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沢山あり過ぎると迷うしかない

 店の裏に向かいそのまま住居スペースに入る。勝手知ったる他人の家である。


 そこで俺はゆっくりと待ち時間を過ごす事に決める。

 何せマルマルに戻ってきて、少しもゆっくりしていない、ここまで。


「うーん、さてと、こうして時間を作ったんだから何か今後の事を考え纏めておくか。」


 思い付いたら即行動、あっちにこっちに飛び回りと忙しなさ過ぎる。

 それは俺のせっかちな部分がそうさせるのだろうか?

 別に自分自身ではそんなに生き急いでいるつもりは無いのだが。


 どうしても思い付いた事を直ぐに実行しないと何だかもやもやしてしまうのがいけない。


「クスイに例の件の事を話したら、王子様の所に行って許可を貰って、土地を買って・・・あ、いや、下見はしないと駄目か。町から遠すぎてもダメだろ?いや、近すぎてもダメか?孤児院を中心に据えるか?それとも訓練校を中心に考えるか?孤児たちには仕事を与えるにしても、あー、でも、子供は元気に遊ぶのが良いよなぁ?仕事、勉強、遊び、んん~、バランスはどうすれば良いかな?この世界の基準で考えてそこら辺は調整すべきだよなぁ・・・」


 俺は教育の専門家では無いのだ。こうして頭の中だけで先ず構想を練ろうとすると悩む事ばかりである。

 こうした事はやはり専門家に頼んだ方が良いのは分かっているが、さて、そうした知り合い、コネが無い。


「職業訓練と言ってもなぁ?何が良いかね?とは言っても、あらゆる分野を網羅しておきたいよなぁ。・・・あ、コレは全部詰め込もうとするとヤバイな?際限が無くなりそうだぞ?」


 考えても見ればそもそも訓練校とは言っても、そこは勉強の「基礎」を孤児たちに教える所から始めなければいけないのであって。


「文字、計算、後は礼儀作法?言葉遣いもしっかりと教えないと駄目だよな?・・・おや?簡単に考えていたけど、本格的に根本から考えていこうとすると規模が膨れ上がるぞ?」


 見通しが甘過ぎる。アホと言われても言い返せ無いレベルだ。


 しかし俺はコレを実現させたい。だが孤児院を作るにしてもだ。


「そこに入る子供の人数は?その上限、下限、与える食事の栄養バランス・・・子供たちの監督役も探さなきゃいけないよな?勉強をさせるにしても、何から?文字はもちろんで、算数?絵本とか知育玩具なんかも揃えるか?・・・お、お、お、おおお・・・ヤバい、ドツボに嵌まるな、コレは。」


 サンネルがこの件の実現に十数年、或いはもっと年数が掛かると言ったのが良く分かった。


 余りにも簡単に、軽く考え過ぎていた俺はここで深く反省せざるを得ない。だが。


「いや、諦めんけども。先ずは王子様にコレの件と土地の事を話して意見を貰うか。しょうがねぇ、しょうがねぇよ。」


 取り合えずはこうして暫く俺はあーでも無い、こーでも無いと悩み続ける。


 そうしていると中へと入って来る人物が。


「おや?エンドウ様、お久しぶりですなぁ。何か御用ですかな?どうにもお悩みの御様子でしたし、深刻な問題が?」


 ソレはクスイだった。俺はここで丁度良いと思って何の前触れも世間話も無しに孤児院と職業訓練校の話をしてしまう。


 一方的に俺だけが喋り続けてしまい、説明をし終えた時には「突然過ぎた」と反省した。


「あー、スマン、いきなりこんな事を聞かせるつもりじゃ無かったんだよ。でも、ついつい。」


「いえいえ、素晴らしいお考えです。何時もエンドウ様の御考えは規模の大きさに圧倒されますが。」


 椅子に座ってジッとこれまで俺の話を聞いてくれていたクスイは苦笑いでそんな返しをしてくれる。


 ここで俺はそもそもクスイに話しておくべきだと思った本来の話題の方の説明も始める。


「あー、話突然変えちゃうけど。良いか?あのさー、俺の口座から国に金貸してるじゃん?事業費用。ソレを今日さ、突発で監査して来たんだよ。それで、そのー。ぶっちゃけ、不正をしている奴がわんさか居てな?そいつらの断罪で一時的に計画の凍結をするかもって事で金を止めるかもしれん。王子様にもそこら辺はどうするかは任せてあるから。後でクスイがその件で話し合いで城に呼ばれると思うんだよ。何か、仕事増やしちゃったみたいになってスマン。」


