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勝った金の使い道

 いやはや、何事もそう上手くは行かない。

 俺が七割だと思っていたモノがひっくり返った。


「ふむ、凄い迫力であったな。客の入りも凄まじい。その分の声援もだ。観客は全員金を賭けているからか、その形相の激しい事よ。」


「カーリスが負けるとはなぁ。良い試合だったけど、コレ、負けた奴多いだろ。」


 この一試合で動いた金額は如何程か?想像だにできないが、かなりのモノとなっているんだろう。


 何せどうにもカーリスの対戦相手の紹介では新人の従魔師なのだと言った説明がなされていたのだ。


 この情報は試合が始まる前に公開されて客たちは把握していたはず。


 俺たちは来るタイミングがギリギリでそこら辺は知らずに賭けをしていたけれども。


 今回の試合はその新人にとっては「洗礼」とでも言う感じになるはずだったのでは無いだろうか本来なら。


 その試合内容だってカーリスが最初から優勢に事を進めてその新人は徐々に追い詰められていたはずだった。


 そこから地味に粘り続けて押し返し始めるとは誰が思うだろうか?


 従魔たちに的確な指示を出し、そしてそれらを従魔が確実に実行して行った様は何ともまあ、以心伝心?従魔と従魔師が一体となった美しい連携だった。


(抽象的過ぎるけど、そうとしか言え無いくらいに華麗だったなぁ)


