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嫌がらせやら、妨害やら

 野盗の襲撃から三日経つが、あれからは何らのトラブルなども無く順調だ。

 とは言え、何時また襲って来る奴らが出て来るか分かったモノでは無い。


 一応は王子様には監視と牽制といった圧力を掛けて相手の動きを抑制して貰っている所ではあるが。


「・・・何で道に男の人が倒れてるの?」


 あの襲撃以来、俺は馬車に同乗して警護の役をしている。


 野盗が二十人も三十人も出て来られては馬車に付けている護衛の数が余りにも足りないから。


 なので護衛のローテーションを組み直して人数を増やしているのだ。


 馬車は日に二回、或いは三回往復する。

 その内の一回を俺一人での護衛で済ませ、残り一回、或いは二回を雇った冒険者の護衛で回して貰う事になった。

 護衛に付く人数をその分増やして人数の面での防衛力を上げての対応をしている。


 そんな時に丁度、訓練校から町に戻る際の通行で「専用道路」にどうにも人が道に臥せっているのだからおかしな話である。


「通行の邪魔なんだよね。絶対にこれ、面倒なやつじゃんね。」


 妨害、真っ先にその可能性を疑う。


 だってこの道は既に周知が済んでいて関係者以外立ち入り禁止に、通行禁止になっているのだ。


 訓練校に向かう際にはこの「行き倒れ」は居なかった。


 なので帰る時になってこうして倒れているのは怪し過ぎるのだ。


 確かにこの道路は周囲には何らの進入禁止にする為の策などは設置していない。


 だから余計に怪しいのだ。無関係の者が他の外部からこの道路にやって来る意味も、用事も無いはずだからである。


「うん、悪いけど、勝手に排除させて貰うとしよう。」


 俺はその「行き倒れ」に魔力ソナーを当てて調べる。その後は「魔力固め」を掛けて操って立ち上がらせた。


「・・・気絶してる訳じゃ無いとかね・・・バレないと思ったんだろうなぁ。騙そうとして何が目的なんだか。それじゃあ・・・サヨナラだ。」


 魔力ソナーで先ず相手の状態を確かめたのだが「気絶したフリ」で倒れていた事が判明。

 その他にも何かしらの身体の異常があって倒れているかもしれないと魔力ソナーで探ったが、別段何処にも異常は発見できずのその可能性は無くなった。


 俺が助け様として馬車から降り、近づいた所で相手が何をしてこようとしていたのかは分からない。

 きっとロクでも無い事なのだろうとは思うが。


 だってこちらを「フリ」で騙そうとして来ている奴なのだ。まともじゃ無いのがその時点でバレバレだ。


 コレがもし本当に気分が悪くて倒れているのだとしても関係無い。


 こんな所まで無関係な者がやって来て道途中で倒れた何て言われても、ソレは只の「不法侵入者」として排除である。助ける義理は無い。


 ソレは何故かと言えば、だってこの道は馬車での専用道路であり、徒歩での通行をしない様に注意喚起が既に周知されているからだ。


 この道路の前にはデカい注意看板を立ててあるし、専用に守衛さんを置いているからこんな所にまで入り込んで来る者は皆無である。偶然は無い。


 そして俺はこの倒れている男の顔を知らない。

 関係者の人相は一通り覚えている。この「行き倒れ」の顔はこれまでに一度だって見た事は無い。


 訓練校に用事があるのなら正規のルートで手続きをしてこの運搬馬車に乗り合いをして入る事になっている。


 この時点でもうこの男の排除が決まったも同然なのだ。


 ルールを守っていない相手に対して容赦はしない。独断と偏見により、排除対象である。

 相手をして欲しくば真っ当な手続きを取れ、そういう事である。


 俺はその「行き倒れ」を空高く上昇させる。


「俺の魔法を甘く見たのかね?それとも、知らなかった?何にせよ、こういうのは深く関わらない、かつ、無情に捨て去るのが一番良いよな。」


 既に遥か上空に浮き上がっている「行き倒れ」の彼は今どんな気持ちで居るだろうか?


