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護る為に、転ばない様に先に杖を

 例のヤクザ者たちの事はどうするか?ソレを俺はキョウに相談した。


「とまあ、事情はこんな感じでさ。リーロを嵌めた奴等って言うのがまだしつこく狙ってるみたいでな。ソレをどうにかしたいと思うけど、どうしたら良いかね?」


「証拠を掴んで政府に提出するのが筋の立った対応だとは思います。しかしその程度で一掃できる相手であれば、そもそも今こうして生き残ってはいませんね。巧妙に証拠を残さない、或いは賄賂などを使って役人に証拠を握り潰させている、などと言った場合も考えておかねばなりませんか。面倒ですねその場合は。」


「店を直接壊そうとしてくるだけなら別に良いんだよ。俺が守ってるし。だけどさ、リーロに直接被害とか、雇った従業員たち個別を狙っての嫌がらせ、或いは怪我をさせたり脅したりとかまで行くとさ、ダメじゃん?ゆっくりと安心して心行くまで服作りを頑張って欲しいと俺は思う訳だ。」


 後一か月、俺は期限を決めてあった。もちろんそこら辺の事はキョウにも、ケンフュにも、機関長にも伝えてある。

 リーロにも区切りを与えないと何時まで経ってもアレも作りたい、コレもと言って制限無く作り続けてしまって止め所が無くなる。

 なので一旦はと言う事で発表の場も作るのだからと言ってしっかりとソレまでにはキリの良い所までは完成させておいてくれと頼んである。


 因みにダグには今回の件は一切教えていない。


 ダグは今ぐーたら生活をしていると言う事らしいのでそこに水を差すのは如何なモノかと思って声掛けをしなかった。

 ついでに言えばダグは服に興味が一切無さそう、と言う俺の偏見もそこに付いているが。


 今回のリーロに服を作らせているのは秘密、と迄は行かないが、無理ない程度にはこの事を隠して計画を進めている。


 キョウの伝手で従業員になってくれた人たちにはこの件の事を余り人に言い触らさないで欲しいと言ってあったりする。


 だけどもまあ完全に隠そうとしている訳では無いので、何処からか噂が流れたりして事が伝わったのか?

 ヤクザ者が現れて以来、頻繁にそいつらの仲間と思われる奴らが店に嫌がらせをしにしょっちゅう来ていた。


 リーロを嵌めた奴らが何時まで経っても店に変化が無い事を気にして調査でもして発覚してしまったのかもしれない。


 とにかく奴等はリーロが店を手放さない事がどうにも気に入らないらしく、連日店から出て行けと言った事を喚いている。

 道理も無い、不条理な事をリーロに要求し続けるヤクザ者たちにいい加減呆れて俺は「潰しちゃおうかな?」と思ったのだけれども。


「裏で役人と繋がっていると厄介ですので、様子見を続けておくだけにしましょう。私が伝手を使って色々と上に掛け合って見ますのでエンドウ殿は待ってください。」


 とキョウに言われているので我慢している所である。


(リーロはもう借金は完済してるんだから文句を言われる筋合いは無いだろ。しかも何ら関係の無い店の事で出て行けとか言う資格がこいつらにあるはずも無いのに。・・・いや、まさか借りても居ない金の証文を偽造してくるとかは、流石に無いよな?)


 そこまで行ったら問答無用だ。容赦は無し。殲滅である。

 その様な真似をする集団は社会に存在する価値は無い。


 そんな事実も無いのに虚偽を生み出してソレを根拠に金の徴集をして来ようとする組織などこの世の害悪でしかない。害悪その物である。

 そんな存在を俺は許さない。許す気は無い。


 リーロは借金返済した後はその金貸しとは一切関わっていないと言っている。


 ならばこのヤクザ者たちが毎度の事にこうして店まで来て喚き暴れるのは営業妨害以上にはならないはずで。


(じゃあ何で既にこいつらの事は町中に噂されてるのに、兵士が一向にこいつらの補導、捕縛にやって来ない?)


