドに飛び込んだ。
「あの島、物凄くヤバイじゃん・・・」
当初はもっと穏やかな場所だと思っていた。
凶悪なのが現れたとしても、ソレは食物連鎖の頂点に居る様なモノで、その数も多くは無く遭遇も稀であろうと。
だけど実際はどうか?現実は容赦無かった。
恐らくはその連鎖ピラミッドの中腹、或いは下位なのであろう生物も、あれ程の強烈なインパクトを放つものばかりなのだ。
あんなのと連続して顔を突き合わせていたらこちらの正気度がゴリゴリと減らされる事、間違いなしである。
「じゃあ、その天辺に存在しているだろう生物って、どんなだ?」
俺はここでハッと気づく。あんなヤバイ生物たちの頂点、ソレはどんなモノであるのか?と。
そしてもう一つ。
「あの島で人がもし、生きていたならどうだろうか?」
ソレはソレは逞しく、力強く生きている事だろう。
もしくはひっそりと、細々と隠れ住んで陰鬱な生活をしていたりするかもしれない。
俺の広げた魔力ソナーの探索範囲はまだまだ狭めている状態で、その中には人の気配は捉えていない。
やろうと思えば一気にこの島全てを調べる事は出来るが、ソレをしたら何だか負けな気がしてやっていない。
そもそも人が一切居ない島かもしれないが。
全てを探索した訳では無いのでまだこの時点では何も言えない。
魔力ソナーで島の全てを把握した訳でも無いのでこの先で出会いがある可能性も残っている。
「とは言え、そんな出会いがある前に俺の方が参っちゃうかもしれないんだけどなぁ。」
あの島の生物が俺へと齎すショックは相当に大きなものだ。
これまでにも色んなおかしな生物やら魔物と言ったモノを見てきてはいるが。
どうにもあの島の生物にはこれまでに受けて来た事の無い独特な何かがあって、ソレが俺にかなりの衝撃として迫って来ているのだ。
その正体が何かはイマイチまだ理解できていないのだが、ソレがどうにも俺の精神を揺さぶり、大きく削って来てるのは間違いない。
「はぁ~、疲れた。だけどまだ負けない。明日も続きから探索開始だ。・・・けど、今は存分に力を抜きたい・・・」
その日の残りは再び島に行く気にならずにそのまま自宅で休養を取った。
そうしてその翌日、俺は愚痴を溢しに行っていた。
「と言う訳で師匠、何か心当たりとか無いですかね?」
「・・・お前は何でそんな事を私に報告しに来たんだ・・・」
呆れた顔で師匠、マクリールがそう言って俺を責める。
心当たりと言うのはその島に生息する生物に何か似た存在を知っているかと言うモノと。
俺が精神的に参ってしまっている原因になっているその生物たちの放つ独特の雰囲気と言うか、何と言うか、それが何かを知ってはいないかと言った事である。
「そんなモノは知らん。」
しかしマクリールから素気無くバッサリとそんな風に言われてしまった。
まあコレは当然か。マクリールは実際にその島には一歩も踏み入ってはいないし、その生物たちの事も直接に目にした訳じゃ無い。
これは只の俺の愚痴でしかないのにマクリールが真剣にそれに付きあう訳も無いのだ。
「話を聞くだけなら、その様な説明された生物の心当たりは無い。実際には系列と言ったモノがあって、それの進化した姿なのかもしれんがな。」
一応はそんな答えを返して来てくれる。確かに言われてみればこの世界は広いので元となったモノは存在するのだろう。
あの島を俺は最初に「ガラパゴス」と言った印象を持ったので、そんな所から生物も独自進化と言ったモノをして見た目が大幅に元から変わったのも居るのかもしれない。
「ソレと、まあその精神的に受けている衝撃と言うのは、日常がその生物からしてみれば毎日が「死ぬ気」だからなのでは無いか?そんなモノを目の前にすれば多かれ少なかれ影響と言ったモノは受けるだろうよ。」
「・・・ああ、そうですね。何だか腑に落ちました。そっか、言われて思い出しましたけど、一人で森の中に居た時のあの頃をもっともっと濃くしたらそんな感じですね・・・」
俺はこの世界に来ての初期に師匠と知り合った後に一人で森の中、サバイバルをしていた事を思い出して納得した。
