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大体の事が済んでしまった

 三十名の若い者たちが師匠の授業を受ける事になった。


 募集を掛けたらそれだけの人数が立候補して来たのでその全てを受け入れた形だ。


 そして師匠との顔合わせも直ぐに終わらせてその後は強引に魔力を感じさせる流れに入った。


 ついでに魔力の操作も最初の一度だけ俺がパパッと体感させて直ぐに準備を整える。


 どうにもこの三十名は俺がここへとスラムから移動させて来た時の魔力で体を操作された感覚をしっかりと覚えていた様だ。

 すんなりと自身の中の魔力を感じ取って誰もが直ぐに魔力の操作をできる様になった。


「コレって資質とか言った表現で良いのかな?こんなにすんなりと行くとは思わなかったんですけど?」


 俺はちょっと予想外と言いたかったが、これに師匠が。


「楽な事は良い事だ。まあ、それが堕落に繋がり易いと言う側面もあるだろうがな。この生徒たちにはそこら辺の心配は要らなさそうだ。」


 只の顔合わせだけに終わると思っていたのだが、その後に師匠が指導を始めてそのまま授業に突入となってしまう。


 一応はここで魔法を使える様になったらこの学校で働いて貰う事は事前に説明してある。

 その仕事とは色々と雑用を押し付ける様な形になる、そんな話をしたのだが、誰もがその点に拒絶を示す様な事も無かった。


 寧ろ逆にヤル気を出した風に見えた。それに俺は首を捻るけれどもこれには師匠から解説が入った。


「魔法が使える様になり、仕事も与えられ、そこから給料まで貰えるのだぞ?考えられん程の事だからな?エンドウはそこら辺の事が分かっていない。」


「いや、すみませんけど、ホント、ワカリマセン。そこまでの事なんですか?いや、そこまでの事なんだろうなぁ・・・」


 ちょっと考えたなら分かる事だ。

 彼らがボロボロで毎日を明日も分からずに過ごしていた年月に比べれば。


 そんな日々から救い上げられた事態がそもそもに信じられ無い様な奇跡であり。


 そこからいきなり食事を与えられ、健康の為の体力づくりである。

 そしてその次には授業も受ける事となり、挙句の果てに専門知識の勉強まで世話をして貰っているのだ。


 それだけでは無く、自分たちでは得る事など不可能だと思っていた魔法まで使える様にして貰ったらどうか?