「・・・そうですか。いえ、見て見ぬフリをしていた私もいけないですね。この様に大規模に国へと金貸しをするのであるならば、そう言った事にもしっかりと目を向けて見張っておかねばならなかった事ですし。寧ろ私がその様にエンドウ様に直接そんな仕事をさせてしまった事を謝罪しなければならないです。申し訳御座いませんでした。」


 クスイが頭を下げて来たので俺は「いや、イイよ」と言って軽く流す。


「そこまでクスイが責任を背負わなくて良いんだよ。俺が無理やり丸投げしてクスイにやらせてるんだから。俺があんまりにもクスイに甘え過ぎた結果だからな、コレは。俺が寧ろもっとしっかり管理しておかなきゃいけなかったはずなんだ。俺の責任だよ全部。クスイが謝る事は無いんだ。」


 その後はクスイに俺の「孤児院と職業訓練校」の考えにアドバイスなどを少々貰う。


 土地の件に関してはやはりサンネルから教わった内容と同じだったので王子様にでも頼めばここら辺の許可は下りるだろう。


「サンネルに相談しに行ったけど、クスイと大体同じ事を言われたんだよな。やっぱ実現には十数年以上掛かるってクスイも思ってるか?」


「・・・いえ、寧ろ五年程度で安定し始めるのではないでしょうか?エンドウ様の御力があれば建築に関しては時間など掛からないでしょうし。問題はその建てた物の中に何を詰めるのかを決める事に時間が掛かりそうです。」


 クスイのこの意見は俺の悩みに突き刺さる。確かに中身が重要だと考えている俺も同じ気持ちだ。


「そうだなぁ。二つ同時にやろうとするから考えが纏まらないんだよな。先ず孤児院を作って、子供を集めて、教育者をそこに呼び込んで、勉強させて、後は、それから、それから・・・うーん?」


 最初から全て上手く行くなんて事は無いのだ。やってみなくちゃ分からない。


「何で俺の中身はこんななのに、賢者様とか言ってくる奴らが出て来るのかね?」


 自身のポンコツ具合に俺は一つ大きく溜息を吐く。


 ここで思考を切り替えて俺はクスイに話を振る。


「仕事が忙しくて方々を行ったり来たりしているんだってな?今日はどうしたんだ?ここの店はミルに任せたって聞いたけど?」


「ええ、そうなんです。そんな忙しい仕事の合間が出来て今日明日は休みにしておりましてね。娘と食事を摂る約束になっていたのですが。」


 店は賑わいを見せている。魔力回復薬を入荷したからだ。

 どうにもこのブームは終わりが見えない。客の数は相当なモノだった。

 需要と供給が釣り合っていないと言わざるを得ない。


 そこを俺はクスイに指摘してみた。生産を増やす事はしないのかと。


 その返しがコレだった。


「ええ、そうですな。そうすればもっともっと売り上げが出るでしょう。ですが、私から言わせて頂くと、余り「客」と言うモノを甘やかし過ぎない方が良いと思っています。」


「あー、それって、世間がこの魔力回復薬に対して過剰に反応し過ぎだ、って言いたいのか?」


「まあ、似た様なものであると思います。私の掴んだ情報によれば、どうにもむやみやたらに騒ぎ立てている者たちが居るとの事です。その者たちはどうにも「転売」をしているらしいのです。」


「あー、ソレはちょっと難しい問題だなぁ。そう言うのの取り締まりなんかも出来ないかぁ。」


 組織立って商品を買い占めて市場に出回る数を人為的に減らし。

 そうして手元に集めたその商品を高値で他所に売り捌く。


 欲しいと願う者はその割高な値段であっても買いに走る。


 市場からそうやって真っ当な商品の数が減れば、本当にその商品が必要な者へと出回らなくなると言う「害」が発生する。


 転売をする者たちは「自分さえ儲ければ他はどうでも良い」と言う思想、性格、考えの元にそれを行うので、どの様な批判をされても響かない。

 自らの人生にマイナスの多大な影響が出る様な事が無ければソレを止める事をしない。


 クスイはここで苦い顔をしながら話を続ける。


「もちろん、出荷数を上げに上げて世間に溢れんばかりにすれば、そう言った転売の割高な値段に飛びつく者と言うのは居なくなるでしょう。そうすれば買占めした者たちはそれらを売り切る事が難しくなって破綻すると言った事もあるでしょうが。」