「うん、もうそろそろ良いかな?ここから反対側の町の門前に下ろせば良いか。」


 この体験はきっと「行き倒れ」の彼に感動を与えたに違いない。そう思っておく。


 こちらの世界ではあり得ない貴重な体験をさせてあげたのだ。感謝して欲しいものである。


 まあ、バンジージャンプどころの話では無く、パラシュート無しの超高高度からの落下体験だ。非常にいい経験と思って貰おう。


「二度と味わいたく無いと思って今後一切近づいて来ないでくれたら、成果は上々だな。」


 後は依頼人などが居たり、或いは命令を出している者が居たとするならば、そいつに文句でもぶつけてくれれば笑い話だ。


 今後も何かとあれば容赦無く魔法を駆使して対応していく所存である。


 後にどれ位の頻度でこの様な「嫌がらせ」が起きるかは分からないけれども。

 取り合えずこの様につまらない妨害をして来る相手側が根を上げるのは何時になるのか楽しみにしながら町へと戻った。


 ===   ====  ===


 俺の護衛の日々はその後も続いた。あの「行き倒れ」の件から七日が経過している。


 この件は直ぐに関係者全員に周知して警戒を強める様にミーティングを開催していた。


 護衛たちの数は八人から十人程度と増やしている状況は続いている。

 コレだけ居れば流石に相手側も被害を気にしたのか、襲撃などの気配は無くなった。


 その代わりと言っては何だが、また「行き倒れ」が発見されたと言うので俺がその現場にやって来ている。


「・・・うん、接触せずに遠くに待機してくれていて正解だね。今度は女性なんだな。男が倒れてるよりも、女が倒れていた方がこちらの警戒を下げられると思ったんだろうなぁ。」


 触らぬ神に祟り無し、その様な方針を徹底した事に因って護衛たちはこの「行き倒れ」に対して接近をせずに発見次第に俺に連絡を寄越して来たのだ。


 この女性を助けて面倒な事になったらその対処に時間をより一層に食うと言った判断の下で俺をさっさと呼び出したそうだ。


「・・・馬鹿の一つ覚えなのかな?また意識が無いフリか。俺が魔法で相手の詳細な情報を得られるってのは・・・相手は知らなくて当然か。」


 魔力ソナーで早速相手の状態を確かめたけれども、やはりまたしても「フリ」だった。


 何でこの様な接触方法を選んでこちらに絡もうとして来るのかの発想が分からない。


 遠くから見たら確かに道に倒れていて意識があるのか無いのかは近づいて声を掛けて確かめて見るしかない、のが普通だろうけども。


 俺はその「普通」じゃ無い。遠くから確かめる術を持っている。コレは俺の事を良く知る者にしか分からない事だからしょうがないのかもしれないが。


 訓練校の事は既に町の中にはかなりの情報が出回っている。

 と言うかクスイとサンネルが宣伝をしてそこら辺の詳細なども公開されていたりするので調べればかなりの情報は得られるはずだ。


 そしてこの専用道路も、訓練校周囲の土地の件なども、そこら辺は一般人に調べろと言っても難しいかもしれないけれども、その筋の情報屋とか言った専門をしている者であれば直ぐに集められるモノだ。


 この様な場所に「行き倒れ」が居て良いはずが無い、その点を全く無視しているのは何故なのか?

 良く考えなくても分かりそうな事なのに。ましてや一般人がこの道でこの様にして倒れている様な事はあり得るはずが無いのだ。


 何処からか流れて来てここへと辿り着いたとしても、その途中でこの様にして力尽きて倒れたとしても。


 じゃあ何で気絶して意識が無い「フリ」をしていなければならないのか?と言った問題が残るのだ。


 その違和を無視してこの様に「行き倒れ」を装ってこちらに接触して来ようとしてくるのは不自然過ぎる。

 しかもコレで二回目だ。


 誰もそこらへんを注意したり、気づいたりした者が居ないのだろうか?

 どの様な方法を採れば問題を起こせるか?と言った話し合いをしていないのだろうか?

 何で全く前と同じ方法を採用しているのか?


 ここで疑問が浮かぶ。


 前回の「行き倒れ」はどうなったのか?俺はその男を殺した覚えは無い。

 地面に衝突の1m前で急ブレーキを掛けて停止させてその後はゆっくりと地上に下ろしてやっていたはずなのである。死んではいない。

 まあそのココロの方が死んでしまったかもしれないけれども。

 その男がその後にどうなったかは知らない。地面に下ろした後は魔法を解除して自由にさせたからだ。


 そいつは命令を出した、或いは依頼をして来た人物の元に戻ってその件の報告を行わなかったのだろうか?


