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準備はどうだい?

 俺が彼らに無理やりさせている体力づくりは悪逆非道、などと言ったレベル程では無いはずではあるが。


 それでも俺は彼らを攫いこの場に連れて来て、強制的に言う事を聞かせているのだからこれでは憲兵に詰問されても何らの言い訳も出来ないだろう。


 今の現状に彼らに救いがあるとすれば、俺が与える食事でドンドンと健康を取り戻している事だろうか。


 既にあれから五日が経っている。その間に王子様には話を持って行き、説明をしたらあっさりと貧困層の者たちを連行した事への許可が出た。

 ついでに土地の件も欲しいと説明したら無料での譲渡をされた。


 何故王家に金を支払わずに土地が手に入ったのかと言えば、ソレは見返りである。


 国の工事に貸した金、それとそこから不正で引き抜かれた資金やら、ソレを俺が調査でバカスカ発見した見返り、と言った所だ。


 要するに、この先で数十年も開拓する予定も無い土地だし、くれてやって返済代わりにした方が圧倒的に安上がり、と言った理由だ。


 俺は貸した金は別に返さなくても良い、或いは無利子で良いと言った覚えがある。

 しかし国としては沽券に関わる問題なので形だけでも整えたいと言う魂胆と言った感じか。


 要らない、使っていない土地を譲るだけでそれが実行できるのなら、計算高い者ならば直ぐに飛びつくだろう。


 とは言え、王子様はコレに少々の渋い顔を浮かべてたけども。


 渋い顔をした理由は何となく分かる。この話を持ちだしたのは王子様では無いからだ。


 俺が土地の購入を考えている話を振ったらその側近がコレに飛びついたのだ。


 丁度王子様の執務室に話をしに行った時にはその部屋には多くの文官、武官たちが居て話し合いをしていた場面だった。


 そこに突然に俺が入って行くのだからその会議は中断させてしまったのだが。


 俺の話を先に聞くと言う判断を出した王子様の言葉で文官も武官も俺への文句を出さなかったのは驚きだったけども。


 そうして土地の話になったら側近の一人がコレに対して。


「その様なモノは幾らでもくれてやる。自由にすればいい。ソレで借金が全て帳消しにできるのならば安いモノだ。」


 とか勝手な事を口に出したのだ。王子様の発言の許可を貰わずに。


 しかもだ。俺の事が嫌いである様で物凄く睨んできながらである。


 俺はコレに対して王子様に「良いのか?」とだけ確認を取ったけれども。

 王子様は大きな溜息と共に「仕方が無い・・・」と項垂れてしまった。


 言質を取るだけでは信用でき無かったので王子様の直筆で先程の側近の言葉を書類に纏めて書いて貰う。

 そう、王子様に直筆で、である。


 そんな事は普通はしない。絶対に。だけども俺はここでちゃんとその書類を作らせてハンコまで押させた。王家の紋章入りの。


 内容を再確認した後にソレを受け取って直ぐに退室させて貰った。

 孤児院や訓練校を作ると言った話を一切せずに。


「と言う訳で、俺はこの無限の土地を手に入れたも同然、って訳だ。だって書類には「幾らでも」って文言が入ってるしな。言質も取ってあるから誰にも文句は付けさせないぞ、っと。」


