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最後まで気が抜けない、と言う程でも無かったけど

 問題はこれで全部終わったのだろうか?

 その答えは王子様の方の片付けが終わってからの話である。


 流石に罪人を取り逃がしたなどと言った事にはなっていないだろうと思うけれども。


 国の動きを先行してキャッチされていて早々に逃げられていたとか。

 或いは隠し通路などで退避されて姿を眩ませられてしまったとか。


 そんな事になっていなければいいのだが。


「そんな真似までされたらお手上げかな?そんな察しの良さそうな奴らには思えなかったけどね。」


 俺がその二名と顔を合わせた時の事を思い出す。王子様の執務室だったか。


 その時の印象ではその様な事前準備をしてある小悪党には見え無かった。

 いや、大悪党だって自身が危なくなった時の逃走経路などは確保するものか?


 取り合えずどの様に言えば良いだろうか?


 一言で表せば「傲慢」とでも言えば良いのだろうか?

 自分たちのやっている事は正しい、何処も間違ってはいない、そんな風な態度がその姿勢、ジェスチャーで滲み出ていた。


 そこに「高慢」でコーティングされていて、いかにも自分以外を見下していた様な者たちである。


「だからって言って相手を甘く見過ぎるのも問題か。でも、それに対処するのは俺じゃ無くて王子様なんだよなぁ。」


 自分の頼まれた「兵器」の方が片付いたからと言って俺は魔改造村の自宅の方に戻って来ていた。


「・・・王子様の応援に行った方が良かったかなぁ?でも、もう俺疲れちゃってるよ。」


 自分とは違う次元に生きている者との話し合いは全く嚙み合わず、それに辟易してしまって既に俺の精神は疲れている。

 言葉は理解できているのに、話の内容が全く通じていない、そう言った体験が俺の心をぐったりさせる。


「今頃捕まってどんな尋問受けてるのかね?」


 国外追放を受け、ソレを恨みにテロを起こそうとした人物である。

 極刑に処されるのは何となく想像はできる。

 しかしそこは何らの被害も出なかった事で少しはその点を考慮されたりはするだろうか?


 かの者の頭脳を惜しいと感じた国がそれを役立てる為に「司法取引」などを持ち掛けると言った展開も微レ存か?


「・・・俺が対処してなかったら目も当てられ無い程の被害が出てた事は確実だっただろうし?そう言った配慮なんかは起きないかもな。悪意の大きさってのが焦点になるのか?まあ、そこら辺は俺には分からん領分だなぁ。」