 キョウの言っていた「役人と繋がっている」という線が濃厚になって来た。

 とは言え、そう言った物理的な面での嫌がらせ、店を壊そうとしてくる行動には俺が居るので心配は一切無いのだが。


 ここで面倒になって来るのは従業員たちが用事で外出する際だとか。

 もしくは就業が終わって帰宅の際や、帰った後の事である。いや、朝の出勤の道中もそうだ。


 奴らが店にこうして直接に来ている分にはまだ良いが。

 その狙いが店では無く、従業員たちに向かった時が危ない。


(・・・しょうがない。やるだけやっておくべきだな。やらずに様子見して気を抜いて、それで後悔する様な事が起きたら目も当てられ無いや)


 これまでに店にまでやって来たヤクザ者たちの数も、その見た目も全部覚えている。


 ここで俺は魔力ソナーを広げに広げてそいつらを捕捉する。


 従業員に護衛を付けると言った事を俺はしない。こうなれば徹底的にやってくれよう。


 護衛を付けるにしたってキョウの道場の門下生たちにその時は頼む事になる。

 だけども彼らだって完璧では無いし、彼等よりも腕っぷしの強い相手が出て来てやられてしまうと言った事も起きるかもしれないと考えてしまう。


 だからそう言った事故を起こさない様にする為にも、先ずは最初に俺の手で徹底的に相手の動きを止める。魔法で。物理的に。


 こうして俺の記憶にある、店に襲撃を仕掛けて来たヤクザ者たちは全員「魔力固め」で動けなくさせた。


 この事を後でケンフュに知られたら説教を受けるかもな?とか思いはしたが、解除なんてしない。


「さてさて、相手はこれにどう動いて来るかな?これにビビッて引っ込んでくれたら一番楽なんだけどな。」


 後はキョウの言っていた「上に掛け合う」がどう転ぶかによるだろう。

 そこで御上が「手出ししない」とか「捕り物は困難」などと言って腰を引いた答えを出そうものなら俺がやってしまうつもりでいる。


 リーロの証言だけを信用してこの金貸しを「悪」と一方的に断じてしまうのは確かに危うい。

 一方の言い分だけを信じて動いて、後でソレが本当は虚偽の証言でした、などとなれば目も当てられ無い。


「悪、悪ねぇ?だけどこいつらが一々ここまで来て店を壊そうとしたり、罵声やら怒声を浴びせているだけで充分なんだよなぁ。」


 やっている事が悪党のソレである事でこのヤクザ者たちに正義は無い。

 向こうの言い分に少しでも正当性があると認められる部分があったとしたなら、手心を加えるのも吝かでは無いが。


 でもこの分だと一切のそう言った所は無いと思われるのだ。

 このヤクザ者たちが店の前にまで来る頻度と、口から吐き出すその汚い罵り言葉で。


「店を壊せないって分かった途端に物凄く不機嫌になって舌打ちした所も、な。」


 ヤクザ者たちは最初に家屋を壊そうとして壁に得物を叩きつけていた。

 けれども俺が魔力で覆っているから壊せるはずが無い。


 そこでそいつらは非常に困惑をしつつも壊そうとする行動を止めたりはしなかった。

 余計に必死になって破壊しようとより一層に力を籠める始末で。


 そうやって暫く続けて本当に壊せない事を体感した後は忌々しそうにして奴らは「クソッ!どうなっていやがる!」と吐き捨てている。


 もしかするとその事でこの店の評判を落とす為に「呪われている」などと言った噂を流していたりもするかもしれない。

 直接に壊せないなら、そう言った信用性の下落を狙って店を、リーロを追い詰めると言った事も平気でやって来そうな奴等だ。

 噂の流布、拡散は馬鹿には出来ない。そう言った方法は手間は掛かるが、金は掛からず、しかしその効果は結構悪質になるモノだ。

 良い事も、悪い事も、どちらも噂になると人の間を流れ流れてその内にその内容が激しく変質する。コントロールが難しいので時には予想外の問題も発生する事もある。


 例えば、思い込みの激しい者が、人から又聞きした話を信じ込んで勝手な正義感を燃やして周囲の者たちを巻き込んで暴走する、などと言った早まった行為をする奴が居ないとも限らない。