 とは言え、まだ校舎を建てる気は無い。孤児院もだ。


 何せまだ一期生たちが仕上がっていない。体力的にも、精神的にも。


 そう、心構えと言うモノは必要だ。彼らは今目の前の「体力づくり」に精を出している。それだけで心の中は精一杯なのだ。


 だからそこに余裕が生まれて来た時に、俺から宣言をしなくちゃいけない。


 これからは勉強の時間だ、と。


 寝た切りだった者たちの世話もある。彼らはまだ激しい運動が出来ない。


 食事はかなり摂取できる様になったのでベッドの上、或いは椅子に座ったままで出来る筋力トレーニングを取り入れて体力づくり、体つくりをさせている。


 この筋トレ知識は偶々サラリーマン時代にテレビを付けた時にやっていたのを見たのでソレを取り入れている。


 この命が危なかった者たちは俺に「救われた」と言った認識が強く、こちらの言う事には素直に従って動いてくれるので指示が楽だ。


 動かせずにいた体が自由にできる様になった喜びに満ちている。毎日が素晴らしい、と言った感想まで口に出して来た事に少々の心配があるけれど。


 さて、彼らに物を教える「教師」が必要なのだが、そこはクスイとサンネルに良い人物が居ないかを聞いている。

 その時になったらその教師たちをこちらに受け入れたいと言った旨を伝えてある。

 しかしそれがいつになるかはまだ見通しは立っていない事も。


 それでも了承をしてくれた二人には感謝である。


 それと追加で師匠に、マクリールに魔法の教師をして貰え無いかと言った事も相談しに行っている。


 一応はこれにも了承を貰えたので幸先は良い方だ。


 戦闘面での才能が開花した者の為に刃物や弓などの扱いを教えられる教師を揃えたいと思っているので、そこら辺を今度ギルド長のミライに指導員としての冒険者の派遣などを依頼してみようかと考えている。


「・・・ああ、やる事が多過ぎる。何で俺は自分を追い詰めるような事を毎度の事・・・」


 新しい事を始めようとする時は衝動に駆られて動き出し。

 そこからはアレもコレもと思いつくがままにあっちこっちに飛び回ってと。


「いや、これ俺、楽しんでる節あるな?毎回と同じパターンで同じ事を言ってやしないか、俺?」


 そんな事はまた忙しく事が先に進んでいる間に忘れてしまうのだろう。


 人とは愚かな事を繰り返す、確か誰かがそんな言葉を遺していた様な。


 とは言え、もうそろそろ俺はまた動き出さねばならない。


 教えると言ってもだ。黒板も無ければノートとペンも無い。机も椅子も用意できていないのだ。

 まだまだ揃えなくてはならない物が多い。青空教室をする、と言った事もオツだと思うけども。

 しかし教科書なんかも用意していないので何とも言え無い。


 準備が全然進んでいないと言って良い。


 そこでそれらの材料の確保だ。


 教育の内容としては取り合えず一期生は何とかなる。その数はそこそこ多いけれども。


 専門知識を教える前に小学校レベルの教育を先ずは基礎として進めるつもりだからだ。

 それならば色々と揃っていない状況でもある程度の形は直ぐに付けられる。


 だから先に諸々の教育を進めやすくする消耗品道具を揃えたかったが。とは言え。


「木を勝手に切り倒して禿山にしちゃうのは駄目だろうから何とかしないとな・・・いや、何とかできるじゃん余裕で。」


 俺は魔改造村の自宅横に植えたメルフェの木を思い出す。どうにも過剰に俺の魔力を吸収して急激に滅茶苦茶大きくなったあの木を。


 ソレを考えると木材などは俺の魔力で幾らでも量産できそうだ。

 しかしどうにもソレをするのは止めておきたかった。


「お金だよ、お金。俺はソレを世の中に還元する為の施設を作ろうとしてる訳だから、俺一人でそこら辺を金を掛けずに揃えちゃうのは、どうなのよ?」


 ちゃんと街には木材を取り扱う店が、問屋があるのだ。

 そこで買わずして自前で用意してしまうのは流石にどうかと思えた。


 そう言った店にお金を落とせばその店の売り上げが上がり、そこで働く従業員へのボーナスも出やすくなると言うモノだ。

 その店一つでは動く金額が何て事が無い数字でも、関連した店にも俺が買い物をして売り上げが上がる店が増えれば?