 時と場合、想定される被害規模と言うモノを考えればソレはかなり低い確率になると見込まれる。


 俺にしてみればどうだっていい、そんな思考を一時間程ベッドでゴロゴロしながらして精神の落ち着きを取り戻した俺は立ち上がる。


「はぁ~、行きたく無いけど、王子様の所に様子見に行ってみるか。」


 今回の問題の終結はそこに掛かっている。


 ならば俺がこうして依頼を完遂した事を報告しに行く事も含めてどの様な結果になったかを確認しに行かねばならないだろう。


 重い足取りではあったが俺はワープゲートを使って王子様の執務室に移動した。


 しかしそこには誰もまだ戻っては来てい無い様でもぬけの殻。


 まだ現場の方での諸々の指示出しなどで戻って来てい無いか、もしくはまだ捕り物の真っ最中かもしれない。


 相手に抵抗を受けて戦闘に入り込んで時間が掛かってしまっていると言った事も考えられた。


 ここで俺は二択を考える。この部屋で帰って来るのを待つか、魔力ソナーで状況をさっさと確認して王子様の所に直接見に行くか、である。


 俺からしてみればどちらを選んでもすれ違いなどと言った事にはならないのでどちらを選んでも良いのだけれども。


 もしかしたら王子様が応援を欲している事も考えて移動する事にした。


「俺は甘いんだろうなぁ。結局は見て見ぬフリが出来なくて、それで滑稽な程にせっかちなんだろうな。」


 魔力ソナーを一気に、ソレでいて一瞬で広げる。


 そして感知した王子様の居る場所の近くへとワープゲートを繋げてさっさと移動した。


 これまではいきなり目の前に出現していたけれども今回はそこを抑えた。


 どうやら王子様の周囲には大勢の文官や武官が居たのがその理由だ。


 何時もならばその傍にワープゲートを出して移動していたけれども今回はソレを止めておく。


 ソレを見て俺に対して変な気を起こされない為だ。

 とは言え、もう既に俺の事は王子様の側に仕えている者には周知されているとは思うし、そんな妙な気を起こす者を側には王子様も置いてはいないだろうとは思うが。


 この度の件もあるのでちょっと突飛に現れるのは思い止まった。


 と言うか、俺は一度行った事のある場所にしかワープゲートを繋げられ無いはずだったが、何故かいつの間には今では魔力ソナーで感知した場所にもワープゲートを繋げられる様になっていた。


(便利になるのは良い事だ・・・うん、そう納得して難しい事を考えるのは止めよう・・・)


「まあそれでも俺の姿が現れるとギョッとされるのは頂け無いんだよなぁ。その驚き具合も以前よりちょっとは小さくなっているのが、またねぇ?」


 前に王子様の執務室で見かけた事のある何名かが居たのは分かった。

 その者たちは俺が建物の陰から出て来た所を見て凝視して固まる。


 しかしその時間も短く終わる。慣れたんだろう、俺のこの突然現れると言う行動に。

 そして俺に気付いていなかった王子様に直ぐに合図を送るのは良いが、そこで眉根を顰めるのは止めて欲しい。


「・・・ああ、エンドウ殿でしたか。こちらにやって来たと言う事は、向こうは片付いたと言う事で良いんですね?」


「そっちはどうやら問題が起きたっぽいけど、どうしたんだ?」


 王子様が居るのはどこぞの屋敷の庭。恐らくはここが例の俺を目の敵にしていた元文官の屋敷だろう。


 そいつらは貴族だった様でこの屋敷はデカいし、庭は広い。


 そこで王子様が主要な部下に囲まれて何やら話し合っていたのだ。

 その部下の顔は苦い物だったのでどうにも先行きが怪しいのは直ぐに理解できた。


 元文官、敵はそもそもが二名居たのだ。ここがそのどちらかだとは分かるが、どっちなのか?などと言った事は今問題じゃない。


「随分と手古摺ってるみたいだけど?・・・だからって言ってもどうやら武力衝突にはなっていないみたいだけど?」


 二人いる内の一人でこれ程に時間をグダグダと使っていたらもう片方はどうなっているのか?

 二方面作戦をするのならばソレに必要になる人数はその分で多く必要だし。


 片方が終われば素早くもう一方への応援として兵を派遣すると言った事もするべきで。


「ああ、そうなんですよ。屋敷から出て行った様子は無いと言うのに、その目的の罪人が見つからずに困っています。」


「隠し部屋に居るか、隠し通路から逃げたとかでは?」


「その点の調査が終わってからのこの突入作戦だったのです・・・ですが。」


「調査漏れ?いや、もしかしたら当人しか知らない方法が何かしらあって逃げられた?」


「その可能性も考えて今迂闊に動けない状況でして。」


 どうにも面倒な問題が起きていたらしい。


 屋敷は包囲されているのだが、ソレを安易に解消してもう一方の応援に向かわせる事は躊躇われるとの事だ。

 もしその隙をついて罪人に逃げられでもすれば頭が痛くなる。


 この屋敷にもしかしてもう居ないとなったら、ここで屋敷を囲っている意味は無くなっている。

 そうなれば何時までもここで包囲に兵を消費している事も無駄になる。

 そうなったらもう一つの方に応援を差し向けた方が良いに決まっているのだ。


 だけども屋敷やその敷地内にもしまだ居たとすれば?何処か見つからない場所に逃げ込んでいるとすれば?

