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専門家が混じってる

 買い漁った翌日はまた一期生たちの体力づくりに付き合う。と言うか、監督すると言うのが正確だろうか?


 とは言え、別に見ていない所でサボったりしていても何ら俺は怒ったり説教をする気は無かったりする。


 寧ろ走っている途中でバテてしまい、息を整える為に立ち止まると言った事は幾らやっても良いと伝えてはある。


 しかしそこで呼吸が安定したらまたしっかりと走る様には言っている。

 何せコレは基礎体力の向上の為の運動なのだから。


 とは言え、それぞれ個人個人でペースと言うモノがあるのでそこら辺は自由に配分をして良いとも言ってある。


 ゆっくりと走る、急加速、早歩き、どの様な速度であっても良いから足を前に出せ、体を動かせと、そう指導している。


 甘い、などと言われる様な内容かもしれないが、別に俺は熱血指導をする為にコレを一期生たちにやらせている訳では無いし。

 地獄のしごきをして彼らを追い詰める事を目的としている訳でも無い。


 そうして体を動かし続ける事で少しでも健康維持、持続性体力の獲得をさせようとしているのだ。


 とは言え、まだ今は寝たきりのままのメンバーが残っている。

 走る事がままならない彼らにも一応は座ったまま、寝たままで出来るトレーニングの指導はしているけれども。

 ソレはまだまだ効果が一気に出る訳じゃ無い地味なモノだ。


 根気が必要だけれども、この寝たきりメンバーたちは俺へと向けて来る信頼の念が重いくらいである。

 今も黙々と何の文句も言わず、と言うか、寧ろそんな事すらも思いつかない位に集中して鍛錬に取り組んでいる。俺の言葉など疑う事も無く。


「さて、じゃあ面談をしよう。先ず初めは、ジュリム、君だな。」


 休憩させた一期生たちに俺は面談をする事を説明し、先ずその一人目に「花が好き」と答えてくれた彼女を指名した。


 しかしこれに彼女は困惑した顔になってしまう。そして言う。


「えっと、その、バーズスさんからじゃ、無いんですか?何で、わ、私から・・・」


「え?だってそりゃ何も俺の質問に答えてくれ無さそうなんだもの、バーズスは。だから後回し。それじゃあ面談するのはあっちでね。」


 俺は一人一人としっかりとやり取りをする為に一期生たちから離れた位置へと歩く。


 これに付いて来るようにジュリムに言うと素直について来た。


「はい、それじゃあそこ、椅子出したから座って。ここまでの距離を離れていれば皆に聞かれたくない事を喋ったとしても届か無いだろうから遠慮無くぶちまけて良いぞ?」


「・・・ぶちまけて良いって・・・いえ、その、はい。え、遠慮はしないで良い、んです、よね?」


「よし、じゃあ早速聞くけど。花を育てる為の花壇やら畑が在ったら、そこで従事したいか?」


 彼女は花を愛で育てるのを好きだと言っていた。ならばこの話に食いつくだろうと考えたのだが。


「それが本当に実現するのであれば、まあ、確かにそこで働かせて頂きたいとは思うのですが・・・」


 信じちゃいないのだ。ソレもそうである。

 俺の事など一切知ら無い相手なのであるからして、この様な事を質問されてもその様に「まあ無理でしょう」と言った反応になるのは当然だ。


 だから俺はコレを取り出す。

 サンネルと昨日に買い物をした時についでに買っておいたモノだ。


「コレは何て花が咲くか、知っているか?」


 ジュリムは下を向いていた視界に突如現れる俺の手、その上に乗せられた種を見て驚きの顔をした。


「え、え?待ってください・・・これ、マエリアエレアの種?」