 一時的な事ではあるかもしれないけれども、そんなお金の動きが集まれば大きなうねりとなって景気の良さと言った事に繋がるだろう。


 塵も積もれば山となる。大河には必ず源流があり、ソレは大抵最初は小さい流れから始まっている。


 お金を使うタイミング、そして場所は間違えてはいけない。

 今の俺のやろうとしている目的を忘れてはならない。


 ソレは貯金をばら撒いて世の中へと還元する事である。


「うーん、校舎や孤児院も建てるのは職人さんに頼んだ方が良いよな、普通は。」


 けれども俺は余り時間を掛け過ぎるのは無しにしたかったのでコレは考え物だ。


 俺が構想する今回の計画もかなり壮大だと言う認識はある。


 普通にやったら何時終わるのか?そんな分かったモノでは無い事に対して俺が待てないのだ。俺の方が我慢が出来ない完成まで。


 俺は既に国からの許可を貰い、この見渡す限りの、そのまた先の何処までもを「幾らでも」使えるのだ。

 夢が無限に広がると言うモノである。


「・・・王子様はその事をちゃんと考えていたっぽいけどな?そもそものこの提案をしてきた側近はそこら辺の事までは全く認識できてないみたいだったけどなぁ。」


 あの時の王子様の顔を思い出すと、どうにもそこら辺を解っていてこの証書を書いてくれていた様に思う。


 俺がやる気さえ出せばこの一面の、地平線の、そのまたその先、もっともっと先、その果てまでも開拓できると。


「今度王子様にメルフェの実を差し入れしに行くか。」


 そんな事を考えながら今日も一日ずっと第一期生の体力づくりを指導した。


 その翌日も基礎体力作りだ。飯を食べさせ、走らせる。老若男女問わず、関係無しに。


 しかしこれまでに誰も、一人として逃げ出したり文句を言って来たりする者が出ない。

 皆何故か真剣な表情で走るのでこれには俺も流石に疑問になり始めた。


 どうしてこんな短期間にその様な顔つきに変わったのかが分からないのだ。


 全員がやる気になっているのは良い事なのだが、どうしても俺には納得し難い。


 彼らは俺に無理やり走らされているのだ、しかも毎日。ついでに言えばずっとだ。


 誰かしらが根を上げて弱音を吐くくらいはしても良いのに、誰一人としてそんな様子が見られない。


 だからちゃんと聞いた。休憩時間中に。俺は声を出して全員に聞こえる様に質問を飛ばす。


「何でそんなにヤル気になってるの?俺の言う事を信じた、って事で良いのかね?」


「・・・別にそんなのは関係ねぇよ。あんたが言った事なんて信じちゃいない。けど。」


「けど、何?」


「走る代価に飯を食わせてくれてる間は従ってやるさ。」


 先日に「何者なんだ」と俺へと聞いてきた男がそんな答えを述べてきた。

 俺はそれに「ああ、そう言う事か」とここでやっと納得した。


 朝昼晩と飯を食べ、一日の終わりには風呂に入り、そして安全な屋根の下でグッスリと眠れる。

 その様な生活を捨てるなど以ての外なのだ彼らには。


 その代わりに俺の言う通りに走り続ける事になろうとも。

 今後に何をやらされるのか分からずとも。


「うーん、納得はしたけど、俺は、カナシイなァ。ちょっと位は俺の言った事を信じてくれてる人とか居ないの?」


 今は昼食を食べた後の休憩時間中である。俺はその男、名前は知らん。そいつともう少しだけ話す事にした。


「アンタの口にした事を信じてる奴なんて一人も居ねえよ。まあ、トンでも無い変態だって認識だな。」


「人の事をいきなり変態呼ばわりか・・・まあ、否定はできんな。」


「・・・否定しねぇのかよ。それに怒りもしないのか?何を言えば取り乱す?」


「何を俺に求めてるの?別にその程度でとやかく言わないよ。俺の事はどう捉えて貰っても結構。その内に嫌でも思い知るからね。」


「何を思い知らせてくれるんだ?もうこれ以上アンタが何をしようが驚きゃしないね。」


 いきなり目の前に「銭湯」が建つ所を彼らは見たのだ。そこら辺の点で言えばもう彼らの常識に当て嵌めればそれ以上に驚く事は無いと、そう思うのは仕方が無いだろう。


 他にも勝手に体を操ったり、いきなりこんな平野に一瞬で移動させられたり、コレだけの人数の食事を連日用意したりしている。

 この男の目は「もうネタ切れだろ?」と言った感じの呆れを含んでいた。


 こんな会話をしていれば休憩時間も終わりだ。その日の残りの時間も暗くなり始めるまで再び走り込みをして貰った。


 そんな翌日には休息日にした。各々で好きに過ごして貰っていて良いと、そう告げたのだが。


「おい、俺たちに休日?どうしろって言うんだそんなモノ。」


 文句を付けられた。昨日会話したあの男だ。


 俺はこれには「えぇ・・・?」と逆に困った。


「連日走ってるんだから、体を休めれば良いんじゃないの?一日寝続けていても良いし、誰かとお喋りしてても良い。朝風呂、昼風呂、「銭湯」に入ってゆっくりと体を温めても良いんだぞ?飯は用意してあるから、食べたらそのまま二度寝しても三度寝しても何も俺は言わないけど?」


