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後は待つだけ、暇時間

 あれから六日が経過している。国王の寝室は静かなモノだ。


 だって誰にもこの部屋には入らせていないから。防音もばっちりなので五月蠅く騒ぐ奴らの声も入って来ない。


 王様は毒を抜いてからその後に三時間くらいで目を覚ましている。


 起きた直ぐには王様は事情が分からずに暫くボーっとしていたけれども、その内に俺の事に気付いた際には「あ、何かヤバい事あったな」と言った顔に変わっていた。


 そこからはカクカクしかじか、俺は起きた王様に食事を提供しつつ説明をしている。


 何があったのか、これから何をしようとしているのか、俺の役割が何か、などである。


 その後は王様の体調の様子見に一日。

 その翌日には何が食べたいかなどの聞き取り。


 一応は毒に侵されていた体だし、精神的にも参った部分などもあっただろうと思って体力回復、労いの為にメルフェの実を出して王様に食べさせて気力を回復して貰ったりもした。甘い物は強い。


 甘味を食した王様は直ぐに表情を柔らかくしている。


 まあそれでも自身が暗殺、しかも毒を使われて殺されそうになった事には驚いていたけれども。


 そんなこんなで目を覚ましてからの三日目は余裕が出来たのか王様は今後の事に思いを馳せてウンウンと悩む。


 だけどもどうやった所で今の自身に何も出来ない事を悟って四日目には暇だと訴えて来た。


 なので俺はチェスを提供。事が終わるまではと言う事でソレの対戦相手に。


 五日目となればチェスだけでは飽きるだろうと言う事で俺の世界旅行の話を聞かせたりもした。


「この様な事に巻き込んでしまって申し訳ない。エンドウ殿にはどれ程の礼をしても足りぬなぁ。」


「いや、要らんて言ってるでしょうが。確かにこういうのって王家の威信がとか、権威がとか、面目がとか言うけどね?要らんもんは要らんから。無理やり押し付けて来る様な迷惑を恩人にしてこようとしないでね?」


「残念であるのう。私としては何でもする覚悟はあるのだが。」


「いや、王様がそんな言葉を簡単に吐いちゃダメでしょ。はい、チェック。」


「おぉぅ・・・ちょいとその手は待ってはくれぬか?」


「負けたらもう一回再戦すれば良いって事で。時間だけはまだ充分にあるしな。負けを認めます?」


 そんな六日目もチェスをして時間潰しをしている。


 王子様が今やっている事に始末が付くまでの間だ。


 俺は王様とラフな話し方で接している。王様もこれを気にしてはいない。


「むむむ、参った。・・・一手、二手、三手目・・・いや、無いな。ならもう一戦だ。よろしく頼む。」


「ハイハイ、それじゃあ最初から。」


 食事は特にこれと言うモノは決まっていない。その時の俺の気分で町での屋台飯を買って来た物だったり。

 俺が作ったスープやら焼肉だったりする。


 王様は食に拘りなどは無いらしく文句を付けずにそれらを「美味い」と言って毎度に平らげている。


 今の所は問題などは一切無い。


 この部屋にはトイレも風呂も備え付けがあるので部屋の外に出る必要が無い。


 水なんてのは魔石がある。魔力を込めると水を発生させるやつ。以前に「つむじ風」の皆と入った時のダンジョンで使ったアレだ。


 とは言え、魔石を使わずとも俺は自身の魔法で水なんて幾らでも出せちゃうのだが。


 王様は俺の事は話では聞いているだろうけれども直接見てはいないのでそこら辺のギャップをなるべく大きくしない様にとの配慮だ。


 王子様ならしょっちゅう?と言える位は俺の力を見ているので何をどうしようが「エンドウ殿ですから」と言う一言で済ませられる程度には慣れている。


 けれども王様は俺とは久しぶりに顔を合わせる。交流などしてこなかったので以前に顔を合わせた時からかなりの期間が経っている。


 俺が余りにも何でもかんでも魔法で事を済ませてしまうのを目にさせてしまうと余計な驚愕を与えてしまうと思っての事だ。


(まあそんなのは今更感があるんだけど)


