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頑張った結果、結構な出費

 ソレは多分王子様の意地だったんだろう。


 宿に泊まった翌日、その夕方に使者が来た。


「エンドウ様ですね?私は只の殿下の使者で御座いますので名乗る程の者では御座いません。無駄な話をする必要も無いでしょうし、要件だけをお伝えさせて頂きます。」


 そう言われて聞かされた内容はザックリと言えば「全部済みました」との内容だ。


「今後の事に付いて少々のお話もあると言う事で王城に来て頂きたいとの事で御座います。何かご質問等ございましたらこの場で私が答えられるだけの物は答えさせて頂きます。他にも事前に殿下へとお伝えしたい事などが御座いましたら御受け致します。」


「あー、分かった。明日の昼頃に顔を見せに行くと伝えてください。」


 俺がそう言ったら「畏まりました」とだけ口にして使者は去っていった。


「なかなかに早く終わった方かぁ。王子様も今回は「舐めやがって」とか怒った所もあったのかね?」


 かなりのスピード解決と言って良いと思う今回の事は。

 相当な数の捜索員を導入したと思われる。


「王家の意地とか権威とか、そう言った問題に繋がり兼ねなかっただろうしなぁ。無茶でも無理でも通して早期に解決でき無かったら、それらがガタ落ちだっただろうからしょうがない所もあっただろうなぁ。」


 俺にはそこら辺の詳しい事情などは察せないが、想像はできる。


 それ程の大規模な捜索になれば必要経費なども莫大な物となったであろう事も。


 とは言え俺がソレを補填してやると言った事を出来るはずも無い。


 王子様にだって矜持と言うモノはあるだろうから。


「まあ切羽詰まってたら王子様もそこら辺は折れる程度には柔軟性を持ってるからねぇ。今回の事はそこまでじゃ無いだろう。」


 俺は既にこの国に金を貸している立場である。

 王子様の顔に免じて色々とそこら辺の国家事業に既にもう出資しているのだ。


 そんな相手に対して王子様が厚顔無恥にも「金くれ」とは口が裂けてでも言え無いだろう。


 まあ幾らかの条件を付けて「貸して欲しい」と頼んでくる可能性は有ってもだ。


 今回のこの件に関して言えばそう言った事は無いだろうと感じる。


 それこそ王子様が「支障が出ます」と言ったばかりなのだ。


 その点を踏まえれば今回の捜索に掛かった費用などは王子様の個人的な懐から出ているに違いない。

 国の予算から出しているのでは無いんだろうと予想する。


「さて、じゃあ明日に顔を出しに行くにしても、何の話をする気なのかねぇ?」


 取り合えず今日と言う日も終わりだ。既に空は夜闇に染まって寝る時間である。ちょっと早いが。


 俺は昨日今日とこの部屋で何をするでもなくまったりと過ごしていた。


 明日には一応訓練校の方に行って何か問題が起きていたりはしないか聞きに行ってから王子様の所にお邪魔するつもりでいる。


「ああ、その時には師匠に何か国に要求する事とか意見が無いか聞いてみるか?そうすると、クスイとサンネルにも何かあるか尋ねてみるか。」


 こうして俺は早めに就寝した。


 そうして翌朝、宿での朝食を終えてチェックアウト。

 そのまま直行で訓練校に向かう。


 歩いて早朝散歩と洒落込みつつである。

 急ぐ用事でも無ければ慌てなければならない事案も抱えてはいない。


 思い付きで一度動き始めるとこうしてノンビリとする事も無くいそいそと用事を済ませては、また用事を作る、そんなサイクルに嵌まりこむのでこんな時間は貴重だ。


 なるべく意識して歩幅を小さく、ゆっくりと歩いて先ずは専用道路の入り口前へ。


「どう?何か直近で問題案件起きて無い?」


 既に俺はこの専用道路の入場門の番をしている者たちとは顔なじみになっている。


 その門番たちも俺の事が何者なのかをもう理解しているのでこの様な気軽な声掛けに直ぐに対応してくれる。


「あー、取り合えず今の所は無いですねぇ。ちょっと前までは襲撃してくる奴が居ましたけど、ソレもパッと無くなっちまいましたよ。まあソレもダンナが瞬時に来てスパッと片づけちまって俺らの出番なんて無かったもんですけど。」