 銭湯は無料開放している。なので遠慮無く風呂に入って体の疲れを抜いて貰って良いのだが。


「ここに連れて来られる前の俺たちがどんな生活してたのか忘れたのか?」


 そんな指摘を受けてしまった。確かにそうだった。俺はその事をスパッと記憶から消していた。


「あー、あー、スマン、すまんな。何をすりゃ良いのかも分からんのよな。だったら・・・子供たち用には遊具を作っておくか。大人たちには、何が良いかね?女性には刺繍とか?男性用には、本?読書?・・・こりゃあ適性やら趣味何かを聞き出しておかないとダメだな、うん。」


 貧困層である。今を生きるのに必死で余暇など無く。

 休むと言ったらソレは「死」と直結である。


「じゃあ、ほら、名前、何?君の。・・・え?そんな事を今さら聞いて何だって言うんだ、って?君が纏めてくれこの集団。どうやら俺に物怖じせずに意見が言えるじゃん?それで、名前と、それと趣味は?」


 この問いかけには非常に嫌そうな顔で男は「バーズス」と名乗った。

 しかし趣味に関しては教えてくれなかった。


 なので別の方向に視線を向けて偶々目が合った女性に代わりに趣味を聞いてみたらビクッと怯えられてしまった。


「・・・お花が、好きなんです。色々な花々を、育てるのが・・・好き、でした。・・・今は、もう・・・」


 怯えられた後にしっかりと、しかし弱弱しい声でそう答えた彼女の名前を俺は聞いた。

 すると「ジュリム」と名乗ってくれた彼女。しかしその目は下を向いていて俺の方を見てはくれない。


「うーん、何か俺信頼されて無いねえ。まあそうか、じゃあ先ずはジュリムの願いを叶えようか。とは言え、ちょっと準備が必要だから、まだ暫くは待ってね。あ、俺は今日は他の用事を済ませて来るから、個人面談はまた今度ね。」


 俺はそう言ってワープゲートでマルマルに入る。


 今日はサンネルに付き添って貰って「買い物」をする予定なのである。アポイントメントは既に取っておいてある。


 前日の食事休憩中にワープゲートでチョチョイのちょいと移動で。


 この様な事はこれまでならクスイに頼んでいたかもしれない。しかしクスイばかりに頼ってしまうのがちょっと申し訳無く思ったのだ。


 そうしてサンネルの所有するあの倉庫兼事務所へと足を運んだ。


「ようこそエンドウ様。では、先ずは何をお求めで?」


「木材だね。それこそ、その店にあるの全部買い取る感じで。」


「・・・本気で御座いますか?」


「本気で御座いますねぇ。」


 そんなふざけたやり取りをした後はサンネルと共に敷地を出る。


 道案内をサンネルに任せてその後ろを付いて行く俺。


 目的の木材店に到着までの間にサンネルが質問をして来る。


「それだけの大量の木材を何にお使いになられるので?」


「まあソレは当然に気になるよな。うーん?鉛筆に、ノートに、木の繊維で教科書作ったり?魔法でパパッとやって数を一気に揃えたいからさ。ああ、それと、サンネルは景気が良くなるのは好きか?」


「・・・ええ、ソレはもう。わたくし商売人で御座いますので。しかし、それが何か?」


 俺の突拍子も無い質問にもサンネルはしっかりと答えてくれる。

 しかしその目は笑っていない。


 俺が何をこれからしようとしているのかを見極めようとしている。


「木材店の次は布を扱ってる店に行こう。そこでまた買う。そんでもって、そうだなぁ?次は取り合えず手あたり次第に屋台で食べ物を根こそぎ買いこもうか。あ、でもカード使えないんだっけ屋台?後でサンネル、立替えとかして貰えるか?」


