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大自然は厳しい

 刺激が無いと、人の感情と言うのは次第に劣化していく。


 だからと言ってそう言ったモノを摂取し過ぎればソレは鈍麻して何事にも感動しなくなってしまう。


「俺は今どの程度のレベルに居るんだろうか?あんまり鈍化していたくは無いけどさ。」


 翌日に島の探索の続きをしたのだが、別段そこまでの新しい刺激やら発見などは無い。


 別にアッと驚くモノを求めての冒険では無かったけれども、少々寂しい気持ちはある。


「ジャングルの奥地に隠された巨大遺跡群、なーんて我儘言わないから、感動的な景色なんかが目の前に現れてくれたりは・・・してもそこまで感激する程の純粋さが俺の中に無いか。」


 そんなボヤキを溢しながら浜辺に座ってボーっと海を眺める事、暫し。


「まあ、いきなり巨大生物が目の前に現れて驚愕!とかの方がよっぽどこっちの世界にはお似合いなんだよなぁ。」


 人が入り込んだ様子など一切無い大自然であるこの島は。


 俺の座っている浜辺、その背後は深く、そして密度の高い森である。

 木々は互いに絡み合い、ぶつかり合い、押しのけ合い、などなどと、弱肉強食、自然淘汰の法則が全面に押し出されている。


 どんな種類か、見た目かは知らないが、そこら中で動物の鳴き声が四六時中し続けているフィールドだ。


 そんな場所へと不用意に足を踏み入れただけで即座に何かしらとエンカウントするだろうと思われる。


 その出会いはきっと弱い者が死に、強い物が生き残る、と言った想像をさせるだろう。


「悲鳴にも似た叫び声が聞こえたり、聞こえなかったり・・・随分とやばそうだ。」


 それだけ命がそこら中に溢れる程にあり、そしてソレがそこかしこで連日、毎日消えているんだろう。


 ここでまだ俺はこの島を完璧には把握しきってはいない。


 魔力ソナーを広げながら飛行すれば把握など即座に完遂できてしまうが、そんなのはつまらないの一言だ。


 俺は歩いて島の外周を先ずは踏破するつもりでいた。


「まあ魔法は多少使うけどね。」


 途中での道なき道は魔法で空を飛んで超える。しかしその距離はなるべく短くと決めていたりする。


 時間をそうして掛けてこの島を探検している間は何も他の事を気にしていなくて済むから。


 そう、今の俺は只の現実逃避をしている様なモノだったりする。

 こうして動き回っていれば余計な事を考え付く、思い付かずに済むのだ。


 なのでその期間をなるべく長く保つ為にその様な悪あがきに似た事をしているのである。


 しかしそんな事を心に留めながら意識してずっと歩くのは精神が疲れるので頭の隅に普段は仕舞ってあったりする。


 そんな下らない事を暫し考えて座り続けていたけれども、やっとその重い腰を持ち上げて再び俺は動き出して移動を開始する。


 傍から見たら只の遭難者にしか見えない。どこぞの海難事故?とか思われるスーツ姿なのだから。


 何時までも時間を忘れて海を眺め続けるのも良いモノではあったが、ソレを何度も、それこそ連続でし続けていると心が死ぬ。自分自身を忘れてしまいそうになる。


 海は偉大で恐ろしいのだ。その潮騒の音が俺の心を慰めてくれはするが、何もかもを忘れさせようともして来る。


 なのでジッと座り続けても居られないと言うのが本音だった。


 俺は森に視線を向けた。


「まだまだ島の周囲を確認している最中だからな。中心に向かうのはもっと後だ。」


 俺は今、冒険を楽しんでいる。そんな子供心を発揮して海岸を歩き続けた。


 すると巨大な岸壁に突き当たった。しかしそこには巨大な穴が。


「洞窟探検、かな?かなり深くて相当奥まで続いてそうだけど。何かしらが住み着いている巣だったりするのか?」


 この世界の生物を俺はまだまだ知ら無い。どの様な種が居て、どんな見た目で、どんな生態なのかなど。


 もしこの中に入ってそう言った生物に遭遇して襲われたりしたら?