 世の中に出回る数が増えれば、本当に必要としている者の手に届く。

 ソレは良い事ではあるけれども。


「その後はどうなりますか?世間に溢れんばかりになったら、今度は誰もが「いつでも買える」とその内に思い始めて購入を見送る客が増え、売り上げが落ちる事もあるでしょう。そうなればその後は増産を停止して生産数を減らして行く流れになるはずです。この様な安易な世の中への一時的なそうした応急対処をすると工場で働く従業員たちの負担にしかなりません。それこそ増産の為の工場を増やすなどと言う選択肢は以ての外ですので。」


 客よりも従業員の安定の方が大事。一時的な売り上げ超アップよりも長期的な安定度の方が余程大事。


 転売で儲けようとする者なんてそもそもこれまでに幾らでもいて、何処からでも湧いて出て来ていた。

 そんな輩に振り回されずにドンと構えて商売をする。

 クスイはしっかりと自分の成すべき事を分かっていて、ソレをちゃんと貫いている。


「あー、クスイの考えは良く分かったよ。俺が口を出すなんて百年は早かったな。」


「いえいえ、エンドウ様は寧ろ口を幾らでも出せる立場です。何せ開発から何から何まで関わっているではありませんか。」


「いやいや、クスイが居たからだろソレは。薬だけ作って後はほぼ全部クスイに任せちゃった俺が何かを言える資格は無いだろ。」


「・・・エンドウ様、本当にそう思っていらっしゃるので?」


「え?」


「全てはエンドウ様がいらっしゃらなければ実現していなかった事です、今の現状は。そしてこれから先もこの魔力回復薬でどれだけ世間が変わって行くでしょうか?それは全てエンドウ様の存在あってこそでしょう。」