 そんなモノ、モチベーションが上がる事はあっても下がる事など無いだろう。


「あー、じゃあ、すいませんけど師匠、後の事は全部頼んじゃっても良いです?」


「分かった分かった。任せておけ。」


 その言葉を貰ってからこの場を俺は後にした。


「・・・うーん、どうしよこの後?もうほぼ、俺の考えてた訓練校ってのは大体が形になっちゃったぞ?」


 後は多分このまま俺が放置しておいてもクスイとサンネル、それと師匠が何とかしてしまう未来しか浮かんでこない。

 クスイとサンネルからの報告だと他の専門職の教師たちの授業も順調だと言う話である。


 俺のやろうとしていた事はもう殆ど達成してしまったと言えた。


 後は孤児院をどうしようか?と言った事だったけれども。


「そっちは国が先に以前から運営しているのがあるだろうからなぁ。そっちはまだ手を付け無いでおくか?」


 そこら辺の事を少しだけ王子様に聞きに行く為に俺はワープゲートを出す。


 大体はいきなり王子様の私室に出ているのでタイミングが合えば休憩中の所へとお邪魔してしまう事になるが。


「お、居た。・・・あー、今ダメだった?」


 王子様はソファに沈みこんでボヘ~と天井を死んだ魚の様な目で見つめながら全身の力を抜いていた。


「・・・何か、またあるのですか?」


 俺の方に向き直って元気の無いそんな返事が王子様の口から零れる。


「何がどうしてそうなった?メルフェ、食べる?」


「頂きます。」


 そんな様子に俺は心配になって甘味を勧める。疲れている時は甘いモノ、そんな単純には行かないのだろうが、多少は糖分で元気を取り戻した王子様が言う。


「聞き及んでいます。訓練校でしたか。・・・派手にやっていますね・・・」


「あ、もしかしてソレ関連でお疲れ?」


「エンドウ殿のおかげで愚か者たちは一掃出来たと思っていたんですが、その・・・」


 どうにも王子様はモゴモゴとその続きを言い辛そうにする。


 しかし意を決して口を開いたら。


「エンドウ殿から税金を徴集するなどと、全く以ってクソ馬鹿・・・いえ、何も解ってはいない者たちが何でか現れ始め騒ぎ立てまして・・・」


 王子様は思わずと言った感じで汚い言葉使いをしてしまっていたが、ソレを無理やりに言い直した。しかしもう「クソ」とかハッキリと言ってしまった後であるが。

 その一言で俺は察して確認の為に質問をする。


「それって、出来た訓練校の?」


「その関連含めて様々な部分へ諸々ですね。とは言え、私が全てソレを法を根拠に却下しておきましたよ。それで疲れています。王国法を知らぬ金の亡者たちが一定数残っていたのは死角でしたね。自分たちの都合の良い妄想ばかりを建て並べて一方的に喋って来るんですよ。道理も考えず、自分たちの「貴族」と言う何らの価値も無い物を根拠につまらない理屈ばかりを捏ねていましてね。利益がどうの、利権がどうのと、本当に疲れ果てました。その者たちの語る理論の穴を散々に突いて破綻させて論破し黙らせるのが大変で大変で・・・そして下らなくて。」


 王子様の顔はずっと「ウンザリ」な表情で説明をしてくれた。

 これには労いの一言くらいは掛けておく。


「うん、そりゃお疲れさんだわ。あー、でも、なあ?もしそう言った金に汚い奴らが訓練校に直接イチャモン付けに来たら力づくで排除しちゃっても良いか?」


 そう言った馬鹿はそもそもが行動力が凄い。なのでここで先に王子様から直に「許可」を貰っておこうと聞いてみた。


「・・・許可しましょう。そこまで頭の悪い者たちなど必要無い所か逆に障害、害悪にしかなりません。王家の印を押した書類を作成しますので持って行ってください。容赦無く潰して貰えると助かります。訓練校は国にとって物凄く有益なモノとなるはずです。この先の国の未来の発展の為に必要な施設になるでしょうからね。それこそ、そんな意地汚い金の事ばかりに執着する貴族たちよりもね。」