 一応はクスイから例の銀行カード?を受け取ってある。

 コレもパパッと昼休憩中に取りに行ってあったのだ。


 取り合えず今この口座に入っている金額をゼロにする気持ちで爆買いする予定なのである今日は。


「・・・買った荷物は如何為さいますので?」


「あー、そっか。でも、まあ、この際だから良いか。」


 俺はサンネルにインベントリを見せる事にする。しかしソレは木材を購入した時だ。


 これまでにサンネルとは何度か取引をしている。その経験から「驚き」は抑えてくれるだろう。


 あんまり騒がれたり、このインベントリの事が大勢の人たちに知れ渡ったりするのは嫌ではあるが。


 サンネルならそこら辺は別にそう言った事にはしないだろう。


 そう言う訳で到着した木材店にてサンネルに先に話を通して貰う。


 いきなり何者かも分から無いだろう俺が喋っても店主は只々疑って来るだけだろう。


 けれどもサンネルならばそう言った事を避けられる。


 サンネルは商売人だ。そしてその商売は成功している。知名度がある。


 そんな人物が嘘でも詐欺でも無く「店の木材を全て購入する」などと言えばどうか?


 何か新事業でも起ち上げるのかもしれないと思って木材店の店主も納得をするはずだ。


 そうしてサンネルに売買成立まで持って行って貰ったら支払いである。


 この店はカード決済機で支払いができる。ここで俺がササッとカードを読み取り機へ。


 店主はこれにふと疑問に思う顔をするのだが、もうここまで来た流れで決済機を稼働させる。


 サンネルが支払いをするのではなく、何処の誰かも知らない男がカードを取り出して払おうとするのだ。

 その際に直ぐに「おかしく無いか?」と疑問に思うのは当然だろう。


 だけども流れは止まらない。支払いが完了すると店主は。


「えー、毎度あり。では、そちらさんの従業員がウチまで来て順次運び出すので?大量に在りますから数日程度では全て運べないと思いますよ?こちらに保管している間の倉庫の利用料金などの契約はどうなさいますか?」