「同じ対処をしたらまた三回目も同様の手口を仕掛けて来るのか?・・・そうなったらソレはソレで笑うなぁ。」


 この「行き倒れ」は十中八九、嫌がらせ、妨害の類だろう。

 そしてその大元は例のクビになったあの文官たち。


 王子様の言う事にはその二名はどうにも俺を逆恨みしていると言う事だったので、これは多分間違っていない。


 野盗が襲って来たあの件も間違い無くその二人の仕業だろう。

 まあそう言った証拠や証言が出たと言った情報はこれまでにこちらへと報告されてはいないのだけれども。


「さて、じゃあ一声かけて様子を見てみるか。どんな事を企んでこんな頭の悪い方法を採ったのか、そこら辺を聞いてみたいしな。」


 この様な手口を使ってどんな問題を起こそうと企んでいたのか?ソレを聞いてみる気になった。

 俺は「魔力固め」でその女を操って立ち上がらせて道から外れた場所へと移動させる。


「じゃあ馬車を先へと進めてくれ。遅れちゃったけど速度は別に急がなくて良い。ゆっくりと安全は守って運送を再開してくれ。」


 そう俺が伝えれば馬車は再び走り始める。

 御者も慣れたもので俺を気にせずに馬車を走らせ始めた。


 護衛たちもコレに付いて行く。

 馬車の荷台に乗り込んでいるのが三名、馬車の周囲を警戒しつつ付いて行く者が六名の厳戒態勢だ。


 暫くソレを見送った俺は再び女へと視線を向け直す。


「さあ、お話をしようか?色々と聞きたい事ばっかりで好い加減なにから質問して行けば良いのかと言ったトコはあるけど、まあそれはコッチの問題だよな。ツッコミ所は沢山だから、時間の許す限り話そうよ。」


 俺はまだ魔力固めを解除していないのでその女の顔は無表情だ。

 なのでそこで顔の部分だけは魔法を解除してやる。


 するとその女の顔は盛大に引き攣った。まるで信じ難い、考えたく無い事にでも出会ったかの様に。


 呼吸も出来る様にしてあるし、この状態なら女は喋る事はできる。けれどもどうやら俺とは話す事など無いのか、ずっと黙ってしまったままに。


「おーい?何か言いたい事は無いのか?・・・そんなにビビら無くても良いじゃないか。俺は何の事情も理由も無しに人に危害を加える様な狂人や悪党じゃないぜ?それと、女を甚振って楽しむ趣味は持って無い。」


 そこまで言っても、どうにも俺を警戒し続けて女は何も発しない。


「はぁ~、じゃあ、ソレで良いや。質問を幾つかするから、答えられる事だけで良い。首を縦か横に振って返答としてくれ。何も答える気が無い場合は黙って動かずに居れば良いからさ。」


 そして先ずは俺は「ジャブ」として女の名前を聞いてみたのだが。


 これには何も答えてくれない。まあ当然だ。例え偽名だとしても向こうは名乗る気も無いらしいのは分かっていた。

 だってこの様な状態で名乗る意味など無い。女はソレを解っているんだろう。


 ならばと直ぐに切り替えて俺は次の質問をしてみた。

 単独行動か?仲間が居るのか?である。


 だけどもコレにも反応してくれないのでちょっと面倒になってしまう。

 とは言え、二つ目に聞いてみる質問としては「ストレート」過ぎたとは思う。


 だけどもこの場で完全に立場が遥かに上の俺が、相手の立場や気持ちを慮る事をするのが面倒だった。


「なあ?七日前にこっちの門の反対側の方に突然に空から人が降って来た、何て事は無かったか?そいつは何も言わなかったの?それともそいつは聞いても何も教えちゃくれなかった?そいつはその日に君と同じ様にこの道で「行き倒れ」になっていた男なんだけども。」