いや、あの頃の生活がサバイバルと言えるモノなのかどうかは難しい所か。
自身が過酷な環境で生きていく為に毎日を「死ぬ気」で過ごすのだ。アレはもう二度と体験したくない思い出である。
それこそ性格も、精神も、考え方も変わってしまう。
ソレはソレは冷酷で非情な体験である。
「あー、有難うございました。やっぱ師匠に愚痴りに来て良かった。あ、お礼と言っては何ですけど、メルフェの実、十個ほど貰ってください。」
「・・・遠慮無く貰ってはおくが、未だにお前は常識と言うモノを身に付けてはいないのだな。はぁ~。」
そんな盛大な溜息を吐かれた事は解せないが、俺はインベントリからメルフェの実を言った通りの数出してテーブルに置いた。
「それじゃまた。行ってきます。」
俺はワープゲートを出して島へと移動する。
その際に見送ってくれた師匠は手を軽く二度三度と振ってまるで厄介者を追い出すかの様で。
しかもその顔には呆れを含んでいた。
そうこうして俺は昨日の場所へと立っている。そして歩き始めた。
ここで直ぐに魔力ソナーを発動して周囲の警戒を始める。
とは言え、コレも昨日と同じ程度の範囲に抑えてある。
全てを知ってしまうのはつまらないと言う気持ちはまだ残してある。
これが全部無くなった時が、この島を丸裸にする時である。
この島を探検するのは所詮俺の都合、現実逃避でしかない。
この様な事をしていないと俺は暇を持て余してまた思い付きで大きな事業を始めようとしてしまう事だろう。
ソレはきっと悪い事では無いのかもしれないが、俺の中では「そればかりでは詰まらない」などと言ったモヤモヤが発生しているのだ。
この探検は気分転換と言った面もあるので、ここで途中で放り投げるなどと言った事はなるべくならしない。
そう、なるべくなら、である。
気分が一気に悪くなる様な出来事が起きない限りは、この島の探検は続ける所存である。
「あー、ワークマンにこの島の事を話したりしたらきっと食いつきが凄かったりするんだろうなぁ。」
ワークマンの研究の興味がダンジョン方面に舵を完全に切っていたならそんな事にはならなさそうだけれども。
しかし俺の中のイメージだとワークマンはこの島の件に多大な興味を持ちそうだと言った印象がある。
「とは言え、連れて来たりはしないけどな。向こうも向こうでやる事はあるだろうし。」
今は俺の、俺の為だけの探検である。
ここにワークマンを連れて来た場合、ソレはきっと別のモノに変わる。絶対に。
島の研究とか、生息する生物たちの調査とか、そう言った流れに絶対になる。
なのでワークマンを連れて来る事はしない。
「さて、俺を狙って来ていそうなのは居ないみたいだな今の所は。それじゃあ、探検の続きと行くか。」
俺の中の疑問はマクリールに愚痴を溢しに行った事で解消された。
なので、かなりスッキリした気分で探検の続きに取り掛かれていた。
今の俺は魔法を十全に使えているとは言え無いまでも、自分の身を守れるだけの力は身に付けている。
もっと気楽にこの島を知って行こうと思い直す。
危険な生物、魔物がどれだけこの島に生息していようとも、俺には魔法しか無いのだ。
ならばどんな事が起き様がその時には魔法で全て何とかしていくだけである。
「俺には学者さんの様な知識も経験も豊富じゃ無いしな。パッと解決方法を閃いた、何て事は起き得る事なんてありえない訳だ。」
持てる力の全てを以ってして目の前の問題を解決である。
「お出ましか・・・良し来い!」
暫く歩き続けてからソレは魔力ソナーの範囲に入った。
十体程がどうにも陣形を組んでこちらに迫って来てるのが確認できたのだ。
でも俺はそこで何かがおかしいと感じてその場を離れる。
本当はそんな違和感を感じて居なかったらその迫って来る十体を一捻りにしてやっつけてしまおうと思っていたのだが。
「・・・何だ?追われてる?」
その十体はこちらの居た場所から相当な距離が有ったので俺の事を気づいてこちらに迫って来ていた訳では無い様で。