 心遣いと言うモノの使い所が下手糞過ぎる俺である。


 部屋の防衛に防音、食事を提供、チェスも取り出して暇潰し。

 ここまで俺一人でやっているのだからこれ以上何かを増やしても今更と言う訳だ。


 とは言ってもこういう事は諦めたらそこからずるずるとこの先も気を使うと言う事をしなくなっていってしまうきっかけになる。


「・・・はい、チェック。」


「おおう・・・またここでか。うーむぅ・・・六手先で詰みか。敵わん。はあ~、一旦休憩しよう。」


「閉塞感に疲れてきました?」


「うむ、まだまだ大丈夫だが、外に出て背伸びはしたいのう。まあ、その窓を開けて日の光を浴びるだけで済むのかもしれんが・・・」


「まあ誰かに姿を見られるかもしれないですね。とは言っても俺の力で見られない様にはできますけどね。」


 この部屋には大きな大きな窓がある。開く事も出来る。ベランダに出る事も出来る。


 とは言ってもそこからこの部屋に入れた者が居る訳でも無い。俺がそこまで魔法で結界を張っているから。


 ここまでの六日でこの部屋に侵入しようとして来たモノは数多い。


 正規に扉から入ろうとして来た者もいれば、窓からの侵入を試みようとした者もいる。


 けれども誰一人としては入れた者はいない。当然だ。


 俺が結構な力を込めた魔法の結界である。


 破壊を試みても無理、無効化を試みようとしても無理。


 多分ドラゴンがかなり本気で破壊しようとして来ても耐える。


 それくらいの本気で張った物なので生半可な者がこれを突破しようとしても不可能と言うモノだ。


「じゃあ散歩にでも出ます?王子様に一言断ってから出れば別に問題無いと思いますよ?」


「・・・うむ?」


 王様はそんな事が出来るとは思っていなかったらしくキョトンとした顔になる。


 しかし流石は上に立つ者である。次には全部そこら辺の疑問を素早く呑み込んだのか「頼む」と短く言葉を捻り出す。


 コレに俺は直ぐに行動した。パパッとワープゲートで王子様の所に行って「ちょっと散歩に行ってくる」と告げて戻る。


 王様の恰好はそのままで外に行く訳にはいかないので俺が服を提供してソレを着て貰った。


「・・・貸して貰ったこの服だが、普段から私が着ている物よりも肌触りが良いのだが?」


「あ、欲しかったら差し上げますよ?別に大した物じゃ無いので。」


「・・・では、頂こうか。」


 俺はインベントリの中から雑、かつ、適当に材料を見繕って何時もの事で魔法で服を作り上げた。


 本当にこの魔法と言うモノはおかしなモノだ。

 何かと本来必要なはずの物理現象を当然の事ながらぶっ飛ばして物が出来上がってしまう。


 そして王様と言う権力者の普段着よりも着心地の良いモノを生み出すのだから怖い。

 深く考えてしまったらドツボに嵌まるのでこれ以上は考えない様にするが。


(当然にこの世界でのお値段の高い最高級品を着てるはずなんだよなぁ、王様ってくらいだし?ソレを簡単に超えちゃうのはどうなんだろうか?)


