表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/327

説明回り

 その日から忙しくなった。キョウは伝手を使ってリーロの手足となってくれる従業員集めに走って貰い。


 俺は服のサンプルを大量に持ち込んだ。新しいデザインの服を作って貰う為だ。


 これまでに俺が訪れた国々の独自の民族衣装を手当たり次第に購入してきてはリーロに渡す。インスピレーションを刺激する為である。


 この国に新しいブームを創る。しかもファッション界隈に。


 もちろんそんな新しモノばかりの開発だけでは無く、これまでのこの国の伝統的衣装も作らせる。


 そしてそんな衣装に合うアクセサリーも必要だと思って俺はカードの残高に余裕があるのを良い事に宝飾店を回りまくった。


 とは言え、そこで買ったのは超高級品、などと言ったモノでは無く、あくまでも安い金額の物だ。

 しかしそこは偽物などでは無い。本物だ。安いと言えどもこの国の一般人からしてみればよっぽど高級品な値段。


 それらを片っ端から買い漁る俺は既に巷では有名人になってしまっていて何処も俺に商品を売ってはくれなくなったが。


「何を企んでいるのかしら?さあ、吐きなさい。」


 そんな日々にケンフュからの呼び出しで組合にやって来たらいきなり部屋に閉じ込められて尋問を開始された。


「いや、後でケンフュにも協力して貰おうと思ってたから丁度良いけど。これまで忙しかったからさー。説明に来れ無くてすまんな。」


「そんな言葉を聞きたかった訳じゃありません。もう一度聞きます。何を企んでいるのですか?」


「いや、だから今からケンフュにも協力して貰いたいからその説明はするって。そう睨まないでくれるか?」


「・・・協力ですって?貴方が今どの様に商人たちから言われているか知らないのですか?そんな貴方の企み事に私を協力させたい?・・・イッペンココデシンデオキマスカ?」


「目が怖い、目が恐い、目がコワイよ~?落ち着け、落ち着けって!顔だけこっちに寄せて来るな!」


 全開にその目をカっ開いてケンフュが俺に顔を近づけて来る。

 その目には怒りと困惑と憎悪が込められている。


「貴方が湖の主を持ち込んだのだと、勘の鋭い者は既に気づいたでしょうね。接触をされなかったのですか?」


 いきなりケンフュは真面目な顔に戻ってソファーに疲れた様にドカリと座ってそんな言葉を掛けて来る。


「いや、別に隠してる訳じゃ無いし?別にバレてもそこは良いのでは?・・・あ、いや、商人が俺の所にバカスカと無遠慮に近づいて来るのは遠慮したいなそこは、うん。」


「勘の良い者だけでは無く、いずれは全ての商人にバレるでしょうけどね。遅いか早いかだけの問題です。それにしても、競売を終えた翌日から生地関連が謎の男に買い漁られるなんて現象はバカバカし過ぎてね。本当に、迷惑。しかも各店舗から。そもそも一気に卸売から買えば良いものを・・・そんな面倒な事をする意図はなんです?」


「え?別に?特に意味は無いかな?嫌がらせの一種?まあそんなとこ。」


「・・・頭が痛い・・・それで、宝石類や装飾品の事も、同じ理由ですか?・・・ソレで何がしたいんです?好い加減に吐きなさい。」


「いや、宝飾類は別に嫌がらせとかじゃ無く、ほら、コレの中の残金からその値段の層の物を買い揃える位しかできなかったと言うか?そのおかげでお金がそこを突いたけどね。」


 未だに俺が何をしたいのかと言った事を言わなかったのがいけないのか?

 ケンフュは「頭が痛い」と言って眉間を揉んでいる。


 そこで俺はついでと言った感じで湖の主、その残り、胴体は何時になったら買取をできる位に落ち着くのかと質問してみる。


「競売終えたばっかりだけどさ、胴体どうする?まだ金勘定は終わってない感じ?」


「馬鹿を言わないでください。そんなのはまだ考えられる様な状態などではありません。」


「じゃあ頭蓋は売れなかったのか?競売では商品として出なかったみたいだけど。」


「・・・アレは暫くここに飾っておいて後に好事家に売り払う予定です。大勢の目に触れさせておけば「珍しい物」として有名になりますからね。高値を付ける為の措置ですよ。」