その後に魔力ソナーの範囲に入って来た「何か」に追われ逃げている動きだったらしい。
「・・・一体何が何に追われてるんだ?気になる、気になるけど、見に行かない方が良い様な気がする・・・」
好奇心、猫を殺す。
昨日の事もある。余り衝撃的、刺激的なモノを求めてこの島を探検している訳では無い事を思い出す。
「そうだ。ちょっとだけで良いんだ。ここに生息している生物がどんなモノなのかを一通り確かめる位の事はしておかないとダメじゃ無いだろうか?」
だが興味に負けた。俺はその逃走中の十体を、ソレを追い掛け回している存在をこの目に一目だけでも入れておくべく追跡を開始した。
もちろんこれは俺の事を向こうに知覚させない様にと魔法で姿を消して警戒しつつである。
逃げている十体のその逃走ルートの予測地に先回りしてそこを通過する所を見届ける心算で位置取りをする。
ここで空を飛ばないのは何故かと言えば、昨日のカモメを刺激しない様にである。
あのカモメたちに目を付けられて群がられるのは勘弁だ。
襲われたとしても魔法で対処は可能だろうが。、それでもなるべくなら余計な騒ぎは起こさない様にする為に気を付ける事は悪い事では無い。
そうして準備万端整った。その地点で待つ事、暫く。
俺の視界に土煙を上げて地を疾走する十体が。
「真っ白な・・・蟻?しかも大型バイク並みの大きさって・・・キモイなぁ。」
その走る速度もかなりの時速が出ている様子だ。
「いや、もっとキモイのが居るじゃん・・・」
ソレは狂乱、真っ赤な真っ赤な体毛の巨大ネズミ。大型トラック級。
「いや、マジでそれは無いだろ・・・」
幾ら何でも絵面のインパクトが強過ぎて流石にコレにショックを俺は受ける。
覚悟していたはずだった。この島ではおかしな生物ばかりが生息していると。
マクリール師匠の言葉で心をスッキリ、腑に落としていたはずの俺だったのだが。
幾ら何でも、一心不乱に真っ白な巨大蟻を追い掛け回す血の様な真っ赤な体毛の超が付く巨体のネズミとか。
「頭の処理が追い付かないんだが・・・」
またしても俺はこの大自然の歓迎を前にして精神に大きなダメージを食らわされたのだった。
別に俺が襲われている訳でも無いのに酷く不安な気持ちにさせられている。
納得が行かないのだが、しかしこれが厳しい現実だ。
「・・・うぉ!?一匹捕まったな。さて、食われるんだろうなあ・・・あ?」
真っ赤巨大ネズミが白巨大蟻を一匹確保した。弱肉強食だ。
捕まってしまった蟻はこのままネズミに生きたままに齧られて食べられてしまう光景が目の前に幻視されたのだが。
ここでもまた俺は衝撃の現実を見させられた。
「・・・何でそうなるんだ?意味が分からん・・・」
そのネズミが捕まえた蟻の体表を舐め回し始めたのだ。食べたりせずに。
本当に理解が追い付かないコレには。
本当にそれこそ蟻の全身を脚の先まで丁寧に舐め回すネズミ。
その間ずっと蟻は暴れて脱出を図ろうとしているが、ネズミに器用にホールドされて逃げ出す事が困難な様で。
「俺は何を見ているんだろうか・・・」
その光景を無の境地になって眺めている俺。もう何が何だか考えたくも無い。
そうしている内にネズミが満足したのか蟻を解放する。
すると一目散に蟻はダッシュでネズミから離れて何処かに消え去っていく。
ネズミはネズミで「ハア~、堪能した」と言った様子でのっしのっしとゆったりとした足取りで森の中へと消えて行った。
蟻を追いかけていたあの爆走は何処へやらと言った感じで。
「全く生態系が読めない・・・なんなんコレ?」
この島は一体どうなっているのか?
今のネズミも蟻も何かしらの理由や道理があってあの様な事になっているのだろうが。
「独特。特殊過ぎるだろ・・・」
何を見ても動じ無い、そう思っていたのにソレが直ぐにひっくり返された事でショックが酷い。
俺は暫くの間ずっとネズミが消えて行った森の方を見つめて動けなくなっていた。
その衝撃が薄らいで来たのはどれくらい時間が経った後だろうか?