 店側としてはこの機にもっと金を稼ぎたい。それこそ、数日では運び出せない程の量の木材だ。

 残した木材をずっと置いている間の期間の倉庫の使用料金を求めるのは妥当で。


 それこそ倉庫の大きさも膨大で、その数も三つと、その利用料金を考えると相当な額になりそうだが。


「いえ、全て今日中に持ち帰ります。」


 そんな答えをした俺に対して「は?」と、何を言ってるんだコイツ?みたいな顔を店主はしてきた。

 店主はサンネルに聞いたのであって、俺に対して聞いたのでは無いのだからこんな反応をされても当たり前で。


「では、倉庫に案内して頂けるだけで結構です。その後はこちらで全て済ませますので。」


 そんな店主にサンネルがそう言って案内を求める。

 これに困惑を隠せないながらも店主は俺たちを倉庫前へと連れて行ってくれる。


「さて、では中に入らせて貰います。ああ、内鍵を掛けさせて頂きます。ここからは企業秘密なモノで。」


 サンネルはそう言って店主を外に置いて俺と一緒に倉庫に入ると扉を閉めて鍵を掛けた。


「よし、それじゃあ一気に行くか。ほらヨッと。」


 瞬時にインベントリの中へと木材は吸い込まれて行く。次元に開いた裂け目へと。


 この光景を目にしたサンネルは無表情になった。


「よし、次だ。」


「・・・はい、そうですね・・・」


 どうやら相当にショックだったらしくサンネルの反応が鈍い。

 けれどもソレを無視して二つ目、三つ目と倉庫の中の木材を一つ残らずインベントリに入れた。


 ここでの目的は達したので直ぐに俺たちは木材店を後にする。


「店主はきっと今頃は唖然とした顔で立ち尽くしているのでしょうな・・・」


 店からそこそこに離れた地点でサンネルがそんな言葉を呟いた。


 一先ず木材はコレで良いとして、次は布関係だ。針やら糸も購入しなくちゃいけない。

 第一期生の中には裁縫が得意な者が居るかもしれない。


 居たらその者に裁縫関係の仕事を振って服やら何やらを作らせると言った事をさせるつもりである。


 そう言った得意な者が居なかったら他所から裁縫関連の教師を連れて来る予定としている。


 そうして次に向かう店への道すがらにある食い物屋台の食事を片っ端から買いこんでいく。

 そのままソレをインベントリに入れるのではなく、先程買った木材に魔力を流して成型した器を作って、それに入れてからインベントリへと詰め込んでいく。


 屋台はこれに早い時間で店仕舞いとなるだろう今日の所は。

 だって買った量が半端無いのだから。


「迷惑だったかな?どう思うサンネルさん。」


「いえ、喜びはすれど、困ると言う事の程では無いでしょう。まあ、買い求めに来た他の客には残念な結果を与えてしまう事になるかもしれませんが。」


「ああ、そうだよな。まあそこは諦めて貰うしか無いな。そんな日もあるさ、って。」


 そうやって到着した裁縫店は総合商社的な感じで道具もあれば服も売るし、布も売ると言った感じで店の規模はかなり大きかった。


 ドレスや宝石、アクセサリーなども扱っていて「ファッションの事ならウチが一番!」と言った感じである。


「じゃあ、ドレスは買わないし、宝石やら装飾関連も要らないから、それ以外を大体全部で。お願いしますね。」


「・・・畏まりました。」


 これではサンネルが俺の召使の様であるが、一応は今回の付き添いには報酬を渡す予定になっている。


 それがあるからこうして素直に俺のお願いをサンネルは聞いてくれているのだ。


 こうしてサンネルは店員に対して店主を呼ぶようにと要請している。


 ここでも俺のやる事は支払いと購入品をインベントリに入れるだけである。


 こうしてサンネルが交渉を終えて俺がカードを出せば即座に契約、支払いは完了。


 購入した品をドンドンと持って来て貰い、俺のインベントリに次々に入れて行って貰う事となったが。


 そのままインベントリをここの店の者たちに見せる気は無かったので大きな袋を用意、それで偽装とした。


 まあ袋の容量以上に物を詰め込んでいるのにドンドンと品が吸い込まれる様に無くなっていく様は異常、異様な光景だし、ソレもソレで余りこの件を世間に広められるのは困るのだが。


 そこはサンネルだ。抜かり無い。どうやらちゃんと店主とは既にこれには話を付けていた様だった。


「よし、次は鍛冶屋に言って諸々の道具類の購入とかしようか。ナイフやら鍋やら、鉄製品は何でもカンでも、かな?」


「何でも、ですか?」


「ああ、そうだな。釘もそうだし、ノコギリも?それと後はトンカチに、えーっと、後は何があるかな?思い付きで作って貰うとか言うのもアリだな、アリ。」


「大工道具、と言う事で?」


「いや、それだけじゃ無いけどな。剣とか防具なんかも購入しておきたいね。取り合えず店に在る品はほぼ購入って感じになるかな?」


「残高の心配は・・・まあ、するだけ無駄ですな。」


 サンネルはそんな遠い目をした。まあ確かにこれだけ使っているのにも関わらず俺の貯金額はまだまだ減ったと言える程に数字は減少を見せていない。


 寧ろ今もまだ増え続けていると言っても過言じゃ無いのだ。

 魔力回復薬の売り上げが出れば出る程にこの数字はドンドンと上がっていくのだ。


 しかもこれからもずっと。


 そのドンドンと自動で増え続ける数字の消費先を作り上げる為の一環でこうして各所で爆買い中なのである。


 もっと様々な物を買い漁って訓練校での教材として使える様にしておく為の買い物だ。

 過剰と言える位に買い集めるのは後で「アレが無い、コレが無い」と言った時に対応し易い状況にする為だ。

 孤児院も、訓練校も、スタートダッシュで躓かない様にしておく為の処置である。

 まだまだ思いつく限りの様々な店を回って色んな物を購入していく予定だ。


「じゃあ鍛冶屋の後はサンネルのオススメの店に案内して貰っても良いかな?俺じゃ思いつかない物が売ってる店とかが良いな?あ、雑貨屋も後で寄らなきゃな。」


「分かりました。では、徹底的に参りましょうか。エンドウ様には「ソレ」がありますからなぁ・・・」


 サンネルは俺のインベントリの事を指して「ソレ」と言ったのだろう。

 これが有れば荷物持ちなど無用なのだ。商売をする者にとっては「ソレ」は垂涎の的であろう。


「それじゃあ宜しく。次に行こう。」

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