 そう言える逆転劇だった。


 疑い深い者が居たら、コレに「八百長だ」などと叫んでいたかもしれないが。


 しかしそんな雰囲気は一切無かった二人の間には。


 カーリスはその押し返しの圧に次第に後ろに下がってしまって場外ギリギリまで後退。


 反撃に出ようと自分の従魔に指示を出そうとした意識の隙間を突かれて吹き飛ばされてしまう。


 ソレで負けた。鮮やかなその勝負の付き方に観客席は一瞬静まり返った程だ。


 本当に面白い試合だったと思う。


 新人の連れた従魔はバランスを整えていたと言った感じで突進型、防御型、遊撃型と揃っていた。


 遊撃型は鳥タイプ。突進型は猪。防御型はその角が物凄く立派な鹿だった。

 その鹿は立派なその角で相手の攻撃をいなしたり、弾いたり、打ち返すなどと多彩な防御法で従魔師を守ると言う活躍を見せている。


 カーリスも似た構成だったが、従魔の質はカーリスの方が上と言った印象だった最初は。


 だから新人が負ける、そう考えていたけれども蓋を開けてみればこの様な結末だ。


 本当に信じられ無いと言った感想である。


 そしてその結末に会場が色んな声で湧き上がって今も止まらない。


「さて、次の試合もどうです?」


「うむ、せっかく勝ったのでな。この金を使い切るつもりでバンバンと賭けていこう。いや、そんな事よりも手に汗握る良い試合であった。」


 王様、満足している模様。しかも賭けに勝った事よりも試合内容を絶賛している。


「では、今日は堪能しよう。勘でこの後の残りの試合も全て賭けて行くか。」


 そんなこんなで賭けを続けると言う事でその後も五試合あったのだが、それらを全部王様は勘で選んで「的中」させている。


「いや・・・どう言う事?」


「そう言われても、のう?」


 しかも毎回に賭ける金額は手持ち総額八割を賭けると言う、どうでも良いと言わんばかりな賭け方。


 勝ってまた八割、また勝ったらそこから同じく八割、そして次も、その次もと。


 なので全部勝ったと言う事は、その払戻金がめっちゃ大金になると言う訳で。


 二試合目で途中でスタッフが対応に入って特殊な今回だけ使える専用の「カード」を渡して来た程だ。


 で、そのカードの中には凄まじい額が今入っている訳で。


「エンドウ殿、コレは・・・どうすべきだろうか?」


「・・・まあ、王様は別に帝国のお金の使い道なんて無いですよねェ。だって今日も日帰り旅行のつもりだったし?」


「仕方が無い。最後の試合に全ての額を賭けてそれで処理をしようか。」


「いや、それ、勝っちゃったらヤバい奴・・・」


「・・・その際にはエンドウ殿に処分を任せても?」


「・・・まあ、良いでしょ。分かりました。やりますよ。ここまで来たら最後の一試合も勘で賭けるんでしょ?」


「そうであるな。ここまで来たら最後までソレを貫き通そう。」


 こうして最後の最後に色んな意味で賭ける事に。


 で、その結末と言えば。


「・・・勝ち、ましたねぇ見事に。」


「うむ、スマンな、何だか、いや、これは本当にどうしようもない。」


 王様もこの結末に困惑を隠せない。


 何故ならば予想した方の従魔師が、全額賭けた方が勝ってしまったからだ。


「・・・はーい!この会場に居る皆さんに御連絡!本日大金を得たお客の一人が太っ腹で、食事を奢りたいと言ってますよー。酒も食事も頼みたい放題!負けた方も、勝った方も、飲んで食って騒いで今日は楽しく終わりを迎えましょう。」


 俺は魔法で以ってこの会場に居る全ての客にそう訴えた。


 ここでスタッフにも相談をして会場が騒ぎにならない様にと何処かに良い店は無いか確認を取る。


 そして王様の今回の賭けで勝った金が入ったカードはこの会場の屋台でも使用できると言う事で、先ずはその屋台の今日の残り全てを買い上げる所から始まった。


「へい!そこの屋台!儲かりまっか?」


「・・・へっ?何だい?あんたは?」


 俺は一つの屋台で交渉して、そこで残りの商品を全てこちらで買い上げると申し出た。


 コレに冗談だと思った様な顔をしたオッサンはそれでも「へい、毎度」と言って俺の渡したカードを受け取る。


 律儀にもそこでオッサンが本日の屋台の商品の残り分を計算しているのが見えた。


 そしてその金額をカードから引き落とす手続きをして「ん?」と疑問を持った顔に変わるのが見える。

 カードの読み込み機から何らの異音がしない事で。


 恐らくオッサンは「あんちゃん、金が足りねえよ、わッはッは」と笑って冗談としてこちらの言葉を受け止める予定だったのだと思われる。

 もしそうであったならば良い趣味したオッサンだ。


 だけどもエラー音がしない事で不思議がったんだろう。首を傾げた後に俺の方に向き直って「え?」といった顔になった。


「じゃあその買い上げた商品、これからこの屋台に来る客に配ってやってくれ。ああ、無理しないで良いさ。商品が無くなったらお終いで良い。それじゃあ俺は次に行かなきゃいけないから、これで。あ、捌き切れなかった差額があったとしても、ソレは懐に入れちゃって良いよ。それじゃ。」


 屋台の数はまだまだある。一応は全部回ってカード内の残高を減らす予定だ。


(・・・それでも相当な額がまだ残ると予想できるけどね)