「ほーん、変な名前だなー。舌噛みそう。」


 確認が取れた俺はその手を引っ込めて種をインベントリに放り込む。

 その瞬間をジュリムに見られてしまったが、関係無い。


「さあ、次だ。コレって何の種?」


「は?こ、今度はバラムラズドル!?」


「いや、何でこの世界の花の名前ってそんな難しい発音で舌噛みそうな名前なの?」


 ジュリムは本当に花に詳しいらしく、その後に二つ程追加で別の種を見せたのだが。

 それらから咲く花の名前をその口から述べる。その真剣な表情は嘘でも知ったかぶりでも無さそうで、しっかりとした知識と経験からの答えなのだと分かった。


「それじゃあ同じ様に花が好きな一期生たちには畑でも作って貰って、そこで専用の花畑として世話をして貰おうかな。」


「あの、何を?畑と言っても、ここは・・・」


「ああ、この見渡す限りの大地は俺の所有だ。先ずは、そうだな。この一帯を耕そうか。好きなだけ広げて良いぞ?道具も用意するし、初回限定で俺も協力するし。」


「・・・は?」


 俺の所有、そこにどうやらジュリムは引っ掛かったらしい。


「思う存分育てたい物を育てたらいい。その花を販売するとかも良いぞ?花屋を経営してみるか?」


 多分この俺の言葉をジュリムはまともに受け止めちゃいない。


 だけども俺はさらに続ける。


「その為にもちゃんと数字の計算に強くなって、そうだな、一年くらいは経理の勉強をする為にクスイの所で・・・いや、サンネルに頼めば良いか?どっちにしろ、ちゃんと一人前と言える位にはなって貰う予定だぞ?」


「そんな事をいきなり言われましても・・・」


「え?俺は君らを一期生として訓練校にぶち込むぞって言ってあったよな?」


「ぶち込む!?」


 ぶち込む、などと迄は言ってはいないが、そうなって貰うとは言っておいたはずだ。


 ソレをまだジュリムは本気で受け止めてはいなかったと言う事だこの反応は。


「なあ?話変わるけど、さっき見せた種は鉢植え栽培?それとも畑での栽培?どっちもイケる感じ?それとも特殊な環境じゃ無いと咲かないとかある?」


 訓練校の話ではジュリムのリアクションが鈍いので花の方に変える。


 俺は植物には詳しくない。なのでそこら辺を軽く聞く感じで質問したのだけれども。


 ここでジュリムはまるで名探偵が考え悩むしぐさを取る。

 腰に手を、そして顎に手を。その様が異様に嵌まっていてちょっと笑いそうになってしまったが我慢した。

 ジュリムのやる気をそんなつまらない事で削いではならない。


「どちらも出来ますね。ですけど、相当土に栄養が無いとダメです。今の足元の土だと一か月はみっちりと土づくりに専念してから種を植える事になりますね。あ、でも、寒さに弱いので冬場に近い時期には畑植えにはできません。鉢植えなら暖かい室内にずっと置いておけば小さいながらも美しい花を観賞できると思います。まあ、それはかなり難しいですけど。気温管理を失敗して少しでも一定以下の温度になると芽を出してくれないんです。とは言え、種が腐って死んでしまったと言う訳では無くてデスネ、休眠に即座に入って目を覚まさなくなるんです、温かい時期になるまでずっと。この場合は再び室内温度をいくら上げても反応して貰え無くなってしまうんです。その維持が困難なんですよね。そこでソレを解っておらずに水を上げ過ぎてしまうと種が冷え切ってしまって死んでしまうんです。一応は芽さえ出てしまえばその後はしっかりと水やりと葉を日光に長時間当てる事に気をつけていれば比較的簡単に、とも言え無いんですけど、咲いてくれはしますね。まあそこら辺がちょっとでもおざなりになってしまうと花を付けないんですが。」