 俺の説明に今さっきまで盛大に引き攣っていた顔をまるで苦虫でも思い切り嚙み潰してしまった様な顔に女は変えた。


 やっと反応があって俺はソレを切っ掛けにより踏み込んだ質問をしようと口を開きかけたのだが。


「あ、あ、あのヤロォ!情報の引継ぎをせずに姿を眩ましやがってェ!根性無しの玉無しガァァァァァ!」


 突然の怒りの咆哮。流石にこれには俺もビックリして仰け反らずにはいられ無かった。


 どうにも前回の「行き倒れ」は報連相を完全にほっぽって逃げ出したらしい。どうやらこの女とは仲間だった様だ。

 ソレで情報のやり取りがされずにどうやら同じ方法を採る事でもう一度様子の確認をすると言った流れになったのだろうと予想される。


「糞ったれのヘナチン野郎ぉぉぉぉ!何でテメエのせいで私がこんな目に遭わなくちゃならねえんだボケがぁぁぁ!」


 この女、どうやら相当に気性が荒い、激しいらしい。

 どうにもまだまだ気が治まらないらしく、罵詈雑言を吐き続けた。


 暫くしても何時までも収まる気配が無く、そのままでは流石にうるさいので振動を遮断する魔法のバリアを張って対処した。


 そうしてかなりの時間が経過した後に呼吸を整え始めた女の様子を確認してから防音の魔法を解除する。


「で、君は何処の誰に、どの様な内容の依頼?命令?を受けてこんな下らない芝居を?」


 落ち着いたと思って質問を再び再開したけれども、また女は黙秘してしまったので話が進まない。


 どうやら意地がある様だ。確かにまあ、容易に黒幕の正体をバラしてしまう何て事をしないのは当たり前か。


「こんな化物相手だって最初っから判ってたらこんな依頼受けなかったのによ・・・」


 と思えば、そんな言葉を漏らした女はジッと俺の顔を睨んできた。

 なので俺はそれに言い返す。


「いきなり化物呼ばわりは失礼じゃ無いか?・・・いや、そうでも無いか。他から見れば確かに俺は化物なんだろうけどなぁ?それでも、もうちょっと良く考えて物を言った方が良いぞ次からは。今の自分の置かれている状況も、立場も、理解できてるか?俺の機嫌を損ねるかもしれない様な発言は何も得にはならんよ?迂闊にも自分の首を絞める様な事を言うのは止めておいた方が身のためだぞ?」


「はっ!笑わせるね。どうせ死ぬんだったら相手を幾らでも不愉快にさせて「ざまあみろ」って言って笑って殺されてやるっての。」


「いや、殺す気無いんだが?」


「・・・は?」


 この「殺す気なんて無い」宣言に女の顔は俺が「魔力固め」を掛けていないのにも関わらず硬直してピクリとも動かなくなった。間抜けな表情で。


「何を勘違いしているかは知らんし、そっちが勝手に思い込んでるだけだね。別に今の所で重大な被害なんて受けて無いから殺すまでの事はしないよ。まあ、こうして尋問はするけど。用が済めば解放しても良いさ。その場合は君がどれ程にこっちが知りたい情報を吐き出したかで、解放する際の刑の重さは軽くなるよ?どうする?」


 何も教える気など無く黙っているだけなら仲間の男と同じ目に遭って貰うだけだ。

 少しでも情報を吐いてくれたならば、それよりも少しくらいは手心を加えて放流してやるつもりでいる。


「裏に居る奴は誰?・・・言う気は無い?なら、そうだなー?俺が素直に倒れていた君に声を掛けて接近していたら、その後はどの様に動くつもりだったの?・・・ソレも言う気は無い?」