 洞窟に入る前にそんな想像をする。


「うん、多分そんな事になったら驚きで硬直して先手を取られるだろうな。」


 そう思って俺は中に入るのを止めておく。


 ドキドキワクワクを体験するのも悪くは無いし、俺の事をどうにかできる様な生物がいるとも思わなかったが。


 先にこの島の探索を優先した。

 驚嘆に値するモノがその探索で見つかる事が無かったその時に再びここへと訪れれば良いと思って。


 そうしてその岸壁を空を飛んで超える。崖の上に立ってそこから見える景色を先ず堪能。


 それから何か面白そうなモノが見えないかどうかをもう一度意識しながら周囲を見渡す。


「お?・・・アレって、椰子の木?」


 そこで人の頭くらいの大きさの実が幾つも天辺に生っている木が見えた。


 でもソレは俺の知っている「ヤシの木」などでは無く。


「・・・歩いてるがな・・・」


 その根っこがまるで人の脚の様に動いて浜辺をまるで我が物顔の如くに闊歩している所が目に入って来るのだ。


「植物型の魔物って事、なのかな?・・・意味が分からん・・・」


 その見た目「ヤシの木」がその身を突然にぶるぶると震わせ始めたのが見えたので俺はソレを良く観察した。すると。


「・・・浜辺に潜った?・・・表現がオカシイな?うーん?根を張った?も、何か微妙?」


 その脚の様な部位を浜辺の中へと完全に潜り込ませてしまったのだ。


 そしてその後はその「ヤシの木」は全く動かなくなった。


「浜辺には塩がたっぷりなはずで、塩とかに強い種なのかな?・・・余計に訳が分からなくなって来た・・・」


 あれは植物なのか?はたまた動物?なのか。


 俺の理解の範疇を余裕で超えて行くその存在に対して俺は思考を割くのを止める事にする。


「・・・体験してみるのが一番早いけど。さて、アレに近づいたら敵認定されて襲われたりするのか?・・・その場合、どんな風に俺に攻撃してくるだろうか?」


 考えるのを止めようと思ったのにまた考え始めてしまう。


 この「ヤシの木」はそれだけ俺へのインパクトが強かった。


 そうして何時までも立ち止まっていても答えが出る訳でも無いと思い、俺は思い切ってその「ヤシの木」に近づいてみる事にして移動を開始した。


 かなりドキドキしながらそーっと近づく。未知との遭遇である。


 とは言え、俺は全身を魔力でコーティングしていてバリアを張っているから害意を持ってこの「ヤシの木」に攻撃されても安全だと思うのだが。


 それでもこうして警戒しながら近寄るのは大事だ。


 ソレは俺の魔力、魔法も絶対では無いと言う事に繋がっている。


 どの様な手段をこの「ヤシの木」が持っているのか分からないのだ。

 無警戒でヘラヘラと歩み寄るのは問題だ。


 そして浜辺にポツンと生える?その怪し過ぎる一本の「ヤシの木」に後3mと言う地点まで来て変化が起きた。


 ガサガサと風も無いのにその「ヤシの木」が揺れ始めたのだ。


 そしてその揺れの収まった瞬間に俺は大きく二歩、三歩と後ろに下がった。

 危険を感じての事である。


 その次の瞬間には「ズドン」だ。


 ソレは何が起きたのかと言えば。


「うへぇ!?砂が・・・ぶふっ!おいおい・・・椰子の「実」が・・・」


 ソレはまるで砲弾の如くに「ヤシの木」からその「実」が一つ、俺に向けて飛ばされたのである。


 その勢いと重さで着弾地点の砂浜は爆散。俺にソレが降り注ぎ、ぶつかってくる。


「こんなのが直撃したら大怪我じゃ済まないぞ・・・」


 発射される寸前に俺が後退したからソレは直撃せずに足元の砂浜へ。


 恐らく直に当たっていたとしても俺には何とも無かったと思うのだが。

 その時には多分俺はビックリし過ぎて精神の方にダメージが行っていたと思われる。


「これ、殺人級だな、威力。どうやって飛ばしてるのか理屈が想像できないな・・・」


 砂浜にめり込んだその実を俺は掘り出す。

 ソレはまるでボーリングの球の如くに重かった。


 想像していたよりも遥かにあるその重量に俺はゾッとした。