 軽い感じで「ははは」と笑う門番。当初は俺の力を目にしてビビッていたけれども既にそこらはもう慣れている。


 ここで俺は「それじゃあまた」と言って門を開けて貰わずに空を飛んで上から専用道路に入る。

 一々仕事をして貰わずとも俺は門を超える方法を持っている。門番に門を開けて貰う必要は無い。


 そうして俺が全てを整えた道路を何も考えずに呑気に歩き続けて訓練校に到着。


「いやー、何で俺はこんなのを建てようとか思い付いちゃったのかなぁ。」


 俺は自分でやった事、思いついた事なのに今更ながらに不思議がる。


 国が主動してこうした物は作られなくちゃならないと思うのだ。

 しかしソレは待っていた所で何時まで経ってもこの国が造り出す事は無いだろうと。


 多分俺が提案しても国家予算をそこに割くなどと言った事もしなかったと思われる。


 もし王子様がソレを受け入れてプロジェクトを開始していたとしても、その完成は十年以上は掛かっただろうと見込まれる。


(本当はそれくらい長い年月を見越して動かなくちゃいけないのを理解してるけどさ?俺、魔法が使える様になって、凄くせっかちになったんだよなぁ)


 そこに金だ。俺はこの先も一生使いきれないだろう金を持っている。

 と言うか、今この瞬間にもその数字が増え続けているのである。


 こうして異世界に来てしまったと言う事実だけでも俺の中には未だに消化しきれていない部分がまだ僅かに残っているのに。


 現実味が感じられないそんな天文学的な数字を突き付けられたら余計に現実味が消失して行ってしまうと言うモノで。


「それだったらじゃあ世の中に還元しなきゃとか、無駄遣い、とは言わないけど、消費しなくちゃとか思うよな普通は。」


 そんな事を考えてふと視線を真正面に向けてみたら妙な物が視界に入って来た。


「・・・あれ?あの人、あー、確か教師に任命した人だったよな?顔、何と無く覚えてるけど、え?スーツ着て無い?」


 ヤバイ物を見た、そんな感想が俺の中に湧き上がって来る。


 あれはなんだ?そんな事しか浮かんでこなくなる。


 それ程の衝撃を受けた。


「え?何?何で?何でスーツ?しかもかなり再現度高かったよ?・・・え?いやいやいや?何時の間に?」


 俺の着ているスーツと似てはいたが、そこは微妙にデザインが違った。

 とは言え、非常に良く出来ていたので俺は思考の死角を突かれた気分になる。


 だってこの世界には「スーツ」など、俺の着ている服など存在していなかったのだから。


 色々な国を巡ってその様な服は一度もお目に掛かっていない。


 なのに今先程に俺はソレを見た。この目でハッキリと。


 そしてソレは俺が建てた訓練校で教師をしている者が着ていたのだ。


 そんなの驚くに決まっている。


「・・・師匠に話を聞きに行った方が良いね。うん、どうなってんの?」


 俺は素直に一番上に事情を聞くのが一番手っ取り早いと思って校長室に向かった。


 そして得られたその回答はと言うと。


「ああ、ソレは・・・クスイがやった。私もソレには反対はせずに、まあ肯定もしはしなかったがな。別に悪い事にはならなさそうだったので勝手にやれば良いとは言ったが。」


「校長先生よぅ・・・あんた、この学校の一番偉い立場なんだから、そこは、こう、意見をちゃんとさァ・・・」


「その様な自覚が無い物でな。とは言え、クスイもそこら辺は考えているらしいぞ色々とな。その説明は今度本人に直接聞いてみれば良い。ソレに。」


「・・・ソレに?」


「お前はもうこの訓練校の事に一切手も出してないし、こうしようと言う案も出してはいないだろう?今になって偉そうな事を言えぬだろ。金だけを出して後は私たちに全てやらせているだけ。何を言ってくる訳でも無く何をしていても興味など持っていない様に見受けるが?」


「痛い所を突かれたなぁ・・・ごもっともで。いや、でも、俺の着てる服を真似てソレを着させるって、ちょっと言いたい所はある訳で。」


「その点はお前が主張できる事か?その服の諸々の利権は全てお前の物だと?」


「・・・いや、違いますけどね。うーん?何と言ったら良いかなあ。」


 説明し辛い。俺と同じ格好の者が増えるのが嫌なのか?