 確かに博物館にでも飾っておけれるレベルの珍しい物とは言えるかもしれないが。

 只の飾りとして置いておくにはデカ過ぎる代物では無かろうか?そんな感想しか出て来ない。


 まあだからこそに好事家などと言われる者たちが購入するのだろうけれども。


「で、私の質問にはまだ一切答えて貰っていませんが?・・・吐け・・・吐きなさい!」


 いきなりの剣幕でケンフュはソファから立ち上がり俺に掴みかかろうとしてくる。どうやら好い加減にキレたらしい。

 しかし俺はソレを魔力固めで止めてから説明を始めた。


 俺がコレからやりたい事、しようとしている事をここでケンフュに全て聞かせる。


 ソレが終わってから俺はケンフュの魔力固めを解いた。


 すると疲れた様子でケンフュはソファーにドカリと力無く座る。


「そんな事をする為に私に話を?嘘でしょう?本気でやるつもりなのですか?・・・馬鹿だ、馬鹿げている・・・」


「そうだなぁ。組合が受けるその費用は、湖の主の胴の金額の半分でどう?まだドタバタしていて買い取りはまだ先になるだろうけど。それで契約書を作っても良いよ?」


「・・・魅力的な金額ですが、正直言って、やりたくは無いですね。でも、断れば貴方は・・・」


「うん、この話を別の所に持って行くね。そうだなぁ、あ、機関長にもこの件に関わって欲しい部分があって・・・」


「タリフートともその分だと友好関係を?と言うか、貴方が一方的に向こうに迷惑を掛けているだけでは?」


「え、その認識酷くね?向こうから相談を俺に持ち掛けて来たんだぞ?何らの迷惑も俺は向こうに掛けちゃいないぜ?」


「信じられませんね、貴方の言葉など。・・・とは言っても、この件を他所に持って行かれても困ります。良いでしょう。ウチの主導でやります。契約書を作りましょう。」


 そう言ってケンフュは手を叩いて合図を出す。すると部屋に女性が入って来た。

 その手には恐らくは契約用に持ってきた用紙、それと筆記用具である。


 机に並べられたソレにケンフュはサラサラと流れる様にして文を書いていく。


 ケンフュはソレを完成させた後に俺に例のカードを出せと言って来た。

 何をどうするのかと思いはしたが、素直に俺はそれを取り出してケンフュへ渡す。


 そのカードを先程書いた書類にケンフュが押し付けた。


 しかし何も起こらない。コレを不思議に思った俺。顔にその事が思い切り出ていたんだろう。


「術よ。書いた文字がこれに写し取られているの。特殊な墨を使っているから結構高いのよね、この方法。でも同じ文章の書かれた書類を二枚用意するのは面倒だから。こうして簡易的な確認印代わりに使っているわ。」


 それは仙術を利用した技術の様だ。どの様な理論や理屈で発動するのだろうか?ちょっと面白そうである。


 とは言え、今ソレを学ぶ時間では無い。契約は成った。


 もうここには他に今は用は無い。また少し服の制作がある程度進んだらここにもう一度話を詰めに来る事にする。


「それじゃあ次は機関長の所に行ってくるよ。」


 俺はそう言って部屋を出る。これにケンフュから盛大な溜息で見送られた。

 ケンフュの俺への嫌悪感剥き出しな態度は別段気にしない。寧ろコレだけ堂々と前面に出されていると清々しいくらいだ。


 と言う事で、俺はワープゲートを使って千年機関へと移動する。ワープゲート先は以前に機関長と話をしたあの部屋だ。


「うん、とは言え、いきなりこうしてアポも取らずに入り込んじゃうのは不法侵入だなぁ。けど、来ちゃった。」


 俺はそもそも興が乗ると行動に抑制が効かなくなる方向にある。

 以前のサラリーマンをしていた頃はこの様な事は一切無かったのだが。


 こちらの世界に来て、そして魔法が使えて、姿も若返って、これまでに色々とあり過ぎて、俺の根本的な所が大きな変化をしているんだろうきっと。


「さて、部屋には誰も居ない。機関長に取り次いで貰いたいんだけど、何処に行けば良いかね?」


 いきなり誰にも何も言わずに来たのだから当然だ。誰にも伝えていないのに俺が今日ここに来る事を誰が知ると言うのか?