「・・・こんなのが後、五つも下手したら飛んで来るのか?今の所はもう飛んで来る気配は無さそうだけど・・・」


 どうやらこの「ヤシの木」のテリトリーの中へと入りこまねばこの砲弾は飛んでこないらしい。


 取り合えず俺は実を持って離れた位置に退避する事にした。


 何せコレが食べられそうなのか、どうなのかを確かめたかったから。


「椰子の実のジュースに、ココナッツミルク?後は、ナタデココ?」


 少し期待に胸が膨らんだが、次には直ぐソレは萎んだ。


「いや、コレ、どう考えても俺の想像通りには絶対に行か無い代物だよね・・・」


 考えてみればこの実は、脚の様なモノで陸地を移動し、近づいて来た存在に対して砲撃としての弾丸で飛ばされて来た物なのである。


 幾ら好意的に見ても俺が今思った様な中身をしていないのは明白だ。


「開けてビックリ玉手箱・・・みたいな事にならない様にちゃんと魔力ソナーで調べてから割ってみるか。」


 俺は持っているその実に魔力を浸透させてみた。


 するとソレは別段怪しい所も見当たら無い、俺の浅い知識で知っている「椰子の実」と一致している様に思えた。


「後は覚悟を決めて確かめるだけだな。」


 腰を落ち着ける為に俺はインベントリから椅子とテーブルを取り出す。


 そして包丁を取り出してその実に刃を添えて軽く引いてみた。


「・・・いや、めっちゃ硬いんだが?って言うか、あの速度でぶっ飛んで外側に何らの傷一つ付いていないんだよなぁ。そりゃ硬いよね。」


 幾ら砂浜はある程度柔らかかったとは言え、まるで大砲の如くに撃ち込まれたのにその実にはその時に付いたと思われる傷らしいモノは一切見当たらなかったのだ。

 表面は綺麗につるつるで細かい傷すらも入ってはいない。


 と言うか、そんな威力で撃ち出されたのなら普通に実が木っ端微塵になっていてもおかしく無かった威力なのに全くの無事な時点で何もかもがおかしい。


 包丁の刃を立てて軽くその実の表面を叩いてみたけれども傷は一切入らなかった。頑丈に過ぎる。

 強く叩いても包丁の方が欠けそうに思えた。なので包丁は仕舞っておいた。


「普通にやっても切れないなら、俺が魔法で何とかするしかないのね。まあ、簡単にできちゃうけどさ。」


 俺は浸透させていた魔力を操ってスパッと実の上部を切り落とした。


 そしてその切り口から実の中を覗いてみる。


「透明な液体が満ちている、と。香りは・・・うん、物凄くフルーティ?・・・これが全部毒・・・とか言わないよな?」


 その見た目は以前にTVなどで見た事はあるけれども、その中身は全くの別物だと思った方が安全だ。


「食べられるかどうか分からない物を初めて口にする人の心境ってこんな感じかぁ。」


 ナマコやら毒々しい見た目のキノコなど。

 そう言った「良くそんな物を食べようと思ったな?」と思える様な食材を初めて食べて世に「食える」と知らしめた人たち。そう言う人々を尊敬しても良いんだろう。


「ホヤとか「どうして・・・」としか思えないからなぁ。」


 不気味な見た目も何のそのと言った感じで世界中には「珍味」などと呼ばれる食品は幾らでも存在していた。


 コッチの世界でもそう言ったモノは各地に存在しているのだろう。


「ああ、そういう意味ではあの摩訶不思議肉のワームもそうだよなぁ。」


 煮て良し、焼いて良しの理解不能な食材を思い出して覚悟を決めた。


 実の中にチャプチャプと満ちているその透明な液体に人差し指を少しだけ浸してソレを舐めてみる。


「・・・ぐッ!?何だ、コレ?すっげー・・・しょっぱい。」


 ソレは海水もかくや、と言わんばかりの塩水だった。

 風味はトロピカルな甘い香りをしているのにその塩気に一舐めしただけだったのに悶絶しそうな程である。


「コレって水気を飛ばして塩を採取したら面白そうな調味料になりそうだぁ。」


 このままでは全く使い物にならない程である。一応は毒は無いみたいで一安心と言う感じであるが。


「果肉や絞った際の液はどうかな・・・」


 俺は鍋を出して果汁?・・・果汁と言って良いかはちょっと疑問だが、中身を移し替えた。