 勘違いされるのが面倒?この世界にスーツを着ている者が増えるのに違和感?


 そんな下らない事を俺が今更に主張する権利など無いのだ。


 誰がどんな服をリスペクトしたって自由なのだから。


「ああ、うん、後でクスイに聞いてみます。いや、本当に驚いたんですよ?何処に行っても俺の着てるのと似た服を着てる国は無かったですからね。」


「・・・世界中、それこそ本当の意味で各国を巡っている者はお前くらいだろうよ。」


 師匠はどうやらしっかりと俺の言葉の意味を察して盛大な溜息と共にそんなセリフを吐き出した。


「あ、ファッションショーでもします?えー、解かる様に言うと、アレだ、ほら、世界各国の民族衣装祭り?・・・意味通じるかコレ?」


 俺のこの返しに師匠は「困った奴だ」と眉根に深く皺を寄せて苦笑いをして来るだけだった。


 そんな会話をした後は校長室を退室する。


 師匠から言われた通り、俺はもうこの訓練校への興味が大分薄れている。

 もうこの後は俺が何かと細かく物事を決めて行かなくても自然と学び舎としてのルールが出来上がっていくのだろうと思うからだ。


 もしくは校則などを師匠やクスイ、サンネルがその都度に決めて行って形を成して行くだろうと。


「確かにもう次の事を考えようとしている俺には何も訓練校の件に口を出す心算は無いし。」


 知り合いの所に顔を出しに行こうかと考えていたくらいである。

 俺が今更に訓練校の事でとやかく言う筋合いは無いんだろう。


 始まったばかり、と言ってしまえばそうで。

 しかしもう俺の中では終わった事に分類されている。


 問題は片付いた。俺はそう思っている。けれども周りはそうは考えてないかもしれないが。


 そうやって訓練校では今どの様な授業をしていたりするのかを考えながらボーっと校舎を歩き回ってみる。


 とは言え、まだ第二期生は募集をしていないし、受け入れなども行っていないので生徒の数も少なく閑散としている校舎内である。


 生徒が増えれば教師も増員しなければならないだろうし、授業の種類なども増やすべきだったりするかもしれない。


 俺が軽く無責任に考えてみても色々と面倒で、手間で、時間も労力も根気も要りそうだ。


「うん、やってられない。丸投げして正解。その筋の人たちを大勢集めてまとめ上げて使える人じゃ無いと無理。俺にはそんな器、無い。」


 改めて考えてみれば無謀と言えるプロジェクトである。俺などの様な者に務まる事じゃ無かった。手に余る、正直言って。


 こんな愚痴を聞かれたら盛大に「じゃあやるなよ」と誰からもお説教を食らう事案である。


「いや、持つべきモノは優秀な商人と、師匠ですよネ。はははは・・・」


 一人でそんな空笑いをする頃には王子様との約束の時間が近づいて来ていた。

 昼頃にお邪魔すると言ってあるので約束は守らねばならない。


「何の話があるのかね?まあ悪い事では無い事を祈るか。」


 こうして俺はワープゲートで王子様の執務室へと直接移動した。


 そうして移動完了してみれば部屋には王子様しか居なかった。

 秘書も居ないし、護衛も居ない。


「おーい、ちょっとソレは危機管理意識が低いんじゃないか?狙われない?」


「大丈夫ですよ。部屋には誰も入らせない様にしてありますしね。」


 王子様はどうやら俺と秘密の話をしたいらしい。人払いをしたんだろう。


 魔力ソナーで軽く調べてみれば扉の前には兵士が五名も立っていて見張りをしていた。


「それでは先ずは簡単に終わる話から行きましょう。こちらが今回の件の報酬です。」


 テーブルに置かれている袋。ソレは俺が依頼された仕事を熟した事への報酬である。

 サッと軽く開けてみれば中にはみっしりと金貨が詰まっていて眩しい光を放っている。