 と思ったら部屋に誰か入って来た。その人物は。


「ああ、エンドウ殿でしたか。いやー、驚きました。いきなり次元移動の警報音が鳴りましたからね。一番最初に駆けつけたのが私で良かった。騒ぎになる所でした。して、いきなりの御訪問、何用で?」


「あ、そう言うのあるのね。うん、御迷惑をお掛けしました。と言うか、こっちから連絡を入れる場合はエルーに先ず一言いうべきだった?まあしょうがない。勢いだけで不法侵入しちゃったからなぁ。」


 機関長は苦笑い。しかし数名がどうやら警報音の確認の為にやって来たのか部屋へとゾロゾロ入って来た。


「機関長、何事ですか?」


「いや、君たちは戻って構わない。お客人が来ただけだ。私が対応するからこの場は。何も無いと触れ回っておいてくれ。これから彼と話をする。この部屋に誰かやって来ると話が面倒になりそうだから近づかない様に言っておいてくれ。」


 機関長のこの言葉に何とも言え無い表情になって職員たちが去っていく。

 これには俺はちょっといきなり過ぎた事を反省して機関長に向き直る。そして本題を語る。


「まあどうって事無い話なんだけどさ。服に興味ない?」


「・・・ハイ?服、ですか?・・・ここの職員たちは、私を含めてこの制服しか着ていませんからねぇ・・・誰もそう言った部分に頓着が無いでしょうね。」


「あれぇ?ちょっと位は有ると思ってたんだけど、当てが外れたなぁ。」


「どうしてそんな話を?」


「あー、ごめんな。忙しかっただろ?俺の対応に時間取って貰ってスマン。」


「いえ、別にその様な事は気になさらずとも。それで、何故、服なのですか?」


 俺は今回の事の経緯と、これに機関の人たちにも参加して貰ってちょっとしたレクリエーションとして気晴らし?楽しんで貰えたらなと、そんな突発的な思い付きを伝えた。


「ソレ程に大量に?しかも宝飾類も・・・エンドウ殿は何故そこまで突拍子も無い事を実現しようと?」


「いや、全部突然の思い付きだな。うーん?衝動とも言う。まあ人助けって部分もあったし、大金を懐に仕舞い続けて使わない、ってのはこの国の金の回りを悪くするだけだろ?だからどうせならパーッと使って、誰もやらなかった事をして、ソレをお祭り騒ぎにでも出来たら楽しいかな?って。コレが火付けになって新しい文化が発生したら面白そうじゃん?あー、でも、無責任、とか言われるとソレはソレで言い返せ無い所あるね。」


「・・・いやー、考え付きもしませんでしたね。新しい物を生み出す、ソレは確かに素晴らしい事です。ちょっとワクワクしてきました。どの様な服があるのでしょうか?ここ以外の国、その伝統衣装、確かに面白そうです。興味が出て来ました。世界は広いはずなのに、この機関の中だけを見つめている自分が少々恥ずかしいです。もっと自分の思い付きもしない事が世界には溢れているのでしょう。ソレを体験してみたくなりました。」


「興味が湧いたならな俺が連れて行っても構わないけどな。と、その前に、機関長にお土産だ。」


 俺は魔力回復薬をインベントリから取り出してテーブルに置く。


 この一連の流れに機関長はギョッとした顔で驚いている。


 恐らくはインベントリの事で驚愕したのだろう。けれども俺はソレを一切説明はしない。


 説明するのは魔力回復薬の方だ。


「なあ?もしよかったらこの国の「仙術」をもっとしっかりと見せて貰え無いか?俺と機関長で互いに発動する術に何が違うのかを比べて検証しよう。俺はそもそも「仙人」なんかじゃないんだ。俺は「魔法使い」でね。この国の魔法使いの呼び方が「仙人」なだけなのか、それとも根本的に何かが違っていたりするのか?そこら辺を詳しく調べてみない?機関長が消費した力は「これ」で回復できる。やってみないか?」


 以前に仙術師とか言った者に襲われてその「仙術」なるモノを俺は食らっている。

 まあ何らの被害も受けなかったが。


 その時には別の事を考えていて詳しく調べると言った事は思いついていなかった。

 なのでここで魔力回復薬を機関長に飲んで貰う口実としてこの様な事を提案してみたが。


「怖ろしいですね・・・一体エンドウ殿は何を企んでいるのです?この小瓶に入っている液体で、気を回復できるのですか?どれ程を?それに、魔法使い、ですか。ソレは興味をそそられますね。」