 所詮は屋台の値段。だけどもそれでも相当な数の屋台があるのでそれなりには減る。


 次々に俺は屋台を回って交渉を進めてドンドンと商品を買い上げていく。


 そんな俺の行動を近い場所で見て、聞いていた他の客たちも屋台の主人たちも半信半疑でコチラを観察して来ていた。


 俺がその場から離れたらそんな客たちが恐る恐る屋台の主人に「マジか?」と尋ねているのが面白かった。

 屋台の方も「マジだ・・・」と驚いている顔も面白かった。


 そんな俺に付いて回っている王様。王城に先に戻って居ても構わないと言ってみたけれども。


「観光なのだろう?ならば歩き回って色々と見て回りたい。ソレに屋台の飯の内容も種類が多く気になるからな。」


 そう言って王様が付いて来ている状態だ。俺たちがこうして屋台巡りをして歩き回っていれば目立ち始めてすぐに話が広まる。


 こうなれば物事が動くのは早い。あっちこっちで交渉を終えた屋台に人が群がるのが目に入る。


「うむ、コレは良くない事をしてしまった感があるのう。とは言え、楽しんで貰えるならば、良しとするしか無いか。」


 王様としてはこの様な突発の催しは余り好まないらしい。

 とは言え、この賭けに勝った金の処分を急遽するとなったらコレはしょうがない。


 個人で使い切るには困難な数値であり、幾ら王様と言うお金の価値観が一般人と違うモノを持っているとは言えここは帝国だ。


 王国で買い物する訳じゃ無い。勝手が違うし、状況も根本的に違う。貨幣価値も変わるし、相場だって違う。


 日帰り旅行予定で楽しむはずだったのだから、この様な大金をずっと持ち続けるのは問題だ。


 消費してパッと全て使い切らねば帰るに帰れない。


 さて、この様な事をしてお祭り騒ぎにならない訳が無い。


 そこら中で宴会が始まった。飲めや歌えや食えや騒げやである。


 だがここに至って俺はふと疑問が浮かんで来る。


「そう言えば賭けの金額上限が設定されてたハズだったんじゃ無かったか?撤廃されたのか?それとも今日だけ特別日だった?」


 かなり以前の事だったので忘れていたけれども、確かそんな縛りがあったはず。


 けれども今回はそう言ったモノが無かった。ソレが無かったから、今この様な状況になっていると言っても過言では無い。


 と言うか、王様が連続で一度も外さずに勘だけで的中させ続けるとか「奇跡か?」と言いたくなる。


「・・・あ、週に一度の解禁デーとか書いてあるじゃんそこ・・・」


 俺はチラッと視界に入ったその看板に「あぁ~・・・」と何とも力の抜ける声が漏れてしまった。


 どうやらこの従魔闘技場、賭け金上限を解放する日を設定したらしい。ソレが今日だったと。


 そんなタイミングで俺たちはやって来てしまったと言う事だ。


 そのせいで今この様なお祭り騒ぎになるとは髪の毛の先程も予想できる訳が無い。


 大金賭けて、しかも勘だけで選んだのにソレが全て当たるとかどれだけの豪運だと言うのか王様は?

 それこそこんな事になる何てこれっぽっちも予想できるはず無い。


 そしてカードの中身、その残金がまだまだ残っている。


「どうします?使い切りたい所なんですけど。王様、何か案はありますか?」


「いや、思いつかんな。そもそもここには初めて来たからな。コレはここ以外では使えんものなのか?」


「そうですね、聞いてみましょうか。」


 こうして俺はスタッフにこのカードは他に使い方が無いのかどうかを聞いてみた。


 すると戦神闘技場の方で使用可能だと伝えられた。


 なので俺たちはそちらに向かう事に。


 闘技場の方でカードの残金を使い果たそうと言う事になったのだ。


 闘技場には歩いて向かう。王様の観光も兼ねて。


 場所はそこまで遠い訳では無いし、購入した屋台飯を食べながら歩いた。


 そうして到着して直ぐ残りの試合数は幾つかを確認。


「今日の残りは四つかぁ。・・・また勘で賭けます?」


「・・・そうさな、初めて来たのだからその手の情報も一切無い訳だし、勘ででしか賭けられない、と言った方が正確だな。よし、下手に金額を残しても面白くは無い。使い切ると言う事ならここで全額をどうせなら賭けてしまおう。倍率の高い方の選手に賭けよう。手堅く負ける感じで。」