 この町の人口がどれだけ居るのかは知らないけれども、大勢の人が生活してるのだから、そんな輩が一人でも、二人でも、存在して可笑しくは無いだろう。


 そうなったらその中で真実を知るのはその件の当事者と、詳しい調査をした者だけと相場が決まっている。


 そして噂を払拭する為の真実を広めようとそうした者たちが動いても、大抵は大概の者たちが「半信半疑」でしか話を聞かないものだ。


 暴走して「自分が思っている事が全ての真実」などと決め付ける者はこの様な当人の説明を聞いた所で絶対に信じる事は無いだろう。


 自分の見たいモノだけを見て、都合の悪くなるモノは受け入れない。

 こんな相手に説得を試みようとするだけ端から無駄なのである。


 噂と言うのはそれだけ強い力なのだ。ソレをばら撒かれた時点でコチラの苦労が倍以上確定になる代物である。


「ばら撒く噂の信憑性がその時は重要ではあるけどさ。」


 ヤクザ者たちがもしこの店を「呪われている」などと宣伝したとすれば?


 確かに破壊しようとしているのに一向に壊せない家屋などを「呪われている」と評されたら、それは「確かに」としか一般人には言い様が無いかもしれない。


 たったのそれだけで巷では勝手に尾ひれ背びれが付いて、その結果にどの様に話が盛られるか分かったモノでは無い。


 人の口に戸は立てられぬ、などと言うが、本当にその通りだと思う。


「・・・だけど俺が本気を出せばこの町、この国の人間全員の口を「魔力固め」で動かなくさせられるんだよなぁ。ソレをしても魔力は全く減らないし、お釣りがくる所じゃ無いんだよなぁ。実質無料?・・・うん、どんなバケモノです?ソレ?」


 出来はするが、やりはしない。そんな事をしたら「呪い」の信憑性を上げるだけだ。


 そんな馬鹿な事を考える余裕が俺にはある。どの道でどの様な真似をこのヤクザ者たちがしてくるかは日が経ってみない事には分からない。


 噂の収拾も出来なくは無いが、別にソレを必死こいてする必要も感じ無い。


 こうして店とリーロや従業員たちの安全を守っていれば良いのだからそこまでする必要も無い。

 今後は今後で何か対策を取らねばならなくなった時にソレはソレで考えれば良い。


 ===  ====  ===


 さて、俺はリーロに服を作らせている間、別にずっとこの国だけに居た訳では無い。


 神選民教国に行ってメリアリネスに何か問題があったりしていないか聞いてみたり。

 ノトリー連国に行ってコロシネンに政策の普及具合を聞きに言ったりもしている。


 魔改造村に行ってみれば生活は既に安定していて俺の出る幕は既にそこに存在してはいないし。


「・・・でもなぁ?俺が植えたメルフェの木がね?うん、何で「この木、何の木?」を超える様な大きさになっちまってるのかがサッパリだよ?地中の魔力、しっかりと抜いたはずだったよな?・・・だよな?」


 オマケに木に生っている実の数は半端じゃない。完熟している様で木の周囲には甘い強烈な香りが充満していた。


 流石にコレは不味いと思って即座にその実を全て回収しはしたが。


「もうこれ、一生分くらいあるのでは?どうするんだ?コレの処理・・・」


 と言う訳でメルフェの実を処分する為に知り合いの所に片っ端から回りに周って御裾分けしていたりする。


 シーカク国や帝国などの知り合いは取り合えず受け取った皆が皆で誰もが同じ反応をして来るのは面白かった。

 メルフェの実は高級、しかも超が付く代物である。受け取った全員が全員で「本当に良いのか?」と最初は盛大に驚いた後で訝しげな顔になり、その後に少々悩んだ挙句に俺の事を一瞥してから「しょうがないか」と半ば諦めた様にして受け取るのだ。


 一応はその際に俺の口から「腐る程ある」と伝えると皆ドン引きしていた。ソレは要するに嘘や冗談などと思われずに「事実」として相手が受け止めていると言う証拠だろう。

 俺が普段にどんな生活、行動をしているのかを具体的には知らなかったとしても、ソレは皆に何となくでも「こいつはヤバい奴」と認識されていると言う事だ。


 神選民教国ではメリアリネスやアーシスが「沢山欲しい」などと言ってきたりもしたが、完熟していてインベントリから取り出すと傷みが早くて無駄に捨てる事になっちゃいそうだからとその求めをスパッと断った。