 とは言え出来てしまうのはしょうがない。


 今の服を着た王様は何処からどう見ても庶民である。

 まあコレは俺から見た独断と偏見によるものであるが。


 遠からずとも近からず、と言った感じだと思う。まあお金持ちのオッサンが良い服を着ていると言った所か。


 この服で外を歩いても王様だとは思われないはずだ。

 偽装は完璧である。自画自賛だが。


「ああ、ついでだし?世界旅行、します?」


「・・・うん?」


 流石に王様は突然に提案された「考えもしなかった事」に思考停止してしまった。


 しかしそのままにしておいても無駄に時間が過ぎるだけだ。

 ならば連れて行ってしまった方が早い。


 先ずはワープゲートの先を海の町「サンサン」へと繋げる。


「さあ、どうぞここを通ってくださいよ。行き先は出てのお楽しみと言う事で。」


「・・・うむ、分かった。覚悟して行こう。」


 神妙な顔になって王様はワープゲートをくぐる。流石に王様と言うモノをしているだけあって相当な胆力の持ち主だ。


 俺もその後に続いてワープゲートを通る。


 そこで王様はまるで宇宙の果てでも見て悟りを開いた猫の様に目を見開いて硬直していた。


「ここは・・・サンサンか?いや、まさかこの様な・・・嘘であろう?」


「いやー、ビックリドッキリ大成功!って感じですね。さて、それじゃあ海の幸でも食べに行きます?」


 この誘いに王様は無言で頷く。どうやら言葉が出ないらしい。


 しかし俺が歩いて行けばその後ろを素直について来る王様。


 そしてメインの通りに出ればそこであちこちで屋台から漂って来る香ばしい香りに顔を左右に振って「ザ・田舎者」に見えている。


「それじゃあ俺の奢りで色々と食べましょう。羽目を外しても良いじゃないですか。長年頑張って来たんだし?ソレに、どうせ俺が居なけりゃ死んでたんでしょうから、ここは開き直って生きてる喜びを思う存分に感じちゃってくださいよ。」


 悪い勧誘である。俺はここへと以前につむじ風の面々と来た時の店に入る。


「あー、懐かしい。あー、スイマセン。二人なんですけど席は空いてます?」


「おや?アンタはかなり前のお客さんだね。覚えてるよ。久しぶりじゃ無いか。そこの真ん中の席に座っておくれ。」


 前回に対応してくれた店員さんが俺を覚えていたらしく接客をしてくれた。


 そこで指定された席に座って俺はそのまま注文を頼む。


「美味しい料理とお酒、適当に見繕って持って来て欲しい。これ、お代ね。お釣りは要らないから。」


 俺は王子様から受け取った報酬から代金を取り出す。お釣りはチップ代わりだ。金貨を一枚出す。


「太っ腹だね!よーし!それじゃあとっておきを出しますよ!」


 こうして俺と王様は出された食事を堪能する。


「・・・美味い。酒も良い。これは何もかもを忘れてしまえる。ああ、良いなぁ。」


 王様は出された魚料理の美味しさとお酒の美味さで忘我の境地に行こうとしている。


「いやいや、まだまだ休暇は長いんですから。ここであんまりにも腑抜けになられても。」


 見た目はこうして若いけれども、俺の中身は基本がオッサンだ。

 今の王様と何だかノリが合う。


 とは言え、以前のサラリーマンをしていた俺はこうした「飲み会」と言ったモノに参加した覚えが片手の指折り数える程度だ。


 いや、ヘタをすると記憶に無い。一度もこうしたサシで飲むと言った事はした事が無いかもしれない。


 酒を飲んで酔っ払ったテンション、と言ったモノは知らないし。

 こうした場でどんな会話が盛り上がるのかと言った事も分からない。


 しかし食事をしながら、時にソレを酒で流し込んで、ぽつりぽつりと二言三言と言葉を静かに交わすこの状況は嫌いじゃ無かった。


 王様は酒が入ってより上機嫌と言った所だが、コレに声を大きくしたり、或いは大いに愚痴を溢したりと言った事も無い。


 静かに、そして上品に、そして終始喜び、楽しみ、美味い美味いと言いながら食事を続けている。


 一品一品料理を口にしてはその感想を漏らし、ソレを酒でグイッと飲み干す。


 こうした事を言葉で表現するのなら「しみじみ」と言うのが合っているのだろうか?


 そうして食事が終われば今度は食休みだ。


 俺は王様を今度は海に誘った。大海原を前にボーっと時間を過ごそうぜと。


 ついでの腹ごなしに遅い足取りで通りをじっくり歩きながら浜辺へと向かう。観光気分だ。


 王様は別段コレにはしゃぐ訳でも無く、静かに周囲を観察して終始微笑みながら歩く。

 酒をそこそこに飲んだのでほろ酔いなのだろう。


 晴れた青い空、白壁の家々の町並みの美しさ、照り付ける日の光。


 きっと今、王様の心の中は晴れやかなんだろう。


「こんなにも解放的になれる時などこれまでの間に何度あっただろうか?一度、或いは二度、いや、無いかもしれぬ。」


 そんな言葉を漏らした王様。これまでずっと苦労が絶えなかったのだろう。


 ソレを俺が労う、などと言うのは烏滸がましいかもしれないが、今日は思う存分にその疲れを癒して貰うとする。


 そうして到着した海岸。そこは前に「つむじ風」メンバーと一緒に来た事のある場所。


 穴場的な所で人気は無い。幾らでもゆっくりとしていける。


 そのまま俺はリクライニングチェアを出してサイドテーブルも出す。ついでにパラソルだ。


 俺と王様の2セット。


「さあ、休憩しましょう。ジッとしている事に飽きたら海へ出ましょうか。スカッとしましょう。海の上を制限無く何処までも速度を出してかっ飛ばすのは気持ちの良いもんですよ?」