やっとの思いでまた島の周囲の探索を再開する。
「さっきのネズミには遭遇したくないな。俺も捕まれば蟻みたいに全身を舐め回される、のか?」
そんな想像をしてしまいかけて思い止まる。そんなのは誰も得しない所か俺だけが大損をする。
気を取り直してネズミの事は一旦忘れつつ歩みを続ける。
その日のその後は他に異常な生物との遭遇などは無く島の外周のマップ埋めは順調に進んだ。
さて、俺は脳内にこの島のマップを作っている。
一応はまだまだ全容が明らかにならない程の巨大さだ。
外周を全て回ってそこから島の中心部へと向かおうと思っているのでかなりの時間が掛かると見られる。
俺はこの島の探検を一応は楽しいと感じてはいる。
いるけれども、島に生息している生物たちとはなるべくなら接触したくはない。
本当ならそう言った生き物の生態などを観察する事も楽しみの中に入れるべきなのだろうが。
そう言った事を拒絶したくなる様な生物ばかりなのがいけない。
「ヤバイ、人が恋しくなるぞコレ。」
余りにも異常としか言い様が無い生物ばかりに遭遇しているとそんな事を思ってしまう。
複雑怪奇と言ったモノであっても、その向いているベクトルが「人」と「この島の生物」とでは余りにも違う。
自宅に戻ってベッドで休む際に俺はこのままのペースで島の探検を続けて行っても良いモノかどうか迷いながら眠りについた。
そうしてその後、十日が過ぎる。
その日々は思い出すだけで頭の中が宇宙になってしまう様な物事ばかりだった。
主に次々に遭遇する不可思議な生態を持つ生物の事ばかりで。
砂浜に深さ50cm程の穴をひたすらにあっちこっちに掘りまくるアルマジロ、しかも巨体。その大きさは軽トラ級。
木に登っては下りるを繰り返し続けるコウモリ。これもでっかい。大体の大きさは自転車くらいだ。
岸壁にブチかましをし続けるサルも居た。しかもコレもやっぱり巨体でその身長は2mを越えている。
ついでに言うと筋骨隆々と言った具合で。
その他にもまあ、その見た目が形容し難い生物が多く居て説明し辛いのだが。
そのどれもが、何の意味があってソレをやっているのかサッパリと理解不能な行動をしているモノが多かった。
本当にこの島はどうなっているのか?
そんな思いを抱えつつも、もうそろそろ島を一周と言った所まで来ていた。
「これで島の中心に向かうのか・・・うん、不安しか無いな。」
これまでの間に師匠の所に行って色々と愚痴を聞いて貰っていたりする。
その度にマクリールからは眉根を顰められつつも話を聞いて貰えていた。
だってこの島の生物たちの生態を俺一人だけで抱え込み続けるのはしんどかったのだ。しょうがない。
それなのに今以上に魔境と確実に分かる島の中心部へとこれから向かう事になるのだ。
そこには多少の躊躇いはある。もう既に今の時点でキャパオーバーに陥っているから。
「覚悟を決めて行かねばならぬぅ~・・・本音を言えば、行きたく無いけど。」
弱音が止めど無く漏れ出て来そうになるのだが、ソレをグッと堪える。
ここまでやっておいてこの島の全容を知らずして関わり合いを止めるのは只の「負け」だ。
そこには「勇気ある逃走」とか「戦略的撤退」とか言ったモノが一切無いのである。
大自然に勝つ、そう言った御大層な事を言う心算は無い。
しかしこうは思う。
「ここで引いたら負け癖が付く様な気はする・・・」
この世界に来て俺には魔力、魔法と言うモノが使えるようになった。
ソレは想像だに出来ない程の強力なモノで。
使いこなせている、とは言い難いけれども、そんな力を持っているのにここで逃げ出すと言う選択肢は取れない。
そしてとうとうその時がやって来た。
俺はこの島に初めて上陸した場所に戻って来た。
たったの十数日でこの島の外周を踏破してしまった。コレは多分、異常に早いんだろうコレは。
「もっと時間を掛けるべきだったなぁ。でも、もう遅い。いや、俺の心情としては結構ゆるーく、遅ーく進んでたつもりだったんだけどなぁ。」
俺のそんな「遅い」とか「緩い」はそもそも基準が普通とは違うから比べられない。
多分魔法を使え無い者から見れば俺の進行速度は異常であっただろう。
まあ途中で道を塞ぐ岸壁があれば空を飛んでソレを越えたし。
野生動物やら魔物が俺に近づいて来ても襲われずに完全スルーだったのだから異様であるのだ。
魔法で姿を消して、音もさせず、一応臭いなども消臭していたのだから、これを「普通」の探索、探検とは別物だと言われたら何も言い返せ無い。
「じゃあ、行くか。」