 その時には「また今度と言わずにもっと頻繁に持って来てくれ」などと勢い良く迫られた。

 どうにもメリアリネスのストレスは相当に溜まっている様で、そこに必死さが現れているのが恐かった。甘い物で癒されたいと願っているんだろう。


 砂漠の国、サハール。ここではドロエアーズとアラビアーヌにはもちろんの事、テンソウにもメルフェの実を御裾分けしている。

 その際には国には無い珍しい果物だと、その香りと甘さで驚かれた。


 久しぶりに会ったメキルラーナと対局をしてみたりもして、その際のオヤツにはメルフェの実を出した。

 この時のメキルラーナの感想は「メキメキと頭に栄養が!?」と何だか意味不明な喜び何だか驚嘆何だかの叫びを頂いている。脳に糖分が充分に回ったのだろう。


 こんな御裾分け回りだったけれども普通に喜んでくれた者は一人だけ居る。


 ノトリー連国、その町の一つに棲んでいるあの少女だ。ラメカと言う名前の狼と戯れていたあの子である。


 今はその祖父に貴族たるは何かという事を教えられている。

 勉強を頑張っていればご褒美にメルフェの実を持って行くと約束していた。


(まだ俺はその少女の名前すら聞いちゃいないがね)


 そこら辺に一切の興味の無い俺はこれまで一度も名を尋ねた事は無い。

 しかしそれでもコミュニケーションは取れている。ソレで良いのだ。

 メルフェの実を渡したらさっさと退散している。家にお邪魔すると言った事をしてはいない。

 パパッと渡したらササッと引く、ノトリー連国は既に俺が居なくても順調にレールの上を走り始めている。


 これに俺が出る幕は無い。後の事はコロシネンが頑張って欲しい所だ。それとその息子に。


 と言う訳でコロシネンにもメルフェの実を渡しているのだが。

 早速そこで休憩を入れておやつとしてメルフェを食べたコロシネンは滅茶苦茶静かだった。

 ただ一言「美味しいですねぇ・・・」と、只それだけの感想を口にしただけ。

 しかしそこには何だか不思議な重みが含まれていて、ソレを聞いた俺は何だか自然と口から「お疲れさん」と言った労いの言葉をコロシネンにかけていた。


 コロシネンの息子の名前は確かデリトル?だったか。そいつは終始メルフェの実を食べている間はずっと何をどう思っていたのかは分からないが、終始キョドっていたけれど。


 ===  ====  ===


 と言う訳でそんな日々を過ごしつつも予定の日の三日前となった。

 ここは千年機関の建物がある、あの無駄に広い何も無い敷地である。


 武侠組合の職員、キョウの道場の門下生、千年機関の術師たちがこの場に集まっている。

 彼ら彼女らはその出来上がった服を着るモデルなのだ。


 リーロとその従業員たちが作り上げた新しい服のお披露目会、の前の試着、その最終調整をする為である。


 そう、俺はファッションショーを計画している。


 あの競売を見ていたから思いついた事だった。アレだけの広さがあれば大勢に新たな価値の創造と言うモノをその目にさせる事が出来ると。


 今日までにケンフュとは何度も話し合いを持った。

 俺がやりたい事のイメージを言葉で、図で、そして俺の記憶から引っ張って来たファッションショーの映像を魔法で投影した映像を流して見せてと。


 その映像を見た時のケンフュのギョッとした驚愕の顔は非常に面白かった。

 きっと想像だにしない様なデザインの服を初めて見た事での脳内への衝撃が酷かったんだろう。

 かなりの長時間をずっとそんな調子で硬直していた。