 そして魔力でパカリと外殻を真っ二つに割って中を良く観察する事にする。


「ほほう?ナタデココだな見た目は。変わらない感じは安心するけど、でも、味だよなぁ。」


 とは言え、この分だとやはり予想の斜め上を行くのだと思われたので覚悟を決めるのに少々の間が空いた。


「試しにここも食べてみるけどね。・・・うん、訳が解からないよ・・・」


 ソレは言うなればメロンだった。本当にこの世界の不思議に出会う度に驚きが隠せない。


 この実が生っている木?の生態も訳が解からないし、どうしてこの様な所に生息しているのかも分からない。


 海辺の町にはこの様な木・・・?木と言って本当に良いのかどうか定かでは無いそんな存在の話など聞いた事が無かったので多分この島での独自の進化をした生物なのだと思うのだが。


「いや、木なのか動物なのかが先ず難しいんだが・・・」


 脚が生えていて、いや、脚と呼んで良いのか分からない。


 分からないが、そんな物があって自ら移動する植物、いや、植物と言っても良いのかもこの時点ではハッキリしない、判らない。


「魔物・・・なのかな?魔物って言って良いのかどうかも分からんな。」


 そもそも魔物の定義もちょっと俺には分からない。


 なのでここで俺は悩むのを止めた。幾ら考えた所で俺の持つこの世界の知識では判別が不可能だったから。


「今俺は猛烈に感動して・・・はいないな。困惑の方が激しいわ。」


 その生物の事をもうちょっとだけ知りたいと思いはしたのだが、島の探索を進める方を優先する事にする。


 その前に。


「この実をもうちょっとだけ堪能してから行くか。」


 果肉?・・・果肉はメロン味なのでソレを魔力を通して分離させて大胆に齧る。


 モグモグと噛めば噛む程に強い甘みと、鼻を通る強烈な香りを感じて小腹を満たす。


 その間に果汁?から水気を飛ばす為に魔力でチョチョイノチョイ。

 そうして鍋の中に残ったのは見事に真っ白な粉だった。


 見た目が物凄く怪しく見えてしまうが、別に依存性が有る訳でも無いはずである。


「薬物依存症、とかになったりしないよな?一瞬見ただけじゃアブナイ薬にしか見えないぞ?」


 俺はソレを鍋に入ったままでインベントリに仕舞う。


 その後に片付けを終えてから再びふとあの不思議な「ヤシの木」が居た場所を見てみると既にそこには何も存在しなかった。


「おぉぅ・・・またどっかに移動したのかな?音も聞こえなかったし、ちょっとビビった。」


 無音歩法でも習得しているのか?と言いたくなる程にその「ヤシの木」は一切の音を立てずに移動したらしい。


 その「ヤシの木」があった場所の砂地の部分は何事も無かったかの様に整地までされていた。


 これがもし近づいて来られてソレに気付かなかったシチュエーションであったら?


 無音の内に近づかれて気づけずに「ヤシの木」の攻撃範囲内に入ってたちまちの内に「ズドン」だろう。


 砲弾と化した実に直撃されて御陀仏、そんな場面を想像してしまう。


「俺だったらまあ、魔法でバリア張ってるし大丈夫だと思うが。」


 それでもかなりのショックで最初は混乱が凄い事になっていただろう。


 これが自身を守る為のバリアが無い普通の者であったならば、その一撃で運良くても最低で骨折は免れないはずだ。

 当たり所が急所であればソレは死であり、それ以外であっても致命傷となろう。


 これを想像して俺の背中はブルリと震えた。


「もしかしてトンデモ無くヤバイ奴じゃないか?」


 食虫植物、俺は即座にそれを思い出してしまう。


 そしてそこには「植物は土に根を張ってその場から動かない物」としての認識が付いて回る。

 待ち伏せ型、誘き寄せ型とあるかもしれないが。


 ここはファンタジーな世界なのだ。俺の想像など軽く超えて来る現実がこの世界の「通常」なのである。


「そりゃ植物が歩いて移動する何て事もあるよなぁ・・・」


 積極的にそこら中を歩き回って獲物を狙う狩人型、とでも言えば良いのだろうか?