「手堅く負けるとか。変な事になったなぁ。」


 ここで勝って金額が増えてもまたその処理に困る。


 なので今度は王様は勘で「負ける方」に賭けたのだ。


 ここまで勘で賭けて勝って来たので、勘で「負ける」事だって出来るはず。


 その様にして王様は予想として負けるであろう選手の方にカード内の残り金額を全て賭ける事に。


 しかし、これがいけなかった。


 どうしてそうなるのか?いや、全く信じたくは無い。


 俺たちは手続きした後はその試合を観戦したけれども。

 どうしてそうなる?と二人で試合後には頭を抱えた。


「最後の最後で逆転勝利?いや、運も実力の内とは言うけれども。」


「そうであるなぁ・・・いやあ、あの絶妙な受け流しに隙を晒す事になるとは・・・」


 王様が賭けた方の選手が勝ってしまった。


 一段格上の実力を持つ選手に挑む格下。そんな試合だったはずなのに蓋を開けてみればコレだ。


 格上が止めと言わんばかりの強く踏み込んだ一撃を繰り出したのだが、ソレを格下に綺麗に受け流されたのだ。

 その結果、格上は体勢がズラされ。


 そんな隙を見逃さずに反撃を入れた格下が勝利してしまったのである。


「納得いかない。とは言え、最後に相手が体勢が保てなくなっていた程に体力を消耗させる様な粘り強い防御をしていた格下は凄いんだろうけど。それでもなあ?」


「良い試合内容であった。あったが、この様に勝ってしまったのは、のう?」


 王様の言う通り、試合内容としては見応えはあった。


 最初は果敢に攻めた格下。ソレを受け、躱す、受け流す、余裕を見せた格上。


 そこから次第に攻守交替し始めて最終的には格下の方が防戦一方となり始める。


 だけどもここからが手に汗握る内容になる。


 格下が躱す、躱す、受け流す、躱す、躱す、と、足捌きと見切りでその激しい攻撃を凌ぎ続けたのだ。


 これには格上の方も途中で思い通りに行かない展開にイラついたのか無駄な力を入れ始めてしまっていた様に見えた。


 そんな攻防が続いての最後の最後でこの結末である。


 興行としては成功と言える、そんな濃い中身の試合だった。

 客たちも盛り上がった。


 だけども今の俺たちとしては「いや、そうじゃない」と言いたい気分なのである。


 負けると思った方に賭けるなんて変な事ではあるが。

 しかしこうして思惑が外れて勝ってしまった。


 予想を的中させて「負ける」はずだったのである予定では。


 それなのにこうして予想が外れて「勝ってしまった」なんて、どう言う皮肉か。


「・・・もう賭けるのを止めて何とか全て使い切りましょうか。」


「そうであるな。ここの屋台でも同じ事をして先ずは少しでも減らすのが良いか。」


 俺と王様は相談してこれ以上賭けで遊ぶのを中止した。


 そしてこちらの会場でも従魔闘技場の方と同じ方法を採用して先ずは額を減らす事に。


 虱潰しに屋台を巡って商品を買い占め。


「・・・こんなはずじゃ無かったんですけどねぇ。」


「こんな事になるとは私も思わなかった。」


 俺たちは揃ってぼやく。

 ここ帝国に遊びに来たはずなのに一体これはどうなっているのか?