 王子様が盛大な溜息を吐きながら「潰して良い」との許可を出してくれる。


 こうなればもう怖いモノ無しだ。取り合えずその書類は五枚ほど同じ物を用意して貰える様に王子様に頼んだ。


 俺用、クスイ用、サンネル様、師匠用で四枚。残りの一枚は予備である。

 取り合えず訓練校に関わった最重要なメンバー全員に持たせておいて損は無い。


 その王家の印の押された書類を貰う代わりと言っては何だが、メルフェの実を十個程王子様へと提供した。


 その際には「釣り合わないですけどね」などと王子様から言われる。


 もちろんメルフェの実のお値段がヤバイのでそっちの方に天秤が傾く、と言った意味で王子様はこの発言をしているのだと思われる。


 俺にしてみればまだまだ大量にインベントリに入っているので何時までもこの状態にしておかずにパパッと早めに減らしておきたい代物だったりするのだが。


 そのメルフェの実を隣室に秘書が片づけた後に丁度部屋へとやって来た者が二人。


 その二名の入室許可の要請に王子様が深呼吸の後に盛大な溜息を吐きながら許可を出す。


 そして入って来て早々にその二人が。


「王子!何故あの胡散臭い者へと重税を掛け無いのですか!あの様な正体不明の輩を何時までものさばらせて良いはずがありません!」


「そうです殿下。奴は怪しい薬を世間にばら撒き売って不正に金を搔き集めているのですぞ?コレを取り締まらずして何が王家の威光でありましょうや?」


「うっわ・・・うぜぇ・・・王子様ってば、これじゃ苦労して疲れちゃうはずだねぇ。」


 俺のそんな言葉にその二名はこちらに気付く。


「なんだ貴様は?誰の許可を貰ってここに居るのだ!」


「我々にその様な言葉を向けるとは、直ちに不敬罪で処刑とする。おい、衛兵!こやつを捕縛せぬか!何をぼさっとしておる!」


「・・・あ、ダメだこいつら。本当に無能だ・・・」


 俺がさらに呆れた声を出してもその二人は何のその。


「我らを無能だと?何処までも愚か者めが。侮辱罪も追加だ。死ぬ前に散々体罰で苦しめてその身に後悔を刻んでから死すべきだな。」


「ふん!何処の誰かは知らぬが、我らをコケにした事を苦しみ抜いて悔やんでから死ぬが良い。全くこれだから教養の無い愚民は世話が焼ける。」


「・・・」


 この二人の態度に俺はとうとう無言になって王子様とその秘書へと視線を向けてしまう。


 その間も衛兵たちは俺を捕縛しようとする動きを取ったりはしない。


 少ししてその事がとうとう気になったのか二人が衛兵へと再び怒鳴る。


「何をしておる!さっさとこやつを捕まえて牢へと叩き入れてこい!」


「お前たち、何をグズグズしておる。全く使えん奴らだな。ヤル気が無いのならやめてしまえ。オイ!他に誰かいないのか!」


 俺にはもうこの光景が滑稽にしか見えない。


 だってここに居る衛兵たちは王子様から俺への対応は慎重にする様に厳命されているのだ。

 そして今勤務に付いている衛兵たちは既に何度も俺と顔を合わせている者たちだった。


 だからこの二人の言葉に何て従うはずも無かった。

 寧ろこの二人の事を可哀そうなモノでも見るかの様な目を向けている。


「正体不明で怪しい薬を売り捌いて荒稼ぎしてるってさ?王子様、どうよ?」


「全く以って笑え無い話ですね。いえ、本当に、笑え無い・・・」


 諦めた顔で王子様は俺の投げた言葉にそんな反応を返して来たのだった。


 これに怒ったのはどうにも俺の事を犯罪者扱いしてその資産を奪い尽くしたいらしい二名の文官たちだ。

 まだどうにも三十台前半と見える若い者でありそうだが、その脳内はどうにも妄想が激しそうだ。


「コレはどう言う事ですか王子?その者が一体何だと言うのです?」


「我らの言を聞かずして何をそ奴と会話などをしているのか!我らを蔑ろになさるのであればこちらも相応の対応とやらを取らせて頂きますぞ!?」


 この城には俺の事をまだ詳しく知らない者も残っていた様だ。

 ここまで俺を見て察しが悪いのが寧ろ逆に面白くなって来てしまう程だ。


 そしてソレは王子様も同じだったらしい。突然に部屋に笑い声がこだました。


「・・・くくっ、くはっ!ふっ・・・フハハハハハ!」


 この王子様の態度の切り替わり様に二名の文官たちが少々驚いた様子で一歩下がるのだった。


 その笑いが収まった後に王子様が口を開いた。


「いや、お前たち、幾ら何でもソレは無いだろうに。出張があってお前たちは確かに実際に彼に会った事も、見た事も、見かけた事も無いのだろうが。それにしても、何でそこまで察しが悪いのか?いや、そうであるから周囲の注意も聞く耳など持たないし、自分で調べようとも思わない、自分の目で確かめようとすらしないのだよなぁ。」


「何ですと?ソレは一体どう言う・・・」


「殿下は何を我々におっしゃられたいので?」


 本当に何でここまで言われているのに気が付かないのかが分からない。


 今お前らの喋っている話の中心人物が目の前にいるのに。ソレ、俺なのに。


 コレはワザと知らないフリ、気づいていないフリをしていたりすると言うのか?