「気が向いたら頼むとしよう。今は、そうだな。この状況を楽しませて頂こう。」


 こうして俺と王様の静かな休暇が始まる。


 海を眺めて沈黙、会話は無い。


 寄せては返す海の音を聞きながらずっと青い地平へと視線を据えてボーっとする。


 何もしないという贅沢。日差しの強さに喉が渇いたらキンキンに冷えた只の水を飲む。それ以上を何もしない。


 無為に時間を消費するけれども、しかしその分だけ王様の心は癒される。ソレで良いのだ。


 どうせお城での寝室でジッと待ち続けなくちゃいけない訳じゃ無い。


 部屋でジッとし続けて暇だ暇だと溢すくらいならこうして外に出てパーッと遊んだ方が有意義だと言うモノだ。


 まあ王子様は今頃はせっせと仕事を熟しているのだろうけれど。


 これまで頑張って来た王様にこれ位はサービスしたってバチは当たらないだろう。


 ソレも毒殺されそうになったのをこうして助かったのだ。

 助かった矢先に「仕事しろ」と詰め寄るのは鬼畜の所業。


 王などと言った立場に居るのだから誰かしらからの恨みや敵対意識などを持たれていたりしても可笑しくは無い。

 或いは派閥?などと言ったしがらみがあったりするのは当たり前だろう。


 けれどもまさか、毒での暗殺をされそうになったなどと言うのは相当にショックが大きいはずだ。

 王様はどうやら聡明でいるらしいからそう言った部分を直ぐに理解をして状況は呑み込んだ様に見えるけれども。


 その心の中がどの様に乱れているかは見えはしない。

 もしかしたら当人が自身で「落ち着いている」と思っていても、自覚していない所で混乱していると言った部分もあるかもしれない。


 それならばこうして心の中を整える時間を設けるのは必要な事であろう。


 王様のそう言った心の整理が付くまでは、俺があっちこっちに連れ回すつもりだ。


 ついでに長く顔を見せていない各国の知り合いの所に顔を出す心算である。一石二鳥。


(偉そうな事なんて言え無いな。全部俺の都合だコリャ)