「めっちゃ早口、アンド、専門知識スゲェ・・・」


 植物研究者かな?とか一瞬思ったのだが、ジュリムは別段そう言った堅苦しそうな雰囲気を持ち合わせている様な人物には感じない。


 寧ろ独壇場で一人喋っていた様子は「オタク」とか「マニア」みたいな空気感であった。


 このままずっとこの勢いに付き合わされては堪らない。

 俺が質問した事であったが、ソレを断ち切る為に俺は直ぐにジュリムが口を閉じてしまう光景を見せて黙らせる。


 もちろん一瞬にして目の前の一帯を畑にして見せたのだ。

 草を取り除き、土を解し盛り返す。土中に在る大き目の石を掘り出して一カ所に纏めておく。


 俺はもう既にこの作業を幾度もやっているし、魔法でこの様な畑を作った後のその「効果」も良く分かっていた。

 なので畑から「魔力」を抜く。そうしないと種を植えた先から成長して一気に花が咲いてしまう。


 ジュリムはどうにも「生育」にも喜びを見出しているらしいので、ここで一気に、一瞬で花が咲いてしまうのは避ける。


「本当はビニールハウスを付けたい所だけどな。年中、と迄は行かないまでも、花を育てるのに楽な環境ってのは欲しい所だろうし。」


 ジュリムはそんな言葉も耳に入って来ない程に驚き過ぎてそれ所では無いらしい。


 それに俺はツッコミを入れた。


「いや、今更そこまで驚くか?だって目の前で俺がどれだけの事をして来たか何度も体感してるのに。」


 身体を操られて勝手に連れ出され、目の前で「銭湯」が建ち、毎日の食事の提供である。

 各人用に泊る事の出来る様にコンクリート製の小屋も準備してプライベートの確保、ベッドまで付けてあるのに。


 コレだけの事を体感しておいて、目の前で畑が出来たからと言ってここまで驚く事だろうか?

 言葉も出ず、目を見開いて、口をパクパクさせる程では無いだろう。


 今日までの数日間をどの様に受け止めてジュリムは過ごして来ていたのか?といった事が思い浮かぶ。

 けれどもそこは追及したりはしない。別にそこは重要じゃ無いからだ。


 この面接で重きを置いているのは「役割分担」とか「振り分け」といった部分である。


 食事を何時までも俺が作り世話をし続けるのは良くない。

 俺はこの一期生たちの面倒を見る事だけに縛られるつもりは無いのだ。


 まだまだその為の準備も全く進んでいない状況ではある。

 しかし必ずこの計画は成功させるつもりである。


 作ったこの「銭湯」もいずれ無くしてあの「冬の街」に作った様な施設を此処に立てる予定だ。

 同じ「銭湯」であってもその中身の根本的な所は全く違うのでこちらの世界で作った構造の銭湯に入れ替えるつもりである。


 そこで俺以外の魔法を使える者たちに管理を任せて訓練校、そして孤児院の者たちに利用して貰う予定である。


 それには師匠が、マクリールの力が要る。盤上遊戯ばかりにのめり込んでないで仕事をして貰う事となる。


 と、そんなまだまだもうちょっと先の事などは忘れて今は目の前のジュリムの件だ。


「井戸が無いか。水やりにはどっかから水を引いて来ないとダメか?いや、魔法を使える様になれば良いだけだな。ジュリムには先ず魔法をしっかりと身に付けて貰う事になるかな?」


「・・・は?え?何でいきなりそんな話に!?」


 ここでやっと反応が返って来たけれども、ソレを俺は無視して続ける。


「まあソレは先の話だな。形も全然整って無い今の状況じゃ夢物語としか言え無いからな。それじゃあ次の人の面接にするか。あ、ジュリムには、ほら、コレ全部渡しとくぞ?管理をしっかりな?」