「はいはい、確かに受け取ったよ。それで、他に何があるんだ?回りくどいのは無しにしよう。」


 俺はその金貨袋をインベントリにポイと投げ込む。これは今更王子様に隠す事では無いので片付けは早く済ませる。

 そして王子様に問いかける。もっと他に話があって呼んだのではないのか?と。


「これと言って重要な事と言う程では無いんですが。以前にエンドウ殿に指摘された問題の諸々を解決できたのでそのお礼を言いたかったんです。ありがとうございました。」


「・・・ああ、確かそんな事もあったな。結構前だったよな?で、そんな事を伝える為に人払いをしたって訳じゃ無いんだろ?不自然だもん。何をビビってんだ?」


 そんな程度の事は別に周りに人が居たって言える事だ。

 まだ何か抱えている問題でもあってソレを広められ無いから俺とのサシで王子様は話し合いを望んでいるはず。


「いえ、怯えている訳では無いのですが、この様な事をエンドウ殿に頼んで良いのやらと思いまして。」


「良いから言ったら良いんじゃない?言うだけならタダだぞ?まあ、タダより高いモノは無いとか言う事もあるけどな。・・・おい、冗談だってば。別に何を言ったって怒らないぞ?俺と王子様の仲だからな。」


 先程までニッコリしていた王子様の顔つきが俺のこの言葉で曇り顔になった。

 そしてそのままで頼みごとを口にして来る。


「国王陛下が五日前、突然に御病気になり、床に伏しています。医者に見せましたが原因が不明、容体もかなり悪化が早く、持ってあと一月も無いと言われました。意識は有ったり無かったりしてかなり深刻です。エンドウ殿、陛下を、父を診て頂け無いだろうか?貴方に医者の真似事をして貰うと言うのは違うのではないかと思う。しかし、縋れる相手が貴方しか居なかった。」


「おい、ソレは早く俺に言うべき問題だっただろうに。あ、でも遁走した奴等を捕まえる方にも力を入れなくちゃいけなくなったからタイミングがズレたか。」


 全く以って妙なタイミングで事が重なるモノだ。


「おい、早い所回復させた方が良いんだろ?案内してくれ。さっさと様子を見てしまおう。ソレにその話、多分耳が早い貴族の奴等にはバレただろ。だったらなおさら早く治してやらんと混乱が増す。さっさと片づけるぞ。」


「・・・良いんですか?この様な頼みを・・・」


「人命優先な?それと、このままなら王様がヤバイ事を知った奴等の中に馬鹿をする者たちも出て来るかもしれんだろ?そんな鬱陶しい事になったら絶対それって俺の所にまで飛び火して来るだろ。そうならない様にする為にも今直ぐに治療した方が良いに決まってる。」


 余り国政と言った事に関わらない、そんなつもりでいたけれども。

 そんな事になってしまっているのなら話は違う。


 王子様は国の問題を俺がしょっちゅう解決するのを「良し」としていない事を察している。


「もちろん、父を救って頂けるのならば報酬は望みのままにお出し致します。」


「いや、いいよそんなのは。そう言う話は後にしてくれ。先に人命救助な?もう一回言うぞ?さっさと案内頼む。それと、恩とか感じなくて良いから。パパッと片づけるぞ。」


 王子様がそんな俺の言葉に背筋を伸ばして深く一礼をしてから部屋を出る。


 扉の前で番をしていた兵士たちは全員がいきなり出て来た王子様に一瞬だけ驚きを見せた。


 ソレを王子様が「御苦労、戻って良し」と解散の指示を出して落ち着かせる。


 そのままスタスタ何事も無い様に歩いて廊下を奥へと進んで行く王子様。


 俺はその後に無言で付いて行くだけだ。


 行き先は王様の寝室なのは確実だから。


(多分大抵の病気は俺の魔法で治せるよなぁ?じゃあ寿命とかは?・・・うん、師匠の件もあるし、最終手段としては俺が無理やりにでも王様を若返らせるって事も出来ちゃうんだろうなぁ)