 ずっと黙ったままの女。どうやら何も喋る気は無いらしい。


「君を衛兵に突き出す事になれば、拷問を受ける可能性も発生する。痛い思いはしたくは無いだろ?素直に教えてくれればそんな事にならずに済むよ?」


 俺は少々脅しを掛けてみたけれども、ウンともスンとも言わない女。こっちをジッと睨み続けて来るだけ。


「しょうがないね。何も言う気が無いのならばこれ以上は拘束しない。約束の通りに解放しよう。けど、覚悟はしておいてくれよ?俺はちゃんと説明したからな?」


 男女平等。俺は女をそのまま魔法で一気に空高くへと打ち上げる。


「前回やった対処と同じ方法を採る。さて、後悔はしてるかな?どうだろうな?」


 少しでも情報を吐いてくれていれば、この様な事はしなかった。


 女は今どの様な気持ちで居るだろうか?今頃は墜落の最中だろう。


 地表へと落下する途中に恐怖で気絶していたりしているかもしれない。


 後の祭り、後悔先に立たず。女はそんな言葉を知らないだろう。此処は日本じゃ無い。異世界だ。


「バイバイ、もう二度と会う事は無いんだろうな。」


 こうして二度目の「行き倒れ」を解決した後はワープゲートで訓練校へと移動した。


 今回の事も一応は情報共有をしておかねばと思って師匠の所に向かう。


 師匠はこの学校の初代校長ではあるが、そのやっている事は別に御大層なモノでは無い。

 一教師として魔法の授業を開いている。


 そこで生徒を教育し、一人前と言われる腕前になったらここで雇う計画なのだ。

 この訓練校を営んで行く上で色々と魔法使いが必要な部分もある。


 廃棄物処理の為に炎を扱える魔法使いとか、或いは上水の為に水を生み出す事の出来る魔法使いとか。


 後は下水の浄化なども出来る者が居た方が良いのだが、そこら辺まで魔法を自在に扱える者はもっと後になってしまうだろうが。


 そう言った部分を現在では師匠一人で賄っている。それを解消する為にこうして魔法使い育成をしている訳で。


「で、師匠、忙しいです?」


「見て判らんか?」


「じゃあ手短に。また行き倒れが居ましたけど、捕まえて情報を吐かせたかったんですが頑なに拒否されたので「お仕置き」で解放しました。」


「そうか。そいつは哀れだな。その「行き倒れ」の方が。吐けば楽だったものを。」


 今、師匠は執務室で書類にハンコを押す仕事をしている。

 その書類の内容の精査はもうクスイとサンネルがやってあるモノであり、後は只「校長」の承認を得るだけのものである。


 ハンコを押して行くだけの簡単なお仕事だ。


 けれども師匠はその書類内容をちゃんと読んでからハンコを押している。


 まあその速度はかなりの早さだけども。


 師匠も魔法を使いこなせて来ている。俺程とは言え無いけれども。


「以前に聞いたが、確かエンドウから金を巻き上げ様とした文官たち、だったか?お前の力なら潰す事など簡単だろう?それこそ徹底的に跡形も無く消し飛ばすなんて事も出来るのだからな。手っ取り早くやってしまわないのか?」


 師匠がそんな質問を俺に飛ばして来たので答えを返す。


「一応は王子様に対処して貰う様には言ってあるんだけどね。それ待ちかなぁ?向こうが本当に「馬鹿な真似」をしてこない限りは王子様に任せるよ。そうじゃ無いと、何でもカンでも俺が力づくで事を解決するのを期待されても困るしな。」


 この国の問題なのだ。ならば王子様にできるだけその手綱を握って制御をして貰いたい。


「そうか。まあ、私の予想としては最終的にエンドウが暴れて滅茶苦茶にして終わるんじゃないかと思っているが。」


「え?それ失礼で酷過ぎません?俺の事なんだと思ってるんです?」


「エンドウこそ、これまでにお前がやらかして来た事を思い出して反省するべきでは無いのか?」


 師匠からそんな返しをされて俺は何も言い返せ無かった。自覚があったから。


「まあ、イイデス。それじゃあどうします?今後もこんな嫌がらせが続いて、もっとそれが過剰になっていくと思いますけど。それに対する校長としての対応は?」


「・・・放っておけば良い、と言うのは、まあ、ダメなのだろうな。しかしこの学校の権威などまだまだ出来上がったばかりで無いも同然なのだ。反撃が出来る様な状態では無いしな。泣き寝入りしか出来ない現状だ。何もできん、と言うのが正確だな。まあ、エンドウが我慢ならなくなった時が終わりだろうよ。」