「大袈裟過ぎる・・・」


「エンドウ様こそ、謙虚に受け止め過ぎでは?」


 妙な所で認識が合わない。だけどもまあクスイの言っている事はきっと間違っていないんだろう。

 俺なんかよりもよっぽど頭が良くてキレるクスイである。きっと俺の方のコレがズレた考え方であるはずだ。


 ならこれ以上はこの件を語るのは止めだ。


 とここでミルがどうやら仕事を終えてこちらの部屋にやって来た。


「あ、お父さん、一緒に食事だったっけ?忙しくて忘れてたわ。あ、エンドウさんも居たんですね。何か重要なお話しだったりしました?」


「いや、今さっき終わった所だ。それじゃあ俺はお暇しようかな。家族水入らずでどうぞ、どうぞ。」


 俺はさっさと退散した。ミルが俺が部屋を出て行く際に「え?あの!食事を御一緒しませんか?」とか言って来てくれたが。

 ソレを俺は「また今度で」と言ってササッと断った。


 別に食事を一緒にしても良かったけれども。しかし俺は一人でもう少しだけ考えたい事があったのだ。


 とは言っても別にそこまで大層な事って訳では無い。


 ここマルマルでどれだけ保護を必要としている孤児たちが居るかと言った問題である。


 そこで俺は直ぐ動いた。空を飛んで上空から町の貧困区と見られる場所を視界に捉えたのだ。


 それに加えてその区画に対して魔力ソナーを広げて細かい所まで詳細を捉える。


「・・・あー、結構な数が居るな。子供だけじゃ無くて大人もそりゃ、居るよな。ホームレスってな。」


 俺はここで一気に孤児院へと収容する数を把握しておく。だけでなく。


「死なれちゃ困るんだよ。随分と衰弱して動けなくなってる者たちが多いじゃ無いか・・・」


 大人も子供も関係無い。こうして気にしてしまったからには。


「よし、それじゃあ全員やっちまうとするか。」


 偽善者、そう言われても言い返せはしない。

 これまで気にも留めなかった者たちを今さらに救おうと言うのだから。


 こういった事は国が片づけるべき問題であって、俺と言う個人がやる事じゃ無い本来ならば。

 だけども、もうこうなったからには徹底的にやるつもりだ。


「中途半端にしない為に全部取り合えずやるけど。後で選別は必要だしなぁ。どうすっかね?」


 俺が今やろうとしている事は単純だ。

 今この時点で魔力ソナーで認識した孤児、浮浪者、貧困層を全て「魔力固め」で操って一つ場所に集めて食事をさせるのである。


「先ずは栄養たっぷりのスープからか?固形物を摂取出来無さそうな程に消耗してるのも居るよなぁ。」


 色々と問題はありそうだったが、ソレは俺の魔法で何とかしてしまえる。

 俺の魔力を纏わせて無理やり操つるのだし、その魔力で当人を「強化」してしまえば良いだけである。


 インベントリの中にある食材は全部放出だ。手あたり次第に「スープ」に変えて一纏めにしてしまえば良い。

 味は考えない。取り合えず手っ取り早く飲ませてしまう事にする。

 固形物を消化させる負担を負わせない。水分と一緒に栄養を余す所無く吸収させるつもりである。


 こうして始めた俺の「偽善事業」。貧困区に居た者たちが一斉に一つの広場に集まり始める。

 老若男女問わず全ての者がまるで軍隊の行進の様に列と歩幅を整えて。


 そうして集まった広場に整列して立たせた者たちの口を一斉に開かせる。


 魔力で操っているので俺のやりたい放題。その開いた口の中へと俺が魔法でチャチャッと即行で作ったスペシャルな栄養スープが流し込まれる。

 一々スープ皿を使って配給の形など取らない。


「うん、終始どこからどう見ても、聞いても、ホラーでしかないな、この光景は。」


 ぱっと見で百人以上、もっと居るだろうか?そんな数を無理やり動かして強制的に食事?を摂らせたのである。

 その光景はどう見ても異常なものだっただろう。


 そしてそんな当人からすればそれは有難迷惑、と言うよりも、只の恐怖体験だろう。ソレも超絶と頭に付く。


 身体が勝手に動き、そして他所を見れば自らだけでなく、他の者たちも同じ様な状態とか。

 そこで全員が一つ所に集まったと思えば勝手に口が開き、その中に正体不明な物が流し込まれるのだから混乱と恐怖で喚き暴れたい所だろう本来なら。


 それでも自分の意思で体を動かせずにその状況を諾々と受け入れなければならないと言うのはどれ程にその正気を失わせる事だろうか?


 それがまだ健康をギリギリ保てている者であったならば、まだ耐えられたかもしれないけれども。

 餓死寸前の者だったならばどうだろうか?もしくは病気で弱った者など。

 そこは空腹や痛み苦しみで死にかけの精神である。発狂しても良いはずだ。


 いや、発狂するだけの体力も残っておらずにそうした者の精神はこの事を受け入れてしまうかもしれない逆に。


「まあ俺が魔力で操ってるし、その体も強化してるからな。そんな死にかけの者であっても早々に死ねないけどな。」


 体力の無くなっている死にかけであっても、俺の魔力を纏わせて強化してあるのでこれ程の運動をさせても即座にその症状が悪化、のち、お陀仏、と言った事も無い。


「それじゃあ今の内に「面接」ってのをしちゃいましょうかね?」


 俺の魔力固めから抜け出せる者は居ないだろうこの場には。

 なので俺は時間を掛けてこの場に集めた全員の記憶を読み取る作業を始める。


「久しぶりにこれやるな?脳内シアター。さて、これ全員終わらせるのにどれだけ時間かかるかな?」


 犯罪者を此処で弾く為だ。コレはやっておかねばならない事である。

 俺は罪を犯した者に慈悲をこれ以上くれてやる気は無い。


 とは言え、生きていく為にやむにやまれぬ事情を抱えていた者は除く。


 働かせてくれる所は無く、金を得られずに、明日を生きる糧も見つけられずに、追い詰められて盗みをしてしまった、とか。


 病気の身内の薬を買う為にスリをして金を貯め込んだ、などなど?