 それならば俺はこの演技を見抜ける気がしない。


「散々私は説明したのだが、何で納得していないのだ?何故そこまでしつこいのだ?何故それ程にクドいのだ?法を犯していない彼に対してお前たちがやろうとしている事は許し難い理不尽に過ぎる。そして彼はこの国にとって最重要人物だと、誰の手出しも無用だと、そうお前たちも聞いているはずなのに、何故なのだ?何がお前たちをそうさせる?国王陛下から下知がされている。ソレをお前たちが受けていないとは言わせんぞ?その場には他の部下たちも、それに私も居たのだからな。それで、その下知にあくまでもお前たちが逆らうと言うのならば、今すぐにでも私の命令で捕縛をして牢に放り込まねばならなくなるのだが?彼への侮辱は国への侮辱、彼への不敬は国王陛下への不敬であると、何故考えないんだ?本当に何でなんだ?」


 王子様がここで真顔でそんな警告を発した。


 しかし二名の文官はコレを一笑した。


「国の将来を担うべく育てられた貴方様が何を恐れておいでなのです?タカが調子に乗っておる一市民に対して、その権力を揮って叩き潰さねば他に勘違いをした者どもが溢れ出して収拾が付かなくなりますぞ?」


「舐められては国の沽券に関わるのです。ソレを我々はハッキリと申しておると言うのに、殿下は一向に考えを改めて頂けるどころか、話も聞いてはくださりませんな?」


 王子様は話をちゃんと聞いているから、こいつらの説明の穴を突いて反論したのではないのだろうか?

 しっかりとその内容を把握したから、正論を、法と言う名の国としての絶対に守るべきルールを出して論破したのでは無いのか?


 この二名は自分たちの主張を受け入れない王子様の方がオカシイ、悪い、と言っている様だが。

 これでは勘違いをしていると言うよりも、頭の中がくるくるパーなのは向こうの二名の文官の方だろう。


 理解していないのはどっちだと言われたら誰もがこの文官たちの方を指差すに決まってる。


 俺は文官と言うモノたちは少なからず頭が良く、その回転も早く、理解力の高い者が就く職業だと何となく思っている。

 そう言ったイメージから見てみればこの二名はその立場に相応しいとは見えない。


 この調子だとどう考えても改めるべきはこの二名の方だ。

 しかし以前に一度でも王子様から言い返されてコテンパンにされていても、こうして再び主張をしにこの部屋までやって来るのだ。諦めが悪い。悪過ぎるだろう。

 どうしたらその精神を徹底的に折る事が出来るのか?それを思うと王子様がどれだけ苦労しているのかが少し分かる。


「国王陛下に直に訴えを起こしても良いのですぞ?」


 その時にそんな事を向こうが言ってきた。


 今は王子様が国政の一部を受け持ってこうして仕事をしている。

 王様は既に少しづつだけども玉座を降りる為の、王子様に椅子を譲る為の準備をし始めている訳で。


 この文官の言葉は王様に対して「貴方の息子はまだまだ勉強不足で部下の使い方を解っちゃいない」と訴えると言っているも同然な訳だ。

 遠回しの若干分かり辛い貴族特有の脅しである。


 そう言った脅しを言える位にこの文官たちは地位が高い者たちなのかもしれないが。

 だからと言っても、それこそ、そんな立場の者たちが易々と使って良い様な脅しじゃ無い事が分かっていないのだろうか?


「なら父上にこの件を訴えに行けば良い。今からでも君たちの意見を纏めた報告書を作り正式な物として国王陛下へと申請しなさい。私に構わずにそうすると良い。今の私の発言に目に見える物理的な証拠が必要だと言うのであれば、今この場で私が陛下へと君たちが直接に直談判する事を許し、その訴えを陛下に一考して頂けないかと願う一言も添えて書いて渡そう。」


 王子様がそんな事を言い出した。何とも無いと言いたげに、簡単に。


 そこまでスパッと言い切られて呆気に取られたんだろう。文官たちはちょっと力の抜けた真顔になった。


 声には出していないが、そこは「へ?」とか「え?」とか「あ?」と言った感じだ。

 間抜けさが滲み出ていて余計にその顔の滑稽さが増す。


「良いのですかな?その様な事も申されて?それならば書いて頂きましょうか。」


「ふむ、その言を取り消すのならば今の内ですぞ?国王陛下からどの様な御叱りを貴方様が受けるか、これは見ものですな?」


 しかし次には文官たちは勝ち誇った様にそんな嘲笑を王子様に向けて言う。

 王子様を蔑むような、下に見る様な、そんな態度で。


「ああ、私はもう疲れた。父上に後は全て任せる。」


 そう言って取り出した紙へとスラスラ王子様は文を書いていく。


(よっぽどこいつらの相手をするのに嫌気がさしたんだろうなぁ)