「回復薬はその時に飲んでみてのお楽しみって事で。さて、じゃあ術比べで遊びましょうか。」


 こうして俺たちは外に出る。この施設の外は何も無い広い敷地だ。派手な魔法をちょっと使ったくらいではどうって事は無い。


 機関長は派閥の件でそこそこなストレスを溜めているみたいだし、コレでパーッと仙術を使って鬱憤を放出してくれたらなと思う。


「じゃあ先ずはちょっと肩慣らしをして行こう。障壁はこれぐらいで良いかな?・・・良し、それじゃあ機関長、思いっきり全力を出してこれに一発撃ち込んでくれて良いぜ。」


 俺は目の前に魔力障壁を張った。

 ここで機関長は怪しくニヤリと笑う。


「・・・良いのですか?怪我をしてしまうかもしれませんよ?」


「ああ、その心配は無いよ。機関長の溜め込んでいる鬱々とした感情をぶつける感じでどうぞ。」


「ははは!エンドウ殿には敵いませんね。ならば、この機会に吐き出させて頂きましょう。遠慮はしませんよ?」


「よっしゃこい!」


 その後に構えた機関長は右手を前へと伸ばして、その手首を左手で握る。

 機関長のその視線はずっと俺の出した障壁に固定されている。


 少しすれば機関長の全身が小さく震え出した。どうやら力を相当に込めている模様。


 するとこちらに向けられた右手の平の中に薄青い透明な球が発生しだす。

 ソレは次第に大きくなっていってその内にバスケットボール程の大きさへと成長した。


「行きます!」


 その掛け声と共にその球は発射された。それは俺の障壁とぶつかり合って周囲へと衝撃波を放つ。


 ジッと俺はその様子を観察し続けた。球と障壁は互いの持つ力を押し付け合っていてソレが反発力になり、空気を振るわせている。

 その震えが周囲に伝播してびりびりとした空気が何処までも遠くに飛んで行く。


 そんな空気の中で機関長もしっかりとそのぶつかり合う力同士の行く末を見届けようとしていた。


 ここで先に弾け飛んだのは機関長が撃ち出した球の方だった。


 俺の方の障壁には何らの変化も起きていない。


「・・・いや、コレは参りました。想像をしていたよりも遥かに高い気が籠められているのですね。破壊するつもりで放ちましたが、この結果はちょっと所では無く悔しいですねぇ。」


「うん、機関長の放ったソレを良く観察したけど、魔力だったねやっぱ。そっちも俺の張った障壁を「気」って言ってるし、言葉が違うだけで中身の本質は同じらしいな。」


 コレは要するに、こっちでは「気」と言って独自の解釈と発動方法があると。


 起こす現象の結果は魔法も仙術も同じと言う訳だ。


 まあ何となく分かっていた事ではあるが、こうしてしっかりと意識して観察をするとハッキリと分かる。


「機関長の仙術を発動しようとしている状態を見てみたけど、何となく似ている様で、何となく違う様で、妙な感じだったなぁ。」


 魔力ソナーを機関長に纏わせて術を発動させる時の様子を観察、観測してみたのだ。


 すると何だかその方法にモヤモヤした感じを受けた。

 コレは俺と機関長の魔力の扱い方の違いが出ているのだと想像した。


「今のでどれくらい減りました?」


 俺は機関長に今の球にどれ程の力を込めたかと問う。


「四割は籠めましたね。それ以上を注ごうとすると制御が出来なかったり、暴走しましたね。私の限界と言うやつです。」


「じゃあお次はそこら辺を攻めて行きましょう。五割行きましょう、五割。」


「・・・無茶を言いますね。まあ、確かにここ最近は自分の修行をできずにいましたから、今回を切っ掛けに少し考えてみるとしましょう。」


 そう言って機関長が再び右手の平に力を集め始める。


 俺はそこに声を掛ける。


「外側から抑えつける様にするんじゃ無くて、中心に収束、自然と集まる感じにできません?もっと気持ちを楽にして、軽い感じで密度を高めていきましょう。集まると大きくなる、とか言った想像は捨ててください。只集まる、重なる、同化する、ソレで良いんです。枠に嵌めればそれ以上は入らなくなると言った意識が出来ちゃいますからね。そんなモノは無い、そんな風に思ってください。」