 もう俺の魔法は大抵が何でもアリになって来ている。恐ろしい事である。


 そんな中で考える事ですら躊躇いを感じるし、実際に実験をしてみようなどとすら思わないのが「死者蘇生」である。


 人工呼吸、心肺蘇生措置、と言った救急救命はまだ範疇なのだが。


 完全に死んでいる判定の存在を生き返らせる、などと言った事は禁忌に触れそう、そんな感じで試そうとも思えない。


 死人を生き返らせるのとは全く別で、不老長寿、今の俺はソレを確実に出来ると判断する。


 実際に師匠は若返った。魔法の力で。


 俺だってこちらの世界に来る前は只の定年退職なオッサンだった。


 しかしソレがどうだろうか?今はこの若さである。


 今後に俺が歳を取って行って皺が増え、皮膚が弛み、肌に張りが無くなったとしても、恐らくは魔法でソレを若返らせる事は可能だ。


 師匠に出来て俺に出来ない事は無いだろうから。


(そこからより深く踏み込むと、不老不死、とか言った範疇に突入なんだよなぁ。実際にそこはどうなんだろうか?)


 魔力などと言う不思議なモノが存在する世界だから、そう言った事もあり得るかもしれないと思えてしまう。

 それと同時に思う。俺は多分ソレを実行可能な所に立っているんだろうな、とも。


 痛い思いをしたくはないので身を護る為に魔力を体表面に巡らせているのでソレがバリアとなって外的要因を防ぐので死にそうにはない。


 そうするとケガをしそうにないのでその点で見ればずっと健康なままであろう。


 病気など掛かっても魔法でパパッと快癒。うん、ズルい。


 いざとなったら魔法で若返る事も出来るだろうから高年齢からの衰弱死とも無縁では無いだろうか?


(見た目が若返っているだけで内面としては寿命が来て死ぬとかはあるかもしれないけど。それが来るんだったら師匠に先にソレが訪れるだろうし?)


 自分自身が実験体。相当に気の長い話だ。


 そんな事を考えていたら到着した。どうやら王様の寝室らしい。

 そこで王子様が入室の許可を得て扉を開き中へと入って行く。


 その後ろに黙って付いて行って俺も部屋に入った。


 部屋の中には世話人のメイドが五名。


 それともう一人、ベッドの横で女性が椅子に座っていた。


 着ているドレスが豪華なので恐らくは王妃様。その女性が深刻な表情で入って来た王子様を見つめている。


 そこに声を掛ける王子様。


「母上、人払いを。私と彼、それと、父上のみにしてください。」


「・・・その方が以前に話していた方ですね?分かりました。」


 立ち上がる王子様の母親、王妃様であるその女性は俺に向かって頭を深く下げると「お頼み申します」と小さい声で頼みの言葉を口にした。


 俺はソレに対して「任せてください」とだけ返す。


 そうして王妃様が部屋を出て行くのに従い、メイドの五名も一緒に部屋を出て行く。


「エンドウ殿、お願いします・・・」


「先ずは防音だろ?それと、部屋に人が入って来ない様に障壁張ってっと。それじゃあ診てみる。」


 ベッドには青褪めた顔で眠る王様が。


 俺は直ぐに魔力を王様に流し込んでその体の状態を把握していく。


「・・・あら?おいおいおい・・・どうしてそうなる?病気じゃ無くて、これ、毒だぞ?」


「は?毒?医者が何故ソレを見抜けなかったんだ・・・?」


 身体の何処にも「病気」の異常は見られ無かった。

 その代わりに内臓をじわじわと侵食して行っている様な物質の感知に成功する。


「魔力でそれらを吸い上げて一纏めにして・・・あ、結構難しい。ちょっと時間掛かるなぁ。でもイケるでしょ。」


 薄く広く全身にソレは広がっていたので集めるのに時間が少々掛かった。

 ソレを解毒すると言った事では無く、体外に排出させる。


 ソレが一体何の毒なのか俺には分からないし、その知識なども無い。

 下手に解毒、分解などをして他に何か副作用などが発生しようものなら余計な面倒になる。


 人体の中に存在しないはずの余計なモノ、その成分を時間を掛けて全て把握し除去する。


 ソレは時間としては大体三十分程の格闘だった。


「終わったぞ。毒の排出させながら体の悪い所はついでに治しておいたから多分寿命も延びたんじゃね?」


 そんな事を冗談交じりな声音で俺は王子様に処置が終わった事を伝える。


「・・・はぁ~、有難うございますエンドウ殿。流石は賢・・・いえ、そう言われるのがお好きでは無かったのでしたね。ともかく、助かりました。とは言え、毒を父に盛った犯人は見つけねばなりません。」