 誰に聞いた所で答えなど無いんだろう。


 この疲れが一体何なのかが分からずに俺も王様も苦笑いとも呆れとも違う小さい溜息を吐いた。


 コチラの闘技場でも屋台の商品が無料で配られている事は直ぐに広まって宴会騒ぎになりかける。


 勿体無い精神と言うのはこういう時に厄介で。賭けに勝った払戻金を全て使い切りたかったのだが。


 まだまだ減らし切るにも程遠い残金。


 明日も屋台の品を買い切ってもまだ少々のお釣りがくるレベルである。


「最後の一試合が残ってますけど、そこに注ぎ込んでみます?」


「・・・また当ててしまったら処理にも困るだろう。最終試合はどの様になっているかで変るが。」


 そう、実力が一段程度違うくらいなら試合がひっくり返る事もあろうが。


 そこに二段、或いは三段と、その様な実力差が出れば確実に「負ける方」に賭ける事が出来るだろう。


 不純な気持ちで賭け事をしている。


 勝って貰いたい訳じゃ無く、賭けた方に負けて欲しいなどと。


 俺は事前情報を集める事にした。試合はまだ始まるにはそこそこに時間はある。

 賭けの受付もまだ終わっていない。ならばその間に少しでもと思って周囲の様々な会話に耳を傾ける。


 オッズの方も確認してどれ程の差が出ているかを見る。


「・・・大丈夫な様ですよ?どうやら大物に胸を借りて新人のお披露目と言った感じらしいです。」


 どうやら闘技場デビューを果たす新人がどれ程の力を持っているかを客に見て貰うと言ったサービス企画の試合らしい。


 当然にそうなればその新人が勝つなんてのは大穴も大穴、倍率が凄まじい事になっている。20倍とか表記が出ていた。


 ベテラン選手の方は「1.01倍」と言った感じで、相当な高額を賭けなくちゃ客に儲けが出ない感じになっている。


 これは流石に上手く行くだろうとの事で最終試合にはその新人の方に全額賭けた。

 これに負けたくて賭けたなどと、誰も知りはしないだろう。


 ルール変更やハンデなどは一切設けられてはいないのも確認してある。

 新人が少しでも有利になって勝ち目を出すと言った方法は採用されていないみたいで。


 とは言っても新人の方に相当な額を賭けたのでその倍率に少々の変化が出て他の客たちがソレを見てざわつく。


 一体どんな奴が新人にそれだけの金を出したのか?そんな話がそこかしこを飛び交う。


 負け確、そんな方に大金を賭ける者の気が知れないと。


 普通は賭けに勝って金を稼ぎたい、そんな気持ちで客たちは金を賭ける、賭けをする。


 しかし俺たちはそんな者たちを馬鹿にするかの様な賭け方をしている。

 これがバレれば非難を浴びるだろう事は想像に難くない。


 とは言え、そんなのはバレる事も無い。この様な事をどうして気軽に口に出して言い触らす事など出来ようか?


 と言う事で俺たちは先にVIP観覧席に移動してその試合の開始を待つ。


「受付の娘さん、驚いてましたね。」


「うむ、悪い事をしてしまった様に感じて少々気の毒に思うな。」


 別に俺たちは何らその様な気持ちで賭けをした訳じゃ無いのだけれども。


「とは言え、この試合を観戦したら戻りましょうか。」


「うむ、今後は賭けを控えよう。ここまでの事になるとは露にも思わなんだ。」


 王様は少々お疲れ気味、心の方が。


 思わぬ的中の連続、その衝撃に気持ちが整わないんだろう。


 そうして待っていれば試合の開始。


 新人に先ずは思う存分攻めさせてソレをベテランが全て捌き、受けきる。


 その後は攻守が変わってベテランが攻める番となり、コレを新人がどう切り抜けるかに変わる。


「うーん、最後の最後はあっさりと終わった感じですね。」


「新人の方もなかなかに光る物を持っている様だ。将来が楽しみと言える結果だな。」


 俺たちはそんな感想を口にしあう。しっかりと負ける事が出来た事に安堵する。


 そこへやって来たスタッフにカードの返却はどうすれば良いかを聞いた。

 すると一々従魔闘技場へと戻らずにこっちの闘技場で受け取りしてくれるとの事でそのままカードを返却。


「さて、戻りましょうか。どうです王様?楽しめました?」


「久しぶりに強く興奮した。まるで若かりし頃に戻った様に感じたな。感謝する、エンドウ殿。」


 こうして俺たちは人気の無い場所でワープゲート出して王城の寝室に戻った。


 そのままその後は静かに時間を過ごして就寝。


 俺も魔改造村の自宅に戻って寝ようと思ったのだが、ここでふと思い出す。


「ああ、皇帝に挨拶しに行くの忘れてたな。まあ、良いか。」


 別に必ず顔を出さねばならない理由は無い。

 しかも今回は王様の息抜きの為に帝国に遊びに行ったのだ。別に皇帝の所に遊びに行く為だった訳じゃ無い。


 こうして俺は気を取り直してベッドに潜って直ぐに眠った。


 そうして翌日。俺はワープゲートで王様の寝室に移動。

 そこで王様と一緒に朝食をと思っていたのだが。


「あ、王子様、居たの?進展は幾らかしたのか?」


 そう、室内には王子様が居たのだ。


 とは言え別にこれは不思議でも何でも無い。


 王子様には魔法の効果が及ばない様にしてあっただけだ。


 なので自由にこの部屋に王子様「だけ」は入れる様になっている。


「ああ、エンドウ殿、おかげさまで何事も心配無く事を運べています。ありがとうございます。まだまだ全部が片付いたとは言え無いのですが、まあ、途中経過を陛下に報告をと思いましてね。」