 この様な修行など機関長は聞いた事も、された事も無いんだろう。

 驚いた顔をして次には眉根を顰めて何かしら苦悩している様な顔になる。


 そして俺もこの説明でそもそも合っているかどうかなど知らない。無責任発言である。


 けれども機関長の言った「制御できない」「暴走」「限界」などと言った言葉で考えた結果である。

 何も考えずに出した訳では無い。


 そう言ったイメージを機関長の頭の中から追い出す為にこの様な説明になったのだ。


(俺が魔法を使う時は大抵が理論とか理屈とかすっ飛ばしてイメージに頼ってるからね。そもそも籠められる魔力に限界がある、何てのは取っ払わないと駄目でしょ)


 大事なのはどの様にしたいのかと言った強い、ハッキリとした鮮明なイメージだろう。

 そこからどれだけ自身の中の力をソレへと籠めれば良いかを考えるのだ。

 そこに「限界」などと言った言葉は介在しない。


(まあだから俺はいつも大体は「込め過ぎ」になってるんだろうけど)


「その集めた力は機関長の物なんですよ。手足と一緒です。そんな手足が制御不能になるとか、勝手に暴れるとか、あり得ないでしょ?自分の一部、自然のまま。その力は自分から離れた存在じゃ無い。自分の自由にできる物なんです。ほら、簡単でしょう?それに意識を向けてください。繋がっているんです、手足の様に動かせて、自分の自由に形を変えられる。機関長ならソレが出来ますよ。」


 またも俺、無責任発言。アドバイスなどと言うご立派なものでは無い。勝手に言いたい放題なだけである。


 だけども機関長の凝り固まった考えを壊して柔軟な思考に切り変えさせるにはこの程度でもヌルいかもしれない。


 もっとインパクトの強い言葉を選んで伝えた方が良いかなと思った所で機関長の纏う雰囲気が変わる。


 右手に集められていたその力は少しづつ時間と共に大きくなっていたはずだったのだが。

 それが今では止まった。と言うか、少しづつ小さくなっていく。


 しかし別に込めた力が抜けて小さくなってしまったと言った訳では無い。


 どうにも俺の口にした言葉を機関長は自分なりに解釈して呑み込んで即座に自分の物にした様だった。


(やっぱ優秀な人は違うんだなぁ。たったこれだけの事で劇的にここまで変わるとはねぇ)


 ソレは長年にわたり修行を熟して来た賜物なのだろう。機関長は伊達じゃ無い!と言った所か。


 機関長の作り出す球はドンドンとその力の密度を上げて行く。


 そしてとうとう俺の言った「五割」を達成したらしく、ソレを俺の障壁へと放つ。


 ソレは先程と同じ光景。だけどもさっきよりも空気の震える強さが大きい。


 コレは機関長の放った球の威力が上がった結果だろう。だけども結末は同じだった。


「やはり駄目ですね。悔しさを通り越して逆に清々しい気分です。しかし気にする所は、大事な所はそこではありませんね。エンドウ殿の助言でこれまで突き破れなかった壁を簡単に超える事が出来ました。不思議です。考え方を変えただけで気の扱いがここまで変わるとは思いませんでした。もっともっと、気の続く限り続けられそうな、そんな感覚でした。」