 俺は四つの小袋にそれぞれ分けて入れてある例の種を全てジュリムに渡す。

 だけどもジュリムはこれには嬉しそうな悲鳴では無く「ひひゅへひょはほへふほ!?」と、意味不明な混乱の声を上げた。


 ソレも無視して俺の方が椅子から立ち上がってこの場にジュリムを残して他の一期生たちの方に向かう。


 そうしてその後は五名程の数の面接を終えて休憩は終了、再びランニングの時間とした。


 ===    ====    ===


 翌日からも何時もの日課に面接が加わっただけで何も変わらない。


 全員の面接が終わるまでに二十日間ほど掛かった。

 毎日面接していた訳でも無いし、一度に熟すのは数名から十名程度。


 しかしこうして面接をした事で色々と第一期生の事が分かって振り分けも出来る様になったし、これから訓練校に招く教師をどの様な職種にすれば良いかの基本が決まった。


 冒険者、調理師、商人、農業関係者、魔法使い、薬師などなどだ。


 取り合えず方向性はザックリと決まった。一期生たちの体力も付いて来たのでここら辺で準備に取り掛かっても良いだろう。


「さて、じゃあ箱を作りますか。人数がまだコレだけだからな。とは言え、百人以上いるし、そこはでっかく行こうかね。」


 とは言え、俺のイメージするのは「学校」の校舎だ。ソレもそこまで教室数は多くしないコンパクト、と言った印象を与える大きさのものだ。


 とは言え、この世界基準で言えば三階建てのコンクリート製の建物何て目が飛び出る位に驚かれる建築物になるけれども。


 完全に構造は鉄筋コンクリートである。買った木材での木造建築にはしない。


 他にも訓練場、調理室、農業用の畑、調剤室などなど。

 只のプレーンな教室だけを作るだけじゃ無い。

 様々な施設が必要になるのでそこら辺のレイアウトも考えて建造した。


 そして重要なのは調理室だ。薪を使わず、火を使いたい。そう言った思考があったのだ。

 そこで俺は面接の終えるまでの期間でマクリールに「魔法陣」を教わっていた。


 この「魔法陣」を何故か俺は「電気式クッキングヒーター」的な使い方が出来ないか?と言ったイメージがあった。


 その二十日間はこれの研究に当てていたと言っても過言では無い。

 マクリール師匠も面白がって色々と俺の出すアイデアに乗っかってこの研究に協力して貰っている。


 そうして作成された数台を今回の「学校」の調理室に導入する気でいた。

 これの見た目はまんま、そのまま、持ち運びできるタイプのコンパクトな「電気式クッキングヒーター」である。


 とは言え、動力は「魔石」だ。しかしその魔石も燃費が良くなければならない。

 薪を使うよりも高額になってしまうのは避けたかったのでそこら辺の工夫も師匠と頭を捻って組み込んだ。

 言うなれば魔力回復薬に次ぐ渾身の自信作である。


「・・・クスイやサンネル、それと、まあ、王子様にはバレない様にしたいなぁ。」


 コレがまた大量生産のラインに入れば俺の懐にまたお金がドバドバと流れ込んでくる事になりかねない。


 今の魔力回復薬の売り上げだけでもこれ程の眩暈のしそうな貯蓄額になっているのだ。

 これ以上は勘弁して欲しかった。この先も長くこの「ヒーター」は隠しておかねばならない事である。


 そうして出来上がった、周囲に何も無い場所にいきなり建った「学校」である。


 目立つ、非常に目立つのだが、ここは街からも、そこから繋がる街道からも相当に離れた場所にある。

 人目に付かないのだ。そんな土地なのである。


 なので上下水道やら廃棄物処理などはこの「学校」で完結できていないと不便になってしまう。

 そこら辺の事も考えて貯水タンクも作ったし、焼却施設も作った。


 そして焼却施設にはその発せられる「熱」を利用しての温室なども作ってみたりもしている。

 コレは例の「花」を育てる際の為に用意した様なモノだったりする。


 ここの学校には魔法使いが多く居ないと成り立たないと言っても過言では無い施設になってしまった。


「・・・うん、かくなる上は、最終手段として師匠をこの学校の校長に任命するか。」


 本人が俺のこの言葉を聞いたら「オイ!」ときっと突っ込んで来ただろう。

 けれどもそんな事は知らない。今その師匠はここには居ないのだから。


 師匠が駄目だったら取り合えず王子様と相談して宮廷魔術師のデンガルを採用しても良いだろう。

 まあそこにはそこそこな不安はツイて回るけれども。


 なにせデンガルは魔法狂いと言っても過言では無い様な人物だ。ちょっとどうなるか予想が出来ない。

 師匠が校長をやってくれるのが一番良いと思うが、これを本人が断って来たらその時にまた考えれば良いだろう。


 そんな事を考えながら出来上がった校舎を眺める。


「これから中身を入れてかなきゃな。忙しくなるなぁ。」


 学校でのカリキュラムなどの事もザックリと考えておかねばならないのだ。