 取り合えず俺の基準で「まあ、コレはしゃーないやろ」と言った判定の者たちは救うつもりだ。


 そうして俺の判定で「アウト」な奴等はこの広場から別の所へと一纏めにしておくべく移動させた。

 後でそいつらは衛兵に突き出す所存。その後の処分に俺は関わるつもりは無い。


「えー、さて、残った人たち、おめでとう。君たち、貴方たちは俺が救いの場を用意しますので、もう暫くはこの状態を我慢して貰います。取り合えず、強制です。皆さんの意見や拒否は受け付けませんので。あ、病気を患っていた人は治療を施しておきましたのでもう心配は要りませんよ。それと、痛めていた部位がある方も同様にそこは治療しておきましたのでこれからは問題無く動ける様になっていますよ。良かったですね。それじゃあ移動しましょうか。」


 俺はワープゲートを出してこの場の全員を移動させた。


 こんな事をする者を本来は「傲慢」だとか「暴虐」などと評するのだろう。


 人権はどうした?プライバシーは?生きる権利は?自由意志は?


 そう言った全てを置き去りにして俺は自分の考えを実現する為にこうして多くの人々に理不尽を成す。


 コレに巻き込まれてしまった者たちからすれば堪ったモノでは無いのは承知だ。

 自分が同じ事をされたら同様の憤りを覚えるはずだから。


 だけどもしょうがない。コレばかりは。俺に目を付けられた事には運の尽きと思って諦めて貰う事とする。


 そうしてやって来たのは街の外。草原と荒野の混ざる場所。そこそこに街からここまで遠い。

 そこに俺はドンドンとコンクリート製の家を建てていく。もちろんこれは魔法でである。


 地震被害を受けた人たちの受け入れ施設みたいな感じである。

 簡易型の内装などをこれっぽっちも考えない単純な形の四角い家が並び立つ。


 そんな家屋に俺はここへと連れて来た人たちを仕分けして入れていく。


 インベントリを全開放してベッド、テーブル、椅子と最低限だけは出していく。


 一応はまだ体力を回復出来ていない貧弱な者も居る。

 先程に食事を与えたからと言ってそれが直ぐに体に吸収されて健康になると言う事は無い。


 なのでそう言った者を寝かせておくベッドは必要だったし、家の中に何も無さ過ぎると言うモノ何だか俺が落ち着かなかったので全ての家の中にそのくらいはと思って揃えていく。


 ここに連れて来た者たちの素性もその性格も把握できているのでそれらを元にしてドンドンと仕分けは進む。

 家族、兄弟、姉妹、友人、仲間、などなどと言ったカテゴリ訳だ。


 プライバシーなども考えての事であるのでコレは諦めて貰う所である。

 一人一つの部屋と言うのは俺の方でソレを用意するのが面倒だ。いや、一瞬で用意は可能だけれども。


 ここで親しい間柄の者たちを引き裂く様な事はする意味が無いし、一人一人を細かく管理すると言った気も無いので別にやってる事はおかしい事では無いのだが。


 そして一軒一軒に水のたっぷり入った樽。それと桶とタオルをたっぷり用意してソレで体を清潔にする様に告げていく。


 全員をそうやって収容し、準備して、勝手な事を言うだけ言ってから一斉に解放した。


 ここでアナウンス。


「えー、文句のある方、怒り心頭の方などが居りましたら、今ここで家の中から出て来て俺に直接文句を言いに来てください。この時間だけ受付けます。」


 ハッキリと聞こえているはずだ。これは魔法で空気を振るわせて漏れ無く全員に届く様に告げているから。


 でも何故か自由になっていると言うのに一人も家の中から出て来る気配は無い。


 当然だろうこの反応は。恐らくは恐怖だ。


 俺が何者か全く分からず、そしてこの様な真似を誰の抵抗も無く成し遂げた力を持っている相手に何を言えようか?と言った所だろう。


 恐怖支配、そう言った現象が今ここで発現しているのと一緒である。

 文句の一つも付ければ我が身がその瞬間にどの様にされてしまうか分からない、そう言った感想を持っているんだろう。


「食事は後程、そうだな、四時間後に持ってきます。それまでは各々で話し合いなり、相談なりしていて結構です。自由です。あ、身体の方はしっかりと拭いて清潔にしておいてください。それじゃあ俺はちょっと用事を済ませて来ますので。」


 俺はここでワープゲートでまた街の中へ移動する。


 何の説明も無く彼らの所から俺が一時的にでも居なくなるのもプレッシャーに感じる事だろう。

 これから何をされるのか分からない。逃げ出した方が良いのでは無いか?いや、食事を与えてくれると言っているからもう少し様子を見た方が良いのでは無いか?