 どうやら機関長は長年悩み続けて来た問題が解決した模様。


 それに俺はお祝いの言葉と共に魔力回復薬を渡す。


「おめでとう。それじゃあコレ、飲んでみてください。ほらほら、ググっと飲みねえ、飲みなされぇ。」


 これには少々の訝し気な目を向けられたが、機関長は素直に俺が蓋を開けた魔力回復薬をグイッと飲んで見せる。


「・・・ぐッ!?こ、コレは一体?エンドウ殿、私に何を飲ませたのです?」


「いや、何て、体感している通りだけど?あ、依存性は無いから安心してくれ。危険薬物などでは一切無いから。」


「そう言う事を聞きたかった訳では無いのですが・・・」


 俺の回答に少々不満の声を機関長は上げたが、ソレも直ぐに治まる。

 ドリンクの効果をしっかりとその身で感じ取っているからだろう。


 そして次に出る言葉は予想の範囲内。


「コレをもっと大量に購入する事はできませんか?非常に飲みやすく、味も良い。術師たちがこぞって欲しがるでしょう。」


「いやー、それは難しいなぁ。期待させて悪いけど、今回の事は特別って事で。」


 この断りに機関長は非常に残念そうな顔になってしまったが、それは直ぐに切り替わった。


「我儘でしたねコレは。忘れてください。本日エンドウ殿から受けた教えの方がこの薬よりも何倍も、何十倍も大きな大きな、大事な物です。そちらを重要視するべきですな。」


「いや、何十倍は言い過ぎでは?」


 などと俺は思った事を突っ込んでみたら逆に物凄い勢いで機関長に否定された。


「コレは革命です!これまでに何故その様な考え方を誰もしなかったのか?不思議な程です。この方法は画期的!いえ、寧ろ我々の思考が凝り固まり過ぎていたのでしょうな。閉塞している環境に身を長く置き過ぎたせいで視野が非常に狭くなっていたと言わざるを得ません。」


 俺はこれに「そこまで?」と思ったが、まあこれはその問題にずっと直面していた者にしか分からない悩みなのだから俺がとやかくそれ以上を言える事では無いんだろう。


「よし、この話はここまでにして。服の件、何人か着てくれる人を見繕っておいてくれよな。男女同じ数が良いんだけど、どうだ?」


「ええ、そちらは人を集めておきましょう。新しい見た目の制服と言うのも楽しみです。本日はありがとうございました。」


「じゃあまた今度に機関の案内を頼むよ。それと次に用事が出来た時はエルーに一度連絡してからにする。今日は突然済まなかったな。」


 俺はこうして機関長と分かれた。

 リーロに作らせている服を着てくれるモデルの件は道場と組合と機関の方で確保は出来た。

 後は服が八割がた出来上がった時くらいに連絡を入れれば良いだろう。


「・・・あ、でもその時は何日後になるんだ?そう言った事に全然知識が無いから分からんな?一週間後?いや、それじゃあ制作が早過ぎじゃ無いか?一か月?三か月?どれ位のスピードで進捗は進むんだ?・・・これはちょくちょく様子を見に行かないと駄目だな。」


 それからというモノ、俺は七日に一度のペースでリーロの店に顔を出してその進み具合を確かめる事になった。


 店にはキョウが集めてくれた従業員が八人も入って順調だ。

 全く新しいデザインの物やら、これまでのこの国の伝統衣装、その他にも色々な要素をミックスした服が少しづつ、しかし確実に増えていくのを見るのは楽しかった。

 そこに俺も素人ながらも意見を出したりもして色々なデザインが出来上がっていく。


 途中でケンフュやキョウ、機関長などにも実際に店に来て貰って直接に出来上がった服を見て貰ったり。

 デザインに意見を求めたり、仮縫いした衣装を着て貰ってダメ出しやら要求などをして貰っている。


 そんな日々を過ごしていれば、あっという間に時は過ぎて俺がリーロの店に初めて入ってから早くも二か月が経とうとしていた。


 そんなタイミングでやって来たのが顔の厳つい、如何にもなヤクザ者だった。


 そいつらは店の壁を剣やらハンマーでバカスカと叩き壊そうとしてくる。


(・・・ああ、例のリーロを嵌めた奴等の。丁度俺が入る時で良かったぜ。こんな奴らに大事な大事な俺の計画を台無しにされたんじゃ盛大にキレ散らかしてただろうからな)


 俺が店に顔を出しに来たタイミングで良かった。ここ最近は出来上がる服を見るのが楽しくて結構な頻度で通っていたのだ。


 当初に俺が思っていたよりも服の種類が大幅に増えたのだ。リーロも、集めたお針子の従業員も、俺が集めた異国の服に大いに刺激を受けたらしく、新たなデザインがわんさかと止めど無く溢れ出てソレを実現しようと皆大忙しで居るのだ。


 全員がそんな風に楽しく、集中して仕事をしている所に水を差される訳にはいかない。

 なので当然俺は店を魔力で覆って保護し、ついでに外からの騒音を店内に入らない様に防音も完備させる。


 おかげで喚き散らかしているヤクザ者の罵声やら怒声はリーロたちの耳には一切入らない。


「さて、このまま放置するか、それともこいつらから辿って大元を潰しに行くか?」


 元凶は潰してしまうのに限るが、俺は新しく起こされた服のデザインの方が気になったのでその日はヤクザ者たちには何もしないでおいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