 包囲を解くと言う選択肢は取る事が出来ない。


 どちらも選び難い、ジレンマと言う事か。


 こういった場合は中間になる答えが妥当と言える。

 議論などせずともその結論に直ぐに辿り着きそうな物であるが。


「・・・またこのパターンなのね。俺がやれば良いんでしょ?やれば・・・あ、追加料金ね、コレ。」


 俺のこの申し出に何名かが眉根を顰めた。何やら思う所のある様子である。


 しかしコレに王子様が無言で手を上げて諫めた。

 ソレに対してその者たちは口を開きかけていたのを止めている。


「・・・ねえ?王子様?もしかして俺がそいつらを逃がしたんじゃ無いかって疑われた?」


「・・・ソレは分かっても口には出さないでくださいよ。折角私が今止めたんですから・・・」


 ここで俺が自作自演をしたのではないかと、その者たちに疑われた様だった。


 それを指摘されて俺が機嫌を悪くしない様にと王子様は直ぐにそこを察してその部下たちを止めたのだ。


「あー、悪いね?確かに配慮が足りて無かったわ。包囲して誰一人として逃がさない様にしてある所にいきなりこの場に居ないハズの奴が現れたら、そりゃそうなるか。」


 疑われてしまうのも当然の事をしたのはこちらだった。


 しかし俺の事をちゃんと分かっている者たちにはそこら辺の疑惑は持たれなかった模様。


 以前に顔を見た事のあるその者たちには俺がいきなり現れる事は既に承知であるから。


 それにしても少し考えれば分かるはずなのに何故俺は疑われ無ければならないのか?

 俺がそもそも今回の件の被害者である。加害者を庇ったり匿ったり逃がしたりする理由が一切無い。


 ちょっかい掛けて来る奴をどうにかして欲しいと前から王子様に頼んでいたのは俺で。

 その話がこの度この様になったのは御国の事情などが絡んだからだとしてもだ。


 この捕り物の切っ掛け、全容、事情と言うヤツをここに集まっている者たちは知っているはずでは無いのだろうか?

 俺の事を知らない何てどんなモグリ?と王子様に文句を付けたい気分にちょっとなる。作戦概要は?説明はどうなった?と言いたい。


 王子様を囲っている者たちは優秀な人材で、俺の事もしっかりと調査して認識していたのではないのか?


「あー、先に全部終わらせちゃって良いか?それじゃあ、探すけど、大丈夫か?」


 気にし始めるとモンモンとした気分になりそうだったのでそこは気持ちを切り替える。

 今はやる事やってさっさと現状を変えるべきだ。


「はい、気にしないでください。報酬は後で充分な額を用意しておきますので。お願いします。」


 王子様からは言質を取ったので直ぐに俺は魔力ソナーを広げて屋敷とその敷地を全て詳しく調べ上げた。


 ちゃんと地下までしっかりと探ったので間違いない。


「・・・居ないな。屋敷にはまだ捜索してる者たちが残ってるだけだ。」


「え?それは本当ですか?・・・いえ、そうですね、嘘では無いのでしょう・・・はぁ~、面倒な事になって来ました。因みに、隠された通路などがあってそこから逃走をしたと言った感じでしょうか?」


「そんなの無いな。王子様、もしかして・・・単純に騙されたんじゃねーか?」


 俺が否定をする言葉を口にする者だから王子様がここでキョトンとした顔になった。


「派閥を作って無かったかアイツら?そこから情報が流れていたとかは?事前に襲撃されると分かっていて屋敷に戻る奴はいないだろ?もし臆病な所やら勘が良い所を持っていたりしたら、僅かな情報でも自身の身の安全やらを考えて策を弄してさっさと逃げ出してても可笑しく無いだろうからな。影武者なんかを立てて屋敷に向かわせて、あたかもそこに居るかの様に偽装されたとか考えられ無いか?」