 建前と言うモノである、王様への心配など。


 ぶっちゃけ、俺が部屋に籠っているのがしんどくなって来ただけだ正直言ってしまえば。


 どうせ王子様の方の仕事が片付くまでは時間が掛かるのは分かっているのだ。


 ならそれを待つ間に俺の方も野暮用を片づけてしまえば良い。

 別に部屋に閉じ籠もり続けていなければならない訳じゃ無いのだ。


 王様の寝室に誰も入らせないだけで良いのだから。


 ソレに俺の方から小まめに王子様に逐一出かける時は声を掛けて行けば良い。


 散歩するくらいは良いだろう。文句を付けられる謂れは無い。


 こうしてこの日は海のかなた、地平線に日が沈むまでジッと俺たちは海岸で時間を潰した。


 その後は夕食をサンサンで食べてから寝室に戻って就寝。まあここで寝るのは王様だけだが。


 ベッドに入って王様は直ぐに寝付いてしまった。

 俺も魔改造村の自宅に戻って寝るとする。


 そうして翌日。今日も俺は王様の御世話だ。


 別に毎日様子を見に行かなくても、見ていなくても良いのだが。


 しかしコレは俺が頼まれた仕事だ。しっかりとやらないといけない。


 とは言え、王様の寝室に入ろうとしてくる輩は俺の張った魔法の障壁で弾かれるので特段何もする事など無い。


 放置していても警備の仕事は万全である。誰も入ってこれはしない。


 なのでこうして逐一顔を出しに行くのは王様の暇を潰してやる為である。


 まあ俺の暇を潰す相手とも言う。


「本日はどうしましょうか?遊戯盤で遊びます?それともまた外に遊びに行きますか?」


「エンドウ殿の凄まじさは昨日で充分以上に理解した。そう脅さないでくれ。」


「いやいや、脅してませんて。何でそうなるんです?」


 サンサンへと日帰り旅行に行った事が何故に脅す事に繋がるのか?俺にはサッパリだ。


 だけども王様の中ではそこら辺はちゃんと理由があって「脅さないで」と表現したのだろう。


 その理由を教えてくれなくては俺には分からない。

 分からないけれども深くは聞かないでおく。


「じゃあ今日は王子様から進捗状況でも確認します?」


「いや、今回の事は何も聞かず、言わずで全て任せる事にする。一切私から何かをする事は無い。全権委任だな。息子の将来を考えての訓練としよう。」


 王子様は何時か王の椅子に座る。ならば今は有事の際の諸々のシミュレーションにはうってつけと言う事だろう。


 かなり放任、突き放した教育と言えなくも無いけれども、この程度を熟せ無ければ王と言う立場にはいられ無いんだろう。


 そうして本日はまたこの寝室で過ごす事に。

 チェスをしたり、読書をしたり、おやつにメルフェの実を食べたり、筋トレしたり。


 部屋の中に引き籠り続けると筋力や体力の低下につながるので王様には筋トレメニューを渡してソレを熟して貰った。


 こういった事は継続が力となる。

 ずっと体を動かしていないとあらゆる部分が鈍ってその内に一気に何もかもが老け込んでしまう。


 健康の維持にも気を配って貰い、そして運動を通して生きている実感を得て貰う。


 王様は最初にこの筋トレメニューを「まあ、余裕だろ」とか言った態度で取り掛かっていた。


 どうやら王様、若い頃は剣を振って鍛えていたと言う。

 なので今もその「昔取った杵柄」?若い頃に鍛えてあった筋力貯金とでも言うモノ?がまだまだ残っていると思っていたらしい。


 だけどもソレも撃沈。即座に疲れが見え始めて途中で「むぎぎぎ・・・」となっていた。


 とっくのとうにそんな貯金など底を尽いていたばかりかマイナスになっていたらしい。


 これに思わず王様は「これ程までに衰えていたとは・・・」とかなりのショックを覚えていた。


 でもそこで落ち込み続けないのが流石王様。


 どうやら悔しさと根性を発揮してその日のノルマを達成する。


 まあしかし、その代償は重かった。


 ゼイゼイと息を切らして王様は俺の出した冷えた水をぐびぐびと飲み干す。


「ぷはァ~・・・これは、キツイ。若かりし頃なら余裕で熟していただろう運動であるはず・・・歳には勝てんのだな。だが・・・負けない事は出来るか。明日も続けなくてはならんなコレでは。」