 俺一人で全てを熟すのは相当に負担なのだが。


 それでも時間を掛けて一つずつ終わらせていく覚悟である。

 その内に終わる、八割方完成すれば後は関わった者たちが自然と残りのルールを決めていってくれる、そんな事を考えて今日は校舎完成で仕事を終わりにした。


 その翌日からクスイやサンネルに頼んでおいた人材との面接である。


 とは言っても別に大した事はしない。引退した職人さんたちにウチで教鞭をとりませんか?と言った話し合いをしただけだ。


 良い返事を直ぐにくれた人も居たが、考えさせて欲しいと言って来た者もいる。

 一応は都合が悪ければ遠慮無く断って貰っても良いとは言ってある。

 しかし集められた人たちの誰一人として拒絶を示す人は居なかった。


「と言う訳で、クスイ、サンネルさん。俺の口座から雇った方たちへの給与支払いとかの手続きをお願いしても?」


「はい、お任せください。この程度の手間は恩返しの内にも入りませんからね。」


 そんな事を言ってくれるのはクスイだ。そしてサンネルも。


「はははは。私もエンドウ様からは儲けさせて頂いておりますので。その金額を思えばこの程度の事は何でも御座いませんよ。」


 と言ってくれている。

 まあその本心はどうなのかと言った部分は分からない。

 二人はやり手の商人であるからして、表に出している表情だけで、口に出す言葉だけで本音を判断は出来ない。


 しかしここは言葉通りに受け取ってしまっても良い場面だ。クスイは本当に俺を「命の恩人」と思ってくれているし。


 サンネルの言葉に嘘は無い。


「いやー、有難い。えっと、それじゃあ二人にも訓練校と孤児院の件に一枚でも二枚でも噛んで貰っちゃおーかなー?」


 二人の今回の件への反応の様子見をしようと思って俺の口からそんな事を言ってみたのだが。

 次の瞬間には途端に二人の目が鋭く光ったのを俺は幻視した。


「ハハハ!お任せください。近頃は安定期に入りましてね。丁度手が空いている所で御座いましたので。」


 クスイが自信たっぷりにそう言えば。


「ムフフフ・・・クスイ殿と手を組むとなれば千人力、いや、万人力、ですなぁ。コレは、気を引き締めて取り掛からねばなりますまい・・・」


 サンネルは急に悪人面になってまるで悪巧みをしているかの様に静かにそう言葉を漏らす。

 ちょっとドン引きなその二人の余り見ない態度に俺はツッコミを入れる。


「いや、程々にね?と言うか、クスイ、嘘ついて無い?手が空いてるとか?いや、忙しいだろ絶対。だってアレもコレもと色んな店の経営してるんだからそっちを優先しろよ?」


「いえいえ、御心配には及びませんよ。今は各所に責任者を立ててそれぞれを既に独立させておりましてなぁ。私の仕事と言えば今では上がって来る決済報告書に目を通して判を押すだけですから。これと言った問題も今まで起きておりません。御安心ください。」


 俺にはそっちの経営の事など一切分からないのでこのクスイの言葉には何も言い返せ無い。


「えー、サンネルさんも、御無理をしない様に頼みますよ?張り切り過ぎは、ほら、ね?後で何か不慮の何かが起きたりした際に赤字が・・・とか出ちゃうかもしれないんでね?」


「いえいえ!エンドウ様の御考えは素晴らしいモノだと理解しておりますから。その実現の一助となれるのは光栄な事で御座いますよ。」


「もうちょっと慎重に、考え直さないか・・・?」


「そんな必要はありませんな。」

「そんな事は必要ありませんよ。」


 二人同時にそんな言葉を言うので俺はこれに「覚悟決まってんのか・・・」とビックリさせられた。


 ちょっと前にこの件を説明した時には何だかモヤッとした様子でいた二人だったはず。


 今日までの数日で何か気が変わる事でも有ったのか、考えが変わるきっかけが有ったのか。

 取り合えず強力な協力者が出来た事を今は喜ぶべきなのだろう。


「ああ、それじゃあ、宜しく。」


 こうしてその日は長時間に渡って色々と話し合いをした。


 必要な物資関係、人材派遣、配達業者その他諸々。


 もしコレを俺一人で決めるなどと言う事になったら、ソレを選定したり、纏めたり、行動し始めるにもかなりの時間が掛かっただろう。


 だけどそれらはあっという間に済んでしまった。流石商売人は頼りになる。


 とは言え、ちょっと張り切り過ぎだと言いたい位にドンドンと話は進んでしまった。

 しかもその為の関係書類はその場で製作、決済されるしで常軌を逸していて俺が口を出せない領域に突入してしまったのだ。


 途中から俺は黙って意見を出し合い続ける二名を見ているだけの存在になってしまっていた。


 これでは最早当初の予定が俺の手を離れて指先に「ちょん」と触れているだけになってやしないだろうか?そんな不安がたちまちの内に膨れ上がる様な速さで計画は建てられたのだった。