 俺の言葉に王子様が物凄く渋い顔に変わる。そして。


「・・・至急巡回の数を増やせ。今ここに居る兵たちも使って、もう一方の方も包囲を解いてその分も導入しろ。直ぐに動け。」


 静かに、かつ、多少の怒りの籠もった王子様の指示に部下たちは「え?」と言った表情に全員変わる。


 だけども王子様がもう一度、一言一句変わらない命令を、同じ声の調子で出すと慌てて一人の年配の武官が動き始めた。


 しかし文官の中には数名、この判断に難を示す様な顔になっている者も居た。


 多分ソレは俺の言葉が信用できないと思っている者たちなのだろう。


 武官たちは全員が今はもう動き出して兵の再編をしに別の場所へと集まっていた。


 王子様の周囲に残ったのは文官数名のみ。


 その文句のありそうな者たちだけが王子様の側に居る。


 既に離れて行った文官たちは王子様の命令の正式な事務的処理を行う為に向かったのだと思われる。


「エンドウ殿、ご協力に感謝します。後ほどに報酬の件の話はさせて頂きたいと思います。」


 王子様がそんな風に俺の仕事の終わりを告げて来る。

 だけども俺はここで「はいさようなら」とは言わない。

 人情と言うモノがある。


「町の全域を調べても良いぞ?捕まえるならさっさとやっちまおう。」


「いえ、ソレは止めてください。もうこれ以上エンドウ殿の助力を受けるのは支障がでます。」


 かなりの真剣さで王子様にそう断られてしまった。

 ここまでマジな顔して言われてしまうと俺も引き下がるしかない。


 だって支障が出るとまで言われてしまったのだ。

 これで俺が出しゃばった真似をしてしまえば本当に何かしらの悪い部分が生まれてしまうのだろう。


 俺はこの王子様の判断を素直に受け止めてここは下がる事にした。


「んじゃ、また何か手に負えない事があったら力になれば良いか?それじゃあ俺は今日の所は帰るな。」


 そう伝えて俺はそのまま歩いてこの屋敷の敷地外へと出た。


 ワープゲートで去ろうとすると恐らくだがこの場に残っている文官たちに良い印象を残さないだろうと感じたからだ。

 俺へと敵対すると行かないまでも、どうにも胡散臭いと思われていそうだから。


 その文官たちは恐らくは俺の力の恐ろしさは知っているのかもしれないけれども、万能な所は多分知らないのだと思われた。


 だから俺がこの屋敷に例の罪人が居ない事を口にした時に信用しなかったのだと思われる。


 まあそう言った者たちの事など気にせずにそのまま散歩気分で道を進む。何処に繋がっているかも知らない道をずっと。


 迷子になってもその時はワープゲートで好きな場所に移動できるので呑気なモノである。


「一応は家に戻らずに今日の所だけは何処かに宿を取ってそこで待機するか?」


 もし王子様が途中で俺の力添えが必要だと判断した場合に直ぐに連絡が取れる様にしておくべきだろうと思ったのだ。

 本当にコレは偶々、気まぐれで思いついた事だ。

 これまでの俺だったらそんな気遣いを思いつく事も無く魔改造村の自宅に戻っていただろう。


「うーん、訓練校の件が無かったら別に気にもしないで戻ってただろうなぁ。今回のは色々とちょっかいを掛けられた回数が多かったし?最後までしっかりと見届けないと、何て思う所が強いんだよなぁ。」


 やっと元凶と言える者たちが捕まりそうなのだ。しっかりとその点を確認してから気を抜きたい。


 だったらさっさと終わりにする為に無理やりにでも王子様に協力すれば良いじゃん、などと考える所もあるが。

 しかしその様な介入をしても良い影響が無いだろうとも思っている。


 これから先にもこの国では何かと問題が起きるだろうけども、ソレに毎度の事、俺が首を突っ込む訳でも無い。

 国は国の力で問題を解決しないとダメだ。俺の力を頼りにして物事を見てしまうと途端に油断が生まれてそこから組織は腐るだろう。


 どんな事にも俺の力を利用しようとしてきては、あれよあれよと国は自力を失っていく事に繋がる。


「王子様はそこら辺を弁えてるだろうけどな。でも、その側近の中には楽して得しようとする馬鹿も現れるかもしれんしな。そこはまあ、悪い事じゃ無いだろうが。」


 苦労せずして結果を得られるのならばソレは一番良い。


 けれどもそんな事が続けばソレに慣れてしまって努力を忘れ、自分の都合の良いモノばかりしか見ない様になる。


「そこはまあ、俺の知ったこっちゃ無いか。つまらん事を考えながら散歩なんてするもんじゃ無いな。」


 考え事をしながら歩いていれば何時の間にか俺は狭い路地に入り込んでいた。人気は周囲に全く無い。


 ここで俺はワープゲートを出してクスイの家の裏庭に移動した。


 この行為は俺に対して尾行が付いていた場合に有効である。


 俺の事をどんな理由で付け狙っていようがそんな尾行などと言う真似をされて良い気分になるはずも無い。


 まあそんなモノは後付けの理由だ。今は只単に面白そうな物も無さそうな路地に入ってしまったからワープゲートを出してさっさと迷子から脱出したに過ぎない。


(誰が俺を尾行するのかって話だしな?今さっきも俺を付け狙って後を追っていた奴が居たみたいだけど、失敗の報告ご苦労さん)