 先程の「ヤシの木」はそう言った類の植物なのかもしれないと思う事にした。

 そうでないと俺の心の平穏が余計に掻き乱されそうだと感じたから。


 さて、島の外縁は砂浜だけでは無い。途中には岩礁地帯や崖になっている場所などもある。


 岩場の水溜まりを覗けばそこには小型の海洋生物なども見られる。


 岩を砕く威力を持ったハサミを持つヤドカリの様な生物や、全身がウニの様な形で棘の生えている魚や、横ヒレが鋭利な刃物の様な形状をしている魚も見られた。


「いや、物騒だなオイ。生存競争激し過ぎか?」


 それらが自身の身を護る為に発達したモノなのか?或いは獲物を仕留める為に進化したモノなのか分からない。

 もしくはその両方か。


 自然界の中の生存競争やら生存闘争と言えば良いのか、それらに思いを馳せたら殺伐とし過ぎていて観察をするのをここで止めておく。

 そんな厳しさを思うと俺の心が擦り切れてしまう。


 この島を探検しているのはそんな心の摩耗の為にじゃ無い。


「そこまで刺激の強過ぎるモノを求めてる訳じゃ無いんだがなぁ。」


 岩場を離れて俺は島周辺の探索に戻る事にする。

 どうにもこの島に生息するのだろう生物たちは独自進化が強烈過ぎてそれらを観察していると俺の心の方がもたない。


 ふとそんな事を思っている時に偶々空を見上げてみれば、そこには青い空を優雅に飛行するカモメの群れが目に入る。


「・・・いや、縮尺がおかしい様な・・・アレ、デカ過ぎないか?」


 大の大人を優に超える巨大さのカモメの群れとか恐怖でしかない。


「鳥パニック映画かよ・・・」


 幸運にも俺はどうやらそのカモメたちの標的にはなっていない様子だった。

 なので俺は静かにその場から離れて近くの木の陰に隠れてやり過ごす事にする。


「魔法で姿を消せば多分見つかりはしないと思うんだが。・・・妙に嫌な予感がするんだよなぁ。」


 俺は魔法で光学迷彩の様な事が出来るので「視覚」では発見されないとは思うのだ。


 しかしそれ以外の何かで、もしかしたら見つけられてしまう可能性が残っている。


 ソレは嗅覚だったり、聴覚だったりするかもしれない。


 もしかしたらも何も、こんなファンタジーな世界なのだ。

 そんな世界に生息する生物なのだから俺の理解の範疇など余裕で飛び越えて行く何かしらの感覚でコチラの事を把握されるかもしれない。


 魔力や魔法などと言う物がこの世界には存在するのだから、そう言った関連の本能的な何かで俺の事に気付いて襲撃をして来る事も考えておかねばならない。


 野生生物と言うのは勘が鋭いと聞く。なのでこのカモメもそう言った何かを持っている可能性は否定できない。


 俺はそんな勘に従って木の陰に身を隠したけれども。


「・・・森の奥の方から何かがやって来てるな。何だ?何か巨大な物が・・・転がって?」


 ビシビキバキ、と木々を踏み倒してこちらに向かって来るのは見た事のあるソレ。


「巨大ダンゴムシ!?」


 ソレが丸まった状態で転がり、その行く手を阻む木々を何らの障害ともせずに薙ぎ倒しながらこちらに迫って来ている。


 コレに早めに気づく事が出来たので俺はその木から別の木の裏へと素早く移動した。


 その三秒後にはさっきまで俺が居た場所の木をバッキバキにぶっ飛ばしてそのままそのダンゴムシは開けた場所に出た。


 するとどうだろうか。一気にその巨大ダンゴムシにカモメが群がり始めたのだ。


 ソレは瞬時の出来事。カモメは容赦無くその巨大ダンゴムシの外殻を足の爪で引っ掻き始めた。


 巨大ダンゴムシの方の大きさは大型のワゴン車を優に超える。


 そんな巨体の殻はカモメの爪との接触に「ガキン」とか「ギャリン」などと言う硬質な音を響かせていた。


 カモメの方だってその大きさは負けちゃいなかったけれども、その爪の強度はこのダンゴムシの殻に負けている様子だった。


 ダンゴムシはその殻の硬度で身を守り続け。

 カモメはその数で獲物を仕留めようと忙しなく、諦めずにその殻へと爪を立てる。