 そんな日の翌日、俺は昨日建てた「学校」から街へと繋げる為の道を朝早くに開通させる。

 この程度は簡単だ。魔法で一気にパパッと道を作ってしまえるのだから。


 魔力ソナーで地面のデコボコを把握、それらを均し整えてアップダウンが無い平らな道に。

 そして障害物となりそうな物は全て排除。小さい小石程度も見逃さずに道から排除する。

 出来た道はカチンコチンに固めて馬車の揺れが起きない様に配慮する。


 街からは相当に離れてはいるけれども、実際に馬車を走らせればそこまでの時間もこれなら掛からないだろう。

 歩いて来たとしてもそこまでの長距離ともならず、しかしそこそこと言った疲れ程度で済むはずだ。


 そしてこの道、二車線道路にして歩道も作った。

 それぞれにちゃんと道のスタートラインには注意書きの看板も建てておく。


 そんな贅沢な使い方をしても良いくらいに土地は有り余っているのだ。好き放題させて貰う。

 その為の許可はもう貰ってあるのだ。


「で、いきなりその道を馬車が十台以上も即行で通行するとか予想外なんですが?クスイ?サンネルさん?」


 既に街の出口には二人の姿が。そしてずらっと並ぶ馬車。


「はい、準備はもう既に半分以上は整えてあります。」


「教師となる者たちの方も契約は既に交わして書類の方も処理し終わっておりましてなぁ。」


「早い・・・早過ぎる・・・」


 二人の行動の早さに恐ろしいモノを見た様な気になる。


 けれども頭を直ぐに切り替える事にした。


「御者の人に道を通っていて気になった事などが無いかどうかを後で聞き取りしておいて欲しい。何か要求か、或いはアレが駄目だとか、そう言った意見を元に色々と修正していくからさ。あ、後はこの道の管理報告して貰える人も雇いたいんだけど。道を箒で掃いて綺麗にするとか、ゴミを回収して処分するとか、そう言った役目なんだけども。」


「そちらは私の方で手配しておきましょう。契約なども直ぐに済ませて明日にでも仕事に取り掛かれる様にした方が?」


「あー、いきなり明日からじゃ無くて良いかな。って、今日、今さっき作ったばかりだからね?この道。ん~、仕事は三日に一回の見回りって所かな?」


 クスイが人を選んでおくと言ってくれたので俺は全てを任せてしまう事にした。

 昨日にクスイへは俺の預金が入ってるカードは渡してあった。

 なので従業員となる者たちへの給与支払いの諸々関連の契約処理はやってくれる手筈だ。


「それでですが・・・昼過ぎにもまた十五台分の資材や必要物資などを積んだ馬車を走らせます。今日中に一気に事を進めてまいりたいと思いますが、宜しいですかな?」


「・・・お、おう、良いよ、良いけど、張り切り過ぎじゃないか?焦って・・・る訳でも無さそうだけど。そんなに高速で物事を進められても俺が落ち着けないんだが?」


 クスイのそんな勢いに押されて俺はちょっと引く。落ち着け、と言いたい所だったのだが、別にクスイは焦っていると言った様子でも、急いでいるといった感じでも無い態度だ。


 なので正直に俺の方が参ってしまうから手加減してくれと言いたかったけれども。


「いやいや、この様に瞬時にこれ程の道路を作り上げてしまうエンドウ様ですからな。これ位の素早さで動かなければこちらが間に合いますまい。」


 サンネルがそんな事を言って来る。しかもニコニコ顔で上機嫌そうなのである。


 そう言われてしまえば何も俺には言い返せ無い。


「・・・ああ、じゃあ、まあ、よろしく頼むよ。」


 この場での俺はそう言うくらいしかできなかった。

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