俺はそのまま島の中心部の方に視線を向けて歩き出し、その一歩を森の中へと踏み入れた。
そこは何と言って良いモノか?一切が管理されていない自然。
植物の中にも弱肉強食?があるのかどうかは知らないが。
「高い木々の葉に覆われて日の光が大地に入り込んで無いな。光合成で吐き出す植物からの酸素濃度が高いのか?空気が重い。湿気がヤバい。光が入って来ない事で気温の上昇が殆ど無いからか乾燥してる場所が無いな。」
土は湿り柔らかく、倒木は腐っているモノの風化して表皮が粉になっている部分は見受けられない。
背の低い草花の葉はキラキラに光って見えたが、ソレは空気中の水分が集まって水滴に変わっているモノだった。
そこら中に蔦が蔓延っていて獣道なども見当たらず、寧ろ人の腕程の太さの蔦が木々に絡まっていてギリギリと締め付けているかの様になっているモノも見受けられた。
「アレはどうなんだ?何十年と掛かってあの蔦が木を倒したのか?」
どう見ても不自然な倒れ方をしている木を発見する。
ソレは例の太い蔦が木の根元に何周も巻き付いて締め付けていて縊り切っていたのだ。
どう考えてもおかしい。そう考えた所でその蔦が僅かに動き出したのを俺の目は捉えた。
「コレは・・・食虫植物?いや、カテゴリーとしてはどうなんだ?蔦の大本は何処だ?・・・あ、ソナーのギリギリ範囲の端っこに何かあるな。」
俺は魔力ソナーを全力では広げていない。それでも範囲はかなりのモノだ。そんな距離があれば本来「生物」と言う事を考えれば、気づけるはずの無い程に離れているのだが。
そんな呑気にその大元の居る方向を確認をしている間にも蔦は動き続けている。
どう考えても俺に反応して活動し始めたとしか言い様が無い。
「・・・いや、どうかな?もうちょっと観察を、しなくても分かるな。」
ソレは俺に迫って来ていた。静かに、遅いと言う速度でも無く、只々に。
「・・・逃げるか。あ、でも、大元を一目だけでも見ておいて確認はしておきたいか。」
もうこの蔦が俺を狙っているのが確定だった。
「この「蔦」自体に意思が有る訳でも無いから、これ程に遠いのに俺の存在を大元は感知してるって事だよな?蔦を通して。それって、凄いな?」
感心している場合じゃ無い。俺は今現在広げてある魔力ソナーの範囲ギリギリに映っているその大元の所へと向かう事にした。
向かうと言っても急ぐ訳でも無い。その必要も無い。
蔦の迫って来る速度は俺が森の中を歩く速度よりも少し遅いくらいだったからだ。
「とは言え、ソレもソレでかなり早いんだが。」
追い付かれた所で俺にしてみれば対処は簡単だ。魔法で吹っ飛ばせばいい。
けれども余計な刺激を与えればこの後にこの蔦がどんな行動に出るか分からない。本体の方もそうだ。
やらなくても良い事は無理にするべきでは無い。このままでも俺に及ぶ危険は低いと判断する。
しかしその考えは余りにもこの森の中では迂闊なものだった。
「!?」
俺が広げている魔力ソナーの範囲外から入り込む、勢い良くこちらに迫って来る何かがあった。
一度しっかりと実物をこの目で見ておかないとソレが何かを魔力ソナーで判別が出来ないのだ。
「初見だな!蔦の件と絡んでどうするか迷うなぁ。空には・・・カモメ以外にも何かもっとヤバそうなのが居そうだし、飛びたくは無いな。走って逃げるか?でも、今後の為にもこっちに来るヤツも一応は見ておくべきだろうし。」
迷っている内にもこちらの居場所が分かっているかの如くにその存在は方向修正をしながら迫って来る。
「こいつ、俺の位置が分かってる?厄介だなぁ。」
俺は歩みを止めずに進み続けた。走ったりしない。
どうせこの島に生きる存在たちは出会えば今後に俺に精神的衝撃を与えて来るに違いないとの確信がある。
それならば早いか遅いかの違いだ。ここでソレを後回しにして逃げると言った事は一時的な逃避でしかない。
「さて来い!鬼が出るか蛇が出るか・・・」
そしてとうとう俺の目の前に現れたのは。
「いや、だからって本当に蛇が出て来なくても良いのよ?」
ソレは全身が銀色に輝く、そしてその全身から鋭利な刃物を飛び出させている凶悪なビジュアルの大蛇だった。
「・・・えぇ?そんなの体中から生やしていて邪魔にならねーのかよ、ソレ・・・」
前門の大蛇、後門の蔦だ。
「何なの?この奇妙な状況。あー、あー、どうしよう?」
俺は腹を決めてあるがままに自然体で受け止める覚悟をした。
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