 この光景に襲われたのがもし俺だったらと想像してしまいゾッとする。


 数の暴力、この構図は俺にはカモメ優勢に見えたのだが。


 ソレは間違いだった。


 そのダンゴムシから全方位へと鋭い棘が飛び出て来て複数のカモメが串刺しにされたのだ。


「げぇ!?」


 俺はコレに驚きが隠せずにそんな汚い悲鳴を漏らしてしまった。


 この状況に運良く生き残ったカモメたちは空へ退避して遠ざかっていく。


 その後は死体と成り果てたカモメを貪る為にダンゴムシは丸まっていた状態を解除。

 ムシャムシャと勢い良く仕留めたカモメを食べ始めたのだ。


「・・・強烈過ぎる。弱肉強食って何だろうか・・・」


 その絵面がショック過ぎて俺は眩暈を起こしそうになった。


 しかしここでまたどんでん返しが待っていた。


 瞬時にそこへとカモメが戻って来たからだ。


 たちまちの内にダンゴムシが再びカモメに覆われて見えなくなった。


 どうにもこのダンゴムシは丸まっている時にしかあの棘が出せないらしく、そのままカモメに蹂躙され続けてあっと言う間にボロボロにされてしまった。


 その外殻の硬さもどうやら丸まっている時にしか出せないモノであったらしく、カモメの爪に体中を斬り刻まれ解体されて行く。


 そしてそのダンゴムシはあっという間に粉々にされて貪られ、カモメの胃袋の中へ。


 死んだカモメの死体はそのまま放置されたまま。


 ダンゴムシを食い切ったカモメたちは腹を満たして満足したのかまた何処かへと飛び去って行った。


 その場に残されたのはカモメの死体、と思えば、そこに種類は何かは分からないが、何処からかやって来た二枚貝が群がり始める。


 どうやってそこまで素早く移動出来ているのかその原理は判らない、解らないが。


 カモメの死体はその貝に群がられて一気に消えて無くなっていく。


「食物連鎖がやば過ぎないか?」


 その貝にあっと言う間に食い尽くされたカモメの死体。


 カモメは相当な巨体だったのだが、ソレに群がった貝の数も半端無い。コレだけの数が一体何処に潜んでいたと言うのか?


 そうして一瞬で食事を終えた貝は蜘蛛の子を散らす様に散開して何処かへと消えていく。


 先程から俺の目に入って来る大自然の、と言うか、この島の厳しさが衝撃的過ぎる事ばかりについて。


「もしかして俺がここまで襲撃されてこなかった事って、奇跡的じゃね?」


 あの「ヤシの木」の件は俺が興味で近づいた事で起きたのだ。


 それ以外のこの島の生物に今まで襲撃されてこなかった事に関して俺はやっとソレが「奇跡」と言える程の事であったと知る。


「余り呑気に探検だとか、探索だとか、言ってる場合じゃ無いな?コレ?」


 流石に今の光景を目にした事で俺は気を引き締めなければならないと自覚した。


 この島を調べる事に対して遊び心、童心に帰るなどと言っている場合では無い事に今更に気付く。


「魔力を吸収してくるのが居たんだから、この島にもそんな存在が生息する可能性は否定できないよな。逃げる算段もしておいてより一層警戒心を上げておかないと痛い目を見そうだな・・・」


 従魔闘技場に以前にそんな魔物を納品?した記憶が蘇って来る。


「俺はそもそも、そんな緊張感を得る為にここに来た訳じゃ無いのに。だからって言って気楽に楽しみたいが為に他を当たるとかはちょっとなぁ・・・」


 もっと緩い感じでこの島を知ろうとしていたのに、これでは心が休まらない。


 だからと言って今更他の地を探す為に飛び回るのは何だか憚られる。


 そんな事は俺の勝手な気分でしかないのだから、この島の探索など諦めてしまえば良いのかもしれないが。


 ソレは何だか負けた様な気がして嫌だった。


「うん、ここからはちょっとだけ本気出して行くか・・・余り気乗りしないけど・・・」


 ここで俺は全力と迄は行かないが、出来るだけ身の回りに危険が及ぶ事が無い様にする為に魔力ソナーを展開した。

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