 苦労の垣間見えるそんな王子様の溜息が静かに部屋の中に響いた。


 その手紙を持って二名の文官たちは部屋を去った。満足そうな顔で。


「奴らは本当に理解していないのか?私が既に彼らの件を父上に正式に報告を出している事を知らない?ソレは流石に有り得ないだろう・・・」


 王子様はそんな言葉を去っていく者たちの背に向けて溢す。


 去り行く文官たちにソレが聞こえている様子は無い。悪巧みでもしている様な顔つきで上機嫌に廊下を歩いて行っている。


 この分だと直ぐにでも王様の所に早速直訴しに行くんだろう。


 その際には王様からどの様な処断が下されるだろうか?


 俺のやっている事に対して税を掛けると言う文官たちの案を採用するだろうか?


 それとも「却下」と一考もせずに切り捨てるか?


 或いは文官たちをクビにすると言った大胆な判断を下すだろうか?


 それは何処までも俺には関係無い話だった。

 いや、俺のやっている事へと税を掛けるなどと言っていたので関係はあるのかもしれないが。


 それにしてもそこまでの事を調べておいて何で目の前に居る俺の事をまるで何も判っちゃいなかったのか?


「有能な無能ってああいうのを言うのかね?どうなんだ?」


「頭が痛くなるのでそれ以上はおっしゃらないでください。」


 俺の口にした言葉に王子様が眉間に手を当てて首を振る。

 頭痛が今にも起こりそうだと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。


「えー、それで、エンドウ殿、何用だったんですか?」


「・・・あ、そうね、そうだった。孤児院ってどんな運営してる?」


「今度はそちらに手を出そうと?」


「いや、何でそんな嫌そうな顔で俺を睨むのよ?」


「孤児院を経営する事にしたんですよね?」


「そうだけども。何か問題あったりするのか?」


「・・・いえ、無いでしょう。無いでしょうけれども。」


「歯切れが悪いな?その懸念は?」


「先程の文官たちですよ。また騒ぎ出すでしょう。」


「あー、ソレは面倒臭いね何処までも。」


 どうやらあの二名は俺の事をまるで目の敵にでもしているらしく。


「エンドウ殿の持つ魔力回復薬の利権を横から手を出して掠め取ろうとしているんです。それこそ難癖ばかりを付けてね。だからまあ、鬱陶しいんです。」


「ハッキリ言っちゃったな。そこまで低俗な奴らなんだな。そりゃ苦労するね。でも、とっとと首切れば良いんじゃない?」


「ええ、ソウデスネ・・・あの二人が目に余る程の馬鹿をやらかした時には物理的に断ち切ってやれるんですけども。」


「おおぅ・・・罷免するだけじゃ飽き足らんのかい・・・どれだけなんだよ?」


 仕事を首にするだけでは飽き足らず、その首を「刎ねたい」らしい王子様。

 どうやらそれだけ恨み辛みが溜まっているんだろう。あの二人の仕事っぷりに対して。


「足を引っ張るだけならまだ・・・いえ、それだけで潰したい所なのですけどもね。致命的な失態をしないと言うか、後始末が上手いと言いますか。言い訳だけは一丁前以上で。イライラさせられてます毎回。」