 恐らくはそんな話が顔見知り同士でされているかもしれない。


(そう言った細かい部分まで把握しようとは思わないからね。充分に議論をしてくれてオッケー)


 逃げ出す者も居るだろう。逃げ出せない者もまた居るだろう。

 彼ら一人一人の状況はどれも同じでは無い。


 誰かに縋るしか生きていけないと言った、体を壊して動けなかった者も居る、居た。


 そんな状態に居た者は当然に逃げ出せるはずも無い。


 と言うか、みすぼらしい恰好で街の外に出ている状況で逃げ出した所で街に再び入る事は叶わないだろう。

 金も無く、毎日を只生き延びるのに必死になっていた者たちだ。

 当然門番には止められて、または最悪捕縛されて牢の中だ。


 牢の中に入れられた方が寧ろ良い、と言える程の路上生活をしていた者たちが多いくらいである。

 そこを思えば、俺が作り与えたあのコンクリ家から出て行くと言う事はまあまず不可能だ。


「うん、非常に質が悪い。まるで悪い冗談だ。自分が悪党になったみたいに感じる。」


 いや、実際に言ってしまえばやっている事は人攫いと同じである。

 コレは早々に王子様に相談しに行かないと駄目な案件だろう。


 とは言え、今日は別だ。これから買い物だ。

 大量の服。これを購入するつもりである。


 当然それらは攫ってきた彼らの着る服である。俺が着る為のモノでは無い。


「と言う訳で、クスイ、お願い!」


「・・・いえ、まあ、エンドウ様はいつも突然ですからねぇ。今更にそこは驚きませんが。」


 まだ居たクスイの所に行って用意をして欲しいとお願いする。


「全部エンドウ様の懐から出るのですから私には多少の手間しかかかりませんので構いません。この程度の事は命を助けられた恩を思えば簡単過ぎる事ですからな。」


「いやー、毎度の事スマン。世話になってばかりでな。申し訳無く思ってるんだけどな。」


 そんなやり取りをして食事を終えてゆっくりしていたクスイが立ち上がる。

 早速動いてくれると言う事で俺と一緒に服屋へと赴く事に。


 店に入れば手もみゴマ擦りで店主と思われる者がクスイへと近づいて来る。


「店主、この店にある服、中古品で構いませんので、限界でどれだけの数出せますか?」


「・・・へ?ああ、いえ、ザッと、えー、これ位で。」


 単刀直入、クスイの言葉に一瞬呆けた店主だったがそこで瞬時に持ち直し答えを返す。


「では、ソレを全部お願いします。どうですかエンドウ様?」


「うん、じゃあここに運んで来て。この袋にドンドンと入れて行ってくれ。」


「え?・・・只今!」


 俺とクスイのやり取りで瞬時にこの店主は理解した様だ。俺の方がクスイより立場が上。


 そこからの行動は早かった。従業員に指示した店主は店の奥から在庫を次々に運び出してくる。


 ソレを俺の袋に偽装したインベントリにバサバサと放り込んでいく光景だ。


 怪しい、と言う言葉がぶっ飛ぶその光景に従業員たちは何か聞きたくても聞けない状況である。


「口止め料も料金に乗せてください。・・・言っている事は御分かりですね?」


 クスイがそんな言葉を口にしたからだ。店主も従業員もこれには口を閉じるしかない。


 そうして作業は終わり、支払いも恙無く終わりと、これにて用が終わった俺とクスイは店を出る。その際にクスイが店長へとにっこりと笑いかけた。

 コレを受けた店主、従業員一同は口元を引き攣らせて「ありがとうございました」と俺たちを見送るしかない。


「・・・エンドウ様、余り「ソレ」を無闇に人に見せない方が宜しいと思いますぞ?」


「ああ、すまないな。一応は控えてるつもりだけど。今回は大目に見てくれ。」


 クスイに少々の説教を貰って買い物を無事に終えた。

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