 王様は決意を込めてそう言って風呂場へと汗を流しに行った。


 ソレを俺は「明日は全身筋肉痛で辛いだろうなぁ」と見送る。


 こうして王様には日課が加わった。そう、筋トレメニューである。


 まあコレは言ってみれば大した内容じゃない。


 腕立て、腹筋、背筋、スクワットをそれぞれ三十回をワンセット。これを三回ずつ。

 その後には柔軟体操、至ってシンプルである。


 まあ柔軟体操は結構真剣に、かつ、しっかりとしたモノにしているのでそれだけで結構な体力を使う中身だが。


 こうして事が全て片付くまでの間の王様のルーティーンはこれで決まった。


 朝食を摂った後はチェスで遊んでその後にゆっくりと読書の時間。


 昼を食べ終えて食休み後に王様は筋トレを熟す。俺が手を出すのはそのサポートだけ。インストラクター紛いである。


「いや、何も変化が無くて俺が飽きた。出かけよう。王様も一緒に行きますよ。」


「・・・突然に何を言い出すかと思えば。はぁ~、良し、付き合おう。今度は何処に連れて行って貰えるのかね?」


 王様は俺の我儘に付き合うと言ってくれる。


「じゃあ久しぶりにあそこに行ってみようかな?」


 俺は早速ワープゲートを帝国に繋げた。


 帝国と言えば従魔闘技場である。さあ、賭け事だ。


 とは言っても、王様が帝国のお金を持っている訳じゃ無い。


 だから俺が出す。


「さて、どれに賭けます?」


「・・・そうは言ってもなぁ?先ず、帝国にこの様にして来ている事を驚かせては貰えんかな?」


 サンサンに連れて行ったんだからそこら辺はもう驚き具合は控えめになってはいるけれども。


 しかしやっぱりこうして遠方に一瞬にして移動できる事にまだ納得はしきれていないらしい。


 とは言え、俺も別にそこら辺の王様の気持ちに気を配るつもりが無い。


「じゃあ俺はカーリスに賭けようかな?」


 以前に二度だったか、対戦した相手の名前が見えたので俺はそちらにベットする。女性従魔師だ。


「来て早々に何処に行くのかと思えば両替屋、その後は何処かと思えばこの様な・・・いや、まあ、良いのだが、良いのだが・・・うーむ?」


「パーッと遊べば良いんですよ。何も考えないで直感で掛ける方を決めましょう。」


 既に換金は済ませてある。王子様から依頼された件での報酬はまだまだかなり残っている。

 その一部をこうして賭けの為の帝国貨幣に変えただけだ。気にする事でも無い。


「知らん名ばかりの魔物で判断基準が無いのだが?・・・勘、そうか、勘、だな?うむ、では私はこちらに賭ける。」


 王様には事前にこの闘技場の説明はざっくりとしてある。

 なので王様は闘いが魔物同士でする事は既に解かっている。


 しかし魔物の名前を俺が教えただけではその姿、戦闘能力、特殊能力などが解かるはずも無い。


 だけどもそこら辺の詳しい情報は何も教え無かった。

 ぶっちゃけ、そんな事を考えずに王様に只賭ける事を楽しませる為に連れて来たからだ。


 ここで王様はカーリスと対戦する従魔師へと賭けるらしい。

 ソレは俺の逆張りをした訳でも無さそうで。


「良いですねぇ、その調子です。気楽に遊びましょう。で、賭けた理由とかあるんです?」


「エンドウ殿が言ったのであろう?勘、だとな。」


 王様、本気で勘に賭けたらしい。

 自分で言っておいてなんだが、ソレで本当に大丈夫か?と王様に聞きたかったが我慢する。


 ソレを俺が言える立場じゃ無い。勘に賭けろなどと言ったのは俺なのだから。


 こうして観覧席へと移動して俺たちはその戦いを見守る事に。


 賭けた金額はそこそこに大き目であったのでコレにスタッフの案内が物凄く丁寧だ。


 しかも王様は俺の賭けた金額の二倍を投入していたりする。


 俺が王様に預けたお小遣いの約八割と言う大金である。


(おいおい、大丈夫か本当に?いや、でも、本人が楽しそうだから良いか)


 俺は神様じゃない。だからこの戦いの結末を知る由も無い。


 カーリスはかなりの上位に食い込む実力であるのを俺は知っている。

 だから手堅く彼女の方に賭けたのだ。


 だけども王様は全く違う。本当に何も知らない状態で「勘」だけでカーリスの対戦相手の方に賭けている。


 これを馬鹿にしたり否定したりはするべきじゃ無い。と言うかそんな事を出来る権利が俺には無い。


 何も教えず、只々賭け事を楽しめ、などと言って薦めたのだから。


 賭ける前にオッズ、勝った際の掛け金の金額倍率を見た時は、俺の感じる所ではカーリスの勝ちが七割、と言った感想だった。


 王様が何をどの様に見て、感じて「勘」で賭けたのかは分からない。


 どうせその様に俺が感じた戦いであろうと、ソレは所詮は二択。


 カーリスか、その対戦相手か。そのどちらかが勝つと言う事は決まっている。


 勝負は始まってみなければ分から無い。そして時の運も絡む。


 戦う相手との間に圧倒的な差が無い限りは「運」と言うモノは実力に含めてもオッケーである。


(俺はそのカーリスの対戦相手の名前を見ても誰だかサッパリ分からなかったけどな)


 俺は暫くここ帝国に顔を出していなかった。


 なので新しく従魔師になった者などの情報なんか耳にするはずも無い。


 そうこうしている内に観覧席に到着。


 そしてその時に丁度で試合時間となった。

17日、18日、連続投稿

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