 どうにも王子様のイライラは頂点に達し掛けているらしい。


「なのでエンドウ殿、もう少し待って貰えますか?あの二人の処分が終わった後なら幾らでも何をしても良いので。」


「もうちょっと考えて発言しような王子様?幾らでもとか、何しても良いとか、そう言う事は迂闊にその立場で口に出しちゃいけないんじゃないか?」


 落ち着け、そう言って俺は王子様に対して注意をしてみるけども。


「・・・いっその事、エンドウ殿、やっちゃって貰えませんか?」


「危険な発言も止めな?」


 どうにも王子様は限界が近いらしい。俺に対して「始末してくれない?」とか言い出している。


 出来なくはない、が、する気は無い。俺は暗殺者じゃ無いのだ。コレは王子様が悪い。無茶を言うな、である。


 俺は用事も済んだと言う事でワープゲートで訓練校に戻った。


 そしてそのまま俺は師匠に王子様に書いて貰った証明書を渡す。

 何かあればソレを出して面倒臭い奴は黙らせろと。


「・・・相変わらずやる事も為す事も大胆が過ぎる。とは言え、まあ、無いよりかはある方が良いモノではあるがな。」


 小さく溜息を吐いて受け取った師匠。

 ここで俺は王子様とのやり取りとあの文官二名の事を説明しておいた。


 この件に関しての師匠の感想はと言うと。


「その分であればその二人の話を聞いて国王陛下が税金を掛ける事に許可を出すとは思えないな。となれば・・・」


 そこで師匠が言葉を止めるのでその続きを促す為に俺は沈黙をする。


 そして師匠が口にした続きは。


「襲撃でも掛けて来るかもしれんな。野盗か強盗か、それらに扮した私兵を仕掛けてクスイやサンネルの馬車を襲って来る可能性も考えねばならんだろう。」


「どうしてそう思ったんです?」


「エンドウからの話を聞いただけでも「まとも」とは呼べん様だしな。それでいてどうにもそいつらは貴族だろう?しかも考え方が汚い悪徳を旨とする貴族の様だ。そんな奴等であればどんな手を使ってこちらへと悪意をぶつけて来るか分かったモノでは無い。最悪の想定を考えれば襲撃と言うのは直ぐに浮かんで来る。」


 俺も想像してみた。時代劇に置き換えて。


 悪代官と言うモノは様々な悪事をしてはソレを権力と金で隠蔽して好き放題。

 自分たちにとって都合の悪い真実を知る人物を襲って亡き者にしようとするなど日常茶飯。

 ましてや儲けを出す為に「盗賊を飼う」などと言った事も平気でやって人の命を何とも思わずに金に執着する。


「最悪の事態を考えておけば憂い無しかぁ。クスイとサンネルにもこの話はしておきますよ。」


 こうして俺は師匠に魔法の授業の手応えの感想などを聞いた後にクスイとサンネルの元に向かった。


 そして二人に対して師匠と同じ様に王子様の書いた証明書を渡しておく。

 その時には王子様とのやり取りと税金の話を出してアホの文官二名の話をしておいた。


 これに二人は。


「では馬車には護衛を付けましょう。その問題がキッパリと片付くまでは。」


「そうですねェ・・・少々代金を高めに設定すればすぐにでも腕に自慢のある者が食いついて来るとは思いますが。そこは選別せねばなりますまい。」


 二人して同じ意見に揃う。師匠と同じで直ぐにそう言った結論に至っている。


「あー、二人もそう思うんだな。だったらそこら辺の所を任せても?」


 俺は選別すると言ったサンネルの言葉に面倒そうだと思って二人に全てそこら辺を任せる事にする。

 人を見る目に自信は無い。であれば長年商売をして来ている二人の方が余程に目利きが出来るだろうそう言った点において。


「冒険者ギルドで応募を出すのが宜しいでしょう。エンドウ様の名前を出してギルド長に話を通せば真っ当な護衛を向こうで選別して貰えるでしょうから。それが確実かと。」


 クスイから俺がギルド長に直接話をしに行った方が良いと言われてしまう。


 これに俺はここまでクスイとサンネルに任せっぱなしで居るのでそのくらいはせねばと思った。


 そう言う訳で俺は冒険者ギルドへと足を運ぶ。


「ちわー、お久しぶりです。あ、メルフェ食べます?沢山あるんで遠慮しないでくれて良いですよ?」


「・・・いきなり来られてもね?こちらにも心の準備と言うモノがあるのよ?」


「あ、要らないですか?うーん、なら納品の方が良いです?ここの組合の株が上がるだろうしそうすれば?」


「あー・・・はぁ~・・・二つ、出してちょうだい。一つは納品に回すわ。もう一つは自棄ね。頂くわ。」


 ギルド長のミライは「諦めた」と言った表情の後に盛大に長い溜息を吐いてからメルフェの実を請求して来た。

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