「もう面倒だから俺が見つけるよ。こんな騒ぎはもうご遠慮願うわ。」


「・・・ソレは待って頂けませんか?いえ、そうですね、犯人を躍らせる事に協力して欲しいと言うか。」


「ん?何だ?悪巧みな感じか?王様は助からない、そんな演出をしてそこに喜んだ馬鹿どもを舞台の上に引っ張り出して劇でもさせる?」


「お察しが早くて助かります。」


 どうやら王様の命が救われた事に安心したのだろう。王子様の表情は明るいモノに戻っている。

 そしてえげつない思い付きをしたらしく、怪しい顔へと変貌していた。


 この後は王子様と今後にどう動くかを話し合った。


 俺は王子様の考えに乗ったのだ。

 毎度の事に国の問題に俺が協力してしまうと解決能力の低下を招くと分かっていながら。


 王様は助けたのだし、そこで俺は手を引けば良かった。


 けれども王様が病気などでは無く、毒を盛られて命が危うかったと言う点に俺の中の何かが引っ掛かったんだろう。


(随分と胸糞悪い方法をして来るよなぁ悪党どもはさ)


 この国は後どれだけ叩けばこうした者たちが消えてくれるのか?


 かなりの数が既に処分されているはずなのにまだ降っては湧いて来るというのか。


「まあ俺が今回頼まれた事は別にそこまで大した事じゃ無いからな。そんな所にまで俺が手なんて出さなくて良い訳だし?王子様はそこんとこ、頑張って。」


「ええ、応援有難うございます。本当に、この国はどうなっているんでしょう?私も不思議でなりませんよ。何処からこの様な「国王暗殺」などを狙う者が出たのか?」


 こうなってしまっているからには笑い話にもならない。

 どんな思惑を込めてこの様な毒殺を仕掛けたのか?

 王子様も分かりかねると言った感じで困惑を隠しきれてはいない。


 けれども、もうやるしかないのだ。犯人を誘き出す為に。


「ではエンドウ殿、よろしくお願いします。」


 そう言って王子様は出て行く。俺と王様を部屋へ残して。


「さてと、それじゃあその時までどうやって時間を過ごそうかな?何日掛かるか分からんが、まあ、一か月は部屋から出ないモノと考えて色々と暇潰しを考えましょうかね。」


 俺の役割は「王の護衛、守護」だ。


 王様に近づけなければ誰も毒を盛る事は出来ない。

 部屋へとこっそり忍び込もうとする者も、俺の魔法で排除できるのだから何人たりともこの部屋に入る事が出来る者はいないだろう。


 そう、魔法でこの部屋を丸々守る結界を張った。

 これで王子様以外の者をこの部屋に入らせない様にする。


 誰にも入らせない、王子様の許可が無い者は絶対に。


 いや、許可があっても入らせない。


「犯人が誰だか判らないうちは文字通りに誰にも入らせない位で丁度良いよな。」


 俺の王子様から受けた役割は「探偵」でも「捜査官」でも無い。

 ならば徹底的にやるだけだ。犯人への「嫌がらせ」を。


「王様の様子が分からなくなったら犯人は焦るだろうな。それにここに俺が居る事もその内に知るだろうしな。存分にイライラモヤモヤして貰おうじゃ無いか。」


 きっと犯人以外のその他な者たちも一緒にモヤモヤするだろうけども。


 そこはこちらの勝手ながらに我慢して欲しいとしか言え無い。


「さてと、王様が目を覚ましたら食事はどうするか・・・」


 インベントリがあるので別に気にする程の事など無い。


 外で食事を買って来てソレを摂らせればいい。


 けれどもそんな食事が王様の口に合わなかったらどうだろうか?


 とは言え、その様な我儘など言わせる気は無いけども。


「それじゃあノンビリしてますかね。」


 俺はソファーに深く座って一つ背伸びをした。

16日、17日、連続投稿

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