 王子様の方の捕縛作戦の方がこの様に上手く行っていないせいでちょっと俺の神経は尖っている。

 今日の内に全てが終わるだろうと思っていたらどうにも引き延ばしになってしまう展開になって少々モヤモヤしてしまっていた様で。


(気まぐれに魔力ソナーを広げたら居るんだもんなぁ。俺の何の用件があって尾行してたんだかね?)


 そんな過ぎた事を思いながらクスイの店の裏口から中へと入らせて貰う。


 余りにも不躾で勝手な行為だが、俺とクスイの仲である。

 それと俺が勝手に入ってもクスイもその娘のミルも今更にソレを咎めて来たりはしない。


「あ、エンドウさん。久しぶりですね。今日はどんなご用事で?」


「ああ、別に用事って程の事も無いんだけど。最近どう?世間話をしに来たよ。クスイはどうしてる?」


「ええ、父はここ最近はずっと食事をする時と寝る時以外は動きっぱなしですね。」


 苦笑いをしつつミルはそう父親の近況を説明してくれる。


「あー、何時もいつもすまないね。俺が巻き込んじゃったせいだソレ。苦労を掛けちゃってるなあ。」


「いえいえ、喜ばしい事ですよ。私も今じゃこの店を任された事をしっかりと受け止めてますからね。父は物凄く楽しそう・・・いえ、何だか最近は何か企んでいるんじゃ無いかって思う様な悪どい顔になったりしてる所を偶に見かけますけど、忙しくても体長は崩す様な事も無く充実した毎日を送ってますから。その手伝いが出来ていると思うと親孝行できてるなって。」


 ミルはそう言って笑顔を見せてくれるけれども。


「いや、クスイ、何を企んでるんだ・・・?ちょっと怖くなって来た。」


 俺はミルのこの言葉にちょっと苦笑い、と言うか微かな恐怖を感じる。


 とは言え、クスイが俺に対して害意を持って仕事をしている訳では無いんだろう。そこだけは分かる。


 そうして暫く雑談を交わして時間が経過する。


「それじゃあここら辺でお暇するよ。」


「いつもいつも突然に来られるので何のお構いも出来ず。」


「いやいや、こうして情報を貰っているから、こっちが土産の一つも持ってこないでお邪魔しちゃって悪く思ってるよ。あ、この町で一番良い宿って何処にあるか知らない?」


「え?宿ですか?えー・・・そうですね。店から出て大通りに入って暫く進んで右手側に「竜の寝床」と言う名の宿がありますからそこですかね?」


 こうして俺はミルから場所を教えて貰った後に店を出た。


 もちろんこれは今日、もしくは明日と言った具合で王子様からの救援要請があった場合に連絡が付け易い様にする為の処置だ。


 どうせなら高級宿に泊まって預金の中身をほんの少しでも減らす事も目的である。


(今どれくらい金額減ったのかなあ・・・まさか、寧ろ逆に増えてたりしないよな?相当使ったはずなんだが・・・)


 今も訓練校の経営維持に金額は減っているはずなのだ。

 そうでなくても最低でも増えもせず、減りもせずと言った形になっているはずである。


 一抹の不安を覚えつつも俺は教えて貰った宿に到着する。

 もちろん歩いて向かった。俺の事は多くの通行人が目撃しているので探そうと思えば直ぐに俺の事は見つけられるはずだ。


 これで王子様も何かと連絡を付け易くなったと思う。


 宿へと入れば別段何かと俺の見た目で猜疑の目を持たれると言った事も無くチェックインが済む。


 寧ろ宿のスタッフたちは俺の事を何故か知っている感じでの対応をして来たので逆に俺の方がコレに気味悪がってしまった程だ。


(え?何で?いや、まあ、スムーズにやり取りが出来たから別に良いけど)