 この件は師匠にとっては俺の「堪忍袋の緒が切れるまで」だと認識している様子だ。


「俺に丸投げですか。まあ、それくらいは受け止めないとならないですかね。普段俺も周りの助けてくれる人たちに丸投げしてるからなぁ。此処は俺が辛抱する時かぁ。」


 と言う訳でその場その場の行き当たりばったりな対処をこれからもすると言う事になった。


 これには俺は内心で王子様に「早めに解決して欲しい」と願うばかりだ。


 俺が暴れるとド派手な事になる。その事にこれまで毎度に王子様が眉根を顰めている。

 そうならない様にしたいならば王子様が早めに頑張って取締りをしてこの嫌がらせを止めるしかないのである。


 そうして翌日。今日は訓練校には珍しく馬車での物資運搬が休日だった。


 クスイが言うには少々張りきり過ぎたと言うのだ。

 スタートダッシュをする為に少々無理を通していたのだそうで。

 そこら辺の事情を全く把握していないのでクスイがそう判断をするのだと言うのであればそれに俺は従う。


 そういう事で本日の護衛の仕事は全面的に無し、休息日となった。


 とは言え、そんなのお構いなしと言った感じで俺の所に連絡員が来た。


「・・・えーっと、訓練校に向かう馬車専用道路へと入り込もうとしている集団を抑え込んでる?」


「はい、五人組の男たちでして。力づくで無理やり侵入しようとしているのをこちらは偶々その場に居合わせた護衛を入れて十名で押し止めているんですけど・・・」


「あー、直ぐに行くよ。それじゃあ。」


 俺は連絡員の前でワープゲートを出して移動を開始。

 今はどうやら少々急いだ方が良い場面と判断したのでワープゲートを隠さずお披露目してしまった。口止めもしてない。


「けど、まあ、しゃーないだろ。」


 そしてその出た先の視界に入った光景は。


「全く、手古摺らせやがってよー。」

「あー馬鹿らしい。これ、特別手当出るんか?」

「今日はせっかくの珍しい休日だってのに、何なんだこいつら?」

「いきなり走り込んで来て問答無用で突っ切って来ようとしたのを見た時はビックリしたぜ・・・」

「まあ俺たちも良く反射で動いて押し止められたよなぁ・・・」

「途中で短剣を抜かれた時は焦ったけどな。でも、どう考えてもこいつら素人だぞ?何だってんだ一体?」


 どうやら守衛の者が四名、馬車の護衛に雇っていた冒険者が六名でそんな会話を交わしていた。


 地面にはうつ伏せにされて抑え込まれている今回の不審者たちが転がされている。

 既に無力化をされた後らしく、後ろ手に縄で縛られ、足も縛られてと動けなくさせられていた。


「・・・あー、何だかもう終わった感じ?」


「あ、お疲れ様です。・・・アレ?使いを出した時間を計算すると来るの早過ぎませんか?」


「良いじゃん良いじゃんソコは。気にしないで。早い方がこういう時は良いモノでしょ?」


 護衛の一人がそう言って疑問で首を傾げたけれどもソレを俺は誤魔化す。


 どうやらワープゲートで俺が出て来た所は全員見ていなかった様だ。

 それならソレで面倒な説明もせずに済むので話を続けた。


「んで、こいつらは、何?と言っても、捕まえたばっかりでまだ何も聞いちゃいないみたいだな?」


「そうですね。どうします?こいつらこのまま官憲に突き出して終わりにします?」


 一応は私有地に付き関係者以外立ち入り禁止になっている訓練校専用の馬車用道路である。

 この五名を不法侵入者として引き渡す事も可能であるのだが。


「いや、先に一通り尋問をしておこう。ソレで突き出すか、そうで無いかを決めるわ。それじゃあ・・・あら?どいつも失神してる?」


「ですね。どいつも手加減無しに顎をぶっ飛ばして頭揺らしてやったんで。」


「容赦無いね・・・まあ当然の対応だし、的確だな。」


 抵抗してくる者を手っ取り早く大人しくさせる唯一の方法、ソレは気絶させる事である。


 まあその事後処理が多少は面倒な部分があるけれども。


 この不審者どもはどうにも凶器を取り出して暴れようとしたらしいので、この対処は的確だと言えるだろう。


 命大事に、ソレを貫くには相手の無力化が一番である。

 自分の命が誰だって惜しいのだ。相手が凶器などチラつかせて来たのであれば容赦など相手にしてやる義理も無い。


「さて、それじゃあ無理やり起こすか。あ、取り合えず後で君たちには特別手当は出すよ。良くやってくれた。」


 俺のこの言葉でこの場に居る全員がニッコリと笑顔を見せた。

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