 いや、もしかしたら俺の脳内映像を鮮明な画像で壁に映し出した事に単純に驚いていただけかもしれない。


 さて、こうしてこんな場で最終調整の為にモデルに服を試着させているのはもちろん情報を外に漏らさない様にする為。

 それと広い場所を確保したかったのと、出来上がった服を実際に外で着てみた際の見た目の印象などを確かめておく為もあったりする。


 職員たちと門下生たちは俺がワープゲートで連れて来ている。

 その際には非常にドン引き、アンド、驚愕をされたが、そこは気にしない。


 ケンフュとキョウに今回の協力者を集めて貰っていた。一応は信用できて、口が堅く、服に興味のある者たちだ。

 これには「条件が変に細かい」などと言ったツッコミも入れられたりしたが、予想外にも結構な数が立候補してきて全員採用していたりする。


 術師の方も似た様なモノだ。機関長にお願いして募集を掛けて集まった者たちだった。


 もちろんタダ働きさせる様な事をさせてはいない。

 協力してくれた者たちには今回制作した中で気に入った服と、装飾品をそれぞれ一つずつ報酬として与える事になっている。


 服や装飾などにもしっかりと興味を持っている者たちが集まってくれているので、この条件でオーケーを既に全員から貰っている。


 と言うか、この程度の協力で貰える報酬としては余りにも高い、とかケンフュから注意を受けたりもした。

 使っている服の生地が高い、そこに追加で装飾品も安い方などとは言っても、払い過ぎだと。


 そこを「俺が持っていても仕方が無いからな」と言って納得させた。

 俺は服道楽などでは無い。この一張羅のスーツだけで充分だと本気で思っている。

 他の服は要らない。と言うか、着替えるのが面倒になっているだけだが。


 今回作った服をインベントリに大量に保持していても「箪笥の肥やし」である。意味が無いのだ。

 折角作った物ならば、着てもらう事が本望と言うモノだ。

 だから協力してくれた者たちにパパッとばら撒いてしまえと、そう言う訳である。


 さて、協力者のケンフュ、キョウ、機関長の三名にも専用の衣装をプレゼントしている。

 ソレを着て三名にもランウェイを歩いて貰う予定だ。


 しかしこれに不満の声を上げる者たちも居る。ダグとミャンレンである。この場には居合わせていないが。


 二人にはこの話は振らずにずっと居たのだが、その内にバレた。


 ダグは独自の情報網を使って偶然にもこの話を耳にしたらしく。


『何で俺に声を掛けなかったんだ!こんな面白そうな事によ!』


 コレはダグの言なのだが、その中身はファッションショーの事を言っている訳では無い。

 あのリーロを嵌めた組織の事を言っているのだ。

 その組織を潰すのに自分を何で誘ってくれなかったんだ、と言った内容である。只の暴れる為の言い訳が欲しかっただけと言う、なんとも言え無い理由である。


 俺が魔力固めで店を壊そうとして来た者たちを一人残らず動けなくさせた事で事態が動いたのだ。


 キョウが以前に「上に掛け合ってみる」などと言っていた事があるのだが。

 犯罪組織の構成員たちが突如に原因不明の金縛りに遭ってその多くが動けない状態だと知ったキョウが、コレをどうやら俺のやった事だと察したらしい。

 ここで「今がチャンス」とその伝手で政府関係者を動かしたそうだ。


 そうして準備をあっという間に終わらせて電光石火でその組織にガサ入れ、証拠回収、組員はその場で捕縛、逮捕、それに逆らって来た者は「斬り捨て御免」と言った過激対応、そんな感じであっと言う間な流れで問題は解決したらしい。