 王子様の方の事案がどれだけの日数が掛かって終わりを迎えるのかは分からない。


 けれども最低でも今日と明日まではこの宿に留まろうと思っている俺としてはこの宿のスタッフの態度に思う所も無くは無いけども。


 こういった事は気にしない方が精神衛生上良い。聞くのは野暮だ。


 こうして部屋に入った俺はソファーに深く座って大きく一つ深呼吸した。


 ここで別に特段やる事も無い。


「この件が落ち着いたら次は何を・・・おっと、いかんいかん。また何かを始めようとする所だった。頭を空っぽにして何も考えない方が良いな。」


 こうした何も無い時間が我慢できない、と言う訳でも無いはずなのに。

 俺は「次に何をしようか?」などと考え始める事が多い。


 とりあえずはまだ事は全て終わってはいないのだからと思って、俺は今回のこれまでの訓練校の事で反省すべき点が無いかどうかを振り返った。


「うん、何もかもが駄目だな、こりゃ。全部思い付きで始まって、魔法って言う力技で何時も全て押し通してる。毎度の事に同じ事の繰り返しだな・・・好い加減何とかできないかな・・・」


 思い付いた瞬間、そしてその後にその思い付きを進めている間、俺はそれらを楽しんで実行している。


 けれどもこうしていざその事を改めて思い出せば「お前、何してくれちゃってんの?」と言いたくなるような、と言うか、実際にそう言われても仕方が無い、無理やりな方法で全てを終わらせている。


 また何かを思いついた際にはきっと同じ様に魔法の力を思う存分に振るって物事を強引に進めて行くに違いない。


「開き直るのは少し躊躇われるし、かと言って傲慢に振舞って敵を作りたい訳じゃ無いんだがなぁ。」


 傍から見たら俺はどんな存在として映っているのだろうか?その点を今さらながら気にしてみる。


 けれどもこんな事は人それぞれ、千差万別に感想を抱くモノだ。


 一方では善行をしていると捉えて、もう一方では余計な真似をしていると見られる事もあろう。


 俺のやっている事が万人に受け入れられるとしても、陰では何を言われているか分かったモノでは無いのだ。


 全てに文句を言われない行動などありはしない。


 ソレを思ってようやっと俺の気持ちは落ち着いた。


 下らない事を考えたな、などと言った感想も滲み出てきてはいたけれども、ソレをグッと呑み込む。


「そうだな、暫く顔を見せて無かった知り合いの所を巡ってみるのも悪く無いか。何をする、アレするコレするから離れてみるのが大事か?また新たな景色を見たい、観光したい、とか考えて他の土地に行くと何かのトラブルやらイベント事に毎回であってるしな・・・」


 思い出してみればキリが無い。何処に行っても何かしらの問題事が目に入って来るのだ。

 それらを放置してしまうのも忍びないと言った感じで大抵はそう言った件に首を毎度突っ込んでいる。


「コレはもう、あれだ、病気だな。そう思った方が心の安寧にも良い。」


 持病を抱えていると、そんな風に思うのは嫌ではある。


 けれどもどうしたって今の所は百パーと言って良いくらいには何かと世の中をお騒がせしてしまっている俺である。


 その全てが全て俺のせいと言うモノでは無いのだが。


 そんな風に思っていないとやっていられない所もあるだろう。


 困っている人が居て、ソレを助けられる力を持っているのにソレを無視するのは心無い外道のやる事だ。俺は外道に落ちる気は毛頭無い。


 だからと言って全てを救う聖人などと言ったモノにもなる気は無い。

 俺はこの世界で自由に生きて生きたいのだ。


 地位やら名誉やらを他者から付けられたとして、その名に縛られる気も一切無い。


「だから俺の事を賢者様とか言ってくるのは止めて欲しいんだよなぁ。」


 けれども何故かその呟きの後に俺はピンと来た。


「今回のコレも、絶対にその呼び名が向けられる様な業績じゃ無いか?・・・うわッ・・・俺って自分から自分を追い詰めてるじゃねーか・・・」


 訓練校を開校した事、その点がまたも俺を世間の者が賢者呼ばわりしてくる切っ掛けになる事を今さらに気づいて俺は頭を抱えた。

15日、16日、連続投稿

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