「全て片付いてからで良いと思うのだがな。久しぶりにこうして息子の顔を見れた事にホッとしている。」


 王子様と王様は互いに安心した顔で居る。久々に親子水入らずと言った様子である。


 そこで朝食は摂ったかを俺は王子様に聞いた。

 するとまだだと言うので一緒に食事をする事に。


 とは言ってもテーブルに並べたのは昨日に帝国で買い漁った屋台飯であるが。


「・・・エンドウ殿、何やら珍しい食べ物ですが。コレは?」


 当然見慣れ無い物に王子様が疑問を飛ばしてくる。


 けれども俺も王様も何らソレを気にせずに自分の気に入った屋台飯を手に取り口へと頬張る。


「気になったのを食べて良いぞ。一応はマズイのは無いと思うけど。口に合わ無いとかはあるかも。」


「いえ、そういう問題では無いのですが?」


「あ、毒とかも入って無いから安心な。」


「いえ、そういう問題でも無いのですが?」


「只の屋台飯だって。あ、王子様はアレ?高級な格式ばった食事じゃ無いと食えない?」


「いえ、そうでもありませんけれども。」


「じゃあ食べれば良いよ。偶にはこう言うのも食べてみれば?あ、偏見とかがある?」


「いえ、その様なモノは持ち合わせてはいませんが。」


「早くしないと冷めるから食べな?・・・いや、冷めても別に俺が魔法で温められるか。じゃあゆっくり選んで貰って。」


「いえ、だから先程からそういう問題では無いと・・・いえ、頂きます。」


 最終的に王子様は諦めた。


 多分何処で買って来たモノであるかを聞きたかったんだろう。


 見た事の無い物だったが為に食事をする事よりもそちらが気になってしまってそれ所では無かったと。


 こうして朝食を摂った俺たちは王子様の中間報告とやらを聞く。


 すると王様に毒を盛った犯人は特定できていないとの事。


「それって進展して無いって言うんじゃ無いの?」


 俺はそんな素朴な疑問を王子様に投げた。

 こういった事は実行犯を捕まえてからソイツを尋問で情報を吐かせて指示した者が誰なのかを判明させるのがお約束、流れと言うモノでは無いのだろうか?


「ええ、そうですね。そうですけれども、コレも計画の内です。そこにエンドウ殿が今回の件に協力してくれていると言う噂を広めています。そこでエンドウ殿を甘く見る者たちは迂闊な行動に出て馬鹿を晒すでしょう。逆に恐ろしさを知る者は何としてでも隠蔽を計ろうと余計な真似をしてその痕跡を残してしまうでしょう。」


 どうやら王子様は自分たちで派手に動いて情報を集めようとするのでは無く、周囲を勘違いさせて動かしてそこで発生する綻びから切り込んで行く作戦を選んだらしい。


「使えるモノは何でも使うって訳か?そこで俺の存在ってのを利用するのね。」


 この国で散々暴れている俺の事を匂わせる。そうするとこれに恐れを成した者から勝手に踊り始めてコケると言う訳だ。


 これとは逆に「いつも通り」「何もしない」を選ぶ者は相当に胆力が強く賢い「獅子身中の虫」か、或いは「本当に何も無い者」かどちらかであると言う事なのだろう。


 しかしこの方法で炙り出しをするにもまだまだ時間は掛かりそうだ。


 ソレに直接に俺が犯人捜しに協力している訳では無いので、勘の鋭い者でコレを見破る者が出て来るかもしれない。


 なかなかに難しい判断を求められる方法を王子様は採用しているのでは無いだろうか?


 しかしそんな心配は俺がする意味が無い。


 ソレを選んで実行しているのは王子様本人なのだから。この方法を採用しているのは王子様の意思である。


 俺はそもそも毒を王様に盛った犯人が誰なのか興味は無いし。


 今回の俺の役目は王子様が最初から最後まで責任を持って仕事をする事にちょっとだけ助力する事である。


 王様の面倒を見る、その安全の確保。たったのこれだけ。


 まあそこに時折に王様を引っ張って外へとお出かけするのは許して欲しい所である。


 こうして王子様の報告が終わった後、王様はいつものメニューの消化である。


 王様はどうやら思う所があるのか。筋トレに力を入れる事にしたらしく、セット数をワンセット増やして運動量を上げている。


 体力も筋力も相当に落ちていた事が余程にショックだったのだろう。


 コレには俺は何も言わずに見守るだけに留めておいた。


 こう言う事は本人のやる気が一番の燃料になる事が分かっている。


 自らの今の限界を知る事にも繋がるので本人の納得が行くまでやらせるのが今は良いのだろう。


 とは言え無理をし過ぎるのもいけないので一言だけ言っておく。


「あんまり無茶はしないでくださいよ?ソレで怪我でもされたら、その怪我を治すのは俺ですから。余計な面倒を起こすのだけは無しで。」

18日、19日、連続投稿

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