 ダグはこの件にお呼ばれされなかった事を憤っている。


 キョウはこの捕り物に腕の立つ門下生たちを十名程連れて行って戦闘に参加していたそうだ。

 そんな後にキョウが道場に戻った際にコレを目撃してミャンレンが一体何事だと説明を求めたらしい。


 そこで全ての経緯を話してしまったキョウ。ミャンレンがここで「私も新しい服が欲しい!」となった訳だが。

 時は既に遅かった。ミャンレンの服の分まで制作する余裕はその時点で無く。


 そもそもミャンレンは鍛錬に明け暮れていて俺の事も、キョウの事も、門下生たちが駆り出されたあの日の事も分かっていなかったのだから、その時点でもう遅い、である。


 結局はあの「三日後」と言う約束の日に再びミャンレンが例の「遊び」にチャレンジしたけれども、結果は三回やって、その全てが失敗で終わっている。


 この悔しさに闘志を燃やしたミャンレンがその後の日々で自身が納得いくまで鍛錬を続けた事で、俺はソレを邪魔しない様にと声を掛けずにいたのだ。


 仲間外れにしていたと言った事でも無く、無視していたと言った理由でも無い。

 鬼気迫る鍛錬をしているミャンレンの邪魔をしてはならないと言った事で声を掛けなかっただけである。


 ソレを説明して、これに理性で納得はしても、感情で呑み込めなかったミャンレンはそのイライラを吹っ飛ばすためにより一層に鍛錬に励んだりしている。


 そんな事も今は過ぎた事だ。この最終調整が終わったらその次はリハーサルをこの場でする予定なのだ。


 その当日の会場は全て俺が魔法で作り出す事になっている。

 なのでこの場で本番前としてソレを本日作って皆で色々と意見を出し合う予定となっている。


「じゃあ皆、ちょっと避けていてくれ。うん、そっちに全員固まっていてくれればそれで。よし。」


 俺は一気に魔力を地面に流す。そして俺が考える今回の「ファッションショー」の会場を強く脳内に描いた。


 その後は一気に地面が変形。俺のイメージした会場へとその姿を変えていく。


 あれだ、イメージ的には「東京ガールズコレクション」である。

 広場を最大限に使って入れる人数を多くする為にひな壇の様な形の客席を作り上げる。


 どうにもこれにケンフュは納得できなかったらしく「どんだけ広くする気なのよ・・・」と溢していた。


 機関長がここで疑問を呈して来た。


「余りにも遠い場所に居る者たちには舞台に立つ者の姿が小さ過ぎて見え無いのではないですか?」


「おー、ソレはそうなんだけどさ。そこは俺が見える様にするから大丈夫。あ、それじゃあちょっと舞台袖から中央のお立ち台の所まで軽く歩いてみようか。こう言うのは慣れないと本番でギクシャクした動きになっちゃうだろうから緊張で。ほらほら、皆順番に、説明した様に並んで一人一人ゆっくりと交代でね?」


 リハーサルなのだコレは。この場に作り上げた会場はソレが終わればこの後は元通りにする。

 なのでこのリハは徹底的に協力者たちに本番に慣れて貰う為に使い倒す。


「ハイハイハイ!そこ!動きに注意して!フラフラと歩いたらカッコ悪いから!もっとビシッと!背筋伸ばして!胸を張って背中を丸めない!視線は正面!ほら!段差を怖がらない!」


 俺は一人一人に指示を出して歩き方の改善を促す。ランウェイの最後でポーズを付ける時は大胆にと指摘する。

 折り返して舞台裏に戻る時も油断せずに堂々と歩かないと駄目だと全員に周知していく。


 別に本番当日に誰かしらが失敗した所で俺はその者を叱責する気は一切無い。

 無いけれども、失敗など無い方が良い。そうならない為にこうして今はしっかりとモデルの指導をするのである。


(素人のクセに何を偉そうに、とか思うけどね俺も。けど、ショーの事を知っている、イメージできているのはこの場で俺だけだからね。監督は俺がやるしかない訳で)


 こうしてその日は三時間以上かけてリハーサルを終えた。


 今回のファッションショーの招待、宣伝は既に済んでいる。

 ケンフュの、武侠組合の協力で商人、服飾店、宝飾店、飲食店、劇団などなど、様々な職種に招待状を送っている。


 一般の人たちも入れる様にしているが、ソレは事前に組合の方で入場前売り券を購入しないと入れない様にしてある。

 今の所はその売り上げはかなり順調であるとの情報をケンフュから受けている。


 会場席が全部埋まらないと寂しいのでキョウの伝手も使っている。

 政府関係者に繋がりがあるキョウに招待券を持たせてそう言った相手、服に興味があり、良識を持つ相手に渡して貰っている。

 そう言った人物専用の特別席なども設けてある。


 道場の門下生たちも「桜」とまでは言わないが、客席を埋める為の要員として来て貰う予定となっている。

 もちろんミャンレンの席は専用で用意してある。服に相当な興味を持っている様子だったのでコレで呼ばずに入場禁止とかにしていればミャンレが発狂しかねないと思って。


「後はもう当日になって蓋を開けてみないと分からんな。ああ、楽しみだなぁ。」

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